ボスモンスター イフリート・ノヴァと戦い始めて30分ほど経過した。鎧の耐久値が3割まで減らした途端、イフリート・ノヴァが突然にHPがなくなるまで見境なく壁から壁へと連続でぶつかっていく高速移動を繰り返した。タゴサックと上空へ回避してただ眺めているしかできなかったが、あれは誘導されて自滅する行動ではなくて、自ら自滅して鎧の耐久値を減らして壊す自傷行為だと察したところでイフリート・ノヴァの全身を包み込んでいた鎧に罅が行き渡り、亀裂の隙間から抑えられていた莫大な炎のエネルギーが噴出し、その勢いで鎧が吹っ飛んだ。
「日誌通りの姿になったぞ」
「これからが本当の戦いということだ」
俺達の目線が上に向くほど高くなっていくイフリート・ノヴァは全身が燃えてる巨大な姿を晒してくれた。顔はドラゴン、赤熱している鬣から後ろ向きに伸びている二本の角、溶岩魔人のような溶岩の身体を支える逆間接の足、背中から巨大な有翼と腰辺りから野太い尾を伸ばしている。
『あ、あのー・・・・・』
『こんなの相手にしなくちゃいけないのか、これから俺達は・・・・・』
『すげー、格好いい・・・・・!』
『勝てるのか、あんなモンスター』
言いたいことは分かる。・・・・・しかしこのイフリート・ノヴァは・・・・・。
「視聴者達、あのイフリート・ノヴァの属性はサモナー専用の大精霊族らしいぞ」
『はい!? 嘘だろ!』
『精霊族なの!? 見た目完全にドラゴンじゃん!!』
『ええええええええええええええええええええええええええええええ!!?』
『一目見て惚れました。これからサモナー頑張ってイフリート・ノヴァを契約してみるよ!』
ゴガアアアアアアアッ!
咆哮を上げるイフリート・ノヴァ。長い時を経て封印から解放された喜びか、あるいは真の力を封印した者への怒りと恨みのものか、どちらにしろ自由を取り戻した奴の第一声を知る由もない俺達と目が合うと・・・・・奴は背中の翼を羽ばたくと、俺達より高く浮きあろうことか闘技場を越えてどこかへと移動を開始した!
「は? あいつ、どこに行くんだ!?」
「わからないが、放っておくべきじゃないのは確かだ!」
再召喚したスーパーカルガモの手綱を掴み、まだ薄っすらと見える奴の後ろ姿を追いかけた。
「全力で追いかけてくれ!」
「クェー!!!」
俺の指示通りに新幹線並みの速度で走り出してあっという間にイフリート・ノヴァが向かった先へ遅れて走っている炎のモンスターの大群の中を・・・・・ん? 降りたなあいつ。まさかここで? と胡乱気な俺の心情を読んだのか分からないが、イフリート・ノヴァにHPバーが複数も表示された。
「闘技場の中じゃあ狭いからここで戦おうって移動したのか?」
「こんな行動を取るレイドボスは初めてだが、向こうがやる気なら応じるのが俺達プレイヤーだ」
グオォォォォォォォォォォォォォォォッッッ!!!
