バカとMMORPGと召喚獣!   作:ダーク・シリウス

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探索と新しいマスコット

そして玄関を開けた俺を出迎えたのは、一匹の可愛い子猫であった。

 

「ウニャ~」

 

「おお! これがマスコットか?」

 

「ウニャン」

 

三毛の子猫だ。マスコットで間違いないだろう。思わず触ろうとしたら、その前に名前を決めなくてはいけないらしい。命名画面が現れた。

 

「名前か・・・・・。うーん、三毛猫、三色・・・・・。よし、お前の名前はダンゴだな」

 

「ニャン!」

 

これで命名終了である。モンスと同じだな。

 

「よしよし、ダンゴ~・・・・・おお、この触り心地、いいな・・・・・」

 

「ウニャー」

 

軽く撫でてやると、目を閉じて気持ちよさそうに鳴き声を上げるダンゴ。抱き上げても、大人しいままだ。フニフニとしたお腹に、柔らかい毛並み。ピンク色の鼻と肉球がラブリーすぎる。

ヤバい、超絶かわいい。俺、動物に怖がられてて触れなかったが、飼い主の気持ちが分かってしまった・・・・・。

何度か撫でてやった後、俺はリック達とダンゴを向き合わせた。従魔同士は仲がいいが、マスコットとはどうだ? これで喧嘩なんかされると困るんだが――。

 

「キュー!」

 

「ヤー!」

 

「ウニャ!」

 

全く問題なかった。どちらが上といった感じもなく、対等に遊んでいる。おお、ファウがリスライダーからネコライダーにバージョンチェンジしたな。

 

「ヤヤー!」

 

「ウニャー」

 

ファウが勇ましく指を突き出すが、ダンゴは普通に歩いている。どうやらのんびり屋さんであるらしい。

 

「じゃあ、家の中を探検だ。イズ達も手分けして探索に時間を潰してくれ」

 

「わかったわ」

 

俺は、ダンゴが加わり3人体制に増えたチビーズを引きつれ、ホームの中を探検した。

木の床に、和室の畳。明り取りの窓には障子が張られ、和の雰囲気が爆発している。最高だね日本家屋!

ああ、靴はちゃんと脱いでるよ? 今回は自分で靴を脱いだが、次回からは自動で脱げるように設定を変更しておいた。

この家に上がる際に自動で靴が脱げ、外に出る時には自動で事前に装備していた靴を装備し直すように設定したのだ。他には、衣装を着替えたりも可能であるらしい。

 

「玄関から最初にある部屋は、普通の和室か」

 

玄関から続く廊下の右は、二階へと上る階段と地下へと下る階段となっている。左側には襖があり、開いてみると10畳の和室が4つ襖に隔てられてるが開ければ宴会の会場としても利用できる広さになるようになっていた。それぞれ木製の箪笥・魚を銜えた熊彫り・二本の刀・何故か玄武が1つ備え付けられている以外は、特に何も置いていない簡素な和室だ。だが、それでも俺は感動していた。

 

「おおー、畳の匂いまでちゃんと再現されているじゃないかー・・・・・」

 

畳の匂いを嗅いでしまっては、寝転がらない訳には行かない。俺はその場で畳の上にうつぶせになった。より強くイグサの香りが鼻に入る。

 

「あー、手触りもいいー」

 

「キキュー」

 

「ヤヤー」

 

リックとファウも俺に倣って、畳の上に寝ているが、その顔は気持ちよさそうだ。従魔にも畳の気持ち良さは分かるらしい。ダンゴは部屋の入り口に箱座りをして欠伸をしているが。

 

「そうだ。和室には収納があるはずだ。中はどうなってるんだ?」

 

押入れがあることを思い出して、中を覗いてみる。すると、そこには大量の布団が一式収納されていた。

 

「ま、まじか! 布団だ!」

 

しかも宿などにある素っ気ないファンタジー風の寝具ではなく、ちゃんと和風の布団である。枕は籾殻だ。

 

「ね、寝て・・・・・。いや、ダメだ」

 

このゲームで寝具で眠るということは、ログアウトするということである。

 

「ということは、布団の寝心地は堪能できないってことか・・・・・。残念」

 

