サリー&イズside
彼岸の鬼鳴峠の北東の山に調査指定された場所には、イズが操作する円盤型のUFOに乗って移動していた。操縦席に立っているイズの背後で高級なソファに座っているサリーが神妙な顔を浮かべていたのであった。
「イズ、このUFOどうしたの・・・・・」
「自分用の船として作ったのよ」
「UFOって船だっけ・・・・・? というか作れるの・・・・・?」
「宇宙戦艦があるんだからUFOも創れるんじゃないか? ってハーデスが言い出してね。 私も疑問に思ったんだけど、そういうUFOが出る映画を何本か見たらどれも船扱いしているのよ。だからNWOでも作れないか失敗する前提でハーデスに素材集めの協力をしてもらって、試行錯誤で創って完成したのが試作段階のこのUFOなの」
いつの間にそんなことしていたんだこの二人はと脱帽するサリーを気付かないイズの手は、目的地に着くのでUFOを着陸態勢に入ろうと機械を操作する。
「おかげでこの船だけでも月に行くことができるわよ」
「ソウナンダー」
イズも大概、とんでもないプレイヤーの色に染まっているナーと思いつつ「次はもっと巨大なUFO・・・ハーデスにまた・・・・・」と一人のプレイヤーの精神的な意味での過労死待ったなしな発言を全力で聞こえないフリをするサリー。
「あら・・・サリーちゃん、ちょっと来てくれる?」
「どうしたの?」
調査対象でも見つけたか、イズの側に寄り彼女が視線を落としてる地上のリアル映像にサリーも落とすと、体長20メートルは優に超えてる茶色の体毛の猿がプレイヤーらしき大勢の人に神輿で運ばれている光景を目の当たりにした。
「プレイヤー? 無所属の? なんであんなことして・・・・・」
「・・・・・サリーちゃん、無所属のプレイヤーじゃないわ」
何時もより真剣に帯びた声音を発するイズが画面に映る映像をズームにした。すると地上にいるプレイヤー達の頭上のネームが神獣の眷属のネームが表示されている。それも複数の眷属で編成された混成チームの模様。
「神獣の眷属のプレイヤー・・・!? サーバー分けされているんじゃなかったの?」
「ハーデスなら何かわかるかも」
すぐさまコールしたイズ。連絡先相手であるハーデスがイズからの呼び掛けにすぐ応じた。
「ハーデス、無所属のプレイヤーしかいないサーバーに複数の神獣の眷属のプレイヤーが調査する場所を目指しているように巨大な動物を運んでいるわ」
『そっちもか。イカルとセレーネからも同様の連絡が入ってる。俺と雛菊のところも同じだ』
「これってどういうことなのかわかる?」
『そいつらは鬼人族と敵対を選択したプレイヤーだと思うぞ。鬼人族の味方に選んだ俺達が敵側になったプレイヤーの状況を知らないが、クエストの方を見てみろ。更新されてるぞ』
言われて初めて調査クエストを確認すれば、怪しい影の正体は彼岸の鬼鳴峠の宝を狙う山賊達だった。彼等が運ぶ最恐の呪霊が生み出した三体の分身が調査対象の場所に運び込まれる前に防ぐか、緋角隊隊長ア=センに報告せよ―――と最初のクエストの内容と変わってた。
「私達はどうすればいい?」
『一人が妨害、一人が彼岸の鬼鳴峠に戻って報告と両方できるならやってくれ。それか二人の判断に任せる。それにア=センが言っていただろ。報告次第では戦闘成績が優秀な冒険者を募るって。つまりこのクエストは失敗しても次のイベントの発展に繋がるから問題はないはずだ。だがその分、ハードな戦いをさせられるのは間違いないだろうがな』
「・・・ハーデス達の方はどうするつもり?」
『面倒な戦いはしたくないから、もう即行で敵対してるプレイヤーを蹂躙してるところだ・・・って、はははっ』
