イッチョウside
なんか、暗い影を落としている人がいる。今まで見たことが無いぐらいに。食堂で夕食を食べに集まった私達だけど部屋の隅にずーんと膝を抱えて落ち込んでるハーデス君と彼を慰めるオルト君達の光景にどうしたんだと疑問が沸く。
「ハーデス君、どうしたの?」
「さぁ、さっぱり・・・・・」
「あんなに落ち込んでる彼は見たことが無いわ。ゲーム中に何か遭ったのかしら」
誹謗中傷を浴びせられた? でもそんなのあの人は名前を言ってはならないのあの人だから受け流していそうだけど、避けられない凄く衝撃的な事と直面したのかな?
「えっとサイナちゃん。ハーデス君はどうしたの?」
「回想。新しく取得した称号がとても災難な物でしてマスターはとても落ち込んでおられます」
「称号で落ち込んでる? どういうことだ?」
「勇者の称号を得た状態で冒険者、この世界で生きる人類を1000人殺害してしまうと恐怖の大魔王になられてしまう事実にマスターは落ち込んでおります」
はいっ!? 恐怖の大魔王!? なんなのそのおかしな称号!!
「えーと・・・・・私達も恐怖の大魔王になっちゃうってこと? 勇者の称号を持つと」
「肯定。十分に可能性がございます」
「おいおい、なんだ他所の称号の設定。他のプレイヤーを1000人倒したら恐怖の大魔王になるなんておかしすぎるだろ」
「既にマスターは里の外で襲撃してきた数百の帝国の軍勢のうち100人のHPを1割以下という半殺しをしてしまい、血塗れた残虐の勇者の称号を得てしまっております。冒険者でも100人殺害すると得てしまいます」
「どっちも100人でも不名誉な称号を得るってのかよ!! というか、里の外で一体何してたんだハーデスの奴は!?」
そこは激しく同感だよん。ペインさんが顎に手をやって考え込む仕草をした。
「今後のイベントに参加する俺達を束縛してしまう称号でもあったのか」
「あーペインの場合は強すぎてたくさん倒しちゃいそうだよね。そんな称号を得るなら勇者の称号欲しくなかったかなー」
「まったくだ。運営は何を考えて真逆な称号を設定したんだ。因みにその2つの称号を得たらどうなる? 効果は?」
その効果はサイナちゃんじゃなくて落ち込んでいたハーデス君がポツリと答えてくれた。
「・・・・・血塗れた残虐の勇者の場合は、友好的なNPC以外のNPCとモンスターに50%の恐怖を与える。恐怖の大魔王の場合は、NPCの好感度が-100になって全プレイヤーから討伐の対象に数えられる。ガンバッテー(by運営)。以上」
「「ふざけるな運営!!!」」
ドレッドさんとドラグさんが運営に怒りのツッコミを入れた。フレデリカちゃんはげんなりとした表情を浮かべ、ペインさんは「困った効果だな」と呟く。
「えっと、プレイヤーの方ってイベント中に倒してもそうなっちゃうの?」
「いや、知らないし」
「PKで倒しちゃった結果で得ちゃうならどっちも問題ないけど、プレイヤー同士の戦いを経て得てしまうなら詰みだね」
「そもそも勇者の称号を得る条件はレジェンドモンスターのレイド戦時に2パーティ以下で勝つことだ。そんな隠し設定を俺達が気付くはずがない。きっと他にも勇者の称号を得るクエストがあったと思う」
「大勢が勇者になれるプレイヤーのためのクエストを? 勇者って職業じゃないよな?」
うーん、結局勇者って良くも悪くもなってしまう称号ってことなのはわかったけど、気の毒にハーデス君・・・・・。
「・・・・・はぁ、落ち込んでもしょうがない。まだNPCとモンスターに怖がられるだけの称号だって割り切るしかないな。寧ろ今のイベントに都合がいいと思うべきか」
落ち込んでいた彼が深い溜息を吐きつつ立ち上がってこっちに来て席に座った。そんなハーデス君にセレーネさんが話しかける。
「大丈夫・・・・・?」
「なるようになるしかないって。仮に恐怖の大魔王になったらそれはそれで楽しさを見出すしかないだろ。色んなプレイヤーと戦う楽しみもまたゲームの醍醐味だ」
「うん、そうだね」
「ペイン、そこで同感したら絶対に先にお前が恐怖の大魔王になるぞ」
開き直ったハーデス君のおかげで場の空気は何時もの感じに戻りエルフの給仕さんが料理を運んでくれる時間になった。
「きゃーっ!!」
「・・・・・こんな感じか」
NPCに50%の恐怖を与えるという効果を目の当たりにしてしまった私達は恐らくハーデス君に同情したと思う。ハーデス君を一目見たエルフの給仕さんが一目散に逃げちゃったから。
「とても難儀な称号の効果だねハーデス君」
「うっさい。というか、今後のモンスターとの戦いもこれじゃあ大変だぞ」
「あっ、恐怖を与えるだから無条件に怖がって戦えなくなる?」
「逆にモンスターが出てこないならどんな場所でも楽に移動できるんじゃない?」
メリットとデメリットの差が違い過ぎるかな?
