バカとMMORPGと召喚獣!   作:ダーク・シリウス

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イベント開始~三日目 村人の交流

イベント3日目。

 

今日もモンスまみれの状況で目覚めた俺は、微睡んでいる皆をベッドに残して、キッチンに向かった。そして、早速朝食作りに取りかかる。平パン、不味そうな見た目の味噌汁、野菜炒めの簡単料理だけどね。ただ、カイエンお爺さんの家にはもう肉が無かったので、肉は昨日の夜狩りで手に入れてきたウサギ肉を使っている。

 

「今日はどうするんだい?」

 

「実は幾つか欲しい物があるんですけど、村で手に入りますかね?」

 

「何が欲しいんじゃね?」

 

「魚介類ですね。海の産物があればベストなんですけど。あとはチーズも欲しいです」

 

「こんな辺鄙な村に、海の物が入ってくるわけないじゃないかい」

 

「そうですか~」

 

ですよね~。ここは海から遠そうだし、まあ期待はしていなかったが。

 

「川魚なら、リッケの奴に頼めば用立ててもらえると思うが」

 

「リッケ?」

 

「うむ、川漁師見習いのリッケじゃな。本来はその父親が魚を獲っているんじゃが、今は武闘大会の観戦に出てしまっておるでの。息子のリッケが代わりに働いとる」

 

じゃあ、そのリッケっていう人に会えれば、魚が手に入るかもしれない。鮎などで出汁を取ったラーメンを食べたこともあるし、川魚でも出汁が取れないということはないだろう。なにより、普通に魚が食べたい。これはぜひ訪ねてみなければ。

 

「あと、チーズはアバルの所に行けばあると思うぞい?」

 

「その人は酪農家さんだったりします?」

 

「うむ。そうじゃ」

 

この村は自給自足なので、商店に卸したりするのではなく、生産者が家などで直接販売していることが多いらしい。これは本当に良い情報だな。そうか、店で買うだけがアイテムの入手方法じゃないってことだよな。

 

「他にも家で細々と販売しているような人はいますか?」

 

「そうじゃな・・・・・。茸採集をしてるバッツと、狩人のカカル、あとは豆農家のクヌートは自宅で細々販売しておるよ?」

 

ほほう。全て面白そうだ。俺は全部の家の場所をお爺さんに教えてもらい、今日のうちに回ってみることにした。その前に畑仕事だけどね。カイエンお爺さんの畑に向かうと、お爺さんの畑には、様々な野菜が育っていた。やはりオルトの栽培促成exと、ゆぐゆぐの樹魔術の力は偉大だわ。

 

「よし、今日は収穫できるな」

 

「ム!」

 

「――♪」

 

「クマ!」

 

「キュイ!」

 

「メェー」

 

ただ、この後どうすればいいんだろう? 全部収穫して家に運べばいいのか? この後、種まきは?

俺はオルトたちに畑を任せて、一旦お爺さんにどうするのか聞きに戻った。すると、半分は株分して畑に蒔くのだそうだ。それも俺たちにやらせてもらう。オルトたちの経験値稼ぎにもなる仕事だからね。

畑に戻ると、皆が楽し気に畑仕事をしている様子が目に入ってくる。長閑な畑で一所懸命働く妖精や動物たち。うーん、いつ見てもファンタジーな光景だ。

 

「ムッムッム!」

 

「――♪」

 

オルトとゆぐゆぐは野菜を収穫しているが、そのやり方も微妙に違う。オルトは威勢よくブチブチと抜いていくが、ゆぐゆぐは一個一個丁寧に収穫している。品質に差は出ないと思うが・・・・・。大丈夫だよな、オルト?

 

クママとメリープは協力して草むしりをしている。しっかりと役割分担ができているようで、クママが根の強そうな大きい雑草を、メリープが小さい雑草を引き抜いていた。お、今日は食わずに噛んだまま引き抜く技を身に着けたか。

 

「メェ~」

 

「クマクマクマー!」

 

特にクママは草むしりに意外な才能を発揮しており、普段は敵を斬り裂く鋭い爪で、まるで耕運機のように土を掘り返しては次々と雑草を駆除していった。いつもと違う畑での仕事にも慣れてきたのか、昨日よりもかなり早く終わっている。この調子だと、他の畑でも時間が短縮できるかもしれないな。

 

