ドリモやジークフリード、アカリたちも目立っているが、違う意味で目立っているのがタゴサックとふーかだった。
「おらぁ!」
タゴサックは巨大な鉄の棍棒で戦っている。細長いリーチ優先の武器だ。それだけなら他にも使っているプレイヤーはいるだろう。だが、ツナギ風の防具を着込んだタゴサックが細長い鉄の棒で戦う姿は、族同士の抗争で暴れるレディースにしか見えなかった。アカリの隣でタゴサックが戦う姿は、シュールでさえある。
あと、他のファーマーたちも、ちょっとおもしろい。クワやスキの装備が多いんだが、寛ぐ用の布服や作業着なので、ちょっと農民一揆感があったのだ。なんか、すっごい悲壮感があって、応援したくなった。
もう一人目立っているのがふーかだ。こっちはフライパンを振り回して戦っており、緊張感が感じられない姿だった。花見の料理を作るためにコック服装備だったため、より場違い感が否めないのだろう。
他と言えば・・・・・何時だったか爆発をこよなく愛するプレイヤーもか。至ってシンプルに洞筒を構えて弾を発射、ハナミアラシに直撃すると大爆発。あ、微妙に他のプレイヤーにも二次災害的なダメージが・・・・・。
「ちょっ!ハナビちゃん、他の人にも爆発の影響でダメージ入ってるからダメだって!」
「あんな的のデカい相手に撃つなってどういうお預けプレイだ!」
「爆発力が低いのないの?」
「そんなの爆発と言えるかー!!」
・・・・・エクスプロージョンは禁止だな。さて、ラックや直江達は?
「ナイスガイ、ハナミアラシの注意を引きつけろ!モロ、俺と一緒に風人達にバフ魔法だ」
「了解」
「いっくわよー!【凪舞】!」
「【集中一突】!」
「【一ノ太刀・陽炎】」
「【衝撃拳】!」
「【旋風切り】!」
「【チャージアロー】」
「よし、ラックがボスのヘイトを稼いでいる間にラックごと集中攻撃すんぞ」
「僕より【VIT】が高いユージオがすればいいだろうが!」
「何を言う。【AGI】が高いお前の方が適任なんだ」
「それはトビだよ!僕はどちらかと言うと【INT】の方だ!」
「おぬし等、こんな時にまで言い合っている場合ではないぞ」
「・・・・・【加速】」
「ほらラック!さっさと攻撃しに行くわよ。私達だけじゃない戦いに参加していないのは」
「ラック君。回復は任せてくださいね!」
「ほれ、可愛い神官がお前を回復してくれるってよ。よかったじゃねぇか。―――心置きなくやられてこい」
「お前ぇー!」
「翔子、翔花。援護お願いね」
「ボクも頑張るかな!」
「・・・・・【ダークネスボール】」
「【ディフェンスカバー】・・・・・」
んー・・・・・うん、頑張っているなー皆ー(棒読み)。
さらに周りでは他の遠距離系プレイヤーが同じ様に攻撃を放っている。テイマーには後衛職タイプが多いので、モンスの数も多いな。特に、ノームたちが後衛組の前を固めてくれているので非常に心強い。
たまにハナミアラシが前衛のこちらを通り越して、ゴミを後衛に向かって降らしてくることもあるのだが、ノームの鉄壁の防御の前にことごとくが撃ち落とされている。ちょっとばかり「ムームー」とうるさい気もするが、俺以外のノーム好きたちがうっとりと見ているので、文句は言うまい。おかげでダメージも食らっていない訳だし。
ただ、俺を同類のように扱うのはやめてくれ。確かにオルトは可愛いし、ノームは可愛いと思う。だけど、俺はショタコンでも子供好きでもないのだ。
ノームを見ながら「ご飯が美味しく食べれますね!」とか言われても同意できないんです。「可愛いですね」とか「良い光景ですね」くらいだったら同意できたのに。しかも、ゴハン美味しい宣言にうなずく奴が多いのはなぜだ?
・・・・・これ以上考えると色々怖いから、やめておこう。
俺はノームたちから視線を外し、他のテイマーのモンスをチェックしてみた。モンスの中で特に目を引くのは、やはりアメリアのリトル・エア・ウルフだろう。
これが中々足が速い。多分、追い風を連続発動しているんだと思う。今はレベルが低くて攻撃力が低いので牽制以上にはなっていないが、育った姿を想像すると末恐ろしいな。絶対に戦いたくない。
「それにしても、だいぶ押せ押せだな」
俺以外の前衛組の直接受けるダメージが大したことが無いので、攻撃の手が緩まないのだ。ガリガリとハナミアラシのHPが減っていく。元のHPが大きいので時間はまだかかりそうだが、相手の攻撃力が低い上、攻撃頻度も低いからな。これって楽勝なんじゃなかろうか?