「試しに全身を隠すローブでも纏って試したら?」
「恐怖を上回る完全に怪しいプレイヤーになるなぁ・・・・・。まともな対話が出来るなら考慮するけどさ」
そう言いつつイズさんがアイテムボックスからそのローブをハーデス君に手渡し、全身を隠した彼の直後にマッチョな長老さんが入って来た。
「給仕の者が怖い存在がいると訊いたのだが、む? 勇者殿は何故そのような格好を?」
「えと、彼は友好的な人以外だと恐怖感を与えてしまうようになってしまったので」
「ふむ・・・・・もしや呪いの類を掛けられてしまったか? いや、友好的な者以外を恐怖を与えるというのはおかしなことだな」
長老さんは給仕さん達を招いてハーデス君を見るように言う。
「今の彼は恐ろしいか?」
「す、姿が見えなければ・・・・・いえ、申し訳ございませんがこの場に立っているだけでも、彼がとても恐ろしく感じます」
「むぅ・・・・・私は彼に恐ろしく思えないのだが」
顔を蒼褪めて怯える給仕さんと平然としてる長老さんの違い。本当に友好的なNPCだと恐れられず、そうじゃないNPCには怖がられるんだね。
「ローブでも駄目なら、恐怖感を抑える効果のアイテムを探すか作るしかないわね」
「称号を一つ消去するアイテムは無いものか」
「スキルならあるけど、称号を消すアイテムは課金アイテムでもないね」
「・・・・・最悪だ」
私も気を付けないと。いい称号があるなら悪い称号もあるって誰も思わないことだからね。
「称号を消す、というのは分からぬが遠い地にある神を崇める神聖教和国にいる聖女なら何とかなるかもしれないぞ」
「神聖教和国の聖女?」
「摩訶不思議な力で人間や傷ついたモンスターを癒しの力で助け、魔王や悪魔の打倒を主張しているこの世界で一番影響力がある国だ。始めにこの世界の大陸が出来たのはドワーフ達が住む火山だとして、神々が最初に舞い降りた場所と言えば神聖教和国のところだと言い伝えられている」
唐突に語る長老さんの話に私達は耳を傾ける。
「嘘か本当か分からぬが、聖女が悩める者の願いを神に祈りとして伝え、その祈りが届けば神から神託を下されることがあるようだが」
「神からの信神託・・・・・」
「うむ、神託を下された聖女から勇者殿の悩みを解決してくれるかもしれない。ただ、神聖教和国はこの大陸に点在する国のどこかにあると聞く。しばらく勇者殿の悩みは解決できそうにないが・・・・・」
「いや、一縷の望みがあるならそれに懸けてみる。ありがとう」
「礼は必要ない。聖女は勇者の力が必要不可欠であり勇者も聖女の力が必要不可欠な存在だ。勇者の頼みならば彼の国も魔王打倒のために力は惜しまないだろう」
そもそもだ、と言い続ける長老。
「勇者を選出する試練を神聖教和国は積極的に行っているそうだ」
『っ!?』
勇者を決める戦いを? 本当にレジェンドモンスターを倒す以外にも勇者を選ぶ方法があるなんて吃驚だよ!!
