掲示板を閉じた。隣にいたタゴサックもそうしたようですぐ彼女と目が合った。
「樹精は探しに心当たりはあるか?」
「さぁ、それを聞こうにも水臨大樹の精霊はもう帰っちゃったし。とりあえず、旧大陸のどこかにいると信じて地道に探すとするしかない」
「そうやって見つけるのがハーデスの十八番だもんなー」
十八番かどうかさておき、さて・・・これからどうするかな。樹母神の神殿に行ってお供えでもしておくか?
「タゴサック、暇なら一緒に行かないか? 樹母神の神殿に」
「いいぜ。ハーデスの畑に異常が無かったら行くつもりだったし」
俺のせいで時間を食わせたようだな。タゴサックにそんな気持ちを込めて見つめるよりも、お供えを何するか考えて決めると、それからタゴサックと水臨大樹に向かい根元から歩いた時に―――。
根元から幹を30メートルほど登ると、10人ほどが入れそうな洞があった。
「「・・・・・」」
こんな場所、樹母神の神殿にお供え来る時には何もなかった筈なんだがな? さて、この洞の出現トリガーはいったい何だろうか。渦巻いている光に触れるとどうなるのだろうか?
「タゴサックさんや、物は相談なんだが」
「奇遇だな。俺も神殿に行くよりも気になることを消化しておきたいことが今できてしまったんだ」
であるならば、行こうか。未知を既知に変える冒険へ―――。
水臨大樹の上に出現した白い光の渦。まるでワープゲートのようなそれに触れると、俺の全身が大きく光り輝――かない。
「あれ?」
「入れないのか?」
何の反応も無し―――静寂が周囲を包み込み、いたたまれない空気が流れる。だが、すぐに変化が訪れた。目の前にウィンドウが立ち上がり、そこにはどちらの資格を行使するかという選択肢が書かれていたのだ。入る試練を選ぶことができるようだった。
「水臨大樹の試練と、世界樹の試練と、水晶大樹の試練と、神樹の試練?」
ウィンドウを確認する。水臨大樹の試練はそのまま挑戦できるっぽい。しかし、他三つの試練には何やら注意書きがあった。まず、21:09という時間制限的な表示だ。これは・・・・・。
「タゴサックも見えるか?」
「見えるぞ。この時間制限はなんだ?」
「ゲーム的に考えれば、未知の場所へ入るまでの時間だろう。で、過ぎたら入れなくなる。そんでこの時間を遡ると、俺達がまだ畑にいた時だったはずだ」
「・・・・・ハーデスの樹精達の木像に祈りを捧げていた頃か」
タゴサックの予想に俺も同感と頷く。でなければこの制限時間が表示されるはずがない。それにしても水臨大樹の試練か・・・。
「もしやすると、樹精が出現するかも?」
「それは凄い発見じゃないか。俺達だけの情報にするかハーデス?」
「他のプレイヤーから難癖されそうだが・・・・・しばらくはそうしよう。祈る精霊によって受けられる試練が違うってことは、他にも何かしらの神に信仰を捧げられる機会があるかもしれないし」
「創世神話の神々以外の神か。そうじゃなきゃ試練に挑戦できているはずだからだよな」
その通りだ。と頷く俺は訊いた。
「どれにする?」
「どっちでもいいが、どれも時間制限内に挑戦できるなら問題ないし、時間が切れた頃にまたあの木像に祈ってここに戻って来て試練に挑戦できるか検証してみたい」
「そうか。じゃあ、最初は水臨大樹の試練といこうか」
「ああ、そうしよう」
ということで、俺たちは水臨大樹の試練へと挑戦することにした。水臨大樹の試練を選択すると、俺たちの体が光り輝き、一瞬で視界が切り替わる。無事、未知へと突入できたらしい。
「おー、全部木の根っこでできてんのか」
「凄いなこりゃあ・・・・・新しいアイテムが見つかるかもしれないぞ」
水臨大樹の試練の内部は、根が絡み合って形作られていた。床も壁も天井も、全て細い根が絡み合ってできている。そのため、時おり根っこが盛り上がっていたり、隙間が空いていたりして、それが罠のような役割を果たすのだろう。
