明久side
「よーし、早速やってみようかな!」
事前登録は済ませてるし正式サービスが開始される土曜日の今日、朝の九時丁度になる前に初期設定も終えて頭にかぶるVRヘッドギアを持ってワクワク感を膨らます僕は 被って電源を入れると無機質な羅列のメッセージが流れた後、電脳世界へとダイブした。その瞬間はあっという間で別の空間に立っていて、手足を動かしゲームの世界の一歩と前という場に居る実感を確認して感動していると立体的な人の映像が浮かび上がった。
『NWOにようこそ!俺は蒼天の王だよろしくな!』
「うわ、王様!?」
『その通りだが少し違う。俺は初期設定を決めるプレイヤーの手助けをする役割を担っているAIだ。ということでまずは名前と自分専用のパスワードを入力してくれ。なお、他人にヘッドギアとパスワードを貸してプレイをさせることはできるが、悪用される可能性があるから気を付けてくれよ』
へぇ、そういうことも出来るんだ。悪用されるのは勘弁だね。
「えーと名前とパスワード・・・・・。名前はもう決まってるもんね。ラックっと。パスワードは・・・・・」
カタカナ字入力で済ませると今度はハーデスが言っていたキャラクターの設定だ。目の前で僕自身の等身大の映像が浮かんでその調整をするための数値をいじれる以外にも色んな設定ができることに驚きだ。
「へぇ、顔と髪に目の色を変える以外にも色々と出来るんだ。これは設定のし甲斐があるなぁ」
夢中になりすぎて十分以上も時間が経ってしまって後悔のないキャラクター設定に満足すると完了ボタンを押した。すると次はプレイヤーの職業、戦闘スタイルの選択を促された。何故か二つもだ。
「えっと、王様。どうして職業を二つも選ぶんですか?」
『一つだけ遊ぶより二つも遊びたいとは思わないか?』
「思います」
『だろ?例えばメイン剣士とジョブ魔法使いを選んでレベルを上げていくと特殊職業である魔法剣士になることが出来るんだ。ただしメインが剣士でジョブが魔法使いにすると物理攻撃が高めな魔法攻撃力の魔剣士になる。逆だと魔法攻撃が高い物理攻撃が出来る魔法剣士となるんだ』
「メインとジョブの職業の組み合わせで強さも変わるんですか?あと魔剣士と魔法剣士の違いって何ですか?」
『最初の質問を答えよう。その通りだ。だが、最初に選んだ職業だけでゲームを楽しんでもらうだけじゃなく、プレイ中でも他の職業を選択して遊べることが出来るぞ。二つ目の質問の魔剣士と魔法剣士の違いは、魔剣士の場合は武器が属性魔法が付与された剣を主に武器とするスタイル。魔法剣士の場合は魔法と剣を同時に攻撃できるスタイルだ』
そうなのか!!選択に失敗したプレイヤーが再度他の職業を選べて遊べれるなら楽しめれるね!!
『だがな?他の職業を選んで遊びたい時。例えば剣士を遊びたい時はジョブを空欄にしてから数ある専門職業のNPCのクエストを受けなきゃならないぞ。他の職業も例外なくしなければいけない。理解してくれたかな?』
頷く僕はメインが魔法使いでジョブを剣士に選択した。これで僕も魔法剣士になる道を歩むことが出来るんだ!!
『だが気を付けてくれ。中には反り合わない職業同士を選ぶと極端なプレイをしなくちゃいけなくなる。よーく職業の内容を見て、自分がどんなスタイルでゲームをしたいのか考えてから決めてくれよ。他に質問はあるか?』
もう、選んじゃいましたよ王様・・・・・質問か・・・・・そうだ。
「メインとジョブって片方しか遊べれませんよね?その時の経験値はやっぱり片方だけですか?」
『そのとおりだ。もし両方も経験値が入ると碌に使わずレベリングするだけで、他の職業のレベルが上がるだけになってしまう面白味が無いことだからな。その代わりプレイ中に得た称号はメインとジョブも共有し、レベルアップ時のステータスポイントがジョブにも加算される。スキルも共有できるスキルしか使えない。ただし、解放していない状態の職業にポイントは入らないから覚えておいてくれ。他に質問は?』
無いと言うと不意に僕の眼は光でいっぱいになって何も見えなくなった。
『ではラック。NWOで新しい第二の世界と人生を楽しんでくれ!!』
王様の言葉を最後に光に包まれた。視界が回復、というよりは目の前が鮮明に街の風景を映し出すと辺りを見回す。百メートル以上ある大樹を囲むように大小様々な建物があって、僕のように初めてゲームの世界にやってきたプレイヤー達が大勢いた。
「おう、ようやく来たな遅刻野郎」
「へ?」
振り返ると三人の男のプレイヤーが僕を見ていた。彼らの顔を見て直ぐに誰だか分かった。
「雄二、秀吉、ムッツリーニ?」
「おい、ここはゲームの世界だぜ。キャラクターの名前で言え」
「ああ、そうだったね」
雄二ことユージオは現実世界と変わらないけど、強いて言えば目つきが鋭くなってる?
ムッツリーニことトビは顔は変わらないけど、キャラクター設定にあった覆面をしていた。
最初から忍者スタイルで突き進む姿勢だ。
そして秀吉ことヒデルは、髪をポニーテールにして右目に走る痛々しい傷跡、以外は変わってない。
「へぇ、三人共そんなに変えてないんだね」
「別に凝って変える必要もないだろうって結果だ。てか、お前だってそうだろ」
「そうかな?」
「・・・・・ユージオぐらいの身長」
「目も鋭くなって凛々しくなっておるがの。じゃが・・・・・」
「「「バカは変わらないことはわかった」」」
「揃ってバカは酷くない!?」
バカな風に見られないよう顔をちょっと変えたのに印象まで変えられないのか!話が違うよハーデス!
「って、ハーデスは?」
「お前が遅いもんで先に散策していったぞ。因みにハーデスは大盾使いの重戦士だった。キャラクターの顔はお前よりイケメンで髪の色は銀、目の色はサファイアブルーだったがリアルの顔じゃない別物だろうがな」
「僕が最後なの?って、不細工な雄二に言われたくないよ!!」
「・・・・・俺達だけの話だったら」
「姫路や島田はまだじゃがな」
良かった。最後が僕じゃなかったんだね。それにしても二人がまだ来てないなんて僕以上に設定を凝っているのかな。
「ラックも来たから俺達も行こうぜ。別に待ち合わせを約束したわけじゃないからな」
「うむ、今日は自由に動くことにしようか」
「・・・・・賛成」
僕も同意見だと頷いて二人には申し訳ないけれど早くこのゲームを楽しみたいからね。
「あ、職業は何にしたの?ユージオとヒデル」
「俺は重戦士でいくつもりだ。ジョブはまだ決めちゃいねぇ」
「ワシは侍のようになりたいからの。刀を使ってみようかと思っておるから剣士じゃ」
「・・・・・忍びがなかったから剣士にした。ラックの職業は?」
トビに選んだ職業を僕は言い返した。
「魔法剣士になってみたいから魔法使いと剣士を選んだよ。姫路さんは神官を選ぶと思うから、美波はどうするかだね」
「騎士か戦士じゃないか?他にもいろんな職業があったけど島田が選びそうなのはこの二つかもしれないぞ」
美波は一子の次に運動神経がいい方だからユージオの予想は当たるかもしれない。もしハーデスを除いて僕達が組んだら姫路さんを除いて前衛で戦うのは五人ということになる。うーん、回復役がちょっと不安かな。
「まずは武器屋に行ってみるか?」
「・・・・・どこでも構わない」
「クエストを受けるところはどこなんだろうね。お金も集めて強い武器が欲しいからさ」
「それも探すのも良いじゃろう。クエストはNPCからでも発生して受けれると説明書でも書かれておったからの」
大通りに進む道の端で食材を売っている露店が軒並みに並んでいる。頭の上にはNPCと白色の文字の名前が浮かんでいる。プレイヤーは、ユージオ達の頭の上を見ても名前は浮かんでいない。
「こうしてのんびりしている間に他のプレイヤーはレベルを上げてるんだろうね」
「最強のプレイヤーになりたいならそうするだろ」
「・・・・・ハーデスはどう戦うのか」
「短刀だけで戦うという意味なら攻撃力が少なさそうで苦労しそうじゃの」
うーん、レベル上げが大変そうだなハーデスは。ふと僕は思い至った。
「武器は持っているんだっけ?僕等以外にも武器を持っているプレイヤーは見かけないけど」
「インベントリの中にな。街中では決闘する以外、魔法=スキルが使えないようだ。出して歩きたいなら装備するらしいぞ」
「ユージオってどうやって知ってるのその情報」
「お前、説明書読んでるならわかるだろ。ステータスを開いて『?』マークのところを押せば、わからないことがあれば運営にメッセージを送れるし他にもプレイヤーが考えそうな疑問の説明が書かれてあるんだよ」
え、そうなの?不思議そうに見つめる僕を三人は呆れ顔を浮かべた。
「やっぱりバカは変えられないか」
「・・・・・死んでも治らない」
「バカじゃの」
「ぐっ!?」
よ、読み忘れていたんじゃないんだよ!?ただ、早くゲームをしたくて後回しにしていただけなんだ!