だが、それもハナミアラシのライフが残り2割ほどに減少するまでだった。
「ホゲエエェエェ!」
「うわ、新しい攻撃か!」
「あ、あれはバッカルコーン!」
「やっぱクリオネじゃねーか! なんで花見妖怪がクリオネなんだよ!」
「さあ? 運営の趣味じゃね?」
なんと頭頂部がパカッと開き、そこから触手のような物が出現したのだ。クリオネが獲物を捕食する時の姿にそっくりだった。
6本の触手が個別に動き、前衛のプレイヤーを重点的に攻撃していく。あれはヤバいな。コクテンの仲間が一発でレッドゾーンに追い込まれた。ドリモが食らったら一発でアウトだ。
さらに、開いた頭部からキラキラ光る液体のようなものを吐き出している。どうも、体に当たるとネバネバして、動きが封じられてしまうらしいな。
酩酊やネバネバで行動不能に追い込んで、最終的に触手で止めを刺すスタイルであるらしかった。ドリモは掘削スキルで地面に隠れられるので酩酊スモッグはかわせているんだが、触手はかわしきれんだろう。一旦下がらせた方が良さそうだった。
「ただ、その前にあれを試しておこう」
竜血覚醒をまだ使っていなかったのだ。
「ドリモ!竜血覚醒を使ったら、一度戻って来い!」
「モグ!」
さて、どんなスキルなのか。説明だけだと攻撃系なのか、強化系なのか、補助系なのかも分からないからね。
「モグモ~!」
ドリモの可愛らしい雄叫びの直後、その体を覆い隠す程の強い光が発せられる。おいおい、光の柱が立ち昇っているんだが。エフェクトが凄まじく派手だ。
「おおー!」
「かっけー! 何だあれ!」
「ドラゴンだ!」
「この場にドラゴンが二体いるとかすげー!!」
光の柱が消え去ると、周囲のプレイヤーが騒めく。あ、あいつよそ見して触手で吹き飛ばされた! ああ、死に戻った! すまん!
いや、でも無理もないか。なんと光の奔流が収まった後、そこにはドリモの姿ではなく、一匹のドラゴンの姿があったのだ。
鋭い牙に、太い爪。天を突く様な尖った角に、ゴツゴツと硬く茶色い鱗。瞳孔はトカゲのように縦長で、尾は太くたくましい。背には蝙蝠に似た翼を備え、明らかにモグラではない。
それは紛れもなく、ドラゴンだった。なんと竜血覚醒はドラゴンに変身するスキルだったのだ。まあ、大きさはほぼドリモと同じくらいだけど。ドリモと違って4つ足で地面を踏みしめる姿は、小型であっても雄々しく頼もしい。
全体的にはほぼオーソドックスなドラゴンだ。ちょっとだけずんぐりむっくりな体型だけどね。ただ角だけは、後ろではなく前にせり出す、トリケラトプスの様な形をしている。あれで突かれたら痛そうだな。
「モグ~!」
ああ、鳴き声はドリモのままなのか。するとドラゴンモードのドリモは、そのままハナミアラシに向かって突進していった。エフェクトから判断するに、追い風と強撃を使っているな。
「モググ!」
しかもクリティカルのエフェクトだ。ドリモの角の一撃で、ハナミアラシのライフがメチャクチャ減った。多分、前線メンバーのアーツ並みだろう。さっきのツルハシ強撃も凄かったが、こちらはそれ以上だ。
ただ、攻撃の直後にドリモの姿はもとのモグラさんに戻ってしまった。どうやら変身していられるのは10秒くらいであるらしい。とは言え、ドリモのMPはそれほど減っていない。これってもしかして、竜血覚醒が連発出来るんじゃないか?
