バカとMMORPGと召喚獣!   作:ダーク・シリウス

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悪魔アスタロト

その後に一戦どころか三戦ほど行ってから城郭都市に戻ると、上層のアールヴ家に訪れた。リヴェリアが出迎えてくれた。

 

「お帰りなさいませ」

 

「ん?来ることが分かってた?」

 

「あなたの活躍の話が伝わっていましたので。里の復興の援助についても炊き出しのことも、此処に全ての情報が届けられるのです」

 

王族故に情報収取は当たり前のように行っていたのか。

 

「城壁の防衛に当たっていたんだけどワイバーンが出て来た」

 

「はい、私達もその竜種を確認しております」

 

「その後ウッドドラゴンが出て来た」

 

「・・・・・ウッドドラゴン?」

 

きょとんとした顔で俺が言った言葉を鸚鵡返しする。あのドラゴンの存在は知らなかった?

 

「展開される結界のせいで倒せなかったんだ。いや、フェルがあのドラゴンと戦うことを許さなかったから倒せなかったってのもあるな」

 

「・・・・・まさか、ウッドドラゴンまでもが」

 

知っているのか?と訊くと真摯な目つきとなって長老のところまで来て欲しいといわれた。

その通りにすると、長老にウッドドラゴンの存在をリヴェリアが伝えた途端。

 

「ウッドドラゴンが!?それはマズイ、どうにか『救わねば』!」

 

「救う?」

 

「ウッドドラゴンは本来物静かで大人しく、理知を備えている優しいドラゴンだ。互い不干渉で静かに暮らすことを暗黙の了承で我々は距離を置いてたが、帝国の魔の手に堕ちてしまっているとなると危険すぎる。この世界から最悪、動植物の生命が無くなってしまう!」

 

話を催促する視線を飛ばす。リヴェリアが詳細を加えてくれた。

 

「樹木や植物の破壊と再生の能力も備わっております。ウッドドラゴンがその場にいる限り、結界は破壊されない代償に周囲の植物達の生命を吸い取るのです。森の中で暮らす私達エルフにとっては最悪な事態になり得ます」

 

「生命を吸い取るって」

 

「この辺り一帯の草木が荒れ果て後に荒野となり、長い時を経て砂漠と化します」

 

・・・・・それはヤバすぎるだろ。

 

「どうすればいい?結界を展開させては駄目なのに近づけもしないぞ?」

 

「・・・・・結界を一度だけ斬り、ウッドドラゴンを操る物を探り壊すしかありません。帝国はそれを可能にしています」

 

「それがこれだ」

 

長老がテーブルに何かを布で巻いた物を置いた。布を開くと―――それは見覚えのある黒い靄を発してる黒い棘を見せてくれた。リックとファウが恐る恐ると

 

「これを帝国が次々とモンスターの身体に突き刺してどうやってか使役している。これごとモンスターを倒すとこの棘に死骸が吸収されて最後に棘も消失する。最初はこれと届けられる報告に訝しんだが、ウッドドラゴンまで操られているとなると黙ってはいられなくなる」

 

「じゃあ、ウッドドラゴンもそうなると」

 

「そう思っても間違いないだろう。だからこそ、ウッドドラゴンを討伐せず黒い棘を破壊して欲しい」

 

「結界をどうにかする方法は・・・・・」

 

「すまない。我々もその手段がわからない。ウッドドラゴンは周囲の植物の力を借りて能力を駆使する。逆に言えば周囲の植物がない環境で戦うことが出来るならば能力は使えなくなるのだが・・・・・」

 

この辺りは大自然。そんな方法は不可能だと沈黙する長老。ある意味、ウッドドラゴンは環境に応じて無敵にもなるし無力にもなる極端な存在。無力にする方法はこっちで考えないとダメだな。

 

「ウッドドラゴンの話を聞けて助かった。何とか救ってみせる」

 

「何から何まですまない・・・・・」

 

「それとお願いがあるんだ。オルト達をたまにここに預けてもらっても?」

 

「おおっ、それならいくらでも構わない。寧ろ、精霊達や幻獣種と触れ合う機会をくれることに感謝する方だ」

 

快く了承してもらえた。感謝の念を頭下げて伝える。

 

「それはそうと、寝泊まりする場所はどうかこの家にしないか?」

 

「いいのか?」

 

「他の冒険者には申し訳ないが君は娘の恩人だ。感謝の言葉じゃなくちゃんとした礼をしなければ孫の代まで私はアールヴ家の恥となってしまう」

 

恥じうるのが嫌すぎるのかここのエルフは。でも、それも感謝して言葉に甘えることにした。

 

「・・・・・もしかすると、未来の義息子になるやもしれんし。もう少しこの目で―――」

 

「ふんっ!!」

 

 

ガッシャーンッ!!

