バカとMMORPGと召喚獣!   作:ダーク・シリウス

30 / 326
蒼天の王

川神院。神月学園の理事長の川神鉄心と武神の異名を持つ川神百代が住んでいると言われてる武の総本山。これから何かのパーティーを始めるように続々と集まり出すことを当人達以外は誰も気づかない。

 

『いらっしゃいませっ!』

 

宿泊先の門に入ると川神院の修行僧達が整列して道を作り、王達を出迎えの歓迎をした先には川神鉄心がいた。

 

「久しいの旅人よ。元気にしておったようじゃな」

 

「突然で済まない、今夜は世話になるよ。それにしても相変わらずの老け顔だな。

十年前と変わっていないように見えるぞ?」

 

「たわけ、そっちこそ昔からずっと変わっておらんじゃろう」

 

「そういうお前はまだ若かった頃、随分とやんちゃだったよなー。出会う度に勝負しろ!って勝負を吹っ掛けてあっさりノされたお前が随分懐かしく感じる。今じゃあ鳴りを潜めてすっかり大人しくなっちゃって。猫か」

 

「うっさいわい!・・・・・旅人、いや、本名で呼んでもよいかの。古き友よ」

 

「悪いが呼ばないでくれ。二人きりの時にな。今回ここで泊まることを他の連中に知られて大勢ここに集まるかもしれない」

 

頷く鉄心が踵を返して王達を中へ案内する最中、桃色の長髪で四人の女性の中では長身的な澄んだ青い瞳の女性が王に話しかけた。

 

「知り合いなの?私、直接会うのは今日で初めてなのだけど」

 

「旧友だ。それもお前達が産まれるずっと前からな。というか第一次戦争時から存在していた要人と交流はしていたよ。第二次世界大戦の時は世界各国に攻め入った時は皆面白いぐらい顔を青ざめてたけどな」

 

「そりゃそうでしょう。敵に回したら人類が滅亡するのが火を見るより明らかな存在が蒼天の遥か上空にいるんですもの。それにどこかの国でもたった一度すら攻撃を受けたら世界に攻撃するのでしょう?」

 

「契約条項ではそうなっている。それを忘れさせないために世界中の学校の教科書にも載せているし、定期的に世界中に飛び回らせているからな。平和になりすぎて平和ボケして危機感をなくしてる人間達にとっていい刺激になるだろう」

 

悪い顔を浮かべる王に苦笑いを漏らしたり畏怖の念を抱いたりする女性達。話をしている間に木造の本殿の中へ入り靴を脱いで進む鉄心についていくと、開け放たれた襖の向こうの部屋に招かれ。

 

「お、来たな旅人」

 

「いらっしゃい、旅人さん!」

 

「マジで旅人が来やがったな」

 

「よっ、久しぶりじゃん旅人!」

 

「お久しぶり」

 

「わーい、旅人さーん」

 

川神百代と川神一子以外にも四人の男女が王を出迎えた。ガラの悪そうな体に入れ墨がある青年に、あずき色の髪に目つきが鋭い女性、のんびりとした雰囲気を醸し出す青い長髪に緑の瞳、オレンジ色のツインテールの小柄な少女。

 

「竜兵、天使、亜巳、辰子。見ない間に成長したな」

 

「おいコラ!ウチをエンジェルって言うな!天って言えって言ったよな!?」

 

「ああ、そうだったっけ?久しぶりに見た懐かしい悪ガキ達を見てつい言ってしまったな」

 

幼少期の四人を遠い目で思い出しながら懐かしむ王に百代が告げ口する。

 

「そうだぞ旅人。竜兵と天だけ悪ガキなのは昔のまんまだ。たまに悪さをしてジジイに怒られるし」

 

「・・・・・ほう?昔交わした約束を破ってるんだな?もう悪さはするなって別れる際に約束したよな?」

 

「「そ、それは・・・・・っ」」

 

「―――お仕置きだなこれは?」

 

近づく王の影に覆われた顔を引きつらせる二人。王のお仕置きは凄く痛いことを知ってる面々は心中で合掌する。

後にデカいタンコブを作ったまま『悪さをしてお仕置きされ中』と書かれた粘土板を持たされ正座される。敷かれた座布団の上に座る王達であったが。

 

「ふへへー旅人さ~ん」

 

「全力で甘えてくるな辰子」

 

「だって久しぶりだも~ん」

 

胡坐を掻く王の足の上に対面するように乗っかって抱き着く辰子。慣れた手つきで頭を撫でると辰子は嬉しくて、ますます猫のように身体を擦り付けて密着する。

 

「・・・・・随分と慕われてるのね?」

 

「昔はしょっちゅう人の身体を使って寝るほどだからなこいつは。多分、寝ている間に忍び込んで添い寝してくるぞ」

 

「そう、随分とモテモテなのね♪」

 

「「「・・・・・」」」

 

意味深な言葉と視線を向けてくる五人の女性達に王は内心ため息を吐く。

 

「お前ら、蒼天でも毎日添い寝しているんだから今日ぐらいは我慢しろよ。今日は華林の番だったけどさ」

 

「ちょっ・・・・・!」

 

「あら、華林?あなた添い寝をしていたのね?月もしていたなんて意外だったわ」

 

「へぅ・・・・・」

 

「愛紗ちゃんもしてもらってたんだね。どおりで一緒に寝てくれる日の後が長いなーって思ってたよ」

 

「そ、それはっ・・・・・!」

 

「まぁ、心臓に悪いのは裸で夜這いしてくる雪蓮だけど」

 

「「「「雪蓮(さん)・・・・・?」」」」」

 

「あ、あらそうだったかしら・・・・・?」

 

嫉妬をしていた彼女達の意識を変えさせることで面倒ごとを避けた。だが、

 

「旅人さん、旅人さん。今夜は久しぶりに一緒に寝ようね!私、隣が良いわ!」

 

「さんせー、私は上で寝るねー」

 

「なら私は右だ」

 

安眠は難しいことを察した王であった。

 

「旅人さん、夕食はいらないの?」

 

「外食してきた。日本本土の料理は久々だから美味かったぞ」

 

「ええ、美味しかったわね」

 

「たまに外国の料理を食べるのも楽しかったです」

 

「うんうん!」

 