咆哮を上げるイフリート・ノヴァ。その雄叫びに呼応する動きを見せる炎のモンスター達。緩慢的な動きだったはずなのに、俊敏な動きに変わった奴らは三つの塊となっていき、どれだけいたのか数えるのが億劫なほど集束した炎のモンスター達がイフリート・ノヴァに変化を遂げた。
「ああ、そういうことか。イフリート・ノヴァが分裂するんじゃなくてこのフィールドにいるモンスター達がイフリート・ノヴァの分身となるのか。タゴサック、行けるな?」
「お前の防御力があっても勝てる気がしねぇよ。俺は生産職だぞ」
「お前が全線で維持し続けてくれるだけでもありがたいのさ。それだけで戦う相手の数と戦力が割かれて助かる。それでも戦えないって言うならいますぐ宙に浮いて、私が頼むまでこれから付与する私のスキルを確認していてくれ。奴らはもう待ってくれやしないようだから」
【桜園の誓い】と言った直後に三体のイフリート・ノヴァ(分身)が灼熱の火炎を吐いてきた。大盾を前に突き出してタゴサックを炎から守り抜く。・・・・・うん、奴らからの状態異常は受けていない。ダメージもない。装備の耐久値を気にするのは無意味。ただ、炎の海砂のフィールドにいる間HPが減るスリップダメージは俺には効かないが【桜園の誓い】の効果でタゴサックもダメージを受けることはないが、戦闘職ではないから長期戦は難しい。短期戦が望ましいことは変わりない。火炎に耐え続けている俺の視界に映り込む巨大な拳。既に0距離で回避は間に合わずもろに食らってタゴサックと吹っ飛ばされる。
タゴサックを胸の内に抱え込みながら空へ浮きスキルを口にした。
「【輪廻転環】【至高の玉座】【オールレンジ】【プリズマディック・スコール】【星屑の風】」
INTがVITの数値分を得た状態で七色の台に囲まれながら玉座に座り、極彩色の光の雨と緑色の光球をイフリート・ノヴァ達に浴びせ続けた。
『うわ、綺麗な星の雨ー(棒読み)』
『アレを食らって倒れないモンスターとかいるのかな』
『そんなのいたら俺達プレイヤーが逆立ちしても倒せないレベルだぞ』
『そうだな。実際、本体以外のイフリート・ノヴァ(分身)は今の攻撃で倒れた・・・・・あの本体さん』
『何で耐えてるんだお前ぇ!?』
「おいおい、今の私のINTは少なくとも100万以上ある筈なのに今の一撃を耐えきるとか」
「INTが100万!? お前防御力極振りじゃないのか!?」
「何かカラクリでもあるのか・・・・・?」
「俺の話を無視するな! 答えろハーデス!」
今そんな話をしている暇もどうでもいい話に答えている暇はないんだがタゴサックさんよ。
「おいハーデス!」
「―――うるさい、耳元で騒ぐな。これ以上黙らないとディープキスしてその口を強制的に閉ざすぞ」
「!!?」
『してくださいお願いします』
『タゴサックさん、もっと騒いでください』
『どっちも美人だから女同士のキッスは目の保養になる』
『というか、今気づいたら二人のペェが押し合って潰れてますよね』
『首から下の方はもう既にキッシュをしているー!?』
声音を低くして脅しの言葉を掛けたら、見る見るうちに首まで紅く染まったタゴサックはそれ以降押し黙って腕の中で大人しくなってくれた。
「それでいい。さて、どうしたものか・・・・・」
どうやら分身体は本体を倒さない限り倒しても復活するみたいだ。おっと、今度はこっちの番だと全員で熱光線を撃ってきやがった。当たらないよう高速で動き回り、時には大胆にイフリート・ノヴァ同士の間に飛び込んで同士討ちを誘導してみたが、結果は芳しくない。魔法スキルを当てても分身にはダメージが受けようと本体は無傷って・・・・・。
「クェー!!」
スーパーカルガモ!? 避難させる暇なかったから離れるよう言ったのに、おいおいイフリート・ノヴァに近づいたら焼き鳥にされち―――。
「クワァー!!」
「ガァッ?」
・・・・・は? カルガモの二ドルキックでイフリート・ノヴァに初めてダメージを与えた? どうなっているカルガモの足は? ・・・・・ちょっと調べてみるか。
名前:スーパーカルガモ 種族:精霊
契約者:なし
LV75
HP:540/540
MP:449/449
【STR 130】
【VIT 91】
【AGI 525】
【DEX 467】
【INT 87】
スキル:【追い抜き】【砂漠行軍】【熱耐性】【水分補給】【状態異常回復】【ロードランナー】
特にこれといってイフリート・ノヴァがダメージを受ける原因のスキルが無いように見えるが、スーパーカルガモって精霊だったのかよ。こっちの方が意外過ぎだわ・・・・・待てよ?
「【次元跳躍】【悪食】!」
イフリート・ノヴァの懐に飛び込み【悪食】を食らわしてもノーダメージで終わり、武器で通常攻撃をしてもノーダメージ・・・・・で、相変わらず微弱だがしっかりとイフリート・ノヴァのにダメージを与えているスーパーカルガモと俺の違いと言えば・・・・・種族か?