 

 

部屋から外へ吹き飛ぶ長老。そんなことした娘。

 

「―――何も聞いていませんでしたよね?」

 

「・・・・・ア、ハイ。ナニモ」

 

「では、寝室へ案内しますね。ついてきてください」

 

ニコリと笑顔で何事もなかったように振る舞うリヴェリアにビビるオルト達。

 

「・・・・・怒らせないように気を付けような」

 

「ムム・・・・・」

 

寝室の確認が済み、その14人も一緒に寝るには狭い部屋を入ろうとする俺を中に引っ張り押すオルト達に彼女が困惑する。よもや、オルト達もここで俺と寝る気でいるのが予想外だったようだ。俺もそうだったがな。

 

「あー・・・・・14人分の布団と可能ならどこか広い部屋の床に寝たい」

 

「広い部屋となると・・・・・食卓用の部屋しかありませんね。わかりました。従者の者達に就寝の時は布団をそこへ用意させるようにします」

 

「重ね重ねありがとうっ」

 

その場で土下座をして感謝したらあわてふためくリヴェリア。・・・・・だが。

 

「あー・・・・・リヴェリア。もしかすると7人増えると思う」

 

「え?他に誰が・・・・・あっ、イズとイッチョウも?」

 

「うん、そう。あと知り合った5人組ももしかしたらここへ泊めて貰いたくなるかも」

 

「あなたの友人ならば長老も拒みはしないかと思います。後で訊いてみますね」

 

「ありがとうございます!」

 

「ですから土下座はしなくて結構ですよ!ああ、従魔達まで!」

 

オルト達も俺の真似をしたら深々と頭を下げる。そうそう、感謝は行動で示すことを忘れていなかったな。

 

「そうだ。魔茶葉を貰ったから淹れたいんだが」

 

「魔茶葉?もしかして飲み屋のエルフから貰いました?」

 

「そうだけど有名な店だったりする?」

 

「里ではあの店にしかない飲み物や乾燥させた商品は、人間の王侯貴族達の間ではかなり価値のある高級な物だと称賛されています。ですが彼は人間を好まず、商品を売るにしても極少しか売りに出しませんよ」

 

だから直接取引しようならば、絶対に顔も商品も出さない頑固者の一面もあると言う。

 

「今回の冒険者の救援の要請も、彼は良い顔をしませんでした。なのにあなたに茶葉を渡すとは・・・・・」

 

「傍に精霊が居たからだと思う。あのエルフもオルト達との仲の良さを見てから信用してくれたんだ」

 

オルト達を見て態度が変わったからな。

 

「なるほど。精霊はエルフにとっても敬う存在です。四種族の精霊が集い使役する者がいたら、まだ警戒はするが信用を傾けても良い程度になるかもしれません」

 

あのエルフはそういう感じか?では、用意しますね。と部屋を後にするリヴェリアを見送り、床に腰を落とすとあっという間に従魔達に群がられた。いや待てクママ。胡座の上に乗られたら視界一面黄色い・・・・・あ、モコモコだぁ・・・・・。

 

 

しばらくして魔茶葉の淹れ方をレクチャーしてくれる前に、貰ったから茶葉を見せる。これは私も一度しか飲んだことがない茶葉っ!こっちは数年に一度しか採取できない凄い希少で販売されるのも稀だという茶葉っ!?と興奮したリヴェリアの落ち着きが収まるまで今に至る。小一時間ほどこうしてのんびりとだ。

 

「はぁ~~~凄く、美味しかったです・・・・・」

 

「本当にこれがこの世にあったのかと思う物の美味しさだ。オルト、これを畑で育てることは?」

 

「ムム」

 

できないか。苗木からかなやっぱり。

 

「こんな非常時じゃなければ、憂いなく心から楽しめるのに残念です」

 

「大体、帝国はどうしてここに攻めてきている?」

 

「世界樹ユグドラシルを狙っているのかもしれません。あの樹木は地神が大地を創造した後に世界で最初に創造した古代樹でもあります。世界樹の葉に溜まった雫は癒しの力が籠っており、枝一つで強力な武器が製作できます」

 

