ジズを討伐してから早くも一週間が経過しようとしていた。いよいよ明日でNWOが正式サービスして一ヵ月が経ちエルフのイベントが始まる。
「王様、次こそは私も一緒に戦いますからね!」
「藪から棒にどうした」
「だってだって、最初は私の方が色々と王様より強かったのにいつの間にか、私よりも、他のプレイヤーよりもダントツでレベルが高いじゃないですか。レベル52って、現段階でその二番目に高いのが46レベル台ですよ?一体どうプレイしたらレベルがポンポンと上がるんですか」
朝食時に悔し気な燕の言い分に対してそう言われてもなと思ってしまう。
「思うが儘にプレイしていたらそんな感じになってしまったとしか言えないんだよ。コツとか秘訣とか効率のいい方法とか教えて欲しいと言われても、自分自身でもわからないから教えようもないわ」
「むむむ・・・・・」
「レッサーベヒモスとレッサージズと戦ってみたらどうだ?あれらも最近の掲示板ではまだ単独でもパーティでもチームでも倒せないって書き込まれているし」
「勿論いつかそうしますよ。はぁ~・・・・・一週間は長かったなぁ~。暇潰しに生産してましたけど、大変ですよ。あっという間に時間が過ぎて暇じゃないからいいんですが」
いいことじゃないか。それでも経験値が入るんだから無駄じゃないさ。ズズズ・・・・・うん、赤味噌は美味しいな。
「エルフのイベントもいよいよ明日ですねぇ」
「今日の夜には花見をするがな」
「はい、楽しみです。吉井君達も誘っているんで?」
「一応はな。直江大和達に俺の顏と言動でバレる可能性があるが、何とかしよう」
「覚えているんですか?」
多分な。昔と変わりない言動をしているから、京や百代辺りが気付きそうで厄介なんだよ。
「さて、学校が終わったら早めの夕食にしてログインでもするかね」
「と言いつつ、王様は自分の分身体にログインしてもらって代わりにゲームしてもらうのでしょ?それ、ズルいです」
「俺の代わりに分身体を学校に行かせてゲーム三昧してもいいんだぞ?」
「やっぱり、今のままでいいです」
分かればよろしい。それじゃ学校に行きますか。
・・・・・。・・・・・。・・・・・。
・・・・・。・・・・・。
・・・・・数時間後。
学校から戻った俺達は早めの夕食を終え、直ぐにログインをした。分身体に作業を続けてくれたおかげで色々と豊かになった。花見が始まる21時まではのんびりしていようかな、10分前だが。
「そう言えば魔王と交流とか、全然会えないのにどうやって交流できるんだ?」
畑の中でそう疑問を抱き小首を傾げる。まぁ、向こうから現れるのを待つしかないか。
「サイナ、この畑中に淡い光を発する機械のアイテムを用意できるか?」
「可能です。実行しますか?」
「ああ、頼む」
サイナの周囲に小さな光が数多く浮かび上がって暗い畑が明るくなって足元もより見えやすくなった。
「おお、まるで蛍だ。あの桜もライトアップしてくれるか?」
俺の要望に桜の木が発光しているように見える感じになった。見ていても目が痛くない光量で文字通り夜桜の完成だ。
「白銀さーん!」
畑の出入り口から声が聞こえる。足を運べばファーマーのノーフ達が勢揃いして立っていた。
「こんばんわ。もう来たのか?」
「時間まで待っていたんだけど、白銀さんの畑が光ったもんで来ちゃいました」
「まだ始まってもいないが、先に入るか?」
「お邪魔します。椅子やテーブルにゴザの設置もしたいんで」
ノーフ達を先に畑の中へフレンド登録しながら招き、皆が座れるように設け始めてくれた。
「初めて入った白銀さんの畑。すげー・・・・・」
「苺がこんなに実っている!」
「ネネネ、絶対に食べちゃダメだからね」
「うおっ!でっかい銀色の狼がいる!?」
「白銀さん。どの辺りに置きます?」
やんややんやと、リヴェリアとサイナも手伝う賑やかさを醸し出す俺達は5分程で準備を整えていたら新しい参加者が顔を出してきた。
「やっほー。来たよハーデス」
「随分と明るい畑だな。何かが光ってるのか?」
「俺達以外にもいるな」
「誘ってくれてありがとう」
ペインとドレッド、ドラグにフレデリカが畑に入ってきた。
「前線の有名な攻略組も来たか!」
「ということは?」
そのまさかだな。夜間にも関わらず白馬を乗って現れた騎士のジークフリートや村の第一回のイベントで知り合ったコクテンやスケガワ、ふーかにマルカ。タラリアのヘルメス、それから見知らぬプレイヤーが数多く花見に参加しに来た。
