バカとMMORPGと召喚獣!   作:ダーク・シリウス

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学園祭最終日

「・・・・・うぁー、まだ気持ち悪い・・・・・」

 

すこぶる顔色が悪い王が起きて開口一番の発言が体調不良の訴えだった。その場にいる桃香達も心の中では心配で堪らないでいる。今で過ごしてきた中で始めて王が体調不良を起こしたのだ。

 

「重症ね・・・・・ここまで弱弱しいあなたを見たの生まれて初めてだわ」

 

「毒を盛られたわけじゃないのに一体どれだけ不味いサンドウィッチを作れたのか逆に興味が沸くわ」

 

「愛紗ちゃんの時は苦笑いだけで済んだのにね。春蘭さんといい勝負だったし」

 

「それを言うならあなただって失敗作の料理を作ったではないか!」

 

一部、失敗料理を作り出した話をされて言い合いを始め出したが、気分が悪い王の顔が険しくなった。

 

「悪い、今料理の話をしないで静かにしてくれるか」

 

と、しょんぼりする二人を他所に月が労りの言葉を述べる。

 

「あの、今日は安静でいた方がよろしいのでは?」

 

「そうしたいが、午後からやることがあるからな。指定の時間まで寝て回復を図る」

 

「大丈夫なの?余計に辛くなるだけじゃない?」

 

「昨日よりはマシな方だ。なんとか大丈夫」

 

「そう。無理はしないでよね」

 

「最初から迷惑をかける前提にお前らを頼りにするからな」

 

「ある意味こんな状況になる前提なら、四人の王の設立も考えたあなたの配慮は間違いなかったわね」

 

華林の指摘に王は溜め息を吐いて首を横に振った。

 

「・・・・一人の王を四人の王が協力する、何が悲しくて不味い料理を食って倒れてお前達に看病されなきゃいかないんだ。こんなの俺が望んでいた支え合いと違うわっ」

 

「「まぁ、確かに・・・・」」

 

「「「「それはそうでしょうね・・・・・」」」」

 

自分達も王を看病をすることになろうとは想像もしていなかった。それも食中毒で倒れた王をだ。

 

「王様、具合がまだ悪い状態で何とかなりますか?」

 

「何とかしなくちゃならないのが大人の仕事だ。燕、総合点数を落としとけよ。あのババアの尻拭いをすることになったんだからな」

 

「う、わ、わかりました」

 

さり気無く尻を触る燕。叩かれた影響で痛みが引いてももう叩かれたくない一心で大会を無事に終わらせようと決意するのであった。

 

 

 

 

 

燕side

 

清涼祭二日目突入。そして、私とハーデス君の召喚大会決勝戦の日でもある。朝一で言われた通り点数を低めにしてからハーデス君と屋上で時間になるまで寛いだ。私達のいない穴は他の王様達が埋めてくれて物凄く助かった。

そして時間になると放送機器が鎮座している屋上を後にし、教室に顔を出してクラスメート達の声援を受けながら特に会話もなく、黙々と会場への道を歩く。

 

「ほー。随分と観客が多いね」

 

『・・・・・決勝戦はこうではなくちゃな。そしてこの状況を悪用する輩と戦うわけだ』

 

観客席は満席で、この日を待ちわびていることが良く分かる。

 

「ハーデス君、優勝しようね」

 

『・・・・・当然だ』

 

「死神君と松永さん。入場が始まりますので急いでください」

 

私達の姿を見つけた係員の先生が手招きをしている。

ハーデス君と共に先生に近づきその時を待った。

 

『さて皆様。長らくお待たせ致しました。

これよし試験召喚システムによる召喚大会の決勝戦を行います!』

 

聞こえてくるアナウンスは今まで聞いたことのない声だ。

この手のプロを雇っているのかもしれない。

世間の注目を集めているこの学校じゃ。十分考えられることだろうね。

 

『出場選手の入場です!』

 

「さ、入場してください」

 

先生にポンと背中を叩かれる。ハーデスと私は頷き合って、観衆の前に歩み出た。

 

『二年Fクラス所属・松永燕さんと、同じくFクラス所属・死神・ハーデス君です!