「桃香が一番食べてたわよね。その分体重が増えるより栄養がここに集まってるんじゃないの?」

 

そう言って桃花と呼んだ桃色の髪に青い瞳の少女の背後に回った雪蓮。両腕を少女の前に伸ばすと豊満な胸を鷲掴み、揉みしだき始めて桃香を羞恥の悲鳴を上げさせた。

 

「ひゃっ!?ちょ、雪蓮さん!止めてください!いゃんっ」

 

「・・・・・本当にね」

 

「へぅ・・・・・」

 

雪蓮が揉む度に形が歪む自分に縁がない桃香の胸に、冷たい眼差しを向ける華林。自分の身体を見下ろし嘆息する月の面々に愛紗は気恥ずかしそうな顔で、さりげなく自身の豊かな胸を隠すように王から腕を組んで身体を反らす。

 

「雪蓮、やりすぎだ。叩くぞ」

 

「ごめんなさい」

 

「はぅ・・・助かったよぉ」

 

王の後ろに避難する桃香。そして自ら豊かな身体を押し付けて安心する姿に。

 

「桃香、甘えるんじゃないわよ」

 

「ズルいです、桃花さん・・・・・」

 

「へっ?」

 

「・・・・・桃花が入浴するのが大変そうだな」

 

「え、どういうことなの?」

 

疑問符を浮かべる桃花の言動に百代は悟った。天然だと。

 

「ところで旅人。その五人とはどういう関係だ?」

 

「そうそう、気になってたわ。もしかして、旅人さんの家族?」

 

「んー、そうだな。説明しておくか」

 

質問に応じる姿勢な王が一瞥する。

 

「今でも俺は蒼天の王であるけど、ここ数十年新たに蒼天に四人も王を増やした。現在の王は彼女達だ」

 

「北区の王、華林よ」

 

「東区の王、月です」

 

「南区の王、雪蓮よ」

 

「西区の王、桃香です」

 

「そして、中央区の王が俺だ。愛紗は西区の王の側近として勤めてる。俺の弟子の一人だ」

 

「愛紗です。以後お見知りおきを」

 

名乗りあげた五人の言葉に鉄心も質問の言葉を口にした。

 

「なぜ一つの国に王を四人も増やしたのじゃ?色々と問題が起きそうなのじゃがな」

 

「最大の理由は、もしも俺がいない蒼天となってしまえば蒼天はそう長く繁栄が保てないし、俺がいなくても蒼天で在り続けるようにするためだ。その為に蒼天を四つの区にした地域の中で統治、統括してもらっている」

 

「じゃあ、王になるための基準は?」

 

「色々在るな。多才な能力面、強さと威厳、心の強さ、国と民を思いやる慈愛、皆から慕われるカリスマ性。こんなところだ」

 

それらが彼女達に備わっていると暗に言う王だが一子が素朴な疑問をぶつけた。

 

「誰でも王になれそうな感じね旅人さん」

 

「話を聞けばそう聞こえるだろうけど、王って総理大臣みたいな仕事をするってことだぞ一子」

 

「あ、ごめんなさい。凄く大変そう」

 

「それに俺が直で審査と面接をするんだ。生半可な奴に俺の支えになってほしくはないからな」

 

「じゃあ旅人の弟子になるためは?」

 

愛紗を見つめて尋ねる百代。王の弟子になる条件が気になったのだ。

 

「蒼天や世界各国から選り抜きで誘った。とても優秀だったら桃花達の側近になれるし国の衛兵にもなれる。ああ元四天王の一人のスピードクイーンの橘もいるぞ」

 

「な、橘さんが蒼天に?」

 

「ああ、ん、来たな」

 

誰が来た?と考えるよりも早く外から聞こえる騒々しさと気の気配に感づく百代。

 

「蒼天にはいない・・・いえ、一人いたわね。ベクトルが違うだけね」

 

 

「ふははは!九鬼揚羽、降臨である!」

 

「ふははは!九鬼英雄、見参である!」

 

「ふははは!九鬼紋白、推参である!」

 

 

「・・・・・訂正、あの娘以上の五月蝿さね。この名乗り上げ時だけは」

 

「これからあんな連中と付き合うことになるんだぜ?」

 

「優秀なのは認めるけれど、できれば距離を起きたいわ」

 

「挨拶だけして離れたいなら、先に風呂入って寝室にいとけ。防音の結界も張っておくから」

 

「そうさせてもらうわ」

 

そう話し合っている間に揚羽達が王達がいる居間に入ってきた。

 

「我が夫になる旅人よ。久し振りに時間が許される限り会話を楽しもうではないか。結婚の話をもな」

 

「旅人、いや義兄上とこれから呼ばせてもらうぞ!」

 

「我は九鬼紋白である!よろしく頼むぞ義兄上様!」

 

ちょっと待て・・・・・?

 

「あなた、何時この女と結婚をする気になってるのかしら?」

 

「蒼天を創造して以来の身に覚えのない驚きの話だからな。お前らのウェディングドレスを見るまでは誰とも結婚をする気ならないから安心しろ」

 

「あら、この私が認めている男なんて私は蒼天で一人しか知らないのだけれど?」

 

「そうねー。今さら探す気なんてないし」

 

「「・・・・・」」

 

「主様・・・・・」 

 

またしても意味深な言葉と視線を向けられて王も口を閉ざしてしまう。華林は揚羽に不敵な笑みを向け出す。

 

「そういうことだから。蒼天の人間以外の者にこの男は誰にも譲る気はないから」

 

「ほう・・・この九鬼揚羽にいい度胸してるではないか」

 

「伊達に王を務めていないわ。それにただの財閥の者と天下統一した者とは相応しくないもの」

 

「我が旅人に相応しくないと?」

 

鋭い眼光で見下ろす揚羽と余裕な表情で見上げる華林が睨み合っている間に王は、

 

「旅人さん、こっちこっち」

 

「おおおー・・・・・」

 

大の男の体重を物ともせず弁慶の手によって座布団ごと引っ張られ、義経達がいる安全圏なところで弁慶は王の背中に背中を預ける。

 

「旅人さん久し振りです」

 

「清楚、信長に政宗。久しぶり」

 

「「はい、お久しぶりです」」

 