「それって何人までか分かりますか?」
「人数制限を設けていない。魔王を討伐しりうる可能性があるものならば何人でも構わないのだ」
そうなんだ・・・・・じゃあ、私にも希望があるんだね。なら頑張って勇者になってみようかな。
「さぁ、気を取り直して夕餉の時間にしよう」
長老さんの催促に私達は給仕さん達が恐れながらも運んで来てくれた料理の味に舌鼓し、備わっていたバフが勿体ないと思いつつ堪能した。
「長老、飲み屋のエルクの茶畑が―――」
「そうか・・・・・そこまで帝国の者達が攻めていたのか」
「苗木を受け取った。こっちで育て苗木に出来るようになったら渡すから植え直してくれないか」
「あの茶畑はエルフの宝でもあった。その復活に協力してくれるなら是が非でも」
うん? ハーデス君が虚空を見つめて指で何か触れる仕草を・・・・・まさか、クエストを発生したの?
―――4日目
不名誉な称号を得てしまった以上、モンスター相手にどれだけ効果があるのか実践してみた結果。
防壁かプレイヤーに突進してくるはずのモンスター達が、半分の確率で突撃してきたり来なかったりという摩訶不思議な現象が起きた。
「へぇ、ものは使いようか。50%の確率でモンスターが俺に恐怖するってのは、こういうイベントの時には楽になるな」
ただこの時まで俺は本当の意味で称号の効果を知らなかった。それはレベル53、俺より高いレベルのモンスターが現れた時だ。
「あれ、全然恐れず突っ込んでくるな? 何体か動かなくなるはずなんだが」
「回答。恐らくマスターより高レベルモンスターには恐れないかもしれません」
「え、マジで? そういうことなら嬉しいんだけど!!」
レベルの有無関係なく恐れないでくれるならモンスターを倒せれるじゃん!! いやっほーい!!
嬉しい誤算という事実に歓喜しながら65レベルまで攻略した。ゴーレム対策に落とし罠を設置してラヴァピッケルを装備して構えていたら―――。
「また相まみえることに―――(ズボッ)」
「え?」
何か見覚えのある悪魔が落とし穴の上に空から下りて来たと思えばそのまま落ちた。サイナ達と顔を見合わせ、落とし穴へ歩み寄ると穴から勢いよく飛び出してきながらソレに怒鳴りつけられた。
「貴様っ!! この我が来ることを知っての狼藉かっ!?」
「いや知るか!! 余計なことをしてくれるなよ!! そこはゴーレム対策に設置した罠なのに!!」
「それこそ我の知ったことか!! ええい、少しは見応えのある奴かと思えばやはり貴様とは相容れぬ存在だ!!」
泣きべそをかいて逃げていった魔王の幹部アスタロト。見応えのある奴って・・・・・もしかして血塗れた残虐の勇者の称号か?
「ふん、今貴様が考えている通りだ。勇者でありながら守るべき人間どもを血祭りにした貴様に我らが魔王様と我を除く72の柱の幹部達が関心を得た。今までの勇者とは違う勇者の貴様に遺憾ながら、魔王様から友好の証として我が送り届けに来たのだ」
「魔王ちゃんから贈り物?」
「魔王様にちゃん付けするなと言っておろうが貴様っ!!」
「威厳と可憐さを兼ね備えた魔王が可愛くないと?」
「・・・・・答える義理はない!!」
こいつも魔王ちゃんが可愛いと思っているんだな。
「さっさと受け取るがいいっ! 我は貴様と違って忙しいのだ!!」
青いパネルが目の前に表示された。アスタロトから送られてきたのは・・・・・なんだこれ?
「黒い卵?」
「ただの卵ではない。冥界に住む魔獣の卵だ。それも絶滅危惧種の魔獣が産み落とした卵だ」
「冥界、絶滅危惧種の魔獣、卵・・・・・ちょい待て、一気に知りたい情報を言わないでくれるか?」
「貴様の事情なぞ我が知るか。確かに渡したからな、くれぐれも魔王様のご厚意を無下にするではないぞ。血塗れた残虐の勇者よ!!」
「それを言うんじゃねぇえええええええええええっ!!」
あの野郎、愉快そうに高笑いしながら飛んで行きやがった!! 今度会ったらその頬にアルゴ・ウェスタで焼いてやるぞ!!
