現在時刻は7日目の6時。戦闘部隊がグラシャラボラスに向かって出発する時間だ。
料理は全て配ってある。グラシャラボラスとの戦闘直前にインベントリから出して食べる作戦だった。
サーバーの300名中、俺を含めた250人程が戦闘部隊、残りがサポート部隊である。
「では、オルト達。行ってくるな。村に残るプレイヤーを全力で応援するのがお前達の仕事だ。頑張ってくれたまえ」
「ムムッ!」
オルト達に敬礼すればオルトも学習したように敬礼で返す。戦闘部隊から黄色い声が上がる。
「クママちゃん! 行ってくるね!」
「クマー!」
「オルトちゃん! 私、頑張るから!」
「ムッムー」
「メリープちゃん、応援しててね!」
「メェー!」
「ゆ、ゆぐゆぐたんの応援があれば、百年闘える!」
「――♪」
応援するオルト達に戦闘部隊の指揮は向上している。因みに第二陣だけどな。第一陣はとっくの昔に村を後に出発している。この部隊のリーダーは、俺にさせられた。
「それじゃ、出発するぞ。応援してもらったうちのオルト達に恥ずかしい死に様を晒して死に戻りしたいやつはいるか?」
全力で否定する124名のプレイヤー達。
「だが、死に戻りした先には俺のオルト達という天使達がお前達を励ましてくれるのは間違いない。そうじゃないかもしれないが、それでもお前達を出迎えて欲しいのは一体誰だ言ってみろ」
「オルトちゃん!」
「クママちゃん!」
「ゆぐゆぐちゃんの笑顔!」
「メリープちゃんのもこもこー!」
「サイナちゃん!」
「ミーニィちゃん!」
よーし、よくわかった欲望塗れのプレイヤー達め。
「ならば!生きて勝利の凱旋して村に戻る勇敢なプレイヤーや、悪魔ごときにやられようと死に恥を晒さない第二陣の諸君の働きに期待するぞ!俺達は移動してくるかもしれないグラシャラボラスの迎撃と第一陣が戻ってくる時間稼ぎだ。それでも倒しきるつもりで戦うぞ。第一陣が仕留め損ね、村の最終防衛ラインの俺達が破られると、村に残ってもらうオルト達もどうなってしまうのか―――想像は難しくない筈だ」
『―――っ』
「最悪な事態だけはしたくないならば、死ぬ前提で村を守り抜くぞお前達!」
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』
奮迅の計成功。移動開始だ。フェンリルも付いてくる中、第二陣が指定されたポイントの森へ少し速足で移動して、辿り着いた。ここでイズに作ってもらった声量を大きくするメガホンを使用して第二陣のプレイヤーに伝える。
「あの悪魔の巨体だ。足で踏み潰してくる攻撃と俺達を掴まえ紐なしバンジーの如く地面に叩きつけるか即死の捕食攻撃はしてくるはずだ。故に、敵の意識を引きつけられる俺がグラシャラボラスの足止めする間は大盾使いも含めてセオリー道理に全力全開の攻撃をしてくれ。もし悪魔の攻撃の予兆がしたら木々を盾に姿を隠しながらでも回避しろ。ただし、木ごと薙ぎ倒してくる可能性もあるから気を付けろよ」
『了解!』
「で―――具体的にどうして欲しいのかと言うとだな。取り敢えず第一陣の様子を見ながら考えようか」
それから第二陣に一朝一夕以下のぶっつけ本番をしてもらう動きの詳細を言い聞かせる。すぐに動いてもらうのはグラシャラボラスの動き次第だ。そして―――。
一時間後。
「頑張っているみたいですね」
「第一陣には大半の攻略組が配置されているからHPを削りまくっているだろう」
「コクテンさんを始め、ペインさん達のような有名な前線のプレイヤーがいますし、もしかしたら倒しちゃうんじゃ?」
「それは断じてないな。ファンタジー小説やゲームのボスは大抵戦いの最中に何かしら変化するお約束だ。運営だってそんな優しい設定をするはずもないだろうし」
俺の言葉が現実になったのは、その三十分後だった。
ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!