かもしれない、か。具体的な理由は判らず仕舞いなんだな。ま、戦争を始める理由なんて些細な事から大それた事、千差万別だ理由を知ったところでどうにもならない時もある。そろそろ防衛線に行こうと立ち上がる。

 

「帝国が攻め入っているが里の外に出られるんだっけ?」

 

「はい。ですが高レベルのモンスターで溢れかえっております。お気をつけて」

 

「わかった。サイナ、一緒に防衛線をしに行こう。オルト達はここで待機な。リヴェリアの言うことをちゃんと聞くんだぞ。ミーニィ、ドリモ、フェル。また力を貸してくれ」

 

ムム!と敬礼するオルトやゆぐゆぐ達と別れ、アールヴ家を後に東門へ向かう。

 

 

 

五度目の戦いにて一日一回しか使えないスキルを除き順調にレベル50、中ボスのワイバーンまで倒すことができた。サイナの働きがとても助かっている。【機械創造神】で閃光手榴弾を大量生産してくれて動きを停め、地雷を設置して踏むたびに爆発で吹き飛ぶ様は痛快だった。・・・・・ふむ。

 

「マスター、地雷の補充完了しました」

 

「おし、このインターバル中に設置するぞ」

 

その後もレベル59のモンスターのウェーブを終わらせ、せっせと急いで設置する。中には痺れ罠も機械式落とし穴もある。巨大な落とし穴機を設置すると地中を深くまで掘り空洞を作り出していく。地面の表面に穴を開けなくても穴を塞ぐ工作もせず、自然なままの状態だと、そこに落とし穴があるぞーと印も相手に違和感も抱かせない。それを端から端、横一列に落とし穴を用意していく。

 

「さーて、準備万端。迎撃態勢も整えた」

 

インターバルも経て現れる木龍ことウッドドラゴンさん。あ、そこ。落とし穴ですよ?

 

と言ってもわからないだろうな。轟音を立てて目の前に着地する刹那。ズボッ!とラスボスが地面に降り立った瞬間に地面が陥没、ウッドドラゴンが地面の穴の底へと落ちるシュールな光景を見れた。

 

「今ですマスター」

 

「時間稼ぎ頼む! 【飛翔】!」

 

MPを消費して空を飛ぶ。ウッドドラゴンが落ちた穴に俺も落ち、体中の蔓を動かして地上に這い上がろうとするウッドドラゴンの身体に触れることが出来た。

 

「【手加減】! 【稲妻】! 【パラライズシャウト】!」

 

不安だったので一撃でHPバー全損しない【手加減】を加えて【稲妻】で麻痺とスタンのデバフの状態異常攻撃。それでも駄目でごり押しの【パラライズシャウト】でマヒらせる。

 

「うし、効いた!」

 

地の底へ逆戻りするウッドドラゴン。さてどこだ、あの黒い棘は?ここか?んー?ここかー?身体に纏う黒い靄で視界が不良だから手探りで探す他ないんだよな―――とっ!

 

見つけた!

 

しかも長老が見せてくれた物より太くて大きい。深々と首のうなじに突き刺さって中々取れそうにないが、取らなきゃいけない。

 

「ふんっ!」

 

足腰に力を入れ、あらん限りの握力でウッドドラゴンを操る原因を抜き取りに掛かるが、本当に簡単には抜けんっ! しかも、地上に這い上がってしまい身体から伸ばす蔓が触手のように巻き付けてきて俺の身体を縛り上げる。俺を遠ざけようと引っ張り始め―――。おや、HPバーに変化が・・・・・。

 

「え?HPが減ってる?」

 

まさか、ドレイン効果か!?

 

「【悪食】! 【生命簒奪】!」

 

そっちがその気ならこっちも考えがあるんだよ! お互いHPドレインの綱引きをはじめつつ【悪食】も使用する! HPドレインに関する事なら負けないぞ!

 

―――と思ったら【悪食】で大きな黒い棘が欠けた。・・・・・失敗した。掴んでいた部分が消失してしまったから棘を手放してしまい、蔓が俺を地上へと放り投げた。

 

 

グゥゥゥゥゥォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!