そう思ったんだが、スキルが灰色に変色して使用できなくなっている。その横には23:59:4の表示だ。これはスキルのクーリングタイムである。
「再使用に24時間・・・・・一日か」
本当に奥の手だな。いや、今はボス戦に集中せねば。
その後、戻って来たドリモを労いつつハナミアラシに攻撃を続け、なんとか30分経過する直前で撃破することに成功した。最期はペインとアカリが放った剣スキルがハナミアラシのライフを削りきる。
「ホゲ、ホゲゲゲ・・・・・オハナミハ・・・・・マナーヲマモッテネェェ!」
ハナミアラシのライフがゼロに削られた瞬間、まるで春の嵐によって生み出された桜吹雪のように、その体が大量の桜の花びらとなって舞い上がった。
戦場の周囲を囲むように花びらが渦巻き、まるで壁のようだ。思わずスクショを撮ってしまったのは俺だけじゃないだろう。
「うわぁー」
「綺麗」
「すっげー!」
皆が幻想的な光景に見とれていると、アナウンスが鳴り響く。
ピッポーン。
《妖怪が初撃破されました。図鑑の妖怪の項目が解放されます。世界各地に妖怪は存在するので、探してみてください》
アプデの告知以外だと、ワールドアナウンスを久々に聞いたな。妖怪の図鑑が解放されたって言ってたが・・・・・。
図鑑を開いてみると、確かに最後に妖怪のページが追加され、ハナミアラシが登録されていた。ナンバー7となっているな。
『妖怪を初撃破したプレイヤーに、妖怪バスターの称号が与えられます』
称号:妖怪バスター
効果:賞金10000G獲得。ボーナスポイント2点獲得。妖怪に対する与ダメージ上昇
『妖怪を撃破しました。参加プレイヤーの職業「陰陽師」が解放されました』
『妖怪ハナミアラシが撃破されました。参加プレイヤー全員に、スキル「植物知識」が与えられます。すでに所持している場合、ボーナスポイント2点が与えられます』
『妖怪ハナミアラシが撃破されました。参加プレイヤーのスキルが一部開放されました』
怒涛のアナウンスラッシュだな。称号をもらえた上に、なんかボーナスポイントまでゲットしてしまった。解放されたスキルってなんだろう? まあ、アリッサさんたちが早速スキル一覧をチェックしているので、すぐに判明するだろう。
周囲のプレイヤーは称号授与の時点で歓声をあげていた。初称号の人も結構いたらしい。
「ありがとー!」
「これが白銀効果か!」
「ひゃっはー!称号だー!」
いきなり色々なプレイヤーから握手を求められて戸惑ったが、まあこのイベントは俺がホストなわけだし、感謝されるのも仕方ないだろう。
ただ、拝むのはやめてほしい。別に手を合わせたって御利益とかないから! なんだ白銀効果とか白銀現象って!
そしてアナウンスはまだ終わらない。次はイベントクリア報酬だ。報酬はハナミアラシの討伐時間によって変化するとなっていたが、俺たちはどうなんだろう? 29分台で、ギリギリ30分は超えていない。
『特殊クエスト2をクリアしました。攻略時間、29分37秒。報酬は、霊桜の薬×3本です』
レア度4のポーションだった。効果は、酩酊回復だ。なるほどね。ゲームが進めば大した価値がなくなるかもしれないが、現時点では珍重されるだろう。悪くはないと思う。
実際、他のプレイヤーたちも喜んでいるからな。酒飲みたちは、これでもっと酒が飲めると喜んでいる。飲まない奴らは転売する気満々だな。
イベント関係のアナウンスはこれで終わりであるようだ。後はレベルアップの通達だな。俺だけじゃなくて、モンス達もレベルが上がった。ドリモなんか一気にレベル8だ。さすが、レイドボス。
「えーっと、ドロップはなにかな?拳?徒手空拳用のグローブタイプの武器か」
どうやら素材などではなく、装備品をドロップするようだった。霊桜の武拳、霊桜の闘衣、霊桜の重枷、霊桜の細剣と4つも入手できたが、全て装備に【STR】が20必要で、微妙な代物である。どうも、セット装備にすると特殊な効果が発動するみたいだ。
すでに皆の間でリスト化が始まっているな。全部で九種類あり、武器が武拳、細剣、打鞭、鋼棍の4種。防具は闘衣、軽靴、鉢巻の3種、アクセサリが重枷、耳輪の2種だった。重枷がレア装備みたいなのだが、全ステータスが低下する代わりに、レベルアップ時のステータス上昇が増加する可能性があるという特殊な装備品であった。
この中から武器を含めた4種類を装備することで、酩酊無効と、それぞれの武器スキルの成長速度上昇の効果があるらしい。