皆様拍手でお迎えください!』

 

盛大な拍手が雨のように降ってくる。随分と御客が入っているみたいだ。

 

『なんと、最高成績のAクラスを抑えて決勝戦に進んだのは、

二年生の最下級であるFクラスの生徒コンビです!

これはFクラスが最下級という認識を改める必要があるかも知れません!』

 

ふふっ、嬉しいことを言ってくれるね。何時にも増して高揚感が湧くよ。

 

『そして対する選手は、三年Aクラス所属・夏川俊平君と、

同じくAクラス所属・常村勇作君です!皆様、こちらも拍手でお迎えください!』

 

コールを受けて私達の前に姿を現したのは、昨日営業妨害をしたと言う例の先輩コンビ。初めて見るね。

 

『出場選手が少ない三年生ですが、それでもきっちり決勝戦に食い込んできました。

さてさて、最年長の意地を見せることができるのでしょうか!』

 

同じように拍手を受けながら、二人はゆっくりと私達の前にやってきた。

 

『それではルールを簡単に説明します。試験召喚獣とはテストの点数に比例した―――』

 

アナウンスでルールが説明が入る。もう十分知っていることなのだけれど、先輩達はそれを無視して私達に話しかけてきた。

 

「よう、Fクラスコンビ。あんまり調子に乗っていると、痛い目に遭うぜ?」

 

「そうそう、せっかくお前らが公衆の面前で恥をかかないように、

という優しい配慮をしてやったというのにな。

Fクラス程度のオツムじゃあ理解できなかったか?」

 

・・・・・うーん、直接何かされたわけじゃないんだけどねぇ。

 

「ねぇ、一つ聞いてもいい?」

 

「ぁんだ?」

 

「教頭先生に協力している理由はなに?」

 

そう聞くと、坊主頭の上級生は一瞬驚いた顔をした。

 

「・・・・・そうかい。事情は理解してるってコトかい」

 

「いやいや、殆ど知らないよん。でも絡んでいるのは把握しているかな?それでどうなの?」

 

「進学だよ。うまくやれば推薦状を書いてくれるらしいからな。そうすりゃ受験勉強とはおさらばだ」

 

「へぇそうなんだ。教頭先生が推薦状を書くなんてそんなことを・・・そっちの人も同じ理由?」

 

「まぁな」

 

『・・・・・』

 

ハーデス君に頷いて会話を打ち切る。決定的な証拠が私達にはなかったからこれは思わぬ収穫だよん。

 

「そんな二人に忠告だよん。この学校に蒼天の王様が来ているよ?」

 

「は?何を言ってるんだ?」

 

「決勝戦を見る為に大会にも顔を出しているかもしれないから、もしも王様にガッカリさせるようなことをしたら、王様は全力で原因を追究するために動くだろうね。そして最後、教頭先生と二人が問題を起こしたことが分かったら、書いてもらう推薦状が退学処分に代わってしまうかも」

 

「待て、お前、何を言って・・・・・」

 

『それでは試合に入りましょう!選手の皆さん、どうぞ!』

 

説明も終わり、審判役の先生がワシらの間に立つ。

 

「「「『試獣召喚(サモン)!』」」」

 

掛け声を上げ、それぞれが分身を喚び出した。向こうの装備はオードソックスな剣と鎧。

高得点者の召喚獣らしく、室はかなり良さそうなものじゃった。

 

                

               『日本史』

 

 Aクラス 常村勇作  209点 & 197点  夏川俊平 Aクラス  

 

 

 

Aクラスに所属しているだけのことはあるのじゃ。じゃが、姉上や霧島より劣っておる。

普段勉強に力を注いでいないのかもしれんな。

 

「変なこと言いやがって、俺達を動揺させたってそうはいかないぜ」

 

「どうした?俺達の点数見て腰が引けたか?Fクラスじゃお目にかかれないような点数だから無理もないな」

 

誇らしげにディスプレイを示す上級生達。反論はない。確かに誇ってもよい位の点数だ。この学園の生徒だったらね。

 

 

               『日本史』

 

 Fクラス 死神・ハーデス 1点 & 229点  松永燕 Fクラス

 

