カイコの協力で念願だったスライムのジェルの糸の生成ができた。数も多分足りるだろうと思いで服を作る職業を選んだプレイヤー達の一人に連絡して日本家屋に招いた。
「来てくれてありがとう、呼び出して悪かったな」
「いえいえとんでもない! 白銀さんは私達のパトロンですから、何でもご要望に全力で応えようと私達仕立て職人プレイヤーの間で決めたルールなので!」
「逆に言えば、パトロンにもならなくなった役立たずに成り下がってしまったら応じなくなるのか。やっぱり金の縁で築く交流はダメだなぁ・・・・・」
「ああ、そんなことはありませんよー! 白銀さんには本当に感謝しているのでお金が無くても見放したりしませんって!」
一生懸命取り繕う紳士服を着込んだこの女性のプレイヤー『ジェンティルドンナ』。数多いる仕立て職人の中で職業は違えどふーかやセレーネと同等の高い技術力を持っている。しかも現在はスーツを製作する『テーラー』の職業になっている。
「まぁ、仮にそんなことするようプレイヤーだったらギルドにはいられないのも事実だな」
「ですです! こんな厚遇かつ推しのクママちゃんと交流できる幸せな環境を手放すバカはいませんよ!」
「いたらいたで見物だな。さて、本題は中でしよう」
「ふおー! 初めて入る白銀さんのホーム! お邪魔しまーす!」
なお、テンションがいつも高いのだこの女性は。ノリがいいとも言える。織機と紡績機(ぼうせきき)がある居間へ案内すればジェンティルドンナは真っ先にその二つを見て目を見開かせた。
「こ、これはなんですか!?」
「冥界で作られた織機と紡績機だ。素材は水晶の木材だよ」
「あ、あの・・・・・触ってもいいです?」
「遠慮なく。寧ろ紡績機の方はこれからこの糸を作って貰おうとお願いするつもりだった」
スライムの繭をインベントリから出した。また新しい糸になり得る素材を目の前にして黙っているプレイヤーではないのは承知の上だ。
「鉱石と宝石の繊維に成功したって話を聞いたばかりなのにぃー!!! スライムの糸って何ですかー!?」
「依頼人の要望に応える素材を作っただけだ。だから糸が出来上がったらリリム、NPC用のスーツに仕立て上げてほしい」
「あ、だから私を呼んだんですね。任せてください! 素晴らしいスーツを完成させます! でも細かな設定とかあります?」
「当人が言うには自然を肌で感じられる服がいいって言ってたから・・・・・露出が高いやつか?」
「露出の高いスーツ・・・・・ちょっとそのリリムさんやらを呼んでくれます? スーツのイメージをしたいので」
彼女の要望に応じるためリリムを迎えに動く。どこを探しても見つからなかったが、最終的に獣姿で屋根にいて寝ていたところを見つけた。
「連れてきた」
「え、従魔なんですか?」
「違うぞ。取り敢えず襖を閉めるから二人きりで話し合って決めてくれ。リリム、お前の服を作るために必要だからヒトの姿になってくれ。終わったら声をかけてくれ」
「わかったよ」
素早く部屋から出て襖を閉めた直後にジェンティルドンナの驚きの悲鳴が聞こえた。誰もが獣が全裸の少女の姿になるなんて思わないよな、驚くのも仕方がない。
―――1時間後
開かれた襖から獣姿のリリムが出てきた。
「決まったか?」
「出来上がりが楽しみだよ」
ニヤリと笑みを浮かべて去ったリリムから意識をそらして部屋に入ると設計図とにらめっこしているジェンティルドンナの姿があった。
「どうだった?」
「まず白銀さんが彼女に服を着させたい理由がわかりました。あの子、まったくの羞恥心がないというか、服を着る概念があっても服を着ない理由がまるで動物のように返されると・・・・・」
「わかる。外に連れ出す時には獣の姿でも良いけど、個人の勝手な感想だけど、もったいないよな」
「そうですよ! まさか目の前で裸の女の子になるなんて驚いたけど、それ以上に顔の容姿とスタイルが凄くて! 同じ女として羨ましい反面、テーラーのプレイヤーとして何としてでも彼女の魅力を引き出したくなりました!」
凄く、燃えている彼女は設計図を俺に突きつけた。
「彼女の意見と私のイメージを掛け合わせた・・・名付けてスライムスーツ! どうでしょうか?」
「ふむ・・・・・」
露出はある程度あって、下品じゃないスーツだ。機動性もありそうでいいね、格好いいじゃん。
「俺も欲しいな」
「勝手がわかったら作りますよー。それじゃ、スライムの繭をください。さっそく糸にしますから!」
「よろしく。頼んだよジェンティルドンナ。完成したら教えてくれ。その間ホームにいていいから」
「わかりました!」
服の方はこれでいい。さて、次にすることは・・・・・。
「うん?」
メッセージが届いた。開けば運営からメッセージだった。内容を確認すると第3陣のプレイヤーのためのイベントを開催するにあたって来週の今日21時から再来週までメンテナスが行われる? それに伴い大型アップデート後、一度限りのプレイヤーの種族変更可能の実装、ユニーク装備の獲得の復刻、新職業、アイテム追加以外にも様々な新要素が追加されます・・・・・か。
「ハーデス!!」
「む?」
怒鳴り声が聞こえた。振り返ればなんか憤怒の形相のサリーがいて、何で怒っているのか理解できないでいる俺に大股で近づいてきて・・・・・。
「どういうこと」
「いきなり理由を追求されちゃあ答えようがないんだが」
「メイプルと結婚したことだよ!」
・・・・・そのこと?
