あれからすっかり忘れていた氷結晶のことを思い出して、ダンジョンの中を探し回ったら氷系のモンスターが一定確率で落とすことがわかった。わかったが、氷霊とどこでご対面すればいいのか首を捻った。ま、今すぐほしいわけではないから後回しにするけど、今はこっちだな。
「い、命だけは勘弁してください!?」
「「「・・・・・」」」
道中、距離を取ってついてくるプレイヤー達を尻目に第三の町へ向かう途中でNPCと遭遇した。そいつはユキメとネームが表示されているが、ぜってー妖怪の雪女だろコイツ。厚手の防寒着を着込み一人でソリを引っ張っているが、雪のように真っ白な肌で薄氷色の足まで長い髪の彼女が尻餅ついて可哀想なほど恐怖で身体を震わす。
「えっと、なにもしないから怖がらないでください」
「ひぃっ!?」
「あはは、イカルちゃんを怖がってるねー。あの、私も怖くないですからーーー」
「ひゃぁぁぁっ!?」
涙目になるほど年下の少女に怖がる年上のNPCって・・・・・・。
「メイプルもダメなら私もダメだろう。NPCに50%の恐怖を与える称号を持っている私達が揃っている今、150%の恐怖が彼女に襲っている」
「「ガーン!?」」
ここにきて弊害が出てしまうとは残念だ。放置するしかないと決めつけ掛けたところ、ユキメが萎縮しながら俺に目線を向けてくる。
「こ、怖いのは変わらないですけど、あなたなら話ができそうです・・・・・あの、急な話ですが私達を助けてくださいっ」
「ん? そうか。それなら助けるとはどうやってだ?」
「この先に小さな集落があるのですが、食糧が底をついて三日も食べていないのです。どうか食べ物を恵んでくれませんか・・・・・?」
ここでクエストが発生した。クエスト【限界集落の存続】と。これ、長期のクエストになりそうだな。
「二人とも、どうする?」
「怖がられてるけど、困っている人を放っておけません」
「私もだよ。助けようハーデスさん」
二人は異論ないとクエストをやる気だ。それなら俺も何も言うことはないと受注する。
「わかった。皆を助けよう」
「あ、ありがとうございます! では、集落へ案内しますねこちらです」
パーティにユキメが加わり、未開拓の集落へと寄り道する俺達。
『白銀さん達が怖がられながらも誰も知らない集落へ案内された』
『やっと第二の町に着いたと思ったら!』
『このウェーブに遅れるわけには行かねぇな!』
『えー、どっちにしようかなー。貝竜と戦いたいけど集落も気になる』
『俺はこのまま魔王一行についていくぜ!』
『頑張れー。俺は貝竜と戦うわ』
『情報通り健康ランド顔負けのエリアに到着した! うわー、すげぇー・・・・・混浴し放題では?』
『え、待って? この情報は知らない知らない! ーーーウェディングドレスをきたメスゴリラがいるなんて知らないィィィギャアアアア!!?』
『白銀さん、伏せていやがったなぁー!!?』
フハハハッ! タダで情報を公開するばかりでなはいのだよ! たまには自分達で未知を開拓するんだな!
