と、意気込っていたらメールが届いた。送り主は・・・・・。ペインか。
『配信動画を見させてもらったよ。あの動画から俺達も火山のダンジョンに行って君の戦い方を参考してラヴァ・ゴーレムを倒してきた。今度はジズも倒すつもりだ。是非君の協力を求めたい』
はやっ!? もうドワルティアに行って、もうあのラヴァ・ゴーレムを倒したってのかよ!攻略組の行動力、ナメていたかもしれない・・・・・。
「しかもジズを倒す気か。俺というよりフェンリルの存在が必要だろうな」
まぁ、断る理由はない。いいだろう。明日の花見のことも返信してやろう。返事待っているっと。
「これでよし・・・・・ってまたメールか。あ、マーオウだ」
頼んだ養蜂箱と蚕箱が出来たか。待ち合わせの場所は中央広場な。足先を広場へ向き向かうと噴水の前でマーオウが立っていた。
「お待たせ、待ったか?」
「全然や。二分も経っとらんで」
「じゃあ、例のブツを」
「おう、これや」
名称:養蜂箱+
レア度:3 品質:★8
効果: ホームに設置すると、ハチミツを収穫可能。責任者によって量や品質が異なる。
ついに来た!しかも品質が凄い!ただ――ちょっと高いか?
そう、養蜂箱は人間用の高さに作られていたため、クママには背が高すぎるのだ。これでは、中をのぞき込めもしない。それとも、責任者に任命しておけば養蜂スキルが勝手に発動するのだろうか?
そう思っていたら、マーオウがさらに何かを取り出した。踏み台みたいだな。って、またメールが届いた。
「ふっふっふ、ウチが何も考えていないんと思っとるか?自分の従魔にハニーベアがおることを知ってこれも合わせての完成品や!我が最高傑作、ハニーベア用踏み台!」
本当に踏み台だったか。それにしても最高傑作? 見た目は普通の踏み台だが。何か特殊な効果でもあるのか?
「色をハニーベアと同じ黄色に染めて、見た目の相性は抜群や。さらにここの持ち手を見ぃ!少し大きめの丸い穴を付けたことにより、ハニーベアでも簡単に持ち運びが可能!」
特殊効果がある訳ではなく、単に家具として優れているということだったか。まあ、クママに似合っているのは確かだが。よく見たら、踏み台部分が熊の顔の形をしている。無駄に細部に凝っているな。
「この台も貰っていいのか?」
「もちろんやで。養蜂箱とセットだと思ってくれてええんで」
「じゃあ、ありがたく」
そもそも、この台が無いとクママが養蜂箱を使えないしな。お次は―――
名称:
レア度:3 品質:★8
効果: ホームに設置すると、蚕糸を収穫可能。責任者によって量や品質が異なる。
同等の作品を完成させたのか。ただ気になるのは・・・・・。
「これらの箱のレア度を上げるとしたら何が必要で条件なんだ?」
「材料は雑木さかい。リアルにもあるなら高級な材木が必要やと思うで。あとウチの技術力も」
「なるほどな。じゃあ、レア度の高い材木を手に入ったらマーオウに再度作ってもらうか」
「首を長くして待っとるで!」
高い代金を払って畑に戻る前に、マーオウにも花見の誘いをすると必ず行くと返事を返してくれた。
「クママ、アイネ。集合!」
「クマクマ!」
「フマー!」
呼びかけに直ぐに返事をして俺の前に集まった二人に、養蜂箱と養蚕箱を見せたら。
クママがキラキラした目で養蜂箱を見ている。
アイネが顔を輝かせて養蚕箱を見ている。
「お前達の為に用意したものだ。これをどこに設置するか決めてくれるか?まずはクママから」
「クママ!」
クママが踏み台を抱えたまま、えっちらおっちら俺の後を付いてくる。どこに設置するか。畑に置けばいいのか?
