バカとMMORPGと召喚獣!   作:ダーク・シリウス

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イベント開始~神聖樹と中ボス悪魔戦

オリーブトレントを、無事?かどうかはともかく、一応テイムした俺たちは、そのまま森の中を獣道に沿って進んでいった。その後も、数度の戦闘を経て、森が開けた場所に出る。俺たちは思わず感嘆の声を漏らしていた。

 

「へぇ、綺麗な場所だな」

 

「ムムー」

 

「キュー」

 

「クマー」

 

「――♪」

 

「メェー」

 

そこは一面の花畑となっており、中央に一本の立派な樹が立っている。水臨大樹を見慣れている俺たちからしても、中々の巨木に思えた。リアルではこれほど立派な樹にはお目にかかれないだろう。俺の地元にある、観光名所にもなっている大欅でさえ、これの半分くらいの大きさだったはずだ。これが神聖樹ってやつだろうか?ただ、巨木には見るからに異変が起きていた。

 

「この木、枯れ始めてるのかしら?」

 

「表面がヒビ割れてるな」

 

「しかも、根の周辺もパサパサだ」

 

マルカたちが言う通り、巨木の表面は乾燥し、所々ヒビ割れしてしまっている。さらに、枝葉にも所々剥げた部分があった。

 

周辺の木々や草花が真夏の盛りの様に青々と茂っているのに対し、この巨木だけが初冬の様な寒々しさを纏っている。

 

試しに鑑定して見ると、『神聖樹・弱体化』と表示されていた。

 

「弱体化か・・・・・。このせいで守護獣がおかしくなったのか?」

 

樹を観察しながら木の周りを歩いていたら、裏側にそれなりの大きさの洞を発見した。子供だったら中に入れるかな? そんなことを考えて中をのぞき込んだら、なんと本当に子供がいるではないか。

 

「子供? もしかしてリッケか?」

 

「え? に、兄ちゃん!」

 

「リッケ、良かった。無事だったんだな」

 

やはり、リッケは洞窟に来ていたらしい。中をよく見ると、リッケと共に行方不明になっていたもう2人の子供たちも一緒だった。

 

「怪我はないか?」

 

「うん。兄ちゃんたちはどうやってここまで来たんだ?」

 

「どうやってって、洞窟を通ってだけど?」

 

「ええ? 守護獣様に襲われなかったのか?」

 

「襲われたぞ。お前らも襲われたのか?」

 

「うん」

 

「最初はどこかに出かけてたみたいで守護獣様はいなかったの」

 

「それで、神聖樹の前まで来たら、戻ってきた守護獣様がすっごく怖い顔で走って来たから」

 

「慌てて木の穴に逃げ込んだんだ」

 

そう言う事か。ここまでは運良く。いや、悪くかな? ガーディアン・ベアの外出に合わせて辿り着けたけど、帰ってきた熊と鉢合わせしてしまったんだろう。理由は分からないが、ガーディアン・ベアは狂暴化していても神聖樹を攻撃するようなことはしないようなので、何とか生き延びることが出来たんだとか。

 

「それよりも、何でこんな場所に来たんだ? 冒険者ギルドとかにも内緒で」

 

「それは――」

 

自分たちがやったことが、周囲に心配をかける悪い事だとは分かっているんだろう。リッケが俯きながらポツポツと話し出す。

 

「守護獣様がおかしくなったって聞いて」

 

「本当かどうか確かめにきたの」

 

「守護獣様は、とても優しくて、僕たちといつも遊んでくれるんです」

 

「でも、人を襲う様になっちゃったら、退治されちゃうかもしれないと思って」

 

それでガーディアン・ベアの様子を確かめに来たらしい。普段は心優しい守護獣が人を襲うなんて信じられなかったし、まさか自分たちまで襲われるとは思ってもみなかったようだ。

 

危機感が無さすぎるとは思うが、普段のガーディアン・ベアがそれほど穏やかで、愛されているってことなんだろう。

 

「白銀さん、どうしたのー?」

 

戻ってこない俺を心配したのか、マルカがやって来た。

 

