イベント当日。彼岸の鬼鳴峠のイベントに参加するプレイヤーが思い思いの場所で待機していた。招集したわけでもないのにギルドメンバーのプレイヤー達は鬼ヶ島のホームに集まり、ワイワイと雑談をしながらイベント開始まで待っていた。イベントの案内によると―――。
五人の山賊達が鬼の集落の金銀財宝を欲するあまりに長年悪霊を封印していた墓を破壊したことで、魑魅魍魎が鬼の集落に迫っている。プレイヤー達は魑魅魍魎を食い止めて鬼の集落を守るのが勝利条件であるが、同時に元々人間を襲って財産を奪っていた悪い鬼であるため山賊の仲間になることも可能。
どっちに与しても報酬は伏せられたまま。山賊の仲間になったら鬼人と戦うことになるよなこれ? 桃太郎的なNPCの協力でもいるのか?
「ハーデスさん、頑張りましょうね!」
「またきっと、すごいピッケルが手に入るかも、だからね」
「ふふふ、そうねー」
「これ以上何があるんだと思うんだがな」
ちゃっかりパーティ申請してきた鍛冶師二人と妹弟子の魔王ちゃん。今回は報酬の報せはまだなくてどんな報酬が貰えるのか皆楽しみにしている。俺としてはこのイベントを早く終わらせて元凶の封印をしたいところだ―――。
〈イベント開始時間となりました。これよりイベント専用エリアへ転送いたします。参加するプレイヤーはYESを、参加しないプレイヤーはNOを押してください〉
最後の確認作業のつもりか青いウィンドウが目の前に浮かび、俺はYESを押した。次に浮かんだのは鬼人族の味方か山賊の味方になるかの選択で、鬼人族の方に押した瞬間。目の前の光景が真っ白に染まり代わり、次第に見慣れた鬼の集落に俺や他のプレイヤー達が立っていた。
「・・・・・お? 闘技場か」
「それだけじゃないみたいハーデス。回りを見て、イッチョウちゃんやペイン達だけじゃなくて、【蒼龍の聖剣】のメンバーが揃ってるわ」
隣に座っていたイズの話を聞き、インベントリから双眼鏡を取り出して覗きながらその通りに回りを見る。見知らぬ顔もあるが【蒼龍の聖剣】のメンバーである名前がプレイヤーの頭上にプレイヤーネームと一緒に浮かんでいる数が多い。
「またいつぞやのサーバー分けしながら神獣の眷属別に分けられてるのかもしれないな。神獣の眷属のプレイヤーが一人も見当たらないぞ。変わりに【蒼龍の聖剣】以外の無所属ギルドのプレイヤーが多い」
「一番多い神獣の眷属ってどこです?」
「今は狼の神獣だ。元は辰だったけど」
「あ、話が始まるみたい」
セレーネの声に意識を変えて舞台の方へ視線を向けた。そこにはゼ=ノンが立っていて、俺達に向かって話し出した。
「鬼人族を助けようと集まった冒険者達よ感謝する。お前達のような鬼骨ある冒険者がいることに我々は生涯忘れない。長年封印していた悪霊は、もはや当日封印された頃よりその強さと怨み辛みの丈は凌駕しており、彼岸の鬼鳴峠が陥落すればこの世界にまで悪霊の魔の手が伸びて他のモンスター達にもお前達にとって最悪な影響を受けることになるのだ。仮に山賊共の味方になった冒険者がいたとするならば、裏地獄の拷問を味わってもらうところだ」
絶対とんでもないお仕置きが待ってそうだ。
「どうかこの里を守ってほしい冒険者達よ。よろしく頼む!」
長が頭を下げた。それからゼ=ノンは現況を語り始める。
「いま男衆の鬼人達が前線で魑魅魍魎を食い止めておるが、いつ崩壊しても可笑しくない緊迫した状況だ。同時に魑魅魍魎達が迫っているせいで物資の確保もままならぬ。故に冒険者達はどちらかに手を貸してもらい五日間この里を守ってもらいたい。私からの話はこれで以上だ」
深々と頭を下げてから舞台を降りて俺達の目の前から去ったゼ=ノンの後、プレイヤー達が立ち上がって闘技場の出入り口へ足を運ぶ。
「討伐はともかく物資の確保か。エルフの里の防衛の時みたいに援助しつつ外で素材を集めなきゃならないかな?」
「鬼人族達から話を聞いてみないとね」
「私は裏方の方で頑張る。乱戦は不向きだから」
「ハーデスさんはどうします?」
「ん、前線はペイン達に任せるとして、俺も物資の不足で困ってる鬼人を助けてみる。ぶっちゃけ、俺も乱戦だと味方まで巻き込むスキルが多いんだよなぁ・・・・・」
確かに、と三人が俺の気持ちに察してくれた。
「それからだけど」
「うん」
「寝泊まりする宿の確保をしないと野宿ですよ?」
「「「先に泊まれるところを探そう!」」」
その宛があるのであの鬼人に訪問した。
「ア=トゥ、いるかー?」
「魔王か。久し振りだねぇ」
俺より二回りも大きい身長の女鬼人、剣匠の鍛治師ア=トゥが店の奥から出てきた。
「ここにいるってことは集落を守ってくれるのかい。ありがたいね」
「やっぱり女の鬼人は前線に出られないのか?」
「狙われやすいのもあるし、女は家を守るもんなのさ。帰ってくる男衆を迎える意味も兼ねてね」
「結婚しているんですかー?」
こら、イカルちゃん、シッ!