「マスター、ゴーレムが出現しました」
「くそっ! この怒りをあいつらにぶつけてやる!!」
見事に落とし穴に落ちてくれたゴーレム達にラヴァピッケルを普段より力を込めて振るった。
そして66レベルに出現するNPCの軍勢と対峙する間もなく撤退に徹した。これ以上NPCを傷つけたら恐怖の大魔王になってしまうわ!!
勇者の称号が枷でしかなくなってしまった以上、俺は65レベルまでしか攻略できない。もはや俺がこのイベントに参加する意味がなくなったも当然だ。家畜保護と復興はするが残念な気持ちになった。今日1日と明日は魔獣の卵を温める時間が多そうだな。
イズside
何かの卵を身体で温めているハーデスが食堂にいた。訊いたら魔王ちゃんからの友好の証としてモンスターの卵を悪魔から貰ったみたい。
「ミーニィちゃん以来の卵ね」
「そうだな。今度はどんなモンスターが生まれるのか想像できない」
「あの、どんな卵なのか判る?」
「冥界に住んでいる絶滅危惧種の魔獣だと」
「冥界? 絶滅危惧種って、それに魔獣とモンスターの違いって何かしら」
首をひねる彼でもその違いが判らないらしい。生まれてからのお楽しみね。
「ランキングの方はどんな感じだ?」
「ちょっと待ってね。えとまだ私達がトップだわ。ペイン達の撃破数が記録を更新しているけれど」
「・・・・・少し危ういか。恐怖の大魔王を取得するギリギリまでNPCの軍勢を倒して記録を更新しないと抜かれるだろうし」
心配してもどうしようもないだろうけど、彼がそうしてくれるのは私達が欲しい『不壊のツルハシ』を欲しいとお願いしちゃったからだよね。うーん、彼には申し訳ないわ・・・・・。
「ハーデスはこれからどうする?」
「今日1日はこれを温めてる。どんな魔獣が生まれるのか早く見て見たいし」
フェンリルの横っ腹に背中を預けて、オルトちゃん達に囲まれてる微笑ましい光景を作るハーデスを見てなんとなくスクショをした。
―――イベント最終日5日目
討伐数の記録を更新し続けるペイン達の予想道理の結果にイズとセレーネを引き連れて一戦だけ66レベル以上の更新を目指す。
「ハーデス、ワイバーンが来るわっ!」
「降りようとするところに閃光手榴弾! 視界を封じるんだ!」
5日間も相手にしたモンスターの対処法もスムーズにこなし大量の鹿には【挑発】で注意を引き寄せ、二人に点数を稼がせる。それからこれで何度目かわからないゴーレムを攻略すれば、NPCの軍勢が現れる。
「【飛翔】」
空を飛びNPCの軍勢の真上に移動―――「【
―――あれから限界まで防衛した俺達は家畜保護に半日も精を出した。使わないポイントが貯まるばかりのを無視しもう半日は卵を温め続けていたらいつの間にかその時が来た。
アナウンスが鳴り響く。
『イベント5日目、18:00です。イベント終了となりました』
おお、もうそんな時間か。イベントが完全に終了し、俺たちは前回と同様に不思議な場所にいた。
漆黒の宇宙の様な空間に、直径100メートルほどの円盤が浮かんでいる。その円盤には、俺を含めた300人ほどのプレイヤーが乗せられていた。どうやら、またこうしてプレイヤーが全て集められているみたいだな。
周囲を見ると同じような白い円盤がいくつも浮かんでおり、他のプレイヤーが乗っていた。
漆黒の空間の一部に超巨大なスクリーンが浮かび上がり、そこにエルフのアバターが表示された。同時に、ステータスウィンドウでも同じ映像を見ることが出来る様だ。
『それでは、イベントの結果を発表させていただきます。ご静聴下さい!』
ペイン達と一騎打ちのような形だ。さて、結果は・・・・・?
一戦内・個人撃破数ランキング
1位 死神ハーデス 1198体
2位 ペイン 1191体
3位 ミイ 586体
4位 イズ 557体
5位 カスミ 543体
以下省略・・・・・
ペイン、あいつめ負けず嫌いだってことをよーくわかったぞ。あいつも限界まで挑んでいたようだな。さてパーティの方は?