お爺さんの畑の次は、おばあさんの畑に向かう。こっちも様々な野菜が収穫可能だった。今日は収穫するだけで種まきが無いからね。サクサクと仕事が終わってくれる。

 

 

1時間後。

 

 

おばあさんの畑の後、果樹園での仕事を終えた俺たちは、皆で連れ立って村の中を歩いていた。目指すはおばあさんの店。そして、生産者の皆さんの自宅である。

最初はおばあさんの雑貨屋だ。畑で収穫した野菜を納品して、依頼達成だからね。

 

「おはようございまーす」

 

「あんたは昨日の旅人かい? 何の用だい?」

 

「作物の納品にきましたー」

 

「おや、ずいぶん早いじゃないか。それは助かるね。で、どんな塩梅なんだい?」

 

「これです」

 

品質が低いとか怒られたらどうしようと心配しつつ野菜をおばあさんに手渡す。おばあさんはギョロッとした目でしばし野菜を見つめていたが、すぐに口元をクイッと上げるニヒルな笑みを浮かべた。

 

「いい出来じゃないかい。これなら問題ないね」

 

「そうですか、良かった」

 

「報酬はギルドで受け取りな。早く納品してくれた分、色を付けておくよ」

 

「ありがとうございます」

 

収穫してきた野菜はおばあさんのお眼鏡に適ったらしい。まあ、嬉しさよりも怒られずに済んだ安堵の方が大きいけどね。おばあさんの店を辞去した俺たちは、そのままの足で冒険者ギルドへ向かった。ギルドは今日も空いてる。クエストの達成を報告すると、予定よりもポイントが多くもらえた。多少のお金なんかよりも、余程嬉しいボーナスだ。

 

俺はそのままの流れで、何かできそうなクエストが無いか掲示板を覗いてみた。そして、ある1つの労働クエストに目が止まる。

 

「またあのおばあさんの依頼が出てるじゃないか」

 

それはいま達成したばかりの畑の世話をするクエストだった。依頼主も依頼内容も全く同じだ。どうやら無限に繰り返しができるクエストだったらしい。

 

俺は迷うことなくクエストを受けておいた。俺にやれそうなクエストの中では比較的ポイントが良いからね。普通なら数日かけて野菜を育てて、納品するクエストなんだろう。それを俺たちなら毎日繰り返せるのだ。いやー、美味しいね。そして楽だ!

 

俺は再びおばあさんの店に行って、クエストを再び受領した。この辺は学習型のAIらしく、2度目だからという理由で詳しい説明などは端折られた。テレビゲームだったら、MPCからまた面倒な説明を受けなきゃいけないところだった。

 

2時間後。

 

おばあさんの畑の水やりなどを全て終えた俺たちは、カイエンお爺さんに教えてもらった生産者さんの家へと向かって歩いていた。最初は、酪農家のアバルさんのところだ。ここは俺も知っている。先日村を歩いた時に見つけた、村はずれの牧場だろう。牛が数頭いたのは覚えている。

 

「すみませーん」

 

「ほーい?」

 

牧場横にある一軒家の扉のノッカーを叩いてみる。勿論、ノッカーは牛の頭の形で、鼻輪の部分を叩く仕様だ。運営、分かってるじゃないか。しばらくすると、中から恰幅の良いおじいさんが顔を出した。

 

「おや、旅人さんかね?」

 

「こちらでチーズを譲ってもらえると聞いたんですが・・・・・。自分にも譲ってもらえますかね?」

 

「おお、そういうことか・・・・・」

 

俺の問いかけに、アバルさんが難しい顔で考え込んでしまった。あれ? 売ってもらえない?

 

「うーん、村の人以外に売ることを考えてないんだよね。それに、数も多くないから、君に売ってしまうと村の分が足りなくなってしまうかもしれない」

 

「なるほど」

 

「だが、わざわざ来てくれてただ追い返すのも忍びない」

 

「ということは?」

 

「願いを1つ聞いてくれないかい? その報酬として、我が家で食べる分のチーズを譲ろうじゃないか。どうだい?」

 

おっ、突発依頼発生か? ぜひ受けたい! 内容次第なんだけど・・・・・。

 

「やってもらいたいことは、お菓子の調達なんだが」

 

「お菓子?」

 

「ああ、最近は友人たちとお昼にお茶をしてるんだが、次のお茶会で私がお茶菓子を用意する番なんだよ。でも、心当たりがなくてね~。果物でも買おうかと思ってたんだが、5人分、何か用意できないかい?」

