「むんっ!」
連続の突き出しに柄を短く持って冷静に蛇棒の矛を刀身で沿うように重ね軌道を反らしながら受け流しつつ一歩ずつ前に進む。
「目がいいな! 俺の矛を受け流す鬼人は片手で数えるぐらいしかいないというのに!」
「真っ直ぐどこに突いてくるのか分かれば、そこに武器を構えておいて後はタイミング合わせて受け流す簡単なことだ」
不敵に指摘したら、太陽を背にして上から飛び掛かってくる複数の鬼人達―――あ、彼岸橋の兄弟鬼人達。
「大兄貴! 手を貸すぜ!」
「先日は後れを取ったが、我が兄弟の総力に叶う道理はない!」
「いざ、尋常に勝負!」
そういう戦法は禁止されてはいないが、いないが・・・・・。
「【咆哮】!」
小さい身体からどうやって出しているんだと大声を張り上げると、九人の鬼人達の身体が急に硬直して無様に倒れ込んだ。その隙に一人の鬼人の足首を掴み―――全力で横に振り回した。
「おうらぁぁぁぁあああああああああああああ!!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおー!!?」
「がっ!」「ぎゃっ!?」「ぶはっ!」「ぐぁ!」
振り回される兄弟の身体とぶつかって弾かれる鬼人達の様を見送ったら、振り回した鬼人を明後日の方へ放り投げた。ボーリングのピンの如く、飛んできた鬼人とぶつかって何人かは巻き添え食らって舞台から落ちたら嬉しいな。
「またしても兄弟達を赤子の手を捻るようにして倒したな!」
怒りではなく敬意が籠った声を発しながら俺の隙を突こうと槍を引いて一瞬の溜めたのを見逃さない。【八艘飛び】で前に飛び出す俺を驚きもせず、蛇棒を正確に突いてくる。人間を真っ二つにしかねない矛の刃に思いっきり大太刀を打ち落として、ガンッ! と俺から軌道をずらしながら体を回転させる軸となった蛇棒の上を激しく回りながら十鬼に迫った。
「ぬぅううううん!」
蛇棒や両腕でのガードをする暇もないならば頭突きで打ち落とすまで! と念が籠った頭が十鬼の気合の声と共に迫って、そうなると俺も―――。
「頭の硬さを競いたいなら、相手を選び間違えるな!」
頭突きには頭突きで応戦して十鬼の額と俺の頭が激しくぶつかり合った。俺は地面に叩きつけられ、十鬼は覚束ない足でフラついてたけど・・・・・ブシュッ! と十鬼の額からクジラの潮みたくポリゴンが噴き出した。
「・・・・・か、硬すぎるだろう、がっ」
最後の台詞を残して仰向けで倒れる十鬼に一礼して未だに戦い続けている鬼人へ戦いを挑んだ。なお、後から知ったが儀式に参加できなかったイッチョウ達は里の中で中継で見れていたらしい。それを今知る術がない俺は四人になるまで鬼人達を退場させまくって・・・・・。
「そこまでぇっ!!!」
予選は30分ほどで終わり舞台の上には俺と男の鬼人、ア=トゥと女の鬼人だけ立っていた。
「いま立っている四人が鬼滅の刃選の本選に出場する者達となった! 本選は部隊の修復後に開始する。それまで休息を取り己の得物の整備をするが―――!」
「いやいや、申し訳ないが待っていられないねそれは」
女鬼人が従者の言葉を遮り、手に持っていた木刀をこっちに向けてきた。
「戦場に場所は問わず。互いが有利な場所だろうとそうでは無かろうと、どんな場所でも戦いを見出したなら、互いの魂魄が燃え尽きるまで戦うまでのこと。そう思うだろう魔王殿?」
「・・・以下同文、と答えさせてもらう。体が温まった内に敢えて冷やすよりは今の状態を維持して戦うのがベストだ」
「よきかなよきかな。精力が溢れる魔王だね。ア=トゥが気に入る男だ」
舞台の中心に歩み寄り、対戦相手を待つ女鬼人がクイクイと手を招く仕草をしてきた彼女はア=トゥに言う。
「先に魔王と手合わせをさせてもらうよ」
「ああ、構わない。お前も異論はないね」
「はっ」
ア=トゥと男の鬼人が舞台から退いてしまって、流れ的に片手に持っている木刀と腰にも差している木刀・・・二刀流の使い手の女鬼人と戦うことになってしまった。
「私は緋角隊隊長ア=セン。一時の遊び戯れに興じよう魔王よ」
「人間界の魔王、死神・ハーデスだ。その一興に応じよう」
「お前達、何を勝手に・・・・・はい? ・・・・・わかりました。二人の戦意に応じて本選を開始する! 闘争を開始せよ!」