「あとは、霊桜の薬が1つに、霊桜の小社?」
霊桜の小社はホームオブジェクトだった。ただ、効果としては霊桜の小社を設置するとしか書かれていない。まあ、設置には1マスで済むみたいだし、使ってみればいいか。
タラリアのメンバーの呼びかけで、皆のドロップの情報が集められ、集計が始まる。その結果、霊桜の小社は俺しかドロップしていないということが分かった。ホスト専用なのか、余程レアなのか、他に何か理由があるのか、正直一回だけじゃわからないらしい。
とりあえずイベントを終了させた後に、皆の前で小社を設置するという流れになった。ヘルメスは情報料を払うと言っていたが、皆で手に入れたアイテムだしな。それで情報料をもらうのも悪いと思ったので、公開設置することにしたのだった。
ああ、因みに元に戻るための出口は、いつの間にか出現していた。ピンクのブラックホールとでも言えばいいか?そこを潜ったら俺の畑に戻ってきていたのだ。
いやー、後半は怒涛の展開だったな。
「おーい! ど、どうだった? 報酬はどうだったんだ?」
「えーっと?」
いきなり知らない男性に話しかけられた。なんで畑の中に入れるんだ? フレンドしか入れないはずだけど・・・・・。いや、見た覚えがある。誰だっけ? 軽く悩んでいたら、すぐに正体が判明した。イベント開始時に畑から出てしまっていたせいで締め出されてしまった、タラリアの人だ。ヘルメスに詰め寄って、逆に頭を叩かれている。忘れててごめん。まあ、話はヘルメスたちから聞いてください。
「とりあえず社の設置からだな」
気になるから霊桜の小社を設置しちゃおう。これから用事がある人もいるみたいだし。皆、早く効果を見たがっているだろう。
「えーっと・・・・・ここじゃあ、設置できないな」
1マスでいいみたいなのに、アイテム名が灰色に変化してしまい、選択することができない。ただ、色々と場所を変えて探ってみると、桜の木の目の前にしか設置できないらしかった。なるほど、霊桜の小社だもんな。
「じゃあ、設置しますね」
「うん。あ、ちょっと待って、撮影する」
「・・・・・」
ヘルメスたちがスクショなどを撮り始めたが、あまり気にしないでおこう。
「設置っと」
「「「おおー」」」
何かどよめきが上がった。どうやらホームオブジェクトの設置自体、初めて見るというプレイヤーも多かったらしい。ホームが無ければ意味ないからね。
「激レアのホームオブジェクトにしてはメチャクチャ地味だな」
それはその名の通り、小さい社であった。高さは俺の腰上くらいかな? サイズは、足を取った百葉箱くらいのサイズ感だ。四角い石の土台の上に、木製の質素な社が乗っている。いやいや、肝心なのは見た目じゃない。重要なのは効果だ。
「えーっと、効果はなんだ・・・・・?」
名称:霊桜の小社
効果:妖怪ハナミアラシが宿った社。1日1回、お供え物をすると色々と良いことあるかも?
「ふむ。お供え物ね」
もしかして、水臨大樹の精霊様の祭壇みたいな感じか? だとしたらちょっと期待できるんですけど。というか、期待しかない。
俺は取りあえずお社へのお供え物ということで、お酒を置いてみることにした。日本酒がベストなんだろうけど、今は店売りのワインで我慢してください。
「お供え物です。どうかお納めください」
パンパンと適当に手を打ってみる。さて、どうだろう?
ちょっと待っていると、社が淡く光り輝いた。そして、社の扉が開いて、中からピンク色のクリオネが現れる。
「「「おおー!」」」
いちいち外野が反応するな。いや、俺もあっちにいたら同じ反応すると思うけど。あと、全員がスクショを撮っている。撮ったところで何度か見返してデータ消すだけだと思うんだけどな。まあ、レアな物を目の前にして、撮影したくなる気持ちは分かるが。
「ハナミアラシか?」
間違いない。つい数分前まで激闘を繰り広げていた相手だ。
すると、現れた10センチほどのハナミアラシはそのまま社の目の前に置いてあったワイングラスに突進すると、自分の体と同じくらいの大きさのワイングラスに短い手でガシッと抱きついた。そして、一気にゴクゴクとワインを飲みだす。
ピンク色のクリオネがよりピンク色に染まったな。顔の部分は赤い。完全にほろ酔い気分だだろう。
「・・・・・?これだけか?良いことってなんだ?」
可愛い妖怪との触れ合いが良いことですとか言わないよな? でも、ハナミアラシは飲んだくれていて、何かが起きる気配はない。もしかして供えた物が悪かったか?
