イカルと探索する前に、彼女のアイテムもホームに置きに行かせた。そして待つと戻ってきたイカルと合流を果たす。
「ただいまです!」
「お帰り、ちゃんと置いて来たか?」
「はい、言われた通り盗まれるものと盗まれてもいいものを分けました。でもどうして盗まれていい物だけ残すんですか?」
「念には念をだ。もしかしたら、俺達のインベントリに入っているアイテムを盗まれるかもしれないからな。猫相手に」
「ネコちゃんがアイテムを盗むんですか?」
信じられないと見上げながら言うイカルに頷く。
「相手の持ち物を盗む悪いことをする人に対して猫糞と言う言葉がある。それに猫は魚屋さんが売っている魚を盗む話もあるだろう?」
「聞いたことあります。あ、だから悪いことをするネコちゃんがいるかもしれないんですか?」
「そうだ。盗まれるなら盗まれたくない物を最初から持ってこなければいいだけなんだ。お金と料理なら、問題ないだろ?」
「お金は大切ですけど、料理はそうですね。でもどうして料理を?」
不敵に笑む俺はすぐにわかるとイカルの手を取って王国内に初めて入る。俺達を出迎えるのは城下町という場所だろう。港町で活動しているネコ科NPCより服装が綺麗なネコ科のNPC等が大勢歩いている。―――うん、分かってたけど俺のこと怖いものを見る目で避けていますな・・・・・。ここで突然の死神の宴を開催だー! ただし、返答はせず、眺めてもらうだけだがな!
「何があるんだろうなー」
「そうですねー」
最初に来た時、湖の中心の陸地の形は猫の肉球だった。俺達は掌球から来た感じで城下町はとても広い。城の方は右から四つ目の肉球の位置に建てられていて、そこまで行くには跳ね橋で渡るしかなかった。
「さぁ、イカル。コミュニケーションの始まりだ」
「はい!」
まず聞き込みしたのはこの国のことだ。訪れた猫カフェの店長からG通貨は使えることを教えてもらい、サンドイッチとコーヒー、イカルはオレンジジュースにサンドイッチを注文した上で情報料のチップとして渡して色々と教えてもらった。俺達がいる町は城下町で間違いないが平民街と貴族街、ファンタジーでよくある格差社会、貴族社会が存在している。貴族街に続く門は一般開放されず恐らく豪遊をしているんじゃないかと店長が言う。平民街に暮らすNPCは誰も貴族街で住むNPCを見たことが無いから把握していないのが現状だそうだ。
「じゃあ、特に軋轢があるわけでもなく今のところ平穏なわけだ」
「実を言うと、あまり平穏とは言えません。平民街にはお医者様がいないので、一度病気になると薬も買えないし大きな怪我をしたら治療することもできず、そのまま死んでしまう人も珍しくないんです」
「医者がいるとしたら、貴族街の方か」
猫の獣人の店長は暗い顔で頷く。
「それに月に一度、高い税を支払わないといけないので・・・平民街から絞るだけ絞って、払えないなら港町へ追い出されてしまうんです。あそこは労働ばかりされる奴隷の町でもあります」
「そんな、酷いです!」
これからもそんな政治を続けたら最終的に平民街から人がいなくなるのに、貴族街の人等はどうやって生活するんだか・・・・・。にしても港町がそんな事情と背景があったとは知らなかったな。他のプレイヤーはもう知っているか?
