集落に案内されてまずは茶屋に―――と思ったのに、ア=トゥは俺を掴み持ち上げる。
「お前はワタシと来な。お仲間達は茶屋で待っていろ。勝手に出歩いたら他の連中に喰われると思いなよ」
「は、早く帰ってきてくださいハーデス様ぁー!?」
ルルカの悲鳴を置いてけぼりにしてア=トゥに連行された場所は風呂・・・ではなく、鬼人達が体の各部に包帯を巻いて寝転んでいる建物の中・・・・・ここは治療院か?
「なにするんだここで?」
「かなり濃い臭いなんだ。薬である程度血の臭いを上書きするように染み込ませる」
そこまで臭うのか? ちょっとショックなんだが、そこまで徹底的に消す理由も知りたいところだ。治療院らしき建物の主の鬼人に話をするア=トゥを見ると、ひょいっと奥に連れられ・・・・・密閉された部屋の中で俺は服を剥がされてとんでもない臭さのペースト状のものが薬らしく、上半身だけ塗りたくられた。
「お?」
ステータスに『匂い消し』のバフが20%も付いた。こんなものもあるということは、嗅覚が優れて臭いで察知するモンスターがいるってことになる。
「ア=トゥもこの薬を常に塗っているのか?」
「いや? 主に男達の体臭を消すために使われている。狩りに臭いで勘付かれてはいけないからね」
人間相手に臭いを消す必要あるのかな・・・・・。塗り終えると服を着直してア=トゥとさっきの茶屋へ戻る途中で女の鬼人の数人と鉢合わせして捕まった。
「ア=トゥ、そいつは誰なんだい?」
「特別な客人だよ。アタシ等の先祖の力を受け継いだ悪魔の王さ」
「へぇ、こんなちっこいのにそいつは凄いじゃないかい!」
「それならあの問題の解決にも手伝ってもらいたいものだね。鬼の力を受け継いだならさ」
「おいおい、アタシ等の問題と無関係な奴を巻き込むんじゃないよ」
他の女鬼人達が興味と奇異の視線を向けてくる。気になって仕方がないんだが。首を突っ込ませてもらってもよいだろうか。
「問題とは?」
「アンタには関係ない事だよ。でも、どうしてもってなら話だけ聞いてもらうよ。ついでに飯も奢ってやろう」
「・・・・・人間の肉は出さないよな」
若干警戒しながら言うと、周りの女の鬼人達が何がおかしかったのか肩を揺らし、腹を抱えて呵々大笑した。
「人間の肉を喰うのは男達の方でアタシ等は喰いはしないよ! 喰っただけで腹を壊しそうな不味い肉なんて!」
「そうそう、食卓に出たらブチ切れて思いっきり殴り飛ばしてやるさね!」
「昔、実際に人間を喰った妊娠中の女がそれで子供を死なせてしまった可哀想なことがあったしね。ワタシ達女は人間の肉は喰わないことにしたのさ」
「だから安心しなよ。この集落の旅館が出す料理は絶品だからね」
そういうことなら安心できるが、話の本題は何だろうか?
「ア=トゥ、鬼人ですら問題視している事って何だ?」
「餓鬼さ」
「ガキ?」
「子供の方じゃない。餓えた鬼と書いて餓鬼だ」
話しを聞くと大昔。この集落の周辺には複数の大きな都があったが、空から巨大な隕石が落ちてきて都は壊滅状態になった。そのせいで食糧不足で産まれた赤子や幼い子供達は餓えで多く死に絶え、飢えで苦しむ子供の数多くが川に流して間引き、隕石の影響で火山が噴火して生じた火山灰によって無事な都や山まで広範囲に降り注ぎ、その年の作物や実りが育たず人も動物も飢えで死に、成仏できない魂が悪霊や怨霊となり、強い生命力を持つ鬼人の魂を喰らわんと襲い掛かっているのだとか。
「奴等に噛まれただけで呪いのような症状が起きて、さすがの鬼人でも動けなくなって生きたまま衰弱死するまで生命力を吸われるのさ。しかも血の臭いに敏感でね。お前さんのような全身から放つ血の臭いが濃いと奴らが里の内部まで押し寄せかねないのさ」
そういう事情があったのか。呪いに似た症状を受けた鬼人達は今も苦しんでいる話も聞いて、あの治療院にいた鬼人達がそうなのだと察し提案を出した。
「ア=トゥ、信じられないだろうが半分の成功率でその呪いのようなものを何とか出来るかもしれないぞ」
「・・・・・なに?」