従者の叱咤と制止が着物を着た少女に遮られたようで、俺達を見て止めることは吝かだから好きなようにさせろと言ってくれたかもな。
「・・・来ねーのか? 遠慮せずかかってこいや」
「悪いが俺の足の速さは亀より遅いんだな。攻撃して来てくれないとこっちも攻撃が出来ないのさ」
「鈍足な魔王なんて初めて知ったよ。そんなら、こっちから行かせてもらうよ」
ア=センがフッと足音を鳴らさず姿を掻き消した直後に左手で大太刀を背後に構え右手を握り拳で半身後ろへ捻りながら横殴りすると、木刀を受け止めア=センの頬を捉えきれず、右手の拳が空ぶった。
「おっとと・・・・・」
防がれたかつカウンターまでされるのでは距離を取るしかないア=セン。
「・・・・・掠っただけでもこの拳の威力か。まともに食らったらワタシも危ないねぇ」
「ならどうする?」
「急かすなや急かすなや。まだまだ始まったばかりなんだ。遊びに興じようぞ」
それからも攻めはア=セン、守りは俺という戦いを繰り広げた。一方的な攻防の戦いがしばらく続いたが永遠に続くわけではない。
「さてウォーミングアップも終わりだ。もう一本使うぜ」
「やっとか。待ってたぜ」
「はは、待たせた分はしっかり魔王の身体に教え込んでやるさ」
腰に差していたもう一本の木刀の柄を握り、二刀流の構えを取ったア=センがスキルを使った。
「二刀流【鷹】」
真正面から地面を蹴って跳躍した状態で木刀を打ち下ろしてきた。試しに受け止めてみようと防御の構えを取ったら、ガキィンッ! と音共に俺が吹っ飛ばされた。
「二刀流【豹】」
限界まで前のめりに上半身を倒した状態で体勢を崩しかけた俺の背後に回ってきた。
「二刀流【犀】」
「っ・・・・・!」
背中に鋭い突きを入れられて上空に弾き飛ばされた。しかも身体が動かん・・・この後の攻撃は・・・・・!
「二刀流【隼】」
空中で身動きが取れない俺の横からさらに飛び上がり、宙を蹴って俺の首に木刀を叩き込んだ。
「こいつでトドメだ。二刀流【象】」
俺の首を木刀で交差して挟んだまま一緒に舞台へ落ちながらア=センは頭から俺を舞台に叩きつけた。うーん、まさか俺が犬神家みたいな体験をする事になろうとは。それに【スタン無効】を持っていなかったら気絶した扱いで負けていたぞ。あっぶねー!
「・・・・・まぁ、ダメージは0だがな」
「本当に硬いねぇ。魔王の前世は亀か何かかい」
ボコッと埋まった上半身を引っこ抜くところを邪魔しないア=センに呆れられる。しかし、二刀流でそんなスキルもあるのか。イッチョウやサリーが手に入ったならさらに強くなれるだろうな。
「質問していいか。それ、中に刀身が納まってるだろ」
「もう気付いたかい。なら、もう木刀のままで戦うのは止めて本当の二刀流をお見舞いしようじゃないか」
木刀に触れ、シャァーと音を鳴らしながら鈍色の刀身を窺わせ、木刀と思っていたのが鞘であってもう一本の木刀も鞘を抜いて刃を剥き出しにした。
「さっきと違って今度こそオメーにダメージは入るぜ」
「だといいがな。俺の硬さはこの大陸で1、2位に誇るぞ?」
「突破のし甲斐があるねぇそいつは。―――二刀流【豹】」
高速移動のスキルを使ってきた。そして背後に回らず俺の周囲を残影を残しながら走り続ける戦いも可能だったのか。
「二刀流【蝶】」
走り周りながら飛び出して、大太刀で突きを入れると空中でありながら舞う蝶のように躱されてまた周りに走るア=セン。
「二刀流【鰐】」
今度は真正面から体を回転させながら刀を一つに合わせて突き出してきた。それに対して俺は上段の構えを取り―――。
「【日刀】【玖ノ型】」
鋭く力強い踏み込みと素早い剣の振り抜きをしながらア=センの横を通り過ぎた。攻撃を中断して背後に立つア=センは短く吹いた。
「今の技と名前・・・・・覚えがあるよ。まさか・・・・・日の継承者でもあったとはね」
「知っているのか」
「略奪していた鬼人族達をたった一人で半分も斬り捨てた人間の話は、今でも語り継がれているほど化け物だからね。あの人間の技を盗んでワタシらも技を身につけたが・・・・・まだほど遠いようだね」
ドサリとそれだけ言い残して倒れ伏したア=センの敗北の事実は高らかに告げられ、俺の勝利も告げられた。それからすぐにア=トゥと男の鬼人の戦いは始まったが・・・・・。
