後から来てどれだけ倒すまで終われないクエストを受けたか分からないペイン達を置いて、倒し終えた俺や帰る時間帯となった他の鬼人族はプレイヤー達を置いて彼岸の鬼鳴峠へ帰路に就く。
「ただいま、戻ったぞー・・・・・随分と親しくなっているようでよかったよ」
「よくありませんよー!? ルルカが玩具にされているだけなんですー!」
女の鬼人達にどんな種族よりもちっこいから可愛いと可愛がられているらしい。いつの間にか服装もわざわざルルカに合わせて着物にチェンジしているし、リヴェリア達も受け入れられている感じで着物を着ている。
「お疲れ様。先祖の力を受け継いだ奴が餓鬼に後れを取るわけがないね」
「倒す数が多くて苦労したがな。変な刀を掴まれるし」
「変な刀?」
お社でひょんなことで手に入った大太刀をア=トゥに見せた。鞘から抜き取って刀身を見つめるその眼差しは鍛冶師の目立った。
「こいつはどこで手に入れたんだい」
「霊山に向かう途中にあるお社で教わった作法でお祈りしていたら突然その刀が飛び出してきた。俺を呪おうとしたっぽいけど、俺には呪いの耐性があるから逆に呪いが屈服してそんな姿になった」
「あのお社に奉納されていた刀か・・・・・こいつに触れた奴はみんな数日の内に死んだらしいが、これから微塵も呪いが消え失せている。お前はつくづく悪運が強い男らしいね。気に入ったよ」
褒められた感じがしなくて微妙だな。返してもらおうとした手を伸ばす俺が届かない位置に刀を持ち上げるア=トゥに首を傾げた。
「魔王ハーデス。提案があるけど乗らないかい」
「話だけは聞こうか」
「三日後、鬼闘の刃選が始まる。参加しないかい。勝ち残ったら褒美をやろう」
急だな!? でも、褒美があると聞いて乗らないわけにはいかないだろう。何より、十鬼とア=トゥと戦える可能性もある。
「わかった、参加するけど鬼人族以外の種族も参加していいのか」
「ワタシから言っておくから問題ない。お前が気にすることはないさ」
そういうことなら、と改めて参加の意を示すと刀を返してくれた時、妙な騒ぎが聞こえてきた。別の女鬼人が騒ぎの原因を確認しに行ったので待つと戻ってきた。
「死んだと思われた男衆が戻って来ただけだ。封鎖状態の採掘場で崩落した穴に落ちて冒険者の手を借りるまで出られなかったらしい」
「そうかい。餓鬼や悪霊なんかに殺られていたわけじゃないか」
さも気にしていない風にア=トゥは言い捨てる。あ、そうだ。
「ア=トゥ、俺でも買える家ってどうなった?」
「本気でここに住むつもりなら案内してやるよ。その代わり餓鬼の討伐の報酬は選んだ家の購入の割引で構わないかい」
「いいぞ」
さっきからその報酬が無い事に不思議だったけど連続クエストじゃなくてそういうことか。案内を買って出たア=トゥに道案内してもらった道中、男の鬼人と歩いているよーく見覚えのある顔の三人のプレイヤーとばったり会った。
「おお、白銀さん! やっと会えたぜ!」
「スケガワ、イズとセレーネ。もう里に入れるようになったのか。意外と早かったな?」
「この鬼人族の人が採掘場の大穴に落ちていたところを助けたからよ」
採掘場も採掘場で発生するクエストがあったのか。三人が来てすぐに見つけるとは中々やりおる。そんで、ア=トゥの目が妙に厳しくなったのは何故?
