東門のキメラウオと相対する。なるほど。身体はオオサンショウウオみたく頭部は大きく扁平で、目が極めて小さく、背面には多数のいぼがある。胴は長く扁平で、側面には厚い皮膚のひだがある。尾は短く、後方へいくにつれて著しく側扁し、末端部はひれ状になっている。チョウチンアンコウの特徴的な誘引突起は頭部から生えているが、それ以外見当たらない。
「眩暈の状態異常を与えると言わんばかりの突起物があるな。サングラスは必要だったかも?」
「でも実際どんな攻撃パターンか・・・・・あ、行ったわ」
昨日のリベンジ、もしくは初めて挑戦するプレイヤーが俺達を置いて駆け出して行った。作戦なんざあってないもの。ただただやみくもに突っ込んでキメラウオに攻撃を仕掛けに行った多数のプレイヤー。キメラウオがまずしたのは、顔を地面に突っ込んでそのまま水中に潜ったかのように全身も沈めた。
「地面から来るぞ! 散らばれー!」
「対処方法は何だよ!?」
「地面が広く光る! 光が数秒も同じ場所に止まったらそこから飛び出してくるぞ! それが目印だ!」
聞こえてくるプレイヤーの言葉通り、地面が雪で被っているのに動いている光がよく見える。その光は俺達の足元を通り過ぎて、十人以上固まって動いているプレイヤーの方へ向かって行った。それから光が消失してから数秒後、口を限界まで開きながら地面から勢いよく飛び出し十人以上のプレイヤーを一瞬にして丸呑みにした。
「ハーデス。どうする?」
「もうちょっと様子見だ。というか、人数が多すぎて思うように動けないし」
「そうだね。私ももうちょっと人が減ってから動きたい、かな」
ああ、セレーネは人見知りだったのを失念してたわ。うーんと・・・・・あそこなら?
「水瓏を出すために移動しようか」
「わかったわ」
全体的に散らばってはいるが、ぽっかりと空いている空間を見つけたのでそこへ移動する。キメラウオの捕食行動に翻弄されているプレイヤーを横目にしながら着くと、水瓏を出した。
「地面から飛び出してくるところを狙って撃てるか?」
「やってみるよ」
サイナに抱えられ水瓏の中に入るセレーネを見届け、残った俺達もキメラウオとの戦いに参加する。
「どうやって戦います?」
「捕食行動と地面に潜水しての移動ぐらいしか知らないからな。あ、やっぱりあの突起物。強烈な光を放つんだな」
「間近で食らったプレイヤーは動けなくなって、キメラウオに捕食されちゃったわね」
しかも光らせたまま捕食行動するのかよ。面倒な攻撃パターンじゃん。うーん・・・・・。
「やっぱり背中から攻撃した方がよさそうな?」
「そうかもね。じゃあ乗り移る?」
「でも、何時でも背中に乗れそうなのに誰も乗ろうとしませんよ?」
確かにそうだな? 動き自体はゆっくりで攻撃は捕食と視界の妨害と潜水ぐらいなのに。
ドドドンッ!
お、セレーネが撃ったか。真上を通り過ぎる水晶の砲弾はキメラウオの背中に当た―――。
―――ツルンッ。
「「「え?」」」
当たったのに滑って貫けなかった・・・だと? 遠距離攻撃を無効にするモンスターなのか?
