フレイヤと【同化】して王城へひとっ飛びする間は問題なく近づくことができた。そんな俺を追うように【色彩化粧】で透明になりつつ【飛翔】で空飛ぶ仲間達も来ていて城の屋根の上に待機できた。配信動画を展開した状態で城の中に入れそうな場所を回って探すと、窓が空いている場所を見つけた。そこから侵入すると部屋の扉も開いていたので城の中に潜入できた。さて、王はどこにいるかなー? フラフラと探し回り、天井に張り付いて廊下を歩くメイドや兵士をやり過ごす。会話は一切拾えないが王に対してどんな思いを抱いているのか訊かせて欲しいもんだ。
「(・・・・・お?)」
料理を運ぶ台車を押す給仕を発見した。豪華な肉料理ですねー? あんなの食べるのは決まっているんだよなぁ。チャンスと感じ、給仕の後を追いかけるとかなり移動するな・・・・・料理もすっかり冷めてしまったろうに。と別の感想を抱いているとある扉の前に止まった。
「リリム様、お食事の時間です」
あれ・・・・・そういや猫の王様の名前って何だっけ? 掲示板にそのことを訊くと誰も分からない結果で返って来た。ええい、このまま当たって行くか! 俺も失礼しまーす! 扉を開く給仕の背中にぴったりくっついて部屋の中へ滑り込む。そして部屋の住人を肩越しで見たら・・・・・ヤベってなった。イヤだって、こんな偶然あると思うか? ―――ケットシー王国と外界を繋がっていた洞窟の中を一緒に進んだ金豹がここに居るなんて誰も思うはずがないだろ!!! ヤバい、ここは撤退するしかない―――!
「・・・・・悪いけど、今日は焼き魚の気分なんだよね。冷えていない温かい方の」
「仕方がありません。ここまで運ぶまでの間はどうしても冷めてしまうのです」
「冷めないよう配慮するのも給仕の仕事でしょ。もういいよ、下がって」
「は・・・・・」
そんな会話を聞きながら下がる給仕が扉に手を掛けて開け放つ瞬間。金豹が給仕と扉の間にいる俺を的確に―――すり抜けながら俺を銜えて元の定位置に戻り、足で俺を固定して座り直した。掲示板や動画内ではヤバい、逃げろ、助けに行こうかなどとコメントが。安心してくれ大丈夫だと返信しておく。
「なにか?」
「なんでもないよ」
「・・・・・」
給仕は表情を変えず、開けた扉を閉めて残された俺は・・・・・。金豹にニヤリと意地の悪い笑みを浮かべられた。
「さーて・・・無断で城に入って来た悪い小猫ちゃんをどうしようか。姿を消してもバレバレだよ」
「・・・・・」
そりゃあこっちもその上で潜入したんだから当然だろ。って気持ちを口に出さず透過を解除した。
「ふーん・・・お前、あの人間と一緒にいたネコだよね。確か、フレイヤって呼ばれていたっけ」
「・・・・・いや、今は死神・ハーデスだ。お前に焼き魚を渡した人間だ」
「・・・・・は?」
お、随分と間抜けな顔を浮かべるんだなこの金豹。スクショ撮りたいけど止めておくか。
「本気で言っているの? だとしたらどうやって猫と一つに?」
「俺がそういうことができる力があるんだ。で、お前の名前は?」
「・・・私はリリムだよ」
リリム、悪魔の名前なんだけど偶然だよな?