畳を心行くまで堪能した俺たちは、次の部屋へと向かった。廊下の突き当りにやはり襖がある。廊下はそのまま左に曲がり、その先で右へと折れている。あちらに行けば縁側があるのだろう。

 

「縁側は後のお楽しみにして、こっちの部屋はどうだ?」

 

縁側に行きたい欲求を押えつつ、目の前の部屋を開けてみた。

 

「ここは普通の和室か」

 

ただ、この和室からは他の部屋へと続く襖があった。正面と、左側だ。

俺はそのまま正面の襖を開けてみる。そこは、板張りの台所になっていた。

 

「ほほう。これは面白いな」

 

めっちゃ古風な台所である。タイルなどさえなく、石で出来た竃に石窯。木製の水桶などが置かれていた。それでも調理器具はきっちり金属製だし、料理をするのに不足はないだろう。外見が古風なだけで、性能は問題ないようだった。

蛇口もあるし。しかも木製の。捻ってみるとちゃんと水が出た。その辺はゲームだしな。

 

「米用のお釜まであるじゃないか」

 

この情報を持ってヘルメスのところに行ってみようかな。もしかしたらまーた、うみゃー! はさーん!! って聞けそうだわ。

 

「さて、次は向こうの部屋に行ってみよう」

 

「キュー!」

 

いつの間にか俺の右肩に戻っていたリックが賛成してくれる。ファウは頭の上だ。

 

「じゃあ、お前はこっちだな」

 

「ウニャ?」

 

ダンゴを左肩に乗せてみると、うまくバランスをとっている。ホームの中で接する限り、マスコットもモンスもあまり変わらないようだった。そのまま、台所を通り過ぎるように歩くと脱衣所に入った。着替えを置く棚もあるが、ただの飾りとしか機能しないだろ。装備を装着したまま露天風呂がある浴室に入ると自動的に入浴する姿になったからだ。

 

「はー、サウナも備わっていたのか。家屋と言うより旅館だなこのホーム」

 

湯気が立ち昇る円形上の広い檜の風呂とサウナの部屋しかない浴室。肝心の露天風呂はここだけガラス張りの壁の向こうにあった。そっちに向かうと感嘆した。

 

「空を見上げられるか。夜空の星を見ながらの露天風呂は格別だよな」

 

満足して浴室から出た。そのまま元の和室には戻らず、もう一つの襖に向かう。向き的には、庭や縁側の方にある部屋だろう。

 

「おー、これはこれは。凄いじゃないか!」

 

「ヤー!」

 

そこは茶の間だった。リビング兼ダイニング的な? なんと、部屋の中央に囲炉裏がある。テーブルにも使える幅広めの木枠の中央に灰が敷かれ、炭が置いてある。しかも上からは――なんて言うんだろう? 鉤爪的な物が付いた棒? 囲炉裏にはセットになっているあれだ。そして、その鉤爪には鉄瓶がつり下げられている。

 

「おおー・・・これ、リアルのように火は火打石で簡単に着けられるのか。ちゃんと音が鳴る。それに簡易でも火を点けられるシステムにも切り替えられるのか」

 

近づくと、炭に着火するかどうかの選択肢が現れる。一々、火打石などで火を熾すような真似をする事が出来るらしい。さすがゲーム! どうやらここで料理などもできそうだった。本当に囲炉裏だ。ただ、気になることが1つ。

 

「煙、大丈夫なのか?」

 

台所でも思ったが、ここと台所だけは天井が取り払われ、骨組みや屋根が剥き出しになっている。和室に比べ、より古民家感が強いのだ。ただ、そこには排煙のための機能などが付いているようには見えない。

 

「ふーむ? まあゲームなんだし、その辺はどうにかなるのかね? ちょっと実験してみるか」

 

俺は囲炉裏の鉄瓶で水を沸かして、お茶を飲んでみることにした。

 

「着火して(カンカンッ)・・・・・。あ、鉄瓶に水を入れないとな。これで放置すればいいのか?」

 

しばらくの間、ダンゴやリックを撫でながら、囲炉裏の前に胡坐をかいて座る。ファウが囲炉裏の木枠に腰かけて、リュートを弾き始めた。歌のない、インスト曲である。

いつも演奏しているような、北欧の民族音楽風の曲なんだが、そのゆったりと流れる音が、妙にこの場に馴染んでいた。

 