グラシャラボラスの咆哮が聞こえたかと思えば、俺達の眼前に黒い光と共に転移してきた!これにはさすがの俺も面を食らってしまった。
「歩いてくるのかと思えばそっちかよ!?」
「でも、白銀さんの作戦は間違ってなかったですね!」
「流石白銀さん!」
「誉めてる場合か。作戦通りに動け!【挑発】!フェンリル、待ちに待った大物だ。全力で食らいつくぞ!」
颯爽とグラシャラボラスへ駆けてその牙と爪で攻撃、ダメージを与えていくフェンリルを他所に、俺を狙い落としてくる巨大な足に対して防御極振りに戻した状態で防御態勢に入った。あっという間に巨大な足によって踏み潰される。
「は、白銀さーん!?」
「もうやられたのか!?」
「・・・い、いや、やられてない。白銀さんが潰されず耐えているぞ!」
「ええっ!?どんだけ【VIT】に振ってんだあの人・・・って驚いている場合じゃなかった!攻撃するぞ!」
「あの大きな狼には当てないように!白銀さんの従魔っぽいんだからな!」
他のプレイヤーも攻撃を開始する。第一陣からの報告ではこっちが離れるとグラシャラボラスは空いた距離を詰めるようにして歩き出すと聞いた。だから俺達第二陣は一歩もグラシャラボラスから離れず、俺を軸として戦闘をすることにした。
更にはグラシャラボラスの影響なのか、出現するモンスターが全て黒い靄を纏っており、パワーアップしているのだ。それらのモンスターには大盾使いと魔法使いが相手をし、一気に殲滅してもらう作戦に。それ以外は全員で悪魔を攻撃する。第一陣には無理を言って大盾使いを全員第二陣に回してもらったからには、俺達も仕事をしなくちゃな。
「―――ミーニィ、【巨大化】!」
叫ぶ俺に呼応、一拍遅れて森から巨大化したミーニィが空飛び、ミーニィの背中には数人ほどのプレイヤーが騎乗している。
「いやっほーうっ!今この瞬間、俺達はドラゴンライダーになってるぜぇー!」
「うううっ・・・・・!嬉しすぎて涙が・・・・・!」
「ありがとーう、白銀さーん!」
さっさと攻撃しろよ!?―――ガンナー!
「射撃開始!」
「全ての弾を撃ち切るつもりで撃って撃って撃ちまくれぇー!」
「ヒャッハー!」
「閃光弾と手榴弾をくらぇー!」
空からの射撃はリアルでもかなり厄介だ。グラシャラボラスを中心に円に描きながら飛ぶミーニィから機械の町で得た銃を武器に攻撃するガンナー。上半身と頭を中心に狙って撃ってもらっているが、ボス相手にどれだけダメージを与えられるかが懸念だ。
「ファイアーボール!」
「ウィンドカッター!」
「ウォーターボール!」
「このミスリルの剣の威力を思いしれぇー!」
「おらぁああああー!」
「白銀さん、今助けますー!」
未だ踏み続けられている俺であったが、何時までもこうしているつもりはなかった。
グラシャラボラスの足の裏を手で触れる。
「【悪食】、【生命簒奪】!」
すると俺から足がどかされ圧力が無くなった瞬時に周囲を把握しようとした時だった。
「ガオオオオオ!」
大きな咆哮が聞こえて来た。一瞬、グラシャラボラスの咆哮かと思ったら、違う。もっと遠くから聞こえて来た様だ。
「なんだ?」
「新手か?」
他のプレイヤー達が騒めいていると、誰かが森の向こうを指差した。
「あれを見て!」
「げえ! まじかよ! 新手か? とか言った奴誰だ!マジになったじゃないか!」
「一度は言ってみたい台詞だったんだよ!」
「言い争ってる場合か!」
こちらに向かってきているのは、巨大な獣だと思われた。木々が邪魔していまいち見えづらいが、四足歩行で走ってくることは確認できた。あれとも戦わなきゃいけないとなったら、俺たちなんて瞬殺だろう。
何せ、大きさがガーディアン・ベアと同じくらいある。
「いや、ていうかあれって、ガーディアン・ベアじゃないか?」
「え? そうなの?」
ガーディアン・ベアと接触したのは、俺しかいないらしい。だが、あれは間違いなくそうだ。他のプレイヤー達は迫りくる巨体を見て不安そうに囁き合っている。でも、なんでこのタイミングで―――。いや、まさか?直感を信じて疾呼した
「そいつはガーディアン・ベアだ!この村の守り神的な守護獣だから攻撃するな!道を開けろ!」
「え、あれが守護獣?」