「ああ、子供たちを見つけたぞ」

 

「あら?可愛い!お名前は?」

 

マルカが満面の笑顔で子供たちに尋ねる。しっかりと腰をかがめて目線を合わせるあたり、慣れている様だ。マルカの態度に安心したのか、子供たちは素直に名前を名乗る。

 

「おいらはリッケ」

 

「わたしはルッカ」

 

「僕はラックです」

 

運営の手抜きと言うべきか、いい具合に揃ってると言うべきか。

 

「ガーディアン・ベアがおかしくなった理由は分からないか?」

 

「おいらも詳しく分からないけど、やっぱり神聖樹が枯れかけてるせいだと思う。こんな酷い神聖樹の姿、おいら初めて見たよ」

 

「じゃあ、いつもはこんな姿じゃないってことだな?」

 

「うん! もっと葉っぱも多くて、もっと元気なんだ!」

 

「それに、この森にモンスターが出るのも変!」

 

「いつもは守護獣様のおかげで、洞窟と神聖樹の周りにはモンスターが居ないんです」

 

神聖樹の弱体化が引き金なのか? それとも、他の異変のせいで神聖樹が弱ってるのか?

 

「ねえ? ともかく、この神聖樹をどうにかした方が良いのよね? 何とかできないかしら?」

 

「まあそうだろうな・・・・・。でも原因が分からないと、どうしようもなくないか?」

 

「そうよね・・・・・」

 

木が枯れるイベントは、ファンタジーゲームじゃよくあるイベントだ。ただ、原因は多種多様で、予想もできない。病気、呪い、毒、寄生虫や寄生植物。宿っている精霊に異変が起きていたり、水源や土壌に異常がある場合もある。

 

「リッケたちは神聖樹が弱体化してる原因を知らないか?」

 

「うーん、分からないな~」

 

「私も」

 

「僕もです」

 

となると、ちょっと樹を調べてみるしかないか。あと、効果があるか分からないけど、対処療法的なことも試してみようかね。

 

「オルト、ゆぐゆぐ、この木に肥料をやってくれ。あと、水もな」

 

「ム!」

 

「――♪」

 

勿体ない気もするけど、俺は高級肥料をオルト達に渡しておいた。本当は自分の畑に使いたいけど、ここは奮発しておこう。地底湖で採取できた水もな。

 

「俺たちは神聖樹の調査だな。メリープもクママも頼んだぞ」

 

「メェー」

 

「クマ!」

 

ミーニィは神聖樹の上を飛んでいく。上の方は俺たちには無理なので、ミーニィに任せた。クママは鼻をクンクンさせる様なしぐさをしながら、樹の周囲を回り始める。

 

「じゃあ、私たちのパーティはお花畑の方を調べるから」

 

「分かった。こっちは俺たちに任せてくれ」

 

ガーディアン・ベアが戻って来る前に、何か発見できると良いんだけどな。

 

「さて、まずはリッケたちが隠れてた洞から確認するか」

 

入れるかな? 俺は洞の中を調べようと中を覗いてみる。やっぱり暗いな。ライトで中を照らして見てみると、入り口の大きさに比べて中は結構広そうだ。大人でも数人は入れる広さがあるだろう。

 

「やっぱ中に入ってみないとダメか・・・・・。ただ、入れるか?」

 

洞の入り口は子供がようやく入れるくらいの広さしかない。頭から入ろうとしてみたが、どうしても肩が引っかかるな。今度は両手から突っ込んで見ると、何とか中に入ることが出来た。

 

「んー、身体の大きいプレイヤーじゃ絶対入れないだろ」

 

「じゃあ、私が調べてみよっか?」

 

ペイン達から離れこっちに来たフレデリカが屈んだ姿勢で提案してきた。

 

「いいのか?じゃ、頼む」

 

「お任せ―」

 

小柄な体型なので潜れ、ライトで照らしながら洞の中を調べてみるフレデリカ。ただ、これと言って不審な物は見つけられないらしい。さすがにリッケたちが何も気づけなかったし、何もないかね?