艶やかな長い黒髪を一本に結い上げ、雛罌粟の髪飾りを付けてる英雄のクローンの葉桜清楚が嬉しそうに王の隣に座っては、源義経も伊達政宗と織田信長と一緒に囲むように座り出す。

 

「旅人さん、明日も学園祭に来てくれるんですか?」

 

「行くぞ。たまには自分の目で神月学園を見てみる必要がある事がわかったからな」

 

「じゃあ、もしも時間があったら・・・・・」

 

「一緒に行動か?ずっとは無理だと思うぞ」

 

「あなたと一緒なら少しだって構いません」

 

そこまで言われると拒絶はできない。了承の示しとして「わかった」と頷くと清楚達は花が咲いたように笑顔を浮かべた。

 

「お前達はこれから夕食か?」

 

「いえ、食べて来ました。入浴も済ませて後は寝るだけです」

 

「そうなのか。俺達も夕食は済ませてるが風呂はまだなんだよな。おーい鉄心」

 

「何じゃ旅人」

 

何時でもいいから桃香達は先に入らせる、と告げれば揚羽が華林から離れて来た。

 

「では、話し合おうじゃないか旅人」

 

「待て揚羽さん。旅人は私と勝負をするんだ」

 

異を唱える百代であったが、頑なな揚羽がその意に対して真正面から言い返した。

 

「旅人は明日もいるのだろう。お前の勝負は明日にしてもらうがいい。我は明日になれば仕事に向かわなければならないのだから今回は私に譲れ。もう二度とこんな機会が巡ってこれんかもしれんからな」

 

「ぐぅ、旅人・・・・・」

 

「悪いが揚羽を優先させてもらう。学生と違って社会人は自由があんまりないんだからな」

 

王も揚羽の気持ちに尊重する言葉を発して百代を残念がらせた。

 

「以心伝心であるな。流石は私の夫になる男だ」

 

「誰が夫だ。婚約した覚えも揚羽と恋仲の関係になったことも一度もないだろ」

 

「確かにないが、誓いのキスを交わし合ったではないか」

 

「それこそ待て、最初に旅人のファーストキスを奪ったのは私だということを忘れるな揚羽さん」

 

次の瞬間。場の空気が凍り付いた。

 

「ふん、順番など関係ないだろう。我も初めてを旅人に捧げた身だぞ?つまりお前とは同じ土俵の上に立っているという道理だ」

 

「ほう?なら次のステージに進んでみるか?どっちが旅人に選ばれるような勝負を」

 

「戦闘の勝負は認めんぞ。お互いまだ未経験か慣れてない勝負をする」

 

聞いている王が、どんな勝負をするんだ?と己を挟んで睨み合う二人を見上げながら他人のごとく静観していた。

 

「料理でするか?」

 

「もう済ませてるのにこれ以上食べさせる訳にはいかないだろう。ここはファッションで勝負をしてみようではないか」

 

「それは揚羽さんが有利だろ。それに選んでいる時間がかかって旅人さんと話をする時間も減るぞ」

 

「むぅ、確かに。それは我も困ること」

 

中々決まらず二人して悩む滑稽な姿を見ていられないと華林が申し出た。

 

「呆れて何も言えないわね。勝負事を考えもしてないで自分に選んで貰おうなんて」

 

「「なんだと」」

 

「女の勝負なら女しかできない勝負をすればいいじゃない。それすらわからないのかしら」

 

怪訝な表情で己を見据える二人に華林は言った。

 

「男を落とすなら自分の魅了をぶつけてみればいいじゃない」

 

「おい、華林なにを考えてる?変なことを吹き込むなよ」

 

「あら、自信がないの?それとも簡単に女にオトされる男だったのかしら?蒼天の王もあろう男が。もしもそうなら・・・」

 

次の瞬間、王から威圧感が放たれて華林が不自然に言葉を止めた。

 

「面白い挑発をしてくれるようになったな華林。俺が選んだだけある女だよ」

 

「・・・・・そう、それは光栄ね」

 

「だがな?この俺に挑発するのは無謀ってもんだ。―――華林、二人にそこまで言うならお前が最初にお手本として実践してもらおうか?百代と揚羽にどうやって女の魅了をぶつける勝負をすればいいのか、な」

 

「なっ・・・!」

 

「この二人ができることをお前が出来ない訳ないよな?蒼天の王の一人であるあろう者がだ」

 

辰子を剥がしてから立つ王は、華林に近寄り彼女の前に立った。

 

「さあ、お前の魅了をぶつけてもらおうか」

 

「っ・・・・・」

 

「さぁ華林」

 

皆が見守る中、無言を貫く彼女のどんな方法で魅了をしてくるのか楽しみな王は嗤う。それからしばらくしてようやく華林が行動を取った。王の服を摘まんで、物凄く恥ずかしいとばかり耳まで朱に染まった顔と瞳を潤わせて、何かに堪える必死な表情で身体を震わせる。

 

「お、お兄様・・・だ、大好きっ」

 

「・・・・・」

 

『・・・・・』

 

声を子供っぽく高くして、愛情表現をするのが華林の魅了のぶつけ方。誰もが蒼天の王の一人が言うとは思えない言動にしばし唖然としてたり、生暖かい眼差しを向けたりしていた。先に静寂な沈黙を破ったのは王自身だった。

 

「ふふふっ、かーわーいいなぁ!」

 

王が華林を抱きしめて頬擦りするぐらい感無量になった。

 

「くっ、こ、殺しなさいっ!今すぐ私を殺しなさいっ!」

 

「なるほどなるほど、華林の魅了のぶつけ方はそれなんだなぁ?ふふ、久し振りにお兄様って言われて嬉しいなぁ。なぁ華林、今度はお兄ちゃん大好きって言ってくれない?」

 

「う、うるさいうるさいっ!誰がそんな恥かしいことを言うものですか!?」

 

「華林、あなたってやっぱり女の子ね」

 

「どういう意味よ雪蓮!」

 

「華林さん、可愛いですっ!」

 

「はい、とても。私だったら恥ずかしくて・・・・・へぅ」

 

五人の王を中心に盛り上がりを見せる中、百代と揚羽は自分の魅了=甘える勝負をしなくてはならないのかと悟った。

 

「揚羽さん、これであの人に選んでくれると思うか」

 

「ただ旅人を喜ばすだけのような気がしてならぬ」

 