「ほ、ほら早く街中を探索しようよ!あ、あそこの店にケバブが売ってるよ!良い匂いするねゲームなのに!」
「・・・・・あからさまな苦し紛れ」
「じゃが、確かに不思議ではある。現実世界の料理の味も再現されているのかの?」
「食ってみりゃわかるだろ。美味ければ現実世界じゃ食べれない料理を探してこのゲームの中で食えばいい」
「天才か!よーし、色んな料理を探しに冒険だ!」
このゲームはそんな内容のゲームだったか?とユージオの言葉を無視してケバブを売ってる店の方へと近づいた。
ハーデスside
この頃のハーデスは他のプレイヤーのプレイとは異なることをしていた。それは初期設定で選ばなかった他の職業の解放だった。全ての専業職業の課せられたクエストを受けて次々と解放していき、数時間も費やし経過した頃―――。
『おめでとうございます。全プレイヤーの中で最初に全ての職業を解放した死神ハーデス様に称号と報酬をプレゼントします』
称号:万に通じる者
取得条件 全ての職業を開放する
効果:賞金10000G獲得。各職業ステータスポイント10点獲得。各職業の秘伝書
メインを重戦士で大盾使いに選択したハーデスは、ジョブをテイマーに選択した。テイマーはランダムでテイム状態のモンスターを得られるシステムがある。β版時の第2エリアまでのモンスターから選ばれ共に活動するがハーデスはこの時困惑していた。
「ム?」
ログイン時からハーデスの隣に寄り添うように立っていた、背の低い影。ハーデスの初期モンスターである。パッと見は童話に出てくる小人と言ったところ。茶色の服を着た、茶髪の、70cmほどの小人がそこにはいた。童顔で、愛嬌のある顔をしており、頭身の低い人間の子供にも見える。性別は不明。
オルト
LV5
HP 22/22
MP 26/26
【STR 7】
【VIT 5】
【AGI 5】
【DEX 10】
【INT 12】
装備
頭 【土霊のマフラー】
体 【土霊の衣】
右手 【土霊のクワ】
左手 【土霊のクワ】
足 【土霊の衣】
靴 【土霊の靴】
装飾品 【空欄】【空欄】【空欄】
スキル:【育樹】【株分】【幸運】【重棒術】【土魔術】【農耕】【採掘】【夜目】【栽培促成ex】
完全に農業スキル。である。しかも【栽培促成】にex付きはなんだ?エクストラ?んー・・・・・。
「ノームのオルトか」
「ム!」
「装備とスキルの見た目通り農作業ができるんだな?」
「ムム!!」
ならば次に俺のすることは決まったな。畑の真ん中に、冒険者ギルド並ではないものの、そこそこ大きな建物が立っていた。紛れもない、農業ギルドだ。
「すみませーん。畑が欲しいんですけど?」
「あら、いらっしゃい。ようこそ。じゃあステータスを出して登録してくれる?あなたは農業ギルドに登録していないから畑は購入できないの」
窓口の蜂蜜色の豊かな髪と豊満な体つきのNPCの女性が教えてくれる。なるほど。まあ、それはそうだよな。今後も利用するだろうし登録しておいた方が良いだろう。
「じゃあ、登録します」
「はい。じゃあ、ステータスウィンドウをかざしてくれる?」
「はい」
「―――登録完了ね。クエスト掲示板はあそこ。受付窓口はあそこだから」
登録はあっさりとしたものだった。まあ、ゲーム内だし、書類を書かされるとは思っていなかったけどさ。
「じゃあ、改めて畑が欲しいんです」
「グレードはどうする?」
「グレード?」
「ええ。土の質や施設によってグレードが変わるのよ」
NPCの女性が、地図を出して、詳しく説明してくれた。農業系のプレイヤーがまだそれほど多くないので、畑は大体希望通りの場所が買えるだろうという事だった。
金を払えば買った畑をグレードアップもしてくれるらしい。朗報だ。なら、よく吟味しないとな。
最も安いのは1面2000Gから。グレードアップの度合いによって3000G、6000G、10000Gとなる。今の俺なら全部の畑を買える額を持ってるけど・・・・・。
「10000Gの畑について、詳しく知りたい」
「ええ、何でも聞いてね」
女性に色々質問してみた。
まず、納屋は6畳の小さい小屋みたいなものらしい。木製の物置小屋って感じか。中には一応小さい机と椅子があり、一切リフォームの出来ない簡易ホームとしても利用可能らしい。さらに地味に嬉しいのが、肥料を自動で生み出してくれる肥料庫が備え付けられるということだ。肥料は30Gと安いが、長い目で見ればお得だろう。
そして、最も重要なのが、小型の道具箱が付いていることだ。これは、モンスも利用可能なインベントリ機能の付いた箱のことである。例えば、俺が遠出している間、オルトが自動で収穫したアイテムなどを時間経過による変質なく保管しておくことが可能なのだ。
ただマイナス面もあり、納屋の分畑の面積が狭く、作物を植えることが可能な場所が10ヶ所に減ってしまうらしい。それでも納屋は魅力的だ。
「よし、6000Gの畑を買っちゃおう。」
俺はさらにギルドショップのラインナップを確認する。
そんな時に目を引いたのはとある肥料だった。それは2000Gもする高級肥料である。畑全体に撒くのではなく、1マスにしか使えない代わりに、普通の肥料の10倍も効果があるらしい。
これだけ購入可能な数に制限があった。3つまでしか買えないようになっている。どうやら1週間に一度入荷するという設定らしい。それだけレアなアイテムってことか。
現在の所持金は13000G。うん、買えちゃうんだよな。でも、種を買いたいから6000Gのグレードの畑と種だけするか。心中で独り言のように呟きながら購入するものを選び終えると待ってくれた女性NPCに話しかけた。
「はい。それじゃあどこのが欲しい?」
「場所は広場から近くて、冒険者ギルド、農業ギルド両方に行きやすいと嬉しいかな」
「ならここね」
彼女が地図でおすすめの場所を教えてくれる。確かにここなら立地が完璧だ。
「じゃあ、ここで。グレードは6000Gを1つお願いします」
「ありがとう」
チャリーンという音がまた聞こえた。所持金が残り7000Gだ。
「場所は地図にマッピングしておいたわ」
なるほど。案内はしてくれないと。
「それと、畑にまくための種とかって、どこで買える?」
「種なら、こっちでも扱ってるの」
「あ、そうなんだ」
見せてもらった2種類の種は両方とも100Gだった。うーん、傷薬草はいらない感じはするが記念に買っておくか。
「食用草の種と、傷薬草の種ね? 2点で、200Gよ」
