さーて都へ向かおう! と集落の裏口へ目指す俺なんだが、背後から声を掛けられて振り返った視界に映り込むメタルスライムの固定パーティー。
「白銀さんそっちは里の裏口だけど、外に行くのか?」
「おう、採集クエストを受けたんだ。餓鬼のモンスターが出るエリアの先の深奥に行く」
「はい! 僕達もついていっていいですか?」
「いいぞ。俺についてこられるなら」
軽く了承して歩き出す俺達を見た他のプレイヤー達までも、少し距離を置いて便乗するプレイヤーが増えながらついてくる。そんなプレイヤー等と違って遠慮なく行動できる身内のギルメンが俺達と合流してくるし、空から追い掛けてきたペイン達も来た。死の灰の大地に行く前にお社のバフをもらって・・・・・。
「白銀さん。お祈りしてなんか効果あるのか?」
「ん? ああ、皆は知らないのか。俺がした祈りの作法をすると悪霊のモンスターから襲われなくなるんだよ。これ鬼人から教えてもらったんだ」
「「「「「「なん、だと・・・・・」」」」」」
驚くメタルスライム達はお祈りしても大して効果はなかったらしくて、お社を素通りしていたらしい。じゃあ俺達もその作法を教えてくれと頼まれるのは当然であって、俺はそれを教えることになったその後。
「おおっ! 本当に悪霊が襲ってこなくなってる!」
「餓鬼のモンスターと戦ってる間に襲ってきて鬱陶しかったのに!」
「お社バフ最高!!」
餓鬼に交じって無数の悪霊系モンスターが沸いて襲ってこなくなった結果に驚きと喜びを口にするプレイヤーの声がいろんなところから聞こえてくる。先頭に立って前へ前へと餓鬼を倒しながら進む俺に他のプレイヤーも続き、マップを頼りに足を動かす俺を始め、殆んどのプレイヤーが俺の目的の旧都跡地に辿り着いた。
「うわ、灰まみれ!」
「どこもかしこも灰色だな」
「うぎゃー!? 何か踏んだと思ったら白骨死体だぁー!」
「殆んどの家は灰で積もってるけど、掃除すれば使えなくもなさそう?」
「イベントじゃない無人のエリアは初めてだな。何かあるもしれないから探してみようぜ」
「探索の開始だ!」
意気揚々なプレイヤー達がバラバラになって活動開始する。俺は都の外に用事があるから任せるがな。
「白銀さん。外に行くんだっけ?」
「そう。花と貝と虫集めを―――」
「虫集めと聞いて!」
「僕達も手伝います!」
シュバッ! と蟲人族に種族チェンジしたエリンギとトンボが現れた。虫テイマーの聴力を侮った・・・・・ちょっと待て。
「お前ら、なんだその虫の姿は!?」
「「・・・・・えへへ」」
後頭部に手を回して照れくさそうに笑いだす二人。こいつらの従魔の虫、完全に人型だぞ。そんで色んな虫の部位を繋ぎ合わせたかのような感じで色も形も所々違って歪だ。ベースはドラゴンフライか? エリンギの腕が太くて筋肉質になってる手に大きなハサミと腕に蜂の下腹部と針、肩に蜘蛛の腹部が備わって、尻尾の部分は蠍の針。トンボはカマキリの鎌を腰に備え、腕にエリンギと同じ蜂の下腹部をくっつけて尻尾の部分に三匹のオオムカデの頭部にそれぞれ別の何かの虫の頭をくっつけてる・・・・・そんなんで飛べるのか?
「テイムした虫をキメラにしたのか?」
「神獣の眷属同士の戦いに勝った時の報酬で虫同士をカスタムできるようになったんだ」
「エリンギさんとあれこれ考えてこの姿に落ち着きました」
「しかもこの姿で水晶蠍を倒した」
マジかよ・・・・・見ない内に逞しくなっちゃって・・・・・人間も止めてしまったて。
「というわけでどんな虫を集めるつもりだ?」
「苦虫って名前の虫とオニスズメバチって蜂のハチミツだ」
「オニスズメバチ・・・・・中々格好い名前の蜂じゃないか」
「きっと鬼のような凶悪な顔をしたスズメバチですよね。強くて格好いいならテイムしたいですね」
「同感だ」
こいつらついてくる気満々だ。まー、俺はハチミツに用があるからハチはいらん。くれてやろう。
「それじゃあ先にオニスズメバチから行ってみるか。話によると山の洞穴の中で巣を作っているらしい。その場所はどこなのか、ハチから来てくれないと分からないんだと」
「どうやっておびき出すんだ?」
「奴らは人間を襲うか甘い匂いに敏感ですっ飛んで来るようだ。隙あらば鬼人族も襲ってそうなった被害者は少なくなく、鬼人族にとっては天敵に近い存在らしい」
虹の実を置いて表面に切れ込みを入れ果汁を滴らせる。すぐにふわっと甘い芳醇な香りが漂い―――。
ブォンッッ!!!
