「わぁ、大きいサボテンですねお姉ちゃん」
「まるでサボテン型の巨大エア遊具だな」
屋根の上から移動して、それでもネズミのように屋根に上ってくるサボーテン達を一蹴し、町から少し離れた元オアシスの象徴である枯れた泉に陣取る20メートルはある、だるまみたいなサボーテンを見上げながら思ったことを口にした。
「えあゆうぐ?」
「遊んだことがないか。簡単に言うと巨大な風船の中で遊ぶ道具のことだ。イカルの家にあるか分からないが空気を膨らませて大量の水を入れたら、家でプールのよう遊べる道具もエア遊具でもある」
「そんな玩具もあるんですね。でも、私の家には丸い形をしたプールがあるから空気を入れてプールにする道具がないです」
『イ、イカルちゃん・・・・・?』
『意外とイカルちゃんのお家はお金持ちであることが発覚してしまった』
『白銀さんも知らなかった事実だったみたいで顔の表情が固まってる』
『日本国内でプール付きの豪邸はそうそうないぞ。特定されるんじゃないのかこれ』
『身代金誘拐されるのも待った無しじゃん』
「・・・・・イカル、現実の家の事とか家族の事とか喋ってはいけない約束は?」
「え? ・・・・・あっ!?」
「正座しようか」
「ご、ごめんなさーい!!?」
『wwwww』
『しっかり妹を教育していた偉い魔王のお姉ちゃんだった』
『あんな純粋無垢で可愛い女の子に悪い事を教え込んじゃったら色々と手遅れよ』
『フヒヒヒ、それを見て楽しむ悪ーい大人もいるんだけどねぇー』
『外国人も違う常識を植え付けるのもオツよ』
『こいつらみたいな人種がいるから良くも悪くも面白おかしくなるんだよ世の中の人間関係が』
全くもってその通りだ。だから大人は子供の未来を間違わせないよう教えて導かなきゃならないんだ―――お。
「イカル、正座は中止だ。巨大サボテンが動き出した」
「え? ・・・・・あ、本当だ」
小型のサボーテンより極太な根っこの触手を出す巨大サボーテンこと『人喰いサーボテンテン』。何だこのネーミング、誰だこんな名前しか付けられないセンスの持ち主に名付けさせた人間は。それはともかく、このタイミングで動き出したのはサボーテンの駆逐が終わったからか?
「町にNPC達がいないのは、名前からしてこのサボテンが食べたからか」
「サボテンが人を食べるんですか?」
「ゲームならではの何でもありな設定だ。食虫植物ならぬ食人植物といったところか」
一本の触手を持ち上げ、俺達を叩き潰さんと振り落とした人喰いサーボテンテン。俺は片腕を突き出して巨大な触手を、腕から感じる衝撃や重圧を覚えながらもしっかりと受け止めた。
「リヴァイアサンよりは重たくないな。―――イカル」
「【相乗効果】! 【溶岩魔人】! 【海竜神】! 【悪食】! 【爆発的成長】! 【大型化】!」
人喰いサーボテンテンより凌駕した巨体のリヴァイアサンに変身したイカル。続いて俺もだ。
「【相乗効果】【溶岩魔人】【巨人化】【爆発的成長】【大型化】」
『ヒエッ』
『ほんと、ぶっ壊れスキルを見せつけられる俺達の心を戦前に折るのが上手だよねー』
『ハハハ・・・・・ナニアレ・・・・・』
『ねぇ、あんなプレイヤー達を倒せるプレイヤーっているの?』
『いたらNWOゲーム史上最強のプレイヤーだから』
『NWOのラスボスはどんなモンスターなのかって聞かれると、とあるプレイヤー達しか答えが浮かばない』
『とある金髪の剣士プレイヤーは人の枠から外れていないからまだ良心的に負けるけどいつか勝てるって希望は持てる』
『とある魔王様のスキルを共有されたプレイヤー達がもうその瞬間魔王様と遜色ないんだが?』
『強すぎる魔王に絶望している間に、暴走族達も遅れて合流してあっけなく巨大サボテンがぶっ倒れたんだが?』
『いつもの事だから気にしなーい。でも、こっちのレイドボスなら俺達でも勝てる』
『道中のクジラもどきは?』
『逃げるが勝ちの戦法で行きましょうか。レベルが100ぞ? 敵うとでも?』
『・・・・・後ろ向きで移動しようか!』
人喰いサーボテンテンを倒すことができたら、なんか枯れた泉に水が湧き出して大勢のNPC達が漏出するポリゴンと共に湧いたんだが。
「おお、ついに助かった!!」
「もうダメかと思ったわ!!」
「キミ達が助けてくれたのだな!! ありがとう!!」
「命の恩人だアンタら!!」
ミィ達の方にも感謝の言葉を送られて少し当惑している。話を聞けばどこから来たのか分からないサボテンのモンスター達に襲われ、抵抗虚しく巨大なサボテンのモンスターに運ばれてそのまま食べられた。だが、すぐに死ぬことはなく閉じ込められた形でしばらくは生きていたもの、飢えと渇きで死ぬ直前だったらしい。確かにみんな骨と皮しかなくて立っているのがやっとな出で立ちだ。
だからではないが、NPC達には食糧を提供すると見る見るうちに痩せ細った身体に生命力が溢れんばかりに筋骨隆々となった男達や美しさを取り戻した女達にまた感謝された。
「恩人達よ、ありがとう。お主らが来てくれなかったらこの町も儂らも死ぬ運命であった。どうか何かお礼をさせて下され」