100Gずつで買ったのは、5粒入りの種袋が2つだ。携帯食の原料になる食用草と、傷薬の原料となる傷薬草である。傷薬は初期だけ使う、ポーションの下位薬だった。下級ポーションの半分ほどの回復量だが、序盤では便利だ。俺みたいな防御特化の極振りしてるプレイヤーを除いてだけど。
さて、Gの残りはまだある。どうせだから何か買っちゃおうか? そこで目についたのは肥料だった。
「これは?」
「畑にまくと植物の栽培にボーナスが付くの。効果は5日間」
高級肥料の下位ってことか。買っておこう。しかし、よもや農耕(のうこう)をすることになろうとは、何やってるんだろうな俺と思いながら購入する。一つ30Gだ
「さて、畑に行くか」
「ムムッ!」
畑は本当にすぐそばだった。歩いて3分もかかっていない。
「おお、畑だねぇ」
「ム」
「頼むぞ、オルト。お前の手腕が懸かってると言っても過言じゃないぜ」
「ム!」
オルトが自分の胸をドンと叩く。これは完全にわかる。任せろ! だろうな。
「畑は1面につき、20個まで作物を育てられるわけか」
今ある種は食用草が5粒。傷薬草が5粒。計10粒だ。うん、畑が余ってしまうな。
「そうだ。これを10000Gの畑で植えられないか?」
種と肥料を渡す。できるか?と俺から受け取るオルトを見ていると。
「ムムームムムー」
俺の目の前で、オルトが畑の一マス部分に肥料をまいた。そのあと買った草を渡すと、オルトが持っていた草が消えた。代わりのオルトの小さい手の中には、種が2粒残されている。鑑定してみると、薬草の種だった。
「へぇ、今のが株分スキルか」
「ムームムー」
オルトが念じるように呟くと、足元の土が盛り上がった。
「ああやって土魔術を使うのか。使い方次第では戦いにも使えるか?」
オルトはそのままクワでザクザクと土を掘り起こし始めた。オルトは作ったばかりの畝に指でチョコンと穴を開けると、株分で生み出した種をまいていく。
「うん、見た目も完全に農業だな」
土をかぶせてポンポンと軽くたたき、井戸から水をくんできて、上から撒く。うん、魔法的な感じが一切ないな。大丈夫なのか少し不安になるが、農業スキルもあるんだし大丈夫だろう。
そう思ったら――。
「は?」
「ムッ?」
「いや、驚いただけだ。でも、もう芽が出るのか?」
「ムー」
自慢げに胸を張るオルトの頭を撫でながら、俺の視線は畑に釘づけだった。
なんと種を植えてからほぼ一瞬で、新芽がピョコンと顔をのぞかせたのだ。いくら何でも速すぎないか?
だって、さっき見た農業掲示板には種を植えてから芽が出るまで最低24時間かかると書いてあったのだ。それが一瞬? どういうことだ?
「オルトのおかげなのか?」
「ムム」
やはりそうらしい。農耕スキルが高いのか、栽培促成が思った以上のスキルだったのか。はたまた土魔術で何かしているのか。
ともかく、オルトがいてくれたら畑は大丈夫そうだな。と言うか、24時間が一瞬とか今後が楽しみになってきた。 もっと育てられるものがあれば、さらに畑で栽培出来るのだろうか?
「外で採取か」
待てよ? とんでもないことに気づいてしまった。俺は農業ギルドで何か情報が得られないかと考えた。窓口のお姉さんに、畑で育てられる草の種類を聞いてみる。
「農耕のレベル次第で、どんな草だって栽培できるわ」
なるほど、オルトならこの辺の草は問題なさそうだ。ならば採取ツアーの決行である。
「オルト。畑は任せたぞ。俺は、仕入れに行ってくる」
「ムム!」
町の外に出てテイマーから重戦士の職業に切り替えた。大盾使いとしてもオルトを使役するためのスキルは共有出来ているから問題ないとして採取に励むと、初期装備の出で立ちの俺に突っ込んでくるモンスターに眼差しを向けていた。白いふさふさした毛並みの獣のモンスター『アルミラージ』。
初めてエンカウントしたモンスターがアルミラージか。初戦闘でとある検証を試すべく無防備で佇んでると、一生懸命体当たりしても全くダメージが入らずだった。HPも全く減らないこの現象は・・・・・。
【STR(力)】 0〈+9〉
【VIT(防御力)】100〈+28〉
【AGI(敏捷性)】 0
【DEX(器用度)】 0
【INT(知力)】 0
重戦士の職業=大盾使いに選択し、短刀の攻撃力のおかげでSTRは0ではないものの、極端な防御力に極振りした結果によるノーダメージであった。最初は何となく検証してみたら面白いことになって、今後のゲーム活動を思い返すと思いついた。
―――アレ、もしかして今後も防御力に極振りするとモンスターとプレイヤーの攻撃無効化できるんじゃね?
必死にじゃれて(?)くるもふもふを見ながら、不動明王のごとく佇む己を想像してちょっと面白そうだと今後の方針を決め、これからも極振りで行こうと決意した。
「歩いてもついてくるかな」
AGIが0の歩みは亀より遅い恐れがある。現状ではうさぎとかめのように比べて把握することは敵わないが、走ってもダントツで現実世界の子供にも後れを取る自信がある。それが微妙な気持ちになってしまうのは致し方がないと思いつつ、不動の二文字に憧れがあるので今のスタイルを変えずに行こうと行動を開始する。
「きゅ!」
「お、ついてきてる」
背中にぶつかる感触、アルミラージが動き出す敵を追いかけながら体当たりをしてくる。まるで犬か猫かもっと遊べ!と言いたげに身体を擦り付けてくるかのような感覚に口元が緩んだ。
「よし、採取しながら他のモフモフを見つけてもっと堪能してみよう!」
ぶつかってくる際に感じるもふっとした感触を愉しみながらアルミラージと戯れ(?)散策をする。いや、本当に可愛いのなんのって。ぶつかってくる瞬間を狙って捕まえてモフると毛皮の感触が人を裏切らせない柔らかさな上にさ。放して逃がすとまたぶつかる攻撃をしてくるんだ。それが微笑ましくて時間を忘れてつい戯れ(?)てしまった時に手に入れてしまった。
『スキル【絶対防御】を取得しました』
「ん?スキル?」
周囲から攻撃してきているのもお構いなしにスキルの確認をする。
スキル【絶対防御】
このスキルの所有者のVITを二倍にする。【STR】【AGI】【INT】のステータスを上げるために必要なポイントが通常の三倍になる。
取得条件
一時間の間敵から攻撃を受け続け、かつダメージを受けないこと。かつ魔法、武器によるダメージを与えないこと。
スキル使用条件
要求【VIT】値100以上。
「VITが二倍って、ことは今のVITは128だからその二倍って・・・・・【VIT 256】?これ、かなり凄いスキルだよな?いつの間に一時間もモンスターから攻撃を受けていたのか。時間の流れ早すぎる」
