光が収まった時、桜の樹の前には1匹の茶色いモンスターが立っていた。大きさは120センチくらい。手には鋭い爪を備え、どんな相手も一撃で倒せそうだ。腕も中々逞しいし、面構えもふてぶてしい。
周囲を見回すその様子からは、怯えや困惑は一切なかった。生まれながらにして、もう一人前の風格があった。
「カッコイイな!」
そう、凄く格好いい。カッコイイ――モグラだ。茶色いモフモフの毛を備えた、二足歩行のモグラであった。
「カッコイイナ」
頭には「日光上等」と書かれた黄色い作業用ヘルメットを被り、目の部分が小さくて丸いサングラスを鼻頭に乗せている。さらには紺色のオーバーオールに、背中にはでっかいツルハシを背負っていた。アメリカの作業員スタイルってやつだろうか?
「やっぱり! さすが白銀さん!」
「期待を裏切らないな!」
「誰だ、ミミズとか言ってたやつは!」
「モ、モグラもいいかも。あの尖った鼻を触りたい」
周りのテイマーたちが何やら騒いでいるが、ジーと見ている俺の耳には入ってこない。
「へぇ、このゲームのモグラはこんな感じか」
「モグ?」
「はいモグラ決定!」
てか、モグラが「モグ」とは鳴かないだろう!というか、このモグラはゴツイ爪の生えた指で、器用にサングラスの中央をクイッと上げて、妙にニヒルな笑いを浮かべている。そのサングラス、外せる?
「なぁ、そのサングラスを取ってくれるか?こう、ダンディーみたいに」
自分でも何言ってんだと思うが、凄腕のスナイパーの男を思い出したのでその再現をしてもらいたくなったんだ。モグラは俺の要求に、ゆっくりと外す仕草をした。グラサンをかけているので気付かなかったが、近くで見つめ合うと意外と目が円らだな。少し潤んだ大き目の丸い瞳は、かなりの破壊力があった。装備を全部外したら、かなり可愛いモグラさんが現れるんじゃなかろうか?
「か、かわっ!!」
「おおー!カッコいいと可愛さを兼ね備えたモンスターかよ!最強か!」
周囲のギャラリーが更に騒ぎ立てた。モグラの前にしゃがみ込んで目線を合わせると、俺は手をちょっと前にかざした。
「これからよろしく頼む。相棒」
「モグモ」
サングラスをつけ直して片手を腰にあてながらかざす俺の手に鋭い爪を備えた手で叩いてハイタッチしてくれた。やっぱニヒルだわ~。タバコとか似あいそうだ。今までうちにいなかったタイプだな。
それにモフモフだ。また新たなモフモフが増えたのは嬉しくもある。頭にはヘルメットを被っているので、その少し下あたりを撫でてみる。
「おお、いい毛触りだ」
「モグ」
いわゆる短毛なんだが、凄く柔らかい。それでいて密度も高いので、フワフワだった。産毛で作ったフェルトがあったらこんな感じかもしれないな。とにかく、リックともクママとも違う、新たなモフモフだった。
「さて、ステータスは」
名前:未定 種族:ドリモール Lv1
契約者:死神ハーデス
HP30/30 MP20/20
【STR 11】11
【VIT 10】
【AGI 4】
【DEX 10】
【INT 5】
スキル【追い風】【風耐性】【強撃】【掘削】【採掘】【重棒術】【土耐性】【土魔術】【夜目】【竜血覚醒】
装備:『土竜のツルハシ』『土竜の作業着』『土竜のヘルメット』『土竜の黒メガネ』
種族はドリモール。名前が決まってないので、ユニーク個体ではないらしい。だが、スキルに無視できないスキルがあるぞ?
