黒い靄を纏った謎のラビットを倒した後は特に敵に遭遇することもなく、俺たちは目的地に到着できていた。
「あそこが釣り場だよ!」
「村から近いな」
「当たり前だよ! 奥に行ったら危ないじゃないか。この辺なら危険なモンスターは出ないからね」
漁師見習いの少年、リッケに連れてこられたのは、村から15分ほどの場所にある川だった。川の両側には河原ではなく、岩棚が広がり、渓流に近い雰囲気だ。
ここまでの道中ではラビットしか出現しなかったし、リッケの言う通り危険が少ないんだろう。
「もっと上流に行けば珍しい魚が釣れるんだけど、父ちゃんくらい強くなきゃモンスターにやられるだけだからな」
「上流に行くと美味しい魚が手に入るのか?」
「うん。おいらも、いつか上流で釣りをしたいんだ!」
リッケの護衛をしながら上流に向かうなんて、出来なくはないが本人がそう言うなら行かない方針でいいか。後でバレたら怒られるのはリッケだしな。今日はここでゆっくり釣りをしよう。上流は今日の内に行ってみるし。
「よし、早速始めようか」
「じゃあ、今日はおいらのエサを貸してやるから。使っていいぞ。エサはこれだ」
リッケが袋を手渡してくれる。中には微かに生臭い臭いのする、茶色い泥団子の様な物体が沢山入っていた。
「練り餌か」
「おう。父ちゃん特製の練り餌だぞ」
名称:ラッケの練り餌
レア度:2 品質:★7
効果:川魚の食いつきを良くする
リッケは早速釣り針に餌を仕掛け、渓流へと糸を垂らした。少年、小麦色の肌、麦わら帽子、腰に下げた魚籠に釣り竿と来たら、完全に釣りキチにしか見えんな。すっごい大物を釣り上げそうだ。そのうち川のヌシとかと対決するんだろう。
「じゃあ、俺もっと」
俺はリッケと離れた岩に腰かけると釣り糸を川に垂らす前に水霊の街で購入したこれ。
名称:釣り人の履物
レア度:4 品質:★5 耐久:220
効果:防御力+11、釣りボーナス小
初期装備状態にしてからこの履物を装備して、水霊のルアーで釣りを始める。
「さーて、どんな魚が釣れるかな」
「ムム」
「――♪」
そんな俺をオルトとサクラが両隣に座って一緒に見る。
メリーとクママは、周囲の警戒をしつつ、追いかけっこをして遊んでいる。この辺はラビットくらいしか出ないし、あいつらだけでも大丈夫だろう。ミーニィは定位置とばかり頭の上に乗って釣り先を眺めている。
「・・・・・」
「・・・」
「・・・」
そのまま2分ほど経過したが、アタリは来ない。うーん、簡単に釣れるとは思ってなかったが、やはり釣りは根気が必要だな。と思っていたら釣り先にマーカーが浮かび上がってすぐに引き上げると。
名称:ビギニマス
レア度:1 品質:★6
効果:素材・食用可能
「ムー!」
「――!」
ようやく魚が釣れたのだった。しかも水霊の街で釣れる魚がな。もしかしてこの川にも?
「やった! 来た!」
そうこうしていると、リッケが勢いよく竿を引き上げた。釣り糸の先を目で追うと、黒い魚が食いついている。
「へへ、1匹目~!」
名称:ビギニマス
レア度:1 品質:★6
効果:素材・食用可能
「そっちも来たかって言った傍からこっちは2匹目!」
「やるな~兄ちゃん、おいらも負けてられないぜ!」
リアルでは寄生虫がいる恐れがあるため、川魚は生食ができない。たまに生で食べさせる店などもあるが、特別な生育方法で育てたり、特殊な調理をしているから可能な話なのだ。
それが、ゲームの中では生で食べても平気らしい。まあ、寄生虫なんていう部分までリアルに再現する意味がないってことなのかもしれないが。
ただ、実際に釣れる実感を、リアルではなかなかできない釣りの楽しみを覚えると更にやる気が出るというものだ。
それからかれこれ30分。俺達は釣りの成績を競うようになった。因みに俺は4匹―――。
「へっへー! また来た!」
リッケはすでに3匹目を釣り上げている。スキルレベルに差があるとは分かっているが、そのまましばらく釣りを続け、俺はビギニウグイを2匹、ビギニマスを2匹釣り上げていた。大漁とは言い難いかもしれんが、初めて川で釣りをしたにしては上々ではないだろうか?