「日本家屋と意外に合うな」

 

「キュ~」

 

「ウニャー」

 

リック達も目を細めているな。そうして待つこと数分。鉄瓶の口から蒸気が上がり始める。中を覗くとちゃんとお湯が沸いていた。そのお湯を使ってハーブティーを入れてみたが、ちゃんと美味しい。いつも通りのハーブティーだった。

 

「煙は・・・・・。問題なしか」

 

炭から上がる煙が驚くほど少なく、少し発生する煙も上へと昇って行き、屋根に吸い込まれるように消えていく。

 

「リアルなところはリアルで、都合のいいところはゲーム仕様。うんうん、良いバランスだ」

 

さて、残りの部屋も時間をかけて確認しよう。この物件の詳細を見た時は―――。

 

「部屋数は和室兼寝室が×15、応接間、客間、茶の間、台所、脱衣所、露天風呂。地下室は工房用×4のはずだから、一階の残りの部屋は和室のはずだよな」

 

次は、囲炉裏のある茶の間の隣の部屋だ。

 

「さて、ここは・・・・・おお、これはこれは」

 

思わず声を上げてしまった。でも、仕方ないじゃないか。だって、俺の目の前に、人を堕落させる悪魔の発明品が鎮座していたのだ。

 

「炬燵じゃないか」

 

和室の中央に置かれていたのは大人数で囲える炬燵であった。障子を全部開け放つと、そこは縁側だ。その先にある庭も目に入る。今は雑草がボーボーに生え放題だが、それはそれで風情があるように思えるから不思議だった。木製の茶箪笥なども置かれ、非常に落ち着いた雰囲気の部屋である。茶色の天板と、白と黒の市松模様の炬燵布団。地味だ。しかし、俺はその魅力に抗いきることが出来なかった。だって炬燵だぞ? 蒼天にある個人の家でも仕事で忙しい上にエアコンで足りてしまってるからさ。

 

「これは入らざるを得ない」

 

足先を炬燵に突っ込むと、足がジンワリとした温かさに包まれるのが分かる。そのままさらに腰まで炬燵に入り込むと、快感の余り「おーっ」という声が出てしまった。いやー、ゲームの中でもここまで炬燵の気持ち良さを再現できるとは、侮り難しNWO。

 

「あー、これはいいね~」

 

目の前に広がる庭を眺めながら、先程淹れた魔茶をすする。至福のひと時だ。

 

「お前らも食べておけ~」

 

「ヤー!」

 

「キキュ!」

 

「ダンゴはどうだ? 食べるか?」

 

「ウニャー」

 

マスコットは食事が必要ないらしいが、食事は可能であるらしい。焼き魚を出してやったら、ムシャムシャと食べ始める。

 

「はー・・・・・」

 

食事を終えた俺たちは、炬燵に入ったままボーっとする。

炬燵の上で仲良く並んで長く石造りの渡橋が2つ掛かってる広い池がある庭を眺める三体。ちんまい子たちが身を寄せ合っているその背中は、異常に可愛かった。チビーズ越しの庭のスクショは、その逆光感も相まって、ゲームならではの風情みたいな物さえ感じられる。これはいいスクショだ。あとでイッチョウに自慢しよう。結構な時間、炬燵でのんびりしてしまったよ。

 

「そうだ、折角だからこの部屋の模様替えしちゃおうかな」

 

オブジェクトを置くなら、基本はこの部屋と茶の間だろう。他の和室は今後、工房などに改修する可能性があるのだ。

 

「備え付けの棚があるのは嬉しいな。ここに縁日でゲットした妖怪の人形を置こう」

 

座敷童の掛け軸は床の間にかけてみる。

 

「二階の方は・・・・・和室の寝室が5畳4つか」

 

玄関先に戻り二階に上がってすぐ襖を開けたら寝室だった。

 

「さっさと転送扉を納屋に設置してくるか。その方がいろいろと便利だし」

 