 

俺も洞の入り口からライトを照らして目で足元、壁面と順に目視みながら異常が無いかを調べていくが、単なる木の壁があるだけだ。だが、ふと天井を見上げてみると、何やら黒い物が目に入った。

 

「なんだ?棘?角?」

 

「え?どこ?」

 

「上だ」

 

それは全身黒塗りの、包丁くらいの大きさの棘であった。この色では闇に同化してしまい、灯りが無ければ気づかないだろう。そんな太い棘のような物が洞の内側、つまり神聖樹の幹に突き刺さっていた。

 

「あー、これ?」

 

「この色といい、絶対に怪しいよな」

 

「そうだね。この棘から黒い靄が出てるから間違いないよ」

 

光を照らして観察してみると、その棘からは黒い靄が立ち昇っているのが分かる。ガーディアン・ベアや黒ラビットなど、狂暴化したモンスターたちと同じだ。

鑑定してみるが、不明としか表示されない。それが余計に不安を駆り立てる。

 

「触っても平気かな?」

 

「プレイヤーに害あるのだとしたらデバフぐらいだと思う」

 

どう考えてもこの棘のせいで神聖樹が弱体化してるだろうからな。

 

「ちょっと抜いてくれないか?」

 

「わかったー」

 

フレデリカは棘に手をかけて、力を込めてみた。だが、ビクともしない。何度か試してみたんだが、動く気配が無かった。

 

「腕力が足りないのか? それともイベント的に抜くことが出来ないのか・・・・・?」

 

他の人にも試してもらうか。俺はモンス達とマルカたちに声をかけた。そして、集まって来た皆に棘の事を教える。やはり、マルカたちもこれが怪しいと感じたらしい。

 

「この中で入れそうなのは・・・・・。私とフレデリカさんだけ?」

 

「そうだな」

 

「白銀さんの腕力はいくつ?」

 

「防御力極振りにしている俺に訊くのか?」

 

「にしてはAGIが高い感じの歩行速度をしていましたよね?」

 

「それは装飾アイテムで補っているからだ。・・・・・んー、フレデリカ。これを貸すからもう一度してくれないか?」

 

ヘパーイストスの古の鍛冶師の指輪を外してフレデリカに送る。受け取ったフレデリカの目は指輪の性能を見て凍結してしまったかのように固まった。

 

「え・・・何このステータス。反則過ぎるでしょ」

 

「どうしたフレデリカ?」

 

「これ、ドラグが欲しがるよ。【STR】120【AGI】120【DEX】120だもん」

 

「ええ?冗談でしょ?」

 

「本当だよ!ほら!」

 

黒い棘そっちのけで指輪のステータスを見せびらかすフレデリカに確認したペイン達も言葉を失った。

 

「おいおい・・・・・マジで?」

 

「これ一つだけあればトッププレイヤーの仲間入りになるじゃないの!」

 

「レア度と品質がどっちも10。どうやって手に入れたんだ?」

 

唖然とする眼前のプレイヤー達に手を叩いて意識を変えさせる。

 

「はいはい、今は目の前の問題に意識してくれ。フレデリカ、指輪を付けて棘を抜いてくれるか」

 

「【STR】が高い魔法使いなんてこの瞬間私だけになるね。ちょっと新鮮だよ」

 

再度棘の抜き取りに挑戦する彼女が洞の中に入り棘を握って引っ張った直後、スポンという音とともに棘が抜た。

 

「抜けたー!凄い【STR】120は伊逹じゃなかったよー!」

 

「なぁ、ハーデス。物は相談だがあの指輪を譲ってくれないか?」

 

「無理、あれは一時的な鍛冶師のNPCからの借り物なんだよ。いつか返さなきゃならないから譲れない」

 

「そうか・・・・・残念だ」

 

「第2エリアの町すら行っていないだけあって、始まりの町で色々としているんだなお前って」

 

俺は洞から出て来たフレデリカの差し出した棘を受け取りつつ、その頭を撫でてやる。

 

「何で人の頭を撫でるのさー」

 