「おい、白銀さんの指示に従え!」
「他の奴等も近付いてきても攻撃するなよ!」
俺の提案に、周りが動く。俺たちはグラシャラボラスの向こうからこちらに向かって走って来るガーディアン・ベアを、固唾を飲んで見守った。一体何が起こるのか。2体同時に相手にするという最悪のパターンも考えていたんだが、そこまで鬼畜仕様ではなかったらしい。
「ガオオオオー!」
「グラアアアア!」
「おお! やった!」
「お熊様がやりおったー!」
「いけ! そこだ!」
なんと、ガーディアン・ベアがそのままグラシャラボラスに襲い掛かったのだ。右足に抱き付くと、太腿の辺りに噛み付く。
大きさで言えば、ガーディアン・ベアでさえグラシャラボラスの3分の1程度しかないが、それでも心強い援軍である。
「よし! ここは一気に攻撃を加える!俺達に少しでも注意が向けば、ガーディアン・ベアがより長くグラシャラを押さえてくれる!」
『了解!』
俺の提案が満場一致で了承され、俺たちは作戦を変更して皆でグラシャラボラスに突撃した。
魔法で攻撃する班、魔法やポーションで皆とガーディアン・ベアを援護する班に分かれる。ガーディアン・ベアに近づくのはちょっと勇気が必要だったが、やはりこちらに攻撃してこない。これは、協力してくれると考えていいだろう。
「よし、俺も攻撃に参加するぞ」
「え、何かあるんですか?」
「百聞は一見に如かず。サイナ召喚!」
アンティーク的な歯車が回っている機械の鍵をインベントリから出して使用すると、銀色の魔方陣からサイナが出てきて直ぐに行動する。
「サイナ、全力で行く。力を貸してくれ」
「私の全てがあなたの物ですマスター」
また機械の鍵を行使して俺達の傍に人型の巨大なロボットを召喚した。これを見たプレイヤー達はぎょっと目を見開いて驚いた顔を浮かべて―――グラシャラボラスの足に踏み潰された。
「え、えっ?ロボット・・・・・?ロボット!?」
「ちょ、まじでぇっ!?」
周囲の反応を気にせずコックピットに乗り込み、サイナの補助もあって俺は操作する。
「マスター、二代目機械神のスキルを使用すれば武装の換装も可能です」
「そうなんだ?じゃあ物理耐性の大盾にパイルバンカーだ」
「かしこまりました」
始めから備わっていた武装を変えて、左右の腕に大盾+パイルバンカー。銃弾だと薬莢が弾けて味方に当たる可能性があるから使えないな。
「換装終えました」
「攻撃開始だ」
弁慶の泣き所ー!ズガンッ!と思い一撃がグラシャラボラスの脚に炸裂した。もう一丁!と立て続けに二つ目のパイルバンカーを放ってHPを減らした。おおー2割、2割だけか・・・・・弱いなパイルバンカー。
相手がボスだからか?と思っていたら、機体が激しい揺れに襲われた。
「対象グラシャラボラスに機体が持ち上げられております」
「・・・・・あー、サイナ。この機体の防御力、耐久力とかは?」
「マスターの【機械創造神】によって私の一部から作られた機体です」
「そうなのか?で?」
「つまり、私が搭乗することでこの機体とは一心同体です。よって、私の耐久値とボディの硬さも反映しており―――」
視界が一瞬で反転、更にはぐるぐると目が回るこの現象は・・・・・放り投げられた?
「マスターの【VIT】と同等の硬度となります」
「嬉しい報告ありがとうよ!」
成す術もなく地面に叩きつけられた俺達は、激しい衝撃に襲われながらもダメージは皆無という結果に喜ぶ暇もなくすぐに立ち上がった。
「にゃろう!」
幸い、第二陣のプレイヤー達がいる傍に落ちたのですぐに戦線復帰できた。もう容赦なんてしない!
それからグラシャラボラスに挑んで10分後。
何度も【挑発】をして俺に攻撃の矛先を集中させている間、他のプレイヤーが思う存分に攻撃できることからまだ十数人程度しか死に戻りしていない。
「MP切れの仲間をフォローしろ!全力の戦闘で精神と疲労で戦えないやつはこの場から離れて休憩!俺が【挑発】している限りはお前達に攻撃することは少ない!」
「分かりました!」
「うぉおおお!白銀さんだけにやらせてたまるかぁー!」
「白銀さん、後でそのロボットの事でお話がありますからねー!」
「ロボットばんざーい!」