 

お菓子か。どれくらいの物ならお菓子と認定されるかだな。ハチミツナッツクッキーは持っているが、アイテム図鑑には携帯食料と同じページに表示されている。

 

もし、カテゴリとしてのお菓子じゃないとダメと言うなら、用意するのはそこそこ頑張らないといけないだろう。とりあえず聞いてみようかな。

 

「クッキーとかで構わないんですか?」

 

「どういう物かね?」

 

「えっと、これなんですが」

 

「おお! これはいいねぇ!」

 

俺はインベントリに仕舞っていた、ハチミツナッツクッキーを渡してみた。すると、アバルさんは喜色満面で頷いている。これでもお菓子と判断してもらえたらしい。なんか、一瞬で依頼達成してしまった。

 

「じゃあ、5枚でいいんですね?」

 

「ありがとう! みんな喜ぶよ!」

 

こうして俺は念願のチーズを手に入れたのだった。しかも、想像してたのよりもデカイ、ホールのチーズだ。30食分もあるらしい。

 

元手もほとんどかかっていないクッキーが、チーズに化けるなんて、わらしべ長者の気分である。俺が得しすぎな気もするが、イベント内のクエストだしな。初めから所持したんでなければ、村の中でお菓子を手に入れるのは結構苦労しただろう。

 

「トマトソースにチーズにオリーブオイル、バジルルもある。これでイタリアンが色々と作れるぞ~」

 

アルバさんの牧場で念願のチーズを手に入れた俺は、意気揚々と次の目的地に向かって歩いていた。目指すは最も近い、豆農家のクヌートさんちだ。豆農家と言うと、豆しか置いてないんだろうな。普通のプレイヤーならスルーしてしまうかもしれないが、俺はかなり期待している。豆と言えば、始まりの町で見た焼豆だ。リックの好物だと思われる。あの豆を自分で作れるようになったら? リックが喜ぶだろう。

 

もし種が買えないのであれば、仕方ないので豆を買えるだけ買っておくつもりだ。

10分ほど歩くと、一軒の農家が見えてくる。裏庭を見ると、確かに蔓の生えた植物が植えられている。あれが豆かな?

 

外見は本当に普通の民家だ。ここで豆が買えるなんて誰も思わないだろう。

 

「すいませーん。どなたかいらっしゃいますかー?」

 

「はーい」

 

農家の扉をノックすると、すぐに反応があった。中から出てきたのは小柄な女性だ。20歳くらいだろうか。このお姉さんがクヌートさんなのだろう。俺の姿を訝しげに見ている。

 

「あら? 旅人さん? いったいうちに何の用ですか?」

 

「こちらで豆を栽培していると聞いてきたんですが。少し分けていただきたいんです」

 

「まあ、誰に聞いたんです?」

 

クヌートさんは少し困り顔である。どうやら、あまり歓迎されていないらしい。アバルさんちでチーズを買うときにも聞いたが、基本は村で消費される分しか生産していないようだし、急に売ってくれと言われても困るのかもしれない。

 

「カイエンお爺さんです。いま、お家でお世話になってまして」

 

「カイエンさんの紹介じゃ、無下にもできないわねー」

 

もしかしてただ訪ねてくるだけじゃ、追い返されてた可能性があるのか? ありがとうカイエンお爺さん。でも、まだ渋い顔をしている。

 

「ほら、お前らからもお願いしろ」

 

ちょっと卑怯だが、俺は従魔たちの持つ最大の力を活かすことにした。力、それすなわち可愛さなり!

 

くくく、あの気難しそうな雑貨屋のおばあさんさえオトした、うちの従魔たちのあざと可愛い上目遣いを食らうがいい!

 

「ム?」

 

「――?」

 

「キュイ?」

 

「クマ?」

 

「メェ?」

 

お願いするように、そっと彼女の足に手を添えるうちの子たちの姿に、クヌートさんは完全に撃沈したな。

 

「か、かわいい・・・・・! やだ、何この子たち!」

 

「ふふ、そうでしょうそうでしょう。自慢の可愛い子達、特にこの羊ちゃんの羊毛の触り心地は最高です」

 

皆の頭を順番に撫でて、至福の表情である。今にも抱き付きそうな笑顔だ。

 

「はっ!・・・・・ごほん」

 

だが、俺の視線に気づいたんだろう。ちょっと気まずそうに咳ばらいをすると、居住まいを正した。

 