「クママ。養蜂箱を設置するのに一番良いところって、どこか分かるか?」
「クマッ!」
こういうのは、スキルを持った専門家に聞いてみるべきだよな。
クママが大きく頷いて、俺の前に立って歩き出す。やはり良い場所悪い場所があるみたいだった。
クママにとってはそこそこ大きな踏み台を抱えているため、あまり速く歩けない。一歩踏み出すごとに短い尻尾の付いたお尻がプリプリと左右に振られ、めちゃんこ可愛かった。
クママが選んだ場所は、最近果樹園と呼んでいる、緑桃や胡桃、水臨樹の木が生える一角だ。その中央の空いている場所に、養蜂箱を置くように俺を見返してくる。
「ここか?」
「クックマッ!」
俺はクママに指示された場所に、養蜂箱を設置した。すると、箱が軽く輝き、ウィンドウが浮かび上がる。
それは管理者を指定する画面だった。選べるのは俺か、クママだけだな。まあ、ここはクママ一択だけど。
「じゃあ、クママを責任者にっと――」
クママを選ぶと早速養蜂箱に変化があった。
「む?蜂か?」
小さい蜂が数匹、箱の周りを飛び回り始めたのだ。これが増えて、最終的には巣を作るってことか? それは良いんだけど、刺さないよな? まあ、変に刺激するのは止めておこう。逃げちゃったりしても嫌だし。
蜂が飛んで行ったのは、緑桃の木の方だ。もしかして、花の蜜を採りに行ったのか? だとすると、確かに果樹園は緑桃や胡桃の花があるし、良い蜜が取れるかもな。
リアルみたいに味が変わったりはしないと思うけど、どんなハチミツが取れるのか楽しみだ。
「じゃあ、頼むぞクママ」
「クーマー」
腕を上げてやる気のクママに養蜂箱を任せて、次はアイネのところに戻った俺は、早速アイネに指示して、養蚕箱をどこに設置すればいいのか尋ねる。
「フーマー」
「ここか」
アイネが指差したのは、養蜂箱の置いてある区画の隣であった。
「もしかして日陰の方がいいってことか?」
「フマ!」
置く場所も品質などに関係してくるみたいだな。養蜂箱の近くなら管理するのが簡単でいいね。
アイネの場合、浮遊があるので踏み台も必要ないし、楽なものだ。畑に置いて、アイネがなにやらモニョモニョ念じたらそれで設置完了である。
「クママ、ここに養蚕箱を置いて問題ないか?」
「クックマ!」
養蜂箱への影響も特にはなさそうだった。
「じゃあ、蚕が糸を生み出してくれるのを待ちますか」
「フマ」
「クマ」
アイネの隣で、クママも養蚕箱を覗いている。興味があるらしい。それにしても、髪が長くて白いフワフワ浮く幼女と、黄色い熊が仲良く並んで箱を覗き込む絵は、メチャクチャファンタジー感が強かった。まるで絵本の世界である。
「クマ?」
「フマ!」
「クーマー」
因みに蚕が吐き出した糸は、蚕を殺さずとも繭として回収できるそうだ。そもそも蛹になったりもしないらしい。ここまでくるともう蚕じゃないよな? まあ、ゲームだ。色々と省略されていたり違っていたりするもんだよな。でもま、これで二人もやることが増えたから暇じゃなくなるだろうなさて、メールを読むか
『花見の誘いをありがとう。俺達も明日窺うよ。料理に関してはフレデリカにお願いするつもりだ。ジズとの戦いは今夜21時にどうだろうか』
フレデリカ・・・・・料理に手を出したのか?数人分の用意するとなると大変な数になって苦労しそうだが、頑張れとしか言えない。それにしても、今夜とはやる気があるなペイン達。勇者の称号が欲しいようだ。だがOKだペイン。今夜は大いに楽しもう。
・・・・・。・・・・・。・・・・・。
・・・・・。・・・・・。
・・・・・。
「宴会だけど、何を作ろうか。あまり手の込んだ物は難しいよな。手軽にできて、かつ美味い物・・・」
さらに酒のつまみにもなってくれると嬉しいな。いや、食事と酒の肴は別々に用意した方が良いだろうか?
「キュ?」
「うん、木の実は美味しいけど、ちょっと違うな」
リックが青どんぐりを取り出して俺に見せてくる。リックには御馳走なのかもしれんが、花見料理としてお客さんに提供するのはちょっとね。
「ナッツ・・・・・。そっか、焼き豆ならナッツ代わりになるか?」
「キュ!」
「あれなら安いし、大量に生産できる」
「キッキュー!」
俺はイベント村に向かい、ソイ豆を入手することにした。ついでに川魚、チーズ、果物なども購入する。
イベント時には半分ほどの村人が闘技大会に行ってしまっており、店などの仕入れが滞っているという設定だったが、今では正常に戻っていた。特に魚や果物はイベントの時とは違って、制限が大分緩くなっている。今なら30人分の食材でも仕入れられるのだ。
「あとは北と東の町で酒や肉を仕入れよう。いや、もういい加減に第3エリアの町に行かないと!」
「キュ! ポリポリ」
