さてさて、樹羅四苦八苦で初のイベント当日になるのもあっという間の週末の土曜。参加するプレイヤーは南極大陸のイベント時のように樹羅四苦八苦まで移動しないとイベントに参加できないから、神獣の眷属のプレイヤーはそれぞれ自前の船で移動して到着している間、俺達は更なる恐竜をテイムしていたり、占領した拠点の改築工事をしたり、新たなる発見をしたりと過ごしていた。
新発見に至っては、占領できる空の安全地帯をすべて占領したら巨大な樹木ごと俺達のマイホーム化となって、恐竜不可侵領域の広いスペースの拠点に変化したこの中で、イベントまで待っていた一時間前の時、俺達に運営からメッセージが届いた。
「『今回のイベントでは、普段使用なさられているプレイヤーのキャラクターではなく、運営側がご用意させていただきました生物のキャラクターでイベントを臨んでいただきます。ランダムで選ばれたキャラクターによっては使用が不可能となるスキルがございますことをご了承ください。また、ランダムで選ばれた生物には専用のスキルがございます。そしてモンスターやプレイヤーがいる一週間のサバイバル中、全てのプレイヤーの装備のステータスとスキルは反映されませんのでご注意を。さらにインベントリから最大五つまでのアイテムを持ち込むことができ、それ以外はすべて使用不可能とさせてもらいます』」
・・・・・うん、これは、あれだな。
「バランスのいい高ステータスと他のプレイヤーにはない唯一無二のアイテムを所持しているプレイヤーが勝つイベントだこれ」
「じゃあ、ハーデスが余裕で勝つイベントだな」
「いやいや、バランスのいい高ステータスだって言ったよな。俺とイカル、メイプル、マイとユイのステータスは一体?」
「「防御力特化!」」
「「攻撃力特化です!」」
胸を張って言う少女達。うん、今日も元気でよろしい。
「一点だけ特化していても他は頼りにならないステータスにしている俺達が装備のステータスとスキルが封じられたら、独壇場でいられると思うか?」
「うーん、弱体化した感じじゃないけどそれなりに強みが奪われた感じかー」
そう、だから勝利の鍵はアイテムの方だと思っている。さてさて、何を持って行こうか・・・・・。と吟味してイベントの時間まで待っている間、暇なので気になった巨大樹木の天辺・・・・・大体一万メートルぐらいか、そこまで飛んで昇ったら物理的に乗れる雲の上に存在する野菜畑と海を発見した。海の場合は雲海と呼ぶべきだろうが、しっかり潜れるし何なら魚介類まで確認できた。少し離れれば最大レベル150の雲のモンスターが跋扈していた。そのことを仲間に伝えば、雲の上まで来た水瓏を介して俺と同じ景色と光景を見て大はしゃぎした。
「見たことのない新種の野菜まであるー!」
「うははは!! 獲りまくるぞー!!!」
「皆ー! こっちに巨大すぎるトウモロコシがあるよー!」
土代わりの雲まで採取できるのだから仲間は忘れずに大量の『土雲』を集める。先に進まない限りモンスターは現れないこの辺りは安全地帯のようで、モンスターは一切いなかった。だからかーーー。
「そろそろイベントの時間なんだが、どうする?」
「今はここに居たい!」
「サバイバルなんかして無駄な時間を過ごしたくない!」
「こんなに美味しいイチゴがたくさん食べられるのに他のことしたくないよ!?」
「って、独り占めしちゃダメだよ!?」
ってな具合で、皆がイベントよりも雲の上での活動がしたいと意見に尊重して、【蒼龍の聖剣】はサバイバルイベントを見送り参加せずに雲の上の活動に専念した。参加したギルドや神獣の眷属の戦績はどうなったかは、気になるも今は目の前のことに夢中な皆と雲の上の安全地帯で過ごした。
運営side
「えええええええええ!!? 【蒼龍の聖剣】がイベントに参加していないぃぃぃぃぃ!!?」