足踏みや、豪快なパンチに麻痺の状態異常攻撃を繰り返すグラシャラボラス。俺の防御力がこの機体に反映されているなら悪魔の攻撃は一切通用しないし麻痺状態の攻撃は、そもそも麻痺無効化で効かないし・・・・・うん、俺にとってはヌルゲーだ。まだベヒモスの方が厄介すぎた。
「サイナ、ロケットパンチはできる?」
「可能です」
「じゃ、やってみて」
そんな要望を応えてくれるサイナは凄い。片腕がグラシャラボラスに向かって飛んでいきあろうことか、手がドリルに変形して悪魔の顔面に突き刺さったではないか!殆どの男性プレイヤーはロケットパンチに感極まった感動の声をあげていた。
「うわ、えっぐいほどに削れていってるな。ところで、あの腕このあとは?」
「落ちます」
「うん、そこまで便利に戻ってくるとは思ってなかったぞ?【挑発】」
本当に落ちて拾いに行く暇もなく、グラシャラボラスの攻撃をかわし、防いで耐えている時だった。
「ブルオオオオ!」
再び、謎の咆哮が森に響き渡った。
「あれをみろ!」
「また何か来たぞ! あれは何だ?」
「鳥か?」
「飛行機か――って、飛んですらいないけど!」
「お約束だって。まあ、スーパーマンじゃないことは確かだけど・・・・・・」
皆が騒めく中、姿を現したのは巨大な猪だった。こいつにも見覚えがある。もう一匹の守護獣、ガーディアン・ボアだ。
「ブルオオオオ!」
「グラアァ!」
現れたガーディアン・ボアは勢いを落とすことなく、ガーディアン・ベアがしがみ付いていたのとは逆の左足に突進していった。
長い牙で左足をロックしつつ、足首の辺りに噛み付いて動きを封じてくれる。それを確認した俺はフレンドコールを送ってきた者と話をする。
「ハーデス君、そろそろそっちと合流できる位置まで来てるよ!」
「頑張った甲斐があったものだ。急いでこいよ」
「うん!」
イッチョウからの報告を皆に伝える。
「第一陣からの連絡が入った。まもなくここに合流してくる。それまでグラシャラボラスのHPを削るぞ!」
『オオオオオオオオオッー!』
やる気を漲らせるプレイヤー達は果敢に攻撃を繰り返す。俺もようやく隙をついて片腕を取り戻し、両腕を使えるようにした頃に森の奥から雄叫びを上げながら第一陣のプレイヤー達が飛び出してきた。
「ロボットだっー!」
「間近で見ると迫力があるなっ!」
「お前ら待たせたな。第一陣の登場だぜ!」
一気に数が200人以上にも膨れ上がったことで悪魔への攻撃も苛烈になった。これで、決着がついたと思いきや。
グララオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!
使徒たちが追い込まれて変身したことを考えれば、グラシャラボラスが変身するのも当然だろう。だが、さすがにボスなだけあり、その姿は最強の魔獣、ドラゴンの様な姿であった。顔と尻尾が竜、体は人。全身を茶色の鱗が覆っているが、2足歩行。まさに半人半竜である。いや、あの大きさだと、半巨人半竜か?
変身したグラシャラボラスは凄まじく強い様だった。薙ぎ払われたグラシャラボラスの尻尾によって、何かが吹き飛ばされるのが見えた。直撃を食らったプレイヤーである様だ。
さらに、口から黒い光線の様な物を吐き出している。竜と言えばドラゴンブレスだが、火炎ではなさそうだな。戦闘部隊が火にまかれて全滅する事態はなさそうで良かった。まあ、このゲームの中で森林火災があるかどうかわからないけどね。
「サイナ、降りる」
「あの悪魔の腐食攻撃にも耐えられますが」
「他はそうじゃないからな」
コックピットから抜け出すと丁度イッチョウと目が合い、こっちに来いと手招き。すぐに来てくれた。
「代わりに操作よろしく」
「え?え?」
座席に押し込んでコックピットを閉ざす。あれだけいたプレイヤーはもうかなりいなくなっている。相手がそう来るなら俺もそうしようじゃないか。
「【覇獣】!」
大陸を蹂躙してきた巨大な獣とかしてグラシャラボラスの前に立った。相手も俺の存在に警戒する悪魔が睨みつけてくる。次の瞬間にはどちらからでもなく駆け出して、相手に目掛けて剛腕を振った。
「ウオオオオオオオオオオッ!!!」
「グララオオオオオオオッ!!!」
さぁ、大怪獣決戦!の始まりだ!