そんなことを考えていたら、ハナミアラシがピンク色に輝いた。そのまま光は強くなり、弾けるように放出される。その直後、桜の木を中心に桜吹雪が巻き起こった。とても綺麗な光景だ。なるほど、この光景を見られるのであれば、確かに嬉しいかもしれない。
だが、桜吹雪は単なる演出の一環でしかなかったようだ。桜吹雪がそのままピンクの光となってパッと弾け飛び、キラキラと俺に向かって降りかかったのだ。
「今の何だったの?」
「ちょっと待ってろ。っておい、ステイ!」
「きゃん!」
興奮が抑えきれない様子のヘルメスに急かされ、頭に手刀を叩き込んだ後にステータスウィンドウを開いて調べる。すると、インベントリに見慣れないアイテムが入っていた。
「霊桜の花弁?5つ入ってるな。あと、ハナミアラシの怒り?」
「うぐっ・・・・・花弁の方は素材アイテムか~。でもこの名前、もしかして霊桜の薬の材料なんじゃない?」
「あ、なるほど」
ヘルメスが言う通りかもしれないな。これは色々と実験してみよう。まあ、毎日5つも手に入ればだけど。明日が楽しみだ。
「酩酊を回復する薬の素材が毎日回収できるってことよね? これまた欲しがる人が多そうな情報だけど・・・・・」
そんな話をしていると、アイテムのトレードなどを行っていたコクテンが声をかけて来た。
「あのー、白銀さんは霊桜装備を手放す気がありますか?」
「いや、ない。まだ持っていないモンクの装備だ。これで遊んでみたい」
「そうですか。わかりました。因みに手放す気になったらの話ですが―――」
そう答えると、コクテンがそれぞれの霊桜装備の値段を教えてくれた。高いか安いか分からんけど、まあコクテンたちが算出した値段なんだし、適正価格からそう外れてはいないだろう。そもそも、装備できないアイテムが高額で売れるんだから、俺には得しかないしね。売らんけど
ただ不思議なことに、霊桜の武拳がレアドロップである霊桜の重枷と同じ値段だった。霊桜の闘衣や細剣の倍近い値段だ。さっきドロップ比率を見せてもらったが、武拳のドロップ率が低いということもなかったと思うが・・・・・。なんでなんだ?
「ああ、それは解放されたスキルの関係ですね」
「あ、解放スキルももう情報をまとめたのか?」
「はい。前提条件の必要なスキルもあるようなので、全てを把握できているか分かりませんけど、一応リストがあります。で、その中にこのスキルがありまして」
「えーっと・・・・・酔拳?酔拳って、あの酔拳か?」
「はい、細剣術とかもあったんですが、やはり酔拳の魅力には勝てず・・・・・。みんな取得したがってましたね。その結果として、酔拳の効果が上昇するらしい霊桜の武拳の価格が高騰ということに」
それはそうだろう。だって酔拳だぞ? ロマンがあり過ぎる! 俺的には形意拳と並ぶ、憧れの拳法の1つだ。正直、使う使わないは別として、取得できるなら取得したい。
スキルポイントを消費すればすぐに覚えられるのか? スキル一覧を開いてみた。
「あ、白銀さんの解放スキルも知りたいんですけど、いいですか?」
「ちょっと待って、それも調べる」
24時間以内に取得可能になったスキルには★マークがつくので、調べるのは簡単である。いくつかあるな。だが、酔拳は含まれていなかった。
「酔拳、ないな。まぁ、当然っちゃあ当然か」
「酔拳は格闘系スキルの上級か、3つ以上の格闘系スキルのレベル合計が50を超えている場合に取得可能になるみたいですよ?」
「コクテンは覚えたのか?」
「当然ですね」
酔拳の能力を聞いてみると、なんと酩酊状態時にのみ発動するスキルであるらしい。酩酊状態が酷ければ酷い程、威力が上がるんだとか。まじで酔拳じゃないか。
「それ、披露してもらっても?」
「構いませんよ。実を言うと早くやってみたかったんですよね。それで白銀さんの方は?」
コクテンは俺のスキルはどうなのかと尋ねてくる。俺もスキル一覧をチェックする。
「★マークがついてるのは5つあるな」
★マークがついているスキルの中で、誰でも取得可能だというスキルが酩酊耐性、妖怪察知、妖怪知識の3つである。
酩酊耐性はその名の通り、酩酊になり辛いスキルだった。酒飲みは喜んでいるが、酔拳との相性は悪そうだな。妖怪察知はフィールド等で妖怪の近くに行くと、教えてくれるというスキルだ。