ああ、その前に残りの部屋をチェックしないと。地下の前に納戸とトランスポーターである。まあ、どっちも中には入れなかった。部屋の扉にタッチするとウィンドウが起動するのだ。トランスポーターは転移先がないので使用不可。納戸は、アイテム収納庫だった。99種類×99個までアイテムを保管できるらしい。俺はあまり貴重品がないからこの程度で十分だろう。お金も入れておけるようだし、冒険者ギルドに預けてある貴重品などをこっちに持ってきちゃおうかな。思い直せば・・・・・そんなのなかったな。

 

「で、最後に地下なんだけど・・・・・。何もない」

 

「キュー」

 

丁度イズとセレーネがいた地下は土間が4つ存在しているだけで、内の3つは備え付けてある物は天井のランプだけである。残りの1つは試し斬り、試し技、模擬戦などが出来るトレーニング用の空間だ。

 

「万能工房だよな? なんか、凄い殺風景なんだが」

 

「―――?」

 

万能工房を設置した地下室は、殺風景な板の間に姿を変えていた。床、壁、天井。以上! そんな感じだ。

一緒に確認に来たゆぐゆぐも首を捻っている。よく見ると部屋の入り口横には、和風の部屋には似つかわしくないアクリルパネルのような物が張りつけられていた。サイズは大型テレビくらいだ。

俺がそれに触ってみると、ウィンドウが起動した。木工や鍛冶、料理など、色々な種類を選ぶことができる。ああ、こういうこと。

 

「万能工房・二型のお披露目だ!」

 

「ヒムー!」

 

「じゃあ、鍛冶工房に変形させればいいか?」

 

「ヒム!」

 

「ダメ? じゃあ、どれだ?」

 

鉱石を使うなら鍛冶工房かと思っていたんだが、ヒムカのリクエストは違うらしい。首を横に振っている。

 

「どれがいいんだ?」

 

「ヒムー」

 

リクエストがあるなら、自分で選んでもらおう。

ヒムカは、俺と一緒に操作パネルをのぞき込みながら、下の方にある火霊工房というものを選んでいる。初耳だな? 火霊って、サラマンダーのことだよな? 首を捻りながら見守っていると、工房が姿を変えていく。最初は鍛冶工房だと思ったんだが、炉の数が多い。どうやら、鍛冶やガラスなど、サラマンダーのスキルに関係ある工房が一緒になった複合施設らしい。こんなタイプの工房があったのか。よく見てみると、風霊工房、水霊工房もある。風霊工房は皮革や服飾、機織りの総合工房。水霊は料理と発酵が合体した施設であるっぽかった。土霊工房がないのは、必要ないからだろう。ノームに必要なのは、畑だからな。じゃあ、もしも総合工房を購入したらどんな感じになんだろうか?

 

「じゃ、転送扉を設置しないといけないし、一度戻るぞー。ダンゴはまた後でな」

 

「ウニャー」

 

縁側で寛いでいるダンゴに声をかけると、お尻をこっちに向けたまま返事をした。この素っ気ない所もネコっぽいな。寂しがっている様子はないので、安心と言えば安心だが。

 

「―――で、感想は?」

 

イズ達に再度感想を求めると、バッとイズとセレーネが深々と頭を垂らし出した。

 

「「ハーデスのホームに住まわせて!!!」」

 

曰く、俺のホームの居心地が良かったのと、地下の工房が興味が沸いたのだとか。

 

「いや、一緒にクリアしたんだから個人の日本家屋買えるだろ」

 

「実際いくら? あそこまでした総合金額」

 

「地下の万能工房はⅡ型で1000万したぞ。あの日本家屋はギルド兼ホームとして2000万」

 

「た、高いっ・・・・・」

 

「逆にいつの間にハーデスってそこまでお金を貯めてたの?」

 

「ベヒモスとジズ討伐の報酬の中に2000万Gがあったから。もう1万Gしか残ってない」

 

残るリヴァイアサンの討伐報酬もそうだろうが、他のプレイヤーも完全参加するからもう独占出来ないな。

 

「って、あの日本家屋はギルドホームも兼ねてたの? ハーデス、ギルドを作ったの?」

 

「してないしてない。個人のホームとしてだ」

 

「ああ、でも、だからあんなに和室と布団が沢山あったのね。納得できたわ」

 

「だけども個人のホームを購入できるアップデートなのに、どうしてギルドホームも買えるのかな?」

 