「竜血覚醒?厳つい名前だ」
他にも未見のスキルが幾つかある。調べてみよう。
【追い風】:背後に風を発生させて、移動速度を瞬間的に上昇させる
【強撃】:全力を込めた一撃。命中率は下がる
【掘削】:穴を掘ることが上手になる
【竜血覚醒】:その身に眠る竜の力を目覚めさせる
追い風は後ろから背に風を受けて速く動くスキルか。風属性付加の影響で身に付いたスキルだろうな。で、強撃が戦闘技能になるのだろう。掘削はそのまま穴掘りだが、採掘だけではなく農業でも使えるかな? あとで試してみよう。
ただ、竜血覚醒はなんだ? 土竜だからなのか? まあ、イベント報酬だし、特殊な技能が身に付いていてもおかしくはないけど。今一意味が分からない。ステータスが上昇するのだろうか?
「おっと、検証は後にして、名前を付けてやらないとな」
アース・ドラゴン用に考えていた勇壮な名前の類は封印だ。むしろモグラっぽい、名前でなくては。
「モグラ・・・・・モグラか―――よし、お前の名前はドリモだ!」
「モグモグ~♪」
ドリモールのドリモ。分かりやすくていいだろう。俺が満足して1人で頷いていると、後ろから声をかけられた。振り返ると、ウルスラだ。
「ね、ねえ。撫でていい?」
「ドリモか?」
「ドリモちゃんていうのね!それで、撫でていいかしら?」
「いいぞ」
「キャー! ありがとう! じゃあ早速――」
「モグ」
ウルスラが伸ばした手が、ドリモの手によってパシッと叩かれる。
「え? なんで?」
「モグ」
ウルスラがさらに手を伸ばすも、やはりドリモに叩かれてしまった。どうやら撫でられたくないらしい。
「あれ?」
「モグー」
俺は平気だ。むしろ目を細めて、喜んでくれているのが分かる。
「次わたし!」
「モグ」
「俺も!」
「モグモ」
やはりダメだな。どうもドリモは俺以外には撫でさせないらしい。皆には気の毒だが、俺にしか懐かないって言うところに、ちょっとだけ優越感を覚えたのは内緒だ。まあ主の特権ってことで、皆には諦めてもらいましょう。
「はいはい、ドリモが嫌がってるからそこまでー」
「えー! なんでー!」
「くぅ、ツンデレモグラ、いいわ!」
ウルスラだけは何故か喜んでいるけどね。
ピッポーン。
ドリモの能力確認していると、お馴染みのアナウンスが鳴り響いた。
『特殊クエストを達成しました。次の特殊クエストが発生します』
「は?」
俺が首を傾げた直後だった。プレイヤーたちからざわめきが上がる。
「あれなに?」
「白銀さん! うしろうしろ!」
「おいおい、何が起きてんだよ!」
指をさす他のプレイヤーにつられて背後に視線を向けると、桜の樹の前に何やら変なモノが浮いていた。なんと言えば良いか・・・・・。
「ピンク色のクリオネ?」
それは一抱えもある、半透明の謎の存在だった。空中にフワフワと浮いている。ただ、顔らしきものや目があることから、単なるオブジェクトではないことは確かだった。
『特殊クエスト攻略時の参加者が50名を超えました。この後に発生する特殊クエスト2において、参加者全員に、全ステータス上昇、クリティカル率上昇、自動HP回復、自動MP回復、ドロップ率上昇、の効果が付与されます』
「特殊クエスト2?」
直後、俺のステータスウィンドウが立ち上がり、目の前に自動的にクエストが表示される。
特殊クエスト
内容:いつからか宴会に潜りこんでいた宴会好きの妖怪が、酔っぱらって暴れ始めた。正気に戻すために、妖怪を倒して大人しくさせろ。
報酬:討伐時間によって変化
期限:3時間
参加者:宴会参加中の全プレイヤー。※このクエストはレイドクエストとなります。
そんな情報とともに、イベントを開始するか否かの選択肢が表示されていた。
「これからレイドボスってこと? え? イベントだったの?」
「やべー!ただの花見だと思ってたから装備が万全じゃない!」
「回復アイテムもよ!」
他のプレイヤーたちのウィンドウにも同様のクエストが浮かび上がっている。かなり驚いて、慌てているな。
どうもこのお花見がイベントだと分かっていなかったらしい。そう言えば、花見としか言わなかったかもしれん。これは失敗したか?