「さて―――次は二人の番だな?王自身がお手本を見せたからには二人もやってもらわないと」

 

華林を抱きしめたまま王の言葉と共にビデオカメラを向けられる。

 

「旅人、そのカメラはまさかだが・・・・・」

 

「記念撮影♪」

 

「撮影されながらなんてできるか!何の罰ゲームだ!」

 

「後生だ・・・・・他の勝負で決めたい」

 

「うーん、できないのか?まぁ、久しぶりに可愛い華林を見せてくれたから別にいいけど」

 

「待ちなさい、これじゃあ私だけ恥かしい思いをしただけじゃないのよっ。ちょっとあなた聞いてる?」

 

異議を申す華林の頭を撫で聞き流す。

 

「しょうがないな。じゃあ、我慢比べでどうだ。三分間、表情を変えないで耐え続ける内容で、目を見開いたり口を開いたりするのもダメな」

 

「まぁ・・・・・それなら」

 

「シンプルな勝負でよいが、私達が我慢し続けたらどうするのだ?」

 

「はは、そんなことはない。必ず俺が驚かして見せるから引き分けはないさ」

 

王自身が二人に対して何かをする。気を引き締めなければならない事態となり、何を仕出かすか分からない王に強い警戒心がここで芽生えた。

 

「ついでだ、桃香達も参加だ」

 

「え、私達もですか?」

 

「へぇ、そんなに自信があるんだ?」

 

「とっておきのがあるからな。我慢出来たら・・・・・そうだな。三日間、俺が許容できる範囲だったら何でも願いを叶えるでどうだ?」

 

『私も参加する!』

 

蚊帳の外にいた弁慶達も我慢比べに参戦する意を示した。

 

「お、なんだなんだ?旅人さんが面白いことをするのか?」

 

「あ、キャップ達じゃない!」

 

「うん?お前らもここに泊まりに来たのか?教えていないんだがな」

 

「私が一子に教えたからだろうな」

 

百代がそう答えながら「ダメだったか?」と目で尋ねる。問題ないと笑みで返す王は―――吉井明久達にも目を向ける。

 

「お前らは?」

 

「えっと・・・・・」

 

返答に困ったような面々に首をかしげる思いの王に応えたのは霧島翔子だった。

 

「・・・・・あなたがここに泊まるって知って私も一緒に泊まりたいと父に教えたら、許してくれた」

 

「一番知らない筈のお前がどうやって知ったのかは聞かないでおこう。で、どうしてハーデスのクラスメートまでいる?」

 

「・・・・・翔花も連れて来ようとしたら、お泊りなら雄二も誘いたいとお願いされて」

 

「で?元神童の坂本雄二を誘った流れは読めれるがその後は?」

 

「俺が明久達も誘ったんだ。よく言うだろ、旅は道連れ世は情けってな」

 

「本音は?」

 

「心の平穏が欲しかった」

 

これ以上の追究は酷だろうと慰めの意味も兼ねて「頑張ったんだな」と労いの言葉を送った。

 

「それで旅人さん、モモ先輩達と何をしようとしてたんだ?」

 

「ん?それはだな、色々と話をして紆余曲折な結果こいつらだけ限定で我慢比べをしようとしてた。驚かす役は俺だ」

 

「我慢出来たら旅人が三日間何でも願いを叶える権利付きでな」

 

「許容範囲内の願いだけだ。言葉が足りないぞ百代。それと後から来たお前達は参加なしで」

 

えー!と不満とブーイングを漏らす風間ファミリー。

 

「・・・・・私も、ダメ?」

 

「ダメだ。もう決まったことだから。さて、始めるぞ。判定役は鉄心、厳しく頼んでくれるか?」

 

「些細な変化でもアウトじゃな?」

 

「無表情で貫くのが勝負の内容だ。口元と目元も動いたら即失格で」

 

「あいわかった」

 

整列に並んで座る百代達と蒼天の王達の前に座る王は、楽し気に口元を緩ませる。

 

「一子、時計の準備はいいか?」

 

「勿論よ旅人さん」

 

「ん、よし。じゃあ今から三分間、誰が一番我慢できるか・・・・・勝負開始だ」

 

こうして始まった我慢大会にギャラリー達は、どんな結果になるか見守る姿勢で王の後ろに座り込んだ。

 

「旅人、我等をどう驚かすか楽しみだ」

 

「これ、驚かされる側は黙っていなさい。次発言したら失格じゃぞ」

 

下手に喋れなくなり押し黙る揚羽の目の前で王が不敵な笑みを浮かべる。王がどんなことをするのか、じっと見つめる視線を感じながら王はその場でくるりと回って見せたその際。王の頭に獣の耳と腰辺りに狐のような尾が九つも生えた。これには揚羽達やギャラリーの大和達も驚きを隠せなかった。

 

『ええええええええっ!?』

 

「全員、失格じゃ」

 

「はやっ!」

 

一分も経たずに全員を驚かせた結果に吃驚する王。

 

「旅人さん、それ、本物・・・?」

 

「本物だぞー」

 

緩慢的に揺らす尾に燕と翔子が確かめたい気持ちで近づいて触ってみた。

 

「あ、すっごいフワフワでモコモコだ」

 

「・・・・・温かい、抱き枕にしたい」

 

抱き枕の単語で辰子が動き出して、尾をむぎゅっと抱えた矢先に至極幸せそうに顔を緩めて夢の中に旅立った。

 

「てか、驚くの早すぎだろ」

 

「驚かずにはいられないでしょっ!」

 

「そ、そうです!」

 

「まさか、そんな姿になれるなんて知りませんでしたし」

 

「いきなり見せつけられる私達の気持ちを分かってほしいものよ」

 

「だから言っただろ。必ず驚かせてみせるとっておきのがあるって。というか、第一次世界大戦と第二次世界大戦時の俺の姿知ってるだろうに」

 

見たことがないから!って全員にツッコミされて深いため息を吐いた王。

 

「つまらないな。まだ驚かすとっておきのがあるのに」

 

「因みにどんな?」

 

「こんなのだ」

 

王がそのままの姿で皆の目の前でみるみる内に小さく、幼児の姿になったのだった。

 

「どうだ?」

 

「か、可愛いですっ!」

 

「そんなことができるのね・・・」

 