セレーネの疑問は最もだ。

 

「他のホームもたくさんあったが、俺が10人以上の大人数で住める家屋はないかと訊いたらこの物件を紹介してくれたんだ」

 

「私達はハーデスから詳細を聞いてからと思って、ホームエリアにまだ行ってないけど。もしかしたら集団でも利用できるホームがあるのかも?」

 

「ホームを買いに入る時、個別に隔離される作りであるらしいぞ。ホームの受付をスムーズに行うのと、個人情報の保護の両方を同時に行っている感じだった。それに対応したNPCの会話の中には『お一人暮らしですと、集合住宅、一戸建てタイプがお勧めです』と言われたからな」

 

「ということは、複数以上のプレイヤーと一緒に住むことを言わないと紹介してくれないようになってる可能性があるわね」

 

「一人だけ利用するには広いしねハーデスのホーム。他のもだとすれば、今回のアップデートは今後にあるかもしれないにギルド関連のイベントがありそう?」

 

「気付いているか分からないけど、他の人達もパーティで住めるホームはないか聞いていそうだね」

 

彼女達と今回のアップデートに関する件について考え、悩むも使えるものは使えるんだからしょうがないということに考えを至した。

 

「住むかどうか別として、地下室の工房はイズ達も利用できる感じか?」

 

「多分、ハーデスしか利用できないと思うわ。そもそもホームだって畑同様にフレンド登録したプレイヤー以外入れそうにないじゃない?」

 

逆に言えばフレンド登録したプレイヤーは許可なく入ってくるってことだよな。うーん、何だかプライベートを侵害されてる感覚がして複雑な気分。いっそのことギルドを・・・・・いや、したら弊害が・・・・・でも、うーん・・・・・。

 

「何か悩んでる?」

 

「ギルド作ったらオルト達と一緒に入られる口実に押し掛けるプレイヤーが目に浮かぶ」

 

「「それは・・・・・悩むね」」

 

変態が変態を呼ぶ、類は友を呼ぶ。それが不安でたまらない。

 

「身内しか入れないギルドにすれば?」

 

「リアルだとイッチョウだけだから作ってもしょうがないし、ゲームの中だとさっきの押し掛けるプレイヤーが交ざるぞ」

 

「やっぱりなしで」

 

「じゃあ、条件付きだったら?」

 

「それでも絶対に来ると断言するぞ」

 

いや、別に嫌悪はしないんだが・・・・・なんだろ? 思いのままにプレイを出来なくなりそうだから躊躇してるのか? 他人の為に時間を費やすのが嫌? 

 

「ギルドって、作ったら誰にでも知られるようなものだっけ?」

 

「そうでもないらしいわよ。実際、タラリアってギルドのことだって話を聞かないとわからないし、全く気付かないプレイヤーもいるわ」

 

「自分から話さない限りは気付かれないってことだね」

 

「うん、それにハーデスが嫌だと思ったら運営に連絡すれば対処してくれると思うよ?」

 

運営か・・・・・その手もあったな。

 

「じゃあ、後日ギルド作ってみようかな」

 

「今じゃないんだ?」

 

ああ、今じゃない。なんせだな・・・・・。

 

「しばらく減った金を出来るだけ増やしてホームに畑を拡張したいし、ログアウトして課金してマスコットを増やしたいし、従魔と農業ギルドのランク上げにちょっとラヴァ・ゴーレムのところで採掘したり―――」

 

「絶賛忙しくて後回しにしたいってことなんだね」

 

「なら今日はもう解散ね。手に入れた石炭で作ってみたいし」

 

「うん、私も」

 

そんな鍛冶師プレイヤーの二人と軽く別れの挨拶を済ませてチームを解散したが、フレデリカがまだ残っていた。

 

「ログアウトするの?」

 

「少し時間はかかるがログインするぞ」

 

「そっか、じゃあ私はペイン達と合流してみるよ。そろそろドラグがサポートしてほしそうな気がするからね」

 

ペイン達と離れてから昨日の今日だが、過ごした時間は何だか濃厚だったな。

 

「あと言っておくけど。私がいない間に知らないプレイヤーと結婚したら許さないんだからね」

 

「知っている奴ならいいんかい」

 