そうやって釣りをしていると、不意にどこからか叫び声らしき物が聞こえた気がした。
「リッケ、今何か聞こえなかったか?」
「うん。人の声がしたね」
「因みに村の人達の分の魚は」
「まだ足りないね」
釣りの手を止めて、周囲を警戒していると、川の上流の方から、複数の人影が駆け下りてくるのが見えた。岩の上を飛んだり跳ねたりしながら、かなりの速度で向かってくる。
「うおおおぉぉぉぉ!」
「走れ走れ走れ!」
「まだ追って来てるか!?」
「知らない!」
プレイヤーだな。4人が必死の形相で、ときおり後ろを気にする素振りをしながら走ってくる。何かから追われているのか? ただ、彼ら以外の気配は感じられない。
「あそこに誰かいる!」
「え? おーい!」
「逃げろー!」
そう声をかけてくるが、多分もう追われていないことに気づいていないんだろう。
「おーい! どうしたんだー!」
「やばいモンスターに追われてるんだ!」
やっぱりそうなのか。装備が結構しっかりしているパーティが逃げ帰ってくるレベルの敵とか、俺だったら瞬殺されるだろうな。ただ、ここはラビットしか出現しない、森の浅層だ。ミーニィも特に警告はしてこないし、多分そのモンスターはもう振り切っているのだろう。
「特に追って来てるようなモンスターは見えないぞー!」
「なに?」
「え、逃げ切った?」
「そう言えば・・・・・」
プレイヤーたちが、俺の言葉を耳にして、走る速度を緩める。そして、後ろを振り返って、安堵の表情を浮かべた。
全員、その場でへたり込んでしまう。一体何があったんだろうか?
「大丈夫か?」
「ああ、声をかけてもらって助かったよ。もう限界だったし」
「本当にありがとう」
「いや、それよりも、何があったんだ?」
俺が尋ねると、彼らは自分たちが何から逃げていたのか、口々に語り出すのであった。
釣りの途中で出会ったプレイヤーたちに逃げてきた理由を尋ねると、彼らは快く情報を教えてくれた。まあ、自分たちの恐怖体験を誰でもいいから語りたいのだろうが。
「川の上流で鉱石が採れるって聞いたから、採掘に行ったんだ。そんなに強いモンスターも出ないって聞いたからさ・・・・・」
「最初は確かに第2エリアに出るような雑魚モンスターとしかエンカウントしなかったんだけどな~」
「採掘してたら、いきなりデカイ熊の奇襲を受けてさ~」
「3メートルは超えてたよな」
「うん。しかも目が血走っててメチャクチャ怖かった」
「変な黒い霧みたいなの出してたし」
「そいつの最初の一発でシーフがやられちゃって、あとはもう必死に逃げることしかできなかったってわけ」
第2エリアの敵を雑魚と言えるくらい強いパーティが逃げるしかできないって、その巨熊はどんだけ強いんだよ。シーフは普通は軽装だが、このパーティのメンバーであれば、それなりの装備はしていただろうし。それを奇襲とは言え、一撃で死に戻りさせるような攻撃力があるってことだろ? 出現エリアがおかしいんじゃないか?
ただ、彼らが闇雲に逃げ続けていた理由は分かった。普段は探知や警戒を請け負っているシーフが死に戻ってしまったせいで、パーティの索敵能力が極端に下がっていたんだろう。そのため、熊が追ってきているかどうか判断できず、とにかく走り続けるしかなかったのだ。
「今でも真後ろでクマの牙が咬み合わされた時のガチン! ていう音が忘れられん」
「いやー、まじで怖かった~」
それにしても、黒い霧を出してたって言ったよな? それって、俺たちが遭遇したラビットと同じ現象か?