「世界はたまに気を活性化させて若くなる人間がいるほどだからな。最近の知り合いだとドイツの中将・・・ああ、そこにいるクリスチアーネ・フリードリヒの父親がそうだ」

 

「何と、お父様はそんなことが出来るのか」

 

「あくまで一時的だ。俺はこの姿を自由に自分の意思で変えることも戻ることもできる」

 

燕が小さくなった王を抱えて驚嘆の念を漏らし、辰子が王の頭を撫でて愛でる。小雪と京も触りたいと小さな身体を抱える。

 

「子供の頃の王様、可愛いですね」

 

「尻尾がもふもふ~♪」

 

「お持ち帰りしたいっ」

 

「ふふ、悪戯して楽しむのも悪くない。だが、何故他の王達にも教えなかった?」

 

「こうなるだろうから教えなかったんだよ!」

 

黙ってみているほど大人しくない百代達も加わり、揉みくちゃにされる王の叫びに大和達は同情した。

 

「疲れた・・・・・」

 

数分後、元の姿と大きさに戻って四つ這いで疲労困憊の雰囲気を醸し出す王がいた。桃香達は風呂に入りに行ってこの場にいない。そんな王を尊敬して慕っている大和達から物珍しそうに視線を送っている。

 

「旅人さんが疲れるところ始めてみた」

 

「精神的にだよね。お茶、飲むか旅人さん?」

 

「飲む」

 

甲斐甲斐しくお茶をコップに淹れて手渡してくる一子から受けとる。

 

「・・・・・あー、美味い」

 

「旅人よ。次に日本に来るときは我が九鬼財閥に泊まって欲しいぞ」

 

「ああ、そうさせてもらうよ。お前がいない間に英雄達と楽しく会話をしていよう」

 

「むぅ、意地が悪いぞ旅人」

 

「姉上の分まで義兄上の相手をさせてもらうので仕事に専念をしてください」

 

「自慢か英雄。我だって旅人と時間を共にしたいというのにっ」

 

「残念だったな揚羽さん。私は学生だから旅人とイチャイチャできるぞー♪」

 

いや、そんな頻繁に日本に滞在しないって。と心中の王の声など誰にも届くはずもなく悔しがる揚羽の頭を撫でる。

 

「そういや、翔子ちゃんと翔花ちゃん。久しぶりだな。あのパーティ以来だったか」

 

「・・・・・はい、お久しぶりです」

 

「お久しぶりです」

 

正座したまま深々と頭を垂らす二人の姿に雄二がきょとんとした顔になった。

 

「王様と知り合いだったのか二人共」

 

「・・・・・霧島財閥と蒼天は懇意の関係だから」

 

「私達の時間が空いている時だけ、必ず父が蒼天主催のパーティに参加させるから・・・・・」

 

「最近はしていないから最後に会ったのは七年前だな。成長したら大和撫子か和風美人になってるだろうなって霧島財閥の安泰を見据えてたよ」

 

「お言葉ですが王様。翔花はアンタが評価するほどの性格じゃあばばばばばばっ!?」

 

「黙ってて雄二・・・・・すみません。私の夫が変なことを・・・・・」

 

「おい待て!誰がお前の夫ぉおおおおおおおおっ!?」

 

何だこのカオス・・・・・。

 

「王様、気にしないでいいと思いますよ」

 

「うむ、これがこの二人の日常じゃからの」

 

「・・・・・コクコク」

 

「こんな光景を日常と断言するお前らはもう普通じゃないよな?」

 

お前ら、ちゃんとした恋愛ができるのか?とツッコミを入れてしまうほど明久達に不安を覚える王であった。スタンガンでダメージを負った雄二に目を向けて、突き出す手の平から淡い緑色の光のオーラを浴びせる。

 

「ん?痛みが引いていく。どうなってんだ?」

 

「久しぶりに見た!旅人さんの不思議な力!」

 

「あー、初めてされる奴は不思議がるよな」

 

大和達が懐かしむように、初めてみる王の癒しの力に明久達は目を丸くする。

 

「翔花ちゃん。好きな相手が何も言わないからって無闇に攻撃するのはダメだぞ。仮に二人が夫婦の関係になったとしても、今さっきみたいなことをし続けたらDVで訴えられて離婚されてもしょうがないんだからな」

 

「浮気したお仕置きでもダメですか・・・・・?」

 

「相手の話をしっかり聞く前提で、ちゃんと第三者も含めて調べてからでも遅くはないだろ。それ以前に自分の気持ちを暴力でぶつける行為は絶対にダメだ。もっと恋愛に関する本やドラマを見て勉強しろ。Aクラスに入れる優秀な成績の娘なら簡単だろ」

 

その話は姫路瑞希と島田美波にも向けられた。

 

「そこの二人もな?好きな人がいるなら、絶対先に怒って手を出すのは恋愛的にルール違反だ。そんなこと今後もすれば優しい相手に愛想尽かれて距離も置かれ、最後は告白もできずで一生を終える可能性あるぞ」

 

「「は、はい・・・・・」」

 

軽く恋愛に関して釘をさす王に自分は?と翔子はアピールする。目で同じだと訴えた矢先、思い出したように翔一が騒ぎ出す。

 

「お、そうだ!久々と言えば旅人さん、アレやってくれよ!」

 

「アレ?」

 

「空高く投げてくれ!」

 

「おーあれか。よし、いいぞ」

 

はしゃぐ翔一に参加する姿勢の面々に対して明久達は疑問符を浮かべる。

 

「何をするんですか?」

 

「人間ロケットだ。見てれば分かる」

 

参加する面々は靴を履いて参加しない者達の目の前に移動して集まる。そして王の両手に気が集束して巨大な光手に具現化した。

 

「うはっ!旅人さんそんなこともできるのか!」

 

「昔と違って身体が成長しているからな。飛び乗った瞬間に身体を丸めろ」

 

「わかった、行くぜ旅人さん!」

 

先陣を切った翔一が王に向かって駆け出した途中で跳躍しながら身体を丸めれば、王が組んだ巨大な手で足場を作り、手の平に乗った翔一を発光させながら夜天の上空へと打ち上げた。

 

「いやっほおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!」

 

光る弾丸のごとくどこまでも飛んでいくクラスメートに明久達は目を大きく見張った。

 