 

「他の教科は10点でこんな感じだけどどうかな?」

 

『・・・・・問題ない。予定通りにやるぞ』

 

「了解!」

 

いっちょ暴れ回りますか!先に動いたのは私の召喚獣。Sクラス並みの高得点保持者だけど装備は軽装な分、動きが速い。

 

「夏川!こっちは俺が引き受ける!」

 

モヒカン頭の上級生が私の正面に立った。動き出すのが遅れたせいで、私の召喚獣にかなりの接近を許している。

 

『・・・・・こい』

 

「馬鹿が、たった1点の点数の雑魚に三年の俺が負けるわけねぇだろうが!」

 

ハーデス君の召喚獣と相手をする、正面から坊主頭の上級生の召喚獣が剣を構えて突っ込んでくる。動きが速い、けど―――。

 

『・・・・・動きが雑だ』

 

阪神を右にずらし、小さな動きで相手の身体を避けながら数回トンファーブレードを振るって点数を減らすハーデス君。

 

「っく、この・・・・・!」

 

そのまま背中を向けそうになった相手に更に畳みかけた後、振り向きざまに横凪ぎの一撃を見舞ってきた。その一撃を小さく屈んでかわし、次の瞬間には懐に飛び込んで擦れ違い様に斬り付けた。

 

「なんだテメェ、召喚獣の動きが尋常じゃねぇぞ・・・・・!」

 

「そりゃそうだよ。だって私達の召喚獣は蒼天の召喚獣だよ?」

 

語気を荒くハーデス君を睨みつける坊主君に、この場に居る全員も聞こえるように話を続ける。

 

「蒼天の学校もこの学校も大差ねぇだろ!」

 

「それが大アリなんだよん。この学園にはないシステムが蒼天では導入されているんだよね」

 

勿体ぶりながらモヒカン君の召喚獣と相手取りながら説明する。

 

「蒼天の学校、天下学園の召喚システムには生徒の総合点数で特殊能力や召喚獣の装備を買ったり作ったりすることができるんだよ?」

 

「は?何だよそれ、蒼天の学校はそんなことして何になるんだ」

 

「成績の向上と学園生活を楽しくしてもらいたいからだよ。この神月学園は各科目強化の点数が400点オーバーで特殊能力を使えるけど、蒼天の学校は召喚獣の装備に付与されている特殊能力を使うことができる。ハーデス君の場合は―――」

 

坊主君の攻撃をわざと当たると、一度フィールドから消えたように見えるけど、彼の召喚獣の真後ろに再び姿を見せた。

 

「蜃気楼。相手の視覚情報を誤認させて一度の戦闘に一度だけ絶対に回避できる、骸骨のマスクの効果」

 

ハーデス君の召喚獣のトンファーブレードが危険な赤い光を放つ。

 

「一撃必殺。相手の急所に攻撃が当たればどれだけ高い点数だとも一撃で倒すことができる、トンファーブレードの効果」

 

そして最後に―――。フィールドから姿が見えなくなったハーデス君の召喚獣は、坊主頭の首を斬り飛ばしながら私の召喚獣の後ろに姿を現した。

 

「神速、三秒間だけ絶対に回避できない速度を有することができるハーデス君の召喚獣自身に付与した特殊能力だよ」

 

黒いマントの効果は・・・言わなくてもいいか、もう勝っちゃったしね。

 

「ず、ズルいぞ!反則だ!俺達にないチートな能力を使って今まで勝ってきたんだろ!?」

 

「今回が初めて使ったんだけど?それに、今回の大会に特殊な戦いをしてはならないルールはないよね?」

 

私自身の能力も発動する。召喚獣が突き出した手の平から粘り強い糸を放出させて、モヒカン君の召喚獣を縛って行動不能にする。

 

「ちくしょう!こんなの負けても認められるかよ!?」

 

「実力主義の蒼天の学校でそんな言葉を言う人は、負け犬の遠吠えって

嘲笑われちゃうよ?純粋に負けたーって楽しく笑わないと」

 

「そんな晴れやかにできるかぁっ!?」

 

