西の町―――隠しダンジョンに続く隠された路に長蛇の列を作るプレイヤー達と一緒となって並んで待った。自分達の番が来るまで雑談の花を咲かせるのは必然的だった。
「ねぇねぇハーデス先輩。このゲームでは海賊とかいるんですかー?」
「海に出れば見掛けるぞ。まだ行ったことはないけど海賊島もあるらしい」
「じゃあ船もあるんだね? 自分で作れたりします?」
「作れはするけど大型の船を作るならば最低でも必要な素材の数は木材と鉱物が1000個だぞ」
「うげ、そんなに必要なんてマリン精神的過労で死んじゃう・・・・・」
「10人が100個、100人が10個集めれば死にはしないさ。一人じゃ無理ならプレイヤーに依頼して代わりに集めてもらうのも手だぞ」
「なるほど、それなら負担がなくなるわね!」
「でも、船ってどこで造船するの?」
「知りたいなら案内するぞ。【蒼龍の聖剣】の船『水瓏』を造ったプレイヤーと一緒にな」
「船があるの!? どんな船ぺこ?」
そりゃあるとも。だから俺達の船に触発してオリジナルの船を造るギルドが多い多い。運営が用意した船より高性能な船を造るためにな。
「青と白の水晶の船だ。数百人は乗れる大型の船で水晶で造ったから綺麗だぞ」
「水晶の船・・・・・想像つかないけど船に乗ってみたいかな」
「攻略終えたらな。ところで兎田ぺこらってテイマーも遊んでいるようだが、もしかして兎のモンスターを探してる?」
「そうでもあるけど、先輩ならどんな兎のモンスターがいるのか知ってる?」
「兎をテイムしたテイマーに訊くのが一番だけど、テイムしたモンスターには好感度、なつき度なるマスクデータがあってだな。それを高めてから進化させると通常進化とは違う特殊進化が選べるようになるんだ」
「へぇ、じゃあ兎の場合は?」
「背中にハートマークがあるモフモフ兎になる。プレイヤーを回復してくれるスキルを覚えるようになるぞ」
「おおっ、なんか可愛い兎になるんだ? 因みに格好いい兎とかいる?」
「格好いい・・・は見掛けないけど、身体が熊で顔が兎のNPCモンスターならいるぞ。ほれ証拠写真」
「「「「「なにこのおっかない兎もどき」」」」」
うん、そういうと思った・・・・・と、ようやく次で俺達の番になったな。
「次で俺達だから準備するぞ。ステータスのスキル覧を見てくれ」
「待って、物凄く気になる兎の話を聞かせて欲しいぺこ! 今のモンスターもテイムできる!?」
先に宝鐘マリンと白金ノエルを隠されたダンジョンの入り口に行かせる。
「(無視)それじゃするぞ【桜園の誓い】」
「・・・・・え、何これ。急にスキルが盛りだくさんに増えたけど」
「今増えたスキルは俺のスキルで、そうなったのは【桜園の誓い】ってスキルなんだ。その中に【小型化】ってスキルがあるだろ。宝鐘マリンと白銀ノエルは【小型化】を使ってくれ。身長が50cm縮むから身体も小さくなれば隙間に入れるだろ」
俺に促される二人は半信半疑でスキルを使えば。
「本当に縮むスキルなの? ・・・・・【小型化】」
「【小型化】・・・・・あれ? みんなが大きくなった?」
「違うぺこ!! 二人が本当にちっちゃくなったんだよ!!」
「うわぁ、可愛い!」
「見事に胸まで小さくなったね。もう一生そのままでいいよ?」
小学生ほどの身長になり俺以外の三人から頭を撫でられたり持ち上げられたり、記念にスクショして誰かに教えた。
「ハーデス先輩。【小型化】ってどうやって覚えられますか?」
「5分間身体がはまった状態でいればいいだけ。船を造れる場所にそれができるからどちらにしろ案内するさ」
「ありがとうございまーす!」
「あ、フブキ先輩がすごく反応してる。今から会えないかって二人とも」
「嫌だよ!? 絶対にお持ち帰りされちゃうじゃん!」
「ダンジョンの中に入ったら元の身体に戻さなくちゃっ。・・・戻れますよね?」
不安そうに訊いてくる白銀ノエル。安心しろ戻るから。でないと俺はあいつらに・・・・・。
「あ、私達の番になったよ」
「やっと挑戦できるぺこよ」
「二人もその身体なら隙間に入れるよね」
「小っちゃくて可愛い今のマリンならね!」
「でも、この姿になると力のステータスが50も下がっちゃうんだね。速さがその分増えたけど」
そう言いながら次々と民家の壁と民家の壁の境目にある隙間に身体を潜らせて進んでいく。最後に俺も四つん這いになって進むとマンホールを囲って突っ立っている五人と合流した。
「ハーデス先輩、もしかしてダンジョンの入り口ってマンホール?」
「その通りだ」