とあるプレイヤーの話。
「ええ、はい。突然の大怪獣同士の戦いを見せられることになるなんてあの場にいたプレイヤーは驚きましたね。しかも、俺達に気を配っているのか巻き込まれないように身体を張ってくれたんですよ。勿論、巻き込まれるのは嫌だから俺達も離れたんですが。いやー怪獣同士の戦闘は天変地異そのものですね。地面が激しく揺れて立つのが精一杯でした。勝敗?当然、悪魔は滅びましたよ。頭からがぶりと噛み砕いたんですから。何か咀嚼していたような気もしたんですが、気のせいですよね?」
『大悪魔グラシャラボラスの撃破に成功しました。おめでとうございます』
撃破アナウンスの直後、俺やオルト達のレベルが1つずつ上昇した。戦闘部隊は喜びを分かち合って笑い合う中、覇獣を解除して元に戻ると目の前にフェンリルがいた。
「お疲れ。ジズを倒す前の腕慣らしにはなったか?」
覇獣の状態でもフェンリルは俺と一緒にグラシャラボラスと戦っていた。おかげで早く倒せたようなものだが、不意に空へフェンリルのジッと見つめる視線に小首を傾げる。
「ん?」
何かあるのか?と釣られて空を見上げると・・・・・不自然なまでの暗雲が発生して、この森周辺を暗黒に覆う展開が起きた。
「何だ!?」
「いったいこれは・・・・・」
「まさか、また悪魔か!」
不気味さも醸し出す暗闇を作り出される最中だった。虚空でバチバチと黒い雷が迸り、空間に裂け目が開いたかと思えばその中から一人の人間が現れた。その者は黒髪で頭から黒い角を生やし、いかにも小生意気そうな雰囲気を纏っていた。伸びた犬歯、細長く黒い尻尾、赤い目に翼と悪魔らしい要素は揃っているが――何せ全く迫力が無い。
「我は魔王である!」
「は?魔王?」
周囲のプレイヤーも魔王の登場に動揺は隠さないが、「カワイイ」だの「魔王ちゃん」だのと誰も恐怖心を抱いている者は居ない。
「異邦の地からやってきた人間どもよ。我が魔王軍の中でも最も最弱な部下を打倒した。村の人間とその村を一切の被害を出さなかったことに我から称賛を送ろう」
それだけ言って、次は俺の方に視線を向けて来た。それどころか大胆不敵にも近寄ってきたではないか。
「初代魔王が生み出した三大天災の一つを撃ち滅ぼした勇者よ。貴様が我が魔王城まで来て我と対決する日を心待ちに―――」
「サイナ―、確保だ」
「かしこまりました」
「―――え?」
両脇で魔王を固め、捕縛。魔王は混乱。イッチョウ達は唖然。
「よーし、皆。村に帰ろうか!」
その後の俺はいい笑顔で皆にそう告げた。
運営side
「こんなに早く魔王の存在を明かすことになるとは思いもしませんでしたが、普通に捕まえられてますけれど」
「普通に捕まってしまってるな~」
「村人にごめんなさいをさせられている件について」
「激昂して怒るところなんだが、魔王ちゃんは混乱してるから理解に追い付けないでいるみたいだ」
「それで魔王領では味わえない美味しい料理を振る舞われて一緒に食べてますね。祭りも楽しんでますし」
「魔王ちゃんの撮影会も始まってるし。魔王ちゃんの威厳と美貌を!と口車に乗せられてまぁ・・・・・」
「まんざらではない様子で色んなポーズをしてますね。白銀さんの従魔の撮影会も便乗してはじめてますよ」
「・・・・・こんな残念な設定はした覚えはないんだぞ?」
「愛嬌ある魔王にしたいと言ったのは主任ですので、結果あんな感じになったのでは?」
「ま、魔王の歓迎は大いに楽しませてもらった!そろそろ魔王城に帰らせてもらう!」
「魔王城ってどこなんだ?この大陸にあるのか?」
「どこにあるのかはまだ教えられんが、その問いに対しては是と答えよう」
「魔王の部下ってどのぐらいいる?」
「72だ。その中でも幹部クラスの悪魔となれば、勇者と言えど簡単には倒せん強者よ」
「友達になった暁に―――黄金林檎をプレゼントだ」
「お、黄金林檎・・・・・!むむむ・・・ど、どうしても我と友達になりたいという愚かな考えを持つのか。敵同士であるぞ」
「じゃあ戦い合う友として戦友でいいか?敵同士でも楽しい戦いはできるだろ」
「戦友・・・・・うむ、悪くない。ならば勇者とはこれより我の唯一無二の戦友だ。ありがたく受け取れ!」
「おう、ありがとうな。気が向いたら遊びに来てくれ」
「ふ、ふんっ・・・」
ん?受け取れ?