妖怪知識は植物知識と似ていて、妖怪鑑定時に詳しい情報が表示されるようになるらしい。このスキルが無い場合は、ハナミアラシと同じ様に名前とHPだけなんだろう。
ただ、残り2つのスキルが、コクテンから渡されたリストに乗っていなかった。
「えーっと、妖怪懐柔、妖怪探索の2つだな」
「・・・・・2つもですか?す、すごいですね!」
「いつも2つ以上は当たり前のように取得してるから感動も感激も薄いわ」
愕然の色を顔に染み出すコクテンを気付かず詳細を読む。
妖怪懐柔は、妖怪からの好感度の上昇率が上昇するというスキル。今後、妖怪系のイベントに好感度が関わってくるんだろうか?好感度を上げないと戦闘できないとか?もしくはハナミアラシの好感度が上がったら何か起きるとか?これは色々なことを示唆しているスキルだな。
妖怪探索はフィールド上で妖怪が側にいる場合に反応するという、妖怪察知に似たスキルだった。ただ、探索の場合は範囲が狭い代わりに、より正確に場所が分かるという内容だった。
「霊桜の小社がトリガーになっているんですかね?それともイベントホストだから?」
「分からんな~」
コクテンとスキルについて話していたら、いきなり後ろから声をかけられた。スコップたちだ。ボス戦とかいろいろあったせいで、すっかり忘れてた。
だが、怒った様子はない。むしろ謝られてしまった。どうやらNPCたちは酒に酔いつぶれて寝ていたせいで、何も覚えていないという設定らしかった。
「いやー、今日は楽しかったぜ」
「久しぶりに楽しい宴会でした」
「何か困ったことがあったら、力になるからな!」
「僕達もです」
「私とリオンは普段はギルドで働いてるので、また会いましょうね?」
スコップ一家はそう挨拶をして帰っていった。その直後、イベント終了のアナウンスが聞こえる。チェーンクエストが、これで終了ってことらしい。
特殊クエスト
内容:自ら育てた桜の木の下で、スコップ、ライバ、ピスコを招いて花見をする
報酬:ボーナスポイント3点
期限:なし
報酬であるボーナスポイントが手に入った。もとはといえばこんなクエストだったのだ。いやー、長かった!
俺は取りあえず残っているプレイヤーたちに声をかけて、集まってもらった。
「これでお花見は終了となりまーす。なんか、色々とバタバタしてしまい申し訳ありませんでした」
「いやいや、楽しかったぞー」
「レイドボス戦も勝てたし!」
「最高の花見だった!」
よかった、怒ってる人はいないみたいだな。むしろ、みんな笑顔だった。俺が頭を下げると、拍手が起きる。なんか、大昔に毎年行っていた、某日本最大の同人誌即売会を思い出した。なんか、寂しさ半分、笑顔半分で、皆が最後に拍手をするんだよね。
プレイヤーたちが三々五々帰っていく中、俺はヘルメスに再び捕まった。
「ねえ、話が逸れちゃったけど。もう1つのアイテム、ハナミアラシの怒りはどんなアイテムなの?」
どんなアイテムってえーっと、ハナミアラシの怒りは―――マジで?
「ボスとの再戦可能アイテムか~。しかも桜の木の前じゃないと使用不可・・・・・。これはまた、凄まじいものを・・・・・。毎日入手可能なのかしら?」
「さあな」
「そうよね~。あのさ、何日後かでいいからさ、この祭壇で何が取得できるか、教えてもらえない? もちろん情報料は払うから」
「それは構わないぞ」
「あと、このハナミアラシの怒りは、しばらく内緒にしておく方がいいわ。下手したら色々なプレイヤーが押し掛けるかもしれないから」
レイドボスに挑めるアイテムなんて、そりゃあ騒ぎになるよな。でも、特殊クエスト効果の回復なんかはもうないんじゃないか? だとすると攻略は結構難しそうだな。
「そもそも、このレイドボス戦を発生させるには、どんな手順が必要なの?」
俺はチェーンクエストの始まりから、全ての情報をヘルメスに伝える。それを聞いたヘルメスが、深いため息をついた。
「はぁぁー。これは長い道のりね・・・・・」
「そうか?」
「植物知識は最近広がってきたとはいえ、その後がね・・・・・。チェーンクエストを色々熟さなきゃいけないわけでしょう? そのイベントに生産系スキルが必要なわけだし」
「まあ、農耕、伐採、木工、育樹が必要だしな」