「生憎、ワタシは男を選ぶ方だよ」
「どんな人が好きなんですかー?」
「ワタシを含めて大体の女の鬼人は、強い男がいいのさ。それか番にしてもいいと思う気に入った男もだ」
そう言いながら一瞬だけ俺に目線を配るア=トゥ。・・・・・気付いていないフリをさせてもらうぞ。
「あのー、物資の確保が困難になっていませんか?」
「私達、それを聞きに来たのだけれど」
「ああ・・・・・それで来たのかい。そうだねぇ、前線に出た男衆達が持っていった物資の分が集落になくなっているのも事実。今じゃ鋼すらかなり不足してるから集めてくれないかい」
ア=トゥから発生したクエスト。指定された数の鉱石の確保だ。受注するとア=トゥはイカルに手を伸ばして頭を撫でた。
「採石場も魑魅魍魎で溢れて採掘も難しくなっている筈だ。ちび助、無茶するんじゃいよ」
「私の名前はイカルだよ!」
「ワタシから見たら豆粒みたいにちっこいからちび助だよ」
「むぅー!」
おやまぁ、身長のことからかわれると怒るのか。なんともまぁ微笑ましいとイズとセレーネも薄く笑って見守っていた。どうやら同じ気持ちらしいようで。イカルの手を掴んで冥霊山へ目指す。
「このクエストを終わらせないと宿に泊まらせてくれないかな?」
「お金を払えば寝れると思うわ。それよりあの採石場にもモンスターが出るようになるなんてね」
「全部倒します!」
「採掘はイズとセレーネに任せる。それからオルト達を召喚すれば必要な数も集まるだろう」
「エスクも出します!」
なお、パーティを組めなくとも一緒にいれば同じクエストが受けられるらしい。ただしイベント限定のクエストである。その条件もあって、一言でもNPCに話し掛けて会話が成立することだ。
「採掘する前にお社バフをもらおう」
「悪霊に襲われなくなるならやっておかないとね」
「採掘中に邪魔されるのは凄く困るし大変だからね」
「襲ってきたら倒します!」
フンスフンスと鼻息を荒くやる気が殺る気になってないかイカルちゃんや。心中でイカルのご立腹に後で宥めようと考えながら山を登ってお社に目指す俺達以外、無所属のプレイヤー達も餓鬼と戦いに向かうため冥霊山を目指していた。
「白銀さんも餓鬼と戦いに?」
「いや、採石場に行く。物資の確保のためのクエストを受けたんだ。寝床の確保もしなくちゃならないし」
「え、その心配はしなくてもいいんじゃね? 寝れるところ、宿ががあるんだし。後でも部屋借りれるし、なんなら一緒に寝ることだって出来るよな?」
だからこそだよお仲間くんよ。
「そう思っているのは全プレイヤーもだぞ? 寝る場所の確保のための競争率は餓鬼を倒すより一番高いと思え」
「必ず一日三時間も寝ないといけないこういうイベントこそ、順番待ちをしないといけない状況より、独り暮らしのような安心感がある方がいいんじゃない?」
「とっても大切だよっ。心が落ち着く場所は特にっ。思い出して、初めてイベントをした時の寝る苦労さをっ」
「セレーネさん、何か言葉に力が入ってます?」
イズとセレーネも加わって断言された仲間は沈黙した後、突然に来た道に引き返して行ってしまった。彼だけじゃなく、俺達の話に耳を傾けていただろうプレイヤー達までごっそりと踵返して行ってしまったので、俺達の回りの空間が空っぽになった。
「・・・・・悪いこと言ったわけじゃないよな?」
「セレーネが言ってたあの時の苦労をしたくない一心なのよ」
「うん。気にしなくてもいいよ。私達は私達で頑張ろうっ」
「はい!」