『称号を取得しました。死神ハーデスに「魔王の戦友」を授与します』
称号:魔王の戦友
効果:魔王との交流が可能になり、会話時には友好度にボーナス。
ああ、これか。てか、これだけか?でもま、全プレイヤーの中で唯一無二、魔王と交流できるプレイヤーになったからいいな。亀裂が生じた空間の穴の中に潜って村からいなくなった魔王を見送った後。
アナウンスが鳴り響く。
『イベント7日目、18:00です。イベント終了となりました』
おお、もうそんな時間か。イベントが完全に終了し、村から始まりの町に戻る――と思っていたんだが、俺たちは不思議な場所にいた。
漆黒の宇宙の様な空間に、直径100メートルほどの円盤が浮かんでいる。その円盤には、俺を含めた300人ほどのプレイヤーが乗せられていた。どうやら、同じサーバーにいたプレイヤーが全て集められているみたいだな。
それだけではない。周囲を見ると同じような白い円盤がいくつも浮かんでおり、同じ様にプレイヤーが乗っていた。サーバーと同じ数だけあるんだろう。
何が始まるのかと思っていたら、漆黒の空間の一部に超巨大なスクリーンが浮かび上がり、そこに顔が陰で隠れたモブアバターが表示された。同時に、ステータスウィンドウでも同じ映像を見ることが出来る様だ。
『それでは、イベントの結果を発表させていただきます。ご静聴下さい!』
「「「「「おおー!」」」」」
なるほど、最終日の途中経過が送られてこないと思ったら、そういう趣向だったのか。グラシャラボラス戦が終わって自分たちの順位がどうなっているのか・・・・・。
最初は個人ポイントのランキングが発表されるらしい。全サーバーの中で上位10名が発表されるようだな。
まあ、ここは俺には関係ない。グラシャラボラスの撃破報酬を合わせても、約1500以上のポイントしか稼いでないからな。と言うか、俺たちのサーバーの中にはベスト10に入る者はいなかった。
モニターに映し出された1位のプレイヤーが、両手を上げてガッツポーズをしている。
それにしても、個人ポイント7000とかどうやって稼いでるんだ?そう思っていたら、上位プレイヤーが高ポイントを獲得したイベントなどが一部表示された。
個人ポイントはサーバーへの貢献度など関係なく、強いボスなどを撃破すれば高ポイントがもらえるらしい。なので、守護獣の撃破が高ポイントだったようだ。さらに、邪悪樹の撃破という項目もある。どうやら、神聖樹に取りついたグラシャラボラスの使徒を放置しておくと、神聖樹が邪悪樹と言うボスに変化してしまうらしい。うちのサーバーは早々に使徒を撃破したから、出現しなかったんだろう。
他には、村落内に出現した悪魔の撃破とか、大悪魔に蹂躙された村落からの子供を救出など、うちのサーバーでは起こらなかったイベントが相当表示されていた。
お次がお待ちかね、サーバー順位の発表だ。6位以下のサーバーが一気に発表される。よしよし、俺たちは入っていないな。
他のサーバーの悲喜交々の声が聞こえてくる。上位に入れなくて嘆くのは分かるが、なんで喜んでいる奴らもいるんだ? そう思っていたら、元々低い順位だったサーバーが、グラシャラボラス戦などを上手く戦って、大幅に順位を上げたらしかった。確かに、30位とかから10位くらいに上がってたら、喜ぶかもね。
その後、順番に発表されていく。5位、まだだ。4位、違う。3位、入らないよな?そして2位。
『2位は、第7サーバー!』
呼ばれなかった。ということは―――。
『そして、栄えある1位は・・・・・第29サーバーです!』
よし、1位!自信はあったけど、絶対じゃなかったからな。
「やったねハーデス君!1位だよ1位!」
「まさか、1位のサーバーになるなんて驚いたわ」
「はっはっはっ。俺も素直に驚いてるぞイズ」
ジークフリードも声をかけてきた。
「やったね。これは我々全員の勝利だよ!」
「ああ、そうだな」
「ですねー」
さすがジークフリード。さらっと正解を口にするな。
ウィンドウにはサーバー順位の評価基準が表示されている。イベント終了時の守護獣の状態ね。サーバーによっては殺してしまったり、放置したままのサーバーもあるようだった。
次は神聖樹の状態か。邪悪樹とか言うボスに変化してしまったサーバーもあるし、復活できたサーバーは数サーバーだけみたいだ。
村も、無傷から完全破壊まで、色々と段階がある。完全無傷はうちのサーバーだけだ。一番多いのは、村の半壊。次に多いのが村の全壊だった。
『次は、サーバー貢献度の順位を発表いたします』
「そっちもか」
ポイントが公開されていたわけじゃないから、まさかそこが発表されるとは思ってもみなかった。
驚く俺をよそに、順位が発表されていく。そして、第3位でジークフリードが発表された。うちのサーバーで貢献度2位のジークフリードが全体で3位?じゃあ、1位の俺は?