そろっと移動するか。今日は森の探検でいいな。レベル上げは明日でもできると決め込んでのろのろと更に森の奥へと進んでいく。そして数十分も時間を費やしてどこまで進んだかわからないぐらい深奥へ歩んだ先に、未だ正式サービスが開始されてばかりで、プレイヤーの間では未発見な果実の林檎を見つけた。しかし、やはりというべきか人間では届かない高さで実っているところもあって手を伸ばしても届かない。
「ジャンプってステータスに反映されてるか?」
盾を持ったままその場で跳躍。地面から離れた身体は確かに上へと跳んだが、届かず直ぐに重力に従って地面に着地。今度は盾を置いてジャンプしてみると・・・・・差は変わらない。
「歩行と走りだけじゃなく、跳躍すらステータス依存なんて・・・・・」
その場でorzと落ち込む状態になってもアルミラージの他、道中エンカウントしたリアルすぎる大ムカデに大蜘蛛(見た目はタランチュラ)、他に狼やら芋虫やら色んな多くのモンスターから攻撃を受ける。ダメージは全く無い。
「手の届く範囲のリンゴを取るしかないか。料理が作れるなら・・・・・ああ、DEXが0だから作り方が分かっても調理が失敗してしまうのかも」
アップルパイが作れない!と酷く嘆く俺に励ます(?)モンスター達に囲まれ攻撃を一身に浴びせてくる。
「林檎を手に入れたらもっと森の中を歩いてみよ。幸いモンスターの攻撃は効かないし」
そうと決まればインベントリの一列の枠を林檎で一杯にするつもりの俺は届く範囲の林檎へ手を伸ばす。その中でたった一つだけ黄金に輝く林檎を見つけゲットした。
黄金林檎【レア】
一定時間経験値とスキルの熟練度がUPする
何と経験値とスキルの熟練度を増やすレアアイテムだった。今すぐ使いたい衝動に駆られたが、普通に食べるのでは勿体ない気がしてアップルパイのために使わずインベントリにしまった。
『スキル【採取】を取得しました』
スキルを取得したアナウンスを聞き流す。そうするほどの意識を向けざるを得ないことが現在進行形であるからだ。
「・・・・・それにしても、お前ら飽きないのかな」
周囲を見回すとまだいる、もう百回以上は攻撃してきてるモンスター達にちょっと憐れんでしまった。
ラック(明久)side
「そう言えば大和達もやってるかなー」
ケバブの味を堪能した後、町の外でモンスターを倒して順調にレベルを上げた時、皆に同意を求めた。
「あいつらのアバターの名前は知らないがな」
「ワシらはハーデスに考えてくれたから分かるがの」
「・・・・・姫路と島田もまだ見当たらない」
もう来ている頃だと思うけど、トビの言う通り二人とはまだ合流できていない。ユージオは気にしていない風だけど、一目見たい気持ちはあるかな。
「ハーデスとも会ってないけど、どこにいるんだろう」
「気になるならメールでもすればいいじゃねぇか」
「では、ワシが試してみるかの」
ヒデルがメール画面を空中にブォンと展開してローマ字入力でハーデスにメールを送った。フレンド登録しないとできないようだけど、僕はハーデスと登録していないからできない。
「返信が来たぞ。西の深奥の森にいるようじゃ」
「同じ森にいたのか」
「ワシらも西の森におると送信しておくぞぃ」
「・・・・・ついでに新しい情報が欲しい」
ヒデルはもう一度メールを送って少し経った時に返信が届いたようだ。
「今いる森の中で経験値とスキル熟練度がUPする林檎を見つけた、と」
「へぇ、林檎ってアイテムかな?きっとそれレアだよ」
「となると俺達も森の深奥へ進めば何かレアなアイテムが手に入るかもしれないってことか」
「・・・・・どうする?」
未知の発見の為に危険な冒険をするか否か、トビは僕達の意見を求めるけど決まってるよね。ユージオが不敵な笑みで森の奥へと視線を送った。
「行ってみようぜ。強いモンスターは四人でいけばなんとか倒せるだろ。最悪ラックを囮にして逃げればいい」
「じゃな」
「それじゃ、マップを確認してから行こうよ。それと強いモンスターはユージオを囮にして攻撃しよう」
「・・・・・準備は必要不可欠」
満場一致で僕達は更に森の奥へと挑戦することになった。他のプレイヤーもそうだけど、ハーデスにも負けたくないからね。きっと僕達よりもレベルを上げてるかもしれない。
ハーデスside
「・・・・・くぁ」
ゲームを初めて採取ツアーをしてから数時間が経過。どんどん探検気分で進みプレイヤーがいない森の奥、そこで耳にシステムからのメッセージが届いた音で意識が覚醒した。目を開けたら空はすっかり朱色に染まっていた。道中横になっていたからいつの間にか眠っていたようだ。あるシステムを確認するととんでもないことになっていて急いでインベントリから林檎を取り出して食べ始める。味そのものは現実世界の林檎と変わらず美味かった。寝ている間それなりに減っていた―――空腹度を満腹になるまで食べ続ける。理由は空腹度が無くなるとデスペナルティを受けるシステムがあるのだ。受けると五つの項目の能力が半減して、空腹度が続くと体力が減って最後は死亡扱いされるのだ。ダメージ0の俺以外の通常のプレイヤーだったら、森の中で見つけた林檎を採取できず満腹を回復ままらずにデスペナルティで町に戻されているだろう。まぁ、見つけたとしても俺はDEXが0なので採れた林檎の数は多くなかった。採取までもステータス依存とは・・・・・!極振りの弊害キツ過ぎるだろ運営!?黄金の林檎をゲットできたのは稀の成功だったかもしれない。
「そろそろ戻るべきか。ログアウトしても町に戻っているとは限らないしな」
それに―――ここまでついてきたモンスターがまだ攻撃してきているし、いい加減俺もどうにかした方がいい気がしてきた。でもおかげで新しいスキルが一つ取得できたのは悪くないと思うけど。
【毒耐性中】
強力な毒を無効化する。
取得条件
強力な毒を四十回受けること
あ、もう二つ増えてる。さっきのメッセージはこれか。
【挑発】
モンスターの注意を一点に引き寄せる。
取得条件
十体以上のモンスターの注意を一度で奪うこと。アイテム使用可。
【瞑想】
使用すると、十秒で最大HPの1%HPを回復する。効果持続時間は十分。消費MPなし。【瞑想】時にはあらゆる攻撃行動を取れなくなる。
取得条件
攻撃を受けつつ三時間瞑想すること。
「・・・・・眠っている間は瞑想扱いされるのか。スキル取得の条件の基準がいまいちわからないな」
だけどうん、何度見てもタンクの職業らしいスキルだ。現プレイヤーの中じゃ最もスキルを取ってるんじゃないか?