「実は俺たちも、黒い靄を纏った変なラビットに遭遇したんだよ。倒したらドロップが無くて、イベントポイントがもらえたぞ」
「私たちが遭遇したクマも、もしかしてイベントに関係ある可能性があるってこと?」
「でも、だとすると、レベル帯を無視して凶悪なモンスターが出現した理由もわかるな」
「うーん。つまり、今回のイベントを攻略するためには、あれを倒さなきゃいけないってことか?」
「レイドでも組まなきゃ無理じゃないか?」
「だが、普通に遭遇するってことは、レイドモンスターじゃないってことだろ?」
「そうだな・・・・・。このサーバーにいるプレイヤーの選抜チームでも組めば、可能性はあるんじゃないか?」
どうやら彼らに今回の情報を独り占めしようという気はないらしい。他のプレイヤーに伝えて、協力を仰ぐにはどうすれば良いかと相談し始めた。
「どうしても、何度か戦って行動パターンを調べる必要があるだろうな」
「でも、最初のほうで挑むプレイヤーは絶対に死に戻るよな? 下手したら全滅だ」
「となると、協力してくれるプレイヤーは少ないかもな・・・・・」
このイベント中に死ぬと、広場のギルド前に死に戻る。イベント中は通常のペナルティがない代わりに、イベントポイントが1~3割失われるらしい。つまり、そのデカイ熊に情報収集のために戦いを挑む役目のプレイヤーは、イベントポイントを失う危険性が高いということだ。協力してくれる人は少ないだろうな。
フレンドも知り合いもいるけど協力できなくないが、応援はしてるぞ!
そう他人事のように思ってたんだけどね。
「そうだ! 白銀さんに協力してもらえばいいのよ!」
突然、そのパーティの紅一点、魔術師風の格好をした女性がそう叫んだ。というか、俺という存在は白銀で認知されてるのね。
「え? 白銀さんってあの? え? この人が白銀さんなの?」
「そうよ! そうですよね?」
「まあ、勝手にそう認知されているがな」
「ほら!前に見たことあるし!何よりもあの子!」
「うん? あのクマのモンスがどうしたのか?」
「知らないの? 白銀さんのモンスのクママちゃんよ! クマ好きプレイヤーの間では超有名なんだから!」
なんと、クママの名前まで知られていた。他のプレイヤーの前には連れ歩かせたことはレベル上げ以外は殆どないはずなのに。でも確かにクマ好きだったらクママを見過ごすことはできないだろうし、有名になるのは仕方ないかもしれないな。
「クママちゃんの可愛さに撃沈されて、リトルベアとハニービーを連れているテイマーがすっごい増えたってことでも有名よ?」
え? 何それ? 知らないんだけど? でも、トップテイマーのページでハニーベアの情報は掲載されてたし、他のテイマーが欲しくなってもおかしくはないな。何せ動くテディベアだからな。
「リトルベアとハニービーを連れてる?どういうことだ?」
「だってクママちゃんの卵を手に入れるためにはリトルベアとハニービーをテイムしなくちゃ・・・」
「ああ、テイマーじゃないから知らないのか。ランクを上げたら従魔ギルドで買えたぞ。ハニーベアの卵」
本当に知らなかったようであらん限りに目を見開いて硬直した。でもそうしているのがテイマーだって言ってたよな?俺よりギルドランクを上げているテイマーでもハニーベアの卵を買えなかったのか?それとも売られていたのに敢えて買わなかった?お、女性が復帰した。
「そ、その話は本当で・・・・・?」
「嘘言ってどうする。そんの時はギルドランク2で買えたから間違いない」
「だ、だとしたら私も手に入れるチャンスがっ・・・・・?」
さぁな、そこまでは確証できない。
「で、白銀さんの俺に手伝ってもらうっていうのはどういうことだ?」
「あ、そうだった。白銀さんの従魔は、色々なプレイヤーに人気があるの。私みたいなクママちゃんファンだけじゃなくて、他の子にもたくさんファンがいるわけ」
ああ、妙に視線を感じたり、手を振ってくるプレイヤーがいるな~とは思ってたんだが、そういうこと。
でもそのうちハニーベアもノームも、テイムするプレイヤーが出てくるだろうし、騒がれるのなんて今だけだろう。調子に乗って有名プレイヤーみたいに振る舞ったら恥をかくだけだ。期間限定で有名人気分を味わえてるくらいに思っておこう。
「このサーバーにも、結構な数のファンがいるわ。広場で、一緒のサーバーでラッキーだったねーって話をしたもの」