じゃあ、一生ひねくれたままな人生を過ごすことになるね。なんてことを心に留めながら相手の点数を0にしたのだった。

 

『松永・死神ペアの勝利です!』

 

見事、決勝戦は私達が勝利を掴み取ったのでした!うーん、予想通りの展開だね。

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

大和side

 

「優勝おめでとう!松永さん、ハーデス!」

 

授賞式と簡単なデモンストレーションを終えた松永さんとハーデスを迎え入れる俺達。

正直、二人の召喚獣の能力、蒼天の召喚システムには度肝抜かれた気分だった。

召喚獣の装備に特殊能力が付与されて点数を減らさず何度でも使える仕様には今後の試召戦争には、

大きくパワーバランスが変わるかもしれない。

 

「ハーデス」

 

『・・・・・なんだ?』

 

「この学校にも二人のような点数で装備を買えるシステムが導入されるのか?」

 

『・・・・・王に直接聞け』

 

どこにいるのか分からない旅人さんからか。姉さんに探してもらおうと携帯に手を伸ばしかけた。

 

「お前達、話し込んでいる場合じゃないぞ!Fクラスの生徒が優勝した

切っ掛けで客が増えて大変なんだ!」

 

と、教室の方からクリスが掛けてきた。おっと、そうだったな。

 

「二人共、残りの時間は喫茶店を手伝ってくれよ?」

 

「分かってるよ」

 

『・・・・・了解』

 

 

―――数時間後。

 

 

『ただいまの時刻をもって。清涼祭の一般公開を終了しました。

各生徒は速やかに撤収作業を行ってください』

 

「お、終わった・・・・・」

 

「さすがに疲れたのう・・・・・」

 

「・・・・・・(コクコク)」

 

放送を聞いた途端に、明久達はその場で座り込む。俺も疲労気味だ。

にしてもハーデスは疲れていないのか、さっさと撤収作業を始めている。

何て体力バカなんだ・・・・・。

 

「しっかし、優勝していない俺達にこの腕輪を貰っていいのか?」

 

「ワシは別に腕輪なんか必要ではないからの。ハーデスも腕輪を有効活用してくれればと

思って渡したんじゃ」

 

「何だか悪いなぁ・・・・・」

 

腕輪は、三つの内の二つは坂本と明久の手にある。

ハーデスは召喚獣同士の融合ができる腕輪の方を

選んだみたいだ。まるで最初のポ○モンを選んだ感じだな。

坂本は火で、明久が草、ハーデスは水と感じで。

 

「松永さんは良いの?せっかく優勝したのに」

 

「ハーデス君と優勝できたこそが良い経験と思い出だよ。今日はそっちの方が楽しかったからいいの」

 

朗らかに、本当に楽しかったようで綺麗な笑みを浮かべた。

 

「・・・・・何だろう。今、ハーデスに殺意が湧いたよ」

 

「・・・・・許すまじ」

 

明久にムッツリーニ。お前ら、なにを言っているんだよ・・・・・。

 

「まあ、貰えるもんはありがたく貰うぜ。これで次の試召戦争時で大いに活用してみせる」

 

「そうだね。僕も二体同時召喚の腕輪を使って頑張るよ」

 

Fクラスにアイテムが付与されて戦力がアップした。

ハーデスと松永さん無しで戦えばBクラスまでは余裕で倒せるはずだ。

 

『・・・・・全部、片付け終わった』

 

はやっ!?もう全部片付けたのか!あっ、本当だ。調理器具とか食器とかそういう

物以外殆ど片付けられている。

 

「お前達が勝ってくれたおかげで学園長も一先ず安心するだろう」

 

「そうだね。それじゃ雄二、学園長室に行こうか」

 

「学園長室じゃと?二人とも、学園長に何か用でもあるのか?」

 

「ちょっとした取引の清算だ。喫茶店が忙しくて行けなかったからな。

遅くなったが今から行こうと思う」

 

これで済めば一件落着だ。

 

「ならばワシも行こうかの」

 

「あっ、俺もついて行くぞ」

 

「・・・・・(クイクイ)」

 

「うん?ムッツリーニも来る?」

 

「・・・・・(コクコク)」

 

何だか増えてきたな。ハーデスの方を見ると行かない雰囲気が伝わる。まあいいか。

 

「取り敢えず(女装中)着替え直そう」

 

「そうだね。(女装中)着替えよう」

 

「ようやくだ。(女装中)元の服に着替えようぜ」

 

だが、そう問屋は卸せなかったようだ。

 

『・・・・・まだ許さん』

 

「「「もう許してくれ!お願いだからっ!」」」

 

俺達の男子制服を掴んでいるハーデスに懇願する俺達だった!もうこんな羞恥プレイは嫌だ!