「そ、それで、何が欲しいんですか?」

 

よし、一応売ってはくれるらしい。

 

「ソイ豆? それとも味噌か醤油かしら?」

 

何? 今、聞き捨てならない言葉があったぞ。

 

「味噌と醤油が売ってるんですか?」

 

「それはそうですよ。豆農家ですから」

 

そうか、お爺さんの家にあった味噌と醤油はここで買ってたのか。それにしても、育てた豆を自分の家で調味料に変えるところまでやってるんだな。

 

「欲しいのは、豆、味噌、醤油、あと豆の種があれば欲しいんですけど」

 

「うーん、種は余ってないですね。他の物なら少し分けてあげますよ」

 

やはり種は無理だったか。でも、味噌などが手に入るのは素直に嬉しい。ついでだから聞いちゃおうか?

 

「味噌とか醤油って、豆からどうやって作るんですか?」

 

「簡単ですよ? 豆を煮て、潰した物にお塩を入れて発酵樽という魔道具に入れて発酵させるんです。塩だけなら味噌。塩水なら醤油になります」

 

「その発酵樽って、この村で手に入りますか?」

 

「いえ、さすがに村では売ってないですね。私も、始まりの町で購入しました」

 

ああ、イッチョウの話通り始まりの町で売ってるのか。じゃあ、俺が発見できなかっただけで、どこかで売ってる可能性もあるな。それに、焼豆が売ってるなら豆は手に入るだろうし、自作できちゃうかもしれない。

 

だが、そう簡単な話ではないようだ。

 

「でも、発酵樽はその名の通り、発酵スキルが無くては使えませんよ?」

 

「発酵スキル? そんなものまであるのか・・・・・」

 

そういえば、ブリュワーっていう職業もあったし、おかしくはないか。もしかしたら酒とかも造れるのか?醗酵スキルもルフレが持っていたし発酵樽ってのを使えるな。クヌートさんに聞いてみたら、発酵スキルは酒を造ったり、ヨーグルトなんかも作れるらしい。

自作のワインとかビールで一杯なんて、面白そうだよな。オルトたちが酒を飲んだ時の反応とかも見てみたいし・・・・・。まあ、とりあえずイベントが終わるまでは保留かな。町に戻ったら調べてみよう。

 

俺は豆を10食分。味噌、醤油を1甕ずつ購入して、豆農家を後にした。甕と言っても、小振りな3リットルくらいの甕なので、あまり多くは買えなかったが仕方ないな。手に入っただけでもラッキーとしておこう。

 

「次にここから一番近いのは・・・・・」

 

豆農家さんから一番近いのは、茸採集のバッツさんの家か。皆とじゃれ合いながら向かっても、5分かからんかった。だが、誰も出ない。どうやら外出中らしい。残念だ。また夕方にでも来てみよう。

 

「となると、狩人のカカルさんの家が近いな」

 

漁師さんの家も、ほとんど同じくらいの距離だけどね。

 

どちらも村の入り口付近にあるので、その途中で中央広場を通る。すると、かなりの注目を浴びているのがわかった。まあ、うちの子たちがだけどね。

 

女性プレイヤーから黄色い悲鳴が上がっているし、明らかに俺の足元に視線が集中している。毎度のことなんだけど、アイドル並みの注目度だなこいつら。俺がオルト達の人気度を改めて思いしりながら広場を通り抜けようとしていたら、後ろから声をかけられた。

 

「あのー、すいません」

 

「?」

 

振り返ると、見知らぬ男性が立っている。軽装の胸当てと籠手、武器は剣と剣士職業を選んだプレイヤーか。

 

「白銀さん、ですよね?」

 

「渾名として知れ渡ってるがな」

 

その異名に対して、ここで否定しても仕方ない。俺は首肯した。

 

「それで何か?」

 

「あのですね、お聞きしたいことがあるんですが、少しお時間よろしいでしょうか?」

 

精悍な顔立ちからは想像できないくらい、すごい腰が低い。気が優しい性格か?

