ログインする前に告知された情報のことで、俺のマイホームの一室に集まった元【炎帝ノ国】も含めて全幹部クラスのプレイヤー。さらに既に解放されている新大陸には変わりなく活動できるが、まだ解放していない新大陸は今から向かおうとしても上陸することはできないようだ。
「ハーデス、今回のアップデートどう思う?」
「どうって、そりゃ旧大陸に集まりすぎるプレイヤーのためだろ」
「そうなんですか?」
「確かにたくさんのプレイヤーが居ますけど」
何を当たり前なことを、と当然の疑問符を浮かべるだろう仲間達の顔を視界に入れながら要点を言う。
「朝から晩まで満員電車の中にいるような気分をさせたくないんだよ運営は。特に休日は缶詰めの中に閉じ込められた気分にさせられるプレイヤーが多い」
「始まりの町に限らないんじゃない? 他のエリアにも行くんだし」
「特定のダンジョンには、一時間は当たり前のように待たないといけなくなってる不便さが浮き彫りしてるんだ。俺が公開した称号とスキルを手に入れたいがために」
「一週間もモンスターと戦わずにいないと手に入らないアレもだよな」
「それを知った初心者のプレイヤーが欲しいあまりにこの町に何百何千も居続けられたらお前の言う通りになるわけだよ」
そういうわけだから運営が新大陸のバージョンアップをするためアップデートを始めたんだろう。その間にプレイヤー達には今まで通りログインできるから遊ぶ支障はない。
「【蒼龍の聖剣】が新大陸に移されることは確定で、ランダムで選ばれるけど、ハーデスならどこに行きたい?」
「個人的に龍の谷こと龍の国に用事があるからな。他にイカルとタゴサック、ノーフもそうだ」
「用事?」
「龍の儀式に挑戦することです」
イカルの言う通りだと首肯する。
「どんな儀式なのか判らないが、ランダムで龍の国に選ばれるなら嬉しい程度だな。選ばれるよう祈っておくかね」
「お前が全力で祈ったら奇跡の一つや二つが叶いそうだな」
ハハハ、リアルの豪運な自由少年には負けるがな。
「新大陸に移される前にこの大陸にいる間、思い残すことがないようにやりきらないとな」
「え、まだ思い残すことがあるの?」
「俺はハーデスが見つけた硫酸のボスを倒しておきたいな」
「【毒無効】を貫通するモンスターのエリアに立っただけで、毒とは違うスリップダメージが発生するからな」
「ハーデス、まさかとは思うが・・・硫酸のモンスターを喰ったか?」
ドレッドからそう聞かれてしまった俺は、隠すことなく打ち明けた。
「見た目とは裏腹に凄く美味しかった。クリームソーダの味だったぞ? それにスキルも手にいれた」
「えええええ・・・・・?」
「あの噂もとい話はマジなのかよ。お前らのギルマスがモンスターを食べてスキルを手に入れるってのは」
「本当だよー。それからもう【蒼龍の聖剣】に加わった以上は、ミィさん達も他人事でいられないからねん? 因みにどんなスキルを手に入れたのハーデス君」
「名前は【硫酸の湖】。効果は毒攻撃による即死の確率が20%増えるだけ。【蠱毒の呪法】、【神の毒】と合わせたら70%の確率で相手を即死させることができるようになった」
えぐっ、という声が聞こえてきた。ほう、それはどんな気持ちで溢した言葉なのか後で教えてもらおうじゃないか・・・・・フフフ。
「ところでハーデス。新しいスキルの使い心地はどうだ? イカルと泥だんご作っていたアレだ」
「苦労する甲斐がある。あれから他の属性のオーブのスキルを取得したしな」
「よくやるよ。そんなにスキルを集めるの楽しい?」
「出来ることが増えていいじゃないか。各属性の魔法のMP消費が2/1で済むんだから」
俺の頭上に今日まで苦労して手に入れた火・水・風・土・光・闇・雷・氷の属性魔法がオーブとして具現化する。本当に・・・本当に苦労したぜ・・・!!
