閉ざした瞼を開いてやっと起きてくれたア=トゥと目が合い、今まで寝顔を見られたことにも羞恥心を覚えないようで誰かに膝枕してもらうのは悪くないと言いつつ体を起こした彼女が不敵な笑みを浮かべた。
「アンタ、ますます強くなったみたいだね。見間違えたよ」
「これから侍大将と一戦するつもりだからこれぐらいはな」
「・・・・・魔王、里長をナメているわけじゃないだろうが気をつけな。ワタシより強いのは当然だからね」
「握手した時に侍大将の強さを感じたからわかっているよ。油断したら今度はア=トゥの時より全ての両手足が切り落とされるって覚悟で挑むさ」
「首だけは渡さない精神を持って勝つつもりかい。もしも里長に勝ったらこの集落の女達がお前を貪り食うだろうねぇ」
怖いこと言わないでくれますかね・・・・・俺、食べても硬すぎて食べれないよ?
「まぁ・・・・・」
「?」
「いや、何でもない」
何か神妙な顔で言いたそうにしていたが、はぐらかされたア=トゥにバシッと背中を強く叩かれた。
「ワタシも見に行く。頑張りなよ、里長にガッカリさせる戦いだけはしないことだ」
「期待以上の戦いをして勝ってやる。そのためにア=トゥ。刀を買わせてくれ」
声援を受けながら立ち上がってア=トゥの打った業物の刀を複数買い終えた俺の足、はゼ=ノンが待つ屋敷へ運ぶ前に隠し職業『侍』になるため―――。
「うおおおおお! 魔王、覚悟しろぉー!!」
「死ねや!」
「ぶっ倒す!」
ガキィン! ボキッ! バキッ!
道中、集落内で堂々と攻撃してくるプレイヤーに襲われるも持ち前の防御力の前では一ミリもHPが減らなかった。その代わりにプレイヤー達の武器が儚く壊れてしまった。
「な、何で武器が壊れるんだよ!?」
「悪いな。称号の効果でレジェンドとユニーク以外の武器は全部壊れてしまう身体になってしまったんだよ」
「はぁっ!? なんだそのチートな効果の称号は! イカサマしてんじゃねぇーぞ!」
「【守護神の冒険者】って名前の称号だぞ。名実ともに極振りを極めて手に入れたモノだからイカサマでもなんでもないわ。それよりも周りを見とけ」
騒ぎを聞きつけたか、鬼人達が囲むようにプレイヤー達の背後を立っていた。それに気付いた時は大きな手に掴まり、縄で縛りあげられてどこかへ連れて行かれた。ア=トゥのところではないことを祈る。それ以降、他のプレイヤーはいたが誰も襲ってこないままサブ職に『侍』をセットできるようにしてから里長の屋敷に着いた。
「里長ー! 来たぞー!」
大声で呼び掛けてから数分ぐらいして、ゼ=ノンが三本の刀を腰に佩いて戦闘用なのか違う着物を身に包んだ姿で出てきた。
「・・・・・ほう、この三日で以前よりだいぶ成長したのだな魔王」
「侍大将を相手にするんだ。このぐらいは当然だ。今日は胸を借りる、よろしくお願いする」
「こちらこそよろしく頼む。久方振りに刀を抜く機会が巡ったのだ。少々鈍っていた腕も鍛え直しておいたから魔王につまらぬ戦いはせん」
挨拶の言葉はこれで終わり―――次に言葉を交わすのは、俺達が闘技場で鬼人達の歓声を浴びながら対峙した時だ。
「全身全霊で来るがよい。あわよくば先代から受け継いだ力を見せてくれぬか」
「いいとも。だが、最初はお互い遊び戯れよう侍大将」
開始の合図はない。どちらからでもなく俺達は前へ飛び出し、体格の差があろうとゼ=ノンは手も力も抜かず最初に刀同士がぶつかりあって、鍔迫り合いをする破邪の大太刀ごと俺を押し返そうとする意思が宿った力を込めてくる。
「(力は私の方が上だと思っていたが)」
「(こいつ、STRが1500以上はあるのかよ!)」
信じられない事実を察しても戦いは終わってない。風を切るごとく鋭く振るい、激しく切り結び、時に柔らかい守りでゼ=ノンの刀をいなして足運びも体幹も意識して飽きるぐらい火花を散らす。
「よい、よいぞ魔王。ここまで私と切り合える鬼人は限られるが集落の外には魔王のような強者がいるとはおもわなんだ」
「そいつはどうも!」
「―――であれば、少し早いがギアを上げねばな」
鞘に収めた刀を下に向けた状態で身体の横に構えるゼ=ノン。居合切りの構えと認識した瞬間。抜かれた刀から何が飛び出してきた。反射的に大太刀を斜め上に振り払って、ガガガッ! と手首に重い衝撃を感じながら受け流した。
「飛ぶ斬撃か!」
「見事! 今度はこれに堪えられるか!」
「今度は三つ同時ぃ~!?」
重さも倍だわ! って、また居合の飛ぶ斬撃―――!
