そうしてやってきたホームエリアは、案の定凄まじく混み合っていた。ただ、ホームの申し込みに並んでいるというよりも、どんなホームを買うかなどを仲間同士でワイワイと相談しているようだった。
「ここが受付? プレイヤーが全く並んでいないんだが・・・・・」
まあ、入って見れば分かるか。そう思って中に入ってみると、そこは町の不動産屋さんみたいな、ファンタジー感ゼロの事務所だった。
どうやら入り口をくぐると個別に隔離される作りであるらしい。ホームの受付をスムーズに行うのと、個人情報の保護の両方を同時に行っているのだろう。
「いらっしゃいませ! ホームをお求めですか?」
対応してくれるのも、まんま町の不動産屋さん風のNPCだ。小太りで、白いワイシャツに黒いスラックス。頭は7:3分けで、黒ぶちメガネ。腕にはアームバンドを付けている。
「あ、はい。どんなタイプがあるんですかね?」
「では説明させていただきます。まずはこちらをご覧ください」
不動産屋さんがテーブルにスッと手をかざすと、俺の目の前にウィンドウが立ち上がる。もうこの場所でファンタジー感を出すのは放棄したのだろう。完全にSFの世界だ。
不動産屋さんが見せてくれたのは、ホームの種類の分類表であった。
集合住宅タイプ、居住性重視一戸建てタイプ、庭付き一戸建てタイプ、高級住宅タイプ、屋敷タイプ、農場タイプ、工房タイプ等々、色々と種類があるようだった。
「お一人暮らしですと、集合住宅、一戸建てタイプがお勧めです。生産職の方ですと、農場タイプ、工房タイプですかね。こちら、最初から目的の生産施設などを備え付けることが可能となります」
「自分である程度間取りを決められると言うことか?」
「はい。勿論、後々リフォームも可能ですし、住宅タイプの物件に生産施設を増築したりも可能ですので、絶対にここで決めなくてはいけないという訳ではありませんが」
居住スペースとしても生産施設としても使えるが、後はどちらに比重を置くかと言うことなんだろう。
俺は何を重視するべきだ?
「うーん、俺はテイマーなんで従魔優先で選びたいんですけど。庭付きで、生産の工房を付けられるのとか有ります?」
「はいはい、ございますよ。例えばこれ。従魔用のスペースも備え付けた、テイマーやサモナー用のホームとなっております」
「ほほう」
「あとは・・・・・。ああ、そうそう。こちらなどもお勧めですよ。庭が広めです。また、地下などもあるので工房の設置場所もございます」
「日本家屋風か」
「はい。特殊な効果もございますし、掘り出し物ですよ」
「特殊効果?」
「四季や天気、時間に応じて、虫の音などが聞こえる機能です。勿論、オンオフできるのでご安心を」
風流な機能が付いているんだな。でも、面白そうだ。それに、他の家が西洋風なのに対して、これだけが唯一和風という部分も魅かれる。俺、日本人だから。
「ちなみにお値段はどうなってます?」
「はいはい、現在のホームはこのような感じですね」
「へぇ、この値段か」
「何分、特別なホームとなっておりますので」
一番安いアパートタイプで10万G。庭付き一戸建てが100万G。部屋数だけを見れば、普通の庭付き一戸建てに部屋を2つ追加しただけの日本家屋が250万Gとなっていた。
「因みに分割払いとかは?」
「申し訳ありませんが・・・・・」
残念ながらローンは利かないらしい。こんなに不動産屋さん風なのに、そこだけはゲーム仕様かい!