「だって、ハーデス人気だもん」

 

少し不貞腐れてるフレデリカにそれはどうしようもないと苦笑する俺。リヴェリアからも「慕われていますね」と言われる。

 

「わかってるよ。約束だ」

 

小指を出すと、「約束だからね」とフレデリカからも小指を出して絡める。まぁ、それだけで終わらす気はないので、小指に力を入れて彼女を引き寄せた。そのまま耳元であることを囁いたら、一気に紅潮した少女が「わ、わかってるよっ」と蚊の鳴くような声で言い返してくれた。

 

「うう・・・・・。ハーデスの色に染まるのが怖い反面、嬉しい自分がいて複雑ぅ・・・・・」

 

「言っただろ。俺から離れなくなるって」

 

「もう、本当に責任取ってよね!」

 

「その代わり、フレデリカという少女の心は手放さないからそのつもりでな」

 

「っ・・・・・絶対ハーデスから離れなくなるほど好きになっちゃうよコレぇ・・・・・///」

 

それが悔しいのか俺の胸部の鎧に叩くも力が全然籠っていない。その後、俺はとりあえず納屋の壁に転送扉を設置してみた。入り口の向かい側である。普通に、地味な木製の引き戸だな。

どうやら設置場所に合わせた姿になるようだった。フレームを任意にいじれるので、もっと目立つ形に変えることもできるらしい。俺はこのまま変更するつもりはないが。

 

「本当にこれが転送扉なのか?」

 

抱く疑問と一緒に転送扉に触れてみた。ホームのトランスポーターと全く同じ画面が立ち上がる。これで転送先を選んで、扉を開けばその場所に繋がるのだろう。

 

「で、選んで開くと、転送されるわけなんだな」

 

俺が立っているのは、ホームの廊下の突き当りだった。茶の間のすぐ脇である。多分、普通の家だったらトイレがあるであろう場所に転送扉が存在しているからだ。これならば第3と第5エリアの町の畑との行き来が楽になり―――これで俺もモンス達も、簡単に畑とホームを行き来できるだろう。実際、オルト達もトランスポーターを介してホームに戻って来られている。サイナとNPCリヴェリアも問題ない。

 

「よしよし、これでみんながホームに来れるな」

 

次はマスコットを増やしに行かねばいかんのだ。もうあれだ、ダンゴを見ちゃうと他のマスコットをコンプリートを目指さない選択肢など、存在しないのだ。

 

「次は何にしようかな? やっぱマメ柴? でも池があるから鯉も捨てがたい」

 

いっそ、子熊とクママでダブル熊を結成か? それとも初期の10種類から選ぼうか? あのバルーンみたいなデフォルメマスコットも可愛いし。

 

そんなことを考えながら不動産屋に戻った俺は、お金を支払ってマスコットの保有枠を増やす。1体5万G・・・・・。そのことを思い出した俺はとある情報屋から未払い金の情報料の2割ほど受け取り再度戻った。マスコット買うのに悔いはないのだ。

 

「マメ柴、子熊・・・・・うん?」

 

そして、マスコットの一覧を見て、思わず声を出してしまっていた。

 

「は? え? これ、マジか?」

 

「はい。こちらが、現在死神ハーデス様の選べるマスコットとなっております」

 

だって、数がメチャクチャ増えていたのだ。さっきは14種類だったが、今は19種類である。

 

「座敷童、コガッパ、テフテフ、オバケ、モフフ・・・・・。おお、あいつらもか。どう考えてもあのイベントが関係しているよな」

 

でも、さっきは選べなかったのに、何でだ? いや、座敷童が増えたのは、ホームに掛け軸を掛けたからだろうか? 他の4種類に関しては、人形を飾ったからか? うーん、イズ達にも検証してもらいたい。

 

「しかもどのマスコットにも特殊能力があるんだけど」

 

座敷童は『お手伝い』、『幸運』、『日記帳』と、3つも能力があった。コガッパは『雨天』、テフテフは『虫の声』、オバケは『柳の下』、モフフは『餌付け』である。

 

ただ、詳細が分からない。不動産屋さんに聞いても、教えてはくれなかった。

 

「詳細はお楽しみと言うことで。ただ、マスコットはあくまでもその可愛さが本領ですから。能力に関してはオマケとお考え下さい」

 