「失礼する!」
威圧的な声が俺達の意識を出入り口の方へと向けさせた。店長はその声を聞いた瞬間に委縮して目に怯えの色を浮かべる。その原因は国の上級の衛兵らしき格好をした黒豹が数人の部下の獣人を従えて出入り口に立っていた。
「今月の税収を取り立てに来た。早速だが用意してもらおうか」
「あ・・・・・その・・・・・」
酷く困ったような店長に黒豹は目を細める。
「もしや払えぬと? であればこの店は国に返還し、貴様は国から出て行ってもらうが」
「も、申し訳ございません! ですが、ここ最近はお客様が少なくて仕入れもままならい上に生活も・・・・・」
「言い訳は無用だ。お前達の血税は王の物だ。王の為に生きて王の為に働き、王のために死ぬ。それがお前達平民街の運命なのだ」
おいおい、随分と横暴な言い分じゃないか・・・・・リアルじゃあ王の俺の前でよくもまあ、そんな事を言える。
「金を作れぬものはこの国に不要。王の政治に沿えぬならば王国から出て行ってもらおう」
黒豹の部下が動き出す。彼女を捕まえ国から追い出すためだ。だけどなぁ・・・・・。
「徴税人の方とお見受けする。それは少し待ってくれないか?」
「・・・・・なんだ、余所者」
座ったままで話しかけることで、部下が止まり黒豹と俺の会話のやり取りに意識を向けた。
「いや、そちらの仕事を邪魔をするわけではないんだが。一つだけ気になってな。最終的に徴税人の仕事がなくなった場合はその後の国はどうなるかってね」
「余所者の貴様には関係のない事だ。こちらは王から受けた命に従っているのだ」
「であろうな。だが、さっきも言ったように税を集める対象がいなくなったら、平民街の者達が全て死亡した時のことを憂いないのかと思ってさ。あなたも恐らくは貴族側の者だろう? じゃあ、貴族が貴族の税を徴収することになったら、金を毟り取られる貴族は納得するとあなたは思うか? 当然あなたの家から税を払えと言われる可能性は高いがな」
「・・・・・」
押し黙るか。思ったことはないわけじゃなさそうだが、暴君の命令を忠実に従うだけ意思のない獣は死ぬだけだ。
「店長さん、払う税は俺が代わりに払おう。この店のサンドイッチはまだ食べたいからな」
「そ、そんな!? お客さんが払わなくていいですよ! これは私の問題なんです!」
百万Gが入った麻袋を部下に投げ渡す。反射的に受け取って渡された部下が、どうしようかと戸惑った顔で黒豹の指示を仰いだ。意外と横柄な獣人じゃないんだな。
「・・・・・この店の売上金を数か月分の税として納められた。行くぞ」
「「「は、はっ!」」」
撤退、もしくは別のところで税を徴収しに行ったか。居なくなった彼等の後に俺は空になった皿を店長に差し出した。
「サンドイッチ、お代わりだ店長。フルコースで頼むよ。お土産も出来るなら在庫の食材を全部使って用意してくれ」
「私もです! たくさん食べますよ!」
「・・・・・あ、ありがとうございます!」
涙を流す店長に俺とイカルは笑みを浮かべた。
『白銀さん、格好いいんですけど!』
『やべー、絶対にホレるってこんな展開!』
『男気ある白銀さんが見れてよかった半面、ケットシー王国ってそんな裏事情があったなんて!』
『猫の王様、絶対に許せないな!』
『同じお猫様をなんて扱いするんだー!』
『これ、他のみんなにも教えて回ろう!』
『どうにかして猫ちゃん達を救うニャー!』
『悪いネコは許すまじ』
『作戦を考えないとな。王様をキルするか、それとも平民街のNPCを全員助けるか、それとも国を滅ぼす?』
『滅ぼしたら住めなくなるからダメ! 王城だけぶっ壊せばいい!』
『貴族の方はどうする? 無関係とは言い難いっぽいけど』
『もう少し様子見しよう。白銀さんが配信動画を始めたのは、ケットシー王国内の様子を見させるためだと思うから』
『貴族もクソだったら対象に加えよう』
『これで称号が得られたら、【侵略者】的なのだろうね』
『上等ー! 寧ろ、称号は何でも欲しい!』
たくさんのお土産を作ってもらい、その際に店長からある依頼をされた。サンドイッチを届ける簡単なお使いだ。場所は平民街の最底辺、貧民街。税が払えず夜逃げしてホームレスになった住民が密かに暮らしている場所があるらしい。そこへ向かうとガラの悪い獣人達が路地裏に入った俺達を前後から挟み撃ちにする風に現れた。
「よぉ、見ねぇ顔だな。お前ら、余所者だな?」
「へへ、立派な鎧を着ているじゃねぇか・・・・・怖い思いをしたくなかったらそいつを寄こしな?」
「可愛いお嬢ちゃんも一日預からせてやるぜ。なーに、楽しいことをしたらすぐに返してやるぜ」
凶器を見せびらかせ下衆な笑みを浮かべるゴロツキ達。おおお・・・・・こんな展開を体験できるなんて、凄く感動的だぜ! ファンタジーでゴロツキに絡まれる、王道的なパターンじゃないか!