「モンスターや採取素材を見ないとレベルが判断できない、少し慎重に進んでみようぜ」
「そうだな。さて、こういう新しい場所での索敵に適した奴を召喚するか」
今いる場所は、細い通路の行き止まりだ。同じ水臨大樹の試練でもいくつかパターンがあり、広い草原のような場所に出る場合もあれば、今回のような部屋と通路で構成された不思〇なダンジョン風の構成の場合もあるらしい。召喚したリック、フェル、サラを先頭に、ゆっくりと試練を進んでいく。場合によっては、罠が大量に隠されているような構造になっている可能性もあるのだ。
「キュ!」
「ガウ!」
斥候役のリックたちが同時に反応したな。どうやら、曲がり角の向こうにモンスターがいるらしい。
「最初の部屋からモンスターがいるか・・・・・。最低ランクではないだろう」
「始まりの町でそんな高ランクのモンスターが出るとは思えないがな」
曲がり角から首だけ出して、この先に何がいるかを確認する。
「キュ?」
「ガウー?」
「なんだ? 結構小さいぞ?」
「あれは、リスじゃないか?」
それなら俺達の敵じゃない、と判断して曲がり角から出て近づくと向こうに存在を気づかれた。
「キュ!」
「キュ?」
「え? あのリス、リックにそっくりなんだけど」
「うわ! マジか! 敵で出現するの初めて見たぞ!」
出現したのは、リックと同じ樹霊リスであった。
「キュ?」
水臨大樹の試練に突入した俺たちは、最初の部屋でモンスターを発見することになろうとは。敵はリス。しかもリックと同じ、灰色の樹霊リスであった。
「樹霊リスだ。メッチャ素早いぞ!」
「キュ!」
「お前がドヤ顔せんでいいから。それに、遠近どっちの攻撃力も高い」
「キッキュ」
「はいはい。凄いな」
リックがスタンスタンとステップを踏みながら、シュッシュッとシャドーボクシングをしてみせる。強いぞと言いたいんだろう。
「タゴサック、お前がテイムしてみるか?」
「いや、まだ入ったばかりだからもう少し吟味させてくれ。この試練の中で出現するモンスターを知ってからでも遅くはないだろう?」
「それもそうだな。じゃあ、証拠としてスクショをしてから」
「おう、いいぞ」
そういうわけで、戦闘を開始した。
「【相乗効果】【咆哮】! 【パラライズシャウト】!」
「キキュ!?」
先制攻撃として部屋を震わせる絶叫に込められた麻痺の状態異常をモロに食らった樹霊リスはその場で倒れ込み、しばらく動けなくなったところを、俺とタゴサックはすかさず全身をスクショして証拠を押さえた。
「よし、これでいいだろ」
「ああ、【手加減】【悪食】。サラ―――」
「ガウ!」
待ってましたと言わんばかりに俺達の目の前で樹霊リスに攻撃する。が、サラはまだレベルが低いためにダメージは少ないもの、事前にHPを一割にしておいたからすぐに倒せて、サラはレベルアップした。
「お、ドロップアイテムだ」
「・・・『何かの種』?」
「タゴサックもそうなのか。俺もそうだ。これ、畑に植えたら何に成長するかまではわからない種だな」
「新種かそうでないか、完全にランダムのアイテムだよな。うし、次行こう!」
楽し気に催促してくるタゴサックと次のエリアへと足を運ぶ。最初の部屋とは周囲の構造があきらかに変化していた。今までは小部屋を通路が繋ぐような形状だったのが、通路が入り組んだ迷路のような形状に変わっている。いざ二つ目のエリアに侵入した俺達を待ち構えるモンスターと遭遇した。
茶色の髪の毛の、パッと見はプレイヤーっぽくも見える少女である。その服装はゆぐゆぐの初期装備に似ていて、非常に可愛らしい。鑑定結果は、その少女が樹精であると示していた。
「「じゅ、樹精だぁあああああああああああああ!!!」」
タゴサックも驚くほどのレアモンスター! ここで初めて樹精の存在が確認できてしまうとは! 野生の樹精を見つけてしまうとは!
