二日目も朝から晩まで鬼人族のクエストをこなし、採掘場の悪霊を100体倒してイズに称号を手に入れてもらった後で奥に行くと、昨日の厄介なモンスターがまたいて俺達は悪霊退散の札と爆弾だけで何とか攻略した。昨日もそうだが特にドロップアイテムを手に入れられなかったから、そういったものを落とさない類だと思ったのに。
「なんか手に入った」
「え? 私は何もないわよ」
「私も」
「私もだよ。ハーデス、何を手に入れたの?」
俺が手に入れたのはイベント専用のアイテムで『妄執の呪炎』だ。掌の中で火の玉のように燃え尽きないでいる赤紫の丸い玉。それなのに一切の熱が手に感じず燃焼ダメージ、スリップダメージが発生しないのだ。
「えーと・・・・・なんだこれ、イベント中に使う機会があるのか?」
「なんなの?」
気になって仕方がないとサリーからの催促を受け、詳細を説明した。
「これ火種だ」
「「火種?」」
「うん、そう。ほら」
全員に見せるとテキストにはしっかりと鬼人族の鍛冶師や呪術師が好んで集めて使う火種だと記載されてる。
「何かの、キーアイテム?」
「鍛冶師か呪術師の鬼人に渡す物っぽい感じはするけれど・・・・・」
「レアアイテムだよねこれ。戦うのはこれで二回目だけど普通にドロップするなら昨日の時点で手に入っている筈だし」
「難しいクエスト用のアイテムかもしれませんよ?」
「雛菊もそう思うのです」
みんなの意見はどれも正しいとは思う。けれど、実際はどうなのかは確かめる必要があるのも事実だ。
「明日も現れるとは思うけれど、もう札の在庫が少なくなっているんだよな・・・・・」
「私もお手製の爆弾も足りなくなっちゃったわ」
「どうしよう。明日から戦わないでいる?」
「うーん、護符をくれた鬼人がまた現れなかったらそうしない?」
サリーの提案でその可能性を懸けて、夜まで死の灰の大地に向かわず鬼人族のクエストを受注しまくったところ、またいつの間にか虚無僧笠を被った女鬼人が現れた。
「昨日渡した物が役に立ったようだねぇ。お前達の活躍はワタシのところにも届いているよ」
「おかげさまでね。今日もまた何かくれるの?」
「そうだねぇ。渡すとしたら真に願っている必要な者にしかと決めているんだ。どうする?」
まるで何を望むか問うような言い方に、俺達は思い思いに口にした。
「それなら話が早い。物理無効に通用する何かないか? ある悪霊と戦って勝ちはしたが苦労したんだ」
「私はスキルが使えなくなって大変でした!」
「どっちも苦労したわね」
「そうなのです」
「うん、もう戦いたくないモンスターだった」
「私もどっちも苦労したよ」
「ほう・・・・・もしやアレと戦って勝ったのかい。それならばこれを渡そうじゃないか」
彼女が懐から出した雛菊を除いて俺達に渡したのは札だった。
名称:イベントアイテム『守破離の札』
効果:このアイテムをモンスターに使用すると一度だけ、戦闘終了まで無効の力を無視する。使用後このアイテムは消滅する。
名称:イベントアイテム『開封の札』
効果:このアイテムを所持している間は封印の状態異常を常時無効にする
名称:イベントアイテム『神隠しの札』
効果:このアイテムの装備中は攻撃しない間のみモンスターに狙われなくなる
俺は『守破離の札』、イカルは『開封の札』、雛菊とイズは俺とイカルの両方の札、セレーネは『神隠しの札』をもらえた。
「あれ、私分は?」
「もう渡した者には渡さないことにしている。どうしてもというならば渡した物と交換して別の物を渡すが?」
「っ・・・・・!」
イベント限定アイテムとは言えど今だけは死んでも手放したくないサリーは彼女から凄く距離を取った。お前、そこまでか・・・・・。
「そうだ。これって必要だったりする?」
「『妄執の呪炎』・・・・・あの悪霊を倒した証だね。これは確かにワタシや鍛冶師達が集めてほしい火種だ。もしもワタシにくれるならば、お前達に渡した護符や札のどれか一つだけ、自分のモノにしてやっても構わない」
「へぇ、これってまた集められたり出来る?」