「久しぶりだね」
「久しぶりだ。そっちは変わりないようだな。息災でよかった」
「花見の誘いをされたら是が非でも行きたいさ」
握手を交わすジークフリートと軽く言葉を交わし、ヘルメス達からの挨拶を返していく。
「白銀さん!何ですかこれっ、見たことのない、それも鑑定したらスカイ・ストロベリーって!」
「デザートに使われる苺の方だ。甘いぞ?」
「あ、後でお話がありますっ・・・・・!」
どーぞどーぞ。料理に関する情報があるなら譲る所存だ。たっぷりと話し合おうじゃないか。
「オルト達。お客さん達を座らせる場所に案内してやってくれ」
「ムムー」
「―――♪」
「クママ」
先導したり、手を繋いだりして椅子やゴザがある方へ案内するオルト達にふーか達は黄色い声をあげた。その後すぐに。
「来たよー、ハーデス君」
「うわぁ。桜が光ってるわ。綺麗な夜桜の演出を見ながら花見をするなんていいわね」
「さ、誘ってくれてありがとうね?ひ、人がいっぱい・・・・・」
イッチョウ、イズ、セレーネが来て。
「おう坊主。誘ってくれてありがとうな。酒を持ってきてやったぜ。花見といやぁ酒だろ酒!」
「師匠。羽目を外しすぎるなよ」
「・・・・・感謝する」
NPCのヘパーイストス、ヴェルフ、ユーミルの鍛冶師組が来てくれた。
「この中じゃあ久しぶりだな。ハーデス」
「来たよハーデス」
「・・・・・コクコク」
「おお、綺麗な桜じゃな」
本当に久しぶりだろこいつらラック達は!最初の頃よりかなりレベルを上げているようで、それぞれの立派な装備をしているじゃないか。
「凄いですねハーデス君の畑」
「畑の作業って凄く大変だって聞いてるけど、なんで畑に桜や木が育ってるのかしら?」
「・・・・・」
・・・・・ちょっと待てよおい。
「ユージオ。こい」
「あ?なんだ、よっ!?」
ユージオの首に腕を回して話が聞こえない離れた場所へ連れて問いただす。
「おい、ヒルデガルドのあれは何だ。明らかにリアルの体型とは違和感を感じさせてくれるんだが」
「あ、あー・・・・・お前はヒルデガルドと今日初めて会うんだったんだな。でもま、気にするなって。ここはゲームの中なんだからよ」
「ゲームの中だからこそ、ログアウトした後の複雑極まりない気持ちになるというのに。あれか、あいつの自虐ネタを見せられてるのか?」
「知るか!本人に聞けよ!」
この中で聞けるかっ!
「それと、お前の嫁はなんて名前にしてるのかわかる?」
「誰が嫁だっ!?断じてそんな事実はないからなっ!!・・・・・あいつらのキャラクターの名前はそのまんまだ」
「なるほど。で、会ったのか?俺は会っていないんだが」
「今日来る」
あ、そうなのね。厳重に注意しないと。
「片割れのブレーキはしっかりしてくれよ。ここで問題を起こされちゃせっかくの花見の気分が台無しだ」
「わかってる」
「できなかったら・・・・・お前とお前の家の料理を崩壊させるもんを送ってやる」
「絶対に迷惑をかけさせねぇっ!」
信じるからな?さて、お次は・・・・・。
「ハーデス。遊びに来たぞー」
直江大和達、風間ファミリーが来たか。
「いらっしゃい。よく来てくれた」
「おおー、それがハーデスのキャラクター何だね!」
赤みがかかった茶髪のポニーテールの少女が朗らかに話しかけて来た。
「お前等のキャラの名前は何だ?」
「アタシはカズコ!」
「俺様はナイスガイだぜ!」
「俺は風の如く自由に生きる男だから風人!」
「僕はモロだよ。変な名前にするより呼び慣れている名前にしたんだ」
「あの人を愛する女として心を籠めて決めました。京・D・ブルー!」
「自分はクリスにした。別の名前にするほどでもないからな」
「直江兼続」
・・・・最後、名前負けしないようにな。
「その子は?」
「ハーデスが知らなくて当然だ。同じ寮に住んでいる一年の後輩のまゆっちだ。本名はリアルで教えるな」
「は、初めましてまゆっちです!よ、よろしくお願いします!」
長い黒髪を後ろに二つ結っている武器は刀の、侍風か?物凄くカチコチな表情で挨拶をしてくる。
「おう、よろしくな。それじゃ、畑の中に―――」
「おいコラ、最後の大トリを忘れるんじゃない」
ずいっと顔を近づけ主張してくる黒の長髪、赤い瞳の女プレイヤー。装備が見当たらないが、どんな職業なんだ?