「こんだけ人数が居れば楽勝なんじゃないか?」
「俺、レイド戦初めて!」
「血が滾るぜ!」
ただ、戦意はかなり旺盛だった。皆でレイドイベントということだけでもテンションが上がるらしい。しかも、大半はお酒が入っていて気分がいいし、そいつらに釣られるようにお酒が飲めない若年組も意気軒高であるようだ。
ただ、かなりの人数が酩酊状態だけどね。ステータス上昇などのボーナスがあるけど、それでどこまで戦えるか・・・・・。しかもボスの強さも分からないし。
パッと見はピンクのクリオネだが、ボスというからにはそれなりに手ごわいだろう。
「あ、畑から出れない!」
「ま、まじか!」
どうやら何人かは装備を整えたり、モンスを戦闘用に入れ替えるためにホームへ戻ろうとしたらしい。だが、イベント中は畑から出れないようになっているようだ。俺以外のプレイヤーたちには参加/不参加を決めるボタンがあるようなので、用事がある人は不参加にすれば出れるようになるんだろう。
「というか、俺も誰を連れていくか決めないとな」
ドリモが仲間になったことで、パーティ枠が足りなくなってしまった。メンバーどうするか決めねばならないのだ。
「ボス戦だからな。ミーニィ、メリープ、フェルは絶対だ。あとはオルト、ゆぐゆぐに・・・・・」
戦闘力のありそうなドリモを連れて行くか、レベルが高くて壁役として働けるルフレを連れて行くか・・・・・。そう思考の海に飛び込んでいるところにペインが近寄って来る。
「ハーデス。面白い事になったな」
「いやあ、巻き込んじゃったみたいで」
「いいや。お祭りみたいなものだ。むしろみんな楽しんでると思うさ」
「だといいがな」
ヘルメスがおずおずと話に交ざってきた。
「えっと・・・・・このイベントの情報、あとで売ってくれると嬉しいなぁ、なんて」
「未払いのGを払い終えてから」
うん、最後はドリモにしておくか。まだドリモは未知数で博打に過ぎる気がするも、負ける気はないから問題ないだろ。
「竜血覚醒は初めて見たけど。ぜひ生で見たいからな」
「じゃあ、オルト、ゆぐゆぐ、ミーニィ、メリープ、フェル、ドリモ。闘うぞ」
「ムム!」
いつの間にか俺の真後ろに集まっていたオルト達が一列に並んで、ビシーッと敬礼をする。今日仲間になったばかりのドリモも一緒だ。いつの間に教わったんだ。すると、何故か周囲から拍手があがった。
「あれが白銀さんのモンスの敬礼か!」
「初めて実物を見たぞ!」
「今後はうちの子たちにもやらせよう」
なんでだ? ああ、そう言えば公式動画で敬礼の映像が使われてたな。それの実物を見れたら、確かに少しテンション上がるかもしれない。
「クママ達は留守番を頼む」
「クマ!」
「フム!」
そんな間にも、タラリアのメンバーとコクテン、ジークフリード、ペイン達を中心にしてレイドに挑む準備が早急に進められていく。具体的には、この場に残っている料理や飲み物の中で、食べておいた方が良い料理を皆に配布したり、回復アイテムを所持しているプレイヤーから集めて分配したりしているようだ。
俺も回復アイテムを全て渡しておいた。なにせ、俺が主催者だからな。ここは出来るだけのことはしないといけないだろう。
10分ほどで、全員の準備が整う。どうやら集まっていたプレイヤーは全員がボス戦に参加してくれるらしい。俺のステータスウィンドウには、参加者の名前がズラーッと並んでいる。これは心強い。
いや、一人だけ不参加だ。何か用事かな? そう思っていたら、畑の外で必死に見えない壁を叩いている人物がいる。どうやらイベント発生時に畑から外に出ていると、強制的に不参加の扱いになってしまうらしい。
「・・・・あいつのことは放置でいいです」