「白銀さーん!!」
あるプレイヤーから叫びながら話しかけられた。
「そいつの全身は物理攻撃を無効にするんだ! 魔法攻撃しか通用しない!」
「・・・・・物理無効、だと? 腹の下もかー!?」
「それはわからない! 地面に潜ることが多いから攻撃できないんだ!」
だったら確かめないといけないな。
「俺がひっくり返してみる。イカルとイズはひっくりかえしたら物理系の攻撃をお願い」
「わかったわ」
「はい!」
んじゃあ、【覇獣】っと! 下からの攻撃はやっぱりこれだよな。
「【グランドランス】!」
キメラウオの真下に岩石の槍が飛び出して高々と空へ打ち上げ、地面に落ちる最中を狙って岩石の槍を伝って走りながら飛び、キメラウオの腹に手を添えてそのまま地面に叩きつける姿勢で一緒に落ちる。
「お前ら、離れろー!!!」
俺が何をするのか気付いたプレイヤー、巻き込まれる前に逃げるプレイヤー達が蜘蛛の子が散らばるように俺の着地地点から急いで逃げるように離れてできた空白の地にキメラウオを叩きつけた。地面に積もっていた雪が吹き飛ぶ衝撃波に伴い凄まじい衝撃音であるのにキメラウオのHPは減らなかった。
「二人共やれ!」
「「はい!」」
イズは“不壊のツルハシ”、イカルは自前の短刀でキメラウオの腹によじ登れたらそれで打ち下ろすとキメラウオのHPがちょっぴり減った。
「え、あのモンスターのHPが減ったぞ!?」
「腹が弱点だったのか!」
「だったら俺達も攻撃するぞ!」
「白銀さん、出来ればそのまま押さえつけてください!」
群がるプレイヤー達。直接腹の上に乗って物理攻撃やスキルを使ってダメージを与える。勝機が見えたプレイヤー達の攻勢は凄かったの一言。じたばたと手足や尻尾を激しく動かすキメラウオがちょっぴり可愛かったのは内緒・・・・・って、うん?
「沈んでないか?」
「え?」
「あ、本当だ! 離れろ! 地面に潜られたらここに集まっている俺達が食われるぞ!」
HPが六割まで減ったところでキメラウオが地中に潜って俺の拘束から逃れた。そして誰かが言った通りにキメラウオは地面から飛び出してプレイヤーを捕食していく。しかもトビウオのように連続で。これには他のプレイヤーは度肝を抜かされて逃げ惑うしかない。お、丁度こっちに来てくれたな?
「ふんっ!」
キメラウオの顎下からアッパーカットを打ち上げた。弓なりに仰け反ったまま地面に倒れたが直ぐに跳ね上がって地面に潜った。むぅ・・・・・攻撃がし辛い!
「イカル! キメラウオを浮かせられるか!」
「は、はい、やってみせます!」
「イズ、他に何かできないか!」
「直接触れないとできないわ!」
よし、ちょっと待ってろ。光を探して一点に留まり点滅するキメラウオへ駆けだし、地面から飛び出たところを狙ってもう一度、アッパーカットの要領で打ち上げた。地面に倒れてまた潜ろうとするキメラウオの口に手を突っ込ませては、イカルの方へと放り投げた。
「【無重力】!」
地面に落ちず宙に浮かぶキメラウオが必死に地面へ潜ろうともがく。腹を見せるキメラウオを狙ってセレーネが水晶の砲弾を撃ち込んだ。背中と違い腹なら貫通出来て水晶が徐々に成長して大きくなった。
「あ、丁度いいわ。【状態異常付与】【倍化】【設置】」
イズが何か大きな樽をキメラウオの口の中にくっつけた? 同時にイカルの効果の持続時間が切れて地面に落ちて自由の身となったキメラウオは、また地中に潜ってまだ多く残っているプレイヤー達へ移動していった。
カッ!!!
どうして地面が光った後にキメラウオが地面から飛び出して、仰向けの状態で麻痺の状態異常になったのかさておき。ここぞとばかり他のプレイヤーがまたキメラウオの腹にフルボッコした。
「上手くいってよかったわ」
「イズさん、凄いです!」
後で色々聞くとしてあっちもまた変化が起きたようだな。HPが程なくして残り四割になるとキメラウオが咆哮を上げて体中のいぼから何かの液体を噴出した。
「うわっ、なんだこれ・・・どわっ!?」
「滑る! 攻撃が当たらない!」
「完全に物理攻撃を無効になったのかよ!」
あー・・・・・。ベヒモスの姿で突っ込んだらダメな奴だな。キメラウオも体勢を立て直して、身体中に潤滑油のような粘液まみれのままで氷のように縦横無尽に滑り出しながらプレイヤーを凄い勢いで捕食していく。
「このやろう、【フレイムアロー】!」
弓使いのプレイヤーが火属性の攻撃を当てた矢先にキメラウオの身体がいきなり燃え盛った! あれ、油だったのかい!?