 

 

 

 

仕方なく三人に制服を返したハーデスは屋上に燕と上がった。そこには待ち合わせていたかのように四人の王と愛紗が簡易の椅子に座っていた。

 

「お疲れ様。回収はできたようね」

 

仮面を外すハーデスは中央区の王として肯定した。

 

「お披露目も無事に済ませた。これで後顧の憂いもなくなったことだろ」

 

「それは良かっただろうけどいいの?蒼天の召喚システムのことを話しちゃったでしょ?」

 

「嘘から出た実って言うだろ。ま、嘘にはする気なんてさらさらないから問題ない。この学園にお前らにも来てもらったのはその話し合いをカヲルとするためだったんだよ。―――だというのに、カヲルのやつときたらよぉ」

 

ふかーいため息を吐く王に呼応するかのように他の王達も口出す。

 

「藤堂カヲルが開発した不良品の存在を欲望と野望を秘めた身内の輩に掴まれて姉妹校の存続の危機になった、なんてことになっていたなんて誰も思いもしなかったでしょ」

 

「表面上の報告書を鵜呑みにしちゃダメなんだって改めて感じました。これからも現場に赴いて直で確認しないといけませんね」

 

「そうね。今回のあなたの働きに無駄がないと知れて安心できたところなのだけど、藤堂カヲルをこのままにする気なの?」

 

「簡単にはするつもりはない。猶予を与えただけだ。また次も何か仕出かしたなら蒼天の王として懲戒処分を下す。異論は?」

 

問われた彼女達は「ない」と示す。ならばと王がマントの中から紙を取り出して手の中で燃やして灰にした。

 

「さて、次の問題だ」

 

「え、まだ何か?転覆を企んでいた教頭の人のことですか?」

 

「あんなのクビにすればいいだけだ。証拠も揃っているからな。俺が現時点で最も問題視しているのは―――さっきから盗み聞きしている奴の処罰をしなくちゃならないことだ」

 

 

 

「っ、気づかれたみたい」

 

「え、どうしよっ?」

 

「とにかく、ここから離れましょ」

 

 

 

「(・・・・・あっちもあっちだが、面倒くさいのから対処するか)。出てこい、クラウディオ」

 

虚空に向かって呼びかける王の言葉の後、少しして出入り口の物陰から銀髪の老執事が姿を現した。

 

「やはりバレてましたか旅人」

 

「最初からここにいたんだろ。大方この五人が屋上にいる間からずっとな」

 

「なっ、そんな最初からだと・・・!」

 

「愛紗が気付かないのも仕方がない。クラウディオは年の功でお前より強いだけだからな」

 

淡々と告げられた実力の差に押し黙る愛紗。敬愛している王が言うのだから事実であるとして、受け入れるのが家臣の務めだと自分に言い聞かせているのだ。

 

「最初から気付いているのにどうして敢えて正体をばらしたのかしら?」

 

「もう詰んでいる状況なのにどうして見苦しくしなくちゃならない?」

 

「清々しい理由ね。で、これからどうする?」

 

「まぁ、こうするしかないだろ」

 

王は一本だけ指を立てた。

 

「クラウディオ、昔の借りをチャラにしてもらうぞ」

 

「全て見聞していなかったことにすればよろしいのですね」

 

「お前達九鬼財閥が俺に作った貸しはデカい。このまま俺の正体を一切誰にも知らせることもなくこれからも変わりない生活を送れ」

 