コメ欄を横目で見ながら来た道に戻る彼女に追従する俺達と、さらに100Mぐらい離れて固まっている便乗勢のプレイヤー達と集落へ目指した。雪で積もった近くの樹木の間に入って30分ぐらい歩いた先に、雪で積もった木造の家、雪の重みや老朽化で脆くなったからか崩壊している家などが窺える集落が俺達を出迎えた。こんなところでよく住んでいられるな。畑は作れないから狩猟か、商人ぐらいしか食糧を確保できないだろう。
「どうしてここに住んでいるんですか?」
メイプルが俺と同じことを思った疑問をぶつけた。ユキメは悲しそうに顔を曇らせる。
「・・・・・もともとここ南極大陸は雪と氷の世界ではなかったことをご存じですか」
「「「え?」」」
「この大陸は突如として永遠の冬が訪れ、温かい大地は凍り付き、春に芽吹く草花は冷たい白い雪で覆われて、大気は凍てつき冷たい環境に畑は実らず育事もままならず。無数あったと聞く村々と国々は食料と資源を奪い合う末に数を減らしながら滅し、滅ぼされ今ではたったの二つしか国はありません」
ああ、確かこの大陸のイベントの最中にそんな国のことは聞いたな。
「今はどちらの国がこの大陸の支配と覇権を握る戦争をしていると商人の人達から聞いております。国に属する町村や都市などから一定の期間になると兵士として男性を徴兵するので、狩猟する者、労働する者がいないこの集落のように何時しか人知れず滅ぶ運命なのです」
「徴兵された男は、帰らずか」
「はい・・・・・この集落には老人と私のような若い女性、幼い子供しかおりません。備蓄していた食料も底を尽き、飢えと寒さに苦しんでいます」
ゲームの中とは言え他人事じゃない話にそれ以降無言となった俺達は、ユキメの目の前で準備を始めた。召喚したペルカ、クズハのスキルの炎で溶かして一部分の雪が露出した地面に食材と調理器具を出し具材たっぷりのスープを作り始める。
「イカルちゃん。私達も雪を融かそう!」
「はい! 【相乗効果】【溶岩魔人】【金炎の衣】【暴虐】!」
手足を生やした溶岩の異形に変身するイカルに続きメイプルも同じ姿になると、その状態で雪を除雪し始めた。
『白銀さん達が何か始めたけど、何かのクエスト?』
『わからん! だが、白銀さんのことだ。何かがあるに違いない!』
『現場のプレイヤー達は何してんの?』
『立ち往生しているんじゃない? だって純粋に一緒に遊ぼうとしているんじゃなくて”便乗”という不純な気持ちでいるんだから』
『んだとテメェ!!』
『それの何が悪いってんだ あ”あ”!?』
『うわ、質の悪いプレイヤーまで交じっていたのか。白銀さん、気を付けてくれよー!』
気を付けろ、と言われてもな。林の陰から覗いているだけの変質者達にどうしろと。
「ストーカーの対処方法は知らないが?」
『辛・辣www』
『的を得ているから否定できないストーカー達の辛さときたら!!!』
『便乗したい奴らが今更「俺達も何か手伝いますー!」って手の平を返す真似は絶対にできないよなー!!?』
『へへへ、その面の皮の厚さは0.001mmかな?』
『それ薄皮では?』
『でも、伸びるし破れにくいウスウスのマスクという名のリング付きのゴムだよ?』
『ナニソレ?』
「なんだそれ?」
『白銀さんが知らない、だと?』
『バッカ!!! この世界にそんなアイテムは存在しないんだよ!!!』
『ハッ!?』
訳が分からん。それ以降も流れるようにコメントを見ながら料理を完成した頃、イカルとメイプルも集落の雪を除雪し終えた。
「ハーデスさん。終わったよー」
「畑もありましたよ!」
「ほう、それは重畳。あとで見に行くとしよう。こっちも完成した。ユキメ、集落には何人いる?」
「老人は32人、私を含めて若い層の女子供は10人です。大人の男性も幼い男の子もいません」
「集落の長は?」
「・・・・・先日餓死しましておりません。いま私が長の代理なのです」
世知辛い・・・・・! 用意した器に肉と野菜たっぷりスープを注いでお盆に十個ほど乗せてユキメに渡す。
「お代わりが出来る量を作っておいた。腹減っている人達に渡すといい。お前には苦労を掛けるが余所者の私達からでは受け取りづらいだろう。―――なにせ、私達は恐れられる存在だからな」
「「あ」」
「わかりました。ありがとうございます・・・!」
魔王になった弊害が俺達を邪魔する。サイナを召喚して事情とお願いをし、ユキメと一緒にお盆を持って集落の中で大きい家の中へ消えるユキメを見送った。
「畑のところに案内してくれ」
「「はい」」
ペルカとクズハを番に任せ、イカルの巨大な溶岩の異形の背中に乗った状態で案内してもらった。集落は防壁がなく境界線が曖昧のようで除雪が少々雑だった。しかしその雑さが除雪作業中に集落の畑を発見したらしい。
「ここだよー」
「なるほど・・・・・」
集落の側には川が流れている。水汲みをする場所が近い理由で畑を設けるため、昔の人達が広範囲の木々を伐採して畑に開拓したのだろう。集落にはなかった囲いが畑にあってかなり広い。未使用の状態だが、俺達も使えるなら何か植えておくべきか? 寒さに耐え、寒さの中で育つ作物・・・・・いや、温室をここでセットすればイケるんじゃないか?