「もう少し詳しく」
「は。こちらが詳しい機能一覧です」
「ふむ」
家は平屋の一戸建て。庭などは拡張することも可能で、増やせるらしい。これはどれだけ広げても、外からは見えない形になるらしい。
獣魔ギルドの牧場のように、謎空間を利用しているようだ。
家は、お茶の間、和室×3、台所。あとは納戸に、地下室が2部屋という形だ。和室には押入れまで付いている。ただ、トイレや浴室はなかった。まあ、ゲームの中じゃ使わんからね。
ああ、あと忘れちゃいけないのが縁側。日本家屋にはこれがなければ。
こうやってみると結構広い。また、和室や地下室を工房などに変更も可能だし、庭には畑なども設置可能。ただし、洋室にはできないということで、そこは諦めるしかないが・・・・・。庭も拡張できるなら誰よりも幅広く拡張して一大生産が出来るよう目指してみるのも悪くない。
「10人以上の大人数で住めれる家屋とかは?」
「それでしたら少々値は張りますがこちらに。こちらはギルドハウスとしてでも利用でき―――」
お、さっきより広大だな。日本家屋も数種類あったか。こっちは倉庫もあるのか。おー、日本の大豪邸もいいなー!! これだと露天風呂もあるのかよ!?
「ん? このトランスポーターというのは?」
俺が気になったのは、屋敷の端っこにある、トランスポーターという表記だった。浴室とか、脱衣所みたいなノリで、普通に間取りに描かれている。
「それはお客様がお持ちのホームを繋げて、転送できるようにする装置です。お客様の所持するホーム同士であれば、無条件で転移可能となり、簡易ホームの場合は転送扉を設置すれば移動可能となります」
「簡易ホーム。それって、畑の納屋も入ります?」
「勿論でございます。そういった、ホームから離れた畑や牧場、簡易拠点などに移動しやすくするための機能でございますから」
つまり、畑間の移動が今より楽になるってことだな。これはぜひホームが欲しい。むしろ、この機能のために一番安いホームを購入するのは有りじゃないか? そう思ったが、アパートタイプには設置されていないそうだ。
「転送扉っていくら?」
「最初の1つは5万G。2つ目以降は30万Gですね」
最初の1つはサービス価格ってことか。ん、買えてしまう。というか、もう日本家屋を買うつもりになってしまっているが、それでいいのか俺?
「うーん・・・・・。まあ、いいか。縁側でモンス達と涼みながら一杯なんてできたら最高だしな」
「ムー!」
「キュイー!」
オルトとミーニィも賛成らしい。嬉しそうに挙手している。
「よし! 決めた!」
「では?」
「はい。日本家屋の―――コレを買います。あと転送扉も4つ。それと万能工房Ⅱ型も」
工房には色々な種類があった。錬金工房や木工工房といった特化型と、万能工房や総合工房といった広い範囲をカバーしているタイプだ。俺が設置したいそれは万能工房・一型のグレートアップした方で、一型は土地が2部屋分必要な代わりに、全ての生産に対応するというタイプである。その代わり、効果は低い。
一型は万能工房でも最も低性能であるらしい。二型にするには、1000万Gを支払う必要があるそうなので、ベヒモスとジズを倒して得た金で買えることが出来る。
一型のアップグレートバージョンの万能工房・二型。これは、全ての生産に対応している万能工房の発展形で、効果がかなり上昇していた。それこそ、木工工房などの特化型の一型に比べても、遜色ないほどだ。
ある意味、特化工房・一型の詰め合わせと言ってもよかった。
それに加え、2種類の特殊な施設も入手してある。1つが、ホームマインⅡ。以前手に入れたホームマインのアップグレードバージョンだ。
前のやつが、鉄鉱石までしか産出されなかったのに比べ、こちらは銀鉱石や軽銀。さらには水鉱石、火鉱石などの属性鉱石に、低品質の宝石なども生み出されるらしい。
きっとヒムカが喜んでくれるだろう。
2つ目が風耕畑。暴風草などのエアプランツ類を育てるための風耕柵を、一段アップグレードしたものである。