『サーバー貢献度、全体での1位は、第29サーバー、死神ハーデスさんです!』
「おおー! さすが白銀さん!」
「やっぱ凄いですね!」
モニターに俺が映し出された。祝福するプレイヤーに取り囲まれる中でオルトを肩に乗せて、手を上げると、うちの子たちも一緒に手を振ってくれた。他のサーバーの歓声のような物が聞こえて来て、本当にオルト達は人気者だ。
『最後に称号の贈呈です。個人ポイント1位から10位のプレイヤーには、「孤高の戦士」の称号を。サーバー貢献度1位から10位のプレイヤーには「絆の勇士」の称号が与えられます。また、イベント内で限定称号を得たプレイヤーには、失った限定称号の代わりに「村の救援者」の称号が与えられます』
んー?ということは・・・・・。やっぱりだ。イベント限定称号が消え、絆の勇士、村の救援者の称号が増えている。
「白銀さん、称号どんな内容だったんだ?」
「あ、俺も知りたい!」
まあ、教えてもいいか。元々隠す気もないしね。
称号:絆の勇士
効果:賞金20000G獲得。ボーナスポイント4点獲得。イベント「村の大悪魔」で活躍した証。
称号:村の救援者
効果:村落内でのNPCとの会話時、友好度にボーナス。イベント「村の大悪魔」で活躍した証。
目に見えて強力な称号という訳ではないけど、やはり羨ましがられた。一気に2つも称号を得てしまったからな。まあ、仕方ないだろう。なにせ、これで称号は14個だ。
また目立っちゃいそうだよな~。既に遅いがな。もっと強い称号だったら嬉しいけど、これって記念の名誉称号だし、あまり強くないんだよな。なのにすっごい羨ましがられてるし。
『これにて、結果発表は終了となります。お疲れ様でした。皆様をイベント開始直前にいた場所へと戻します。ポイントの景品への交換はリストから行って下さい』
その言葉が終わった瞬間、俺たちの視界が暗転し、直後には見覚えのある風景が目に飛び込んで来た。
「俺の畑だよな?おおー、皆ただいまー戻ってきたぞー」
「はぁー、大変なイベントだったわね」
「本当ね。あ。ハーデス。セレーネの件を忘れないでよね?」
わかってるよイズ。そしてうちの子たちは早速、留守番組のリック達と和気藹々しながら自分の持ち場に散っていく。そりゃあ、1日経過してるはずだから、早めに畑仕事をこなさないといけないんだけどさ。皆働き者だ。
「あ、報酬を交換できるようになってるわ。ここでしちゃってもいいかしら?」
「私も―」
「どうぞどうぞ」
俺の目の前にも再度ウィンドウが出現する。
「えーと、イベント個別報酬とポイント交換リストね」
イベント個別報酬は、サーバー順位1位で2万Gとボーナスポイント2点。サーバー貢献度1位で2万Gとボーナスポイント2点。村が無傷のボーナスで、「アルフの村への通行許可証」がもらえた。
通行許可証は、町移動用の転移陣でその場所へ移動をする際に、通行料がかからないというアイテムらしい。ということは、転移陣を使えばあの村にまた行けるのか?後で確認しに行ってみよう。
ポイント交換という物はそのままの意味で、イベントで稼いだポイントを、様々なアイテムに交換することが出来るらしい。
個人ポイント交換リストと、サーバーポイント交換リストの2種類があった。サーバーポイントの方は、サーバー順位やサーバー貢献度などから算出されたポイントらしい。10500ポイントとなっているが高いのか?
内訳の詳しい理由も色々と表示されているが、項目が膨大過ぎて、全部は把握しきれそうもない。高ポイントがもらえた項目をピックアップしてみると、守護獣1の解放、守護獣2の解放、神聖樹1の復活、神聖樹2の復活、少年少女の救出、村の損害度0などが上がっている。
順位発表の時も思ったけど、個人ポイントが高い人間が居るサーバーは、サーバー順位が上がらない作りになってるってことだよな。
「個人ポイントは・・・・・凄いな。この武器とか強い。3500ポイント必要だ」
他にも強力な防具や、スキルスクロールが用意されている。俺には全く手が届かないけど!
「何か使える物はないか?戦闘用の道具ばかりなんだよな・・・・・」
結局、800ポイントで孵卵器の錬金に使えるアイアンインゴットに。余ったポイントは初心者用マナポーションに変えておいた。まあ、こんなもんだろう。本番はこっち、サーバーポイントの方だ。
「ほほう。こっちは生産系のアイテムとか、パーティで使えるテントとかが揃ってるな。テントは必須だ。入手できる範囲だからこれにしよう」
個人ポイントは戦闘用、サーバーポイントはそれ以外用ってことなんだろう。
こっちはほぼ全ての項目が選べる。中には特定のスキルを所持していないと選べない限定のアイテムなどがあったので、選べないのはそれだけだ。
まず気になったのは、スキル持ち限定の項目だな。当然、テイムスキルのページもあった。
従魔用のエサとか、武器なんかもある。剣を装備できる従魔とかいるのか? 少なくとも俺には必要ないな。さらに項目を確認していくと、良い物を発見した。