「居合切り」
「っ!?」
姿が掻き消えるほどの速度で目の前か消えて、一瞬にして俺の目と鼻の先まで飛び込んできた。
ガガガキィッ!
「・・・・・初見でありながらこの技も防ぐどころか私に傷を負わせるか」
「それはこっちの台詞だ。俺の防御力を介してもダメージを与えてくるとは」
俺とすれ違い様にお互いの脇腹に鋭い切り傷の跡を残し、ダメージエフェクトのポリゴンを流出する。
「わははっ、いい一撃をもらってしまった。これなら、これでもいい死合いができそうだ」
両手で持っていた刀を片手に持ち変え鞘に収め、空いた片方は腰のもう一振りの刀の柄を掴み・・・・・。
「はっ!」
「っっ!!?」
今度はさっきの飛ぶ斬撃! 数が二倍になっても弾き逸らしても、今度は六つ同時に飛ぶ斬撃を繰り出してきた! この次はまさか・・・・・!
「二合い切り」
「なん、のぉっ!」
刀の振るう先の軌道を予測して、身体を回転させながら下から二振りの刀を持ち上げるように勢いよく振り上げた直後、すれ違うゼ=ノンの体に独楽のように回転することを止めなかった俺自身に釣ら
れ大太刀を斜め下に落としながらゼ=ノンの脚に切った。
「ぬぅっ! 技の防御も一級品か!」
「身体が硬いだけの魔王じゃないよ!」
「ならばこれらも防ぎきってみせよ!」
そこからゼ=ノンの連続技が繰り出される。
左上に向けて俺を斬り上げる技で大太刀で防いだものの、ゼ=ノンが斬り上げた後、刀を順手に持ち替えて下方向に斬り下ろすゼ=ノンから地面を蹴って距離を置くよりも懐に飛び込むことにして、刺すつもりで突き刺した刃が、俺の身体を切るよりも二振りの刀を地面に叩き付けて生じた衝撃波で俺をぶっ飛ばした。逆手に持った2本の刀を下に向けて構え、敵に後方に飛ばした俺に突進し斬りかかる相手から宙を蹴ってかわしたつもりが、逆手に構えた2本の刀により俺に向かって上方向へと斬り上げてくるから、【次元跳躍】でゼ=ノンの真横に瞬間移動したら俺の顔を目掛けて真横からの斬撃を繰り出された。
ガキィンッ!
「やりおるわ」
「こっちは斬られまいと必死だがな」
「ア=センとの戦いで二刀流の対応力が身に付いたのも当然であるかな。であれば、三本目の刀を使う他あるまいな」
大太刀を立てて真横からの斬撃を受け止めてる間に片手で最後の三本目の刀の柄を握り鞘から抜き放つゼ=ノンは、それをあろうことか柄をガチッと口で噛み締めるように咥えて見事に三刀流を体現した。
ザワッ!!!
なんだ、観客席にいる鬼人達のざわめきの色が変わった・・・・・?
「里長の全力が見られるのかっ・・・・・!」
「剣匠や、隊長達ですら二刀流までしか里長に出させなかったというのにっ」
「三刀流の侍大将の力と技が見られる日が来るとは!」
ォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオーッッッ!!!!!