討伐数ランキング(一戦)・パーティ部門 ※リアルタイム更新
1位:死神ハーデス(盾)・イズ(鍛)・セレーネ(鍛)2022体
1位:ペイン(剣)・ドレッド(軽)・ドラグ(斧)・フレデリカ(魔)2022体
「同列!?」
「同列か」
あ、聞き覚えがある声だった。隣に振り返ればペイン達がいた。
「粘った甲斐があったよー。本当に厄介だったねあのNPCの軍勢」
「ま、俺達の手にかかればこんなもんだろう」
「殆ど一人であそこまでの記録を叩き出したプレイヤーの方が驚嘆の念を禁じ得ないがな」
『次はNPCの貢献度の順位を発表いたします』
モニターに映し出される上位のプレイヤーほど、知った名前が載っていた。肝心の俺の名前は―――。
『エルフの里の貢献度、全体での1位は・・・・・死神ハーデスさんです!』
ん? 俺? 初日以降はあんまりしていたつもりはないんだが。他のプレイヤーが俺よりしていなかったってことか?
『そして最後に称号の贈呈です。今回のイベントで大いに貢献したプレイヤーは個人撃破数1位から10位のプレイヤーには、「エルフの良き隣人」の称号を。NPC貢献度1位から10位のプレイヤーには「世界樹の守護者」の称号が与えられます』
称号:エルフの良き隣人
効果:賞金20000G獲得。ボーナスポイント4点獲得。防衛戦で活躍した証。
称号:世界樹の守護者
効果:「世界樹の葉」獲得。里内でのNPCとの会話時、友好度にボーナス。イベント「防衛戦」で活躍した証。
名称:世界樹の葉
効果:10秒以内に死亡したプレイヤーに使用すれば体力全回復の状態で復活する
え、これ凄くない? 使うのが勿体ないぞ。お、パーティ部門の方から『不壊のツルハシ』が送られてきた。あの二人の願いを叶えられてよかった。でも個人の方は?
『これにて、結果発表は終了となります。お疲れ様でした。一部のプレイヤー以外、皆様をイベント開始直後にいた場所へと戻します』
意味深なその言葉が終わった瞬間、俺たちの視界が暗転し、直後には見覚えのある風景が目に飛び込んで来た。世界樹だ。俺だけじゃなくペイン達も一行もだ。目の前に世界樹を背後に長老とリヴェリアが立っていた。
「勇者殿、我等エルフの里を守っていただき真に感謝する」
「友達の頼みならば当然だ。だけど、どうして俺達だけここに?」
「勇者の名に恥じない多大な貢献を築き上げた貴殿らに、我らからその働きを報いるため秘宝を授ける。だがその前に会ってほしいものがいる」
誰のことかと思えば地面から飛び出す幾重の樹木が形を成していき、やがてそれは悪魔の支配から解放したウッドドラゴンになった。
「あ、ウッドドラゴン」
「ウッドドラゴンか。俺達も戦ったが全然歯が立たずで撤退するしかなかった」
「どっかの誰かさんみたいに防御力が高すぎてね」
ペイン達ですらそうだったのか。
『よくぞエルフの里を守り抜きました勇者達よ。あなた達のおかげで全ての植物達の命が守られました』
「え、どういうこと?」
「実はウッドドラゴンはこの世界樹の化身なのです。そして世界樹はこの世界に存在する植物達の根と繋がっており、全ての植物は世界樹から産まれたものなのです」
「この世界で最初に始原の火山を中心に大地が、次に大地を呑み込まんとする全ての生命の母である海、そして生命が誕生する前に隆起した大陸全土に緑の命が最初に芽吹いたのが世界樹だと言い伝えられている。故に世界樹が全ての植物の始祖であり、地上の全ての生命の根幹でもある。世界樹がもしも死んでしまったら他の全ての植物達もこの世界から消え去り、地上は砂漠と化するだろう」
だから化身でもウッドドラゴンを救わないといけなかったのか。
「じゃあ、世界樹の異変ってのは解決したことになるのか?」
「その通りだ勇者殿。我等も最初は世界樹の異変の原因がわからなかったが、ウッドドラゴンが悪魔に支配されているならば納得できた。本当に感謝する」
『私の不甲斐なさにあなた達にご迷惑をかけました勇者達よ。そのお詫びに世界樹の力の一部とこれを授けましょう』
称号:世界樹の加護
効果:樹木、土系のモンスターの戦闘の際に与ダメージ上昇(大)、被ダメージ減少(大)、HP・MPの自然回復(大)。
スキル【生命の樹】を取得しました。
【生命の樹】
効果:直径10M範囲のHP回復魔法が発動中は断続的回復する。
移動不能になる代わりにノックバック無効。
名称:世界樹の苗木
あ、これ防御極振りの俺にとってピッタリなスキルだ。ありがとうウッドドラゴン!