「集めているが集めにくくてね。だから集めれるなら集めてほしいのが本音だ。さ、どうするんだい?」
そうだな・・・・・じゃあ、あれにしよう。
「彼女が持っている『認識阻害の護符』と交換してやってくれ」
「交渉成立だね。ああ、今夜ももちろん間引きに死の灰の大地に行くんだろう? もう一度乗り越えたなら明日からはワタシに言われるまでもなく集団で戦えるように言っておこう。また火種をくれるならア=トゥからワタシの居場所を教えてもらうといい。いいね」
俺から受け取った火種を懐に仕舞い(熱くないのか?)踵を返して真っ暗な闇の中へと姿を消した彼女を見送った。残された俺達は冥霊山へと転移する。
「ハーデス、どうして私の護符にしたの?」
「この先でも、新大陸でゴースト系のモンスターと戦うことになるのは確実だ。サリーが絶対に手放したくないアイテムなら、手に入れられる時は手に入れておくべきなのは当然だ」
「・・・・・」
「それに泣くほど怖がるんだからな。俺と遊んでいる間はもう泣かせはしないさ。だから安心して楽しいゲームをしようぜ」
なんなら守ってやるよお前のことを、とも至極当然なことを言い捨てて・・・・・。
「お師匠様、大人なのです! お格好いいのです!」
「いや、大人だから・・・・・イズ、何その意味深な顔。セレーネとイカルも羨ましそうな顔する? 変なこと言ったつもりはないぞ」
尊敬の眼差しを向けてくる雛菊と違って、ニコニコと笑って何を考えてるかわからんイズ、照れて顔を真っ赤にするサリーに何故か羨望の眼差しを向けるイカルとセレーネ。おかしな雰囲気の中で餓鬼と悪霊の征伐に臨んだ・・・・・。
「わわわ!? こ、こんなに一気に来るのですか! 倒さないとダメなのですか!」
「その通りだよ。ほら、すぐに倒さないとお師匠様のところまで行っちゃうよ? お師匠様になってもらいたいなら弟子が情けない所を見せないでたくさん倒さないと」
「が、頑張るのです~~~!!」
球が異様に大きく身体が異様にやせ細って下っ腹が膨らんでる幼稚園児並みの大きさのモンスターの群れだけじゃなく、空に浮いている悪霊の数々(サリーから見れば色んなお菓子だらけ)も相手にしなくてはならない雛菊の悲鳴染みた叫びが聞こえてくる。
「頑張ってるな雛菊。思ったより第三陣でも倒せるステータスのモンスターだったか」
「でも、私達のところに来てますよハーデスさん」
「それはしょうがない。人に完璧を求めちゃいけないぞイカル」
背後から火縄銃の発砲音が聞こえ、二人が倒し損ね取りこぼした餓鬼や悪霊に当たり一撃でポリゴンと化して倒したセレーネ。
「完璧であろうとすると自分以外誰も気付かれないまま体と心が疲れすぎてボロボロになるからな。そうなるとすごーくストレスが溜まって心が病気になるんだ」
「そうなんですか?」
「他の人が自分のことどう思っているのか知らないが、それほどじゃない、そんなことないってたまに誰かが言ってないか?」
「・・・・・多分、聞いたと思います」
「それは他の人が褒めて言っているだけだろうと、褒められた人の中には自分より凄くない人を馬鹿にしたり、自分に自信がなくて他の人より劣っているからという理由で自分を自分で悪く思っている人間は必ずいるんだ」
セレーネだけじゃ対処しきれない数が雛菊の方から向かって来て【鼠算式Ⅱ】【ファイアボルト】で対処する。
「ハーデスさんもそう言う人が周りにいるんですか?」
「俺、というより大体の人間がそんな感じだ。そしてこのNWOで遊んでいるプレイヤー全員にも言えることだ。俺もそうだぞイカル」
「そうなんですか? 一番すごいのに」
「その一番すごいのは誰よりも一番していることをしているからだ。だから他のプレイヤーより自他共に凄いと認めているんだよ」
前に出過ぎて孤立化してしまった雛菊を見て助けに行こうとするサリー。俺がイカルと二人のカバーに入ろうかと思った時だった。雛菊の身体から白い炎が燃えだした。なんか、HPも減ってないか・・・・・?