急に笑い出してどうしたんだと思ったイズの耳にその理由を聞かされた。
『坂道から来てるから運び手が全員いなくなった神輿は来た道に戻るように滑って行ってしまったんだ』
「そうだったの。そういえば雛菊ちゃんは?」
『雛菊には念のために里に戻って報告をしてもらっている。イカルとセレーネにも同じことを言ったから、恐らくイカルが足止めでセレーネが報告しに里へ戻っているかもしれない』
ならば自分達もそうするべきか、と逡巡したイズの耳にサリーの声が飛んできた。
「私が足止めするよ。イズは里に戻って報告して」
「サリーちゃん。一人で大丈夫?」
「敵対しているプレイヤーがいるなら放置はできないよ。それにあの程度の数なら楽勝だし」
あの程度の数と言うが、実際は50人ほどのプレイヤーが巨大な神輿を運んでいる。一対複数以上の戦いを真正面からするなど昔の戦場では愚の骨頂だったろう。その考えは傲慢だとも指摘されても当然であるが、サリーは“乱戦に慣れている”プレイヤーだ。
「わかった。超特急で戻ってくるから生き残っててね」
「うん分かった。それじゃあ行ってくるよ」
ハッチを開けようとするイズから離れるサリー。その後ろ姿は華奢な身体でもどこか頼もしく見える。
「因みにだけれど、彼等が運んでいるモンスターって何に見える?」
「・・・・・ふわふわのパンケーキ」
「・・・・・食べちゃダメよ? 実際は巨大な猿を運んでいるのだから」
「食べないってば・・・・・」
「でも、美味しそうに見えるのは事実よね?」
ぐうの音も出ないサリーは開かれたハッチから無言で飛び出して、宙を駆けながらイズの目の前で神輿を担ぐプレイヤー達に奇襲を仕掛けた。スキルも駆使して敵対するプレイヤーを駆逐するその勢いと速さは、さっさと終わらせたい一心に見えてしまうイズはUFOを操作して彼岸の鬼鳴峠へ瞬間移動して戻った。
セレーネside
調査対象である場所付近に巨大な動物を運ぶ神獣の眷属のプレイヤー達を発見したことを伝えるべく、イカルが召喚したグリフォンを借りて彼岸の鬼鳴峠にとんぼ返りしたセレーネ。ア=センを上空から探してもなかなか見つからず焦りが彼女を急かしたが、裏門の近くにある建物の中から現れたア=センにグリフォンと一緒に接近した。が、腰に佩いていた木刀を抜刀して振り向き様に叩きこもうとする女の鬼人に慌てて制止の叫びをした。
「ま、待ってくださいっ・・・・・!」
「おおっ? モンスターかと思えば魔王殿の伴侶が乗っていたとは」
ピタッと木刀を受け止めようとしていたグリフォンの手と接触する直前に止めたア=セン。グリフォンが彼女の目の前で降り立ち背中に乗っているセレーネを下ろすべく低姿勢になったが、セレーネはそれどころではなかった。
「は、はははっ・・・・・!? ち、ちがっ・・・・・!」
耳まで朱に染まったセレーネの顔が面白いのか愉快そうに笑みを浮かべるア=セン。
「すまんすまん、からかってしまってな。ワタシのところに来たってことは、報告であろう? 言ってみな」
「は、はい・・・・・」
本来の目的である報告をア=センにする。イカルが足止めしていることも含めてすべて伝えた。ア=センは変わらない表情で顎に手をやって思考の海に飛び込んだ様子で無言になった。
「・・・・・なるほどなぁ、山賊共がよほどこの集落を滅ぼしたいと見受ける。他に報告はあるかい」
「あ、えっと私達のところ以外にも調査する場所付近にも、大きな動物を運んでいるようです」