「ねぇ、お前は外の世界から来たんだよね?」
「そうだけど、表に給仕がいるんじゃないのか? 不審がるぞ」
扉の方へ目を向けるとリリスは鼻で笑った。
「しばらくは来ないよ。もう誰も私のことより今の王の方に従っちゃっているからね」
「悪政を強いる王に?」
「調べているんだ。そうだよ。私の父と母を殺した敵だ」
『えええええええええ!?』
『この子、前王の子供ー!?』
『マ、マジでか・・・・・・』
「仇は取りたいとは?」
「無理だよ。城の兵士も重鎮も私を除いて全員、あいつの下に着いたからね。何なら貴族の連中も似たようなもんだよ。見て見ぬふりをして知らない振りして自分の身を守るばかりの薄情な奴らだ」
「なるほど、別にいなくても問題ないという相手か」
「問題はなくはないんだよね。クーシーって知っている?」
「・・・・・犬妖精だったっけ?」
「おおー、博識だねハーデス! 猫妖精しか知らない種族なのに!」
『クーシー? 犬妖精って?』
『さぁ、初めて聞く名前だわ』
『白銀さん、知っているなら話ながら教えてくださーい』
「猫妖精みたいな犬妖精だよな。その種族となんかあったりするのか?」
「あのバカ王がさ、クーシーに宣戦布告をしやがったんだよ。戦争を仕掛けたのさ。だから膨大な軍資金が必要になったから前よりも税を増やして平民街からお金を巻き上げているんだよ。貴族街の連中にはしないのにさ」
「だからだったのか・・・・・」
『クーシーって犬妖精と戦争ー!?』
『え、そんな状況だったのこの国。いま現王を倒したり捕まえちゃったらヤバいんじゃない?』
『白銀さん、そのことについて聞いてくれないか!?』
「仮にだけど現王が倒れたり捕まったりしたらこの国はどうなる?」
「うん、一環の終わりだね。だって戦争は明日始まるんだから」
「うっそーん・・・・・」
『あ、明日ぁー!?』
『ちょっと、どっちにしろケットシー王国を守らないといけないじゃん!』
『うんえぇえええええええええええええええええええい!!!』
『おいおいおい、こんな展開になるのかよ!』
「だけど、そんなことを訊くなんて・・・もしかして忍び込んだのはバカ王に用事が?」
「まぁ・・・正直に言うとそうです。ここに居るのかと思ったらビックリする相手がいた上に流暢に言葉を喋るなんて二重の意味で驚きだ」
「ははは、こっちも驚いていたよ。空から猫が飛んで来るし、今まで見たことのない種族がたくさん現れるしさ。おまけに外界と開通するなんてさ。でも、これで私も自由に外界へ行けられるようになったよ。ありがとうハーデス」
「国から出るのか?」
「もう未練なんてないよ。思い出も何もかも奪われたし、あとは自由に生きるしか何もない」
そうか・・・・・こいつも猫だよな。
「リリム、俺は、俺達は現王からこの国を助けたいと思っているんだけど、案内してくれるか?」
「え、あのバカ王と戦うの? 無意味だよ、ハーデスにとって何の得にもならないクズだよ?」
「損得関係なく、この国を救いたいって一心で動いている奴がたくさん集まっているんだよこの国に。リリムがそれでも自分には関係ないと言い張るんなら構わない。全て俺達が勝手にやろうとしているだけなんだ。寧ろいろいろと教えてくれてありがとうだ」
え? と呆けるリリムに―――俺は全員に告げることにした。
「お前の情報で俺達は城攻めがしやすくなった。―――レジスタンス、行動開始だ。城から誰一人出すんじゃないぞ!」
『うおおおおおおおおおおおおお! 待っていたぜその言葉ぉおおおおおおおお!』
『城攻め開始だァー! イヤッハァー!!!』
『突撃ィー!』
『どけどけどけぇえええええええええ! クズネコ王はどこにいるー!!!』
『絶対に許さないんだからぁー!!!』
『覚悟しろー! 悪政ネコめー!』
窓ガラスが割れる音、爆発音と激しい衝撃音。悲鳴と叫びが一斉に聞こえる。リリムは何が起きたのか目を限界まで見開いて丸くしたまま俺に食って掛かった。
「お前! 仲間を!?」
「誰も一人で城に来たとは言っていないんだが? さーて、俺達も暴れますかねー! 解除!」
『久々に暴れ回るニャー!』
分離したフレイヤが部屋から飛び出して敵を探しに向かった。さらにすべての従魔―――恐竜のスカー君も含めて城の中を暴れ回ってもらう!