「召喚ヒムカ!」
属性の相性を今は無視して同属性のヒムカを喚んだ。
「主、オレの力が必要か?」
「ああ、私の力が通用しなくてな」
「任せろ!」
神化したヒムカと砂漠を走る。イフリート・ノヴァの方は復活した分身体達を嗾けて襲わせようとするが、こいつ等ならあっさり倒せるからヒムカのフォローをする。
「食らえー!!」
巨大すぎるイフリート・ノヴァ相手には非力に見えても仕方がない鎚を振りかぶって、思いっきり砂漠の大地に傷跡を残すだろう大精霊の足の指に叩いた―――結果は。
「・・・・・決まりだ。これは私でも倒せない設定と設計をされたモンスターだ」
「ハーデスが何度も攻撃しても減らなかったダメージが、サラマンダーの攻撃が通用してる、だと・・・・・!?」
タゴサックも驚きを隠せない事実。スーパーカルガモと同じ精霊のヒムカもイフリート・ノヴァのHPを削っている。・・・そういうことか。ようやく勝ち筋が見えてきたぞ!
「・・・・・ハーデス、一体どうなっているんだ?」
またうるさくしたら俺にキスされると意識しているのか、声を小さくして疑問をぶつけてきた。
「イフリート・ノヴァは同じ種族の攻撃しか通用しない。だから同じ精霊であるヒムカの攻撃が無効されないんだ」
「そうなのか・・・・・なら他のノーム達は? 喚ばないのか?」
「持続ダメージを受ける場所にたくさん喚んでも仕方がない。それにもしかしたらさ、イフリート・ノヴァが最後の二番目にするべきだったかもしれない」
「なんでだ?」
「四大砂漠の攻略に必要そうなアイテムが用意されていたからだ。それを使って攻略出来たら何かしらの報酬があっていいと思う」
まぁ、いま無い物を強請ってもしょうがないのだ。ヒムカを連れてきたカルガモに感謝しながらベンニーアも召喚してスキル【同化】を使って種族を半神から闇精霊、ベンニーアの姿にチェンジした。
「【夜天の祝福】【領域展開・闇神の神殿】」
砂漠の世界に夜の帳が幕を下ろした。さらに俺の背後に闇神の神殿が召喚されてこの場が宇宙と変わらない環境となった。
「タゴサック、これから爆発するブラックホールの魔法の詠唱を唱える。近付いてきたら吹っ飛ばせ。それができるように私のスキルを付与してあるが、確認したか?」
「全部は無理だが、お前が必要な時間を稼ぐぐらいには何とかしてやる」
「ふっ、いい返事だ。それなら俺のHPをタゴサックに預けられる」
彼女と距離を置いて宙に高く浮いてから唱え始めた。
「遠き暗黒の果てより訪れし混沌と虚無よ」
突き出した両の手の前に宇宙の球体が生み出されるのを見て、イフリート・ノヴァが宙にいる俺達に直接攻撃しようとして翼を羽ばたかせて飛んできた。俺が放つ魔法の脅威に察知したか? もしもそうなら正解だ・・・・・。だが、俺一人で戦うつもりはないぞ。
「ガァアアアアアアアアッ!!」
「やらせるかぁああああああああああっ!!」
下から迫る太陽のような巨大な火炎球。タゴサックは俺を守る意志を示し【悪食】でイフリート・ノヴァの火炎球と対抗した。一緒に火炎球の猛火を潜り抜けられ耐えきったら、次に巨大なモンスターの拳が迫っていた。
「【相乗効果】! 【爆発的成長】! 【大型化】! 【巨人化】!」
イフリート・ノヴァより一回り大きい巨人になったタゴサックが、溶岩の拳を身体で受け止めそのまま落ちる彼女は、イフリート・ノヴァも地上に引きずり込んだ。なんだが悪の怪獣と戦う巨大化する正義の異星人の光景を見ている気分だなーと、巨大な引力が生じている黒い塊を完成させる呪文を唱え続ける。
「我が意志となりて抗う全てを呑み込め―――【黄泉の常闇砲(エレボスディメンションキャノン)】! と―――」
イフリート・ノヴァの少し離れた位置に向けてブラックホールを放った。タゴサックに捕まれて攻撃していて回避行動は二の次にだった大精霊の背後でブラックホールが膨張をし始め、この世の全てを闇の中に吸い込もうとする力も増していったブラックホールの引力が、イフリート・ノヴァの体躯とその質量など関係ないとばかり膨張を繰り返しながら呑み込まんとする。
「タゴサック、スキルを解除してイフリート・ノヴァの身体を盾にしてブラックホールから離れろ!」