「同じ防御力極振りのプレイヤーだから、俺のスキルと同調できるよう必要なアイテムを得るためだ。メイプルから聞いていないのか?」
「・・・・・聞いたよ。でも、それ以上のことをするなんて」
「リアルじゃないとは言えども、あの件に関しては不慮の事故だとお互い割り切っている。その前にそういうことができると説明したし、最大限に注意も払った。でも、俺達が同意したわけでもなくそうせざるを得ない状況になったらどうしようもないだろ。一時間以上も待っても運営から何も動いてくれないならなおさらだ」
理解しているが、納得できないで直談判しに来たんだろうなサリーは。
「俺が未成年相手に、不純異性交遊を喜んでする男だと思っているのか? その配慮をしないと思っているのかサリー」
「・・・・・わかっている、わかっているけど」
「赤裸々に語るようなことじゃないし、別に隠していたわけでもない。現にサリーだってリアルのゲーム大会で咲く一輪の花だって呼ばれていることをメイプルに教えてなかっただろうが」
「うぐっ」
うん、図星ですなー?
「あの件以外は俺とメイプルの考えは一致してたし、今は必要以上の接触も交流もしていない」
「ハーデスさん、いますかー?」
おっと・・・・・この声は、今日に限ってどうした?
「・・・・・しているじゃん」
「久し振りだがな」
疑う眼差しでジト目してくるサリーに見られているところ、ピンポイントでこの場に来たメイプル。
「あ、やっぱりサリーがいた」
「え・・・ハーデスを会いに来たんじゃないの?」
「ハーデスさんの話をしたら急にどっか行っちゃうんだから、もしかしたらハーデスさんのところに行ったんじゃないかなーって思って追いかけたんだよ」
「名探偵メイプルの推理通りだよ。親友の為にサリーが俺に怒りに来たんだからな。俺がメイプルに無理矢理子供を作るようなことをしたんでしょ、私の愛するメイプルによくも、絶対に許さない! 的に」
えっ!? と ちょっ!? と二人の違った反応が同時に示された。
「サリー! 違うんだよ、ハーデスさんはそんなことする悪い人じゃないんだよ!? ちゃんと私の為に気を遣ってくれたんだよ!」
「待ってメイプル、その前におかしなこと言ったハーデスに文句を言わせて!?」
「全部事実じゃん。好きだから愛しているのも変わりないだろ」
「親友だから好きで愛して・・・・・あーもう! 有耶無耶にする気でしょハーデス!」
いや、有耶無耶なんてするわけないじゃん。もうそんなに顔を赤くして動揺するんだから認めなさいな。
「うううー・・・・・こうなったら、ハーデス、私と決闘して!」
「何でこうなるんだよ。決闘してもメイプルが困るだけだろうに」
この状況の打開、もしくは無理矢理でも流れを変えたいか話を逸らしたいサリーの唐突な申し出に呆れるしかない。
「私の心がモヤモヤして晴れないんだよ!」
「その解消方法を教えてあげようか。メイプルに愛の告白をすればスッキリするぞ」
「できるかー!!? と、とにかく私が勝ったらメイプルから距離を取って!」
もうしているつもりなんだけど、彼女はそれでも納得できないのか・・・・・。
「独占欲が高いなサリー。で、そう言い出すからにはサリーが負けた場合は、俺が納得するものであるんだろうな?」
「・・・・・ギルドから脱退するよ」
それを聞いた俺の目が自然と細くなった。
「却下だ。もしも勝手にギルドから脱退してみろ、説教するためにリアルのお前んちに直談判しに行くからな」
「ちょ、そこまでする!? 嘘よね?」
「白銀さんは出来ないことを言わない主義だ。マジだからな」
ガチでやるぞ。本気だと込めて見つめる俺を強張らせた顔で小さく頷いた。
「脱退はしない、これでいい?」
「よぅし。それじゃサリーに対して・・・・・メイプル、お前が決めてくれ」
「え、私ですか?」
当然だと首肯する。俺が決めるより同性でサリーの親友こ言葉だったら、サリーも納得するし俺への緩衝剤となる。それに、とんでもないことを言うことはないだろうしな。
「サリーもそれでいいな? 俺より100倍も安心するだろ」
「・・・・・いや、メイプルもメイプルでちょっと」
おい? お前を困惑させることがあって、メイプルも突拍子な言動をするのか?