「ああ、悪い。丁度そこに頭があったから。うちのオルト達によく撫でていたもんでな」

 

「ようはフレデリカは子供みてぇに小せぇから撫でたってことか?」

 

「なっ、私は子供じゃなーい!ドラグ、そう言うこと言うなら今後は援護してやらないからね!」

 

待て、それは困る!と慌てだすドラグにそっぽ向くフレデリカ。

 

「さて・・・・やっぱ鑑定は効かないか」

 

花畑を調べているマルカの仲間たちに棘を見せようとしたんだが……。

 

「な、なあ、白銀さん。それ変じゃないか?」

 

「ん?」

 

「黒い煙が出てるし!」

 

言われて棘に目を向けたら、確かに棘を包む黒い靄がモコモコと勢いを増していた。

 

「っ!」

 

慌てて手を離す。だが、地面に落ちても棘からの黒い靄の噴出は止まらない。むしろ激しさを増している様子だった。

 

「うわっ! 何あれ!」

 

フレデリカとドラグも驚いているが、俺たちに答えようもない。

 

そのまま見守っていると、次第に靄が凝り固まっていく。そして、急速にまとまりを持ち始めた靄が一気に何かの姿を形作った。これってもしかして、不味い事態なんじゃないか?

数秒後、棘があった場所には、全身真っ黒な人型の何かが立っていた。

 

「人間どもよ、よくも我らの邪魔をしてくれたな!」

 

「えーと、どちら様?」

 

「我は大悪魔グラシャラボラス様に使える使徒!我の邪魔をした貴様らは、グラシャラボラス様への贄としてくれる!」

 

その姿は羊の角の生えた筋肉質の大男で、全身の肌がコールタールの様に真っ黒だ。翼はないが、いわゆるテンプレ的な悪魔と言った感じの外見だった。

 

「リッケ、友達を連れて神聖樹の洞の中に入れ」

 

「う、うん!分かった」

 

NPCが死んだら消滅しちゃう可能性が高いからな。守れる距離にいてもらった方が安心だろう。

 

「ミーニィ【巨大化】だ。サイナも援護してやってくれ」

 

「キュイ!」

 

「かしこまりました」

 

俺とオルト達は後退して悪魔を鑑定して見ると、名前はグラシャラボラスの使徒となっている。頭の上に赤マーカーとライフゲージが出現し、戦闘が始まってしまった。もう交渉も逃走も出来そうにないな。

マルカたちのパーティのバランスは悪くない。回復役が風魔術師のマルカ、索敵役がシーフの男しかいないが、前衛に盾士、剣士、槍士、が揃っており、単純な戦闘力は高めだ。

 

グラシャラボラスの使徒の攻撃を盾士が防ぎ、その隙に他のメンバーが攻撃を加えて行く。

悪魔は拳での物理攻撃がメインな様だな。時おり状態異常を引き起こす術を使う様だが、マルカの魔術ですぐに癒されていた。

攻撃力はかなり高いが、マルカ達のパーティなら対応できている。

 

ペイン達も負けてはいない。フレデリカのバフ魔法で戦闘力を高まったドラグが被弾しても崩れず戦闘を維持し、ドレッドが俊敏な動きで二振りの短剣で悪魔の攻撃をかわしながらダメージを与え、ペインは片手装備の盾と剣で攻撃を防ぎ確実に攻撃を当てていく。

 

 

俺は特に何もすることなくはないが、ミーニィとサイナの指揮をしていた。

 

 

戦闘は思いのほか順調だった。見た感じ悪魔の攻撃パターンは単調で、物理攻撃と状態異常を繰り返すだけだ。ボスなだけあってHPは多いが、これなら何事もなく勝ててしまうかもしれない――なんて思ってたんだが。

 

HPが半減した悪魔が、突然笑い始めた。

 

「下等な人間どもにしてはやるではないか! 少々本気を出す必要があるな!」

 

例の奴か。追い込まれたボスが変身しちゃう系のイベントだ。悪魔の筋肉がメキメキと音を立てて、さらに膨れ上がっていく。変身中に攻撃を仕掛けるが、弾かれてしまった。変身中は無敵ってことか。