ソイ豆の存在を思い出させてくれたリックには、ご褒美として屋台で焼き豆を買ってあげた。大好物を前に食欲が大爆発しているようだな。焼き豆の入った袋に頭を突っ込んで、ポリポリと食べ続けている。俺が手に持つ焼き豆の袋から、リックのモフモフ尻尾だけが飛び出ている絵面だ。
1時間後。
俺は畑に戻ってひたすら料理をし続けていた。焼肉に焼き魚、ジュースなどのシンプルな料理ばかりだが、ルフレが発酵で作ってくれた新作調味料を惜しみなく使い、色々な味をご用意だ。
焼肉だけでも肉が3種類。さらにニンニク醤油、味噌、塩コショウ、ニンニクオリーブオイル、ハーブ塩の5種の味付けだ。きっと満足してくれるだろう。
「取り敢えずこれぐらいでいいか。ドワーフの国に買い戻る羽目になったが、十分な収穫は得てるから文句はないけどさ」
俺より先陣切っているノーフ達は、俺の知らない植物や食材を数多く抱えていた。それが何か微妙に悔しいが横道反らない他のプレイヤーに、俺が横道に行って新発見をしているようなもんだから楽しいっちゃ楽しいのも否めないのも事実。
だからこそ、俺は他のプレイヤーが歩き進んだ道に戻ろうと決意した。羽音の森のフィールドボスはかなり弱い。というより、戦闘方法が完全に確立されており、その方法を使えばほぼ無傷で勝利が可能なのだ。
勿論、ヘルメスから買った情報にはその方法が記されている。なので多少消耗していても、問題なく勝利できるはずだった。ただ、何が起きるか分からんからね。保険は大切なのだ。
始まりの町から出発してから1時間。蟲毒の森のボスに挑む前に各精霊の街に訪れてホームオブジェクトや食用アイテムを買った。新しい町にも畑があるから同じ環境にしたいが故にだ。
「あれがボスだな」
俺たちは蟲毒の森のフィールドボス、岩石巨人へとたどり着いていた。その姿は1メートルを超える石の巨人で、とても弱そうには見えない。
実際、まともに戦えばかなりの強敵で、初期は第2エリアのフィールドボス中で最強とも言われていたらしい。まあ、それも戦い方が確立されるまでだったわけだが。
「じゃあ、行くか」
「キュー!」
俺たちは意気揚々とボスエリアへと足を踏み入れた。テイマーの上位職コマンダーテイマーになってから初めてメインの状態で戦いに挑む。そして連れて来たモンスターは殆どやあんまり連れ出していなかったオルトとミーニィ以外のクママ達全員だ。
「ゴゴゴゴゴ!」
ボスエリアに侵入した俺たちを発見した岩石巨人は、俺たちに向かって突進してくる。あまり早くはないが、あの石の腕でぶん殴られたら、俺程度は即死―――はない。
だが、俺たちは何もせずに一斉に散開した。モンス達にはすでに戦い方を教えてあるからな。放って置いても大丈夫だ。
「ゴゴゴゴ!」
「ふははっ!当たらん、当たらんよ!」
「ゴゴォ!」
「メェー!」
「フムー!」
俺は一切攻撃をせず、岩石巨人の拳を躱し続けた。すると、岩石巨人は突然その動きを止める。そのままクラウチングスタートの体勢を取った。
「クママ! 気を付けろ!」
「クックマ!」
力を溜めこむ様に数秒間止まった岩石巨人は、直後にアメフト選手の様なタックルを繰り出してくる。結構早いが、予想してれば躱すことは難しくない。
そして、タックルを回避された岩石巨人はつんのめる様に倒れ込んだ。倒れた時の衝撃のせいなのか、上半身と下半身の間に隙間が生まれ、その隙間から青く光るボールの様な物が露出している。
「みんな! 総攻撃!」
「ヤー!」
「キュキュー!」
「クマクマー!」
「――!」
「メェー!」
「ヒムー!」
これがこのボスとの戦い方だった。攻撃を一切せずに逃げ回っていると、その時点でHPが最も高い者に対して、タックルを仕掛けてくる。現状ではクママだな。
そして、タックルを避けられてしまうと一定時間倒れ込んで動かなくなり、その際に弱点であるコアが露出するのだ。そこに攻撃を叩きこみ、起き上がったら再び逃げ続ける。
ある程度攻撃を避ける技術さえあれば、無傷で勝利できる相手だった。
難点は時間がかかる事だな。幾らコアが弱点だと言っても、俺を除けばクママ程度の攻撃力では総攻撃で1割か2割程度しか削れない。つまり、10回は繰り返す必要があり、戦闘に1時間近く掛かってしまうことに。だが、そこまで時間を掛けるつもりはない。【悪食】も使って俺たちはこの作業を根気よく続け、ノーダメージでボスを突破したのだった。
「皆、お疲れー。これで第3エリアに行けるぞー」
「キュッキュー!」
「クックマクックマー!」
「フムー♪」
うちの子たちは輪になってマイムマイムらしきものを踊っている。ファウが加わってから、皆の歓喜の舞がより派手になった気がするな。事あるごとに踊っている。どこのパリピだ!
まあ、楽しそうだからいいけどね。
ボスである岩石巨人を撃破した俺たちは、第3エリア、東の町へと到着していた。やっと、やっと俺も新しい町にこれた・・・・・!!