「直江、説明。誰だ」
「あー、名前はカワカミ—100代だ」
「OK、理解した。理解してしまったわ」
「んー?何を理解したのかお姉さんに教えて欲しいなー?その馬鹿だろこいつって顔で私の何を理解したのかなーんー?」
―――無視。
「・・・・・こんばんわ」
「こんばんわ・・・・・」
畑の出入り口で待っていると姉妹の少女達が訪ねて来た。
「お、いらっしゃい。えーと、本当に名前そのまんま何だな。翔子と翔花」
「ユージオはいる・・・・・?」
「先に来ているが、俺とユージオが花見している間は女絡みのことで絶対に問題は起こさないでくれ。我慢出来たらリアルで一緒に買い物やら映画館やら行こう。ユージオも連れてダブルデートだ」
「・・・・・わかりました」
「わかりました・・・・・」
よし、約束は取り付けた。これで余計な諍いが起きないだろう・・・・・多分。
「因みに二人は何の職業だ?」
「・・・・・魔法使い」
「僧侶・・・・・ユーコとアイコは剣士と重戦士の斧使い」
「ユーコとアイコ?」
一瞬誰だ?と思ったが、翔子達の後ろから追いかけてくるようにこっちに近づいてくる二つの影。
「えっと、花見が出来る畑の場所ってここでいいのよね?って、翔子と翔花!」
「いたいた。もう、畑で花見をするってだけ言われてもわからないから探しちゃったじゃん」
なるほど、この二人のことだったか。軽装で動きやすい防具と剣を装備しているヒデルと瓜二つの少女。背中に身の丈を超える斧、というより三日月形の斧を持つハルバードってところか。
「・・・・・あなたが、ハーデス?」
「そうだが何か?」
「いえ、何でもないわ・・・・・私達も参加できるのよね?」
勿論できると、四人もフレンド登録して畑の中に招き入れた後。
「よう、花見の場所はここか?」
「あ、待ってましたよ。どうぞこちらへ」
最後にやってきたのはスコップ、ライバ、ピスコらNPCさんたちである。時間ピッタリに来る当たり、さすがAIだな。ただ、見たことが無い女性と男性を1人ずつ伴っている。
「そちらの方々は?」
尋ねると、スコップが2人を紹介してくれた。
「こっちが俺の娘でバルゴ。こっちがライバの息子でリオンだ」
「よろしくお願いします」
「こんにちは」
まあ、今更1人2人増えたところで大してかわりはない。俺は2人と握手をしつつ、桜の前の一番いい場所に案内した。何せ今日の主賓だからな。
「ゴザとテーブルがありますがどっちがいいですか?」
「こういう時は、地べたに直接座るに限るだろう」
「そうだぜ」
「ゴザがいいな」
スコップたちが口々に言う。皆さん分かってるね。俺は彼らを桜の樹の目の前に案内すると、プレイヤーたちに声をかけた。
「えー、皆さん!お客さんも到着されましたので、お花見を始めたいと思います!」
俺の言葉を聞いたプレイヤーたちが、一斉に納屋の前に集まって来た。乾杯のために飲み物を確保しておくように言っておいたおかげで、全員手にコップを持っているな。
50人以上もいるから壮観だ。というか、よくうちの畑に入ったな。まずはヘルメスからの注意事項だ。ヘルメスが、最初に注意をしっかりしておく方が良いと言って、その役を買って出てくれたのである。
皆の視線がヘルメスに集中するが、堂々とした態度を崩さない。大きなギルドのサブマスをやっているだけあるな。こういった事に慣れているのかもしれない。
「最初に注意事項を。スクショを撮るのは構いませんが、許可を得ずに掲示板にアップしたりしないように!こんなことでGMコールされるのは嫌でしょう? 特にモンスのスクショに関しては、主の許可を忘れないこと」
「「「はーい」」」
「場所を提供してくれたハーデスくんに感謝する事!畑への悪戯は厳禁です!」
「「「はーい」」」
「あと、酒の席だと言っても当然セクハラは禁止よ。何人か危なそうなのがいるけど――」
何人かと言いつつ、ヘルメスの視線はスケガワともう一人の見知らぬプレイヤーに向いていた。確か、オレインだったか?