反論は許さない、と真剣な眼差しでクラウディオを見据える王。九鬼財閥相手に貸しを作っていたことはどうやら他の王達は知らなかったようで、驚嘆の念を抱きつつ目の前で交わされる交渉を見守っていく。クラウディオの返事は意外にもあっさりだった。

 

「それがあなたの望みなら私から帝様に貸しを返済した報告をさせていただきます。よろしいでしょうか」

 

「構わん。わかってるだろうが理由も告げるな。紙で書いて教えるな。電子機器で知らせるも暗号文にしてもどんな方法でも誰一人俺の正体を認知させるな。いいな?特にヒュームと揚羽が一番面倒だ」

 

「かしこまりました。では、今後ともお付き合いをよろしくお願いいたします」

 

フッと目の前で消え失せた執事を見送り、王は思わず天を仰いだ。

 

「あー・・・・・面倒な種が増えたぁ・・・・・」

 

「少し、九鬼財閥に対する貸しが勿体ない気がしてならないのだけれど仕方がないわね」

 

「バレたら面倒過ぎることが発生するからな」

 

「他にも貸しは作ってないのかしら?」

 

「小さな貸しなら幾つか。大きな方は今使った。英雄と揚羽の命を守った貸しだ」

 

九鬼財閥の後継者を守った貸しは確かにデカいわねとやはり勿体ないと心中でため息を吐く華林であった。

 

 

ドォンッ!!

 

 

『・・・・・』

 

大砲の音が聞こえた。清涼祭の最後の幕に飾る打ち上げ花火は今現在、空に満天の火の花を咲かせ続けているが、妙に爆発音が違った場所で聞えてならなかった。

 

「気のせいよね?」

 

「この場に居る俺達が気のせいだろうと思うなら、そうなんだろ」

 

だがしかし、王達の考えを嘲笑うかのようなことが立て続けに起きる爆発音が、校舎から断続的に発生して、一体何が起きている!と目を丸くする王達のところに何かが飛んできて転がり落ちてきた。導火線に点火してる丸い玉であった。

 

「・・・・・これって」

 

「花火玉、だな」

 

「え、それって―――!」

 

ドォオオオオオオオオオオオンッ!

 

王達の視界が真っ白に染まった直後に屋上で綺麗な火花が咲いた。

 

その後―――。

 

「こいつらが元凶です」

 

「へぇそうなのか・・・・・こいつらなのかぁ~・・・・・」

 

「「っ・・・・・!(ガクガクブルブル)」」

 

「被害は?」

 

「教頭室と旧校舎が半壊です」

 

「まぁ、見て分かる通り見事にぶっ壊れてるな。俺の頭も見事なもんだろ?アフロだよアフロ。屋上にいたら何でか花火玉が飛んできてドカーン!って巻き込まれてこの様よ」

 

「・・・・・これからどういたしますか」

 

会場の裏で西村宗一郎の剛腕によって連行された現行犯の生徒二人に冷たい眼差しで見下ろす王。

 

「そうだな・・・・・理由はどうあれ蒼天の姉妹校の学園を破壊してしまった事実は許されない。よって坂本雄二はF組の代表から降格処分と観察処分者に、吉井明久共々精々壊れた学園の中の清掃作業を励んでもらおうか」

 

「はっ、かしこまりました」

 

「それともう一人、藤堂カヲルは生徒を御しきれなかった責任として一時蒼天に送還だ」

 

最後の処罰される名に明久達は目を見開いた。

 

「な、学園長もですかっ?いくら何でも理由がそれだけでは・・・・・」

 

「理由が他にもあるからそうするんだ。この二人も多いに関わっててな」

 

西村宗一郎の目がまた丸くなって信じられないように二人をまた見下ろした。

 

「それは藤堂カヲル自身の問題でその解決の為にこいつらも巻き込まれていたんだが、流石にやり過ぎだ。他の王も全員こんな髪型になってるぞ二人共。特に一人はものすごーく怒り心頭だ。家を潰され、家族諸共路頭に迷わされても当然だからな?」

 

「「す、すみませんでしたっ・・・・・!」」

 

「そういうわけだ宗一郎。後は厳重注意の名の下の拳骨を食わらせて終わらせろ。

俺がやったらこいつら死ぬから」

 