感動で涙が出そうだよ・・・・・!!
「おおー、結構大きいじゃないか!」
始まりの町に比べたら小さいと聞いていたが、パッと見それほど変わらないな。道の広さや、壁の高さも同じくらいだし、門も同じくらいの大きさだった。
「まずは農業ギルドだ」
「ムム!」
「――♪」
一番の目的である畑を買わないとな。ただ、初めての町なので観光がてら歩き回ろう。
「ちょっと歩いて探すか」
「クマ!」
「キュ!」
「皆も探してくれよ」
「ヤー!」
「フム~!」
リックはクママの頭の上、ファウはルフレの肩に乗っている。
ファウの奏でる軽快な音楽に合わせて、うちの子たちがスキップしながら歩く。ルフレも一緒である。もう馴染始めているようだな。良かった。
「なあ、あれって――」
「え?また新しい――」
「まじか白銀さん――」
「も、萌え――」
「さすが――」
四方八方からめっちゃ見られている。妙に注目されながら入り口から続く大通りを歩いていると、中央に綺麗な噴水のある広場に出る。綺麗な西洋風の広場だ。
「よし、初めて訪れた記念だ。集合写真を撮ろうか」
「メェー!」
「―――♪」
オルトとミーニィがいないのは残念だが、また次の機会にでも撮ろう。俺の前にメリープ、その両隣にゆぐゆぐとルフレ。彼女達が重ねた手の平にリックとファウを乗せ、俺とクママが前列の3人の足元で寝転がって伸ばしあった手を触れ合う格好でスクショをした。
―――後日。噴水の前でプレイヤー達がスクショをするようになったのだとかは俺の知らないことだった。
東の町の農業ギルドで畑の購入をしていた。今の俺が買えるのは20面まで。どうせだったら一気に全部そろえちゃおう。なにせ臨時収入があったし。
畑の値段は始まりの町よりも1000G高いので、最もグレードが高い畑で7000G。納屋付きの畑で11000Gである。
俺は一旦20面の畑の購入を止め、農業ギルドのクエストを確認してみる事にした。やはり、東の町独自のクエストが幾つかある。それらをこなしてはみるものの・・・・・。
「全部で20000Gか」
これでギルドランクが上がったことで、NPCを雇って畑で働いてもらえるようになったらしい。ただ、ほとんどのNPCがスキルレベル1~4で、5以上の人間はお給料がそれなりに高かった。今はあまり意味が無いな。
本題に戻ろう。場所は全て隣同士に固めて、農業ギルドに近い場所を選ぶことも出来た。まだファーマーが少ないおかげで、なんとか井戸の隣も確保できたし。ただでさえ少ないファーマーが各町に分散しているおかげで、まだまだ農地は余っている状態らしかった。第2陣が入ってきたら、畑の利用者も増えるのか?もしそうなったらもう殆んどない畑を購入しようとしたらどうなる?運営が拡張するのか?
畑に井戸として設置できるホームオブジェクトもあった。しかもこれは普通の井戸と違い、品質が高い『清水』という水が無限に汲み上げられる井戸であるらしい。
品質的には井戸水→清水→浄化水という感じだった。これなら調合にも使えるはずだ。
さらに農業ギルドで買える物に、面白い物を見つけた。紅葡萄という果物の苗だ。緑桃の苗もある。しかも、葡萄を育てるために必要な棚の設置まで請け負ってくれるらしい。自分での設置も可能らしいので、とりあえず苗と棚を3つずつ買っておいた。
「毎度あり! またよろしくな!」
「新しい果物もゲットしたし、畑を見に行くか。ここで、オルトを召喚。リックを畑に送還だ」
畑の有る区画は、始まりの町とほとんど変わらないな。ただ、道や街灯などのデザインが少し違うので、新鮮さもある。
「ムム~!」
「――♪」
畑が目に入ると、オルトとサクラが嬉しそうに駆け出した。やはり畑が好きらしい。
今朝は日課の調合を行わず、全ての収穫物を残しておいた。半分はいつも通り始まりの畑に株分して蒔き、残りはインベントリに仕舞ってある。俺はそれらの種をオルトに渡しておいた。これで後は任せておけばいいだろう。
「あ、そうだ。先にオブジェクトの設置しないと」
まずは浄化の泉だ。
「オルト、どこがいいと思う?」
「ムー・・・・・」
「お、考えてる」
「ムム・・・・・ム!ムムーッ!」
「お、ここか?」
「ム」
少しの間、腕を組み、目を閉じて何やら考えていたオルトだったが、突然目を見開いて、ビシーッと納屋の隣を指差した。ここなら調合で納屋を使う際、楽でいいね。
「フム~♪」
泉を設置した瞬間、ルフレがいきなり飛び込んだ。水を掬って自分にかけては、気持ちよさげに目を細めている。
「フムン♪」
「まあ、ウンディーネだしな」
「フムー!」
乾燥したらヤバいとか、そう言う事だろうか? だとすると、冒険中は常に水を持ち歩いた方が良さそうだな。心配なのは泉から湧き出る浄化水の品質がどうなるかだが・・・・・。まあ、それも明日汲んでみれば分かるだろう。
俺は水遊びをするルフレを横目に、オルトの指示通り、納屋の裏側に葡萄用の棚を1つ設置した。もう2つは始まりの町に設置するつもりだ。向こうの果樹園も充実させたいからな。
「よし、オルト、サクラ、クママ、畑は任せていいか?」
「ムッムー」
「――♪」
「クマー」
良い敬礼です。毎回上手くなっている気がする。もしかして練習とかしてるんだろうか。まあ、オルト達に任せておけば問題なさそうだ。
「じゃあ、俺たちは醸造樽をゲットしに行くぞ!」
「ヤー!」
「フムー!」
「メェー!」
こっちはこっちで、集まって来た皆が一緒に拳を突き上げる。これも動きが揃っているな。まじで練習してるのか?