挑発に関しては何も言わん。歩く度に増えていくモンスターを一度で注意を奪ったかなんて判定できない。途中、フォレストクインビーという巨大蜂から食らった毒攻撃で得た耐性も中々どうして。
「さて帰ろう」
ガジガジ、ビシバシ、ツンツンと攻撃を止めないモンスターを気にせずに来た道へ戻るとするか。夜の外のエリアのモンスターは一気に強くなるのがゲームの常識なためにさっさと町に戻った。戻ったのはいいんだが・・・・・・。
俺は今―――背中に竹かごを背負って初期の服装で始まりの町のゴミ拾いを勤しむことになってしまった。事の原因は十分前の事。
今度は始まりの町で探索していると、竹かごを背負った老人と出会った。フラフラとおぼつかない脚で歩いていた。その日とはNPCだが見ていると危ういなと思って近づき話しかけようとしたら、突然ばたりと倒れこんで直ぐに介護した。
「大丈夫か?」
「ああ、お優しいのすまないね。最近足が酷くて立ってるのもやっとなんじゃ」
「なら家まで送ろうか?」
「すまないがやることがあるのじゃ。家に戻るわけには行かん」
話を聞いてみたところ、この老人は急激に増えた人に伴い町中で捨てられるゴミも増えたことで広場にある巨大樹に影響が出ないようゴミ拾いを始めたようだ。多分その急激に増えた人間ってプレイヤーの事なんだろうな。
「儂のような年寄り以外の者はもう知らんかもしれぬが、あの大樹には精霊様が宿られておるのじゃ」
「精霊様?」
「百年に一度、精霊様は大樹の化身として現れこの町に加護を下さる。この町が外のモンスターに襲われておらんのは全て精霊様の加護あってこそじゃ。だから、この町に生きる儂等は精霊様に感謝の意を込めて町を綺麗にしておるのじゃ。しかし、最近の若い者は年寄りの儂等に耳を傾けないどころか信用もせん。お主はどうなんじゃ?」
ここで答えを間違えたらいけない気がしてならない。本心から思ったことを口にする。
「本当に精霊様がいるなら、この町に住まわせてもらっている俺も微々ながら町の為に何かしたい」
「精霊様がおらんでもか?こんな老いぼれは報酬も何も出せんぞぃ」
「報酬欲しさに言っているんじゃないさ。こんな体でも町の為に働くお爺さんの為に手伝いたいんだよ。一人より二人で分担すればゴミを早く集めやすいだろ?」
竹かごを手に取り背負うと俺の目の前に青いパネルが浮かび上がった。勿論YESを押すと老人の顔に笑みが浮かんだ。
「最近の若い者はまだ捨てたものではないようじゃな。すまぬが儂の代わりにやってくれるかの。五十年に一度、つまり一週間後までじゃ」
「わかった、頑張って集めるけど拾って溜まったゴミはどこに?」
「またここに来て欲しい。それも籠が満タンにしてからじゃ」
インベントリ代わりの籠の枠は100。100個のゴミを一週間以内に集めないと駄目ってことか。
「じゃ、行ってくる。お爺さんも気を付けて帰ってな」
「うむ、ありがとうの若い者」
老人と別れてゴミ拾い前にオルトと合流しに行こう。
「ただいまー」
「ムーム!」
走り寄ってくるオルト。
「ムーム、ムーム」
何か訴えかけてる?
「どうした?」
「ムム」
オルトの指し示す方には、大分成長した若葉の姿があった。もう新芽とは言えない大きさだ。
「早っ! もうこんなに成長したのか?」
「ム」
「すげー。オルトすげー」
「ムムッム」
「そうだ、これ、携帯食料と新しいお土産な?」
「ムーッ!」
外のエリアで採取した様々なアイテム。それらを見てオルトは大はしゃぎ。一日一回食べさせないとテイムのモンスターのステータスが下がるというからな。携帯食料を食べ終えればオルトは早速畑に植え始めた。俺は森で採取した水軽石という水と一緒に入れておくと、水を浄化するアイテムを桶に井戸水を張って中に水軽石を入れる。すぐに変化はない。どうやら、暫く置いておかないといけないみたいだ。その間に俺はゴミ拾いを始めるか。
「じゃ、またなオルト」
「ムー!」
このままログインするつもりでオルトと別れゴミ拾いを始める。町中の地面に注意深く視線を向けていると、何か落ちているのが見えた。普通に歩いていたら見逃すのは間違いない、小さな石ころだ。
「これがゴミか?」
ゴミ拾いクエストを受けたことで、ゴミに緑マーカーが表示されるようになったらしい。しかも他の石ころには緑マーカーは表示されていない。どうも闇雲にゴミを拾えばいいわけではないらしい。
「よし、マッピングしながらゴミ拾いだ」
VRゲームの中でゴミ拾いとか、どんだけ地味なんだって話だ。だが、これも経験値と貢献度のためだ。
と―――そんなこんなでゴミ拾いクエストをしている真っ最中な現在進行中でも俺はひたすらゴミを拾い続けた。ゴミは石ころに留まらず、草や割れた花瓶など、多岐にわたる。拾ったゴミが20を超えた。
マップを確認すると、南区はほぼ回り終えていた。それでも、ゴミを3しか拾えていない。
「次は西区に行くか」
俺は西区を歩きながら、ゴミを拾っていた。マッピングも、ゴミ拾いも、すこぶる順調だ。ただ、いくつか気になることもある。
「おいあれって」
「背負子を背負ってゴミ拾い?」
「おいおい、初心者がこの最新ゲームをしてゴミ拾いってw」
「うわ、哀れな・・・・・」
なんか、妙に人の視線を感じた。それと共に、何やらヒソヒソと小声で話している。いや、分かっているのだ。何やらじゃない。完璧に嘲笑されている。うん・・・・・顔覚えたからな?夜の町の外で出会ったらプレイヤーキルしてやるから覚悟しとけよ?
「西区は大体回ったな」
順調そうに思えたゴミ拾いは微妙だ。6個しか拾えなかった。しかし西区はほとんどの場所を回っただろう。
「でも、このペースだと、東西南北全部まわってゴミ拾いしても、一週間以内に100個に届かないよな」
1区画3個前後のゴミが落ちているとすると、4区画で12程度。100個は達成できない。
そんな俺だが、実は気になっていることがある。
「あそこ、確実に緑マーカーが出てるんだよな」
そこは町の水路だった。横幅7、8メートルほどの、運河と呼ぶには狭くて浅い水路だ。各区画の中心にある巨大樹に向かうようにこの水路は走っている。
その水路の中に、緑マーカーが見え隠れしているのだ。水路に入り濡れながらトングを伸ばして水の中のゴミを拾うことを試みる。結果は・・・・・
「よし、採れた!」
それはやはりゴミだった。
ゴミ拾いの達成に光明が見えた。だが、同時に最悪の結果でもあった。
「他の水路にもゴミが落ちてるかもしれない?」
だとすれば水路にも探さなければいけないことになる。夜になれば辺りは暗い。夜に水路に入ってゴミ拾いをするのは色々な意味で勘弁だった。しかし、ゴミを100個拾おうと思ったら、ほぼ確実に水路に入らないとならないだろう。
「まぁ、水路に入って大丈夫な深さだ溺れはしないだろ」
悩んでも仕方がない末俺は水路でゴミ拾いを始めた。くっ、水で歩行が更に遅い!早くAGIが欲しいっ!こんな姿を目撃したプレイヤーも噂したいならしやがれってんだ!