やかまっ、なんだ、三刀流が珍しいのはわかるけど、この雄叫びはなんだ。ゼ=ノンに向き直ると彼は鬼人達に視線を向けながらこう言う。
「すまぬな。私が三本も刀を用いて戦うことは長らくなかったもので、里の者達の間では『幻の三本刀』と言い伝えられているのだ」
「カッコいいじゃん」
「そう言われると少し照れくさいな。しかし、ここまで本気にさせてくれる魔王には感謝してる。ここからは、里長でも侍大将でもなく、一人の鬼人として魂を燃やし尽くすつもりで心から戦いを楽しませてもらう!」
ゼ=ノンの身体が真っ赤になった。あの最強の鬼と同じステータスの爆増のか。戦いが終わるまでは止まらないならばこっちも見せるべきか。
「約束を果たすぞ侍大将―――【鬼神】!」
発動したスキルの影響で、頭に鬼の角が生えて紫色に燃え盛る髪の毛、身体が鬼人のように巌のような巨躯の身体になり紫色の戦闘用の着物を身に包んだ姿になった。
「それが、先祖の力か・・・・・」
「これ以外に内包されている他の力もあるがな。この状態だと大太刀が打刀になるから使えなかったスキルが使える」
破邪の大太刀を鞘に納めて居合の構えに入る。ゼ=ノンも三刀流で戦闘を続行するつもりで構える。最初に仕掛けたのはゼ=ノンだった。三本の斬撃を当たり前のように飛ばしてきたが、一刀流と二刀流の時より性質筋が遥かに巨大化している。
「【白捲】!」
迫る飛ぶ斬撃を真上に弾いた間に肩の後ろに構えた両腕の刀を振り下ろし、俺を叩き斬ろうとするゼ=ノンの姿があった。斜め横に構えて三本の刀から伝わる力強さと重さを足腰を低くして受け止める。
「おおおおおおおおおっ!!!」
「っ・・・!」
バカンッ!!!
ゼ=ノンの攻撃の衝撃が俺の身体を伝って、武舞台が蜘蛛の巣状に罅が入って崩壊しやがった! 鬼らしくなんて馬鹿力だよ! 目の前で降り立ったゼ=ノンが更なる技を繰り出してこようとする姿勢に、【九重】を使い【臨】で突進攻撃を仕掛けたが。
「【鬼龍焦熱大竜巻】!」
燃えだす刀を持ったまま両脇を開いた構えから身体を回転させ、敵を斬りつけると同時に剣圧によって生まれた竜巻上の気流で俺を上方へ吹き飛ばされた!! しかもそれだけじゃなくて回転によって発生させた巨大な竜巻が斬撃を伴っているようで、防御力を無視する斬撃が俺のHPを減らす! もしくは固定ダメージか! そんな俺に向かって畳みかける飛ぶ斬撃!
「【八艘飛び】!」
さらに高く跳躍して空へと移動するそんな俺を日本の刀で宙を叩きつけるように打ち落としながら、【八艘飛び】のように追いかけてくるゼ=ノンに目を剥かずにはいられない!