「なるほど」
「そんなプレイヤーなら、白銀さんに声をかけてもらえば協力してもらえるかも。それに、そのプレイヤーたちが声をかければ、もっとたくさんの協力を得られるかもしれないし!」
そう上手く行くかね? まあ、イベントの進行に関係がありそうだし、できる限りの協力はするけどさ。
「どこまで力になれるか分からんが、声かけくらいなら協力するよ」
「やった! じゃあさっそく村に戻りましょう!」
「そうだな。あいつも迎えに行ってやらないといけないし」
「いや、ちょっと待ってくれ」
俺は魚も手に入ったし、帰るのは構わないけど、リッケと一緒に来てるからな。リッケを放っては帰れん。
だが、そのリッケは神妙な顔で何か考え込んでいた。そしてすぐに顔を上げて、自分から帰ろうと言い出す。
「おいらも、村に戻ってそのモンスターの話を皆に知らせなきゃ」
「そうか。じゃあ一緒に戻ろう」
「うん!」
村に帰りつく頃には、日が傾きかけていた。入り口でリッケと握手をして別れる。
「色々と楽しかったよ」
「いいんだよ。釣り仲間だからな!」
初心者でも、釣り人認定してくれたらしい。
「じゃあ、またな!」
リッケは村の入り口まで戻ってくると、笑顔で手を振ってそのまま去っていった。夕暮れの道を歩く、釣り竿を担いだ麦わら帽子の少年の影。妙に絵になるっていうか、郷愁が感じられる絵面だね。ずっと見ていられそうだ。
「私たちは、広場に行きましょう。プレイヤーが一番多いし」
「そうだな。ああ、その熊の名前って何なんだ?」
「悪い。逃げるのに必死で見ていないんだ」
そうか。じゃあ、カイエンのお爺さんに訊いてみるか。
俺たちは、釣り場で知り合ったプレイヤーパーティに連れられて、村の広場まで戻ってきていた。
道中で自己紹介は済んでいる。クママの大ファンだと言う女性はマルカという名前だった。
そのマルカに案内されたテントには、見覚えのある紫色の髪をしたプレイヤーがいた。騎士プレイで有名なジークフリードだ。同じ3称号仲間とも言える相手である。
「やあ、マルカくんだったかな? どうしたんだい?」
「ジークフリードさん、ちょっとお話がありまして。イベントが進むかもしれません」
「おお! それは朗報だね!」
「まずは、ジークフリードさんたちに話を聞いてもらいたいんです。今、私の仲間がコクテンさんを呼びに行ってますんで」
「わかった。それと、そちらの彼とは初対面かな?」
「ああ、死神ハーデスだ」
「僕はさすらいの騎士、ジークフリード。以後お見知りおきを。君とはずっと会ってみたいと思っていたんだ」
「俺を知ってるのか?」
「それは勿論。同じ3称号の取得者だし、白銀の先駆者と言えばノームの主として有名だからね!」
「一応、メインは重戦士の大盾使いだがな」
やっぱ知られてたか。まあ、悪い奴ではないし、俺の称号に関しても馬鹿にしている様子はないから嫌ではないが。
「そうだったのか。テイマーがメインだと思っていたけれど、会える日を心待ちにしていたよ」
そのまま2人で雑談をしていたら、マルカの仲間がもう一人と1パーティーを連れてきた。俺は知らなかったが、このサーバーで最も高レベルで、普段のゲームでもトップ攻略組と言われるパーティのリーダーだそうだ。
「ハーデス」
「ペイン、村に居たんだな」
「おや、ペインさんのこと知り合いだったのかい?それなら彼のことは知ってるかな?」
「いや、知らないな」
もう一人のプレイヤーへ目を向ける。何故そんな凄いパーティが武闘大会に出場していないのか疑問に思ったが、元々対プレイヤー戦であるPvPなどには興味が無く、武闘大会には出場しなかったらしい。
このサーバーでも一目置かれており、なんとなくリーダーと言うか、中心的な扱いになっているようだ。そのコクテンというプレイヤーは、全身黒づくめの凄い厳つい装備を身に着けており、メチャクチャ威圧感があった。挨拶すると、すぐにニコリと笑い、丁寧に挨拶を返してくれる。
「あー、こんにちは」
「はい、こんにちは。コクテンという者です。どうぞよろしく」
「死神ハーデスだ。よろしく」
コクテンさんとやらが揃ったことで、準備が整ったんだろう。マルカが自分たちが襲われた巨熊のことを語り始める。遭遇地点や、強さ、黒い靄を纏っていたこと等々だ。