―――結局、全ての水路でのゴミ拾いが終わるのに2時間以上かかってしまった。しかも、最終的には16個のゴミを拾うことができた。やはり少ない。
「あれ?なんだここ」
だが、俺は新しい発見を目の当たりにした。橋の上からだと見えず死角になっている橋の袂に、鉄の扉がヒッソリと取り付けられていた。暗がりなうえ、石材と同じネズミ色をしているため、降りなければ絶対に気づかないだろう。
「開かないか」
鍵がかけられているのか、錆びついているのか、どうやっても扉は開かない。
「鍵が必要か?」
きっと、イベントか何かで開くのだろう。残念だが、諦めるしかない。
「とりあえずこの場所のことは覚えとけばいいな」
俺は扉を諦めてゴミ拾いに戻ることにした。開かない扉よりも、目先のクエストだ。途中見かけた梯子に上り―――不意に影が差し込んで顔を見上げると黒髪黒目の少女と視線が合った。
「何してるのハーデス君?」
少女が不思議そうなものを見る目で俺を見て、俺が這い上がってくるのを邪魔しないよう退いてくれると理由を語りながら登り切った。黒髪に黒瞳・・・・・リアルの容姿のままで佇む彼女―――松永燕ことイッチョウに言い返す。
「ゴミ拾いのクエストだよイッチョウ」
「ゴミ拾いってβ版でも検証された誰もやりたがらないクエストだよね。数日間この町から出られずただひたすらゴミを集めて報酬が何ももらえないハズレクエストと揶揄されてる。だから何か妙な噂が流れてたか」
噂?と首をかしげるとイッチョウは噂の内容を教えてくれた。
「ゴミ拾いをしている初心者がゾンビのように徘徊しまわってるって、ちらほらとそんな話が聞くよん」
「よし、そいつらを見つけたら殺してやる。ところでそっちはレベルどのぐらい上がった?」
「うん、6だよ。スキルも何個か取得できた。ハーデス君は?」
「俺はまだ1。だけどスキルが四つと称号を一つ習得したぜ。ゴミ拾い一週間以内に100個集めないといけないからな」
「うわ、しんど・・・・・え、一週間も?リアルでも一週間も縛られて大丈夫?完全に出遅れてるよ?」
「色んな発見を見つけたいからな。特別強くなるのは二の次って感じに思って―――重戦士の大盾とテイマーの職業にしたんだ」
「そっかー、そういうプレイもアリかもね。じゃあ、そんなハーデス君にちょっと珍しい情報を教えよう!」
おおー行動力ある人からの情報はありがたいなー(棒読み)。
「その前にイッチョウ。職業を全部解放した?」
「してないよ?ハーデス君はしたの?」
「ああ、一気に終わらせたら称号『万に通じる者』を取得したぞ。一番最初に取得したからか、賞金も10000G獲得して各職業ステータスポイント10点獲得。各職業の秘伝書も貰ったわ」
「何それ!?凄くいい報酬じゃん!!」
羨ましい!とイッチョウも手に入れようとする雰囲気が伝わり、頑張れよと応援する俺から駆け出して専用職業師匠のNPCへ尋ねに向かったイッチョウの背中を見送った。
―――数時間後。秘伝書は手に入らなかったが称号とステータスポイントと賞金は貰えたと遅めの夕餉中に話してくれたのであった。
「あの情報、情報屋に売ったらいい値段で買ってくれると思いますよ西区の大通りにいるんで行ってみたらどうですか?」
「そうか。なら行ってみようかな」
明久side
月曜日となって学校の教室とは思えないAクラスより豪華絢爛な設備を手に入れ、三ヵ月間過ごすことになった僕らは思い思いに満喫していた。まず最初に僕達は壇上に立つハーデスからある物を受け取っていた。
『・・・・・FFF団会長、須川亮前へ』
「ははー!」
ハーデスからSクラス戦の時に特攻隊を命じられた僕らに約束された報酬を一人一人厳かに手渡される。命を懸けるに相応な報酬なれば命を投げ出す覚悟なんてできるからね!
『・・・・・約束の報酬だ。受け取るがいい』
「ありがたき幸せ!」
聖書と金一封に口に出せないアレなゲームが同封されている白い封筒と茶色い封筒を受け取った須川君は、自分の席に戻りながら中身を確認すると狂喜のあまり小躍りをしだした。彼を見てハーデスは約束通りに用意してくれたものだと僕等に期待感を高めてくれた。実際、僕の番が来て受け取った封筒の中身は満足のいくブツが収められていた。
『・・・・・次も俺の為に働けば報酬は約束しよう。それが欲するならば次の戦まで点数を稼げ我が死徒達よ。
お前達の真価は命を散らした後に発揮するのだ。さすれば報酬は約束された理想郷の先にある』
『『『『『我が主よ!この命は全て貴方様の為に!!!』』』』』
この時を持ってFFF団はハーデスに忠実な下僕となり報酬のためなら命を捧げる兵隊となった!
「完全に殆どのクラスメートの心を掌握しやがったな」
「ガクトもすっかり犬になっちゃったね」
「これでテストに集中していい点数を出してくれるなら御の字だろ。ただ、坂本がこれからも試召戦争をするかは分からないけどな」
僕的には目的は達成したけれど大和の言う通り、雄二はどうするんだろ?
「ねぇ、雄二。今後も試召戦争をするの?」
「あ?三ヵ月間はしねーぞ。Sクラスを打ち破った二人がいる限り好き好んで戦争を吹っ掛けてくるクラスはいないだろうしな」
「うん、それもそっか。でも三ヵ月間ってSクラスが試召戦争を申し込みができない期間だよね?雄二、もしかしてだけど」
「恨み憎しみを込めて報復という名のリベンジに燃えて、Sクラスが戦争を仕掛けてくるだろうからな。ま、それまで俺らは自由に元Sクラスの教室を満喫してよーぜ」
リクライニングチェアに体を預け寛ぐ雄二からはやる気のなさを感じる。もうやることが無くなったように。実際ハーデスと松永さんがSクラスを倒した話で学園中が盛り上がり、同じ学年の同級生達からはFクラスにすごく警戒してて凄くない僕にも奇異的な視線を向けてくるようになった。
「そう言えば、Aクラスはもう元に戻ってるんだっけ雄二」
「Sクラス戦まで限定的な同盟だったからな。そのSクラスが負けたからにはAクラスも何時までも俺達と同盟の関係を続ける理由は無い筈だ」
「・・・・・そんなことない」
雄二のを否定したのは、静かに喋るムッツリーニじゃなくて・・・・・何時の間にか元Sクラスの教室に入って来ていたAクラス代表の霧島さんだった。
「しょ、翔子?どういうことだ?Sクラスは負けたんだぞ。もう協力することもないだろ。FクラスとAクラスの協定はSクラスを倒すまでの筈だ」
「・・・・・雄二はSクラスとの戦争は本当にこれで終わりだと思ってる?卒業するまでSクラスが負けたまま大人しくしていると思う?」
「・・・・・」
「・・・・・死神と松永を警戒して何か仕掛けてくる。雄二が考えもしなかった、思いつけないようなことを」
「二人と無力化すればSクラスの連中が俺達のこと取るに足らん相手と言いたいのか」
静かに頷く霧島さんの言い分には僕でも危機感を覚える。多分、凄く目立ち過ぎた二人を全力で対処するために手段を択ばないじゃないかって言われたようにしか聞こえないからだ。
「だとしても、上位のクラスから宣戦布告を受けても俺達下位クラスは断ることができる。何せ最弱のFクラスだからな」
「・・・・・断れない状況になったらどう断るの?」
「何だと?そんなこと―――」
「・・・・・雄二にじゃなくて学園長に宣戦布告の申請をすれば、断れることができる下位クラスでも承認されたらいくら雄二の言い分が正論でも意思とは関係なく試召戦争が起こる」
―――雄二!?霧島さんの発言で僕はおっかなびっくりの気持ちで雄二の顔を見たら、そんな抜け道の穴があったのか!って信じられないものを見た顔をしていた。
「・・・・・実際、雄二達に負けて三ヵ月間も試召戦争を仕掛けれず弱っていた私達はSクラスに宣戦布告された。それだけならまだ納得できるけど負けたら私達は旧校舎に追いやられるところだった」
「なんだと?設備のランクダウンがルールの筈だろ・・・いや、翔子の言い分通りならそんな横暴なやりかたも可能にしちまうか。Sクラスの連中は財閥だの業界だの政治の仕事をしている親だらけだ。この学園は試験校のため経営が世論に左右されやすく、イメージの低下を避けるため不祥事は大っぴらにできないという問題点があるから」