「おまけにこの8つのオーブのスキルを取得したら『エレメントマスター』なんて称号も手に入ったし、何なら最上位職業の『魔神』に至るための条件の一つらしいぞ」
「そうなの? じゃあフレデリカもそこまで目指すなら手に入れておかないといけないね」
イッチョウに話を振られたフレデリカは「そこまで目指す気はないよー」と答えても気になるようで視線は俺の八種のオーブに向いていた。
それからも続く雑談の話し合いは終わり、全員が解散したら俺は一人だけ月に訪れた。初めて来た時クエストの達成に夢中で月をゆっくり探索することはできなかった理由で、地球をバックにしてのんびりと月の上を歩いていた。その前に神殿に顔を出してみたら闇神の姿は見当たらず、闇霊の隠れ里の方の神殿に移転した事実を確認できた。
「・・・・・。・・・・・。・・・・・お?」
岩の陰に隠れて何かを見ているプレイヤー達の後ろ姿が遠くにあった。俺以外来ていてもおかしくないが出会えるとは思っていなかった。好奇心で近づいてみると見覚えあるテイマーの名前が頭上に浮かんでいた。アメリア、ウルスラ、オイレンシュピーゲル、赤星ニャー達だ。
「お前ら、何してるんだ?」
「「「シッー!!」」」
「白銀さん、静かに・・・!」
こいつ等が隠れている姿勢でいるから状況を察してこれでも声を小さくしているんだが、まだダメなのか。首を傾げて何をしているのかと疑問をぶつけたら、赤星ニャーが教えてくれた。
「月にいるモンスターをテイムしに来たんだけど、初めて見るモンスターを見つけたところなんだニャー」
「というと?」
「スライム」
おっ? と内心で反応して岩陰からこっそり覗く。視界に飛び込んできたのはカラフルな球体。プルプルと時折揺れたり、跳ねたりする姿はゴールデンスライムと同じだが見た目は完全に違っている。通常のスライムには目が無いのに、虹色に光る体に白い目がある。それから頭の上にある結晶のような物が二つ柔らかな光を放っている。
「ユニーク系か?」
「鑑定したら『星光スライム』って名前なのがわかったばかりなのよ」
「でもでもっ、あの見た目だから可愛くて欲しくてテイムしようとしたら、ものすっごい速さで逃げられちゃうんだよっ」
「因みにあのスライムを見つけたのは三回目」
「逃げた先に追いかけているから見つけやすいっちゃあやすいけど」
四人の話を聞きながら俺も鑑定して―――。
「あ、鑑定した瞬間に逃げちゃう―――」
ヒュン!!