「失敬な!セクハラなんかするか!」
「そうだそうだ!」
2人も自分たちが注意されたと分かったのか、抗議の声を上げる。だが、ヘルメスは冷静だった。
「言っておくけど、直接触ったりしなくても、嫌がる相手に下ネタを言ったりするのもセクハラだから? エロについて熱く語るとか。女性型モンスの造形について意見を求めるとかも、人によってはアウトよ?」
「・・・・・はい」
「わかりました・・・・・」
こいつら分かってなかったか。最初に注意できてよかった。
「では、ハーデス君、後はよろしく」
バトンをされて皆の前で高々とコップを掲げた。
「今回の花見は明日のイベントの前夜祭だ!今夜は夜桜を楽しみながら飲もう!食べよう!かんぱーい!」
「「「「「かんぱーい!」」」」」
俺の乾杯の言葉に続いて、皆が同時に叫ぶ。コップを打ち鳴らし合うコチンという音が響き、続いて「くはー!」という歓声が聞こえた。
「うめー! なんだこの酒!」
「ジュースも最高!」
「ええ? この世界のジュースってこんなにおいしいの?」
「し、知らなかった・・・・・」
「この酒うまー!これビールの味に似ている!」
続いて全員の手が料理に延びる。
「おいおい、この串焼き、醤油味じゃねーか!」
「こ、このキャベツに味噌を付けただけのつまみが最高!」
「このクッキーなんなの! 携帯食と全然違う!」
「ピ、ピザだ! 噂のピザがある!」
おおむね好評な様だ。半分ほどを作ったふーかたちも、嬉しそうに見ている。ただ確保しないと自分たちの食べる分が無くなっちゃうよ?
「ああ、皆さん。こちらをどうぞ」
「お、美味そうだな」
「いやー、いい宴だな」
「おら師匠。今日はじゃんじゃん飲むぞ!」
「・・・・・ああ。お前も楽しめ」
「うっす!」
煩く思っていないかと心配だったが、NPCにもこの宴会は好評だったらしい。渡した焼き鳥を美味しそうに食べてくれている。
「美味い酒に、美味い飯! そして美しい夜桜! これ以上の花見はないぞ!」
「そうそう」
スコップの叫び声が聞こえたのだろう。飯に夢中だった皆が、改めて満開の桜の木を見上げた。そして、一瞬の静寂とともに、「ほ~っ」という感嘆のため息が漏れる。
「いやー、ゲームの中の夜の桜も乙な物だよな。ライトアップされていて綺麗だー」
「確かに綺麗だわ」
「俺、来年の春はリアルで花見しよう」
やっぱみんな日本人だよな。まあ、この先プレイヤーが増えて外人プレイヤーが参入して来たら、また違う感動があるのかもしれないけど。
ただ、静かに桜を眺めていたのもほんの数分のことであった。やはり人が集まって宴会をしていれば、静かになどしていられないのだろう。
酒を飲みながら真面目な攻略論を交わし合う者たち。モンスを熱い目で見つめる集団。料理についてふーかたちに質問する者たちなど、どこもかしこも仲が良くて、主催者としては嬉しい限りだ。
何となくヘパーイストスのところに行くと、俺に気付いて豪快な腕に掴まれ引きずり込まれた。
「坊主、今夜はありがとうよ!思いっきり楽しませてもらうぜ!」
「是非とも楽しんでくれ。それと古匠に至らないのかヘパーイストス」
「いつかは成ってみせる。その為にはお前の協力が必要だ。また頼めれるか」
すっかり俺のお抱えの鍛冶師となってしまったヘパーイストスからの新しいクエスト・・・・・『E✕クエスト 古代の調査』。あれ、俺も考古学者の職業解放ができるのか?ふむ、調査対象の数が指定されているな・・・・・10だけ?そんで、俺はいつの間にかその条件を満たしていたみたいで既にクリアしてる証の文字が青い・・・・・。
「・・・・・」
スッと青い文字のクエストのパネルに押すと―――。
『職業「考古学者」を開放しました』
というアナウンスが流れた。ヘパーイストスを見ると・・・・・。
「・・・・・未熟者もようやく次の領域に片足を踏んだか」
「・・・・・おう、古匠に至る条件はなんだ」
ヘパーイストスが真摯な眼差しで酒を飲むユーミルを見つめる。俺もヴェルフも興味津々で二人の会話に聞き耳を立てる。
「・・・・・新しい伝説を己の腕で作る、そのための素材を2つ手に入れる」
「そいつはぁ・・・・・どこにあるってんだ」
その質問に対してユーミルが何故かこっちに視線を向けて来た。
「・・・・・既に持っているな」
「なっ」
「俺が?えーと・・・・・」
関係ありそうなものと言えば、『大地の生命の源』『ラヴァ・ゴーレムの溶鉱炉』ぐらいだぞ。
「・・・・・それだ」
出した『大地の生命の源』と『ラヴァ・ゴーレムの溶鉱炉』を指すユーミル。
「・・・・・古代の物を作るために、古匠用の工房が必要不可欠。生半可な炎で伝説を作ることは不可能」
NPCの場合は設備をグレートアップするためのアイテムが必要だということか。じゃあ、俺達プレイヤーの場合は?