「・・・・・うん、Sクラスの誰かがあることないこと言いふらしたら学園は困る。だからSクラスの意分も無視できない」
事の重大さに気付いて忌々し気に舌打ちをした雄二は、自分よりSクラスのことを重く受け止めている霧島さんの同盟の継続の有無を考え直し始めて・・・決めた。
「わかった。お前がそこまで言うならAクラスはこのままFクラスとしてSクラスに対する備えを万全にしていこう」
「・・・・・うん、ありがとう。正直ダメかと思った。・・・・・あの手段を実行しなくちゃならなかった」
「待て、俺が頑なに断ったらどうする気でいたんだ!?」
「・・・・・雄二を説得するために翔花を雄二の家に同棲させていた」
あ、心底自分の判断に間違えなかったことに安心してる。
「・・・・・ということで、死神を私達のクラスに連れて行く」
「それこそ待て!?ハーデスを引き抜くことを許した覚えはないぞ!」
「・・・・・違う、同じFクラスだから成績向上の為に生徒の入れ替えをするだけ」
あ、ハーデスが決めた勝利の特権を利用しようとしている。勿論それは雄二も了承しちゃったから霧島さんの行動に口出しはできない。だとすると・・・・・。
「霧島さん、ハーデスを連れて行くならそっちは誰と入れ替えるの?」
「・・・・・ハーデスだけじゃなく松永も連れて行く。こっちは翔花と久保を、Fクラスの成績の向上に頼むつもり」
「止めろぉー!?よりによってあいつと入れ替えるんじゃねぇっ!俺の心の平穏の為にぃ!」
「うるさいぞ坂本っ!席に就けHRを始める!」
鉄人の喝で僕達は席に就く。霧島さんはまた後で来ることを言い残して自分のクラスへと戻っていった。そして鉄人が黒板に何かを張り出した。
「今日は学園長からの指示で特別授業を行うことになった」
前から配られる紙を受け取りながら鉄人の説明に耳を傾け、黒板に張られた特別授業の内容を見た。
「二年生三年生の合同による神月学園主催豪華賞品争奪戦オリエンテーリング大会?」
クラスの皆の視線は黒板に集まっていて僕はそれを疑問に呟く。
「ほー、そんなことをするようだな」
「急にどうしてそんな事をするんだろうね」
「さーな。ただ、今日の授業は丸潰れだってことだけは分かる」
「それは素晴らしいことじゃないか」
授業が潰れるなら喜んでしようじゃないか。
「豪華賞品って?」
「ここに商品が書いてあるだろ」
配られた大会の紙の下辺りに指して言った。
「が、学食一年分の食券に新作ゲーム引換券!?」
「随分と豪華だな」
「シークレットアイテムもあるって書いてあるね」
豪華賞品が書かれた紙を見て興奮気味に声を出す。
「こ、これをどうやって手に入れるの?」
尋ねると、雄二が何かの地図を広げた。
「これが学園の地図」
「ここから探し出すのか。僕、RPGで宝箱探すのは得意なんだぁ」
「そしてこれが試験問題だ」
「えっ・・・・・!?」
僕の目の前にドサリと鉄人が置いた山のように積まれた試験用紙。
「この試験の答えがチェックポイントの座標になっていて、そこに隠してあるチケットが賞品の引換券だ」
「そ、それじゃテストが解けなければ貰えないじゃないか!」
「しかも同じクラスや他のクラスのチームと召喚獣バトルで奪い取ってもいいことになってるな」
「何から何まで不利じゃないかぁっ・・・・・」
この大会の賞品争奪の内容に戦慄する僕。いや、待てよ?
「そうだ、姫路さんとなら―――!」
Aクラス候補の姫路さんならテストを簡単に解ける。彼女と一緒ならば!
「何気にオリエンテーリングのチーム分けを発表するぞ」
と、鉄人が丸めた用紙を黒板に広げてチーム表を覗かせてくれた。
もうチームを決めていたなんてせこいことをっ!
「僕のチームは・・・・・雄二とムッツリーニ?姫路さんは島田さんと京のチーム!?」
大和はガクトと一子、卓也はその他二人、翔一は秀吉と須川君かぁ・・・・・。
「死神と松永の二人はチームとする。制限時間は放課後のチャイムまで。これも授業の一環だ。真面目に取り組むように」
鉄人の発した言葉がオリエンテーリングの始まりとなった。
おのれ、鉄人!雄二とムッツリーニじゃ戦力にもならないじゃないか!
「明久、言いたいことが分かるから言うぞ。そのままのし付けて返してやる」
「・・・・・返す」
それは僕のセリフだ!
―――☆☆☆―――
―――燕side
学園長も面白いことをするもんだね。お宝探しなんて蒼天でもしなかったことだよこれ。ハーデス君はどう思っているのかな?私の隣で手がブレて見えないほど問題用紙を解いている彼を見ていると、プリントに走らせていた鉛筆を持っている手を止めた。
『燕』
「はい?」
『このシークレットアイテムという商品が気になる』
景品の覧に書かれてる一つを言う彼に私も改めて見直す。
「これですか?私はよくわかりませんけど何でしょうかね」
『・・・・・カヲルは技術者としての腕も持っている。予想だが試験召喚システムに関する道具かもしれない』
「それを手に入れて実用的だったら蒼天にも導入すると?」
『あいつの腕は本物だ。無駄な物は作らないからな。ただ―――不良品だった場合は考えを改める』
この学園に来た目的がこんな形で早くも行うことになるなんて、私達の心意を知らない学園長は驚くだろうねぇ。
『・・・・・いくぞ』
「はーい!まずはどこに?」
『・・・・・Aクラス』
引換券を求めAクラスへ向かう。中に入れば案の定、私達のように問題用紙を解いて探しに来た同学年の皆がいたんだけどまだ見つけていない、もしくは無いから見つからないかのどっちかだ。
『・・・・・次行こう』
「探さないんで?」
『既に探し尽くされていることを知らずに探してしまう、そのループになりかねない』
ああ、確かに。最初の人がしたっていう痕跡がないと同じ事をしてしまうアレだね。ハーデス君はAクラスの中の状況を見てそう決断して次の場所へと向かおうとするからついていく。
「ハーデス君、ゲームの方は順調?」
『・・・・・ファーマーとして頑張ってる』
「え、何でそっち?」
次に探す場所は女子トイレだった。私に任せて男子トイレに入る彼と同時に女子トイレに入る。綺麗に掃除され清潔を保ってる共同トイレの中を軽く探しても隠せるような場所は見当たらない、個室便座の中を調べてもないということはタンクの中だけ。
・・・・・全部調べてもなかった。
トイレを後にするとハーデス君もなかったということで別の場所へ探す。
「今度は下駄箱?」
『・・・・・そうみたいだ』
探すのが大変な場所で探す。ない、ない、ない、ない、ない・・・etc。全ての下駄箱を開け終えてハーデス君と合流する。
『・・・・・あった?』
「なかった。そっちは?」
『・・・・・ない』
隠す場所としては王道的な感じだからもう取られた後かもしれない。
『次は職員室』
「先生はいると思いますけど、そこにも隠されているんですか?
『解いた問題用紙と場所を照らすとそこにもあるそうだ』
後は本当にあるかどうか、だね。丁度一回にいるから直ぐに向かい、無遠慮に先生が誰もいない職員室に入って探してみる。あるかな、あるといいなー。ということで引き出し、失礼しまーす。ガラ、ガラと引き出しを開けてプリントや教科書、はたまた雑誌やらお菓子などばかり見つけしまうと同時にゴミ箱の中も探してみると、何も入っていないゴミ箱の中に念願のカプセルを発見!
「ハーデス君、あった!」
『・・・・・中身は?』
おっとそうだった。さてさて、中身は何かカプセルを開けて券を見てみると。
『西村先生との補習授業』
「『・・・・・』」
・・・・・誰も欲しがらない物を手に入れてしまった私達の間で静寂の時が過ぎる。
『・・・・・放課後のチャイムまで持って居よう。誰かに擦り付ける』
「はい、わかりました」
と、彼の言葉に従う。これを渡されるまだ知らない人へ、ごめんね!