「【九重】【臨】」
鞘と柄を握りながら刀の柄頭を相手の懐に飛び込みつつ突き出して吹っ飛ばす突進技で、相手を何もさせずに勝ってしまうア=トゥの戦いぶりは、きっとスキルを使わずとも勝てたはずだ。思い上がり、傲慢な考えだろうが俺に対する当てつけ、それともさっきの技を見せられた対抗心かもしれないと思った。
「来な魔王ハーデス。先日も言った通り、ワタシに勝てば褒美をやろう」
「褒美よりもア=トゥと戦える日を待ってたよ。それが褒美でも構わないぐらいは」
「ははは、面白い奴だねぇ。ワタシに勝てたならますます気に入るよ」
彼女の前に立ち、さぁいよいよ最後の戦いだ
「闘争を始めよ!」
最初に動いたのはア=トゥだった。
「【九重】【臨】」
「!」
さっきの技から仕掛けてきたか。瞬発力は向こうの方が早いようだな。大太刀でア=トゥの突進攻撃を受け止めるのは向かない。なら、こうするしかない。
「【日刀】【拾壱ノ型】」
「【兵】」
残像を残し高速の捻りと回転による躱す俺に、ア=トゥが三連撃を放って来た。
「【拾ノ型】」
続けざまに発動したスキルで相手の真上を飛んで背後に回り、空中から放つ。
「【闘】」
強烈な斬撃と一撃に加えてノックバックの効果もあったことを知らず、俺は後方に吹き飛ばされた間に刀を鞘に納めて腰を低く半身を斜めに・・・・・あの構えは!
「まずっ」
「【者】」
「【漆ノ型】!」
首を狙う一撃だと迫ってくる刀の軌道を先読みし、空中で反転した体勢で刀を振るった! 刀の刃先はア=トゥの刀に当たりはしたが、俺の防御力を完全無視するスキルらしく、軌道をずらしても片足が両断されてしまった。
「くくっ・・・・・楽しいね。アンタ好きだよ」
「やってくれる・・・・・!」
「白銀さんの足が斬られたァッーーーーー!!?」
「あのNPC、まさか・・・・・!」
「バッカッ! 変な妄想をするな! そんなはずないだろ!」
「というか、いつもの白銀さんらしくないな。そういうルールなのか?」
「やっぱり誰かしらそう思っていたか。多分魔法系のスキルの使用が封じられているのかもな」
「頑張れ白銀さーん!」
「降参するかい?」
「断る。足一本失ったぐらいで戦意が萎える魔王じゃないぞ」
「そいつはよかった。なら存分に遊び戯れよう【階】」
俺に向かって離れた位置から振るっても斬撃が飛んでこない限り当たるはずが・・・・・そんな俺の考えを嘲笑うア=トゥの剣技は、斬撃を弾丸のように飛ばす! 失った片足じゃあ満足に避けられない、から・・・!
「はぁあああっ!」
片手で大太刀を持ち、飛ぶ斬撃を真っ向から迎撃する! 何発か食らったがダメージはさほど高くはない。
「【陣】【列】」
【陣】は一瞬で距離を縮めで下から振り上げる。【列】は柄を両手で持って横凪ぎの一閃。
「【拾ノ型】! 【肆ノ型】!」
片足だけで跳躍し、空中で反転した体勢で刀を振るって下から振り上げられる【陣】の刀を弾いてア=トゥの背後に回り、着地する瞬間を狙われ俺へ振り向き様に振られた【列】に激しい動きをして繰り出す高速の回転斬りで応じた。
「【在】」
「っ・・・・・!」
大ぶりで真円に近い弧を描いて打ち下ろす太刀筋で俺の左眼ごと装備を斬りやがった! それどころか左腕を両断された・・・・・! ア=トゥが、鞘に納めた刀をまた居合斬り―――。
「歯応えのあるいい戦いだった―――【全】」
ズババババババババッッ!!!
俺の全身を目では見切れない刹那の斬撃に何回も切り刻まれ、俺のHPが1割まで減った。地面に倒れ伏す俺を見ず勝負ありと背を向けるア=トゥ。
「またやろう」
「―――勝利宣言をするのはまだ早いぞア=トゥ!」
「っ!?」
まだ生きていたのか、と目を丸くして唖然の表情をこっちに振り向いてみせてくれた瞬間には、高らかに跳んで落ちながら片手で持つ大太刀をア=トゥに打ち下ろした! だが、寸前で刀を前に突きだして俺の最後の一撃を防いだ。
「ぐぅぅぅぅ・・・・・!? なんだ、この力・・・・・! さっきまでと力と重さが全然違う・・・・・!」
「命が危機に瀕するほど火事場のクソ力が発揮するんだ、よっ!」
バキッ! と音を立ててア=トゥの刀を折った! 同時に彼女の左肩から右脇腹を斬って―――ア=トゥのHPを全損させた。