「タゴサック、スクショッ、スクショだッ!」
「わかってるッ! あと物は相談だが、テイムしていいか!」
「喜んで協力するわ!」
ただ、この樹精は武器が棍棒なので、そこは未見の攻撃や行動もあった。突然前に出てくることもあるため、気が抜けない。さっそく俺を含め片手で数えるぐらいしか獲得していない『南極大陸の観察者』の称号に付与された効果を使ってみたところ・・・・・。
「タゴサック、あの樹精には生産系のスキルが一つもないぞ。見た目通り戦闘系のスキルしかない」
「マジか。ハーデスの樹精とは違うんだな。まぁ、それでもほしいから問題ないぜ」
「よーし行くぞ。【緑の守護者】を発動させてしまうと、五秒間ずつダメージが受ける代わりに全ステータスがアップするスキルがある。それを使わされると困るから―――【天の鎖】!」
部屋の天井に大きな魔方陣が浮かび、そこから白い鎖が飛び出して樹精の身体に巻き付いた。
「【手加減】【悪食】! タゴサック!」
「おう! 【テイム】!」
棍棒持ちの樹精が淡く輝いた。お、あの光は・・・・・。
「っっっいよっしゃあああああああああー!」
樹精の姿が、一瞬でかき消える。ホームか牧場へと送られたのだろう。それは、タゴサックがテイムした現象だ。
「おめでとうタゴサック。一発でテイムできるとは運がいいじゃん」
「ありがとうハーデス! クックック・・・・・俺を弄った連中に自慢してやるぜ」
未だに根を持っていらっしゃいましたか。タゴサックをからかうのは止めておこうと決めた俺の気持ちを知らず、リックを送還してからタゴサックは樹精を召喚した。
「あー本当に生産系のスキルがないんだな」
「お揃いの棍棒でいいじゃん。それとも生産系のスキルがある樹精が欲しいなら探してみるか?」
「そうだな・・・・・せっかくだからもう一体は手に入れておきたい。次はハーデスの番でいいぞ。テイムしたいならだけど」
「じゃあ、生産系のスキルがある樹精はタゴサック。それ以外だったら俺で」
頷くタゴサックと迷宮内の探索を開始した。そしてわかったことだが、最初の小部屋近辺ならまだしも、敵が群れて登場する迷宮部分では絶対に俺ぐらいの防御力じゃないと死に戻っていただろう。それくらい、難易度が高かった。
道中、樹霊リスに遭遇し俺が二匹目の樹霊リスをテイムさせてもらった。結果、ダンジョンを脱出するまで、樹精は。第1区画も含めて、樹霊リスも樹精も、出現率が非常に低いらしい(二体目の長剣を持った樹精をゲットさせてもらいましたがなにか?)。
ただ、樹精以外にも大きな収穫はあった。迷宮の途中で、宝箱を発見したのだ。中には、不思議な宝石のようなものが入っていた。
いやー鑑定して驚いたよ。
名称:緑の安らぎ
レア度:7 品質:10
効果:対象の樹木系モンスターに安らぎを与え、一定期間好意を寄せられやすくなる。
なんと、特定のモンスターの好感度を上昇させるタイプのアイテムだった。今までは好物をあげれば好感度が上昇することは知られていたが、明確に好感度に言及するアイテムは初めて見たのだ。
さらにタゴサックに言われて気づいたんだが、自分の従魔とは言及されていない。つまり、エネミーに使用すればテイムしやすくなる可能性があった。
数時間後―――。
「いやぁ、楽しかった!」
「粗方調べ尽くしたな。出現するモンスターもほぼ網羅したと思うし」
「となると次は世界樹と水晶大樹、神樹の試練だな。ハーデス、どうする行くか?」
「俺は平気だが、タゴサックがいいならいつでもいいぞ」
迷宮から脱出して意気揚々なタゴサックの隣で俺はそう言う。タゴサックは少し考え込んでから提案してきた。
「このこと、他の身内にも教えて挑戦してもらい、情報を集めておこう」
「おし、掲示板だな!」
【蒼龍の聖剣】新発見だぞ! 全員集合! PART1【羨ましがれ!】
1:タゴサック
おらー! 集まれお前らー!