「【仙法 蒼炎】! 【戦域展開】! 【等価交換】! 【如意自在】! 【大回転斬り】! 」
狐っ娘の刀が光りに包まれながら数倍も大きく伸び、自分を囲む全てのモンスターに向かって360度も振るった矢先。まるで津波の如く飛ぶように白い炎が波状攻撃としてモンスター達に襲った。その攻撃範囲は恐ろしく広く、俺がサリーのところまで【カバームーブ】で移動し【叛逆の障壁】で防がないと、サリーが自力で脱出するよりも早く呑み込まれる勢いだった。
バキィンッ!
「マジかっ!?」
「ハーデス!」
系統:悪のスキルだからなのか、あっさり破られた事実に絶句して驚きを隠せないがインベントリから『宇宙の星塊』を防護膜として広げて張った。
「「・・・・・」」
反射的に抱きしめ合う形で雛菊の攻撃が止むのを待った。10秒ほど数えてから『宇宙の星塊』を解くと、俺とサリー、雛菊以外モンスターのポリゴンの破片しか残ってなかった。
「半径40メートルの範囲攻撃が可能にするスキルがあるのか、雛菊?」
「ご、ごめんなさいなのですぅ~~~!!!」
泣きそうな顔で俺達に土下座をする雛菊だったが、今はそれどころではない。
「許してほしいならこのクエストを頑張ろう雛菊! ほら、モンスターが来てるぞ!」
「はいなのです!」
シャキッ! と尻尾も一緒に直立した雛菊が刀を上段の構えのまま叫びながらモンスターへ突貫していく。
「・・・・・ハーデス、ありがとう」
「おう。約束も守れたしよかったよ」
「うん、そうだね」
雛菊に遅れて先頭に戻るサリーを見送り、元の位置に戻って二人を見守る。
「「「・・・・・」」」
なーんか、妙に向けられる視線を感じて仕方がないがな! 敢えて無視して20分経てば、前衛の二人が対処できないモンスターが現れると、俺とイカルが前衛に出て残りの十分間は一度もモンスターを背後に通さず無事に二度目のクエストを達成できた。報酬は変わらず鬼人族の好感度で、またア=トゥに待ち構えられて高級旅館への案内を受けた。今度は最初から男なので男の鬼人達が居ない・・・・いや、何人かいるよな? 里から全員戦場に送り出すなんてことは普通あり得ない。男手が必要・・・・・あれ、鬼人族って女の方が強いんだっけ。男衆がいない里を守るのが女の鬼人だって言ってたよな・・・・・。
「ハーデスさん、今日も一緒にお風呂入りましょう!」
「いや、今日はさすがに男湯に入るぞ。イカルは入りたがってもイズは構わないというかもしれないが、サリーとセレーネが俺と一緒じゃあ恥ずかしがるって。そうでなくともマナーは守らないと」
と当の二人に視線を送りながら同意を求めた。―――が、しかしだ。
「・・・別に一緒に入ってもいいよ私は」
「サリーちゃん・・・・・!?」
「セレーネ、私が隣にいてあげるから大丈夫よ」
「何が大丈夫なのイズ? 問題でしかないんじゃないの?」
「ア=トゥ、風呂が備わってる部屋はないのか? あるならその部屋を使わせて欲しいんだが」
「あるが断る。一緒に入りたいと言っているんだ観念しな。じゃないと、アンタのことを他の女達に言い触らすよ」
こ、この悪魔のような鬼め・・・・・! 絶対にいつか仕返しをしてやる・・・・・! 心底遺憾ながら女堕天使に変身してまた女風呂に入る羽目になった・・・・・。まさか、イベントが終わるまでずっと入らないといけないのか?