クエスト【限界集落2】
想像していると俺の目の前に青いモニターが現れた。次のクエストに進行できる状況になったみたいだな。二人と戻るとサイナとユキメが待っていた。
「ありがとうございました。もう明日も生きられない皆に美味しい料理を食べさせれて死なずに済みました」
「どういたしまして。他に何かしてほしいことがあるか?」
「・・・・・感謝します。でしたら、底を尽いた食糧を集めてくれませんか? 今日だけ凌いでも明日から何も食べれない日々に戻ってしまいます。どうかよろしくお願いします」
肉 000/100 野菜 000/100 魚介 000/100 調味料 000/100
それが次のクエストの内容だった。うーん、意外と・・・・・問題ないな?
「食糧を備蓄する場所は?」
「こちらです」
ユキメに案内してもらった場所はしっかりとした木造の小屋。扉を開ける彼女が先に入ると地下に続く人工の穴と階段があり、降りていくと生モノを保存するのに最適な低温になっている木柱で壁と天井を補強している蔵に入った。
「ここで集めた食糧を保管してください」
「わかった」
肉と野菜は腐るほどあるからすぐに指定された数を満たしたが、魚介は今すぐとは言えない。
「魚介は・・・・・ケットシー王国で手に入れたあのアイテムを解放する時か」
テレレッテレ~♪ 『海の幸の詰め合わせセット』×10~!
「あ、それなら私も出せますよ!」
「じゃあ、5個ずつ出し合おう」
「はい!」
このアイテムを開封すると魚介系の食べられるアイテムが十種類も出てきた。レア度が低い物ばかりだがそれを求めていないクエストだから問題なく納品できて、後は調味料のみとなった。
「これで全部だ」
また集め直さないといけなくなったが、クエスト【限界集落3】に進行するなら安いもんだな。
「ありがとうございます! これで集落の皆が飢えで苦しみません!」
「よかった。それで他に何かあるか?」
「はい・・・・・あの、集落の外には畑があります。しかし、作物を育てる苗も種がありません。どうかこの集落でも作物を育てるようにできませんか?」
「どんな方法でもいいか?」
「はい。私達でも育てられるなら大丈夫です」
それならば・・・・・。あの方法を実行してみるいい機会だ。
「旧大陸の火精霊の街で温室を買いに行ってくる。二人は待っていてくれ」
「「わかりました!」」
返事をする二人を置いてスキルで火精霊の街へ直接移動した。あそこの畑のマスを埋め尽くす分の温室を買い、農業地区の畑やホームの畑の作物を日頃オルトに【株分】スキルで苗や種にしてもらい、貯めまくってアイテムボックスに保管していたそれらを使う時が来たな。高級肥料も忘れずインベントリに仕舞うと二人が待っている集落へ転移した。
「ただいま。そしてオルトーズ召喚だ」
「それならイクスも召喚です!」
イカルもユニークのノームを召喚し、俺が温室を全部セットし終えた後に手持ち沙汰のメイプルにも畑に肥料を撒いてもらい、オルト達の頑張りの土魔術とクワで畝を作り、種や苗を植えて川から汲んだ水を撒いた。
「よし、これで全部だな」
「終わったー」
「やっと終わりましたね」
時間は掛かったものの、クエストは達成できた。クエスト【限界集落4】に進む通知が届くと突如ユキメの悲鳴が聞こえた。彼女のところに戻ると、軍旗を持つ武装した集団がユキメを含む若い女性を捕えていた。
「待て、彼女達をどうするつもりだ」
「何だ貴様は。邪魔立てするならば容赦はしないぞ」
「どうするのか、そう聞いているんだ」
睥睨する俺に隊長格らしき、白い巨躯のクマに騎乗しているNPC兵士が当然のように言い放って来た。