「は、かしこまりました。貴様ら覚悟はいいな?」

 

「「くっ、こうなったら逃げっ・・・・・!」」

 

「逃がすかぁああああああああっ!」

 

 

 

「あの、やっぱり学園長を懲戒処分にするんですか」

 

「一時は猶予を与える名目で許したが、学園の一部とはいえ破壊した生徒の行動に巻き込まれた王がいるからな。というか、俺達の中で華林が物凄っい怒ってたし。髪が滅茶苦茶な状態にされた上に、こんなこと仕出かした生徒とその生徒をお咎めなしにしようとする藤堂カヲルに」

 

「ああ・・・・・無言で震えていましたもんね。前半私情ですけど」

 

「私情だろうが何だろうが、逆らってはいけない人間を怒らせたら命はないってことだ。結局、燕の罰も無意味なって予定通りになってしまったよ」

 

「ううう・・・・・そう言われるとお尻の痛みが思い出しますよ王様」

 

「勝手に判断した自業自得だろうが」

 

「はい・・・すみませんでした。でも、学園長がいない間は誰が代理になるんですか?まさか教頭?」

 

「もう解雇通知を送ったからいないぞ。しばらくは川神鉄心に教頭代理にもなってもらう」

 

「じゃあ、学園長の代理は・・・・・あ、もしかして」

 

 

数日後―――。

 

 

グラウンドで臨時の全校集会が行われた。

 

「今度は何だ?また九鬼家の関係か?」

 

「どうなんだろうねー。気になるところだわ」

 

全校集会の内容をまだ知らされていない生徒達の間でざわめきが目立ち、壇上に鉄心が上がるまでしばらく続いた。

 

「皆の者。これから重要なことを説明するからよく聞きなさい。まず、教頭の竹原先生がとある事が発覚して解雇した。そして校長の藤堂カオルも指導者としての不足が明るみに出たので一時的に神月学園から去ることが決定した」

 

教師のツートップが突然の消失。生徒達はその理由を知りたい気持ちでいっぱいでいたが、それを察する鉄心が遮るように言い続けた。

 

「校長の藤堂カヲルについては校長の職を辞めたわけではないのでしばらく経てばまたこの学園に復帰して戻ってくる。じゃが、それまでの間は空席となった学園長と教頭の代理となる者を紹介する。まず、教頭はこの儂、川神鉄心じゃ。理事長を務めておるが、やることは何ら変わらんからの。皆の者、気にせず学校生活を送るとよい。そして学園長の席に座る代理の者は」

 

一区切りつけた鉄心が道を開けるようにして動くと、壇上にもう一人が上がってきた。

その者こそが学園長代理―――。

 

「蒼天の王がこの学園の長となる事が決定した」

 

「神月学園の生徒諸君、短い付き合いになるだろうが学園長の藤堂カヲルが戻ってくるまでの間、よろしく頼むぜ。部活動中にも顔を出すから一緒に頑張ろう」

 

『・・・・・えええええええええええええええええええええええええっ!?』

 

 

「え、嘘、旅人さんが学園長の代理に!?」

 

「どうなってんだぁっ!?でも、ちょー嬉しいぜ!」

 

「毎日告白できる、嬉しい!」

 

「わーい!わーい!」

 

 

「ふはははっ!好都合ではないか!向こうから義兄上がやってきてくれるとはな!」

 

「おいおいおい、信じらねぇことが起きたもんだぜ」

 

「ボクは嬉しいよ!」

 

「ええ、私もです」

 

「蒼天の王・・・・・手合わせをしてみたいものです」

 

「んー、よし、これからは学園長室に入り浸ろう」

 

「だ、ダメだぞ弁慶っ。与一も止めてくれっ」

 

「姐御に逆らったらこっちがとばっちり食らうから嫌だ」

 

 

「旅人・・・・・っ!」

 

 

「旅人さんが学園長の代理・・・・・やったっ」

 

 

 

「あー、驚いたり一部喜ぶのは後にしてくれ。これから面白い話をするからな。静聴できない生徒は即西村先生と二人っきりの泊まり込みの勉強会をしてもらうから」

 