「・・・・・おい、何嬉しそうに笑ってんだテメェ」
「おっと・・・・・お前達を見て興奮しちゃった・・・・・ふふふ」
「・・・コイツ、なんかヤベェぞ・・・・・!」
「それにこいつからスゲェ血の臭いがする・・・・・一体何人殺したらそんな濃い血の臭いをさせるんだよっ」
「うーん、千人以上は殺したな」
「「「「せっ―――!?」」」」
おいおい、後退って逃げようとしないでくれ。血塗れの残虐の魔王の効果はこういう感じで役に立つこともあるんだなー。
「この辺りが貧民街で間違いないか?」
「だ、だったら何だ! まさかお前、俺達を殺しに来たってのか!?」
「なーんでそうなる。貧民街の人にサンドイッチを渡してほしいって頼まれてきたんだよ。カフェの猫の獣人の店長の人に」
「・・・・・クソ、あのお節介の女の使いだったのかよ」
おや、緩んだな。後ろの方の獣人もその気が萎えたみたいに凶器を下ろした。前の獣人が恐々とこっちに近づいて来てイカルが差しだす差し入れを受け取った。
「お前ら、あの女とどういう繋がりだ?」
「美味しいサンドイッチを食べてたら、徴税人が来て彼女の代わりに数か月分の税を払ってやった」
「はぁ? 赤の他人も当然のお前らが何で助けるんだ」
「自己満足でもエゴでもない。サンドイッチを食べたいから店長と店を守っただけだ。善意なんてちっともないよ」
胡乱気に睨んでくるが、聞くだけ無駄かと風に溜息を吐きやがった。
「もういい、二度と顔見せんな。他の連中にお前を会わせたくねぇ」
「酷い!?」
「うるせぇっ! 千人以上殺した奴に仲間を会わせられるか!」
そう言い捨てて薄暗い路地裏の奥へと進んでいなくなった獣人達。後ろの獣人達も音もなく姿を暗ましていた。
「・・・・・猫の王様に八つ当たりしてぇ」
「えっと、悪い王様だったらいいと思いますよ?」
『NPCを千人以上も殺した魔王様。獣人をモフれない』
『濃厚な血の臭いを放っているのか。だから吸血鬼のお姉さんと・・・・・』
『なるほど? じゃあ、俺も体中に血を浴びれば彼女は俺にもあんあんなことを・・・・・!』
『お前、天才か! Σ(・ω・ノ)ノ!』
『ちょっと暗殺を極めてくるわ!』
『血祭りじゃー!』
『ふはははは! 我、血を求めし闇の住人! 今宵の血の宴は満月を赤く染めると知れ!』
貧民街前を後にして次は貴族街の方へ調べに行った。解放されていないとはいえ、どんなところかなーと思ったらベルリンの壁ではないが、平民街からじゃあ侵入することもできない八十メートルはある巨壁で貴族街の敷地と隔てている。貴族街に入れる唯一の場所は鋼鉄の鉄格子で締め切られていて、平民街側と貴族街側に二人ずつ、四人で門番が配置されている。
「こんにちはー」
「こんにちはです!」
「「・・・・・」」
あ、うん。警備中だから私語は厳禁か。
「質問ですけど、貴族街に入る、もしくは王城に入るには何か条件がありますかねー?」
「「・・・・・」」
「うーん、こうも無視されるとこっちもいろいろと試させてもらうしかないんだがな。ということでイカル君。例のお魚をどっちか出してくれないかな」
「はーい!」
インベントリから太った貴婦人のような魚を丸ごと出した。名前はマダムクイーン・フィッシュ。巨大な魚故、門番の獣人達は思わず目を見張ったのを見たぞ・・・?