「アレを掘ろうとしてヘマをしたのかい。あれ以上掘るなら地上から掘らないといけないってのを解っているのに、誤って緩いところにロープを固定して降りたところ、固定した釘が引っこ抜けて落ちてしまった、ってところか」
「・・・・・申し訳ございません剣匠。どうしても必要な鋼が不足していました」
「で、でも、その鋼をたくさん取ったのでしばらくは困らないはずです・・・・・え?」
「「「剣匠?」」」
あ、やっぱりそこに反応して食いついたか鍛冶師は。
「助けられたからにはしっかり恩を返しな」
「はっ」
動き出したア=トゥを追いかけるため三人と別れる。後でどんなことをしたのか教え合おうと擦れ違いながらイズ達にそう言いながら。歩く先では建物が多くなり、鬼が住む集落にしては本当に立派で和風の建物だらけだ。ここまで来た事がないからとても壮観だなー。
「あなた、あそこの高い建物が高級旅館ですよ」
「ほう、中はどんなのかいつか見てみたいな」
「今は中に入れさせられないが、お前達なら直ぐに入れるようになるよ」
リアルの温泉旅館でもないその施設は鬼の身長に合わせてやはり高く広く、そして大きく作られているだろう。俺のホームじゃあ窮屈だろうな。だって人間サイズだもの。それにしても・・・・・。
「何かと俺は鍛冶師と縁があるな」
「里の外にワタシ以外の鍛冶師と交流あるのかい?」
「新大陸の名匠にこの大陸で神の匠と呼んで神匠のドワーフと人間、あとヴォパールって人型の兎の種族とな」
「へぇ、そいつは興味深い。ワタシより鍛冶の技術が上な奴がいるんだね。会ってみて鍛冶の腕前を見させてもらいたいもんだ」
意外とすぐに会わせられそうなんだがな。そう言えばヘーパーイストスやユーミルはこの里のこと知っているのか? お土産にいくつか鉱石と鋼とインゴットを見繕って持って行こう。
「着いたよ。ここだ」
「・・・・・ここ?」
何か妙に既視感がある店が・・・・・え、まさか? 俺だけ中に入ると信じられない公開が目に飛び込んできた。
「おや、お久し振りですねお客様」
「どうして鬼人族の里にいるんだ!?」
マイホームの売買でお世話になってるNPCが俺を出迎えてくれた! え、よく無事だなお前!?
「私は必要あらばどこにだって出張するのですよ」
「いやいや、鬼人族のこと知らないはずがないと思うのに、よくもまぁこの里で商売できるな」
「教えることはできませんが秘密の伝手がございましてね。さて、お客様はマイホームをお買い求めに来たのであればご要望をお聞かせください」
気になる秘密の伝手だが、本題は確かにホームの方だな。NPCがテーブルにスッと手をかざすと、俺の目の前にウィンドウが立ち上がる。このNPC不動産屋が見せてくれたのは、ホームの種類の分類表であった。集合住宅タイプ、居住性重視一戸建てタイプ、庭付き一戸建てタイプ、高級住宅タイプ、屋敷タイプ、農場タイプ、工房タイプ等々・・・・・この辺りは変わらないところ。
「お? 鬼人族の家も買えるようになってるんだ」
「ええ、新しく商品として増やしました。家具も一式鬼人族用の物を取り揃えております」
へぇー、と鬼人族用のマイホームのカタログを最後まで見た。おお、鬼人族らしく酒を造る生産工場もある・・・・・って、なんだこの鬼の顔半分の島は。鬼ヶ島って。こんなものまでホームとしてあるのかよ。これのことを訊くと不動産屋のNPCはものすっっっっごく長々と説明をしてきそうで・・・・・まよわず値段がバカ高い鬼ヶ島を購入した。
「お買い上げありがとうございます。お客様のホームはこの度10件となりました」
『死神・ハーデス様が一定数のマイホームを保有しました』
『おめでとうございます! 【蒼龍の聖剣】のマスターが国家を建設する最低資格の1つを達成しました!』
『資格をすべて満たすと、旧大陸の好きなエリアで【蒼龍の聖剣】の国を建設、建国ができます!』
なんかとんでもないメッセージが届いたんだが・・・・・。国家の建設? 建国だと? 残りの資格とやらも一体何のことやら・・・・・・。
『王の証印 0/5』
・・・・・意外と、難しくない? でもあと一人、あと一人足りない・・・・・! ラヴィッツの王に会えないかヴァッシュに訊いてみるか? と思いながら不動産屋を後にした俺を待ってくれていたア=トゥに訪ねた。
「ア=トゥ。鬼人族の王様っているよな?」
「ああ、いるよ。会いたいなら自分で会えるように頑張りな」
「わかった。それから食材と畑で育てる作物売ってない?」
「それならこっちだ。ついてきな」
その後、目的のことを果たした後でも案内をしてくれるア=トゥと彼岸の鬼鳴峠内を歩き回ったら、日本家屋のマイホームに戻ったルルカが一言。
「もう、あの怖い里には二度と行きたくありません・・・・・! ですが、ナヴィゲーターとしてまた一つルルカは優秀に・・・・・!」
と、言いながら今日のことを日誌に綴るナヴィゲーターの精神は思ったより疲弊しているようだったので、心中で謝罪した。それから儀式が始まるまでの間、リヴェリア達と温かくなった南極に訪れ、再会したシロクマウサギと触れ合い、氷壁が溶けてしまって新しい防壁を組み立てている第二の町の住民達に手伝いをしている港町のNPC達や、老人と女性と子供しかいなかった集落には男達が戻り、あの女性の隣に精悍な男性が付き添っている様子を見て安心し、美味しいスープが飲めた第三の町も以前と変わらない活気で賑やかだったことを見ていたら、あっという間に三日過ぎた。
オオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッ!!!