「うおおぉおおおおおー!?」
「こいつ、燃えながら突っ込んでくるー!?」
「バッキャロー!! 余計に手が出せなくなったじゃねぇかー!!」
「ごめーん!?」
「滑った道も燃え残って移動が制限されていくぞ!!」
あはははは・・・・・凄いことになってしまってるじゃないか。どうしよう・・・・・あ、そうだ。黄金の天秤を忘れてた。変身を解いてインベントリから出した天秤を弄る。
「まったく、今回は金の消費が激しいこった!! 頼むぞ天秤ちゃん!」
全プレイヤーに【炎上耐性無効】と【スリップ無効】と【神速】に【不屈の守護者】【飛翔】【悪食】【生命簒奪】のスキルを一時的に付与した。
「全員聞け! 多額の金を払ってこの一戦だけ七つのスキルを全員に付与した! しっかり頑張れ!」
「え、スキルを付与した!? どうやって!?」
「・・・ほんとだ! 手に入れた覚えのないスキルが増えてるぞ!」
「【炎上耐性無効】に【スリップ無効】は現状ありがたすぎる!」
「【不屈の守護者】、凄い! 即死の一撃でも一度だけHPを1だけ残してくれるのか!」
「【神速】と【飛翔】も嬉しいぃー!」
「【悪食】と【生命簒奪】の効果、ヤバすぎ!?」
狂喜なのはわかるがキメラウオは待っちゃくれないぞ!!
「一斉攻撃!」
おおおー!!
残りの全プレイヤーが燃えるキメラウオを気にせず、一時的に付与されたスキルをフル活用していく。例えキメラウオが捕食行動に出ても、【飛翔】で空へ逃げて減ったMPは【悪食】で二倍に増やしながらも回復すれば問題ない。減ったHPも【生命簒奪】でそうすればいいだけだし、【神速】でキメラウオより速く動き、気兼ねなく攻撃できることは凄くやり易いだろう。あっという間に残り一割まで減らせた時、キメラウオが体を丸めて防衛しなければならない防壁へタイヤのように凄い勢いで転がって行った!
「【八門の遁甲】!!」
八つの門が縦に並んで空から落ちて出現した。最初の門とぶつかって門のHPを減らし、最初の関門を突破したキメラウオに黙ってみているプレイヤーはいない。
「止めろー!! これが最終決戦だぁー!!」
雄叫びをあげるプレイヤーに俺も交ざり、最後の関門のところで準備をする。すべての防御力を攻撃力に変えて20本の大槌を装備した頃には七つ目の関門も突破してみせた全身を燃やすキメラウオの姿が飛び込んできた。いいぞ、かかってこい!!
「攻撃こそが最大の防御ってなぁー!!」
ドッゴォオオオオオオーン!!! ギャリリリリリリッ!!
っ・・・・・!? 凄まじく回転するキメラウオの勢いに20本の大槌が押されるだと!? 数十万の【STR】の一撃を受け止めるのかコイツッ!!? この状態はありとあらゆる攻撃を無効にするのかよ!!
「白銀さん、頑張れ!」
「最後の盾はお前しかいないんだ!!」
「ファイトー!」
「イッパーツ!」
「踏ん張れ白銀さん!!」
「負けるなぁー!!」
皆からの声援を受ける。それに応えんとする俺に新たなスキルが取得して、さらに俺の力を後押ししてくれた!
「ハーデス、頑張ってー!!」
「ハーデスさぁーん!!」
「―――うおおおりゃああああっ!!」
ドッゴオオオーン!!
イズとイカルの声援も俺の背中を押してくれて、高速回転をし続けるキメラウオを思いっきり空に打ち上げることができた。あいつも全力の一撃を防がれたからか、体を伸ばしてまた地面に潜ろうとするのが誰から見ても明らかだった。
「ラストアタックは頼んだ、セレーネェッ!!」
ドドドンッ!!
水瓏からの砲撃。見事にキメラウオの腹部に直撃して最後のHPを与えたことでキメラウオは光のポリゴンとなって消えた。