「黒い靄か。実は今日になって黒い靄とか霧を纏ったモンスターとエンカウントしたという話が幾つか寄せられているな」
「俺も黒いラビットと戦闘になった。その前は黒いハニービー。倒してもドロップが無く、イベントポイントが貰えるだけだった」
「私もですね。森の深部で、黒い靄に包まれたオオトカゲと戦った。何かイベントが進行していることは確かだろう」
「マルカくん。動画か何かあるかい?」
「それはもちろん。あまり長くはないけど、熊の姿はバッチリ撮れてるわ」
マルカにその動画を見せてもらったが、すごい迫力があった。仲間が奇襲で倒された直後から始まり、向かってくる熊から全力で逃げる様子が撮影されている。撮影者が時おり振り返ると、凄まじい形相で牙をむく熊の姿が真後ろに迫ってきているのが見えるのだ。
少し前に人気になった、ホームビデオ目線で進むパニックサスペンス映画に通じる怖さがあるな。
「これは凄いですね。でも、確かに黒い靄を身に纏っているのは分かるなー」
「ああ。それにしても、マルカくんたちは攻略組だぞ? そのパーティメンバーを一撃で死に戻りさせるとは・・・・・」
「そうですね。奇襲ボーナスとクリティカルが重なったとしても、一撃というのは・・・・・」
マルカの話を聞いたコクテンとジークフリードが唸り出す。彼らからしても、この巨熊は強いらしい。
「コクテンさんのパーティでも勝てませんか?」
「分からないですね。どんな特殊能力があるかもわからないですし」
「そうですよね・・・・・。やっぱり何度か戦ってパターンを確認するしかないですね」
「だが、パターンを探ると言っても、下手に戦えば全滅の危険もあると思うが? マルカ君たちだけでは危険ではないかな?」
「なので、協力者を集めようと思います」
そして、マルカが作戦を話して聞かせた。方々に声をかけて、パターンを探るための生贄になってくれる人々を探す。死に戻るとイベントポイントが減少してしまうため、できるだけ多く集めて、1人1死までにしたいところだが・・・・・。
「そのためにも、顔が広いジークフリードさんや、コクテンさんにも協力をお願いしたいんです。ここにいる白銀さんも、協力を約束してくれています」
「まあ、戦闘じゃ役に立たないからな。このくらいはしないと」
「そうですね。どちらにせよ、戦ってみないといけないだろうし……。最初の戦闘は僕のパーティに任せてください。多分、皆も行くと言ってくれると思います。僕たちはそういう、強いモンスターとの戦闘を目的にしているパーティですから」
なるほど。つまりNWOを狩りで楽しんでいるパーティってことか。
「私も知人を当たってみよう。臨時のパーティを組んで、戦いに出てもいい」
コクテンとジークフリードの協力も取り付けた。俺たちも他の協力者を集めるとしよう。まあ、俺とモンス達は広告塔というかお神輿で、声かけはマルカ達が全部やってくれるんだけどね。
マルカたちが心当たりに声をかけに行くと言って散っていったので、俺はギルドの前でしばし待つことにした。インベントリの中にある今日入手した食材を眺めながら、何を作るか色々と考えてみようかな。
「ムームッム!」
「クママ!」
「キュイ!」
「――♪」
「メェー」
うちの子たちは輪を作るようにしゃがんで何かをしている。覗いてみると、輪の中心には土を固めて作った山と、その山に突き刺さった棒があった。オルトたちが順番に、その山の土を少しずつ手で削っていく。どうやら棒倒しで遊んでいるらしい。俺も子供の頃によくやったな。
「ム・・・・・ムム」
「クマー・・・・・」
「・・・・・キュイ!」
「――♪」
「・・・・・メェー」
ゆぐゆぐ以外のオルト達はメチャクチャ真剣な表情だ。呆れるほど慎重な動きでゆっくりと土を崩し、その度に額の汗を拭う。まるで人生を懸けた大勝負にでも挑んでいるかのような雰囲気である。まあ、遊びに真剣なのは良いことだよね。
だが、勝ち残りで何度も繰り返した結果、最後に勝利したのはゆぐゆぐだった。結局、少し肩の力を抜くくらいがちょうどいいのかもしれない。
「ハーデス」
俺の前にペイン一行が近寄ってきた。
「黒い靄を纏う熊は、俺達が倒してきたベアのモンスターとは異なっていたね」
「第4エリア以降のモンスターとは?」
「全て見て回ったわけじゃないから断定はできないが、あれだけ迫力のあるモンスターがいるとなるとこのイベントのボスにしては些か肩透かしの思いだ」