 

「質問だったら答えられる範囲ならいいぞ」

 

「ありがとうございます。お聞きしたいのはですね、どこにお泊りなのかってことなんです」

 

「ん?どういうこと?」

 

男の話によると、村には泊る場所が不足しており、かなりの人数のプレイヤーが困っているらしい。宿屋は少人数しか宿泊できず、テントも広場以外では使用できないようだ。

 

村の外でテントを張ることも可能だが、テントはセーフティゾーンでないので普通にモンスターに襲われ、村の適当な場所で野宿をしても、HPなどが一切回復しないらしい。

今では広場で何とか場所を譲り合って順番で寝ているようだった。

 

そして、広場を利用するためのタイムテーブルを利用するために名簿を作成している最中に、彼らは俺が広場にも宿屋にもいないことに気づいたんだとか。まあ、俺たちは目立ってるし、気づかれるのは仕方ないかな?

 

「つまり、どこに宿泊してるのか知りたいってことか?」

 

「というよりも、宿と広場以外に泊まれる場所があるんなら、教えてもらいたいんです。ダメでしょうか・・・・・?」

 

やっぱりそんな状態に陥ったか。別にダメじゃないが。これ以上カイエンお爺さんの家に招待することはさすがにできないが、NPCの家に泊めてもらえるという情報は教えてあげても特にデメリットはないだろうし。

 

俺がNPCの家に泊っていると伝えると、男は非常に驚いた顔をしている。

実は、初日に試みたプレイヤーが複数いたらしい。だが、にべもなく断られてしまい、プレイヤーたちは無理だと判断しているんだとか。ペイン達と同様か・・・・・。

だが、詳しい話を聞いて何となく分かった。彼らは何の見返りも提示せず、ただ善意にすがって泊めてほしいと頼んだのだろう。

 

あれ、俺は交渉してもダメだったとペインから聞いたんだが?あいつらの交渉の仕方がダメだったのか?

 

俺は偶然だが、畑仕事を手伝い、その代わりに泊めてもらっている形になっている。多分、その差だ。俺はそのことを男性に教えてやった。

 

「なるほど、何らかの手伝いをして仲良くならなきゃダメってことですか」

 

「憶測だけどね。まあ、労働クエストなんかの村人の役に立つクエストもあるし、試してみたら?」

 

「そうですね。この情報、皆に広めて構いませんか?」

 

「いいよ」

 

「ありがとうございます! とても助かりました!」

 

男は最後まで礼儀正しく頭を下げて、去っていった。サーバーポイントじゃ貢献できそうもないし、こういう所で少しでも役に立っておかないとな。

 

 

 

 

広場で少々時間を使ったものの、俺たちは無事に狩人のカカルさんの家を発見できていた。

とりあえず声をかけて、ノックしてみる。

すると、家の扉が少しだけ開いた。10センチほどの隙間が空く。おっと、もしかして警戒されてる? そのまま待っていたら、扉の隙間から何かが動くのが見えた。

 

人だ。見上げるような高い位置に、老人の顔が確認できた。ギョロリとのぞく老人の目が不気味だ。

ちょっと前に流行った、排他的な寒村を舞台にしたサバイバルホラーにこんなシーンあったな。この後、余所者は去れ! とか叫ばれて、そのまましつこくすると鉈を持った老人に追いかけられるのだ。

 

「余所者か」

 

え? 嘘。もしかしてサバイバルホラー展開なの? 長閑で綺麗な田舎の村だと思ってたのに、実は恐ろしい闇が潜んでいるのだろうか? 優しいと思っていたカイエンお爺さんも、実は夜な夜な怪しい儀式を行う狂気の人だったりするのか?

そんな恐ろしい想像をしていたら、扉が静かにゆっくりと開いた。中から、白いひげを蓄えた、筋骨隆々のお爺さんが出てくる。

 

迫力あるなー。身長も俺よりはちょっと高いし、その眼光は鋭い。眉間から頬にかけて深い傷跡が走っており、どう見ても山賊の頭領か、歴戦の古強者であった。元最強の冒険者とか言われても納得してしまう風格がある。

 

しかもその右手には巨大で分厚い鉈が握られており、その迫力を倍増させていた。あれ、冗談で言ってたのに、本当に襲われたりしないよな?