「我が国に属する町村から税を回収しているだけだ」
「それはどちらだ? スノウリー王国、アイムソウリー王国か?」
「この軍旗を見ても判別できないとはな。我等はアイムソウリー王国の精鋭騎士団だ。ここはスノウリー王国の領土ではあるものの、いずれ我がアイムソウリー王国の領土となる故、わざわざここまで出向いて我が国の為の税を確保しに来ているのだ」
「他国の領土内での略奪の間違いではないか。精鋭騎士団と聞いて野盗、盗賊みたいな真似をするとは呆れるな」
「なんだと」
軽い挑発しただけなのに、侮辱を受けた様子で怒りと敵意を向けてくる。中には剣を抜くNPCまでいる。
「貴様、我等を愚弄するつもりか!」
「事実を言っているまでだ。わざわざ他国の領土まで侵入し、他国の民を略奪する真似をたかが一介の騎士団がするなど・・・・・ああ、なるほど、お前達は騎士の鎧を被った盗賊団か。その軍旗も見るからに随分と古い上に汚れているし、回収されず置き去りにされたどこかの戦場から得た物だろう? それなら納得できるな」
「―――――」
「だがしかしだ。本物の騎士団であるならば、その薄汚れた軍旗同様に、貴様等も薄汚れた騎士団であるということだ。綺麗な鎧を纏っても、纏う人間の穢れを隠すための防寒着の役割を果たしているその鎧を剥がしたら、貴様等の人間のクズの本性も隠せなくなるだろうなぁ?」
『めっちゃ煽る我等が魔王様ァー!!!』
『見ろよ。隊長だけじゃなくて下っ端の兵士達も煽られて怒っているぽいぞ』
『メンタルが弱い俺。目の前であんな風に煽られたら怒るより先に泣く自信がある』
『え? 俺は踏みつけられながら煽られたら興奮しちゃう方だよ?』
『・・・・・ゾクゾクしちゃった』
「き、きっさまぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
獣を突き動かし部下の兵士より先に突出してきた隊長格のNPC。
「もはや許さん!! 貴様の死で我等を愚弄した罪を贖ってもらう!!」
「ふん、堪え性の無い。クズハ【憑依】」
「コヤ!」
控えさせていたクズハのスキルで俺と一つとなり、狐耳と九本の尻尾を生やした直後に白熊の鋭利な爪が俺の身体を引き裂いた―――かに見えただろう隊長格のNPCの哄笑を嘲笑うかのように【身代わり】のスキルにより無傷な俺が白熊の横に立っていることに気付かない。
「【火遁】―――【業火球】」
「な、ああああ、があああああああああああああああああああああああ!?」
業火に包まれるモンスターとNPC。隊長の危機を救わんとユキメ達を放置して俺へ駆けだしてくる騎士団達にペルカが口から炎を吐いて牽制してくれた。
「【相乗効果】! 【手加減】! 【悪食】! 【ファイアボルト】!」
「【全武装展開】【攻撃開始】!」
その隙にイカルが一度に八回連続攻撃の魔法を撃ち、メイプルが自身の装備を兵器に変えてビームと弾丸の嵐を騎士団にお見舞いした。って、メイプル。NPCにトドメ差しちゃってる! まぁ、このNPCもキルしたから今更か。
『何の躊躇もなくNPCをKILLする魔王様。ッパネェっすわ・・・・・・』
『え、NPCに攻撃って出来るの? 〇しちゃうこともできちゃうの?』
『魔王だから出来るんじゃないのかなー。イカルちゃんとメイプルちゃんもNPCに攻撃できるってことは・・・・・アレ?』
『待ってくださいませんこと? 魔王が一人じゃなくて三人に増えてるってこと?』
『それってつまり・・・・・あのモンスターの死の津波が三人分も増えるってことですよね?』
『・・・・・きょ、恐怖の三大魔王』