「確認したら、雲の上の安全地帯ではしゃいで過ごしていますよ。あのギルドがイベントを見送るなんて信じられないことをしますね・・・・・」
「あそこのギルド、生産職プレイヤーが大半以上いるっすから・・・・・イベントを参加するよりも雲の上にいる方が楽しいのかもっす」
「参加資格があるのに放棄なんて・・・・・いや、何人か参加しているだろう? ペインのチームとか」
「いえ、ペイン達すら参加していません。というか、巨大トウモロコシの粒を取ろうと動いていますよ」
「ペインさーん!?」
「ていうか、あそこって一部の生産職プレイヤー限定の宝庫エリアっすよね? それとアイテムだって一時的にスキルも一定の確率で付与されるっす。【蒼龍の聖剣】はそれに気付いたみたいで集めまくっているっすよ」
「あああああー!?」
「そりゃあファーマープレイヤーにとってお宝な食材のアイテムを前に、バリバリな戦闘イベントをするよりも有意義な時間を選ぶわけですね」
「【テレポート】でいつでもどこからでも転移できて、他のプレイヤーに教えなければ独占できるファーマーの最高の楽園となるっすよあそこ」
「のぉおおおおおおおおおおー!?」
なんか、悲鳴が聞こえたような気がした。気のせいか・・・・・? 気のせいか。
「「「「「キュウウウウ!」」」」」
おっと雲のウサギ、クラウドラビットに囲まれながら考え事をしてしまった。こいつ等、見た目は物理的ダメージは皆無なんだが雲らしく水魔法と雷魔法を使ってくる。一匹だけなら他の仲間達もギリ何とかイケるが複数だと驚異的だ。しかも厄介なことに麻痺の状態異常は効かないし、毒だったら効くが毒々しい紫色に染まったまま触れると仲間にも毒状態を付与する特性まで備わっている。さらには一つになって巨大化までするからさぁー大変だ(他人事)。はい、【相乗効果】【手加減】【エクスプロージョン】。
「キャアー! やったぁっ! ゲットよー!」
戦闘の末、アメリアが歓喜の雄叫びを挙げた。クラウドラビットの捕獲に手伝わされた俺の目の前でテイムしたばかりのモンスターを持ち上げ、その場でくるくると回る主を見つめる背中にハートマークがあるラビットが、どこか呆れた目をしているのは気のせいじゃないかもしれない。
「白銀さーん!」
エリンギが駆け寄って来た。その隣には後輩の虫テイマーもいる。協力を懇願されてテイムしたドラゴンフライに跨ってこの二人が揃って話しかけに来たと言うことは・・・・・。
「虫でもいたのか?」
「虹色の綺麗な虫がいた! かなり強敵っぽくて手が出せないから協力してほしい!」
「名前は?」
「虹雲なんとかって虫でした。綺麗な繭を守っていました」
「なんとかって・・・・・ちょっと覚えているなら書いてくれるか?」
エリンギが蚕って名前を書いた時点で理解した。
「生産職にとって垂涎の的だ。特に裁縫職人のプレイヤーにとって繭の方が欲しいかも」
「どうして裁縫?」
第二陣の虫テイマーのトンボは知らないようで首を傾げた。
「ログアウトしたら蚕のこと調べてみろ。納得するぞ。んじゃ、案内してくれ」
「わかった、こっちだ」
セキトを召喚して跨り先行する二人を追いかける。野菜畑から相当離れたところでぽっかりと空いた穴があった。雲の洞窟か、ここまで来ないと俺ですら発見できない場所だな。本来の洞窟は明かりが無いから真っ暗な空間が当然の常識だけど、この雲の洞窟は暗さが無い。俺だったら遠目で見たら凹んでいる雲としか分からない自信はあるぞ。
「よく見つけたな」
「本当に偶然でしたよ。ね、エリンギさん」
「モンスターがこの中に入るところを見なかったら俺達でも気付かなかった。試しに入ってみたら、ダンジョンだった上に虹雲蚕の巣があったんだ」
はい? ダンジョンだと?