それに世界樹の苗木って凄いレアでは?
『悪魔の支配から解き放ってくれたあなたには別の形で望みを叶えましょう。今望んでいるものはありますか?』
望みか・・・・・。仲間になって欲しいと言えばそれに近い形でなってくれそうだが。・・・・・そうだ。
「じゃあ、エルクの茶畑の茶木を復活させることって出来る?」
『己の欲を叶わず他のために望みを叶えるのですね?』
「ああ。もう一度あの茶木を甦らせてエルクに喜んでもらいたい」
あんな表情を見てしまったらどうにかしたくてしょうがない。時間はかかるだろうとオルトと一緒に育てた茶木を苗にして渡すつもりだったから丁度いい。
『わかりました。あなたの願いを叶えて差し上げましょう。彼のエルフがあの植物を愛する気持ちの理解者はあなたでよかった』
「私からも礼を言わせてくれ。感謝する勇者殿」
と、感謝の言葉を述べた長老から報酬を受け取れた。
『エルフの長老から「世界樹の雫」「世界樹の枝」「オリハルコン」「白妖精の指輪」を授与されました』
んん? ユニーク装備って指輪? 持ってるぞ俺。どうするんだこれ。
「長老、ハーデスさんには既に私の方から指輪を授けております」
「むっ、そうだったのか。しかし、代わりの物が何かいいのか・・・・・」
悩む長老はふとリヴェリアを見て、何を考えてのことかこんな提案した。
「うむ、ならば我が娘リヴェリアを勇者殿の心のよりどころになってもらおう。よき伴侶としてな。故に初夜どころか娘と熱い夜を何度も過ごしても構わないぞ」
「お父様!?」
わー・・・・・斜め上いくドッキリ発言だぁ・・・・・。というか、NPCと結婚できるのかこのゲーム。ハハハ・・・・・俺、知らなかったなぁー。リヴェリアが長老に食って掛かりどこかへ連れていったな。戻ってくるまで時間は掛かるか?
「ハーデス奴、放心しかけてるぜ」
「まさかの結果だったからね」
「このゲームに結婚システムがあるなんて聞いちゃいないぞ?」
「予想外な発見をまた見つけちゃったねぇ・・・・・」
不意にアナウンスが流れる。
『全プレイヤーの中で初めてNPCと婚姻をしたプレイヤーが出現しました。結婚システムが解放されます』
『一番初めに結婚したハーデス様に「英雄色を好む」の称号が授与されます』
称号:英雄色を好む
効果:「英雄色を好む」を持つプレイヤーのみ一夫多妻・同性愛結婚が可能。プレイヤー・NPCと婚姻を結ぶと配偶者となったプレイヤー達と2倍となった経験値を共有する。
うん・・・・・? この効果は無視できないな。
「で、結婚すると何か得することがあるのか?」
「多分、これは最初に結婚して得た称号を持つ俺だからだと思ってくれ。婚姻を結んだプレイヤーとNPCが得る経験値が2倍となって共有するんだとさ」
「称号の名前は?」
「英雄色を好む」
「・・・・・また何とも言えない称号を取っちまったなお前」
そこ憐れむな!! それもこれも何もかも運営が悪いんだ!!