「・・・・・古匠に至りたいなら環境から整えろ。話はそれからだ」
「・・・・・坊主、それを俺にくれねぇか」
「その前に、ヘパーイストスに預けたもんからだ」
じゃなきゃ渡さんと付け加えると、無言でヴェルフに視線を飛ばし師匠の視線の意図を読み取って見た時にはなかった何かを包んでいる布を俺の前に置いた。
「一から作り直し、更に作ったあの武器を重ね強化した。・・・・・これで問題ねぇだろ」
布を取り払って包まれていた物が姿を現す。
『簒奪狼の月蝕【ハティ】Ⅹ』『簒奪狼の日蝕【スコル】Ⅹ』 レア度:10 品質:★10
【STR+20】【DEX+35】【AGI+55】
スキル【狩人】 スキル【対牙】 スキル【対狼】 スキル【簒奪者】
【自己強化】
更なる強化を施された対のフェンリルの命と魔力の残滓が込められたそれは、それぞれ太陽と月を捕らえようと駆け追い続ける。
【狩人】自身よりレベルの低い対象と戦闘する場合、【一撃必殺】のスキル効果が常時発動する。
【対狼】格上との戦闘時【VIT】半減。【AGI】と【STR】が+50増加。対象の装備の耐久値を毎5%削る。
【対牙】『簒奪狼の月蝕【ハティ】』『簒奪狼の日蝕【スコル】』が揃わなければ発動できないスキル。対象問わずこの装備は倒せば倒すほど(+15)より強力になる。
【自己強化】倒すたびに耐久値が上昇する。
必要ステータス【STR 100】【DEX 100】【AGI 100】
名前も(必要)ステータスも大きく変化してえっぐいことになっている。それと新しいスキルは何だ?
【簒奪者】
この装備とプレイヤーの【STR】の合計数値分のHPとMPをドレインし、装備に蓄えることが可能で自他にHPとMPを還元することが出来る。容量オーバーの魔力は魔力結晶として体内に蓄えられ体力はHPに蓄積する。
ええ~・・・・・ますます凶悪に凶化されていないですかこれぇ・・・・・。作り直す前の狼月と比べた上でこの武器のステータスに唖然一色ものだ。因みに【一撃必殺】の効果は【不屈の守護者】のような致死ダメージを無効化にするスキルを無効化、【VIT】の影響を無視する【STR】依存の攻撃が可能にする貫通攻撃スキルだ。いや、これ、対防御力特化のプレイヤーのキラー武器だろ。
「・・・・・俺に任せればこの数倍の出来上がりを作ってみせた」
「けっ!最上位の鍛冶師の手に掛かればそうだろうよ!で、あんたはできたんだろうな」
「・・・・・無論だ」
ユーミルも最初に見た時はなかったのにどこから出したのか分からない代物を立ち上がって畑の地面に突き付けて来た。大剣と六つの刃が備わった大盾を。磨かれた風化していた物が、古匠のユーミルの手によって完全に生まれ変わったと言っても過言じゃない。剣も盾も赫赫としたマグマのような色で塗り潰されたように真っ赤。というかマグマを切り取って形にした感じで、地面が赤熱してて煙出ていませんか?土が溶けて沈んでいないか?