風を切る音と突然の風圧に吹き飛ばされないよう腰を落としてこの風の正体を目で確認した。オオスズメバチを三メートルぐらい大きくした、顔が鬼のような赤い角を生やし全体的に鋭角的かつ機械的なフォルムなハチだった。両手と足はランスのような形状で、不思議な窪みがある下腹部にも毒針のような大きい針がある。背中により素早い飛行を可能とするためか6枚も羽がある。
「「――――!」」
あー・・・うん、エリンギとトンボがすっげぇ目を輝かせてる。おそらく機械的なフォルムなのが良かったんだろうな。ってそんなことよりだ。
「お前、これが欲しいならあげるぞ」
《ブヴヴヴ》
鳴き声を発しながら虹の実の周りを飛ぶオニスズメバチ。んー・・・・・警戒しているのか、一匹だけじゃ持てないのか?
「全員、離れようか」
「え、捕まえないんですか?」
「数十匹か数百匹もいそうな巨大蜂とこの場で戦いたい?」
「すみませんでした・・・・・って新たなハチが結構な数で来ましたよ!」
うわ、ほんとだ。仲間を呼んだか虹の実の香りに誘われたか? そんじゃあお次は宝石肉の出番だぜぃ!
「へい、この巨大な肉も欲しいか?」
おお? 新たに来たハチ達が肉を囲むように周りを飛び回ってる。こっちの肉も欲しそうだな?
「欲しいなら俺達をお前達の巣まで案内してくれるか? 直接運んであげるからさ」
虹の実と宝石肉を仕舞う俺をオニスズメバチ達は互いに顔を見合わせる仕草をし、話し合っているのか見つめ合っていたが一匹のオニスズメバチが背後に回ってきて腕と下腹部で俺を抱えるように持ってくれた。そんな俺と同じく、メタルスライム達も運んでくれるようで抱えたまま俺達を何処かへ連れて行ってくれる。
「白銀さんのコミュニケーション、凄いな!」
「でも、俺達も餌として持って行かれてないよな?」
「・・・・・白銀さんから離れなければ大丈夫だ、多分!」
「あ、安心できねぇ・・・・・!」
そん時はそん時だな。俺以外みんな死に戻りするかもだが頑張ろうぜ!
―――30分後。
灰かぶりの大地を越え、生命が息吹いている緑豊かな森が広がっている場所まで来てしまった。ここまで移動できるエリアを用意した運営には脱帽の思いでいるとオニスズメバチ達は高度を落とし始めた。そして肉眼でも捉えた山の麓にぽっかりと開いた暗い穴に向かって飛ぶオニスズメバチ達がその穴の中に潜るように飛び込んだ先には。
「うわっ、何だよコレ・・・・・」
「あははー、夢でも見そうなほど大きいスズメバチがいっぱいいるー」
「・・・・・控えめに言って気持ち悪い」
「い、今更なんだけど帰っていいか? とてつもなく怖くなってきた・・・・・」
穴を掘って掘りまくって作った巣はアリの巣の如く迷宮だ。四方八方、上下左右の地面にオニスズメバチ達が這って移動している光景は恐ろしいだろう。その中を移動している俺達はどんどん深奥へ送られて・・・・・東京ドーム並みの穴の空間に着いてしまった。同時に天井には巨大で広大な無数のぶ厚い層がぶら下がっていて、そこから甘い匂いがしてくる。
「あれ全部、もしかしてハチミツなのか? すっげぇ・・・・・」
「お、美味しそうなんだが・・・・・ひと舐めしちゃだめ?」
「文字通りハチの巣にされっぞお前」
この空間まで運びたかったようでようやく俺達を下ろしてくれた。
《ブヴヴヴヴ》
「はいよ。ここでいいか?」
虹の実と宝石肉を大量に何度も出し、オニスズメバチ達は数匹で餌をぶ厚い層のところへ運び出す行為を何度も繰り返した時。上からオニスズメバチより一回りも二回りも大きくて頭に冠をつけたオニスズメバチが降りて俺達の前に現れた。
《ブウウウウウウウン》
名前は・・・女王オニスズメバチか。下腹部が大きいからランスの足で立てず宙に浮いたままで俺達を見下ろす。
「女王、突然の訪問でごめんな。訳あってお前達が蓄えてるハチミツを分けてほしい。代わりに甘い果実と肉を交換してくれないか?」
そう申す俺に女王は何を考えているか分からない顔で俺を見つめ、近くにいたオニスズメバチに話しかけるように鳴いた。指示を受けた様子のオニスズメバチ達は虹の実を抱えて女王のところへ運び、果実を食べやすくするためか女王の口元へ近づける。
ガシュッ。
虹の実に齧った跡を残して食べた女王は味を堪能しているのか顔を上に向けたまま何も鳴かない・・・・・。
《―――ブウウウウウウウウウウウウウウウウウン!》
あ、うまあああああああああああい! って感じに鳴いたっぽいな。美味しいあまりに勢いよく飛び回って喜んでいる表現をしているし。よし、好感度を得たかな? それに美味しかったようだな。女王が喜んでくれてなによりなにより。