「他の二つもか。オメーらに頼んで正解だったな。こんなに早く報告をしてくれなきゃ、山賊どもの後手に回って好き勝手にさせられていた」
青いパネルがセレーネの眼前に浮かびクエストの達成が記された。
「それが分れば、奴等が魑魅魍魎を運ぼうとする場所には封鎖しておく必要があるな」
「封鎖、ですか? あの、この後は・・・・・」
「しばらく調査する場所で待機してもらう。親父殿にこの件を報告して許可を貰ったら、集落にいる冒険者達にある頼みをする。そいつらが来るまでオメーらはまた魑魅魍魎を運んで来ようとするかもしれねー山賊どもを対処してくれや」
「わかりました」
新たに発生した連続クエスト。このクエストは他の調査する場所にいるハーデス達にも同様に発生して、同様の経緯の報告をしようと彼岸の鬼鳴峠に戻ってア=センを探していた雛菊とイズが、それぞれハーデスとサリーに連絡を入れて迎えに来てもらったり相方の方へまたとんぼ返りをする羽目になった。
山頂まで螺旋状に刻まれた道、山の中腹辺りに陣取る俺と雛菊。しばらくの待ちぼうけを食らうとは思わなかった二人であるが、今のところ平和そのもので畳と茶菓子を出して飲食しながらイズとセレーネに連絡ができるぐらいの余裕があった。
「イズのところには猿、セレーネのところには犬、俺のところには雉・・・やっぱりこのイベントのモデルは桃太郎か」
『というと?』
何か知ってる? と風に視線と一緒に質問を投げてくるセレーネや、これから俺が言うことに耳を傾けていた聞く姿勢なイズ達にも童話の桃太郎の『裏話』を教えたやった。
『あの三匹の動物にそんな意味合いがあるなんて・・・・・』
『それに囲まれてる桃太郎って・・・・・』
『「可哀想です!?」』
『私は桃太郎の話すら知らなかったから何とも言えないね。でも肝心の桃太郎がいないじゃん』
サリーの言う通りだと俺は心の中では頷くも首を横に振って否定した。
「桃太郎は家族が川へ流したり口減らしに捨てて、それら全部間引きされた子供の総称のモデルだぞ。もう俺達が倒しまくってる」
『餓鬼が桃太郎? ・・・・・戦いにくくなること言わないでよ。聞かなきゃよかった』
「お菓子しか見えないサリーが何を言うか」
『・・・・・そうだった。でもじゃあ、採掘場にいるモンスターは?』
「それはわからない。でも、あれを倒してから護符と札を貰えたんだ。これから戦うことになる可能性がる三体のモンスターの対アイテムを貰える特殊な設定だったりするかもな。だから先にサリーが怖いモンスターの見た目を変える護符を与えられたのかもしれない」
一息いれる意味も兼ねてズズズ、と茶を飲む。話に入れない雛菊は両手で持つ柏餅をはむはむと食べている。うん、なんか和む。
『そうなると、私達はこのまま三方向に別れて対応する必要がありそうね』
「幸い無所属は強いプレイヤーが豊富だが楽観的になっちゃいけないぞ」
『立ち回りはどうする?』
俺に乞うその言葉には、特に決めてはいないと風に言い返した。
「他の味方が俺達のところに来てくれるみたいだし、クエスト通りにするしかない。現状維持だ」
『このクエストが終わったら、三体の巨大なモンスターはどうなるのかな』
「まだ倒す段階じゃなかったからなぁ。妨害する際に倒そうと思ったのにダメージが与えられなかったし。必ずどこかで現れる筈だ。最初のイベント村を守ってた戦いのように、HPの減り具合で集落の近くまで俺達を無視する転移をする悪魔みたいに」
『『あー・・・・・』』
当時のペイン達も泡を食ったほどだ。イズとセレーネは「そういえばそんなことがあった」と風に漏らした。
『じゃあ、攻守それぞれ人数を半分ずつ分ける編成をするしか?』