タラリアのメンバーであるようだ。ヘルメスがそう言うなら、気にしないでいいか。
「じゃあ、行くぞ」
「お願い」
「では、クエスト開始!」
俺はヘルメスが頷いたのを確認すると、イベントを開始するを選択した。
イベント開始を押した瞬間、視界がいきなり変化していた。
「ん?広場だ」
桜の木はある。枝ぶりまで正確に覚えているわけではないが、多分俺の畑に生えていた桜だろう。だが俺たちが立っているのは今までいた畑ではなく、大きな広場であった。
地面は押し固められた土が剥き出しの、田舎の小学校の校庭みたいな感じだ。短い下草は所々生えているが、戦闘の邪魔にはならないだろう。その広場を囲むように、透明な壁が並んでいる。ボスエリアと通常エリアを隔てる、通称ボス壁と呼ばれるものだ。
ただ、ボスフィールドに転移したって言う訳ではなさそうだな。イベントに参加できなかった早耳猫の男性が絶望している姿や、畑の外から花見を見ていた野次馬の姿は相変わらずそこにある。
どうやら畑にあった作物が姿を消し、桜の木だけが残ったらしい。
「んー?俺の畑は?」
俺が――というかオルト達が丹精を込めて作ってくれた畑はどこにいった?消えちゃったんだけど。
「ハーデス君落ち着いて。ボス戦が終われば元に戻るから」
「本当か?」
「レイド戦じゃないけど。宿屋で幽霊と戦闘するイベントがあるの。その時も部屋の私物が消えて、戦闘後にちゃんと戻って来るから」
「そうか。そういうのもあるんだな」
よかった。まあそうだよな。これで畑が消滅なんてなったら、確実に運営に抗議が殺到するだろうし。ていうか、俺なら絶対に抗議する。畑が消えたせいで少し取り乱してたよ。
「あれがボスか? さっきの奴にそっくりだけど」
「ピンクのクリオネ?」
「いや、クリオネは浮かばないだろ」
桜の木の前に巨大なピンク色の何かが浮かんでいた。クリオネ風の形だが、その大きさが尋常ではない。大型トラックくらいはあるのではないだろうか? さっきのピンククリオネが巨大化した姿であった。
鑑定すると、名前はハナミアラシとなっている。花見荒らしってことかね?
「みんな! 行くわよ! 前衛は前に!」
「おう!」
「後衛は牽制頼む!」
「生産職は援護で! 無理するなよ!」
おおー、前線組は慣れているな。すぐにコクテンたちが先頭に立って、皆に指示を出してくれた。
さて、俺はどうしよう。これでも一応前衛職なのだ。魔法もあるし、後ろからの牽制くらいなら――。
「ハーデス君は前衛!」
「はーい」
問答無用でヘルメスに前衛組に入れられてしまった。まあ、そうですよね~。
「一斉攻撃だ!」
「ホゲゲ~!」
そして、レイドボス戦が始まる。最初に仕掛けるのは前衛組だ。コクテンを先頭に、前線で戦うトッププレイヤーがそれなりに揃っているので、かなり頼もしい。
半分くらいは酩酊に苦しんでいるので、千鳥足だが。まあ、的がでかいので攻撃を外すことはないだろう。ただ、防御に不安はあるな。酩酊状態では回避も難しいだろうし。
「ホゲゲ!」
ハナミアラシがその場で回転しながら、何かをばら撒いた。あれが攻撃か? よく見てみると、ビールの空き瓶や、中身が詰まったビニール袋だ。後は木の串とか、空き缶も混じっている。
「ぎゃー! なんだこれ!」
「汚い! 装備が汚れる!」
「いやー! 臭い!」
それはまんまゴミだった。まるで花見の後に打ち捨てられている、マナー違反者たちが残していったゴミのようだ。それをばら撒いて、プレイヤーを攻撃しているらしい。
威力は大したことが無くても、装備の耐久値を削りつつ、毒の状態異常を与えてくるみたいだな。嫌らしい攻撃である。俺は平気だけどな!酩酊は効くが!