 

 

穴からウッドドラゴンの叫びが聞こえて来たと同時に、黒い靄が意思が持っているかのように奔流と化して空中に集束し、人型に形作っていく。

 

「おのれ・・・・・よくも我の邪魔をしてくれたな人間風情が」

 

黒い靄から現れたのは紳士服を身に包み白髪をオールバック、敵意と殺意を隠さない睨みつけてくる赤い瞳を持つ長身の若い男だ。片腕に蛇を持って背中に蝙蝠のような黒い翼を生やして空に浮いたまま言ってくる。

 

「悪魔だな?帝国と手を組んでいるとは驚いたが、大方帝国を利用する側なんだろ?」

 

「ククク・・・・・その通りだ。奴らの頭の中は力にしか興味がない愚者ばかりで取り入るのは簡単だった。逆に利用されていることも気づかないのだからな」

 

「一つ質問していいか?黒い棘は一体なんだ?」

 

「人間ごときに教えることはない。貴様はここでこのアスタロトに滅されるのだからな!」

 

定められた運命を口にし、断言するアスタロトの宣言。森の奥からモンスターの大群、穴からウッドドラゴンが這い上がってきた。こっちまで突進してこないモンスター達に不思議な疑問を抱く。

 

「ウッドドラゴンに植えた黒棘を破壊しようと我の手中のままだ。あの程度で救ったと思い上がったその傲慢な考えは実に滑稽だな。このドラゴンの洗脳は既に済ませているのだからな」

 

「・・・・・」

 

黒い靄を未だ纏っているウッドドラゴンを見据える。

 

「ミーニィ、【巨大化】!【ホーリブレス】!」

 

サイナと待機していたミーニィの身体が巨大化。続いて口から純白の閃光を放ってウッドドラゴンを呑み込み―――また落とし穴に落ちた。

 

「【咆哮】!」

 

「むっ!?」

 

「ドリモ、【竜血覚醒】! 【追い風】! 【強撃】!」

 

「モグモ!」

 

悪魔の動きを十秒間強制停止、ドリモがドラゴンになって突進して攻撃した。吹っ飛ぶアスタロト。すぐにモグラに戻るドリモをサイナに回収させる。

 

「ぐっ!? この場にドラゴンが二体いようと我にはそれを上回る戦力がある! 行け!」

 

控えていたモンスター達が再び動き始め―――まだ未使用の落とし穴が、地面が一気に陥没して雪崩れ落ちていくようにしてモンスターの集団が地の底へ消えていった。

 

「こっちも何の準備もしていないでいたと思っていたのか?―――【毒竜】!」

 

落とし穴へ展開した魔法陣から毒液を放つ。瞬く間に毒の溜め池が出来て、軒並みに大体のモンスターはこれで倒した。残りは突如開いた大穴に足を止めるが、後続から押し寄せるモンスターに押される形で毒の領域に落とされる。

 

「なっ―――!」

 

「猪のように真っ直ぐ来る相手ならかなり効果覿面だろ?」

 

俺達が全員落とし穴の上に立っても蓋の役割を担っている地面は崩壊しない。だが、全力で力強く走る上に俺達より重い総重量で落とし穴の上に移動するならば、どうなるか火を見るよりも明らかな結果がこれだ。

 

「さぁ、どんどんモンスター達を出せ! この毒の領域に誘ってやる!」

 

ふははは! もう百単位のモンスターを毒に沈めている! 大穴を飛び越え様ならばサイナが創造した重火器が出迎えてくれるぞ! 実際現在進行形そうしているがな! フェルも駆け回って駆逐していく!

 

「く、くそっ・・・!おのれ、我が軍団を・・・・・悪辣卑劣な罠で! 正々堂々と勝負をしろ貴様! それでも人間か!?」

 

「そっちが黒い棘でモンスターを使役しているようにこっちも正々堂々と知謀で戦ってますが?戦わずして勝利するのが理想的だろう?―――【エクスプロージョン】!」

 

悪魔に向かって爆裂魔法を放つ。盛大な爆発が絶えないスタンピード中のモンスターにも直撃して吹っ飛ばす。

 

「き、きさ―――」

 

「【エクスプロージョン】!」

 

「ま―――」

 

「【エクスプロージョン】!」

 

もう二度ほどお見舞いしてやった後、前へ飛び出してアスタロトの懐に飛び込む。既に迎撃態勢だったアスタロトの蛇が禍々しい紫色の魔方陣を展開していて俺を待ち構えていた。

 

「喰らえ!! 我の毒を!! デッドリーブレス!!」

 

毒には毒をってことか?奴が放った毒魔法は、紫色の霧だった。

 

「ふははは! 貴様も毒魔法を使えるようだが毒に関しては我の方が遥かに上だ! 逃げる暇さえないこの毒の領域に生あるものが耐えられるものでは―――」

 

「・・・・・」

 