「卵に孵卵器か」
やっぱりあったな。だが、名前だけの表示だ。蜜蜂の卵というのはハニービーの卵だろう。蜜熊はハニーベアに違いない。他にも、栗鼠の卵など色々ある。
説明もアバウトで、『ハチミツ大好き、蜜蜂だよ!』とか『森の友達、栗鼠さんだ!』とかそんな表示しかされていない。あれか? 何が生まれるか分からないワクワク感を楽しめとでも言うつもりか? この遊び心はいらんわ。
下の方に行くと、超高ポイントが必要な卵があった。赤虎の卵、風狼の卵、土竜の卵である。虎、狼が4000、竜が5000必要だ。説明文には、『猛々しい炎、赤虎の卵』としか書いてない。風狼は『風を操る魔狼、風狼の卵』、土竜には『大地の申し子、土竜の卵』だ。やっぱり分からんな。
うーん、どうしようか。5000も必要ってことは、かなり強いモンスターなんだろう。虎に狼に竜・・・・・ここは断然竜だな。というかモグラだろこれ。
「ま、リアルでも触れない小動物だ。ゲームで思いっきり触りまくって毛並みを堪能しよう」
さて、うーん。他には何があるか・・・・・お!農耕スキルを持っているプレイヤー限定のアイテムもある。
「ほうほう。始まりの町の畑の権利ね。あ、苗木と種があるじゃないか」
紫柿の苗木、白梨の苗木。種は、白トマト、群青ナス、キャベ菜、ソイ豆の種がある。
この辺は絶対に欲しい。苗木が500ポイント。種が200ポイントか。計1800ポイントだ。
ここでも断トツで高ポイントの謎アイテムがあった。その名も神聖樹の苗。6000ポイント。いや、わかるよ?神聖樹。でも、その苗木って必要か?悪魔の弱体化と、回復能力だ。畑で必要ない能力だろう。果実が取れるみたいな話もなかったし。
だが、ここでしか手に入らないのは確かだろう。ポイントも高いし。用途不明だが。
しかし、この苗木を選んだら土竜の卵は取得できない。さすがに竜の卵をやめて、謎の苗木をゲットする気にはなれなかった。神聖樹の苗木は諦めるしかないだろうな。
「他はどうしよう」
土竜の卵で5000。種苗類で1800。残りは3700である。リストを色々と確認していくと、面白い物を発見した。
「秘伝書?3000ポイント・・・・・」
どうやら転職時に特殊な職業を選べるようになるアイテムらしい。テイマーの秘伝書だから、テイマー系の特殊転職ってことだ。2次職のようだから、俺はもう直ぐ使えるな。というか持っているからいらないけど、転職先はコマンダーテイマー。なんと連れて行けるモンスの枠が、5匹から6匹に増えると言う職業だ。
モンスを連れて歩ける数が増えるというのは非常に嬉しい。戦力的な意味でも、可愛いモンスたちに囲まれると言う意味でも。これは後で転職しようと思いもう一つ気になる方に注視した。
「イベントの金メダル?これも3000だな」
詳細は『摩訶不思議な金メダル。持っているといいことがあるかも』とこれもまたアバウトだが・・・・・他に欲しい物がなかったから記念にメダルを手に入れることにした。
土竜の卵、紫柿の苗木、白梨の苗木。種は、白トマト、群青ナス、キャベ菜、ソイ豆、の種、イベントの金メダル。これで9800だ。
残りの700のうち500で始まりの町の畑を1つもらうことができるな。もう上限に達しているので増やせなかったんだが、このボーナスは上限に含まれないらしい。しかも所有畑の隣接地を選べたので、かなりお得だったと思う。
残り200はまだ持っていなかった、睡眠草という草の種に変えることにした。これで全部使いきったぞ。
「よし、決定っと」
押した瞬間ウィンドウが輝き、賞品をインベントリに送ったというアナウンスが流れる。見てみると、確かに全てのアイテムが入っていた。
さらに畑もキチンと追加されている。
「よしよし、手に入れたばかりの作物をすぐに植えられるな」
「終わったー?」
「終わった。イズ、アイアンインゴットある?」
「あるけど、どうしたの?」
「孵卵器に使いたいから欲しいんだ。売ってください」
「ということは新しいモンスターを選んだのね?どんなの?」
モグラ、と言うと微妙な顔をされてしまいました。
死神・ハーデス
LV39
HP 40/40〈+300〉
MP 12/12〈+200〉
【STR 0〈+129〉】
【VIT 750〈+1650〉】
【AGI 0〈+120〉】
【DEX 0〈+120〉】
【INT 0〈+100〉】
装備
頭 【空欄】
体 【黒薔薇ノ鎧:
右手 【新月:
左手【闇夜ノ写】
足 【黒薔薇ノ鎧:
靴 【黒薔薇ノ鎧:
装飾品 【生命の指輪・Ⅷ】【古の鍛冶師の指輪】【
称号:万に通じる者 不殺の冒険者 出遅れた者 白銀の先駆者 毒竜の迷宮踏破 大樹の精霊の加護 ユニークモンスターマニア 三代目機械神 聖大樹の精霊の加護 勇者 最速の称号コレクター 魔王の戦友 絆の勇士 村の救援者
スキル
【絶対防御】【手加減】【体捌き】【瞑想】【挑発】【極悪非道】【シールドアタック】【