藤棚のような見た目だった風耕柵に比べ、外見がかなり変化している。高さ5メートルほどの、石造りの壁2枚が平行に並んだ見た目だ。壁の間にはエアプランツを生やすための細長い管がいくつも走っており、その管に刻まれた溝に種を埋め込むらしい。
壁の間には、常に強い風が吹き込み続けているという。ただ、この風が他の畑に影響を及ぼすことはないというので、そこは安心してよさそうだ。風耕畑は風系の施設である。風耕畑を設置するかどうか聞いてみたらアイネが非常に喜んでいたのだ。それに、エアプランツは蚕の餌にもなる。暴風草を食べさせると、風属性を持った糸が生み出されるらしい。アイネの仕事がさらにはかどるだろう。
「ありがとうございます。では、ホームの場所はどうされますか?」
「選べる?」
「はい。日本家屋の場合、こちらのエリアになりまして、現在はお好きな場所をお選びいただけます」
景観を守るためなのか、日本家屋は他の家とは全く違うエリアにあるようだった。丘と森が続いているエリアだ。
「広いといえば広いけど、何百戸も日本家屋を立てることはできないですよね? こういうのって、早いもの勝ちなんですか?」
「いえ。お庭と一緒で、手狭になれば拡張されますね」
じゃあ、別に一等地とかそんな場所も存在しないか。使いやすさと、景観で選ぼう。
「うーん、じゃあ、ここでいいですか?」
「はいはい。分かりました。では、こちらに設置させていただきますね。こちらをどうぞ。ホームキーとなります」
「あ、ありがとうございます」
これで購入契約は終わりか? ステータスを確認すると、あれだけあったお金が数百万Gまで減っていた。
「それよりも、さっそくホームを――」
「では、お次はマスコットに関しての説明です」
おっと、忘れてた。
「マスコットはこちらからお選びいただけますが、どうされますか?」
「えーっと、初期の十種類だけじゃないのか?」
ウィンドウに、マスコットの一覧が表示されている。ただ、その数が想定よりも多かった。
「はい、こちらは日本家屋限定のマスコットとなっております」
「そんなのがあったのか」
運営メールに記載されていた10種類以外に、4種類のマスコットを選択することができるようになっている。無料で特殊能力がないという部分は一緒だけどな。
「なんだこのラインナップ。マメ柴、三毛猫、ツキノワ熊、タンチョウ?」
確認してみると、初期マスコットと違って、こちらはリアルなタイプのマスコットだった。いや、ここまでリアルだともうペットって感じだな。画像を確認してみる。マメ柴、三毛猫、ツキノワ熊は子供だ。メッチャ可愛い。だが、タンチョウは普通に大人のタンチョウ鶴だった。和風ってことで選ばれたのだろうが・・・・・。だったらもう少し小さくて可愛い鳥がいるだろ。ライチョウとか、キジとか、スズメとか。なぜタンチョウ? 他の3種類を選ばないでツルを選ぶやつがいるのか?
「まあいいや。ここは三毛猫かな」
熊はクママがいる。こっちはリアル、クママはヌイグルミ風の違いはあるが、熊は熊だ。それに、フレイヤの他にも猫が欲しいのだ。
「マスコット枠は増やせるらしいし、とりあえずここは三毛猫で!」
「分かりました。では、三毛猫をホームへと送っておきます」
毛並みなどはランダムになるらしい。まあ、三毛の子猫なんてどれも可愛いに決まってるし、特にこだわらんけど。
「マスコット、ホーム設置タイプの従魔は、初期設定ではホーム間の移動が自由となっていますので」
「あ、わかりました」
転送扉さえ設置しておけば、モンスやマスコットが畑とホームを皆が自由に行き来できるってことだろう。
転送扉はほかのオブジェクトと同じで、自分で設置するタイプであるようだ。インベントリにアイテムとして入っている。あとで畑に設置しよう。俺は不動産屋を後にすると、待ってくれたイズ達と合流し畑に留守番させていた従魔を全部連れに戻ったら、早速アイネが風耕畑で遊んでいた。
「フーママー!」
「楽しそうだな」
「フーマー!」
壁の間を吹き抜ける風に乗って、凄まじい速度でバビューンと飛び出したかと思うと、今度は逆側から風に向かって突進していく。