「・・・・・俺でも素手では持てぬ。これは大地の生命の源そのもの故」
マグマに耐性がある黒い手袋を嵌めている両手を見下ろすユーミル。地面の底に沈む前に掴んで持ち上げる。
「・・・・・大剣の銘はアルゴ・ウェスタ。大盾斧の銘はアグニ=ラーヴァテイン。この世界の原始の素材で作った相応しい名」
『アルゴ・ウェスタⅩⅩ』
【MP +200】
【STR +20】
【VIT +15】
【破壊不可】スキルスロット空欄
スキル【溶断】 スキル【溶結】
『アグニ=ラーヴァテインⅩⅩ』
【HP +300】
【STR +10】
【VIT +30】
【破壊不可】スキルスロット空欄
スキル【マグマオーシャン】 スキル【溶結】 スキル【溶熱】
「?????」
マグマ、オーシャン?マグマの海?また何かパーティには不向きなスキルを手に入れたな。しかも溶結って・・・・・。
「ユーミル。【溶結】ってのは?」
「・・・・・文字通り溶かして結ぶ。対象問わず全て溶かし原始の装備に直結する」
「直結?」
「・・・・・力の全てを原始の装備の糧にする」
「それ、ぶっちゃけ言うとアルゴ・ウェスタとアグニ=ラーヴァテインが無尽蔵・無期限に強化するものだよな?」
説明文にもそう記されているし!ただ、そのスキルにはMP消費しないと使えないが、それでもこの装備は強すぎるだろ!
「ってことは・・・・ユニーク装備も【溶結】することが出来るのか?」
「・・・・・アルゴ・ウェスタ、アグニ=ラーヴァテインは伝説の武器と化した」
「どうなるかは分からないってことか。―――なら、試してやろうじゃん」
新月で試してみるか。アグニ=ラーヴァテインを仕舞ってアルゴ・ウェスタと新月を持ってMPを消費する。
「【溶結】」
アルゴ・ウェスタの剣身が脈を打った。剣身からドロリと泥のようにマグマが蠢いた矢先、指定した新月に向かって伸びて包み込んだ。そのまま剣身に引きずり込まれ―――ることなく新月がマグマから抜け落ちた。
「ダメみたいだな」
「・・・・・これを試してみろ」
『原始の息吹』
【HP +200】
飾り付けが全くない無骨な腕輪を出す。だが、鮮やかなオレンジ色がマグマのように輝きを発し、装飾が施されていなくてもこれだけで十分な逸品だ。
「いいのか?」
「・・・・・余った物だ。使え」
「お言葉に甘えさせてもらう。【溶結】」
剣身からマグマが飛び出して腕輪を呑み込んで引きずり込む。今度は・・・完全に剣身から零れ落ちず溶けて一体化したのだろう。ステータスを見ると【HP0 +200】に加算されていた
「ユニーク装備以外なら問題なく【溶結】できるみたいだ」
「・・・・・確と見た。古匠より最上位の鍛冶師の頂に辿り着いた。・・・・・感謝する」
EXクエスト『神の頂に挑戦する者』の達成のパネルが表示された。報酬は・・・・・ああ、アルゴ・ウェスタとアグニ=ラーヴァテインが報酬か。その他は称号:古匠の助手、鍛冶職業の最上位職の古匠の転職に古匠の工房・・・・・。
「・・・・・古匠の工房?」
「・・・・・俺の工房の事だ。神匠に至った俺は、ドワルティアの城の工房ではなければ俺の腕で鍛える装備が創れない。好きに使うといい」
「好きに使えって、俺鍛冶師でもないんだが?」
「・・・・・鍛冶師になればいい」
サラッと言うなぁ・・・・・。
「ヘパーイストスに継承させなくていいのかよ。弟子なのに」
「・・・・・すでに己の工房を有している。鍛冶師に工房は二つもいらん」
あ、工房の有無で報酬が違うのか。鍛冶師でなくとも工房を貰えるとは。
「俺が鍛冶師だったら工房以外何だった?」
「・・・・・神匠の弟子にするつもりだ。お前は一目見た時から・・・・・そこの未熟者と同様に腕のいい鍛冶師になると見定めていた」
「だってよ、ヘパーイストス。お前、腕のいい鍛冶師になれると見抜かれていたらしいぞ?未熟者未熟者と言われようと期待されているんだな。よかったじゃん」
「う、うるせっ!!必ず俺も神匠になってクソッタレ師匠を超えるから、そんなこと言われても嬉しくねぇっ!!」
「・・・・・骨は拾ってやる」