「この先はダンジョンなのか?」
「ダンジョンと呼ぶべきなのか、何とも言えないエリアですよ」
「俺達のドラゴンフライが真っ直ぐ迷わず虹雲蚕の巣まで移動したからな」
あー、なるほどな・・・・・理由がわかると納得するわ。
「トンボの目って何十台のテレビの画面をくっつけたような感じになってて、人の視力より高く遠くまで見れるから虹雲蚕を追跡できたんだと思うぞ」
「あ、追跡者ってスキルがあるのはそういう意味だったのか!」
「勉強になります!」
オイコラ、気づけよそこ。
「じゃあ、また案内を頼むけど二人はテイムしたいんだよな?」
「そのつもりだ。でも、繭から孵化するなら繭を手に入れたい」
「確かに繭からでも孵化するけど・・・・・多くは語らん、頑張ってくれ」
俺の意味深な言葉に不思議そうに小首を傾げる二人の案内で、本当に中はダンジョンのように迷宮だった。雲なのに破壊できないって物質の法則を無視していやがる。ゲームだからと言われたらお終いだが、ともかく二人のドラゴンフライのおかげで虹雲蚕の巣と思しき場所のエリアまで来られた。
「「「・・・・・」」」
すぐに入らず、コッソリ中を様子見する。あれ・・・・・手の平サイズの蚕だと思っていたのに、何だあれ・・・・・こっちに背を向けているが、巨大すぎる虹色の蚕が巨大な虹色の繭の上に微動だにせず鎮座しているではありませんかー。・・・・・あんなに大きいとは聞いていないんだが? 明らかにレイドボスモンスターじゃないか。でも、ちゃんと小さい方もあちこちにいるし、雲の壁にはハチの巣状の穴の中に小さい繭がある。
二人を見たら、明後日の方へ俺から目を反らす。こいつら、ワザと言わなかったな。
「俺が死んだら、性転換した姿で皆の前で膝枕の刑だからな。もちろん、二人が女になる方だ」
「え、待って? それ、俺達が羞恥で死んじゃいそうなんだけど?」
「勘弁してください、どうかお願いします・・・・・!」
なんか言っている二人を置いて蚕だらけの空間に足を踏み込むと、背を向けていた巨大蚕―――虹雲蚕神が動き出して振り返った。・・・HPバーがまだ出ない・・・・・? ということは、あの赤いドラゴンと同じ要領でいってみるか! 口の無い虫だけど!
「あー、勝手に入ってすまない。お詫びにこれをどうぞ」
10個の虹色の実を出して置いた。触角の部分が何度か揺らした虹雲蚕が繭から離れ虹色の実に近寄り、顔を近づけると・・・・・一瞬で実の方が消えた。10個全部だ。まさか、食べたのか? 口もないのにどうやって? と疑問を抱いていたら、巣から幼虫が大量に出てきて俺を囲んだ。ひえっと二人の心配そうに向けてくる視線を感じるのにまだ襲ってくる気配がない・・・・。
「お前達も虹色の実を食べたいのか?」
跪いて聞いてみたら頭をあげる幼虫たちが何度か頷いた。人語が判るって凄い虫だなオイ。取り敢えず虹の実を10個用意したら全ての幼虫が虹の実に群がって齧り出した。するとどうでしょうか、真っ白な幼虫の身体に虹色の輝きが放つようになったではありませんか。
あげた実が時間が経つにつれ形を崩して完全になくなると、蚕の幼虫は優しい虹色の光を放つ身体になった。これからどうなるのかと様子を窺ってたら、蚕神がゴロリと巨大な繭をこっちに転がしてくる。道を譲るように退く幼虫たちの間に繭を押す蚕神が止まり、脚でさらに俺の目の前に繭を押す。
「・・・・・くれるのか?」
コクリと身体で上下に揺らす蚕神。ならば言葉に甘えて貰おうと繭に触れるとメッセージが浮かんだ。
アイテムとして受け取りますか? テイムしますか?
うー・・・・・ん、悩みますなぁー・・・・・でも、蚕はホームにもいるから生産目的にとしてなら間に合っている。だったら、テイム一択しかないだろうな。
それなりに悩んだ末にテイムを選択したら、繭が光りだして輝きが引いて失うと数メートルの蛇みたい大きい幼虫が誕生した。わたあめみたいな真っ白でふわふわした身体を持つ幼虫が甘えるように俺の身体に巻き付いてきた。それだけじゃない、幼虫達が一斉に糸を吐き出した色が虹色で、蚕神からくれた大きさの繭になった。おおう。これもくれるのか、ありがとう。また虹の実をたくさんあげると幼虫たちが嬉しそうに体をくねらせた。仕舞にはダンスを始め、中には天井に集まってクリスタルボールみたく一塊となると虹色の光を放ち・・・・・。
「しょ、昭和のバブル・・・・・!」
「す、凄い・・・!」
何時しか二人まで入ってきて俺の後ろに立って、目の前の光景に唖然としていた。蚕神もキレのあるダンスを始めるもんだから、あの盛り上がる音楽が流れだして本当にソレな、って話になった。
なお、この二人はちゃっかりと蚕をテイムした。さらに俺達も踊ってディスコを楽しんですごしたら、蚕神達と友誼を交わすことができて、ホームの屋根の上に虹雲蚕の雲の巣が定着されてしまった。そんな映像を投稿したら、掲示板の住民から羨ましがられたり、呆れたり、愕然と様々な反応をされた。