 

「ぐははは! 無粋な輩め!」

 

悪魔に言われたくねぇー。

 

その間にもグラシャラボラスの使徒は不気味な変化を続けていた。およそ10秒後、その姿は先程までとは全く違う物へと変わっている。

 

「アオーン! 貴様ら全員食い殺してやる!」

 

変身後のグラシャラボラスの使徒はそれくらい気持ち悪い姿だった。その姿は全身毛むくじゃらの、猫背で二足歩行の巨大な犬だ。それだけ聞くと可愛くも思えるだろう。だが、実際はそんな生易しい姿じゃなかった。

 

犬は犬でも、数年くらい体を洗っていないせいで体毛が固まって縮れた雑種犬だ。それも微妙に毛が長めの奴である。目は水木先生の描く妖怪の様にギョロリとしており、ベロンと垂れ下がった赤茶けた舌が妙に不快感を煽る。

 

パッと見、先程までの方が断然強そうだな。だが、それは気のせいだった。

 

「アオーン!」

 

「くっ! 攻撃力が上がりやがったぞ!」

 

「くそっ!」

 

お約束の2回攻撃だ。しかも、攻撃力も上がっているらしい。盾士のHPが盾の上からでも大きく削られるのが見えた。

 

状態異常攻撃の頻度も上昇し、回復役のマルカのMPが凄まじい速度で減り始めたな。

 

極め付けが、厄介な範囲攻撃である。

 

「アオオオォ!」

 

悪魔が一際大きな咆哮を上げると、黒い光が悪魔を中心にドーム状に広がった。そして、次の瞬間には凄まじい衝撃が俺たちを襲う。後方に居た俺達まで巻き込まれるほどの広範囲攻撃だった。

 

このレベルのボスにしては威力は大したことないんだが、全員がダメージを喰らうと言うのはそれなりに厄介だ。回復が追い付かないしな。

 

「―――ハーデス、君も戦闘に参加してくれるか」

 

ペインからの要求に薄く笑みを浮かべた。

 

「わかった。その前にフレデリカ。指輪を返してくれ」

 

「え?あ、うん」

 

彼女の元へ寄り指輪を返してもらって狼を模した牙の笛をインベントリから取り出した。俺はこれを使う機会として思いっきり吹いた。笛から鳴る表現しがたい音はペイン達や悪魔の意識を集めるが、そんな視線を気にすることもなく視界に映る発現した銀色の魔方陣から、一匹の銀色の毛並みと赤い脚の狼の登場に注視していた。牛ほどの大きな体格の銀色の狼―――。

 

「は、白銀さんが狼を召喚した!?」

 

「銀色の狼・・・・・」

 

「綺麗・・・・・」

 

「白銀さんの従魔か?」

 

何も知らないプレイヤー達は俺の従魔だと勘違いしているが、この狼の正体を悪魔は動揺してる声音で叫んだ。

 

「フェンリルだとっ!?」

 

「「「フェンリルゥッ!?」」」

 

そう、フェンリルさんである。そのフェンリルは俺に目をジッと向けてくる。

 

「久しぶり、来てもらってありがたいところだが、あそこにいる悪魔を一緒に倒さないか?」

 

悪魔に指さす。するとフェンリルは悪魔の方へ振り向くや否や、物凄い速さで駆け出した。一気に肉薄しかかるフェンリルの姿にビビっている悪魔は攻撃を繰り出すが、あっさりと躱されては銀狼の鋭利な爪で首を斬り飛ばされた。

 

「ば、ばか―――!」

 

グシャアッ!と擬音が聞こえそうな犬の頭をいい踏みっぷりで潰して悪魔の命を狩り取ったフェンリル。王者の風格を見せつけられたジークフリート達は感嘆の念を抱く。

 

「つ、強すぎるだろ・・・・・!」

 

「あれがフェンリルの強さ・・・・・」

 

「やばい、格好良すぎる!」

 

心なしかジズより弱い相手だったからか、フェンリルがつまらなさそうだった。

 