2:佐々木痔郎
なんか俺達の兄貴姐御が荒ぶっているんだが何が遭った?
3:ノーフ
珍しいことがあるんだな。
4:ネネネ
えー・・・・・何か面倒臭い事が起きそうなよかーん
5:死神・ハーデス
いや、ただ今の彼女は自慢したくてしょうがない気持ちが高揚しているだけなんだ
6:赤星ニャー
それを知っているってことは・・・・・まさか、白銀さん経由でまたサスシロ案件かニャー?
7:オイレンシュピーゲル
タゴサックだけなら「ふーん」だけど、白銀さんなら「わくわくドキドキ!」って期待値の差がある
8:死神・ハーデス
それはどうも。先にネタバラシさせてもらうと、ファーマーとテイマーが関係する事だ。じゃ、タゴサック。例のスクショを張ってくれ
9:アメリア
私達に関係する事? ま、まさか可愛いモンスターを発見した!?
10:ウルスラ
気になるわ、とっても!
11:タゴサック
⊃□□□□
12:エリンギ
・・・・・は?
13:イワン
え、この樹精ちゃんとリスは・・・・・?
14:チャーム
なんでタゴサックと写って・・・・・え?
15:タゴサック
俺と一緒に写っている樹精、ハーデスの協力でテイムしたぜ!!
16:死神・ハーデス
因みに俺も新しい樹精と樹霊リスをテイムしたぜ。⊃□□□
17:つがるん
んなにぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!?!?
18:チチチ
白銀さんとタゴサックと二体の樹精達が写ってる! マジで野生の樹精をゲットしたのか!? え、どこで? 新大陸?
19:宇田川ジェットコースター
俺達にも教えてくれー!
20:人間ブラック
こいつはぁ、確かにファーマーとテイマーに関する大事件だぜ・・・・・!
21:タゴサック
新大陸ではないんだよなぁ~これがよ! なんと・・・・・水臨大樹にダンジョンが出現したんだ!
22:ヒット
あのデカい樹木に? マジで? そんなアナウンスは聞いてないぞ
23:死神・ハーデス
俺もタゴサックもそうだった。が、もしかしたらって思う要因がある。なので準備するからダンジョンに挑戦してみたい者共は俺の畑の前で集まってくれ
24:ペイン
ダンジョンのモンスターの強さは?
25:タゴサック
ハーデスがあっという間に倒すから強さは実感できなかったが、ハーデス曰く、どのモンスターも100レベルらしい
26:メタルスライム
始まりの町で水晶エリアのモンスター並みの強さのモンスターが?
27:死神・ハーデス
うーん、知ったばかりだからまだ何とも説明できないんだ。というわけで、みんなにも調査の協力をお願いしたく。
28:イカル
手伝います!
29:イッチョウ
面白そうだね。私も参加するよん
30:ふーか
私も!
31:死神・ハーデス
感謝感謝。じゃあ、30分後に始まりの町の俺の畑の前に集まってくれ。植え替えしないといけないから。それじゃーな
掲示板を閉じ、同じく掲示板から離れたタゴサックと農業地区へ戻りつつ農業ギルドで植え替えに必要なアイテムを買った。