「・・・・・それ、最初に言ってくれ」
本当に目の前で瞬く間に逃走した星光スライムに唖然としてしまった。アメリア達はガクリと肩を落とした。
「また逃げられた・・・・・」
「なんか、すまん・・・・・だけど星光スライムの情報は得られた。探せるぞ」
「え? 居場所がわかるの白銀さん?」
そういう称号の副次効果としてモンスターの居場所がわかるようになっているからな俺のマップは。
「詳細によると星光スライムは非常に憶病で強力なモンスターの気配を感じると即座に逃げ出すモンスターらしい。これは多分プレイヤーも例外じゃないだろうな」
「そうなの?」
「あー、そうかもしれないニャー。最初は鑑定して逃げられて、二回目は直接テイムしようとしたら戦闘する前に逃げられたばかりだからニャー」
「しかも俺達に気付いた瞬間に逃げたよな」
「じゃあ、白銀さんの推測が正しいなら・・・・・待って、あのスライムの情報ってそこまでわかるの? どうして?」
ウルスラの疑問に答えながら星光スライムを追いかける途中に採取できるアイテムを拾った。詳細をしようと俺達は頭を突き出す形でテキストを見た。
『星光の微光』
逃走する星光スライムが稀に残す光の軌跡の欠片。たくさん集めれば何かが起きるかもしれない
「うわー・・・・・素材集めの周回をさせられるぞこれー・・・・・」
「どのぐらい集めないといけないのかしら」
「どうするー?」
「白銀さんがいるんだし、サスシロの案件になりそうだから挑戦しないか?」
「賛成だニャー。何気に白銀さんと一緒に遊ぶこと自体久しぶりだしニャー」
話し合いの末、虹色に輝くだけの光るアイテムを求めるパーティが結成した俺達は星光スライムを追いかける。
『あ、いた! あー! もう逃げたー!』
『白銀さんのマップ便利だわね! 言われた通りの所に行けば100%いるもの!』
『こっちもいた白銀さん!』
『星光スライムって意外といるんだな!』
俺がマップを見ながらナヴィゲーターとして四人を複数の星光スライムがいる場所へ誘導する手段を使って落とすアイテムを収集。しかし稀に落とすアイテムなので数回逃げるスライムからやっと一つ手に入る確率・・・・・四人の場合はだ。
「俺も見つけて、『星光の微光』10個目を落としてくれたぞ」
『なんでそんなに簡単に手に入るの~!?』
『運まで極めなくてもいいんじゃない・・・・・?』
『やっと俺達は1、2個だってのにニャー・・・・・』
『その運も俺達に反映してくれたっていいと思うぞ!』
知らんがな。運営に言ってくれそんなの。
『ところでさぁー。スライムならビッグとかキングスライムとかいるのかな?』
『いると思っていいかもな』
『いたら王冠が欲しいな! 絶対に綺麗な星の王冠だろう!』
『進化アイテムか、または装飾品扱いのアイテムか楽しみだわ』
「そのためならアイテムをもっと集めてくれよお前ら~」
ひとまず一人20個を集めてみようと決めた手前、この四人はまだ5個すら集めれていない始末だ。俺が四人分集めておく必要がありそうだな・・・・・。
数時間後・・・・・。
「結局、俺が集めたようなものだな。60個まで集めないといけないほどお前ら運がないのかよ」
「「「「ぐぅ・・・・・!」」」」
ぐうの音がでない・・・・・いや、10個ぐらい集めたから四人で40個だ。完全に足を引っ張ってはいないから良しとしよう。
「さて、俺だけこれだけ集めてもなんの変化もないから・・・・・アメリア、お前が100個持ってみろ」
「白銀さんでいいんじゃない?」
ウルスラの指摘に首を横に振りながら否定した。
「第1発見者はお前達だからだ。俺は後から乗っかったから優先順位はお前らにある。ほれアメリア」
「お、大人・・・・・! じゃあ、受け取るね!」
「これでも足りなかったら白銀さんに申し訳ねぇよ」
「頼む、なにかアクションがあってくれニャー!」
アメリアのインベントリに100個の『星光の微光』が集まった・・・・・次の瞬間。
「あっ!! 『星光の微光』が変わった! 『星域の道標』になったよ!?」
「おおっ!?」
「使い方は!?」
「はよはよ!」
「星域か。新しいエリアの発見かな?」