それからの私達は次々と景品があるかもしれない指定された座標ポイントに向かって探し続けた。小一時間経過すると、試召戦争をしている生徒同士の騒ぎがちらほらと聞こえたり見かけたりする。召喚バドルによる奪い合いは許されてるから、私達もハーデス君と勿論その戦争に参加して勝ち取って中身を確認したけど、いらないのだったのかその場で他の人に渡して次へ探す。
「いいの?せっかく手に入れたのに」
『寧ろ、あの場に居たら放課後まで勝負を吹っ掛けられ続けて他の景品を探す余裕がなくなる』
そう言われて後ろに振り返ると、どんな景品か知らないのにそれ欲しさに勝負を仕掛ける生徒と、勝負に応じるしかない生徒がまた試召戦争を始め出した。更に奪い合いをしているところを見かけて駆け付ける生徒が続出する。・・・・・確かに。
「景品を見つけたとしても二つか三つだけに?」
『そうするべきだ』
一つは黒鉄の腕輪だとして他は何がいいかなー。学食一年分とかいいかも。
「因みに勝ち取った景品の中身は?」
『新作ゲーム』
今、ゲーム業界の革命を起こしているVRMMORPGがあるのに新作のゲームって。あ、もしかしてそれなのかもしれない。それだったら手に入れたい気持ちがわかるかも。
―――数時間後。
念願の物を見つけた矢先、お昼休みの時間となったからハーデス君と屋上で昼食をすることにした。その最中、庭園の花壇の中にカプセルを見つけたのがラッキーでさらに中身は学食一年分の引換券だった。
それからベンチに座り、ハーデス君特製弁当を食べながらのんびりとしていた。警戒して骸骨の仮面の下の半分だけ外して弁当を食べる彼と共有する時間は『旅人さん』を慕う彼等彼女等に対して優越感を覚える。だって、皆が会いたがっている人は直ぐに横にいるんだからね。武神と世界中から畏怖も込めて称されてる川神百代ちゃんですら気付いていない。
「ふふっ」
「どうした?」
「楽しいなーって思ってました」
嘘は言っていない。偽りのない本心を笑顔と共に言うと、私の頭に手を置いて撫で始めた。
「なら、今のうちに楽しんでおけ。仕事で忙殺されるあまり楽しむ時間がなくなるからな」
「王様―――じゃなくてハーデス君もそうだったの?」
「大人になれば分かってくるさ」
しみじみと言うハーデス君は大人の大変さを物語らせるに十分な経歴を持ち実体験をしている。その実、信じられないことに若々しい姿で年齢が百歳以上、つまり昔の戦争当時から変わらない姿で生きているのだこの人は。だから昔からハーデス君の若さの秘訣は何なのか、蒼天でも謎で包まれている一つ何だよね。
「そうなんだ。じゃあ、ハーデス君の傍で経験してみるよ」
「・・・・・俺の傍で?」
どういうことだ?と風に復唱する彼に意味深で笑みを浮かべた後、残りの弁当のおかずを食べる。
放課後のチャイムがなり、オリエンテーリング大会は幕を下ろしたことを学園長と二年Aクラスの担任の高橋教諭は話し合い始めた。
「終わったようだね。用意した賞品はどれぐらい見つけられたのかい」
「はい、報告では主に三年生が試召戦争で勝ち取ったか自力で見つけたようで三分の一の商品を手中に収めております。他は一つを手にした二年の生徒がいれば同じ生徒が複数確保した模様です」
「ほー三年相手に負けていないとは感心だね。この機に成績を伸ばす生徒が増えることを願うよ。それで、シークレットアイテムの方は誰が見つけたか分かっているのかい」
その問いに高橋教諭は答えた。
「ええ、Fクラスの生徒が見つけたようですね」
「なるほど・・・・・(あいつ等ではないことを祈るよ)」
見つけてほしくない人物を脳裏に過らせたが既に遅く、手に入れてしまったことを学園長はまだ気づいていなかった。
「これがシークレットアイテムの黒鉄の腕輪かー。外見は凄く立派だけどハーデス君は性能が気になるんだよね?」
『・・・・・そうだ。発動キーは
「何がどうなるか、では早速使って試してみようっか」
性能によっては蒼天にも取り入れるつもりでいるハーデスは燕と同時に誰もいない屋上で発した。
「『
そう言うと腕輪が起動し、二人を中心に特殊な空間が構成して試召戦争時に立会人として召喚獣で戦わせるために展開する同じフィールドが二人を囲んだ。
「おー、これは」
『・・・・・「
召喚するハーデスに燕も召喚獣を召喚して、自分達の召喚獣を前に感嘆の息を漏らす。
「あーなるほど、コレですか。蒼天にもありますね」
『・・・・・この学園には無いものとして開発したか』
「そうかもしれないね」
見慣れたモノであったことに期待していた二人は少し肩を透かした。今思えば蒼天の技術者としてこの蒼天に十年前から派遣したのは他でもないハーデス自身だ。彼女が技術班の一人として開発したことがある物は時間をかければ大抵の物は作れる、と思い返していたら燕の腕輪がスパークを起こした。
「へ?わっ!」
『なに?』
何故かハーデスの腕輪は爆発せず、爆発する黒金の腕輪に巻き込まれた燕は、包まれた煙が晴れると水色の下着が露出してしまうほど制服がボロボロになっていた。
「え、えええっ!?何で!?」
『・・・・・カヲルめ、この俺に不良品を掴ませやがったな』
「というか、王様こっちを見ないでって、あ、先に行こうとしないで!私をこの状態のまま置いていかないで―――きゃっ!?」
屋上を後にするハーデスは予備の黒マントを燕に羽織らせてお姫様抱っこで教室まで運び、体操着に着替えてもらうと学園長室へ直行した。
「学園長どういうことですか!」
「いきなり怒鳴られても分かりはしないよ。説明しな」
『なら不良品の事ついて語ろうかカヲル』
黒金の腕輪とスケッチブックを見せつけながらドスの利いた声で追求するハーデスを、学園長はサーと顔を青ざめた。
『お前の腕を買って、能力も見込んでこの学園に派遣した者として見過ごせない事情がある。総合的点数が低い生徒ではないと不具合が生じる物を作って自分の立場を危うくしてどうしたいんだ?Fクラスの生徒しか使えないものを他の生徒が手に入れて、猛抗議をしにきたその生徒に対する対応は厚顔無恥でいるつもりか?』
「そ、それはだね・・・・・」
『最先端の技術とシステムを導入してるこの学園は何かと敵が多いことも分かっているだろカヲル?十年も蒼天から離れてしまって以前のような技術の腕が鈍ったなら、もう一度お前の腕を以前のようになるまで蒼天に戻ってもらうぞ』
学園長に赤い眼光を煌めかせマスクの中で睨む。すると、学園長が立ち上がってハーデスの前に背中を丸くして土下座をしだした。
「もう一度だけ私にチャンスを!次は必ず不具合がない物を開発するから!」
必死な懇願に暫く見下ろし続けたハーデス。不穏な空気が漂う場で燕はどうなるか見守るしかできないでいると、不穏の空気を和らげる溜め息が聞こえた。
『怪我の功名、次に活かせる失敗なら何も言わない。いいな』
「わ、わかっ―――」
『ただし』
安堵する学園長の言葉を遮り釘を刺す。
『また同じことで、学園の生徒を巻き込むような失敗が露見したら、蒼天の王としてお前を懲戒処分を下す。その時は蒼天に戻り一から技術の腕を鍛え直してもらう。これは決定事項だ、異論は認めんぞ』
「ま、待ちな!そうしたらこの学園の長の席が空いてしまうじゃないか。一体誰がその空いた席に―――」
『代理の者に任せる。それまでは蒼天に出直したお前が技術者としての腕が問題がないと判断されるまで、再びこの学園に戻って管理してもらうことはない。わかったな』
「・・・・・分かったよ」
項垂れる学園長を「二度目はない」と切り捨て、学園長室を後にする。
『やはり、報告書だけ鵜呑みするわけにもいかなくなった』
「監視の判断は間違っていませんでしたね。ところであの学園長の代理人って誰にするんですか?」
『それはまだ内緒だ』