「そんじゃどうする。なかったことにするなら今のうちだぞ。俺はその方がいい」
「・・・・・あーもう、わかったよ。メイプルが決めたことなら何でするよ」
「サリーまでそう言うなら。うーん、わかったよ。考えるね? でも、なにしようかなぁ」
決闘の話を無しにしてもいいのに、メイプルのために決闘の続行を選ぶとは。愛されているなメイプル。
ということで、ペイン以来の決闘が始まった。戦闘開始と同時にサリーがスキルを使いながら走ってきた。
「【超加速】!」
「【マグマオーシャン】」
移動速度を加速させようが、移動できる範囲を奪えばいいだけだ。俺の足元に展開した魔方陣からマグマが溢れだし、決闘場を死の海にしていくが上げた速度を殺してでもサリーは黙っているはずがなかった。
「【ウォーターボール】! 【水竜】! 【水の道】! 【氷結領域】!」
「お、【水竜】?」
水の塊に冷やされて熱が奪われたマグマは、黒い地面となってサリーに届かなかった。それどころか俺まで続く氷の道を作るとその上に走ってきた。
「【クインタプルスラッシュ】!」
当然見聞したことないスキルだが、武器を振るうのであれば直接ダメージを与える類のものだろう。そういったものは見切ることができる。こんな風に!
シュババババッ!
「ふははは! 遅い、遅いぞ!」
「自慢の防御力やスキルを使わずPSで躱すなんて大概だね!」
「人のこと言える立場じゃないだろ。ほら、ここだ」
振り下ろす武器を持つ華奢な腕の動きと合わせ、そこに手を置くだけで軽々とサリーの手首を掴みスキルのキャンセルを促した。
「俺みたいなPSが出来る人間ならこういうこともできる。接近戦には気を付けとけ」
「ご忠告どうも、朧!」
「うん?」
スキル、じゃない。サリーと戦ってから俺以外存在していなかった、赤白の縄を身体に結んだ白い子ぎつねが目の前に現れた。
「朧【狐火】!」
炎を放たれ視界が奪われた隙にサリーが俺の手を振りほどいて安全な位置まで距離を取った。
「一対一ってルールじゃないから文句は受け付けないよ」
「問題ない。数の問題には慣れているからな【相乗効果】【海】【ラグナロク】」
闘技場に大津波の如く水が流れ込んできて俺を避けるように操作してサリーと朧を呑み込んだ―――。
「【氷柱】! 【八艘飛び】!」
「お?」
地面から生えた氷の柱を足場に宙へ大ジャンプした後、教えた覚えがないが身に覚えがありすぎるスキルでさらに高く跳躍して避難したサリー。
「やるな。だが、そんなところにいていいのか?【妖眼】【紫外線】」
俺の目が妖しく煌めく。【妖眼】の対象は朧。混乱状態に陥った朧は主である全身が燃えているサリーの顔に噛みついた。が、至近距離にも拘らず顔をずらして躱すサリーもやっぱり大概だろう。
「朧!?」
「仲間に気を取られていいのか?」
【海】を操作して、散弾の雨を放った。避けようがないこの攻撃にサリーは俺の目の前であっさりと消え俺の勝・・・・・いや、あの消え方は―――。
「幻、蜃気楼か!」
「ご明察!」
安全地帯にいる俺の真横にきつねを乗せていないサリーが俺の首に目掛けてダガーを―――。
「オオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「な―――!?」
「イッチョウと同じユニーク装備だ。なら、内包されているスキルも知らないはずがないだろ?」
水の壁を突き破るモササウルス(オウスイ)が飛び出してサリーに襲い掛かった。
「目には目を、従魔には従魔だ。そして言ったよな」
俺から目を反らしてオウスイの襲撃に一瞬の硬直を見逃さない俺がサリーの腕を掴んだ。
「接近戦に気を付けろって。お前の負けだサリー」
「まだぁーっ!!!」
オウスイの攻撃から避けるために氷柱を生み出して俺ごと宙へ飛び上がったサリー。まだ諦めないその精神と根性は称賛に値するぜ。―――だがな!