イベントを進行させる要因のモンスターなのはお互い認知している様子のペインはこう言う。
「俺達も黒い靄を纏うモンスターとは何度も戦ってきたが、黒い靄の原因はハーデスだったら何だと思う?」
「うーん。情報が少なすぎるから原因追及はできない。何を倒してきたか教えてくれるか?」
ペインから聞くとプチ・デビル、ラビット、ハニービー、ワイルドドック、牙ネズミ・・・・・。
「獣に属するモンスター以外はプチ・デビルか・・・・・」
プチ・デビル、小悪魔・・・・・。
「モンスター図鑑にも載ってないな。だとすると、プチ・デビルがいるなら他にもいるだろう。悪魔系のモンスターが」
「このイベントに悪魔のモンスターがいるのかよ?でも何で悪魔だと思うんだ?」
「悪魔ってのは魔法と闇の力を操る種族だ。闇は対象を操ったり凶暴化にすることも出来る。そう言う設定のゲームや小説じゃあ割とマイナーだぜ?」
「凶暴化・・・・・なるほど、黒い靄がモンスターを更に凶暴化させているってんなら納得できる推測だな」
「てっことはあの熊もそうだってことの?」
ドレッド達も神妙な顔つきで話に加わってきた。でも、この仮説が正しかったら少し困ったことになるな。
「守護獣も凶暴化してるかも」
「あっ、じゃあどのモンスターが守護獣なのかわかんないじゃん」
「おいおい、間違って討伐したらどうなるかわからないぜ」
「というか、守護獣の情報もまだ集まってもいないから探しようがないな」
いや、それは逆だドレッド。
「心当たりじゃないが、探せる方法はある」
「それはどんな方法だい」
「守護獣ってのは大体力のある獣だ。そしてその存在は唯一無二の個体で、他の種族より遭遇率は極端に少ない。それが特徴の筈だ」
数は少なくて遭遇率が低い、と呟くフレデリカがしばらく思考の海に飛び込んだと思えばおずおずと挙手をする。
「ねぇ・・・黒い靄がモンスターを凶暴化させているならさ、今のところその特徴と一致している熊が守護獣じゃないのかな」
「「「「・・・・・」」」」
ペイン達と思わず顔を見合わせてしまった。
「ちょっとカイエンのお爺さんを探して守護獣のこと教えてもらいに行って来る。悪いけどジークフリート達に俺の代わりに話を付けてくれないか?条件があるなら出来ないこと以外は何でも応じるとでも言っておいてくれ」
「ああ、わかったよ」
「来いサイナ!」
サイナを召喚する鍵を行使すると、俺の横に派手な演出と音もなく参上してきてくれた。
「マスター、ご命令は?」
「しばらく俺が戻ってくるまでオルト達の面倒を見てくれるか?」
「かしこまりました」
それだけ伝えてカイエンのお爺さんを探しに駆け出す。まずは他の村人に話を聞こう。ここから一番近い酪農家のアバルの所に行ってみよう。チーズを手に入れたところだ。
「すいませーん」
「はいはい。あれ、君はハーデス君だったかな?」
「はい。ちょっと聞きたいことがありまして。今お時間大丈夫ですか?」
「うん。いいよー。じゃあ、上がって上がって」
「じゃあ、おじゃまします」
あっさりと招き入れてもらったな。好感度的なものが上がったのだろうか? そのままアバルさんの家に上がると、そこには見知った顔があった。
「あれ、カイエンお爺さん」
「おお、ハーデスかい?」
カイエンお爺さんだけではない。それ以外にも、複数の老人がテーブルを囲んで何やら話し合っていた。
「どうしたんじゃ。こんな場所に」
「なんだか、聞きたいことがあるらしいよ?」
「そうなんですよ。川の上流に出る巨大な熊について。何かご存じないですか?」
「守護獣に出会ったのか?」
ビンゴ!幸先がいい。俺は巨大な熊がプレイヤーを襲ったことを伝えると老人たちがどよめいた。
「馬鹿な! 守護獣が人を襲ったのか?」
「ああ、今日は一人だけだが今後は結構な数のプレイヤーが襲われる危険性があります」
「・・・・・ありえん」
カイエンがボソリと呟く。
「どういうことだ?」
俺の問いかけに老人たちが視線を交わす。そして、全員が何やら頷いた。
「ふむ・・・・・。旅人たちは村に貢献してくれておるしな・・・・・。特にお主はよく働いてくれておる。教えても構わんじゃろう」
カイエンお爺さんが語ってくれたのは、中々興味深い話だった。多分、イベントに深く関わる情報だろう。こんなところで聞けるとは!