俺とイカルとイズも寝るためだけの苦労は経験したことがない。セレーネに対して、その話に触れることはやめておこうと思って、イズに目を向けたら彼女も同じタイミングで俺に目を向けていて・・・・・以心伝心のごとく頷きあった。
そんな話から別の話題に変えて雑談を繰り広げながら歩く俺達の足は、お社バフを得ようとお祈りしてるプレイヤー達の列の後方に並ぶことになったことで止まった。しばらく待ってやっと俺達の番になると悪霊に襲われないお祈りの作法をして、すぐに採石場へ足を運んだ。
「うわぁ、本当にいるわねー」
「お、多い・・・・・」
「でも、全然襲ってきませんよ?」
「お社バフをもらわなかったら、この数を相手にしなくちゃならないのは面倒―――」
うわぁあああああっ!! 助けてくれぇええええええ!!
突如、向かう先の奥からプレイヤーの悲鳴が聞こえた。何があったのかと気になったから走って現場に到着すると。
「ここ、坑道の場所だわ。でも、あんなモンスターいなかったわよ」
「「大きい・・・・・」」
「・・・・・で、あの状況はなんなのさ」
俺は呆れた目で髑髏の形に燃える無数の火の玉と、その親分と思われる巨大な火の玉の骸骨の周囲にいるプレイヤーを見た。青いマフラーで顔を巻いてボスから隠れて怯えてるサリー、後ろからたくさん火の玉に追いかけられてるカワカミー100代と見知らぬ銀髪に赤い瞳、赤いローブの下にドレスを着た異種族、吸血鬼の少女も追いかけられてる。
「ねぇ、ハーデス。もしかしなくても・・・・・」
「お化け、幽霊が苦手なプレイヤーの末路デスね」
「ここに来る途中で悪霊がいたから知らない筈は無いと思うんだけど・・・・・」
「助けます?」
イカルの素朴な疑問に、イズとセレーネと視線をまじえる。まぁ、・・・・・。
「レイドボスじゃなければ助けよう」
と俺の意見に三人は頷きゴーストボスのエリアに歩を進めた。
10分後・・・・・。
「あ、ありがとうハーデスゥゥゥッ!!! 本当に怖かったぁぁぁぁぁー!!!」
「前回の二の舞ぃっー!?」
レイドの方ではなくフィールドの方だったみたいで、途中から俺達も乱入出来たことが救いで、殆んどダメージが無かった状態から戦うことになり、呪い無効を貫く呪いを受けてスキルを全て封印された時は驚いたもの、持ち前のステータスと装備のステータスで何とか戦えて、やっと勝ったところ、100代にぐしゃぐしゃな顔で抱きつい・・・・・って前から抱きついて両腕を人の首に締め付けるなぁー!! 身体が硬くてもこういう抱擁には防御力が働かないのにぐぇえええっー!?
「・・・・・ぐすっ、ありがとう」
「お、おう・・・・・まさか、サリーもホラーが怖いのは地味に知らなかった。なのになんでここにいるんだよ?」
背中に顔を押し付けてくっついてくるサリーに問うと、吸血鬼の少女が寄って来て朗らかにこう言ってきた。
「久し振り、ハーデス」
「ん? どなたさんだ?」
「見ての通りクリムだ、って言ってもわからないよな。ゲーム大会で使ってるキャラクター、クリムゾンナイトって言えば思い出すか?」
え、それって・・・・・それにクリム・・・・・ええっ!?
「お前、ニイサンちゃんかっ!? 奇遇だな!」
「だぁー! そのあだ名で俺を呼ぶなぁー!!」
いやぁ、ここで会えるとは思いもしなかった! それにさ・・・・・。
「お前もホラーが苦手なのも初めて知ったわ」
「べ、別に苦手じゃないし? ただ、焦ってただけだし?」
そんなあからさまに動揺しちゃ、誰だってホラーは苦手だってのがバレるわ。なのに否定するとは・・・・・いい度胸じゃん?