故にそんなフェンリルのおかげであっさり勝利してしまいました。まあ、中ボス扱いだし、こんなものか?神聖樹も回復したがこの次はグラシャラボラスと戦闘か?いや、まさかな。

 

「どうしたの白銀さん?」

 

「うん?いや、何でもない。ドロップは何かなーと思ってさ」

 

「それがさー、ドロップなしみたいなの!イベントポイントはたくさん貰えたけど」

 

「やっぱ、凶暴化モンスターと同じくくりってことか」

 

「そうみたい。ねえ、どうする?」

 

「うーん、とりあえずリッケたちを連れて移動するか」

 

「それがいいかなー」

 

俺はマルカと相談して、一旦逃げ出すことにした。まだガーディアン・ベアがどうなったかもわからないしな。せっかくボスに勝ったのに、ガーディアン・ベアに鉢合わせて全滅とか笑えないのだ。

 

「ところでさ、あのフェンリルは白銀さんの従魔?」

 

「いや、フリーだぞ」

 

「フリー?え、待って。てことは、野良のモンスターってこと?」

 

「モンスターなのは当たり前だけど、何て言えばいいか・・・・・ジズと敵対しているモンスターの一種なんだ」

 

「いや、そういう情報よりもテイムしていないモンスターが私達に襲ってこないのかって心配なんだけれど」

 

あー、そういうことか。それなら問題ない。

 

「フェンリル。倒し甲斐がない相手だっただろうけど、近い内にさっきの奴より強い相手が現れるから期待してくれるか?」

 

「グルル・・・・・」

 

「それで、お前はこれからどうする?このまま俺と一緒にいるか?それとも他のフェンリルの仲間たちの元へ戻るか?俺と居るなら右足、仲間の所に戻るなら左足を上げてくれ」

 

話しかけ、問うとフェンリルは考える仕草をした後にスッと右足を上げたのだった。

 

「な?」

 

「えええ・・・・・」

 

「いやいや、これはテイマーの業界で騒ぎになるなこれ。テイムしていなくても信用を得れれば仲間になってくれるNPC扱いのモンスターもいるなんて」

 

「因みにフェンリルは幻獣種というカテゴリーだそうだ。情報はうちのサイナ」

 

「幻獣種かよ」

 

「テイムできないかな・・・・・」

 

 

 

悪魔を倒した後。リッケたちを連れて神聖樹の森から洞窟に向かおうとしていた俺たちだったが、ちょっと遅かった様だ。

 

「おい、あの化け物熊だ!」

 

「げ、まじか!」

 

「間に合わなかったか」

 

「やべ!」

 

洞窟の出口から、ガーディアン・ベアがのしのしと歩いてくるのが見えた。静かに見つめ合う俺たちとガーディアン・ベア。誰かがつばを飲み込む音が、妙に大きく聞こえた。漂う緊張感が場を支配する。黒い靄は消えたようだが、どうなんだ?

 

「・・・・・ガウ」

 

「え? えっと、どういう事?」

 

ガーディアン・ベアが急にその場で伏せて丸くなってしまった。そんな熊に、リッケたちが駆け寄っていく。いきなりだったから止める暇が無かったぜ。

 

「守護獣様!」

 

「ガウ!」

 

「元に戻ったんだね!」

 

「ガウガウ」

 

「よかったー!」

 

次々に自分の体に飛びついてくるリッケたちに、ガーディアン・ベアは優しい視線を向けている。どうやら、リッケたちが語っていた穏やかな性格に戻ったらしい。

 

「クマクマ?」

 

同じ熊として興味があったんだろうか。クママがポテポテとガーディアン・ベアに近づいて行った。そして、数秒見つめ合ったかと思うと、何やら「ガウガウ」「クマクマ」とやり取りをし始めた。

 

通じ合っているんだろうか? いや、通じ合っているんだろう。すぐにクママがガーディアン・ベアの背によじ登り始めた。どうやら遊び始めたようだ。

 