「旅人さん、次アタシ!」

 

「よーし、こい!」

 

「わーい!」

 

どんどん空へ打ち上げられていく人の中に英雄と揚羽もいた。凄いけどこんなことして後で大丈夫なのかと心配する明久は、参加していない大和に尋ねた。

 

「大和は参加しないんだ」

 

「もう子供じゃないからな」

 

「いやいや、そいつは単純に高所恐怖症なだけだ」

 

「なっ!高いところは苦手じゃないですよ!」

 

「なら、ウェルカム。風間ファミリー全員打ち上げロケットだぞ?」

 

「しまった!?え、いつの間に、ちょ、まっああああああああああああっ!!!」

 

大和も打ち上げられてしまった。

 

「あのー王様。この後どうやって受け止めるんですか?」

 

「こうするまでだ」

 

王の全身から神秘的な力が迸る中、六対十二枚の金色の美しい翼に真紅の髪が金色に、瞳が翠と蒼のオッドアイに、最後は頭上に輪っかが浮かぶ出で立ちに様変わりした王が大きく翼を広げては、落ちてくる翔一達を包んでいる発光が翼の発光と磁石のようにゆっくりと引き寄せられる。

 

「旅人さん、天使になってる!?」

 

「教科書や写真しか見たことが無い姿だ!」

 

「格好いい!」

 

「ステキ!」

 

無事に地上に降り立った翔一達が王の姿に感動と愕然の声を漏らす。最後に大和を受け止めて人間ロケット遊びは終わったところで、戦意を露にする百代が力強く拳を構えて臨戦態勢を王の前に取った。

 

「旅人、その姿で私と勝負をしてくれ!」

 

「今夜は揚羽を優先するって言ったろ?」

 

「ならば、我も交じれば問題はないだろう」

 

参戦の意を示す揚羽も顔から喜々の色を浮かべていた。

 

「二回も世界大戦を終結させた生きた伝説。その姿となっているお前と闘えるなら我とて異論はない」

 

「元も含めて四天王が二人か。悪いが俺と戦うにはまだ戦力が不足しているぞ」

 

「―――なら、私も参加させてもらおうか」

 

どこからともなく現れた金の瞳が鋭く、執事服を着こんだ金髪の初老の男性。

 

「ヒュームか」

 

「久しぶりだな旅人。この時を待っていたぞ」

 

「蛇のように執着してたのかよ。百回以上負け越しているのに」

 

「何時までも調子に乗るなよ。今度は俺が勝つ」

 

「調子に乗るな、か・・・・・思いあがるなよ?」

 

翼を動かしたかと思えば、境界線を描くように地面に振り落とす。誰もが知る鳥の羽、翼だったらあり得ない斬撃の痕跡が深々と両者の間に刻まれていたのだった。

 

「―――俺の翼の切れ味は人体も容易く真っ二つにもできる。下半身と別れることのないよう、気を付けるんだな」

 

 

 

大和side

 

刃と化した十二枚の翼を鋭く振るいだす旅人さん。姉さん、九鬼揚羽さん、ヒュームさんは鋭利な翼をかわしながら懐に飛び込もうとするけど、他の翼がそれを邪魔して中々距離が縮まらない。旅人さんは一歩も動かず翼を動かすことに専念してて不動明王のごとくだ。

 

「ふむ、二人はともかくヒュームもてこずっておるのか」

 

「強いのですか?」

 

「旅人を除けば百代に対抗できうる稀な奴じゃよ。三人がかりでも一撃も入れられんということは

 それほど翼に警戒しておるし、振るう度に旅人は確実に急所を狙っておる。同時に二つ以上もな」

 

見ていて冷や冷やするわぃ、と理事長が旅人さんの戦いに説明してくれた。

 

「どうした不良執事に四天王。勝負を吹っ掛けておいて逃げるだけが自慢か、話すらならないぞ」

 

「くっ、このぉっ!」

 

「深追いはするな百代!」

 

シビレを切らした姉さんが静止の声を無視して無理矢理前へ飛び込んだ。突き出される翼に掠ったり斬られたりしても、一直線に旅人さんへ接近する。その勢いが功を制したのかあと一歩のところまで進めた姉さんだったけど、旅人さんの足元の地面から、鋭利な翼の突起が飛び出して姉さんの腹部を突き刺さった。

 

「姉さん!?」

 

「いや、一瞬で翼の先端を掴み防ぎおった」

 

理事長の言葉通りだった。押し戻された姉さんが宙に放り出されると、空中で体勢を立て直して体に傷一つない姿で立ち上がった。顔に嫌な汗を浮かべてだ。

 

「おー、やるな」

 

「今のは本気で度肝を抜かされたぞ旅人!死ぬかと思った!」

 

「俺は殺す気で戦ってるんだが?」

 

「―――――」

 

あの人から殺すなんて言葉が口から出された姉さんは一瞬絶句したと思う。

 

「俺の戦いは常に殺し合いばかりだった。故に命を懸けた決闘ではないままごとに負けることは絶対にない」

 

「・・・・・この勝負すらままごとだというのか」

 

「じゃれてくる猫と遊んでいる程度でしか思ってないからなぁ。実際、俺はちっとも本気すら戦ってないし、さっきからこの場から一歩も動かされていないぜ。まず俺を動かすことから頑張ろうか」

 

あからさま挑発に姉さんの顏から表情が消えた途端。今まで見たことが無いぐらい真剣な顔つきで・・・・・。

 

「川神流・星殺し!」

 

いきなり大技を繰り出した!巨大な気のビームが旅人さんに向かって伸びるけれど、蠅や蚊を払うように一翼で夜天の彼方へ軌道を反らした。その瞬間、九鬼揚羽さんとヒュームさんがいつの間にか至近距離まで接近していた。

 

「ようやく近づけれたぞ、旅人!」

 

「ジェノサイド・チェーンソー!」

 

二人が繰り出す超強力な一撃が炸裂!と思ったがまた翼で軽々と防がれただけでなく四角から迫った翼に突き飛ばされた。あの翼、かなり厄介だ。旅人さんの超人的異常なまでの反射神経も凄すぎて三人がかりでも手も足も出せないでいるぞ。

 

「くっ、守りが堅すぎる!」

 