「うげー・・・・・酩酊で毒とか・・・・・」
「やばい~」
「真っすぐあるけん…」
これはピンチなんじゃないか? 援護組は慌てて前衛に駆け寄り、キュアポイズンを振りかける彼等彼女等の邪魔をさせないためにも【挑発】。
「ヘイト集めておくからさっさと倒せよー」
「わかった!」
「そのスキルは役に立つのだな」
「よっしゃー行くぜー!」
人手が足りていない。俺はうちの子たちにも解毒薬を持たせて、前衛を回復させていった。薬を振りかけるだけだから簡単だ。
「やったー! オルトちゃんに回復してもらっちゃった!」
「なんで水精霊ちゃんがいないんだ~」
「サ、サクラたんにぶっ掛けられた!」
何とか立て直せたか。うちの子たちに回復してもらいたいからといって解毒拒否する奴がいたのは驚いたけど、そこは無視して無理やり解毒薬をぶっかけておいた。おい、うちの子たちに回復してもらうために、わざと毒になったりするんじゃないぞ? 次は回復しないからな。
「ホゲゲゲ!」
しばらくサンドバック状態だったハナミアラシが、再び回転する。お次はピンクの霧の様な物を吐き出したぞ! 範囲が中々広く、近くでハナミアラシを攻撃していたメンバーだけではなく、後衛まで巻き込んでいた。これもダメージはそこそこで、低確率で酩酊状態に陥らせる効果があるらしい。
低確率とは言え厄介だな。未だに酩酊は直す方法が無いので、食らってしまえば確実にこちらの戦力が低下してしまうのだ。
それでも、参加者全員に付与された全ステータス上昇、クリティカル率上昇、自動HP回復、自動MP回復効果のおかげでまだ十分に戦えている。
特に回復系は非常にありがたい。酩酊で低下した攻撃力を技を多く使って補えるし、回復の頻度も少なくて済む。
全ステータス上昇、クリティカル率上昇も目に見えて効果はないものの、きっと活躍してくれているんだろう。
「ホンゲェエエェェェェェェン!」
「っ!」
今度は大声攻撃か!マイクを使って怒鳴っているかのような、頭にキンキンと響く大きな音が響き渡る。耳だけではなく、脳内まで揺さぶられるかのような衝撃があった。痛みはないんだが、立っていられない。しかも低確率で麻痺の効果もあるようだ。
オルトが手足をピーンと伸ばして、まるで気を付けをしているかのような体勢で地面に突っ伏したまま、動けなくなっている。
「大変!オルトちゃんが硬直してる!可愛い!」
「戦闘に集中しろよお前っ!!」
「ひっ!?す、すみません!!!」
「・・・・・あの人がキレた?初めて見た」
「ムム~」
カバームーブで移動瞬間し、慌ててキュアパラライズをふりかけてやると、オルトが額の汗をぬぐう動作をしながら、ササッと立ち上がった。他の子はどうだ?フェルは起き上がって唸り声を発しているな。ゆぐゆぐ、メリープ、ミーニィ、ドリモも元気で動いている。
「大丈夫か」
「ムム」
厄介なことに、このボスは範囲攻撃で状態異常を付与してくるタイプであるようだ。これ、時間をかけ過ぎていたらすぐに回復アイテムが底をつきそうだな。
「サイナ!」
「残滅攻撃支援を開始します」
「え、残滅・・・・・?」
後方で待機していたサイナが【機械創造神】のスキルで数多の重火器、ミサイル、ロケットランチャーを創り出した。サイナの傍にいたプレイヤー達は目をギョッと見開いたかもしれない。
「射撃開始」