「!?!?!?」
「さて、俺達も行くぞリリム!」
「え、えええ、えええええええええ!?」
絶叫するリリムをお姫様抱っこしてオルト達と城の中を走り回り、兵士を見つけるや否や攻撃! スカーの餌食にもなったが愚王の下についたNPCなど不要であーる!
「ガウー!」
「おーサラ、いい暴れっぷりだ! もっと暴れろー! 味方以外は攻撃しちゃダメだぞー!」
「ガァアアアアアアアアア!」
ハハハ! 見ろ、奴らがゴミのように吹っ飛んで行くぞ! 魔王見ているか、皆と城攻めをしているぜー!
『白銀さん! こちらアルファ隊! なんか適当にぶっ壊していたら隠し金庫みたいなのがあった!』
「それは確保だ! 搾り取られたNPCに返すための財産だからな!」
『白銀さん! 玉座の間っぽいところに着いた! 王冠を被った髭を生やしたふてぶてしいネコがいるよ!』
「逃がすなよ! 多分その空間には隠し通路があるはずだ! 全員に場所を教えろ!」
『了解!』
俺も行きたいけど、今どの辺りかわかんねー!
「リリム、バカ王はどこにいるか案内しろ!」
「・・・・・」
「オイコラ!」
「ハッ!? お、下ろせ!」
ハイ下ろした。何故か真っ赤になってるけど獣のくせに照れているのか?
「で、早く案内してくれる?」
「く、こっちが混乱している時に好き勝手してくれる・・・・・!」
愚痴を言いながらもこっちだと案内してくれるリリムはツンデレかな? 金豹について行けば他のメンバーとも途中で合流して、ようやく長い廊下を走った末に王座の間に着いた。スカーが狭い出入り口を突き破って現れる迫力に王座に深く座っていたネコや傍にいた獣人達まで腰を抜かして動けなくなった。
「うわ、今の登場のシーンかっこいい!」
「俺も恐竜を召喚したかったー!」
「はいはい、今はそれよりも目の前の奴らに集中しないと!」
「魔王様、あれが悪政を強いた諸悪の根源だ!」
うーん、ああいう種類の猫はいることを知っている。運営も悪役にするネコのセンスあるな。
「パ、パパー!!?」
「な、なんニャ貴様等は!? わ、わしを誰じゃと思っておるニャ! この国の王であるニャぞ!」
「前王から簒奪した元大臣なんでしょ。情報は収集済みだ」
「知らん! わしは正当性で王の座に座ったのニャ!」
「ほう、前王の子供にして後継者がいるにも拘わらず、にか?」
リリムを正面に歩かせる。愚王達はリリスを見て心底驚き、怒りで顔を歪めた。
「き、貴様ぁ・・・・・! わしから王座を取り戻すつもりでこの者共を!」
「いや、全然そんなの微塵も興味ないよ。寧ろ私もこんな状況に混乱しているんだ」
「な、何を言っておる! お前の味方にならなければここまで城が滅茶苦茶にならんニャ!?」
「いやー、元後継者もこの国に未練がないと仰るんでねー? じゃあ、この城を滅茶苦茶にしても俺達に正当性ありと思いっきり暴れさせてもらったぜ! お前からこの国を助ける大義名分もあるし!」
その通り! と同意する声が上がり、何度も頷く仲間達。
「にしても、それだけで終わるはずなのに犬妖精と戦争をするなんて、どうしてそんなバカなことをやらかすんだよ愚猫王」
「ぐ、愚猫王だと!?」
「ああ、そうさ・・・・・フェル」
俺がしてもらいたいことを幻獣フェンリルはしてくれる。何時までも王座から離れない愚猫王を俺達の方に蹴り飛ばしてもらった。その拍子に王冠が転がって来てそれを手に取った。
「で、なんで戦争をするんだ。貴族街の連中は知ってるのか?」
「誰が下賤な人間に―――」
「いや、俺は悪魔なんだけど」
「・・・・・は?」