半信半疑な目を向けてくるア=トゥ。俺もNPC相手に使うのは初めてだから何とも言えないから半分の成功の確立だと言ったんだ。治療院にとんぼ返りし、呪いに苛まれている鬼人達に【悠久の聖火】を付与する。神秘的な炎が燃え広がり、鬼人の体内に宿っていた呪いが黒い髑髏上の靄となって浮かび上がり、聖なる炎に焼かれて苦しむ呻き声を上げながら消失したら。
「・・・・・ぬ、苦痛がなくなった」
自分一人で起き上がれなかったはずの鬼人が何事もなかったかのように体を起こした。そんな鬼人を治療院の鬼人が驚嘆の息を吐いた。
「こいつは驚いた。餓鬼の呪いを消す術がこの世に存在しているとは」
「世界は広い。様々な可能性も相応にあるのさ。私はその可能性を見つけている冒険者として世界中に足を運んでいる。呪いの解呪の可能性もその過程で手に入れた」
唸る治療院の鬼人の目の前で、呪いで苦しむ他の鬼人達にも解呪すること30分。呪われた鬼人達を全員救えたので彼等から深々と頭を下げられ感謝されて『鬼人の恩人』という称号を得た。それからリヴェリア達の元へ戻るとルルカから涙目で「遅いですよー!?」と怒られた。しかもフェルに逃げられた。近づこうとしても距離を置かれる初めての経験に地味にショックを覚え、ア=トゥに理由を求めると。
「私達や直接体にしみこませた奴の鼻じゃ何も臭わないが、狼の鼻にはかなりキツイ臭いだろう。しばらくは近づいてくれないよ」
それなら仕方がないな・・・・・。ア=トゥの側で座り直し淹れられたお茶を飲む。
「・・・・・魔王、さっきの話の件だ。ワタシから正式な依頼として引き受けてくれないかね。報酬は当然払う」
ここでクエストが発生したか。
「構わない。だが、相当の数の餓鬼がいるならば、こちらも相応の戦力が必要となる。彼岸の鬼鳴峠が冒険者を雇うというならば力を貸してくれる冒険者がここに来てくれるだろう」
「魔王には配下の一人もいないのかい?」
「悪魔の配下なら一人もいないが、俺を慕ってくれる仲間なら大勢いる」
「ふぅん、それなら彼岸橋の連中にはワタシから話をつけておいてやろう。餓鬼の問題を解決するまではあの十人抜きの試練を無くす代わりに、餓鬼の問題の他にもこの里の手助けをしてくれるかね」
お安い御用だと了承してクエストを受託した。
【新エリアに集まれ!】新エリアで続々と新発見したものを語ろうスレ54【白銀さんに続け】
551:デデーン
スノウリー王国側に参加すると表明した白銀さんに乗っかって敵プレイヤーに押し負けてフラッグを占領されて勝負では負けたけど試合に勝った一時間後に例のあの人は隠しエリアを解放するとは、動かないと死んでしまう魚か何かですかねー?
552:チョイス
いやいや、今回ばかりは白銀さんは防御力のバフだけしかしてないから暴れたりなかっただけだってば。隠しエリアを見つける元気が有り余っていたのさきっと
553:大言氏
鬼の隠れ里か。常闇の町の鬼と関係ありそうだな。あそこ、雪ん子ちゃんの保護目的で鬼を倒す以外しないプレイヤーは殆んどだから
554:最終兵器鬼嫁
それなら割りと目撃されてるぞ。あのクソ強い鬼を倒す周回をしてる白銀さんを見て、何かある! とプレイヤー達と察して、周回を終わるまで待ってから凸した俺が聞いた話じゃあ、弱体化せずに十回も倒したらスキルが進化した、後は鬼達が住む隠れ里の地図を手に入れたと教えてくれた
555:サタジリウス
≫554お前まさかもうその里に向かったんじゃないだろうな?
556:ぽろろん
その前にどうしてその情報を今さら公開するんだ!
557:満○
抜け駆けしたか?
558:最終兵器鬼嫁
いやいや、場所を教えてもらってないのに行ける筈がないだろ。まぁでもぉ? 白銀さんがベヒモスとジズとリヴァイアサンのレイドの募集をしているのを後から知って一緒に攻略させてもらいましたけどね! 勇者の称号は取れなかったのは残念だけど、高い値段で素材を買い取ったくれたから懐が暖かいですねー!
559:デデーン
それはそれで憎らしいほど羨ましいな!
560:チョイス
クソが!
561:満○
何でその時俺はサークル内の友達と遊んでたんだー!?
562:サタジリウス
おい、ちょっと配信動画のところを見張ってたら白銀さんが宴を開催してるぞ
563:最終兵器鬼嫁
お、死神の宴!? ちょっと見てくるー!