「【水底への誘い】!」
「んなっ!?」
背中から生える蛸の触手でサリーの四肢や胴体に巻き付け俺自身の腕でも華奢な身体を抱きしめた。この拘束を解こうとしても無駄だ。触れた対象は麻痺状態になるスキルでもあるからサリーはその状態異常になっているから身動きが取れない。
「遠距離からダメなら、至近距離でやるしかないのは必然だ」
「くぅぅぅぅ・・・! このゲームでも負けるなんて・・・けど、また再戦するよノーフェイス!」
「何時でも受け入れるぜ一輪の花」
「だから、そういうあだ名は言わないでよ!」
「なんで? お前自身もそうだが可愛いのに」
「かわっ・・・!」
話し合いながら海に落ちて沈んだ後。【ブレイク・コア】を使って俺だけが生き残れる自爆攻撃をし、サリーを負かしたのだった。
「あ、お帰りー。どうだったー?」
「俺の勝ちだ。何回か驚かされたが、ノーダメージで勝ってみせたぜ」
「おお、サリー相手に凄いですねハーデスさん! それじゃあ、私が考えた事を言いますね?」
縁に座って俺達を待っていたメイプル。決闘している間に俺が勝った場合の内容を考えてくれたようだ。
「だ、そうだサリー」
「わかってるよ・・・負けたからには何でも受け入れるよ」
渋々であるが負けを認める以上、敗者としてメイプルに身を委ねる姿勢のサリーに告げられた内容は。
「サリーもハーデスさんと結婚して? それから私がハーデスさんとしたことをサリーもして?」
「「・・・・・」」
―――思考が停止した。うん、サリー、今になってお前の言うことが正しかった。隣の少女はトマトのよう真っ赤にしたり顔を青褪めたりと顔色を変えていたのを見て、メイプルに問うた。
「なんでそれにしたんだ?」
「ハーデスさんに酷いことをされたって勘違いして、サリーは私の為にサリーが怒ったんだと思ったんです。だからサリーも私と同じことをしたら、ハーデスさんのことをもっと知ってこれ以上怒らないかもって」
ピュ、ピュアすぎる・・・・・。サリーの為を想っての考えなのはわかる。が、結婚は問題ないとしても後半のは・・・・・。
「というわけで、サリー。ハーデスさんと結婚して? そしたらサリーは私と同じになれるよ」
「メ、メイプル・・・・・」
「何でも受け入れるって言ったもんね。サリーは嘘を言わないからできるよね?」
メ、メイプルゥゥゥ・・・・・ッ! と泣きそうなサリーの前にメイプルは天使のような微笑みで彼女の逃げ道を悪魔の如く塞いだ・・・・・。でも結婚の方はともかく、同意を求めるアイテムが別のアイテムを作るのに素材として使ったからない。出来ないならしょうがないとメイプルも納得してくれる。サリーに結婚の申請を送りつける。
「・・・・・っ」
罰ゲームの感じで結婚する羽目になったサリー。極めて複雑な思いを顔に浮かべてゆっくりと申請受託の方に押した。これでサリーも六人目の妻となったわけだが・・・・・。あれぇ・・・・・消失したはずのハートのクッションが目の前に再び出て来たぞぉ~・・・・・? サリーの方もハートのクッションがあるし・・・・・。
「あ、ハーデスさんよかったですね! これでサリーと・・・・・その、できますよ?」
「・・・・・できれば、出来ない方向で終わって欲しかった。ほんと、切実にだ」
その後、何とかサリーとも行為を終えた。休憩込みで優しく丁寧に、時には激しくしてしまったがサリーの方からも求めてくれたし悔恨や軋轢はないと思いたい。
「・・・・・私にあんな忘れられないことをしたんだから、責任絶対に取ってよ」
メイプルの前で顔を真っ赤にして、潤った目で熱い視線を向けながらあんなこと言われたし。
なお―――その一件のことを包み隠さず三人に教えると呆れたり、ジト目されたり、何か企んだ顔をされた。
「事情が事情だけれど、気付いていたら100人以上も結婚しそうだね。あ、NPCとならいくらでも結婚していいですよ? リアルの人間じゃないんで現実世界に何の影響もありませんからねー」
「でもちょっと私達で身を固めておくべきかしら。セレーネにハーデスとの結婚願望があるなら、私は応援しちゃいたいし」
「そこは止めないんだ」
この時初めて、肩身が狭い思いをした。