「・・・・・ほう? なら来た道に引き返してみろ。悪霊がうじゃうじゃと沸いていたぞ?」
「「「ウソォッー!!?」」」
あれ、この反応は・・・・・? もしかして最初は沸いていなかったのか? 三人に聞くと揃って頷くので俺達は首をかしげる。
「さっきのボスと関わってたり?」
「うーん、イベントを同時に始めたから誰かが何か切っ掛けを起こしたんじゃないかな」
「イカル、ちょっと引き返してモンスターがいるか見に行ってくれ」
「はーい」
駆け足で俺達から離れて確認しに行ってくれて、戻ってきたイカルから聞かされた事実。
「まだいました! たくさんです!」
「だとさ」
「「「・・・・・」」」
顔を青ざめる三人。だからなんでコイツらだけなんだ?
「100代、直江達は?」
「一緒に戦って先に死んだ」
「サリー、メイプルは?」
「ユイとマイと一緒に・・・・・採掘だけなら私一人でもできるし、友達といたクリムと偶然出会って、一緒に採掘をすることになって・・・・・途中で100代達と鉢合わせして、まだ行ったことがないここに来たらいきなりボス戦に・・・・・」
「俺、私の友達も死に戻りしたところだ。スキルを封印されちゃどうしようもない上に逃げられない呪いを付与されちゃったんだ・・・・・」
「それ以上にお前らはさっきのボスに怖がって本来の戦闘能力がガタ落ちしてたからおもっきり苦戦してたしな」
「な、殴られるなら怖くないんだっ! でも、さっきのボスは物理無効だったから倒せなくて仕方ないだろ!」
「ほんとそれな。イズとセレーネの爆弾と火縄銃、俺が悪霊退散目的に確保した大量のお札が発揮してくれなきゃ俺達でも死に戻ったかもしれないわ」
「イズさんとセレーネさん、すごかったです!」
「ありがとうイカルちゃん」
「誰も死に戻りせずにすんでよかったよ」
少し照れ臭そうにはにかむ鍛治師の二人。これがペイン達とだったら、摘んでいたかもしれないわ。ちょいとこのことを掲示板で伝えておかないとな。
「サリーはともかく、100代とクリームちゃんはどうする?」
「クリームちゃんじゃないクリムだ! サリー、なんで噴いてるんだよ」
「ふふっ・・・・・ごめん、ちょっと面白かった。いまのクリムは女の子だからクリームの方が可愛いんじゃない?」
「そもそもなんでそのアバターなんだよ?」
「・・・・・親友の姉の友達と賭けで負けたからだよ」
「よし、よくやった! って後で会ったら称賛の言葉を送ってやる。リアルを知る者としてからかいがある戦友を見つけたからな」
「ヤメロォッ!? てか、それならお前だって性別変えれるだろ! お前もからかっていいんだぞ! ネカマプレイヤーって!」
ほう? 出来るものならやってみるがいい。クリムに不敵な笑みを向けた後に【至高の堕天使】を発動すると、金髪美女の魔王に変わった俺を見たイカルが顔を輝かし―――。
「お姉ちゃん!」
ヒシッ! と俺の腰辺りに満面の笑みで抱き付き甘えてくるイカルの頭を撫でながらクリムに言ってやった。
「私のどこがネカマプレイヤーなのか、この光景を見てまだ言えるか?」
「・・・・・くっ、堕天の王、格好よくて羨ましいっ。私も魔王って呼ばれたいっ」
よーし勝った!
「ねぇ、話を戻しいいかしら?」
「「はい」」
クリムと揃って返事した。話が脱線してしまったからそうでもしないといつまで経ってもやることが終わらんのは確かだ。
「クリムちゃんと100代ちゃんはお友達を待つ? 迎えに行く?」
「私の方は・・・・・採石場入口付近で待ち合わせをしようって話になってる」
「私もだ。ううう・・・・・悪霊だらけの道を歩かないと行けないのか。なぁ、ハーデス。直江達が来るまで一緒にいてくれないか?」
武神も幽霊の前では怖がる女の子になってしまうな。涙目ですがるように見つめてくる彼女にしょーもないとため息を吐く。