片手で軽々とマンホールを開けるとお手本として設けられている梯子を掴んで先に降りた。後から兎田ぺこら達がゆっくりと降りてきてレンガ造りの小部屋の先を進む。懐かしい水が綺麗な下水道のダンジョンだ。
「意外と臭くないんだね」
「リアルの下水道ってこういう感じなのかな」
「汚いイメージだったんだけど水も綺麗だ」
「潜っても問題なさそう」
「それじゃモンスターに警戒して行こ」
俺は五人の一番後ろにいてついて行く形で進む彼女達を見守る。間もなく行き止まりで立ち往生する彼女達。隙間の狭い鉄格子が通路と水路にはめ込まれ、進むことが出来なくなっていた。隙間が狭すぎて、身体が小さくなっても通れない宝鍾マリンと白銀ノエル。
「隠し扉?」
「うーん(ペタペタ コンコン)そんな感じじゃなさそう」
「先に進む条件とかあるんじゃない?」
「それを知っているのは・・・・・」
「・・・・・」
必然的に俺の助言を求む10の視線。おいおい、いきなりここで躓いたらこの先攻略が出来ないぞ。
「もうお前達は隠された場所の入り口の行き方を経験している。これがヒントだ」
「隠された場所の出入り口って・・・・・」
「えーと・・・・・言い換えると隠れてた入り口だよね」
「・・・・・機械の町に行く時の水中の洞窟の事?」
「あっ! そういうことか!」
「え、どういうことフレア?」
不知火フレアが流れる鉄格子の先に流れる水に注視した。確信したのか兎田ぺこら達に断言した。
「水に潜って鉄格子を潜り抜けるんだよ!」
「え、そうなの? ハーデス先輩」
「正解だ。水中まで鉄格子は張られてないから潜って進む必要がある。このゲームは海もあるから潜水してまで進まないといけないことがあるから、【水泳】と【潜水】のスキルがあるのはそういうことだろう。他のゲームだって水中を泳げるだろ? それと同じだ」
「そうだったんだぁ・・・・・じゃあ潜ってみるね」
正解を導いた不知火フレアが最初に水に潜って流れに逆らわず真っ直ぐ泳いで無事に鉄格子を越えた先で立ち上がりこっちに振り向いて手を振った。残された俺達も水中に潜って無事に鉄格子を越えて先へ進んだ。
「服が濡れたぺこぉ~・・・・・あ、勝手に乾いた?」
「そういう仕様だ」
「へぇ、洗濯物もこういう感じだったらとっても便利じゃん」
「食器もそうだね」
「因みに先輩。下水道のダンジョンってやっぱりモンスターが出ますよね?」
そりゃあ出るに決まっている、と言おうとした矢先に水路から何かがザバーと水を割りながら上がってくるのが見える。
「うげっ・・・・・。なにあれー・・・・・ゴミ?」
「ヴァァ~」
俺達の進路を塞ぐように立ちはだかったのは、一見すると泥とゴミをこねて固めたような、できればお近づきになりたくない外見をした懐かしいモンスターであった。
「ヘドロンって名前だ。なるほどー、ヘドロのモンスターってことか」
「汚いモンスターじゃん!」
「足場が狭い。皆、気を付けて!」
「俺は観戦させてもらうぞ。お前達だけで戦え」
「わかりました」
下水道の通路は横幅が2メートルほどしかない。それが五人も揃って並ぶように立っているとさらに手狭を感じさせられるのは必然だ。
それでも救いなのは、ヘドロンの強さが変わろうと大したことないかもしれないことだろう。泥の球を飛ばす攻撃をしてきたが、俺の防御力で装備の耐久値以外はダメージ0で終わるはずだ。
「ぎゃー!! 汚いー!!」
「フレア、ぺこら! 魔法と弓で攻撃して! 」
「わかった! 【パワーショット】!」
「くらえ! 【ファイアーボール】!」
「船長も海賊らしく撃っちゃうよ!」
二人のスキルがヘドロンに直撃したもの、強化されているようでまだ倒れないヘドロンが泥の弾で反撃する。
宝鍾マリンも攻撃に加わりそして、それで終わりだ。戦闘開始5分もかからなかった。強化されているとはいえモンスターの難度はそこまでではないのかもしれない。
「って思ってたんだがな・・・・・」
時には水路に潜り、時には狭い隙間を匍匐前進で通り抜け。ダンジョンをゆっくりと進んでいると、新たなモンスターが出現していた。その名も、アメメンボ。懐かしい虫のモンスターだ。
水路の上をスイスイと進む、アメンボを大型犬サイズにしたような姿の昆虫系のモンスターだ。そして、前後からは4体ずつ、計4体のヘドロンが迫る。
「ぜ、全方向から包囲されてしまった!」
「いやぁああああああ!?」
「おいぺこら落ち着け」
狭い通路では隊列の入れ替えもままならず、兎田ぺこら達は背後から現れたヘドロンの攻撃と、アメメンボの放つ液体攻撃をガッツリ食らってしまっていた。