「・・・揚羽さん、ヒュームさん。頼みがある。あの男に一矢を報うために」

 

「ほう、貴様何を考えている?」

 

「・・・・・お前の頼みとやらは何だ」

 

姉さんが二人に声を殺して話を持ち掛けた。対して旅人さんは、離れているのに聞こえているのか楽し気に口を吊り上げてた。そして話を終えた三人が構えた。

 

「行くぞ、百代」

 

「お願いします!」

 

高らかにその場で跳躍した姉さん。何をするんだ?見守る俺の目の前で九鬼揚羽さんは自分の目前に落ちてきた姉さんのピッタリとくっつけた足の裏に目掛けて、力のあらん限りに旅人さんの方へ蹴り飛ばして見せた。

 

「なるほど、実際思っているより速く来るものだな。だが、それでも自分から斬り刻まれに来る自殺願望者そのものだぞ?」

 

全ての翼を動かして強襲する旅人さん。姉さんは自分の身を守ろうとはせず、背後から迫りくる光のエネルギー砲に足の裏から押し出される形で、さらに速度を上げて旅人さんの翼の嵐に身体が刻まれても、血を流しても無理矢理突破してみせてとうとう旅人さんの懐に飛び込んでいった!

 

「川神流・富士砕き!」

 

「っ―――――!!!」

 

直ぐに翼を引き戻す前に姉さんの拳が旅人さんの腹部に突き刺さった。その勢いは止まらず旅人さんを吹き飛ばした。途中、翼で地面に突き刺し、踏ん張る足も数メートルも地面を削って溝を作る。

 

「どうだっ!動かせたぞお前を!」

 

初めて一撃を入れた上に不動の姿勢を崩した達成感。喜びと不敵な物言いの姉さんは笑みを浮かべて押し黙っていた旅人さんに一矢を報いた。

 

「・・・・・中々の威力だが技のネーミングは直せ。実際富士山を砕いたわけじゃないだろう」

 

「百代の一撃を受けて尚、堪えた様子ではないとはな・・・・・」

 

「ダメージは通ってるぞ。ゲームのHPの数値だと10000以上減っただろうな」

 

お腹に手を添えながら何でか嬉しそうに笑う旅人さんの全身から放電が迸り始めた。

 

「だから久しく感じなかったこの痛みを与えてくれたお前達の頑張りを報いてやろう。

 俺のたった一度しか見せない全力の姿で倒してな」

 

青白い電気が旅人さんの何かに呼応するかのように激しくなり、そして青白い雷の雷鳴と光と共に包まれたあの人の姿が一瞬だけ見えなくなって、その後俺を含めて皆が呆然としていただろう。

 

旅人さんは輪っかと長髪、瞳に翼が全部青白くなっていて、輪っかと背中に幾重の輪後光を背負うように浮かべている。雰囲気もさっきとは異なっていた。怖いんじゃなくて口では言い表せない神聖な存在感を放っているんだ。

 

「神速」

 

次の瞬間。旅人さんの姿が消え失せた。どこに行った?と肉眼で探してみたら、姉さん達が突然に空へと飛ばされて驚いた時に、夜天から青白い稲光と共に落ちてくる轟雷に反応をする暇もない三人に直撃した。

 

稲妻と一緒に落ちてきたと思しき旅人さんが地面にクレーターを作って着地して、落ちてきた三人を翼で受け止めて戦いを終わらせた。

 

「蒼天に手を出すな・・・・・」

 

昔の歴史の人が体験して遺した言葉を噛みしめ、その理由の一端だけでも分かった気がして納得してしまった。旅人さんに勝てるような人間は恐らくこの世界にはいない。手を出したら最後、破滅が待っているから・・・。

不思議な力で三人の傷を全て治して、せっせと戦いの後の処理し始める旅人さんを見て決して怒らせないようにしようと肝に銘じた。

 

「・・・・・理事長、旅人さんを倒せますか?」

 

「無理じゃな。例え若さを取り戻せても勝てる気が微塵も感じん」

 

風間ファミリーのもう一人の父親のような頼りになる兄のような存在。実際は蒼天の王で姉さんより強い世界最強の、世界の王・・・・・。

 

明久side

 

 

大和が慕う王様が凄すぎて何も言えなくなった。ずっと戦いを見ていたから少し喉が渇いて一子にお茶を求める。

 

「一子、お茶ってあるかな」

 

「え?あ、うん、冷めちゃってるけどいい?」

 

「いいよ」

 

「すまん、俺も頼む。別次元の戦いに開いた口が塞がらなかったからな」

 

「そうじゃのぉ」

 

「・・・・・逆らってはダメ」

 

「うん、そうよね。それ以前に外国の王様だもんね」

 

口々に王様をあの学園のババア長よりランク付けして、僕達は失礼のないようにしていこうと心に決めた。

まあ、当然だけどね。

 

「しっかし、ずっと意識してみていたから小腹が減ったな」

 

「だね。なんか買いにでも行く?」

 

着替えの衣類や替えの制服しか持ってきてない僕達はおやつなんて持ってきていない。秀吉とムッツリーニも同伴すると立ち上がる雄二と僕と一緒に立ち上がったら。

 

「あ、それなら私実は、軽い物をたくさん作ってきましたよ」

 

鞄から取り出すバスケットに納まっているサンドウィッチを見た僕等は、彼女の料理の恐ろしさを知る僕等の本能的な警告音が五月蠅いほど鳴ったのは言うまでもない。

 

「うげっ!?」

 

「風のごとく―――!」

 

「待て、逃げてはいけない!間違ってもあれは旅人さんに食べさせちゃならないんだ!」

 

「あ・・・!」

 

そ、そうだったっ!?ここに王様達もいるんだ!姫路さんの料理の被害者になったら国際問題が発展しかねないよ!

 

「む、どうしたのだ直江大和よ。あの者のサンドウィッチに何が問題でも?」

 

「・・・・・論より証拠だ英雄。食ってみればわかる」

 

「ふむ、準。あなたも試しに食べてみてください」

 

「おいおい、大和達があんな焦った表情を見れば理由が何となくわかるのにか?」

 

「骨は拾いますよ」

 

Sクラスから生贄が捧げだされる二人が決まって、一mmも悪気のない無垢な笑顔でサンドウィッチを差し出す姫路さんに伸ばす手が三つ・・・・・三つ?