 

「こんにちは」

 

「ああ」

 

「カカルさんでしょうか?」

 

「うむ」

 

一応頷いてくれているが、表情は全く動かず、内心でどう思っているのかは全然わからない。俺は失礼のないよう注意をはらいながら、お爺さんに質問をした。

 

「こちらで、カカルさんが仕留めた獲物を譲っていただけるという話をカイエンのお爺さんから聞いてきたんですが、自分にもお売りいただけますか?」

 

カイエンお爺さんの名前を出すと、カカルさんの表情が少しだけ和らいだ気がした。鬼だったのが、仁王くらいには変わったと思う。

 

「そうか、カイエンの紹介か」

 

「はい」

 

ここはクヌートさんも落としたラブリー攻撃をお見舞いしたいところだが、カカルさんに有効かどうか分からない。なにせ、この凶悪な面の筋肉爺さんが、可愛い物を愛でる姿など想像できないからな。

 

それに、オルトたちもカカルさんの迫力にビビッているのか、俺の後ろに隠れてしまっている。オルトが俺の足に真後ろから抱き付き、そのオルトの背中にクママが、さらにその後ろにメリープが隠れている。

こいつら、俺を盾にしやがったな。ゆぐゆぐだけはそんな弟分たちを呆れた顔で見ていた。なお、ミーニィは寝てるフリをしてるっぽい。

 

「で、何が欲しい?」

 

「あ、売ってもらえるので?」

 

「ああ」

 

俺の目の前に商品ウィンドウが開かれる。とりあえず商品を売ってはくれるらしい。

 

ラビットの毛皮、ラビットの肉、リトルベアの毛皮、リトルベアの爪、アタックボアの肉、アタックボアの毛皮、オリーブトレントの実、オリーブトレントの枝というラインナップだった。

 

アタックボアというのは第2エリアに出現する猪型のモンスターである。リトルベアと同じくらいの強さらしい。

 

オリーブトレントは初めて聞いたが、どう考えてもオリーブオイルの原料はこいつだろう。まさか畑で育てるんじゃなくて、モンスターから採取しているとは思わなかった。

ラビット、リトルベアの素材は自力でどうにかなる。アタックボアはまだ戦ったことはないが、イベント終了後でも問題ない。出現場所の情報は知ってるからな。

 

問題はオリーブトレントだ。枝は無理して入手する必要はないと思うが、実はぜひ欲しい。オイルを搾ってもいいし、料理に使ってみても面白そうだ。

 

 

 

 値段は1つ200Gと高価でもないし、俺は上限の5つまで購入しておくことにした。それと、今日の晩飯用に、アタックボアの肉も一緒に購入する。

その後、カカルさんに怒られたり、ましてや襲われることなどなく、俺たちはぶっきらぼうな態度で見送られながら、カカルさんの家を出るのだった。

 

もしかして顔が怖くて少しシャイで、ちょっとばかり寡黙なだけの、善良な一般市民だったのだろうか? いやいや、まさかね。

まあ、とりあえず猪肉は手に入った。豚ではないが、これで豚汁モドキが作れそうだぜ。となると、ぜひ出汁もちゃんと取りたいところだ。絶対に魚を手に入れてやるぜ!

 

俺はそのまま、カカルさんの家の数軒隣にある、漁師のリッケさんの家に突撃した。

 

「よし、ぜひ魚を手に入れるぞ」

 

「兄ちゃん、魚が欲しいのかい?」

 

「え?」

 

俺が勢い込んでノックをしようとしたそのときだ。後ろから突然声をかけられた。振り返ってみると、日に焼けた小麦色の肌と、手編み感満載の麦わら帽子いかにも田舎の子供っぽい、元気そうな少年が立っていた。

 

満面の笑顔を浮かべて少年がトコトコと近寄ってくる。

 

「こんにちは! おいらはリッケっていうんだ! 兄ちゃんは?」

 

「俺は旅人のハーデスだ。お前が漁師見習いのリッケ?」

 

「うん!」

 

漁師見習いという肩書を聞いて、若い男性を想像していたが、まさかこれほど若いとは。12歳くらいだろう。だが、腰には魚籠を吊るし、長い釣り竿を肩に担いでいるし、嘘じゃないだろう。

 

「君にお願いしたら、魚を分けてもらえるかもしれないって聞いてね。訪ねてきたんだけど」

 

「あー・・・・・そういうことか」

 

俺が魚が欲しいと言うと、リッケの表情が曇った。どうやら、簡単にはいかないか。

 

「おいら、見習いだろ? 父ちゃんほど、たくさん釣れるわけじゃないんだ。だから、村の人に頼まれた分を手に入れるだけで精いっぱいなんだよ。ごめんな」

 

「1匹も余ってないのか?」

 

「うん。むしろ足りないくらいなんだよ」

 

「そうか」

 

足りてないってことは、何かクエストをこなして譲ってもらうこともできないだろうか?いや、ここは提案をしてみるか。

 

「なら、一緒に足りない分の魚を手に入れるために釣りをしないか」

 

「え、手伝ってくれるのか?」

 

「是非にも」

 

「じゃあさ、魚が釣れるポイントまで案内するよ。おいらももう一度釣りに行くつもりだからさ」

 

おし、リッケと魚釣りの展開に進めることに成功!