「つまり、パーティで分担してスキルを取得するか、生産系のプレイヤーの協力を得るかしないといけない訳よ。そして、高レベルのファーマーの助けが絶対に必要になる」
そう考えると、普通の前線パーティじゃ、イベントを発生させるのは難しいかもしれない。多分、ファーマー用のチェーンクエストなんだろうし。
「しかも最後はレイドボスよ? ハーデス君、良くクリアできたわよね」
「まあ、運良くって感じで」
「うちもメンバーをファーマーに復帰させて頑張ってるんだけど、まだ育樹には届いてないのよね・・・・・。誰か協力してくれるファーマーいるかしら?」
ヘルメスはこの後の計画を色々と練り始めた。頑張ってくれ。花見参加プレイヤーが解散したのを見て、やじ馬たちも解散していった。まあ、外から見ていても十分楽しめただろう。そう言えば、タラリアのやらかした人。なんと外からスクショをずっと撮り続けていたらしい。しかも、野次馬にいた知人にも声をかけて、全方位からの絵を押さえていたそうだ。
「それで、その映像をタラリアのホームページで公開したいってことか?」
「そうなんです。いいですか?」
「他の人が全員オッケーしてるんなら、構わないぞ」
この人に頼まれたら嫌とはいえないだろう。ここで断ったら、可哀想すぎる。すると、どうやら俺が最後だったらしい。構わないと伝えたらメチャクチャ驚かれたな。俺って、そういうお願いを断りそうに見える?ちょっとショックだわー。
「こ、このネタ満載映像の公開をこんなにあっさりと・・・・・。さすが白銀さんだぜ・・・・・!」
「何か言ったか?」
「いえいえ、何でもないです! じゃあ、公開オッケーってことで?」
「お金をとる訳じゃなくて、本当に公開するだけなんだろう?だったらいいよ」
「あざーっす!」
やらかしさんは、大きく一礼すると駆け足で去っていった。これで少しでも彼の無念が晴れればいいね。次機会があったら最前列に立たせよう。
「モグ」
「ドリモも初めてでいきなりレイドボス戦は疲れただろ?」
「モグモ」
ドリモは俺の言葉にニヤリと笑いながら、軽くサムズアップをして答えてくれた。お、男前すぎる! 他の子たちとは違っていて、新鮮な反応が面白い。
「頼もしいな。でも、本当にすっごい強くてかっこよかったぞ?ドラゴンにもなれるんだからな」
「モグ~」
俺がさらに褒めると、ドリモは少し照れた様子で頭をかく。褒め殺しに弱いみたいだな。カッコ可愛いね。ドリモは当たりだった。いや、うちの子たちは全員当たりですけどね!
「キュイ!」
頭に衝撃が襲ってきた。ミーニィがまた人の頭の上に乗ったことは判るがなんか違う。
「キュイキュイ!キュイ!」
「モグモ!モグー!」
「キュイー!」
クママはちゃっかりとコクテンの仲間たちの間に座ると、お菓子やナッツをもらったりしている。クママファンたちに揉みくちゃにされながらチヤホヤされるのも好きみたいだけど、こうやって自分から甘えつつ静かに構ってもらうのも楽しいらしい。基本的にプレイヤーとのスキンシップが好きなんだろうな。
ゆぐゆぐとオルトは互いに背中を預け合い、ゴザの隅に腰を下ろしていた。2人とも目を閉じて、ファウのリュートに聞き惚れているみたいだ。リュートの音色に合わせて体をゆっくりと揺らしていた。
ヒムカ達もそれぞれのファンたちに囲まれ楽しそうだ。おいそこ、メリープの羊毛をはぎ取ろうとするなよ?したらお前の全財産もはぎ取ってやるからな。
わいわいと騒ぐ宴会とはまた違い、静かな大人のお花見だ。これはこれで違った楽しさがあっていいな。
予定していた花見の時間はもう終わったんだが、皆で2次会を楽しんでいたら、ヘルメスからメールが入っていた。農業ギルドで新たなアイテムが発売されているらしい。その名も雑木肥料。育樹がないプレイヤーでも、雑木を育てられるというアイテムだ。そのかわり生育は倍かかるらしい。
「俺にはいらないな」
でも、お花見イベントを起こしたいけど育樹が無いという人にとっては、素晴らしいアイテムだろう。ヘルメスたちも早速チェーンクエストに挑戦するそうだ。
30分後。コクテンがようやく酩酊状態に陥ったので、ついに酔拳の演舞の披露である。
「よ! 待ってました!」
「コクテン日本一!」
「ほら、オルト達も盛り上げろ~」