「まあ、今は醸造樽だ」
ヘルメスから買った情報によると、この町に凄腕の醸造家がおり、そのクエストをこなすことで特殊な醸造樽が入手できるらしかった。
発生条件が醸造スキルらしいので、とりあえず取得しておく。あとはその醸造家に会いに行くだけだ。
「ここだな」
一見すると普通の民家にしか見えない。アリッサさんの情報が無かったら絶対に発見できなかっただろう。最初に発見したプレイヤー、よく見つけたな。きっと斜め上のプレイをする変わったプレイヤーに違いない。
「すみませーん」
俺はドアをノックしながら声をかけた。すると、ドアが内側からゆっくりと開く。
「誰かね?」
「えーと、冒険者の死神ハーデスと言います。こちらに凄腕の醸造家がいらっしゃると聞いて来たんですが」
「凄腕かどうかは分からないが。私が醸造家のマーシャルだ」
「ぜひ、ご教授頂きたいのですが」
「構わんよ。中に入りなさい」
「はい」
その後はトントン拍子に話が進んだ。聞いていた通り、醸造のイロハを教える代わりに緑桃の木材を入手してくると言うクエストが派生したのだが、俺はすでに所持している。なんと、ヘルメスへの情報料にこの木材の代金も含まれていたのだ。アフターサービスも完璧であるらしい。これをその場で渡せば、あっさりクエスト完了であった。
「よし、確かに受け取った。では、お主に醸造の何たるかを教えてやろう」
あとはその場で酒の醸造に関する事を教わり、終了だ。その時に緑桃で作った、酒類の醸造期間が短縮されるという樽が1つと、その木工レシピ、葡萄酒を作るための紅葡萄×5がもらえる。
しかも、今後ここに来れば数種類の醸造樽が買えるのだと言う。この樽も通常販売品よりも品質が高く、非常に良い品であるらしい。
早速ラインナップを見せてもらうと、醸造樽、小型醸造樽、酒類用醸造樽の3種があった。とりあえず通常の醸造樽を3つ、酒類用醸造樽を1つ購入しておく。
俺の醸造はまだLv1なので、醸造樽は同時に1つしか扱えない。どうやらルフレはスキルレベルLv15相当の4つまで扱えるらしいので、彼女の分が4つの計算だ。
あと、お酒も販売していた。葡萄酒と緑桃酒の2種類だけだが。これも1つずつ買っちゃおうか。自分で作るにはまだ時間がかかるだろうし。値段は1つ1000Gもした。葡萄酒だけを大量に買っておこう。これなら料理にも使えるからな。
「飲んでも良いし。一度酩酊を経験するのもいい」
このゲームでは酩酊という状態異常がある。酒を飲み過ぎるとなる状態で、体がフラフラしてまともに動けなくなるんだとか。
ただ、その状態になるのはリアル年齢が20歳以上のプレイヤーだけで、未成年の場合はそもそも酒を飲んでもジュースの味になり、酩酊にならないらしい。その辺、このゲームは厳しいのだ。
まあ、大人の俺には関係ないけどな!いい大人が会社休んで廃人プレイするなっていう苦情は受け付けません。男はいつまでも少年なのだ。体は大人、心は少年。それが成人男性という生き物である。だからお酒も飲みますとも!
「じゃあ、醸造樽もお酒も手に入ったし、さっそく醸造をしてみるか」
醸造クエストを終えた俺は、畑に戻るためにウインドウショッピングをしながら魔道具屋などで欲しい道具をチェックしつつ、街を歩く。
すると、その次にのぞいた雑貨屋では新しい種を発見できた。なんと、黒ジャガというジャガイモの種だ。普通はタネイモから増やすと思うんだが、そこはゲームなのでしかたない。種は500か。買っちゃおう!ジャガイモがあれば肉じゃがも作れるし、今から楽しみだ!