それを見たオルトもその巨体に駆け寄り、纏わりつき出した。ガーディアン・ベアがオルトに手を伸ばしたので一瞬心配としたが、オルトが自分の背に昇るのを手伝ってくれたらしい。

 

「ムムー!」

 

「クマクマー」

 

うちの子たちがガーディアン・ベアの背中を滑り台代わりにして滑り出した。さすがにやり過ぎじゃない? だが、ガーディアン・ベアは穏やかな表情のままだ。出来たクマで良かった。なお、メリープは俺の足元にいる。オルトとクママのように遊べれないからか、それとも怖いからかなのかは定かではない。ミーニィは安定の定位置として俺の頭の上に元の小ささで乗っている。

 

「戦闘にはならなさそうだな」

 

「助かった~」

 

マルカたちも安堵の声を漏らしている。戦闘になったら絶望だからな。

 

―――ガーディアン・ベアの方が。

 

しばらくして、ようやくリッケたちから解放されたガーディアン・ベアが、のそのそと歩き出す。神聖樹の方へ行くのかと見て居たら、少し行ったところで立ち止まり、こちらを振り返った。

 

「ガウ」

 

何だ? 熊はその場でじっとこちらを見ている。すると、リッケやクママたちがガーディアン・ベアの後に着いて駆け出した。さらに、ガーディアン・ベアがまるで着いて来いとでも言うかのように、手招きをした。

 

「なあ、あれって来いって言ってるよな?」

 

「そうだと思う。あのフェンリルまで行っちゃってるし」

 

まあうちの子たちが懐いているし、着いていってみるか。俺はマルカたちと共にガーディアン・ベアの後を追った。やはり神聖樹のところまで戻ってきたな。そのまま熊が神聖樹に近づき、自らの額をそっと神聖樹の幹にあてた。その瞬間、神聖樹が光り輝く。

 

「おおー」

 

「綺麗」

 

「だなー」

 

巨樹が青白い光を纏う幻想的な光景だ。俺たちは思わず見入ってしまった。ゲームの中じゃなきゃ見れない光景だよな。そのまま感動していたら、その光がまるで蛍の様に細かい光の玉となって、俺たちに向かって飛んできた。まあ危険なものには見えなかったが、ちょっと驚いてしまったぞ。

 

《プレイヤーによって、異変が1つ解決されました》

 

『死神ハーデスさんに、称号『神聖樹の加護(イベント限定)』が授与されます』

 

 

称号:神聖樹の加護(イベント限定)

 

効果:賞金4000G獲得。ボーナスポイント6点獲得。大悪魔グラシャラボラス及びその眷属に対して与ダメージ上昇。被ダメージ減少

 

 

へえ、称号が貰えたな。イベント限定って言うのは、イベントが終了したらなくなっちゃうってことか? それだと微妙だな。効果も、戦闘に直接参加する可能性が低いからあまり良くないし。まあ、ボーナスポイントが多めだからそこは嬉しいけど。

 

「きゃぁぁ! 称号よ!」

 

「おおおおお! まじか!」

 

「すす、すげえ!」

 

ん?そんな喜ぶ?

 

「白銀さん! なんでそんなに冷静なの?」

 

「称号だぞ?」

 

「いや、白銀さんは称号をたくさん持ってるって噂だ」

 

「なるほど、慣れてるのか!」

 

「さすが白銀さんだぜ」

 

なんか勝手に感心されてしまった。初めて称号を貰った人にとっては嬉しい物なのかもな。俺は初称号からして微妙だったから、素直に喜べなかったけど。

 

「ガウガ」

 

ガーディアン・ベアがまるで土下座するかのように、頭を下げた。いや、本当に感謝してくれているのかもしれない。

 

「ガウー」

 

「お、なんだ?」

 

頭を上げたガーディアンベアが、遠吠えの様にか細く鳴いた。すると勝手にステータスウィンドウが開いたかと思うと、そこに文字が表示される。

 

『次の中から、報酬を選択してください。守護獣の剣、守護獣の槍、守護獣の――』

 

守護獣シリーズの武具がズラーっと並んでいる。ただ・・・・・俺は別にいらないと思ってしまう。だって大盾使いだしテイマーだし。基本攻撃するのはオルト達従魔なのだ。マルカたちにも聞いてみたら、性能は微妙だが、効果のおかげで悪魔戦では役に立つという回答だった。

 

うーん、どうしよう。俺でも使えるものは無いかね。防具などもあるが、如何せん、ユニーク装備の方が強すぎるから微妙な性能ばかりなんだよな。これは適当な武器を貰って、使える人に渡すのが良いか?