指示通り元の姿に戻ったタゴサックが退避するとイフリート・ノヴァは空へ、この砂漠から離れようと飛び出す回避行動を見て、そうはさせるかと奴の前に立ち塞がった。
「実は一つだけじゃなくて、複数あるんだよなこれが」
【鼠算式】で増やしていたブラックホールを見せびらかす。こっちに突き出して道連れにしようとするイフリート・ノヴァの手を躱し、懐に飛び込んで奴の口の中にブラックホールを叩き込んで発動した。
「これでおしまいだ」
直接口の中に放り込まれたブラックホールに、背後から迫っていたブラックホールにも抗う術もなく常闇に呑み込まれ、臨界点が突破したブラックホールが爆発してポリゴンとなって消失したイフリート・ノヴァを見届けた。
宇宙空間と夜、ベンニーアとの合体を解除してタゴサックやスーパーカルガモと合流した直後。イフリート・ノヴァを討伐した報酬が貰えた。
「お、『不思議な絵のパネル』だってよハーデス。あのレイドボスを倒した報酬としてはこれだけなのはしょぼいだろうけど、読み通りじゃないか」
「ん? 他に報酬がないのか? 私は砂漠の絵のパネルが手に入らなくて『イフリート・ノヴァの精霊核』とやらが手に入れたんだが」
「なんだそれ? もしかしてイフリート・ノヴァに与えたダメージ数で違う報酬が貰えるのか」
そうかもしれないし他にも理由があるかもしれない。まぁ、今は確認だな。
『イフリート・ノヴァの精霊核』
肉体が滅びようと大精霊としての魂は現世に残り、何時の日か復活を果たすイフリート・ノヴァの心臓。また同属性の精霊に与えることで格を上がることもできる。
心臓とテキストに書かれてあるが、どう見ても見た目が火結晶なんだよな。
さて・・・・・同属性の精霊と来たか。
「ヒムカ、こいつを受け入れられるか?」
「いいのか主?」
「お前がいたから勝てた戦いだ。なら、これは私が使うよりもお前が持つべきものだ」
イフリート・ノヴァの核を俺から受け取ったヒムカは、感謝の言葉を言いながら自分の胸に押し付けた結晶が放つ光に包まれた。変化を期待して待つ俺の前で光が消えると何も変わっていないヒムカが立っていた。
「どうだ?」
「うーんと、格は上がなかったけど代わりに凄い力を手にしたぞ! 見てくれ!」
そういうヒムカの身体がまた光り出して・・・・・俺とタゴサックの目の前でイフリート・ノヴァが再び現れた。
そうかー・・・・・こうなるのかー・・・・・
『いゃー!! ヒムカきゅんがドラゴンになっちゃたぁー!?』
『まぁ、サラマンダーってドラゴンとか炎属性のトカゲとか龍の名前で色んなゲームに出てるからあながち間違ってはないんだよな』
『そう言えばそうだな。もしかしてサラマンダーの最終進化って白銀さんみたいにイフリートの核を与えてドラゴンに変身させる大精霊なんじゃ?』
『あ、あり得る・・・・・!』
『欲しい! 俺も大精霊の核が欲しい!』
『私も欲しいですね』
『・・・・・でも、我々は精霊すらテイムしてないから倒せない現実はどうすれば〜?』
『い、今からテイムして爆速で従魔の心をゲットして、プレイヤーと同化できる指輪を・・・・・!』
『それ以前の話、デスワームを攻略しないとイフリート・ノヴァに挑戦することできませんがね』
『うわぁぁぁぁぁぁぁ!! 大変なことが多すぎる!』
『そもそもこのエキストラクエストはスライムのクエストと同じで周回できるのかな』
『それを知ってるのは運営であって、その2番目に白銀さんと白銀さんの配信を見守る死神の宴に参加している俺達よ』
『俺達は3番目にしようぜそこは。主催は魔王様なんだから』
『どっちでもいい話をするが、死神の宴じゃなくて魔王の宴でいいんじゃないか?』
『本当にどうでもいいなと思った一瞬、魔王の宴がカッコよさあっていいなと頭の中で過った』
『いつも通り死神の宴でいいじゃん』
『そうそう。死神の宴が始まってからずっと一緒に楽しんでいるんだから、宴の名前は変える必要ないって』
『・・・・・是非とも百合百合の宴を始めて欲しいまである』
『それはそう』
『頭が振りちぎれんほどに同意する』
『確かにその通りだ』
『み、水着姿で楽しんでいるところを・・・・・!』
『ユリニャンをもう一度ぉー!?』
・・・・・ここで反応したら負けだよな?