このオアシスの町の代表から二つのアイテムを受け取った。一つは謎の砂漠の柄のピース、もう一つは太陽を模した仮面だ。
「この仮面は?」
「これを被っておれば太陽神の恩恵が得られるという縁起のいい仮面でな、不吉な事や呪いなどの悪いことから守ってくれるとこの町ではそう信じておるのだ」
テキストでは『不思議な仮面だが ただの仮面である』としか表示されてない。どこかで使う時があるなら貰っておこうとインベントリに入れた時であった。俺達しかいなかったはずなのにプレイヤーが一気に何もない空間から現れて増えたと思えば。
「あっ、やぁーっと追いついたよハーデス!」
「フレデリカ? ペイン達もいつの間にいたんだ? そもそもいきなりどこから現れたんだ」
「何言ってんだ。俺達もついさっきこの町にいたサボテンのモンスター共と親玉を戦って倒したばかりだぞ」
「え? 大きなサボテンと戦っている時、私とお姉ちゃんと他の皆さんしかいませんでしたよ?」
イカルの言う通りだと頷く俺。でも、あっちの言い分は本当らしくてお互いの認識の食い違いがあるようで疑問符を浮かべてしまう。
「・・・・・ああ、ハーデス君。多分だけど地底湖の魚のボス戦と同じだよ」
「地底湖の・・・・・あれか」
パーティを組んでいない他のプレイヤーと隔離するため用意された戦場。戦いが終わるまで他のプレイヤーの干渉は不可能なあれだ。
「そ、きっとこの町全体がクエスト用で最初に着いたプレイヤー達、ハーデス君達がレイド戦をしている間に遅れて町に着いたプレイヤー達、私達が戦うエリアが分けられていたんだと思うよ。で、サボテンのボスを倒したら同じエリアに戻されるか、目的のアイテムを全員が手に入れたら同じエリアに戻されるように設定されていると」
イッチョウの推測の話にミィ達も納得した風な反応を窺わせた。
「なるほど、一度のレイド戦に入場するプレイヤーの人数を規制するためのものか。戦う際の混雑も避けられないからな」
「それもあるけど、後から遅れてきたプレイヤーが碌に戦わず先に倒したプレイヤー達と同じ報酬を受け取らないよう運営が設定したんじゃないかな」
「ああ、そういうことか。それなら納得だわ」
因みに私達は目的のピースを手に入れた矢先にハーデス君達と同じエリアに戻されたよん。とイッチョウの話を聞いて特に反応をしなかった。
「じゃあ、先にお前らはピラミッドの攻略をするんだな」
「あれ、ハーデス君は行かないの?」
「ガンナー達がデスワームを攻略していないからな。クリアさせた後に向かうつもりだ」
「そっか。それじゃあ、お先に失礼するよハーデス君。私達の攻略配信を見て学んでねー」
妙にイラっとさせられる発言と俺達を残してイッチョウ達は踵を返してこの町からいなくなった。その後ろ姿を見送る俺の隣からミィから言われた。
「競争をしているわけではないが、いいのか? 先を越されてしまうぞ」
「ピラミッドも攻略したら砂漠の絵のピースが手に入るだろうが、イフリート・ノヴァは精霊族の攻撃しか通用しないから、そこで少しぐらいは足止めを食らうはずだ」
「・・・・・私達も倒していないが、精霊か・・・・・神獣ではダメなのかハーデス」
「神獣か・・・・・わからないな。試す価値はあるが私がまた挑戦すれば強さが増すぞ?」
「私も頑張ります!」
ふんす、とやる気を漲らせるイカル。それが微笑ましくて頭を撫でれば目を細めて嬉しそうな表情を浮かべる少女をミィも薄っすらと笑みを浮かべていたのをしっかり見た。
「ハーデス、全員ピースを手に入れたそうだぞ」
「わかった。じゃあガンナー達に弾の装填が済んだら行くぞ。帰りもあのクジラもどきとまた一戦交えるかもしれないからな」
「そしてお前は採掘をするつもりなんだろう」
当然じゃないか。できれば複数のインゴットにできる量まで手に入れておきたい。そんな欲望を密かに抱えてガンナー達の準備が終えれば俺達もこのオアシスの町を後にして赤い砂漠にとんぼ返りをしたところで。
ゴォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオ・・・・・!!!
「あれ、グラン・モーランじゃないクジラもどき?」
「なんだありゃあ!!」
頭部と一体化したようなドリル状の角を持つ全身が赤褐色のクジラもどきがグラン・モーランのように同じ登場シーンをして襲い掛かってきた。が、やはり予想通りに襲って来たな。ガンナー達を万全にさせておいて正解だった。
「倒すぞお前達!」
ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!
「ペイン、ハーデス達が私達が遭遇したモンスターに似たモンスターと戦ってるよ」
「そうか。ハーデス達と一緒に戻れば戦えたか。惜しいことをしたね」
「また今度挑もうぜ。今はピラミッドの攻略だ」
「まぁ、こっちもこっちで大変だけどねー」
「導かれるまま進んだらとんでもないトラップやモンスターだらけだしな」