564:ぽろろん
俺も見るわ
565:満○
なるほど、常闇の町の外を真っ直ぐ歩いた先に真っ赤な橋があるのか。そこまで行ったプレイヤーはいるだろうけど、橋はあったかな?
566:デデーン
ほうほう、本来なら鬼の十人抜きをしなくてはならないところ、期間限定で彼岸の鬼鳴峠のクエストを達成するまでは素通りできるのか
567:チョイス
それはありがたい! あの鬼でさえ勝てないのに十人抜きをしなくてはならないのは無理ゲーだって話だ!
568:大言氏
わぉう、白銀さんと一緒にいる鬼の人・・・・・
569:デデーン
その、色々と大きいですね? しかも女の鬼さんは美人と・・・・・(メモメモ)
570:サタジリウス
可愛い鬼っ子ちゃんがいるなら今すぐ行かねば(使命感)!
571:最終兵器鬼嫁
見てきた。そしてあのサイズで可愛い鬼っ子がいるのか怪しいところ。いや、俺的にはあの大きいサイズで是非とも抱き締めて欲しい。そして俺のお嫁さんになってくれぇー!!
572:ぽろろん
フレから鬼の隠れ里に行こうと誘われたんで今から行ってきます
―――以下の通りの掲示板の反応を確認できて満足な俺は、ギルドの掲示板にも彼岸の鬼鳴峠の情報を教える投稿を済ませた。
「ア=トゥ。ここで俺達でも買うことができる家はあるか?」
「ここに住むのかい?」
「取り敢えず買っておきたいだけ。買えたら俺達が暮らしてる家屋に繋げることが出来るから」
「魔王の根城か。さぞかし迫力ある城なんだろうねぇ」
「いや、いたって普通の和風の家屋なんだが。そういえば鬼人の間で使う金ってどんなの?」
「自給自足しているから外の世界の金はないよ。こっちの言い値でいいなら外の世界の金で取引に応じるが?」
それでいい、と頷く。のほほんと鬼人が出してくれた美味しい茶菓子を食べて小休止も終わる。
「さて、そろそろ行くよ。餓鬼が出没する場所は?」
「男衆についてきな。ああ、女共は付いていくなよ。餓鬼に憑りつこれるのがオチだ」
「そこまで厄介なのか?」
「憑りつかれたらもぅ助けられないのさ。精神を蝕み、餓鬼の影響で常に空腹に苛まれて手当たり次第暴れる凶暴化になる。そうなったらもぅ殺すしかないのさ」
男と女、どっちが襲われやすいのかと問うと女の方らしい。間引きされた子供の母を求める強い想いが・・・・・?
「時にここの集落って米はある?」
「あるがそれがどうかしたのかい」
「なら、帰ったら家と一緒に畑も買いたい。できないならいいけどさ」
男の鬼人が餓鬼討伐に行く集合場所にリヴェリア達から声援を送られながら向かった。その場所は集落の裏側で俺が着いた頃には百人ほどの鬼人が様々な武器を片手に持って佇んでいた。お、橋で戦った鬼や呪いを解いた鬼もいるのか。
「む、お前、何故ここにいる」
「ア=トゥから依頼で餓鬼の討伐の手伝いを」
「恩人の力を借りれるならば呪いなど恐れる必要はなくなったも当然だ」
「呪いのことは感謝するがな小僧、足手まといだけはなるなよ」
「おい、こいつは強いぞ。先祖の力を継いだ猛者だという話だ。剣匠も気に入っている」
「なんだと、剣匠が?」
何やら話が盛り上がってるけど剣匠ってア=トゥのことか? ということは彼女は鍛治師か!
「おい、くっちゃべってないで行くぞ! 剣匠のお気に入りだかなんだか知らないが、自分の身は自分で守ってもらう! 物見遊山気分で来るなら剣匠の胡座の中でも引っ込め! いや、やっぱり許さん! 俺が顔を突っ込むわ!!」
「そいつは聞き捨てならねぇな! 剣匠の膝は俺がいただく!」
「たわけぇ! 剣匠のデカ尻の方がいいだろうがよぅ!」
「それなら剣匠の乳房を触って・・・・・」
ヒュンヒュンヒュン、ドドドゴンッ!!!
言い争いそうになったところで、どこからか飛んできた巨大な鎚が地面に突き刺さる前に、数人の鬼人達の頭にぶつかった。戦いに行く前に既に負傷者が出るなんて恐ろしすぎる・・・・・っ! ほら、鬼人達が冷や汗を掻いてるよ。そしてア=トゥ、地獄耳なんだな。茶屋から裏側の入り口まで結構距離あるのに。