「そんなことできるのか刀って!?」
「極めれば不可能なことはない!」
「納得だっ!」
【臨】で突進する俺が突き出す柄尻を三本の刀で受け止められるが、そのまま俺達は武舞台へ戻るように落ちた。
「【煉獄鬼斬り】!」
「おにぎり!?」
あ、食べ物の名前じゃなさそうだな! 両腕を交差させた構えから突進し、3本の刀で敵を挟み込むように斬り付けてくるゼ=ノンの技を続けて【兵】の連続攻撃で斬りつけつつ押し返そうとする。
「【鬼刀龍流し】」
身体を捻りながら敵の攻撃を全て躱し、同時に俺の懐へと潜り込み斬撃を繰り出された。
「【闘】」
「【鬼龍剛爪】!」
両手の刀を前方に構えた態勢から飛びかかり、 俺の武器破壊の一撃の斬撃の攻撃を弾くと共に強烈な突きを繰り出す。後方へ跳躍して突きの威力を少しでも殺しながら押し出される形でゼ=ノンから距離を置いた。
「・・・・・ふぅ」
呼吸を短く吐いて居合の構えに入る。
「【煉獄鬼斬り】!」
「【者】」
突進してくるゼ=ノンに鋭い斬撃を浴びせるも攻撃力は向こうの方が上か弾かれ、【階】の斬撃飛ばしでゼ=ノンを遠ざけた。その動きに呼応して【次元跳躍】で懐に飛び込み【陣】と【列】を連続で叩きこむつもりだったが、軽々とあしらわれる。
「【在】」
【範囲拡大】のような、攻撃範囲が拡大する技をゼ=ノンの刀に当たり吹っ飛ばした。
「むっ?」
・・・・・違和感を覚えたようだな。
「【全】」
「【鬼刀龍流し】!」
連続斬りの技をあざ笑うかのように全て躱しながら俺の身体に斬撃を浴びせたダメージエフェクトの傷痕をつけた。
「見事だ魔王。私の本気と三刀流の技を受けてなおまだ立っている。先祖の力はすさまじいな」
「何を言うか。まだまだ俺の本気を受けてもらってないぞ」
「それは楽しみだ。ならばどんどん私に打ち込んでくるがいい」
絶対に泣かす! 心の中でそう決意した俺は【鬼神】に内包されてるスキルを発動した。
「【宿儺】! 【阿修羅】!」
人体発火のごとく紫色に燃える俺と鉾・錫杖・斧・八角檜杖を持つ手と、6本もあるバカデカい刀を持つ巨大な腕が具現化した。
「なんだ、その姿は・・・・・魔王も燃えているだと」
「触れない方がいいぜ。これは呪いの炎だからな。そしてここからは俺のターンだ」
喋っている間に【反骨精神】で防御力を攻撃力に変換、【血纏い】HPを一割まで消費した数値分の【STR】が上昇し、【背水の陣】でHPが一割の状態なら【STR】が三倍の上、【輪廻転混】で今の【STR】の同等の数値を【AGI】にする。
「―――そして魔王として一方的な蹂躙の時間だ。【夜天の祝福】!」
MPを1000消費するスキルを発動すると、彼岸の鬼鳴峠を覆う夜の帳の幕が下りて、俺のステータスが更に二倍に増した。
「―――ッ!!!」
「今の俺は二回攻撃を受けると負ける状態を引き換えに、莫大な力を得た。耐えられるかな侍大将?」
STR18倍の力を思い知れ・・・・・・あっ、また称号が手に入った・・・・・今それどころじゃねー!
運営side
「あああああああああああああー!?」
「STR・・・・・8桁って・・・・・」
「これ、最大火力、攻撃特化、攻撃力極振り、破壊神の称号どころか、他のステータスにも【輪廻転環】で同じことしたらAGI、DEX、INTの称号も手に入りますよ。というかSTRとDEXの称号が同時に入手しちゃってますね」
「ああああああ・・・・・」
「あと一歩のところで追い詰め・・・いや、自ら追い込まれることをして【宿儺】と【阿修羅】のスキルを使うとは」
「【宿儺】を使うと呪いのダメージを受けながらも内包されているスキルのクールタイム無しで同時に扱え、【阿修羅】はプレイヤーの動きに合わせて連動するっす。もう誰も勝てないプレイヤーっすね。チートや不正行為をせず、イベントに参加して勝って得た称号とスキルなんで、原因は運営側ってことになるっす」
「・・・・・・・・・・・」
「白銀さんは呪いのダメージを無効にするスキルを手に入れてるからステータスの一時的な減少程度で済むよな」
「・・・・・うわ、見てくださいっす。『無双乱舞』を使ったっす。これ、バグりません?」
「か、可哀想すぎる・・・・・・何万の飛ぶ斬撃が侍大将に放たれて・・・・・・ああ、負けてしまった」
「・・・・・誰か、白銀さんをどうにかしてくれぇぇぇぇぇぇ・・・・・・・」
「「いや、無理がある」」