どういう意味だそれはぁっ!とユーミルに怒鳴るヘパーイストス。ヴェルフと一緒に顔を見合わせて苦笑いする。
「お前も将来ああなるのか?」
「似るぐらいは成るかもしれないな。なぁ、俺のことも手伝ってくれるか?」
「お前がどうしてもって時になったらな」
初代から三代目の鍛冶師に頼られたプレイヤーは俺一人だけだろうな。まぁ、悪くはないな。
ポンポン。
「ん?」
肩を触れてくる誰かに振り返ると、セレーネといい笑顔のイズと花見に参加している大半のプレイヤーがこっちにいた。
「ねぇ、花見をしているのにどうして普通に別のクエストを達成しちゃっているのかな?」
「色々と、聞き流せない話が聞こえたよ?特にその装備について話が」
「これはもうさ、ハーデス君から色々と吐かせるべきなんじゃないかな?」
「ふ、ふふふっ・・・・・ねぇ、どれだけ情報を抱えているのかこの際全部スッキリしない?今夜は花見だし無礼講でいいんだよね?」
え・・・・・なんだお前等?待て俺を引きずって椅子に座らせて囲むのはなんでだ?取り調べ?待てこのカツ丼は?定番でしょ?何のだよ。
「さぁさぁ、私達の知らない情報を教えなさい」
「どこからどこまでだよ?」
「全部!」
「じゃあヤだね。そもそも無理矢理聞き出そうとする連中に教える情報は何一つない!ある種のプライバシー侵害だ!」
そっぽ向く俺に対して、それでも聞きたい、教えてと願を飛ばしてくる面々に鋭い目つきで睨み返す。
「―――どうしても聞き出そう、知ろう、聞き耳を立てたり盗み聞きをしようとする連中なら」
フレンド登録リストを展開しながら断言する。
「今この場でここにいる全員のフレンドを解消して畑から追い出す」
『―――っ!?』
「そんでファーマーのノーフ達には今後一切の新発見の農業に関する情報やアイテムの提供はしない」
『―――っ!?』
「それでもいいならこのまま続けてもいいぞ?一生許さないし話しかけても無視する。ああ、イッチョウ達の場合はリアルでも存在がいない扱いにするからそのつもりでな?」
『―――っ!?』
「さて、誰からフレンド解消しようかなー。イズから?ヘルメスか?それともイッチョウ?他の奴らから先に十秒ごと消して―――いや、全員選択してから一気に消去した方が手っ取り早いか」
数回操作して『消去しますか?』という表示のパネルにYESとNOの選択が浮かび、YESを押そうとすると。
『すみませんでしたぁあああああああああああああっ!!!』
全員、見ていて清々しい土下座を披露してくださいました。
「ふん、されたくなかったら最初からしなきゃいいんだよお前等。いいな?」
『はいっ!』
『もう二度と迷惑なるようなことは一生しません!』
『お許しください、白銀さん!』
「しばらくは許さん。反省しろ」
orzと花見なのにお通や状態になったプレイヤーの面々。
「うわ、凄い落ち込みよう・・・・・」
「自業自得だろ」
「だな」
「これで反省して改めて接し方を気を付ければいいさ」
事情聴取に参加しなかったペイン達や他のプレイヤー達からの視線が集まる中、納屋の扉がバタンと開く。オルトだった。
「オルト、納屋なんかでどうした?」
「ムム!」
「おいおい、引っ張るなって。にしても慌ててるな」
「ムッムー!」
俺のローブの裾をグイグイ引っ張るオルト。まるでローブを剥ぎ取ろうとしてるかのような力強さである。何がしたいんだ? いや、待てよ。この反応、クママの卵が孵化する直前にも見たことがある。
「もしかして」
俺は納屋に入り込む。そして、孵卵器を見て確信した。
「ひ、ヒビが!」
やはりそうだった。孵卵器にセットしてある土竜の卵にひびが入っていたのだ。元々、オルトの行動に注目が集まっていたのだろう。そこに俺の叫び声だ。周囲の人間を集めるには十分だった。
「何々?」
「なんかあったの?」
「あ、あれ見て!」
納屋の入り口や窓から、皆がこちらを覗いている。うーむ、全員集まって来たんじゃないか? 皆が納屋を見ようとして、押し合いへし合いが凄い。これ、放っておいたら喧嘩とか始まるんじゃないか?