といった刹那。豪雨の如くの弾丸が絶え間なく放たれてハナミアラシを貫く、ミサイルとロケットランチャーも当たって激しい爆発が巻き起こる。
「ミーニィ【巨大化】!【ホーリブレス】!メリープ【羊雲】!【雷雲】!」
巨大化したミーニィが光属性の魔法を、空高く昇って空中に羊雲を発生させた後に雷雲と化したメリープは雷を落とす。
「えええっ!?メリープちゃんのスキル何あれ!!?」
「雲になって雷を落とす、だと・・・・・?」
「ミーニィちゃんがドラゴンになったぁっ!!!」
時間を掛け過ぎると厄介そうだからな。俺もここは本気でやろう。うちの子たちを引きつれて、前に出る。
「ドリモ、土魔術で攻撃できるか?」
「モグ」
「無理か・・・・・。じゃあ、俺たちと一緒に前衛だ。いけるな?」
「モグ!」
ドリモがやる気満々でハナミアラシに向かって駆けて行く。短い脚をちょこまかと動かす姿が、すごく頑張って見える。うーん、大丈夫かな?
「無理すんなよ~」
「モグモ~」
ボスに攻撃を仕掛けるために、俺はうちの子たちとともに前に出た。まあ、俺は後衛の位置から魔術を放つだけだが。ドリモは俺の話の返事を頷く代わりにサッと手を上げて答えると、そのまま前線に駆けて行った。
「オルト、ゆぐゆぐ。ドリモを頼む。ドリモはまだレベル1だからな」
「ムー!」
「―――!」
ドリモは防御重視じゃないとあっと言う間に死に戻ってしまうだろう。俺の言葉にピッと敬礼したオルトとゆぐゆぐが、ドリモの後を追って駆けだしていった。オルトたちの補助を受ければ、多少の攻撃は出来るだろう。
「モグ!」
だが、前線に出たドリモはそのままの勢いで、一直線にハナミアラシに突っ込んでいってしまった。大きなツルハシを振り上げながら、短い脚で走る様はユーモラスでちょっと和むが・・・・・。
「あれ?ドリモ?俺の言葉に応えてたよな?無理するなって言ったら、しっかり手を上げてたよなー!」
「モグモー!」
だが、俺の叫びをまったく聞いていないのか、一生懸命走るドリモの足は止まらない――どころか急に凄まじい加速をした。ダッシュするドリモが薄く緑に輝いたかと思ったら、走る速度がグンと何かに背を押されるように一気に上昇したのだ。
そして、振りかぶるツルハシが今度は赤く輝いた。
「モグ!」
「ホッゲー!」
ドリモのツルハシがハナミアラシの胴体に叩きこまれる。
おお、結構ダメージを与えたぞ。いや、コクテンが牽制で当てた、軽い攻撃程度のダメージでしかないんだが・・・・・。生まれたばかりで未だにレベル1のドリモが与えたと考えたら相当なダメージだろう。
戦闘ログを確認してみると、追い風から強撃を使ったようだった。実際に加速していたし、ツルハシも光っていたしな。
このゲームでは、速さによる打撃力上昇のシステムがある。加速がついていればその分威力が上がるのだ。強撃の威力が追い風の加速でさらに増したとしたら、想像以上の威力になることもあり得そうだった。
「モグ~!」
ドリモがツルハシを突き上げて喜びの雄叫びを上げる。あ、それに見とれていた女性がゴミの直撃を浴びて悲鳴を上げた。・・・・・馬鹿だろ。
それにしても、これは凄いアタッカーを手に入れたかもしれないな。今後が楽しみだ。レベルが上がって強撃の威力も上がったら、そこら辺のフィールドボスくらい楽勝になっちゃうかも?