「な、い・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

平然と毒霧の中で佇む俺。何度か瞬きした後で目を点にするアスタロト。

 

「・・・・・理由を聞こうか」

 

まずは目の前の疑問から解消したい様子のアスタロトの質問を正直に答えてやった。

 

「ヒドラ知ってる?毒竜の」

 

「知っている」

 

「俺、ヒドラを食べたから毒に関するものには一切通用しなくなっちゃったんだよね」

 

「―――はっ?」

 

呆然としている間に隙をついてアスタロトの毒蛇を掴み―――いただきます。

 

「モグモグ・・・・・」

 

「わ、我の蛇を喰っているだとっ!? まさか本当に毒を無効化にする耐性を得ているというのか!!」

 

 

スキル『デッドリーブレス』を取得しました。

 

 

あ、随分と久しぶりの毒魔法を取得出来ちゃった。

 

「そういうこと。毒魔法しか攻撃手段がないなら、俺はお前の天敵になるな」

 

「ぐっ・・・・!!」

 

形勢逆転かな?とほくそ笑んでいたら毒霧の向こうから蔓が襲い掛かってきて俺の足に巻き付き、地上から高く持ち上げられた。

 

「ウッドドラゴンか!」

 

アスタロトと話し合っている間に穴から出て来たか! アスタロトが嘲笑う。

 

「ふははは! 貴様が我の毒が効かずとも物理攻撃そのものまで無効化できまい!」

 

段々と霧が薄れて下にいるアスタロトの姿が見える。

 

「やれウッドドラゴン! 生意気なその人間をミンチにするまで地面に叩きつけるのだ!」

 

自分の勝利を疑わず優越感を露にするアスタロトの命令はウッドドラゴンに届いた。俺を持ち上げる蔓がうねるように持ち上げ、勢いよく地面へ振り下ろす―――!!

 

 

―――ことはなくて、ウッドドラゴンの方へ運ばれ樹木の背中に置かれた。

 

 

「・・・・・?」

 

なんでだ?と疑問を抱かせるウッドドラゴンが首だけこっちに振り向いて、理性ある瞳から視線を送ってくる。

 

「どうしたウッドドラゴン! 何故我の命令を―――」

 

完全に晴れた霧からこっちの状況をやっと把握できた矢先に言葉を失ったアスタロト。

 

「我の支配の力から脱しているだと・・・・・?」

 

『―――去れ、悪しき者よ。私は無益な殺生は好まない。この世界で生を受けた者が例え悪意あるものでも命を奪う気はない』

 

「我を愚弄するか!! 我はまだ負けてなどいないぞ!!」

 

『これ以上この森を穢すのであれば、今度は私が相手をする』

 

地面から隆起する数多の野太い木の根が鋭い突きを放つ。最小限の動きだけで回避し、貫いた!と思ったら根っこを腐食して防いで見せた。宙へ逃げ俺達を見下ろす。

 

「・・・・・致し方がない。ここで敗れては魔王様に申し訳が立たない。計画は五分五分の成果しか達せないが、実験は概ね成功として納得しよう」

 

「魔王ちゃんと会ったら、よろしくなー」

 

「馴れ馴れしく魔王様をちゃん付けするな! 貴様の顏はよく覚えた! このアスタロトと対等に渡り合える人間などそうはいないからな。次に会う時は真の毒で骨の髄まで犯してみせる!」

 

覚悟しておけ!と捨て台詞を残して空の彼方へと飛んで行ったアスタロト。何だか話すと面白い悪魔だったな。

 

『感謝する人間よ。私が操られたままであったら彼のエルフ達にまで迷惑をかけていた』

 

「エルフの長老がウッドドラゴンを助けてくれと頼まれたからな」

 

『そうか・・・・・ならば礼を言いに行かねばな』

 

背中からサイナ達の方へ降ろされる。

 

『私もこの里の守りに入る。しばらくしたらアールブの者に会うつもりだと伝えてくれるか』

 

「ん、わかった」

 

森の奥へと歩いてこの場から遠ざかるウッドドラゴンを見送る。あ、そういえばサイナ。モンスター達は?

 

「悪魔が撃退されたことで黒い靄が消失、正気に戻ったモンスター達は森の奥へと行きました」

 

「そうか。取り敢えず今日はここまでだな。フェル、ドリモもご苦労だったな」

 

「グルル・・・・・」

 

「モグ!」

 

これでもかと、褒めちぎって撫でまわす。おーよしよし! お前等の毛並みは最高だなー!


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