雑貨屋の隣には薬屋があった。売っている物は俺でも作れるポーションなどだが、1つだけ初見のアイテムがある。キュアポーションだ。これはHP回復効果+毒、麻痺の回復も行えるというアイテムだった。ただ、それぞれの効果が小さく、あまり人気はないらしい。
2000Gもしたが、買わないと言う選択肢はなかった。何故って? これは以前見かけたキュアニンジンの素材の1つなのだ。キュアポーションと青ニンジンを品種改良で合成すればキュアニンジンが作れるらしい。
「よし、念願のキュアニンジンが手に入るぞ!」
前回品種改良を試した時と違って、今は様々な作物や素材を持っている。ここでまた品種改良を色々と試すのも面白いかもな。
そんなことを考えながら最後に俺が通りかかったのは、ハーブなどを扱う露店であった。店には塩、胡椒にハーブ類が置かれている。そんな中で目を引いたのは、50Gで売っていたゴロッとした塊の薬味だ。
「お、ニンニクだ。ハーブ扱いなのな」
「そうだよ。料理にも使える薬味さ。1つどうだい?」
「頂くよ。安いし。なあ、ニンニクの種はないのか?」
種があるならぜひ欲しい。ダメ元で聞いてみたんだが――。
「種?そうだな~。お願いを1つ聞いてくれるなら、譲ってあげても良いよ」
やはりこの世界のNPCは色々と融通が利くな! 尋ねてみてよかった。
「やった! それで、どんな事をすればいいんだ?」
「実はお腹がペコペコなんだ。美味しい料理を作って来てよ。それと、僕の店で売っている塩以外の商品を3種類以上使用する事。いいかい?」
面白いお題だな。縛りありの料理作製か。
この店で売っている塩以外の商品となると、胡椒、カモミーレ、バジルル、レッドセージ、ブルーセージ、オレガーノ、ニンニクだな。とりあえず持っていないニンニクだけ購入し、俺は一旦畑に戻ることにした。
「すぐに美味い料理を持ってくるから、待っててくれ」
「期待してるよ」
これは水霊門で手に入れたばかりの食材の出番である。ニンニクを発見したことで、作ってみたい料理が出来たのだ。畑への道中、色々と料理の構想を練っていたら、ふとあることが気になった。
「そう言えばウンディーネって何食べるんだ? 魚介類? それともサクラみたいに食事を必要としないとか?」
「フム~?」
「まあ、それも要検証だな」
色々食べさせてみれば分かるだろう。
「では料理を始めましょう。今日のアシスタントはルフレさん。BGM担当はファウさんでーす」
「フム~」
「ランラララ♪」
リックは戻って来るなり納屋の屋根で日向ぼっこをしている。自由ですな。ファウは某調味料会社様の3分クッキングのテーマ曲を演奏中だ。
「取り出す食材は、水霊門で手に入れた牙大魚の切り身です。まずは軽く塩を振りましょう」
「フム」
「お次はフライパンにオリーブオイルを敷き、この魚を軽くソテーします。軽く焦げ目がついて、良い匂いがしますね~」
「フム~」
「ここに千切ったバジルル、スライスしたニンニク、切った白トマトに、今日ゲットしたばかりのビギニシジミを殻ごといれます。塩、胡椒も忘れずに。最後に白ワインの代わりに葡萄酒を少し注いで準備はオーケー。ルフレさん、このフライパンにお水を入れてください」
「フム~」
ルフレはやっぱりアクアクリエイトが使えたか。しかも俺が生み出す水よりも高品質だ。料理スキルもあるし、むしろルフレに全部任せた方が上手くいくんじゃ……。
「いやいや、まさかね」
「フム?」
「ま、まあ。俺の趣味みたいなものだし、ここは俺がメインで進めさせてもらおう」
水を張ったフライパンを火にかけ、沸騰すれば完成だ。ハーデス特製、アクアパッツァモドキである。アクアパッツァと胸を張って言えないのは、代用食材ばかりだったからだな。
本来だったらバジルルではなくパセリだし、シジミはアサリ、トマトはプチトマトなのだ。お酒も白ワインだし。まあ、それでも出来上がった料理はアクアパッツァとなっているので、成功って事かな。
名称:アクアパッツァ
レア度:3 品質:★4
効果:満腹度を37%回復させる。解毒効果。
解毒の効果が付いた。戦闘終了後に毒を食らったままだったら使ってみるのも良いか? いや、フィールドで食事をしてる余裕があるかどうか・・・・・。そして、安全な場所を探す時間があるなら自然治癒するだろう。あまり意味のある効果ではないかもしれない。
「いや、今は味が大事だ。とりあえず食べてみますか。いただきまーす」
ちょいとお行儀は悪いが、その場で試食だ。
「モグモグ――うん。味は悪くない」
葡萄酒を使ったせいかちょっと甘い気もするが、そこまで気にならないだろう。これは良いものを作ったぞ。
俺が試食をしていると、強烈な視線を感じた。横を見ると、ルフレだ。口の端からタリーッと涎を垂らして、俺の手元のアクアパッツァを見つめている。
「・・・・・」
「フム~」