「うげ、結構食らう!」
「ヤバいヤバい、装備の耐久値が凄く減ってる!」
「防御力がいくら高くてダメージが0でも、武器装備がなくちゃ武器ありきのスキルが使えなくなっちゃう!」
初期から破壊不能の装備を身に纏っていたから、装備の耐久値など無縁な俺にはその危機感は分からない。彼女達が焦るのはヘドロンの泥攻撃で汚されたからだ。あと、アメメンボが口から発射した液体も溶解液系の攻撃なのかもしれない。だがそれでも手出しはせず、こっちにも攻撃されても躱すだけで何もしないまま五人だけでなんとか殲滅することに成功したが、精神的ダメージが結構受けたようだ。
「ハーデス先輩・・・・・ちょっとだけでもいいから手伝ってくれませんかね・・・・・」
「もうへばったのか?」
「虫は嫌いなんだぺこ・・・・・!」
「装備の耐久値もちょっとヤバめだよ~・・・・・」
懇願されて仕方なく引き受けたその後、数度に及ぶヘドロン、アメメンボ連合軍との戦闘を潜り抜け、俺達はさらに奥へと進んでいった。そして、マンホールに突入してからおよそ1時間。俺達は本日最大の難所にぶち当たっていた。
「どうやって登ればいいぺこよ」
水路が上り坂となっていたのだ。足場も途切れてしまい、水に逆らってこの坂を上る以外に進む方法が無さそうだった。初めて見る五人にとっては絶対に苦労する場面だ。
「しかも坂の途中に鉄格子があるんだけど。あれって下を通り抜けられるの? 先輩」
「その通りだ。行けるか?」
お手本として俺が水の流れなど物ともせずに坂をグングン上っていく。結構な水量があるんだが、この程度であれば妨げにもならない。上から坂を上り始める五人を見守っていたが・・・・・。
「わぁ~!!?」
「ノエルが落ちた!」
「ぶはっ! マ、マリンもきつい・・・!」
「こんな場所を上らないといけないなんて・・・・・!」
「ぐ、うぅ・・・!」
これが彼女達にとって想像以上の難所だった。水量もそこそこあるので容易には上ることもできないし、足を滑らせたら見ての通り一気に下まで押し戻されてしまう。とは言え、俺達が水の流れる急坂を登りながら、一度水に潜らねばならないというのも、難度が高かいんだが頑張ってほしい。
「もう無理ー! 先輩助けてくださいー!」
「水に滴る美女の救助をしてちょうだいー!」
「自分で美女と言うなよ。美人なのは知ってるんだから」
「え? あっ・・・・・あー!?」
宝鐘マリンが白銀ノエルのところに流された。バカだな・・・。
その後。
ロープで一人ずつ鉄格子の奥から引っ張ってやった。本当なら他の方法もあるが、それは俺がいる時しかできないことだから敢えてしなかった。
「唐突に訊くけど、いま五人はSTRにはどれぐらい振ったんだ?」
「団長は100超えたよ。今は半分だけど」
「るしあは格闘家も兼ねてるから65ぐらい」
「マリンは主に力と速さ伸ばしてる最中で50、50超えたところ」
「弓以外に魔法で攻撃するから速さと器用、魔法力とMP順に振ってる」
「ぺこらもMPと魔法力に速さを中心に振ってるよ」
選んだ職業に沿っての振り方をしているのか。んー、ちょっと危ういな。
「もしかして間違ってたりしてました?」
「単なる興味本位だ。さっきの坂を上るのに五人が苦労したからな。それに極振りしてる俺達の方が常識的に成功しないって思われてる」
「でも、極振りなんだよね?」
「スキルのお掛けでな。プレイヤーのステータス関係なくスキルに攻撃力があるようにした運営の計らいで助かってる」
「じゃあ、先輩的にこうした方がいいステータスの振り方は?」
「それはプレイヤー次第だ。リアルでもそうだけどさ、こうした方が、ああした方が正解だって教えられることは世の中に良くあることだが、人によってそれは違うと否定されたらもう成功例は千差万別になる。どっちが、誰が正しいのか決めるのは自分自身で後悔しない選択をするしかないんだ」
俺達の警戒をよそに、その後は戦闘はなく、行き止まりと思われる大部屋にたどり着いたのだった。部屋の形状は入り口から緩やかに下り坂になっており、全体ではすり鉢状になっている。
「俺はいまを楽しみたいがために、誰も選ぶような事から外れて、誰よりも思うがままに遊んでいる結果」
【至高の堕天使】を発動して『堕天の王』シリーズの装備に【クイックチェンジ】で変えたその瞬間。
「ここまで強くなった」
ガシャン!
「なに!?」
「と、閉じ込められた!」
入り口に鉄格子が降りて、俺たちは部屋に閉じ込められていた。さぁーて、久しぶりに遊ぼうかアメンボども!