「この広い海の中で見つけ出すことも釣り上げることも困難な幻の魚、マダムクイーン・フィッシュだ。これをこの国の王様に献上しようと思って来たんだが・・・・・そうだよな。余所者なんて入らせるわけにはいかんし、俺達の言葉なんて貸す耳はないよな。イカル、悪いがそれを仕舞って帰ろう」
「残念です」
貴婦人魚をインベントリに仕舞って踵を返す俺達の背後で、なにやらあわあわと当惑している門番が。
「―――お、お待ちを!」
「「・・・・・?」」
一人の門番が困り果てた表情をありありと浮かべたまま話しかけて来た。
「今の魚を、誠に王へ献上するつもりでいますか」
「でも、俺達みたいな余所者が持ってきた魚じゃあ、さすがに怪しすぎてダメじゃないか?」
「・・・・・み、港町の者達が釣り上げたことにすれば王も信用してもらえるでしょう」
「ほう、じゃあさっきの魚を釣り上げた功績はちゃんと確定するんだろうか?」
「それは・・・・・王のご判断次第としか言えません」
だろうな。こいつらに訊いてもしょうがないことだわ。
「そうか。じゃあ、後日改めて港町の住民達に運ばせる。だけどこの子と他数名の余所者も運ばせに来るが構わないな?」
「・・・・・我々の一存では決めれませんが、余所者は三名までならば王もお許しになるかと」
「わかった。では港町に戻ろうかイカル」
「はーい」
『よし、白銀さんが戻るぞ』
『貴族街に入れる作戦も思いついた』
『これより我々は可愛いネコ達の未来を守るレジスタンスとしてケットシー王国と戦うぞ!』
『おおおおおおおおおおおおおおおお!』
『ニャアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』
運営side
「あ、あのー・・・・・プレイヤー達がすんごいことをしようとしてるっすけど?」
「知らない知らない知らない、俺は何も知らないし何も見ちゃいねぇ」
「現実逃避しないで! プレイヤー達が一国を潰そうなんてあり得ないことを決行しようとしているんですから!」
「本来のイベントと全然違うっす! 本当なら猫妖精ケットシーと犬妖精クーシーの猫VS犬の二大派閥戦争―――運営の悪戯と悪意のイベントだったはずっすよ!?」
「何でこうなった? 一定数のプレイヤーが王国に入ると猫か犬の陣営を決めて始まるPVPイベントのつもりが、悪政を強いるネコの王をぶっ倒す姿勢になってんの? その王からクーシーと戦争をするイベントが発生するのになんで?」
「プレイヤーが思いの他、猫好きが多いからじゃないでしょうかねぇ、白銀さんが配信動画で王国内の状況を流すもんだから、悪政をする王の存在を知ったプレイヤー達が・・・・・」
「だぁー! 本末転倒じゃないかよー!!? このままじゃあクーシーの方が戦争を仕掛けてくるぞ! ネコの王から宣戦布告を受けた状態になってんだから!」
「「それはそれで、猫好きのプレイヤーがケットシー王国を守るために身を張って戦うかと」」
「・・・・・その方向で行こう。もうそれでいかないとやってられん」
「で、次の猫の王様は誰にするっすか? 親も親なら子も子っすよ」
「あの黒豹にするか。マスクデーターじゃあ白銀さんに対して少なくとも評価しているし」
「でも、あの黒豹は敵側になるっすよ」
「・・・・・倒されないことを祈ろう」