 

「よし、早速釣り場に行こうか!」

 

「おう、おいらに任せておきなよ! とっておきのポイントに案内してやるから!」

 

 

俺たちは釣り場に案内してもらうために、リッケと共に村を出発していた。オルトたちはリッケが気になるのか、周囲に纏わりついている。

 

「おいこら、頭に乗るなって! ああ帽子引っ張るな! ほどけちゃうだろ!」

 

「キュイー」

 

「歩きづらいからあまりくっつくな! うわ、コケるって!」

 

「ムー」

 

「メェー」

 

「こら、魚籠にはまだなんも入ってないから! のぞくな!」

 

「クマー」

 

 リッケに遊んでもらっていると言うよりは、完全にリッケで遊んでるな。普段は俺としか遊べないし、子供のリッケと遊べるのが楽しくて仕方ないんだろう。

 

ゆぐゆぐも笑顔でオルトたちを見ている。

 

 

 ピッポーン。

 

 

そんな時、お馴染みのアナウンスが響いてきた。

 

『イベント3日目の12:00になりました。中間結果を発表いたします』

 

へえ、中間結果なんて公開されるんだな。初日と2日目に無かったから、発表されないもんだと思ってたよ。どうやら、今日からは毎日発表されるらしい。同時にメールが送られてきているな。開いてみると、様々なデータが掲載されていた。

 

まずは個人データのランキングだ。今の俺のイベントポイントは153。一番のポイント入手先は、おばさんの畑の手伝いクエストの100。あとはハニービーの討伐、素材納品クエストを細々やった成果だった。

 

 

順位は俺たちがいる第29サーバーにおいて、298人中274位だ。ビリでもおかしくはないと思ったんだけど、意外と順位が上だったな。

 

 

ま、ビリの人でも120程度は稼いでいるので、うかうかしてたらすぐに逆転されてしまうだろうが。

 

 

また、トップは411ポイントとかなり高い。多分、効率的に依頼を受けているんだろう。あと、イベントモンスターを狩っているのかもな。1匹倒しても1しかもらえないモンスターもいるだろうから、相当倒さなきゃいけないが・・・・・。

 

もう1つ気になるランキングがあった。それはサーバー貢献度というやつだ。ポイント的な物で表されているのではなく、順位だけが掲載されている。

 

 

 ただ、イベントポイントの高低では決まらないようだ。なにせ、4位に俺の名前が入っているからな。いや、何でだ?

 

 

 1、2位は、ポイントでもトップのプレイヤーたちがそのまま名前を連ねているが、3位にはジークフリード、4位には俺となっている。ちなみに、ジークフリードのイベントポイントは231で、139位だ。5位の人物もイベントポイントで12位となっていて、3位というわけでもない。

 

「うーん。この結果、何が良かったのか分からないな」

 

サーバー貢献度なんてものが上昇するような、特別なことはしてないと思うんだよな。まあ、明日以降データを見てみれば、何か分かるかね?

 

 

最後に見るのが、サーバーランキングだ。なんと、33までサーバーがあるらしいな。そんな中で、俺たち第29サーバーは3位となっていた。1位は第7サーバーだ。

 

「へえ。結構上じゃないか」

 

俺以外の人たちが頑張ってくれているらしい。そうやってデータを見ていたら、リッケが不思議そうに首を傾げている。

 

「兄ちゃん、どうしたんだ?」

 

そりゃあ、隣を歩いていた奴が急にステータスウィンドウを見て唸り出したら、不審に思うよな。

 

「悪い悪い。ちょっと重要なメールが来てさ」

 

「そっかー。じゃあ、しょうがないな~」

 

NPCにはちゃんとゲーム用語が通じるから有り難いね。データはもう確認し終えたので、俺はリッケとの会話に戻った。これ以上放っておいたら、リッケに怒られるかもしれんし。

 

「キュイキュイッ!」

 

釣り場に向かって歩きながら、父親の話なんかを聞いていたら、ミーニィが俺の頭の上から、警戒するように鋭く鳴いた。そして、髪の毛を引っ張りながら、森の一角を指差している。