ざわめきがぴたりと止まった。

 

「話の続きだ。まだ先の話だが夏休み明けに試験召喚システムに新たなシステムを導入することに決めている。それは皆の召喚獣の装備が点数で違う装備を購入することだ」

 

『っ!?』

 

「蒼天の学校ではすでに取り組んでいるシステムでな。この学校に送り込んだ蒼天の学生二名の戦いを昨日観戦した生徒なら覚えているだろうが、その二人の装備は点数で買った物なんだ。皆、試召戦争をする度に一度ぐらいは思ったことはあるだろう?装備を変えられるなら変えてみたいと」

 

『・・・・・』

 

「俺は蒼天の学園の生徒からそんな要望を聞き、ならばと点数で装備だけじゃなく特殊能力も買えるようにシステムに加えた。するとどうだ、新しい装備と400点オーバーではないと使えない特殊能力が手に入ることで生徒の成績とやる気、その向上が何倍にもアップしたんだ。可愛い装備、格好いい装備をしてみたい生徒は望みの装備が欲しいが為に成績を伸ばしたことで、我が校はこの学園のAクラス並みの成績が標準と化した」

 

一瞬でざわめきが沸き、王の盛大な手を叩く音で静めた。

 

「ぶっちゃけ言うと、この学園の生徒の成績の水準は蒼天の姉妹校なのに、同じシステムを導入してるのに低すぎると思っている。優秀な生徒が快適な環境の教室の中で授業に励み成績を伸ばす。普通にどこの学校でもよくあることだ。しかし、俺にとってはそれはありふれた日常でよくある普通過ぎる学校生活だ。この世に二つしかないシステムによる試召戦争だって今年に入って何回行われた?」

 

『・・・・・』

 

「お前達には刺激が足りなさすぎる。せっかく全世界の他の学校にはないシステムがあるのにそれを楽しまないなんて勿体なさすぎるぞ。よって代理をしている間は試召戦争のシステムとこの学園の在り方を面白半分に代えさせてもらう。ああ、もう一つ。同時に夏休み明けになったら学食は現金だけじゃなくて総合点数を料金の分減らして食べるようにするからな」

 

『え、マジで!?』

 

「マジだ。ちょっとはやる気出るだろ?財布に優しく美味しい料理を食べられるならさ」

 

『―――――っ!』

 

実質、点数が使い切るまでは無料で食べられるという。主に学食で食べてきた生徒からすれば蒼天の王は神に見えてるだろう。

 

「雄二、これは絶対に見逃しちゃならないと思う!」

 

「点数を減らさなきゃならないのはちと考え物だが、かなり魅力的だな」

 

「とはいえ、ワシらFクラスは精々一度か二度ぐらいしかできぬぞい」

 

「ああ、数回で総合点数がなくなってしまうことにならないよう、夏休み明けに各教室に工夫をするから安心してくれ。試召戦争以外、教室で点数を補給できるようにする」

 

「・・・・・その心配はなくなった」

 

『神かアンタは!』

 

「はは、褒めてくれるな。それとまだあるが、装備と特殊能力に関しては簡単じゃないぞ。この学園の規則に則って、底辺のFクラスから最高のSクラス順に買える特殊能力と装備が高性能だったり数が多くなる。それらは個人で買えるものではなくクラス内で買えるものだから、より強い装備を狙うなら格上のクラスを奪うしかないからな。当然他のクラスの生徒が違うクラスの装備を買うことはできないの。仮に上位のクラスが負けた場合、手に入れた装備や能力は当然消失し、入れ替えられたクラスの装備で買い直すしかない。例外を除いてな」

 

『・・・・・・』

 

「さらにこのシステムを導入すると400点オーバーで発動できる能力はなくなるから気を付けてくれ。最後に一つ。試召戦争以外でも個々で同意の戦いだったら教師の戦闘用フィールドなしでフィールドを展開できるアイテムを与える。話は以上だ」

 

こうして蒼天の王が学園長代理としてやってきた神月学園は、ますます賑やかな学校になることをFクラスの主力メンバーが何となくだが察したのであった。

 


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