俺が皿を手に持って動かすと、ルフレの顔が皿を追って動く。右左右左、まるで物理的に皿に視線が固定されているかのように、ルフレの視線は絶対に皿から離れなかった。
「ルフレ、これが欲しいのか?」
「フム!」
「そうか。ほら、食べていいぞ」
「フム~♪」
ウンディーネの主食は魚料理である。まあ、ルフレは釣りスキルがあるから、自分の分は取ってこさせることは可能だろう。ただ、今のところ魚料理のレパートリーは極端に少ない。焼き魚と、アクアパッツァだけだ。これは少し精進せねば。
その後、俺は再度作製したアクアパッツァを露店のおじさんに持って行った。クエストはもちろん達成である。美味い美味いと貪り食っていた。
「ニンニクの種も手に入れたし、畑に戻ろう」
「フムー」
この後は何をしようか。品種改良は畑の作物が収穫できる明日以降じゃないと難しいしな。
畑に戻ってきた俺は、醸造樽を前にルフレと何をどうするか相談していた。
「これで色々と作れるはずなんだが・・・・・。まず一番作りたいのは醤油だな」
「フム」
「次に味噌だ」
あとは魚醤とか? 魚はあるし。
醤油と味噌の作り方を調べてみると、途中まではほとんど同じだ。茹でたソイ豆を潰して、塩水と共に醸造樽に入れる。この後、さらに水を入れれば醤油に、少量の水と食用草を入れれば味噌になるのだ。超アバウトな作り方だな。
多分、リアルの様に米や麦を加えたら品質も上がるのかもしれないが、現在はまだ発見されてないしね。この簡易的な作り方をするしかない。
だが俺にはルフレがついている。俺よりもスキルレベルが高いはずだからな。ルフレにやってもらえば、高品質の物も出来るかも知れなかった。
「ソイ豆はそれなりにある。これを浄化水で茹でればいいか?」
「フム!」
いいらしい。その後、茹であがったソイ豆をルフレの指示に従って少し粒が残るくらいに砕き、醸造樽に入れていく。俺用に買った樽には浄化水、塩を加えて蓋を閉めた。後は毎日1回魔力を込める地味な作業だね。4日後には醤油が出来上がっているはずだ。
因みに、通常の醸造樽は5リットルくらいの大きさだ。小型の物で1リットルである。なので、ソイ豆も結構な量が必要だった。1樽につき10食分は必要だろう。その分、出来る量は多いはずだけどね。
「簡単すぎて不安になるが、これでいいんだな?」
「フム」
「じゃあ、次は味噌だな」
こっちはルフレに任せてみる。俺よりも手際よく豆と食用草を粉々にし、樽に水と共に入れる。食用草は粉末にしなくてよいのかと思ったが、どうやら少し粗いくらいの大きさが良いらしい。
なるほどね~。何でもかんでも粉々にすればいいって訳じゃないのか。勉強になるぜ。
「次は酢だ」
米酢は無理でも、果実から作るフルーツビネガーなら行けると思うんだよね。
「フルーツを使ってビネガーを作る方法は分かるか?」
「フム!」
おお。オルトでお馴染みの、胸をドンと叩く任せとけポーズだ。手持の果実を全て並べてみる。ルフレは買ったばかりの紅葡萄を5つ程手に取った。お酒を造る様にともらったが、この葡萄でビネガーになるらしい。
ルフレは紅葡萄を樽に入れるとおもむろに地面に置く。そして、足に纏っていた靴を装備解除すると、なんと素足で葡萄を潰し始めた。師匠のところでは手で潰せって言われたけど・・・・・。まあルフレは体重も軽いし、地球でもワイン作りの時は足で踏んでたらしい。足の方が良いってことか? まあ、俺はやるつもり無いけど。いくらゲームの中で不潔じゃないとは言ってもねぇ? 自分の素足で潰したワインなんて飲みたくない。
葡萄をあらかた潰し終えたら、そこに浄化水を入れる。この後はさっきのクエストで習った酒の造り方と全く一緒だった。あとは5日放置すれば葡萄酒になるはずだ。いや、酒類用醸造樽を使っているので3日で作れるか。
このやり方で酢も作れるってことは、同じ製造工程でも、醸造期間で違う物が出来る可能性があるってことだね。本当に勉強になる。
だが、ルフレは俺の疑問などそっちのけで、そのまま蓋をすると、指2本を立てた右手を俺に突き出した。
「なんだ? ピースサイン?」
「フム」
「違う? 私の指を見なさい?」
「フム~!」
「それも違うか・・・・・。あ、もしかして2日間かかる?」
「フム!」
正解か。にしても、2日でできるのか? 酒でさえ3日かかるのに。確か酢にするには、もっと長い時間放置しなくてはいけないはずだ。
「なんでそんなに早いんだ? お酒よりも酢の方が早くできるのか?」
「フム」
「違う? やっぱ酢の方が時間かかるよな。じゃあ、ルフレのスキルのおかげ?」
「フム」
「正解ね。発酵は、醸造の時間を短縮してくれるってことか?」
「フム~」
大きく頷くルフレ。発酵は思っていたよりも使えるらしい。下手したら醸造時間が半減するってことだもんな。これは色々と楽しくなってきた!