 

「ん?モンスターか?」

 

「キュイ!」

 

ミーニィの警戒を見て、オルト達も即座に戦闘態勢を整える。頼もしい限りである。

ただ、ミーニィの警戒の仕方が妙だな。この辺にモンスターがいてもこんな必死に訴えかけるほどか?それに初めて警告を発する。10秒程待っていると、森の木々の間からモンスターが姿を現した。

 

「なんだ、可愛いラビットじゃないか――?」

 

現れたラビットは3匹。うち2匹は、白い兎の姿をしたどこにでもいる普通のラビットであった。

 

だが、真ん中にいる1匹が、少々妙な姿をしていた。鑑定ではラビットと表示されるんだが、黒い靄の様な物を身に纏っていたのだ。先日のハニービーと同じ黒い靄・・・・・?

 

「リッケ、あの黒いラビット、見たことあるか?」

 

「おいらも初めて見たよ」

 

と言うことは、強いか弱いかも分からないか。名前はラビットだし、まさか全滅させられるほど強くはないよな?

 

「グルルルル」

 

ウサギとは思えない猛獣の鳴き声を発する黒ウサギ。向こうはやる気だな。とりあえず戦ってみよう。

 

「リッケは後ろに下がってろ」

 

「大丈夫!おいらも戦えるよ!」

 

「え?平気なのか?」

 

「任せて!」

 

俺の心配をよそに、リッケは自信満々だ。NPCが死んだらどうなるか分からないんだが、本当に大丈夫か? あっさり倒されたりしないよな。

 

「分かった。ただ、リッケは右にいる普通のラビットを相手にするんだ。真ん中のラビットはミーニィと俺でやる。オルトとゆぐゆぐ、メリープはリッケの護衛。クママは左のラビットを倒せ!」

 

「ムム!」

 

「キュイ!」

 

「クックマ!」

 

「――!」

 

「メェー!」

 

俺の合図で、皆が一斉に動き出した。ミーニィが黒いラビットに対して、素早く突っ込んだ。小柄だからできる芸当だが。

 

「速いな!」

 

横に跳んで躱してそのまま突っ込んでくる。

 

「キュイー!!」

 

だが、直ぐに反転して突進してきた黒ラビットは、ミーニィに横っ腹をどつかれ、軽くはじき飛ばされる。そのチャンスを逃す俺じゃなさ。まあ、体勢を崩して隙だらけだったからな。誰も見逃さんだろう。

 

「ミーニィ、【ホーリーブレス】」

 

「キュイ!」

 

「グルー!」

 

「ふう、HPは強化されてなかったみたいだな」

 

 

 黒ラビットは聖なる光のビームを食らうと、悲鳴を上げて一撃で沈んでいた。黒いハニービーもそうだったが、たいしたことはなさそうだ。このラビットが強化されていたのは敏捷性だけみたいだな。

 

 

「クマー!」

 

 

 よし、クママの方は問題なくラビットを仕留めているな。リッケたちの方はどうだ?

 

 

「ムー!」

 

「―――!」

 

「メェー!」

 

「とりゃー!」

 

オルトがクワでラビットの攻撃を防いだところに、ゆぐゆぐが鞭を振るい足の体勢を崩した。そこにリッケとメリープの攻撃が炸裂だ。なんと、釣り竿を振って釣り糸を飛ばし攻撃している。しかも、HPが半分残っていたラビットを仕留めたということは、攻撃力もそれなりにあるんだろう。攻撃射程も広いし、釣り師ってもしかして強いんじゃないか?いやいや、そんな攻撃ってアリなのか?ちょっと釣り師でプレイしてみたくなってきたんだが。

 

「何とかなったか」

 

「へっへーん。おいらも結構強いだろ?」

 

「そうだな。間近で見てびっくりだわ」

 

あれなら、ラビット相手の戦闘で戦力と考えて問題ないだろう。

さて、戦闘も終わったし、ドロップをチェックしておこうかな。何か特殊なドロップを落としているかもしれないし。だが、俺の予想に反して、黒ラビットは特殊なドロップを残していなかった。と言うか、ドロップ自体が無かった。その代わり、イベントポイントが4点入手できている。

ドロップが無く、イベントポイントが入手できる? 先日倒したハニービーと一緒だ。ということはイベントモンスターだったってことか。あんなタイプもいるんだな。

 

 

 

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