 

そう思いながら画面をスクロールしていくと、一番下に守護獣のインゴット×2という項目が目に入って来た。

 

インゴットか・・・・・。これで作ったら、他の武器と同じ効果を持った武器が作れるのか?イズもいるんだしこれを武器や防具に加工できたら、ボス戦で役立つよな?

 

どうせイベントが進めば大悪魔グラシャラボラスとやらと戦わなきゃいけなくなるだろうし、その時に役立つだろう。ジークフリート達に武器を渡せれば、かなりの戦力向上になるんじゃないか?

 

「なあマルカ、村に鍛冶屋ってあったっけ?」

 

「どうして?」

 

「いや、一番下にあるインゴットを武器にできたら、普通に武器を貰うよりも数を揃えられるんじゃないか?」

 

「インゴット? えーっと・・・あった、これね。へえ、いいじゃない! 皆でこのインゴットを選べば、私たち以外にも守護獣装備を行きわたらせることが出来るかも」

 

「だよな?ただ、鍛冶師が居ないと無理な作戦だからさ」

 

「あー、そう言う事ね。でも、大丈夫よ。このサーバーには有名な鍛冶師が居るから」

 

「へえ、そうなのか?」

 

「うん。3人もね。一人はエロ鍛冶師のスケガワさん」

 

「・・・・・何鍛冶師って?」

 

「エロ鍛冶師」

 

「どんな事したらそんな情けない異名が付くんだ?」

 

エロ鍛冶師?俺そんなプレイヤーネームだったら絶対にゲーム辞めてるんだけど。

 

「女性は割引で作ってくれるのよ。しかも、セクシー系衣装ならさらに割引」

 

「あー、そう言う事」

 

紛うことなきエロでした。ムッツリーニと引き合わせたら意気投合するんじゃないか?

 

「でも、男性が割高って訳じゃないのよ? 単に、女性なら値引きしてくれるってだけで」

 

「そいつはその呼び名を嫌がっていないのか?」

 

「なんか、自分で名乗り出したらしいよ?」

 

「え?なんで?」

 

「さあ?」

 

会うのがちょっと躊躇うな。

 

「他二人は?」

 

「もう一人はイズさん。女性鍛冶師だよ」

 

「知ってる。一緒にNPCの家に寝泊まりしてる」

 

「あ、そうだったの?凄いわね。今じゃミスリルの先駆者や最近だと魔鉱石なんて未知のレアな鉱石を手に入れてミスリル装備より上質で高い性能の装備を作るから鍛冶師の先駆者なんて渾名が付け始められてるのよ」

 

イズ、お前ェ・・・・・。

 

「三人目はセレーネって女性鍛冶師。かなり凝った武器を作るからコアなプレイヤーの間じゃあかなり有名よ」

 

「凝った武器とは?」

 

「えっと、見たこともない聞いたこともない武器を作るのよ。リアルだと実際にある武器なんだけれど、その辺のことなんて私達は調べもしない限りは全然理解が出来ないものばかりなのよ」

 

ほー、興味あるな。一度見て見たいなその武器等。

 

「ということで、私たちはインゴットにすることにしたわ」

 

「良いのか?」

 

インゴットを使って武器を作っても、このリストと同じレベルの装備になるかは分からないし。自分たちの活躍を考えるなら、武器を貰う方が確実だろう。

 

「うん。今後のボス戦のこと考えたら、その方がいいだろうしね」

 

「なら、俺もインゴットにしておこう」

 

俺が適当に貰っても宝の持ち腐れだ。だったらインゴットで有効活用しよう。

 

 

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