「なあ、魚醤も作れるか?」
「フム!」
ルフレがまずはビギニウグイを5匹取り上げた。
「そのままでいいのか?」
「フム」
「そこに水と塩ね。え? それだけでいいの? 魚をさばいたりは?」
醸造は準備段階が本当に簡単だな。心配になるがルフレは満足げである。あとは毎日魔力を込めればいいはずだ。
醤油、味噌、酢、魚醤と来て、残った樽はあと1つ。何を作ろうか?
「なあ、何か面白い物作れないか?」
「フム?」
「そうそう。この辺の素材で」
「フム~・・・・・フム!」
「またソイ豆を使うのか?」
味噌も醤油も作ったけど・・・・・。俺が疑問に思っていたら、ルフレは豆を茹で始めた。やっぱり調味料か?
だがルフレは茹であがった豆を潰さず、そのまま豆を醸造樽にぶち込んだ。そして、水を少しだけ入れ、蓋をしてしまう。何が出来上がるんだ? 豆で作る発酵品・・・・・。
「あ! もしかして納豆か!」
「フムー」
ルフレが嬉しそうにコクコクと頷く。納豆か。それはイッチョウに頼まれていたな。ただ、どうしても気になることが1つ。
「樽に臭いとか付かんよな?」
まあ、作ってみたら分かる事か。樽はとりあえず納屋に置いておこう。
「あとやらなきゃいけないのは・・・・・。魚料理だな」
さっき作ったアクアパッツァは美味しかった。魚料理を色々と作ってみたい。その後、俺はルフレと一緒に様々な料理を作っていった。色々な料理を1品ずつ、作りまくってみたのだ。
アユの塩焼き、魔魚のカルパッチョ、魔魚の味噌煮、魔魚の刺身、ウナギのかば焼き、エビフライ、川魚の塩焼き、エビの塩焼き、魚の味噌鍋、小魚の甘露煮。他にも色々だ。いやー、楽しかった。そして造りすぎてしまった。
数日は魚料理を食べることになりそうだね。だが、ただ適当に料理を作ったわけではない。目的があるのだ。
「ルフレ。この中で一番好きなのはどれだ?」
俺は今作った魚料理と、一応料理する前の生魚を並べて、ルフレの前に置いてみた。これらの料理は、ルフレの好物を探るために作り上げたのだ。ルフレをテイムしてから、まだここまで調味料とか豊富でも揃えてもいなかったから焼き魚を主に食べさせていた。でも今日からは違う。アクアパッツァを美味しそうに食べてたから、好物は魚料理だと思うんだよな。
「もしくは、さっき食べたアクアパッツァが好きか?」
「フム~」
料理を前に軽く考え込むルフレ。出来れば魚系。塩焼き辺りを選んでくれたら有り難い。逆にエビフライやアクアパッツァの様に、素材をたくさん使ったり、手間がかかる料理は選んでほしくない。
そう思ってたんだけどね・・・・・。
「フム!」
「それかー」
ルフレが指差したのは、ウナギのかば焼きであった。これはウナギが高いのは勿論、醤油に葡萄酒、茸出汁と、中々手間もかかる。
「その次に好きなのは?」
「フム」
「エビフライね。その次は」
「フム」
「魔魚の切り身で作った味噌煮か」
どうやらメインとなる魚介素材の価値が高く、手間がかかっている方が好みであるらしい。これはルフレの食費は結構高くつきそうだ。―――惜しまないがな!
「フム?」
「いや、何でもない。ほら、食べていいぞ」
「フム~♪」
なんとか魚を手軽に入手する方法はないものかね? まあ、東の町でやりたいことはほぼやったし、あとは食材を色々と料理して、後はこの町の探索でもしようか。その後ジズ戦に向けて新しいスキルを取得しにスクロールを買いに行こう。