「ムムー!」
「フム~!」
俺やコクテンの仲間たちがヤンヤとはやし立て、オルトたちが手を叩いて場を盛り上げる。ファウのリュートもいつの間にかアップテンポの曲に代わっていた。
静かな宴会もいいとか言っちゃったけど、黙ったままでいられるのは30分くらいが限度だったね。
コクテンは桜の木の前に進み出ると、酔拳の構えをとった。体を前後左右にユラユラと揺らしながら、指を曲げた両手を前に突き出す。指は、まるでお猪口を掴む様な形である。
「ホアー!」
その体勢から、トリッキーな攻撃を繰り出して空を攻撃するコクテン。まんま酔拳だった。映画ファンが真っ先に想像する、あの動きだ。コクテンがアクションスターに見えて来たぜ。
「アタ~!」
「確かに酔拳といえばこの動きだけど、ここまで似せちゃっていいのか?」
そう思うレベルで似ていた。いや、ファンとしてはむしろ嬉しいけどね? 取得希望者が殺到しそうなスキルだった。俺も格闘系スキルを育てていれば・・・・・。いや、ゲームとはいえ酔っ払った勢いで俺自身が何仕出かすか分からないな・・・・・。
他には細剣術、打鞭術、鋼棍術の3種類が解放されたらしい。こういう一部武器に特化したスキルは使用できる武器などが少なく、汎用性に乏しい代わりに、剣術や槍術のような汎用系武器スキルよりも成長が早いんだとか。コクテンの仲間たちも取得していた。
いくら成長が早くても、辛くないのか? 武器を買い替えようと思ってもオーダーメイドしなくちゃいけないし、値段も高くなってしまうだろう。
そう思ったが、霊桜装備は性能が高くてしばらくは買い替えの必要はないらしい。現在の最前線で使われている装備品よりも、一段上の性能なんだとか。ペインもそんな感じ?あ、そんな感じで今後使う予定なんだ。
「白銀さーん!酒を飲みましょう!」
「そうだな。ワインを飲むか」
「いやー、白銀さん良い飲みっぷりだね!」
結局宴会になってしまった。まあ、このまま飲み続けて夜桜を楽しむのも一興か。
「んじゃあ、俺達も帰るぜ」
「ああ、気を付けて。そうだユーミル。また原始の装備を作ってくれるか?鎧とか頭の装備とか」
「・・・・・わかった。それとまだ風化した装備があったな。また千年鉱石と大地の生命の源、ラヴァ・ゴーレムの溶鉱炉を集めれば鍛えてやる」
うへぇ・・・・・あれ、しんどいんだよな。マグマの中で採掘するのが特に。
「・・・・・千年鉱石を採掘する専用のピッケル、原初の泉とラヴァ・ゴーレムの溶鉱炉で作れる」
「わかった。ちょっと待っててくれ」
・・・・・。・・・・・。・・・・・。
・・・・・。・・・・・。
・・・・・。
「持って来た!(2×10)」
「・・・・・師匠。ちょっとって言ってラヴァ・ゴーレムを何度も倒して死の泉を泳いで大地の生命の源を採取できるものだっけか」
「・・・・・昔の勇者はこのぐらい朝飯前だったらしい」
お?何か興味深い話が聞こえたぞ。
「昔の勇者って会ったことが?」
「・・・・・偶然か必然か。お前が装備しているそれは昔のドワーフ王がその当時の人間のために用意したものだ」
「じゃあ、俺が二代目ってことか?」
「・・・・・そうなる。もはや遥か昔のこと故、まだ俺は幼かったから顔も覚えていないがその装備だけは確と覚えていた」
俺から集めたアイテムを受け取り、ヘパーイストスの工房でピッケルを作ってくれた。
『ラヴァピッケル』
マグマの中でも溶けないピッケル。だが、マグマの中でしか使えず他の鉱石を掘ろうとすれば溶かしてしまう難点がある。
使い道が限定されてるぅ・・・・・。
それでも日付が変わろうとマグマの深奥にまで潜って採取ポイントから鉱石を掘り続けに行った。
そのおかげで―――隠しエリアを発見してしまったのである。
「空気がある・・・・・」
広過ぎる洞穴だった。別世界と彷彿させる程に。だが、別のエリアへ進めるわけではないようで俺はそこで鎮座している黒い巨大な物体を離れたところから見つめる。
「黒い、岩?」
採取ポイントがないしただの岩とも思えないが。・・・・・止めておこ、なんかこの場所―――ベヒモスと戦った似てる感じがする。
直感を信じて隠しエリアを後にする。さーて、千年鉱石掘りまくろうか!お?レア度★9の原始の鉱石だ!こっちは宝石!