 

「食べていいなら俺も貰うぞ」

 

『―――――っ!?』

 

い、いつの間にか片手で二つも摘み取った王様が二人にまじっていた!?大和達も僕達も愕然で目を大きく見張って、止めようと口を開きかけたけど僕等の静止より先に大きな口で一気にサンドウィッチを丸ごと食べてしまった!

 

「た、旅人さぁあああああんっ!?」

 

「お、王様ぁああああああっ!?」

 

「ん?なん・・・だ・・・・・」

 

あ、あああ・・・・・!王様の顔が段々死んでいっている!顔色が悪くなって仕舞には咀嚼する間が無言になってそれがとてつもなく怖すぎる!眉根が寄って険しい表情な王様を大和達も恐々してる!

 

「・・・・・これ、中身は何だ」

 

「えっと、お口に合いませんでした・・・・・?」

 

「俺の質問に答えくれるか?」

 

追究される姫路さんは緊張の面持ちでサンドウィッチの中身を一つ一つ王様に教えていった。

うん、絶対にサンドウィッチに合わないような食材と調味料のオンパレードの暗黒料理の内容に、姫路さんの料理の凄さを知らないSクラスの皆もかなりドン引きしている。

 

「・・・・・味見はしたのか?」

 

「え、あの、夕飯を食べた後なので味見はしてません。その、体重が増えてしまいますので」

 

「・・・・・今まで注ぎ込んだ素材と調味料が美味しくなる思ってるだろう理由を教えろ」

 

「どれも体にいい栄養なのでたくさんの美味しい味を楽しんでもらいながら食べてもらいたかったんです」

 

王様、姫路さんは悪気がないんだよ!ただちょっと、そうアレなだけなんだ!アレだけなんだよ!

 

「・・・・・怒る気力がもうねぇわ」

 

姫路さんの答えに物凄く呆れ果てた顔で、王様はバタンと床に倒れた。その瞬間、この場の空気が異様なほどに静まり返ったところでムッツリーニが王様の手首に触れて脈を図った。

 

「・・・・・脈が止まってる」

 

その報告に大和達が弾けるように焦燥に駆られた。

 

『い、急いで救急車ぁあああああッ!?』

 

「冬馬!今すぐ葵紋病院の集中治療用の部屋を確保するのだ!」

 

「言われなくてもわかってますよ!」

 

「あ、久しぶり父さんと母さんに皆・・・・・そっちは綺麗な花畑で宴会?俺もそっちに行くよ」

 

「大和不味いよッ、王様が三途の川を渡ろうとしてるぅううううう!」

 

「旅人さん待って!その川を渡っちゃダメだよ!引き返してきて!渡ったら戻れなくなっちゃう!」

 

懸命に声を掛ける皆や手で必死に心臓マッサージをする僕。こうなると静止は五分五分だ・・・・・!

 

「何だお前ら?そっちに行くなだと?あんなに楽しそうに懐かしい皆がいるのに―――――はっ!?」

 

よしっ、蘇生成功だ!

 

「・・・・・何だ、ここも夢か」

 

「いえ、間違いなくリアルだよ王様」

 

「・・・・・もう一度食ってもいいか?」

 

『ダメに決まってるでしょうがっ!?』

 

この王様、生きるのにもう辛くなっちゃったの!?

 

「・・・・・サンドウィッチで死にかける王なんて毒で死んだ過去の王より間抜け過ぎんだろ」

 

「いえ、知ってたのに止められなかった俺達が悪かったです」

 

「・・・・・済まないが身体が麻痺して動けねぇ。俺が寝る場所に運んでくれないか」

 

姫路さんの料理を食べた後遺症が王様にも表れるなんて。あの最強の王様を殺しかけた姫路さんの方が、実は最強だったりするんじゃないかって運ばれていく王様を見ながら僕は思ってしまった。

 

だけど一番大変だったのはこの後で、王様の容体がおかしいことを僕等に追究する風呂から上がった他の王様。姫路さんの料理が原因だと知るや否や、怒りはしなかったけれど国際問題にしたくなかったら生涯死ぬまで調理道具に一切触れるなと厳命したのだった。料理ができないことに委縮しながら反発した姫路さんだけど、王様を殺しかけたサンドウィッチを手に持つ北の王様が南の王様に姫路さんを拘束してもらって彼女の口に無理矢理突っ込んで食べさせた。

 

「昔から国を築き上げ国と民を支え守ってきた男と、ただ成績が優秀なだけの平凡な小娘。価値観で選ばせればどっちがいいか選ぶまでもないでしょう?」

 

「―――ッ!?」

 

「食材と調味料の組み合わせや配合、味すら考えず幼稚な子供のようにバカみたいに混ぜ合わせただけの料理なんて、腐ったゴミ以下以外何物でもないわ。ああ、もしかして底辺のクラスに配属されたのは成績じゃなくて天性の料理の下手さだからじゃないかしら?」

 

冷笑と嘲笑が混濁した笑みを浮かべる北の王様。無理矢理自分で作ったサンドウィッチを食べさせられた姫路さんはその後、王様の後を追うようにして倒れた。

 

「理事長。こんな馬鹿な娘が今後とも出ないように今年中に生徒には学食で食べる制度にしてちょうだい。その費用と設備の資材は蒼天が用意するから」

 

「うむ・・・・・わかったのじゃ」

 

相手が王様だから逆らえない理事長。四人の王様達は自分達が寝る寝室へと向かった。

多分だけど、心配だから一緒に王様と寝るかもしれない。

 

「英雄、救急車が到着したようですよ」

 

「無駄にならずに済んだな。丁度良く、容態が悪い者がここにいるのだからな」

 

運び出される姫路さんを僕等は見送るしかできない。それからだけど、姫路さんが入院している病院に両親が現れて翌日なんとか担任したその日に蒼天と日本政府から手紙が届いたようだ。

 

日本と蒼天の国際問題に発展しかけた責任として、姫路さんが弁当を作れなくなった。もしも仮に弁当や外で料理を作ったら姫路さんだけ国外追放、蒼天に身柄を預けられ監視される生活を強いられることになるそうだ。その話を学園祭二日目の今日、まだ具合が悪そうな姫路さんから教えられた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。