大昔、この村はある大悪魔に滅ぼされかけたのだという。だが、その悪魔は旅の冒険者に倒され、ある場所に封印された。その悪魔の封印を支えているのが、神聖樹という2本の聖なる木らしい。そして、その神聖樹を守っているのが、2匹の神獣だった。
「ガーディアン・ベアとガーディアン・ボアという神獣たちなのだが、決して人を襲うような狂暴なモンスターではないんじゃ。むしろ、森で迷った村人を助けてくれたりする、文字通り村の守り神なんじゃよ」
となると、どういうことなんだ? 村人じゃなければ襲う? いや、あの黒い靄が神獣をおかしくしているのか?
「・・・・・神聖樹に異変が起きているかもしれないねぇ」
「どういうことじゃアバル」
「カカルに聞いたんだけど、狂暴化しているモンスターが罠にかかることがあるらしい。守護獣ももしかしたら」
「悪魔の封印が解けかかっているとでも言うのか?」
「ああ」
「うむむ」
伝承によれば、封印されている悪魔の能力が、モンスターを狂暴化させて操る能力らしい。これはまたビンゴかもな。イベントの最終的なボスはその悪魔か。
「その守護獣はやっぱり、倒したらやばいんですか?」
「村にとっては長年共に歩んできた友とも言える存在じゃ。それは勘弁してくれんか? それに、守護獣を倒してしまっては、神聖樹にどんな影響があるかもわからんのじゃ」
危なっ。むしろガーディアン・ベアが強くて良かったわ。やつが弱かったらプレイヤーたちがもう討伐してしまっているかもしれないからな。
ということは、熊は倒さず悪魔を倒さないといけないわけか。他のプレイヤーさんたちにガーディアン・ベアを引き付けておいてもらい、その間に悪魔討伐に向かうしかないかね?それもコクテンに相談してみよう。
「今の話、他の人にも話していいですよね? 守護獣との余計な争いも回避できますし」
「構わんよ」
「ありがとうございます。ああ、因みにその2匹の気を引くために好物の食べ物とか知ってますかね」
「むぅ、すまぬ。守護獣の好物はわからぬ」
わからないか、しょうがない。俺は礼を言って、アバルさんの家を出た。
「熊だけじゃなく猪までいるのか・・・・・。どっちも雑種だから念には念を食用アイテムの入手か」
熊と猪の気を逸らせる食用は、色々と役に立つかもしれない。だが、まず買いに来た果物屋さんではすでに売り切れだった。どうも、俺以外のプレイヤーたちにも、珍しい果物は人気があるらしい。
「んー。他には・・・・・。そうだ、おばあさんの雑貨屋」
行くたびに品揃えが微妙に変わっているし、もしかしたら果物があるかもしれない。無くても、何か代用品があるかもしれないのだ。おばあさんにも相談できる。どうせ他には心当たりもないしね。
だが、結果は芳しくなかった。おばあさんも、守護獣の好物については知らなかったのだ。果物も無かったし。唯一の成果は、高級肥料が買えたことだろう。仕入れたばかりの商品らしい。これは貴重品だ。神聖樹とやらに役に立つ可能性があるだろこれ。
「さて、果物が手に入らなかったのは残念だけど、そろそろ広場に戻ろう」
早くこのことを教えないと、無駄にガーディアン・ベアに挑むプレイヤーが増えてしまうからな。
「そんな伝承があったとは」
「興味深いわね」
「中々重要そうな話です」
俺はギルド前に戻ると、すでに集まっていたジークフリード、マルカ、コクテンに、先程カイエンお爺さんたちから教えてもらった村の伝承を聞かせていた。悪魔や神獣といった単語に、皆が心を躍らせているのが分かる。さすがはゲーマーたちだ。
「ということは、あの熊は倒しちゃいけないってことですね」