「話を変えるけどハーデス。キミも世界樹の苗木を?」
「ああ、貰ったよ。畑に早速植えるつもりだがペイン達は?」
「育てる気はないな。一生倉庫の肥やしの一つにする」
「育てたところでどうにかなるのかさっぱり出し、農業する暇もないから正直いらないんだよな」
「私もー。あ、ハーデスが育ててみない? この中で一番適任だしさ」
その言葉にペイン達もそれがいい、とばかりにせっかく手に入れた苗木をトレードしてきた。おいコラ俺に押し付けてくんな。―――しょうがないから貰ってやるけれど。
「ったく、しょうがないな。その代わりにお前等で二番目の夫婦になって試してほしいんだがな」
「は? フレデリカと?」
それ以外他に誰がいると言うんだ。フレデリカ当の本人は。
「ごめん、私パス。この三人にそういう意識全然ない」
真顔で懇意を拒絶したフレデリカは俺を見て少し悩んだ風に言う。
「でも・・・・・うーん、私達の思いもしないところでして全プレイヤーの中で一番強いハーデスから2倍の経験値を共有して得られるのって悪くないんだよねー。早く強くなれそうだし」
「それを人は別居状態と言う」
「何も言ってないよ?」
「結婚した状態ではいさようならって感じになるだろ」
苦笑を浮かべる彼女。ペインが虚空に見つめながら告げる。
「結婚システムを調べたが、どうやらその効果はハーデスだけみたいだ。異性のプレイヤーと結婚した時に発生する効果が経験値でなくステータスが1.5倍に増えるだけだよ」
それはそれで結婚したいプレイヤーが続出しそうだな。
「フレデリカ。どうするよ? ハーデスと結婚すんのか?」
「してみてもいいかな? って思ってるよ。ここはリアルじゃないから気楽にできるからいいしさ。んじゃあ、ハーデス。試しに結婚システムを使ってみようよ」
「お前がそれでいいならいいんだがな」
二人でサクッとポチっと相手の名前をネームプレートに打ち込んで、相手からの結婚承諾を受理しますかYES NOの選択が表示され俺達はYESを選んだ。すると頭上から天使の羽が付いた可愛らしいハートが現れて、表裏にYESとNOが掛かれたクッションのような物となってフレデリカと受け取った。
「・・・・・? なんだこれ? このYESとNOって何の意味がある?」
「触り心地的にクッションだね」
「同じものが二つか。SN、磁石みたいだな」
「案外、くっつけてみたら判ったりしてな」
そうかな? とフレデリカがYESの方で俺のNOのクッションにくっつけてみようとしたら、本当に磁石みたいでNOとYESが謎の力で反発して距離が縮まらない。俺もYESにしたら・・・・・逆に力強くくっついたクッションが光り輝きだす変化が起きた。その最中にペインが爆弾発言をかましやがった。
「ああ、どうやらYESの枕同士をくっつけ合ったら、性行為を同意するという意味があるらしいよ」
「へっ!?」
「ちょ、ペインそれ今更ぁ―――!!?」
迸る閃光に俺とフレデリカが呑み込まれ、どこかのホテルの中だろう寝室に転移させられた俺達は。
「た、退出しないと!!」
「でもどうやって!?」
慌てふためき、性行為回避を必死に探ったが24:00という数字と説明書しか分からず仕舞いだった。
『性行為を同意したプレイヤーは24時間中性行為をしないと退出できません』
「ペイーン!!」
「いや・・・・・説明を見なかった俺達も悪いってこれ・・・・・」
もっと早く言ってよっ!? と怒るフレデリカと「どこぞのエロゲだよ」と肩を落とす俺。時間の方は1秒たりとも動いてない。つまりは・・・・・。
「じっとしていても時間が進まないのかよ・・・・・」
「うー? うー!? どうしようどうしよう!?」
「・・・・・キスが性行為の始まりの認識してくれるなら時間が進むかも」
「あ、そういう手もありなのかも? で、でもゲームとはいえ精神的にファーストキスをしちゃうって感じがして・・・・・」
「軽率なことをした俺達の自業自得だな。悪いことしていないけど」
それからお互い沈黙を貫き妙な場の雰囲気の中で過ごしてしまう。いやほんと、どうしろと・・・・・。