なんて思ってた時があった――。
「モグ?」
再度同じ攻撃を繰り出したのに、今度は盛大にスカッた!ほぼ止まったままな上、的のデカイハナミアラシ相手にファンブルするとは。強撃は命中率が下がるらしいが、俺の想像以上の低下率なのかもしれない。
「モグ~」
体勢を崩してゴロゴロと地面を転がっていくドリモ。ハナミアラシは範囲攻撃オンリーで個別に攻撃をしてくるタイプではないのでカウンターを食らうことはなかったが、普通の戦闘だったら危険だったかもしれない。
しかも相手がボスだったりしたら? ミスしたら最期という可能性もあるのだ。
「うーん、追い風から強撃のコンボは諸刃の剣か・・・・・?」
あの攻撃は使う場所をもう少し選ばせよう。少なくとも、普段からバンバン連発していい攻撃ではない。追い風から普通に攻撃とかでも、通常戦闘なら十分だろうしね。
「モグ・・・・・」
「・・・・・」
「モグ!?」
「・・・・・」
ズッコケローリングをかました後、仰向けに転がっていたドリモをフェルが助け起こしてやっているな。と思っていたら、前脚で俺に目掛けて掬い飛ばしてきた。意外と器用だな!俺の胸に飛び込んできたドリモに対してフェルがハナミアラシへ駆けだして爪による鋭い一撃を与えた。
「ハーデス、あのフェンリルの行動の意味は分かるか?」
「まだ弱いから戦いに出る幕ではない、か。それとも単に戦いの邪魔だ的な?とにかくドリモを戦わすのはフェルにとってまだ許さないかもな。しかも、他のプレイヤーを邪魔しちゃったみたいだな」
転がっていくドリモを見て驚いて飛びのいた者や、単純に足元を転がられて動きを阻害された者など、何人かのプレイヤーを邪魔する形になっていた。でも平気そうだ。
とは言え、それで死に戻ったりしたプレイヤーはいなさそうだ。よかった。ドリモに注意を向けながら前衛プレイヤーの戦闘も観察してみる。すると、特に目を引くプレイヤーが何人かいた。
最初に目に飛び込んできたのは、もっとも目立つ攻撃をしているジークフリードだ。愛馬に乗ったまま、騎士槍を構えてチャージを繰り返している。
ハナミアラシとすれ違うように馬を走らせ、交差に合わせてランスで削り、即座に踵を返して再び突進する。他のプレイヤーの邪魔をすることも多いが、やはり最も活躍していると言っていいだろう。
どうやら動かない的に対しては相性がいいらしく、与ダメージでは断トツなのではなかろうか? ただ、馬が酩酊になったら途端に何もできなくなりそうではあるが・・・・・。
次に目立つのがアカリという女性プレイヤー。初めて知ったが、俺とジークフリートと同じ3称号の取得者の最後の一人だ。一見すると重戦士っぽいんだが、その動きはまるで軽戦士だ。あの漆黒の鎧は、意外と軽いのかもしれない。大剣を振り回しながら、それでいて手数もそれなりという、戦い慣れた戦い方だ。
周りの事情通に話を聞いてみると、どうやら防御を捨てた戦い方であるらしかった。いや、捨てたというよりは、普段は回避に重点を置いているらしい。今回は動かないボスなので、少し無理して連続攻撃を繰り返しているようだった。普段はひたすら回避を繰り返して、相手の隙を見つけたら大技を叩き込むスタイルで有名なんだとか。
「いやー、三称号持ちの人たちは凄い個性的で面白いですね~。みんな大活躍」
何て言われたが、あの2人と一緒にされたらたまらない。今回俺はあそこまで活躍しない。
そう答えたらなんか微妙な顔をされたが、何故だ? 実際、この戦闘で俺はほとんど何もできてない。ドリモがちょっと頑張ったくらいだ。いや、イベントを発生させたっていう意味では大活躍って言ってもいいのか?
「まあ、これから挽回しよう」
アルゴ・ウェスタとアグニ=ラーヴァテインを構えながら前へ出ようとする。