前に進む速度と、吹き付ける風の威力が釣り合うことで、まるでホバリングしているかのようだ。
「フーマー!」
あれだ、子供が風が強い日に、前傾姿勢で風に逆らいながら「飛ばされるー!」って楽しそうに叫んでいるのと同じだろう。
「みんなの畑仕事の邪魔すんなよー」
「フマ!」
俺に向かって敬礼をしたアイネが、その体勢のまま強風で流されていく。ただ、それもまた楽しいらしく、上下逆さまになりながらも笑顔だった。
アイネが喜んでくれているようで、買った甲斐があるよね。そんで凄く楽しそうだから後で俺もやりたい。フレイヤも交ざって遊び始めるんだからな。
「次はホームマインだな」
ホームの地下に設置したホームマインⅡに向かうと、すでにヒムカがその前にいた。扉を開けると、その先は洞窟の内部だ。まあ、全長5メートルくらいしかないけど。
その行き止まりに、金属の箱が置いてある。その前に立つと、ウィンドウが立ち上がった。この箱が簡易インベントリになっており、ホームマインで生み出された鉱石が自動で溜まっていくのだ。
「ヒムー!」
ヒムカが簡易インベントリから鉱石を取り出し、高々と掲げて目を輝かせた。
「お、いきなり銀鉱石と風鉱石が採れたのか? 鉄鉱石も結構な量があるし、珪砂とかも手に入ってるぞ。初日から悪くない収穫じゃないか」
「ヒム!」
嬉しげに頷くヒムカ。これでまた、色々なものを作ってもらおう。ホームマインで銀鉱石をたくさんゲットできるなら、銀食器の量産なども可能かもしれない。
「―――で、さっきから黙ってるが感想は?」
「言葉にできない凄さに圧倒されちゃった」
「まーた騒ぎになるわよコレ」
「ホームマインⅡだっけ、畑で銀鉱石が手に入れられるなら凄く便利じゃない。私も買おうかしら? 購入方法は教えてくれない?」
その後、いよいよ早速購入した日本家屋に向かった。
「どんな家なんだろうな~?」
「キュー」
「ヤー」
肩のリック達と話しながらホームエリアを歩いて行くと、段々と人気が無くなってきた。というか、俺たちしかいない。
「あれ? 人が全然いないな」
「キキュー?」
「日本家屋、人気がないのか?」
「ヤヤー?」
「まあ、西洋ファンタジーが基本の世界だしな」
それなりに値も張ったし。俺以外に買えない人がいない程の値段ではなかったと思うけど、お試しでってレベルの値段ではなかった。いや、俺は買っちゃったけどさ。そう考えると、日本家屋を買う人は少ないかもしれない。
「ま、静かでいいくらいに考えておこう。それよりも、見えてきたぞ」
「キュー!」
「リックは好きそうだろ? いやー、こうやって外から見ると、いいねぇ」
こんもりとした森の中に、俺が購入した―――二階建ての日本家屋が見えてきた。家の周囲を囲むのは背の高い生垣だ。漆喰の壁バージョンも想像していたが、この方が庶民感があって俺は好きだね。黒い瓦屋根が渋い。それでいて、木造の温か味も感じさせてくれる。
これは想像をはるかに超えているんじゃないか? メッチャいいぞ。
「期待感が溢れるな」
俺は居てもたってもいられなくなり、ホームに向かって駆け出した。俺が急に走り出したせいでリックが振り落とされたが、綺麗に着地を決めて、俺と並走を始める。
ファウはその上を飛んでいる形だ。
「近くで見ると、またいい味出してる」
新築ではなく、築何十年も経過した古民家のような味わいがあった。むしろ、これがいい。門は簡素だな。木の門柱に、両開きの木の柵が取り付けられただけだ。まあ、武家屋敷ってわけじゃないし、こんなものか。玄関までは、丸い石が少しだけ間隔を開けて、並べて置かれている。あれだ、思わずケンケンパしたくなるやつだ。
玄関扉は、木と障子で作られた物だった。どうやらこの日本家屋、ガラスが使われていないらしい。他の窓も、全て障子だ。
ゲーム内だから泥棒もいないし、ホームエリアには自然災害もないらしい。下手したら窓を全部開けっ放しでもいいんだし、これで構わないのだろう。
「さてさて、家の中はどうなってるかな」