《ブウウウウウウン》
「んー、何を言っているのか全然わからない・・・・・あ、丁度いいや」
翻訳石~と俺をここまで抱えたオニスズメバチを呼んで口元に突き出しながら問いを投げた。
「女王は何て言ってるか教えてくれるか?」
《この美味なる摩訶不思議な果実は私を虜にした。この味を知ってしまったら他のエサなどいらなくなってしまうではないか。どうしてくれる、と仰ってる》
まさかの責任転換ですか? いや、責任を発生させるようなことはした覚えないんですがね・・・・・。
「毎日食べたいなら、俺の家に住まないか? 俺の畑で虹の実を育てているんだ」
《ブウウウウウウーン》
《女王の我を篭絡する気かと仰っている》
「俺は定期的にオニスズメバチ達のハチミツが欲しい。俺がハチミツを欲した時、虹の実と交換してほしいだけだ。そうでなくても俺の家に住んでくれるなら虹の実を毎日あげることができる。つまり共生関係だ」
《ブウウウウウウン!》
《エサごときと共生などせぬ。お前は一生、我の為に虹の実とやらを作れ。我等の蜜を一滴も渡さん。逆らえば食い殺すと仰っている》
ほうほう・・・・・そう仰いますか。
「なら仕方がない・・・・・どちらが捕食者なのか俺と勝負しようじゃないか」
《ブウウウウウウ!!!》
《生意気な! 食い殺す! と仰っている。・・・・・・愚かな生物だお前は》
そう言い残して俺から離れたオニスズメバチと同時にクエスト『女王オニスズメバチの攻略』が発生した。
ブウウウウウウン!!!
先に動いたのは女王オニスズメバチ。素早い動きで俺を翻弄しようとするその速さは、今まで相対したどのモンスターより凌駕している。向こうから近づいてくるのを待つかできた隙を待つ他ないなこれは。【全方目】で視界を360度にしながら破邪の大太刀を鞘から抜いて居合の構えに入る。勝負は一回にして一瞬・・・・・。
《ブウウウン!》
口から毒々しい液体を吐いて俺に浴びせるが【毒竜】の効果で毒は無効化される。無効化を貫く即死でなければ話にならず、毒液を受けても平然としている俺を見て、女王の両手の針がガトリングのように飛ばしてきた。
ガィイイン! ガン! ガガガッ! ドッ! ドスッ!
その針を叩き落とし、弾き、逸らし、最小限の動きで躱すことで俺の周囲が針だらけになるまで防御し続けた。が、後から気付いたら俺の動きを封じるための小細工だった。巨大な針が俺の身長より高く絶壁のように囲んだんだ。
《ブウウウウウウウウーン!》
俺の真上で何か踊り出した女王の身体が赤いオーラに包まれた。俺が空を飛べないことと、上空に対する遠距離攻撃が出来ないことを高を括り、ステータスの上昇のスキルを使いだしたか。それを五回も繰り返すもんだから、危険な赤い色の光を纏う女王が掻き消える速度で動きながらミサイルのように四方八方から針を打ち込んできた。食らったらどうなるか気になるところだが、攻略するために受けちゃならないだろう。女王からの無慈悲な針の攻撃を防ぎ続けて数十回、20秒ほど経ったら動きを止めて足を下腹部の窪みに嵌めて一本の針に一体化した女王。その状態で音速を越えたんじゃないかと思うほどの速度で突っ込んできた。
「―――ふん!」
【八艘飛び】で宙に跳び下腹部の針が鋭い勢いで突いてきた瞬間に合わせて身体を横に捩じって回避しながら【範囲拡大】を使った。刀身が20%分も伸びて女王の針が届く前に俺の大太刀が僅か先に届き―――。
ブゥンッ!
くそ、背後に回れて回避された―――だが!
ドスッ! と女王の針が反転した俺の胴体に突き刺さったまま地面へ叩きつけられた。メタルスライム達からはそう見えただろうが・・・・・。
「やっと動きを止めたなぁ?」
《ブゥッ!?》
堕天の王衣の一部を【魔力操作】で操り女王の針を受け止めるだけでなく宇宙の星塊を使って身を守った。よって俺はノーダメージ、0ダメージである! 逃げ出せないように針を掴んだまま【太陽神の神罰】を発動して女王を閉じ込めるだけ飽き足らず、【アサルト・チェーン】で女王の身体を雁字搦めの縛りで手足や羽を封じた。
「くくく・・・・・身動きが取れなくなった気分はどうだぁ?」
《ブ、ブウウ・・・・・!》
「大丈夫だ。最初はちょーっとチクッと痛いけどすぐに終わるからさ」
ニコリと【反骨精神】を使いSTR極振りの状態で大太刀を笑いながら構えた。なんか女王がガクガクブルブルと震え出したけど、怯えじゃなくて足掻こうとしているだけだよなー?