「それが理想ではあるが、攻めはできるものなら【蒼龍の聖剣】のみで行ってみたい。ボスモンスターが転移するなら。プレイヤーも転移して追いかけられるから」
『そうだね。あの時は足止めしてくれなかったら村を攻撃されてたよ。ハーデス達が頑張ってくれたからペイン達も遅れながら合流できたし』
懐かしいなぁ・・・・・その頃の俺と今の俺はもはや天と地の差だ。
『ところでさ、現状維持でこのまま待機して敵プレイヤーを迎え撃つのはいいんだけど、何時までなんだろうねこの状況』
「そりゃあ、あいつら次第だろ」
一方その頃の彼岸の鬼鳴峠―――。
「運べ運べぇー! この集落を滅ぼさんとする山賊達の確認がされた以上、奴らの好き勝手にさせることはこれより許さん!」
集落にいた全プレイヤーが呼集された。金属や木材と言った資材を、女鬼人の叫びに急かされるプレイヤー達はインベントリに入れることが不可な資材を、自分達の手で三つの山まで運ぼうとしていた。中には女鬼人達も交ざっておりプレイヤーより数倍の量の資材を持って運んでいた。
「どーなってんだ今回のイベント。鬼人と敵対しているプレイヤーが同じサーバーにいるなんてさ」
「妖怪と悪霊だけ相手にするんじゃなかったのかよ」
「まだ誰も分かっていないことだ。でも、イベントが次に進んでいることは確かだ」
「でもさー、プレイヤーにこんなことさせるイベントは今までなかったでしょ。重さがないのは幸いだけど」
「「えっほ! えっほ! えっほ!」」
「あ、マイちゃんとユイちゃんだ。・・・・・鬼人よりたくさん運んでるよん」
「「攻撃力極振りだからな」」
運ばれる資材はプレイヤーの攻撃力50毎に一つを持たされる設定になっている。それ以下であるプレイヤーは数人のプレイヤーと一緒に運搬するので限定的な攻撃力を発揮するハーデスより、純粋な攻撃力の高さを誇っているプレイヤーはマイとユイのみである。極振りなので本来なら足の速さは壊滅的だが、ハーデスのアドバイスでイズやセレーネにAGIが付与された装飾品を作って貰い、戦闘以外は常に装備しているので他のプレイヤーより遅くはなくなっている。メイプルも同じくだ。
「んで、俺達が資材を運ぶ山の一つにはあいつらがいるんだよな」
「そうだよ。どこの山にいるかは知らないけどね。その山に防壁でも作るんじゃない?」
「壊されないわけ? 相手はプレイヤーだろ?」
「鬼人達が建築するらしいから、恐らく完成した際には破壊不能オブジェクトになるんじゃないかな」
「なるほど、そりゃあそれぐらいじゃないと防壁にならないな」
駄弁りながら彼岸の鬼鳴峠を後にして目的の山へと進む先には道なき森の中を歩かざるを得ない。自然にできた足場などはプレイヤー達の足を鈍らせ移動速度と遅くさせがちだ。それでもしっかりと地に足を前に運びながら踏みしめ続ける繰り返しを、何度か小休止挟みつつ何時間もすれば目的の山の麓にたどり着いた。
「休む暇はないぞ! さっさと資材を全て山頂に持って行け!」
と疾呼する女鬼人の声に急かされるプレイヤー達は螺旋状に回りながら上った山頂に、暇そうに座っている二人の女性プレイヤーと遭遇した。
「あ、やっと来てくれた」
「待ってましたー!」
「セレーネとイカルちゃんがいる山だったんだね。二人はこの後どうするの?」
「えっと・・・・・山頂で鬼人達がお社を完成するまでまだこの山を護衛しなくちゃならないみたい」
別のクエストをしていた二人から聞かされた運搬した資材の理由が明らかになった。防壁を作るんじゃなかったのかと思いながらも鬼人達が資材を置く場所の指示を出していく。