「・・・・・ねぇ、リアルに付き合ってる人いる?」
「いないぞ。そっちは」
「いないよ」
いたら申し訳ないと確認してきたのか? 思い詰めた声音が聞こえてくる。
「・・・・・ここはゲーム、リアルじゃないから、ただの練習だから、問題ない。大丈夫、だよね」
「問題があるのは運営だがな。俺達の間に起きる問題は何もない。経験するだけだ」
「だ、だよね・・・・・じゃあ、大丈夫・・・・・大丈夫・・・・・」
ぶつぶつと自分自身に言い聞かせる風に呟くフレデリカは、耳まで真っ赤になった顔をこっちに向けてきた。
「・・・・・し、しよっか」
「・・・・・ん、わかった」
振り絞った勇気で言う彼女をベットに優しく押し倒す。不安と緊張が同居した顔色から伺えるフレデリカの頬を触れ、少しでも安心させようと頭を撫でる。
「あ、い、痛くしないでね?」
「その分、リアルでも俺から離れなくなるぐらい気持ちよくしてみるよ。なんせ24時間もあるからな」
ボッと別の意味でフレデリカの顔が真っ赤に染まった。
「ううう・・・・・そうなったら責任とってよね」
「大丈夫だフレデリカ。絶対にそうなる」
その自信満々はなんなのさぁ、と言う彼女と身体が一つに重なった時間はこの後すぐだった。
24時間後・・・・・。
無事にあの部屋から出られた俺達を迎えたのはオルト達だけだった。リヴェリアはともかく、ペイン達はどこに行った?
「俺達がいなくなった後、どれぐらい時間が経過した?」
「回答。1分も経過しておりません。ペイン様から伝言が預かっております。フレデリカをしばらく一緒に居させてくれ。以上です」
「・・・・・顔合わせるのが気まずいからかペイン達」
「ううう・・・・・こっちもそんなメールが送られていたよ。ドラグの奴なんか、ハーデスと甘い夜の夫婦生活を堪能しとけよって」
しばらく会わないようにしよう!
「リヴェリアは?」
「まだ戻ってきておりません。マスター、甘い夜の夫婦生活とはなんでございましょうか?」
「あーそれはだな」
どう言い返そうか言葉を濁したところ、リヴェリアが戻ってきた。
「ハーデスさん。突然の長老からの婚姻は誠に申し訳ございません」
「気にするな。でも、リヴェリアは?」
「・・・・・あんな父親でも長老の決定は絶対なので。あなたの伴侶としてお側に居ます。これからも、一緒にいろんな世界を見ましょうあなた」
『
そんなアナウンスが聞こえてくるが、どうしよう。彼女の住む場所がないぞ。
「家はどうする?」
「問題ございません。異邦の者達が集うあの町とこの里にエルフの魔法技術のひとつ転移門が敷かれます。私はあの町とこの里に行き来します」
「そうなのか。でも、俺も早く自分の家を構えないとな」
「急がなくても大丈夫ですよあなた」
なんか、慣れてない言われ方にくすくったいぞ。
「そうさせてもらう。それと彼女も俺の伴侶何だが問題は?」
「彼女も、ですか? てっきりイッチョウさんかイズさんかと思われましたが」
「リヴェリアがいない間にちょっとな・・・・・」
俺に寄り添ってすごく照れてるフレデリカ。本当に責任を取らなくてはならないほどにたっぷり時間かけて愛し合ったから、俺から離れなくなってしまった。
「そういうことだから、よろしくね?」
「ええ、こちらこそよろしくお願いします。伴侶として彼を最後まで愛しましょう」
あっという間にゲーム内で二人の妻を娶ってしまったな・・・・・。そう言えばどうすればいいんだこれ。
「リヴェリア、指輪が二つあるんだが」
「では、ここに返してください」
左手を伸ばしてきた彼女の意図を読めない愚鈍でもなく、二つ目の指輪を白魚のような細い彼女の薬指に嵌めた。
「フレデリカ」
「え、あ、うん・・・・・」
彼女も得た白妖精の指輪でリヴェリアのように薬指に嵌めた。
「今夜はここで泊ってくださいあなた。私が手に寄りをかけた料理を食べてもらいたいです」
「あ、私もいいかな?」
「新婚さんの手料理が楽しみだ」
ただし、二人の手料理だけじゃなくデザートもあった。それを食べれたのは二人が俺の部屋に来た時だった。