アメリアも含めて期待で胸が膨らむ俺達の目の前でアメリアは柔らかに光る虹色の輝きを出した。その輝きが彼女の手から離れるように螺旋を描きながら浮き、溢れる光の粒子が俺達の眼前に降り注ぐと石造りのアーチに虹色のゲートが現れた。
俺達は顔を見合わせ頷き合いゲートを潜った・・・・・そのゲート先には。
「「うわぁあああ・・・・・!!」」
「「おおおっ!?」」
「はははっ!! なーるほど、これは凄い!!」
足場は天の川のような光る星屑。天は蒼夜に星屑の光と、わかりやすく星と星に線が繋がっている。きっと星座を表しているんだろうな。そんな空間に入り込む俺達は感動せずにはいられない―――。
「あ、なんか飛んでるわ!」
「宇宙の身体を持ったモンスター・・・・・身体を発光させる深海魚みたいだな」
「え、格好いいんだけどそれ」
「レベル高そうだけれど大丈夫かな?」
「一回挑戦してみてから考えないかニャー」
未知を既知に変えるべく俺達は動き出した。マップの開拓も兼ねて足を運び出すと色々と発見ができた。
「ここって宇宙の中だと思うんだけれど、植物が育っているのは不思議だね」
「当たり前な事に鑑定すると見たことがない物ばかりだ。お、白銀さん採掘ポイントあるぞ掘ってみたら?」
「鍛冶師プレイヤー達のお土産になりそうだな。どれどれ・・・どんな鉱石が手に入るか」
オイレンシュピーゲルが教えてくれたポイントの前に立ち、ラッキーセブンピッケルで採掘を始めるとすぐにポロッと出てきた。
『宇宙鉱石』『虚重鉱石』『星輝鉱石』『宇宙の星屑』『隕鉄』『彗星の氷片』『月光石』
採掘ポイントがなくなるまで掘り続けた結果がこんな鉱物が手に入った。一つを除いて全部新種の鉱石ばかりな発見に感嘆の息を漏らす俺達。
「なんか、凄そうな装備が作れそうな名前の鉱石が手に入ったね」
「インゴットにしないといけないからまだまだ集める必要あるが、確かにその通りだ」
「次行くニャー!」
「本来の目的の星光スライム、捕まえたいぜ」
「このエリアのモンスターも早く見てみましょうよ」
居ても立っても居られない仲間達に催促されるまでもなく、未知を求めて探索を再開してしばらく―――。
「おお! アメリア見ろ、宇宙を切り取ったような体の兎がいるぞ!」
「キャー!! 欲しい、絶対に欲しい!!」
「ちょいちょい、魚が宙に泳いでいるんだけどニャー!?」
「ドデケー!?」
「あ、星光スライム・・・ビッグだわ!」
「待て待て!! 何だあの巨大マンモスの群れはー!? 逃げないとこっちがやられちまう!!」
「本気を出す!」
「やったれー! 白銀さーん!」
「私達も手伝わないと!」
「白銀さんだけ戦わせちゃダメでしょ!」
「気付いたらレベルが結構上がってるわね」
「その分モンスターの強さはえげつないけどな」
「白銀さんがいなかったらスムーズにここまで来れなかっただニャー」
「ほんとほんと、新種のモンスターのテイム成功も高いし」
「それでも警戒は怠るなよ。このエリアのボスがまだ見ていないんだからな」
「龍だ!?」
「格好いい! 是非とも仲間にしたい!」
「よっしゃ、手伝うぜ白銀さん!」
「エリアボスかしらね。それともプレデター?」
「どちらにしろかなり強いのは確実ニャー!! ほーら、流星群を落としてきたニャー!!?」
「なんか、不思議なオブジェクトがありますなー」
「この紋様、正座のよね?」
「これに触れたら各星座のボスモンスターと戦うエリアに移動するんじゃない?」
「有り得るニャー。白銀さん、どうする?」
「俺もウルスラの予想が高いと思う。どれが弱そうとか無難そうとかいう考えは捨てて挑まないとこっちがやられる。それに絶対にレイドボスだろうし挑むにしては人数が足りない。―――それでも挑んでみる?」
と・・・こんな風に充実した日を過ごした。何ならアメリア達が身内のメンバーに自慢話を広げるものだから、『星域』から出ても消えないままのゲートに入るため月へ向かったメンバーが後を絶たない。当然のようにペイン達も星のモンスターと戦いに月へ出張した。もちろん俺も今度はオルト達を連れて再挑戦しに行った。観光目的も兼ねてリヴェリア達も連れて行ったらとても感動してくれた。