そして・・・・・三対六枚の黒い翼を生やし、わざわざ手間がかかる性転換をしないで女堕天使になれるスキルを発動した。
「我は王、堕天の王にして人間界の魔王である! 愚かな猫よ!」
「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!?」」」」」」
「お姉ちゃああああああん!!」
うーん、この決め台詞を言うとみんなが喜ぶのは微妙なんだよな。やっておいて何言ってんだって言われるけど。愚猫王の首を掴み上げ、さらに問い詰める。
「もう一度聞くわよ。どうして戦争を起こしたのかを」
「ひっ・・・・・しょ、しょれは・・・・・もうこの国から搾り取れる物がなくなりつつあるから、バカな犬どもに国を滅ぼさせて新天地へ向かうためニャ、ニャんです・・・・・」
「新天地?」
「こ、ここの大陸と違い・・・そこは桃源郷の大陸だって商船の商人から地図をもらってそれで・・・・」
新大陸の地図か。なるほど、それなら納得ができるな。
「貴族街の者達は? おまえの愚考を知っているのか?」
「し、知らない・・・・・奴らは貴族と言う肩書だけの無能どもニャ・・・・・戦う力も生きる力もニャければ平民街からの支援が途絶えたら勝手に死ぬような・・・・・! もう、奴らからの金すら巻き上げて・・・・・!」
「どうやってだ?」
「と、共に桃源郷へ行くための船の建造費用が必要と言って、港町から離れた倉庫にわしの船に全ての財産を積んで・・・・・!」
それ以上はもういいやと床に降ろした。
「こいつの話を聞いて気が変わった。明日の戦争にクーシーへ引き渡すわ」
「ニャ!?」
「渡しても引き返さないと思うぜ?」
「ふふっ、構わないわ・・・・・魔王の神髄を犬の本能に叩き込んであげるまでよ」
大胆不敵に笑む。ちょっと男女共々、なんで俺を見て顔を赤くするんでしょうかねー?
「お姉ちゃん、笑ったお顔が素敵です!」
「ありがとう、イカル」
「「「「「グハァッ!?」」」」」
「ヤバい、もう魔王様の笑顔で私の心がノックダウン!」
「ギ、ギルドの移籍ってできたかしら・・・・・」
「俺、明日の戦争が終わったらファーマーになるんだぁぁぁぁぁ・・・・・・」
「そ、そうだよ・・・明日が戦争のイベントが始まるなら、もっとプレイヤーを呼び込まないと! 白銀―――魔王様! あの世界の神社を設置をお願いします! 戦力で負けてしまいます!」
尤もな意見だな。でもなぁー。
「今も配信動画を続けているから他のみんなもこっちに来るわよ。というか、現在進行中で」
『そういうこと。だから心配するな! 俺達の力、必要だろう?』
『出遅れたぁー! 俺も城攻めしたかったのにぃー!』
『いいなぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・』
『なぁ、何か称号とか手に入ったー?』
「今のところ何も入っていないわ。何か足りないのかしら。分かる人ー」
一同に訊くと皆は顔合わせてして話し合いだした。
「勝利宣言? もしくは愚猫王の首を切るとか」
「後者は別にしなくてもいんじゃね・・・・・?」
「でも、王がいる城を攻め落としたらゲームでも命を奪ってるよ?」
「あ、城を攻めたって印象がないんじゃないか? 白昼堂々と城だけ攻め落としたから誰もまだ気づいていない」
「なるほど! 城を落とされた印象を与えればいいのか貴族の奴らに!」
「外にいる仲間達も逃げた獣人は誰一人いないって! 多分それだよ!」
意見を交わした結果。俺達が最後にするべきことが決まりすぐ行動に出た。向かうは貴族街―――。