「ど、どうしよう。すっごい騒ぎに!」
「ムー」
「無理やりにでも解散させるか? いや、待て、孵卵器を外に出せばいいのか? 皆、これが見たいんだし」
そもそも、孵卵器は納屋の中に置いておかなくてもいいはずだった。単に、俺が気分の問題で納屋に設置しているだけで。
「問題は動かせるかだけど……よし、動かせるな」
「ムム!」
オルトが先導してくれた。身振りで野次馬と化した花見の参加者たちをどかして、道を作ってくれる。オルトにどけと言われて、どかない参加者もいない。慌てて左右に割れて行く。
「はいはい、どいてくださーい」
「ムーム!」
とりあえず孵卵器を桜の前に置く。ここなら皆も見えるだろう。それを見たイワンが、興味津々の様子で聞いて来る。
「あの、白銀さん、それは?」
「イベントの報酬でもらったモグラの卵だな」
そう答えた瞬間だった。テイマーたちからどよめきが起きる。
「ま、まじか! あれを手に入れていた奴がいたとは!」
「さすが白銀さん。斜め上を行く」
「でも、白銀さんの卵ってことは、竜の目はなくなったわね」
「なんで?」
「だって、白銀さんよ?」
「なるほど。絶対に可愛いはずだもんな」
どうやら土竜の卵が珍しいみたいだ。考えてみたら、最高ポイントだし、俺以外に入手したプレイヤーがいないのかもしれない。
あと、何人かのテイマーが駆け出していくのが見えた。多分、俺と同じでイベント卵がまだ孵化してなかったプレイヤーたちだろう。確認しに行ったに違いない。
「白銀さん! 私もいくね!」
「俺も!」
フレンド登録したテイマーのアメリア、オイレン、イワン、ウルスラもか。まあ、テイマーにとっては一大事だから仕方ないけど、参加者が減るな。
そんなことを考えていたんだが、それは杞憂であった。皆、自分の孵卵器を抱えて戻って来たのだ。あっと言う間に納屋の前に10以上の孵卵器が並ぶこととなる。
「それにしても、白銀さんの孵卵器凄いね。なんか緑色してるし」
「ああ風属性付加戦闘技能孵卵器だな」
「名前なが! っていうか、それってもしかして属性結晶使う奴か?」
ウルスラもオイレンも何故か絶句している。いや、モンスターはテイマーにとって一番重要なんだから、最高の素材を使うのは当たり前だろう? まあ、俺も最初は悩んだから、気持ちは分かるけど。
「羨ましいぜ」
「でも、精霊門のおかげで属性結晶が少しは出回るだろうし、きっとチャンスは来るわよ」
「だな」
頑張ってくれ。現状だと、土結晶が一番使いやすいだろう。
「孵化にはもう少し時間がかかるだろうし、お花見に戻りましょう?」
「ま、そうだな」
ただ、皆の卵が何なのか話を聞いていたら、あっという間だった。最初に孵化を迎えたのは、オイレンの蜜熊の卵である。彼らはハニーベアと予想しているらしい。まあ、これはハニーベアだろうな。
そして、卵からは予想通りにハニーベアが生まれたのだった。「クマ?」と円らな瞳で周囲を見回すハニーベアに、見守っている周囲のプレイヤーたちから「きゃー!」とか「ほー」と言った様々な声が上がる。一番多いのは黄色い悲鳴だったけどね。さっそくオイレンが抱きかかえているな。
その後に孵化を迎えたのは、アメリアの卵だ。なんと、俺が最後まで迷った風狼の卵であるという。
「キャン!」
「ちっさ」
勇壮な巨狼を想像していたせいで、思わず呟いてしまった。現れたのは狼というか、ちっさい子犬の様なモンスターであった。緑色の体毛に、白い毛で模様が入っている。
「かーわーいーいー」
「キャウン?」
アメリアが喜んでいるからいいけど。鑑定してみると、確かにリトル・エア・ウルフという種族名になっていた。これが風狼に間違いないだろう。
「能力はどうなんだ?」
「うん! 風魔術があるね! あと、ダッシュスキルがあるみたい!」
基本はワイルドドッグの上位互換の様な能力であるらしい。だが、そこに魔術の要素があるようだ。ダッシュは短時間移動力を上昇させる技だったはずなので、速さも期待できそうだった。
ステータスを皆で確認する。この小ささで、基礎能力はワイルドドッグより上か。進化したらエア・ウルフになるんだろうが、かなり強くなりそうだな。ただ、俺の土竜の卵はこのエア・ウルフよりも高ポイントだった。きっともっと強いに違いない。
その後、皆の卵が次々と孵っていくな。未見のモンスばかりなので、見ているだけでも面白い。そして、俺の卵が孵ったのは、最後の最後だった。
残りは俺の孵卵器だけとなり、皆の視線が全て集中する中、卵のヒビが一周し、孵卵器が光り輝く。
「きたきた!」
「何が生まれるんだろうな!」
「そりゃあ、なにかモフモフでしょ!」
「可愛い子にきまってる!」
「可愛いモグラか。想像できないな」
「始めっからモグラ狙いだったんですか?」
当然だろ?