「まあ、倒すメドはまだ全く付いてないけどね。作戦会議のために誰も戦いに行ってないし」
それでもガーディアン・ベアの戦闘パターンをまとめるための会議は終わったようだ。
そこで、コクテンたちが相談を始める。彼らも俺と同じで、ガーディアン・ベアと戦って引き付ける係と、悪魔を討伐する係に分かれるしかないという結論に辿りついたようだ。
「俺が守護獣を引きつける役割してもいいぞ。大盾使いだし足止め役には適してる」
「確かに。その装備もかなり強そうですね」
「この装備はユニーク装備だからな。破壊される度にVITが増えるもんだからおかげで要塞のような防御力を誇ってしまってるよ」
ペイン達が吃驚した顔で俺に視線を送ってくる。
「えっと、要塞のような防御力って今どのぐらい・・・・・?」
「もうすぐ5桁になる」
「さ、流石ベヒモスを単独討伐したプレイヤーだね・・・・・」
頬が引きつってるぞジークフリート。だが、雰囲気はそれでも構わないといった感じで前線で攻略しているペイン達は異を唱え―――。
「ダメダメ!白銀さんが巨熊と戦うなんて!」
突然、マルカが騒いで反対の意を訴えて来た。何でだ?
「いや、それがですね・・・・・」
コクテンが何故か言い淀む。なにか言いづらい理由か?次にコクテンの口から飛び出したのは、予想外の言葉だった。
「白銀さんがいない間に作戦を考え、私も白銀さんには3番目か4番目くらいに挑んでもらおうと思っていたんですが・・・・・。大反対に遭いまして」
「大反対?誰が?」
「女性プレイヤーたちの大半ですね。皆さん、白銀さんのモンスターのファンのようでして、死に戻りさせるなんてとんでもないと。その、凄い剣幕でして・・・・・」
そう言って、コクテンは情けない顔をする。どうやら、女性陣に囲まれて散々に言い負かされたらしい。
「それに、白銀さんには協力者をたくさん集めていただいたので、さらに戦闘までお願いするのは心苦しいというのもありますから」
「まあ、それならそれで構わないけど。明日も俺は独断で動くからな?協力が欲しいと思ったら声を掛けてくれ」
ジークフリートにフレンド登録を申請すると彼は一瞬驚いた表情をした後に申請を受託してくれた。
「わかりました。要塞の防御力を期待してます」
「貫通攻撃の前じゃ紙装甲当然だがな」
ふと、ある事を思い出した。
「俺に対して何か条件とかあった?」
「条件・・・・・ああ、他のプレイヤー達からありましたよ」
金かフレンド登録か?
「なんだ?」
「あとは白銀さんの了承を得るだけなんですがね。白銀さんのモンスター達のスクショを取らせて欲しいそうです」
「スクショか?1枚だけなら構わないと伝えてくれ。マルカもな」
「あはは、バレちゃってましたか」
自分でクママのファンとか言っただろうに。
「俺は夕食作りの為に帰るけどペイン達はどうする?」
「そうか。因みに今夜の夕食は何かな?君の蟹料理は美味しかったからね。今日もどんな料理を作ってくれるのか楽しみなんだ」
仕事帰りの夫みたいに訊ねてくるなよ。
「米がまだあるからなー。醤油と味噌味の焼きおにぎり以外にも味噌汁に他は考え中・・・あ、ピザもいいか。ゲームだから栄養も体重も気にせずに何でも食べられるだろ」
「焼きおにぎりか。ペイン、俺も帰っていいか?好物なんだよ」
「はいはーい、私も。ピザ食べてみたーい」
「だ、そうだペイン」
「わかってる。今日は切り上げよう」
ペイン一行も俺と一緒にカイエンのお爺さんの家へ帰路につく。
「米・・・・・蟹だって・・・・・?」
「まさか白銀さんは・・・・・」
「これはとんでもないことに・・・・・」
ジークフリート達が俺達を見て何か呟いていた気がしなくもないが、敢えて気にしない。