彼岸の鬼鳴峠内の闘技場。空気が震え、肌もビリビリと数多の鬼人族の彼等彼女等の咆哮で震える。その咆哮はこれから本選の出場を決める鬼人族の選定に参加する者達に向けられている。
「これより年に一度の鬼闘の刃選の儀式を始める! ルールは簡単、初めに舞台の上に本選に進む者が4人になるまで戦いは続く! 本選後は一対一の戦いの最中、相手の戦闘不能か降伏、死亡が確認されるまで戦いは止まらない!」
闘技場の一番位の高い鬼人族が座る専用っぽい高台から着物を着た少女と和服を着た大きい男の鬼人族の傍らで声を張り上げる従者と思しき女鬼人族の言葉に耳と目を向ける。
「なお! 今年だけ通例の儀式に特別なルールを付け加える! 今回限り、我等が先祖である前鬼後鬼を倒し者、悪魔の王ハーデスなる者を参加させる代わりにこの者を倒した者は即座に本選の出場を認めるものとした!」
鬼人族達が遅れて闘技場に現れる俺に気付いた。
「決して身体が小さいからと、鬼人族以外の種族だからと侮るな! 相手が誰であろうと己が強さを目の前の者に証明せよ! ―――では、鬼闘の刃選を開始の宣言をここに発する!」
その言葉と共に、周囲から鬼人の得物が大太刀を抜く暇も与えさせてくれなかった俺に突き付けてきた。
ガッキイイイィィィィィンッッッ!!!
「んなっ・・・・・!?」
「ありえねぇ・・・・・っ」
「どれだけ硬いんだ・・・・・鋼を斬る感覚だぞ!?」
「ぐぬ、俺の大刀に刃こぼれを・・・・・!」
頭や肩、胴体に武器を突き刺されてもダメージ0な俺は当惑と動揺を隠さない鬼人を他所に大太刀を抜いた。
「まずは五人吹っ飛べ」
両手で柄を握り力強く水平に振るい回した刀身の攻撃範囲が20%も増えて鬼人族は武器で防御の構えをしても、称号【ホームラン王】の効果で防いでも舞台から吹っ飛ばした。
ザッ。
「押し潰れちまいな豆粒ぁッ!!!」
女の声と同時にスパイク付きの金棒が打ち落とされた。ガン、と軽い衝撃を受けただけで俺の身体は吹っ飛ばず、殴りかかってきた女鬼人と目が合った。
「「・・・・・」」
終わりかな? なら今度はこっちの番と指の関節を鳴らし、瞬間移動で彼女の懐に跳び込み、回し蹴りをお見舞いして吹っ飛ばした勢いで別の鬼人ところへ移動し、独楽のように回転しながら斬撃を浴びせながら吹っ飛ばした。
「ぬぅんっ!!」
「っ!」
横から鋭く突き出た矛先を受け止めざるを得なく、そして笑みを浮かべた。俺に攻撃をしてきたのは彼岸橋で十人抜きをする筈だった最後の鬼、十鬼だった。彼の鬼の前に立つ俺の周囲は闘争で騒がしく五月蠅い筈なのに俺と十鬼の間だけは静かになったように思えて、目の前の鬼の声がよく聞こえる。
「お前に暴れ回れると俺達の立つ瀬がない。ここで退場してもらうぞ魔王ハーデス」
「十鬼、戦い損ねた彼岸橋の続きをしてくれるのか?」
「お前がその気でいるならこの儀式を借りて続きをしてやらんでもない。かかってこい」
「上等だ!」
飛び出しながら上段から大太刀を打ち下す俺に雷の如く突き出した陀棒が金属音を鳴らしながら交った。