つまり、それほど強力な御利益はないってことなんだろう。

 

「座敷童は確定として・・・・・。特殊能力は魅力だけど、可愛さは・・・・・。うーん」

 

可愛さならマメ柴、子熊。でも特殊能力は捨てがたい。

 

「やっぱこっちの妖怪マスコットたちにしておくか」

 

最大で6体まで枠を増やせるわけだし、全部お迎えできる。そこで特殊能力を検証すればいいだろう。

 

「じゃあ、今回は座敷童とオバケでお願いします」

 

「わかりました」

 

オバケを選んだことに特に理由はない。一番最初に出会ったマスコットなので、何となく選んだだけだ。

 

「あと、設置可能な設備も見せてもらっていいですか?」

 

「はいどうぞ」

 

不動産屋さんにリフォームのリストを見せてもらったのだが、こちらにも先程なかった項目がいくつか追加されていた。

 

「えーっと、柳の古木?」

 

これって、もしかしてオバケをマスコットにしたからか? しかも柳の古木は、タダで設置できるようになっている。

 

柳の古木の効果は、特になし。ただ、小さい池とセットになっていて、その水は生産利用が可能であるらしい。まあ、日本家屋の虫の音などと一緒で、風情や和風感の演出をするためのアイテムなのだろう。しかし、水場がタダで設置できるというのは普通はあり得ない。多分、オバケの持つ『柳の下』の効果がこれなのではなかろうか?

 

「ま、タダならぜひ設置させてもらおう」

 

俺は間取り図の中から庭の一角を指定して、設置をお願いするのだった。とは言っても池の傍にだがな。NPCから設置が完了したことを聞き、新たなマスコットやオブジェクトを手配したホームに向かうと、いつの間にか賑やかになっていた。

 

「ムムー!」

 

「ヒムー!」

 

「フマー!」

 

「フムー!」

 

精霊たちが追いかけっこをしている。その様子を眺めながら、クママやドリモが縁側でまったりとしていた。

 

「クマー」

 

「モグー」

 

「植物コンビは光合成中か?」

 

サクラとオレアは、揃って柳の古木のそばで佇んでいる。

 

「それにしても、一気に風情が出たな」

 

「――♪」

 

「トリ!」

 

俺が柳の古木を褒めると、サクラとオレアも嬉しげだ。同じ植物として、仲間意識でもあるんだろうか?

 

「あ、トンボがいる」

 

『待てにゃー!!』

 

柳の根元に広がる池には、空飛ぶ猫に追いかけられてるトンボだけではなくアメンボ等の姿もあった。さらに、メダカっぽい魚までいるな。いやー、風に揺れる柳の枝と相まって、涼し気でいい。これがタダとは、ラッキーだったな。庭は夏だが、炬燵も楽しめる。ゲームならではだろう。

 

「チビ共はどこ行った?」

 

一番元気なリック達の姿がない。そう思って探したら、炬燵に入っていた。それぞれが1面を占領して、炬燵布団から小さい顔だけを出している。

 

「キュー」

 

「ヤー」

 

「ウニャー」

 

「お前ら、贅沢だな」

 

さらに、茶の間に顔を出してみると、フェルが囲炉裏の前で寛いでいる。その横に、探していた姿がある。

 

「座敷童とオバケ! ここにいたか」

 

「あい!」

 

「バケー」

 

新しくお迎えしたマスコット。座敷童とオバケである。揃って囲炉裏の前で寛いでいた。

 

「おっと、名前を付けなきゃいけないのか」

 

「あい!」

 

「バケ!」

 

揃ってシュタッと手を上げたマスコットコンビが、期待の眼差しで俺を見上げている。これは変な名前を付けられん・・・・・。

 

「うーん、まずは座敷童だな」

 

ワラシじゃそのまんま過ぎるか? も少しは捻ろう。

 

「幸運を運ぶ家の守り神・・・・・。マモリガミ・・・・・。よし、マモリだ!」

 

これもそのまんまなんだが、ワラシよりは可愛げがあると思いたい。ワラシってタワシのイメージが何故か浮かんでくるのだ。

 

「あい!」

 

「気に入ってくれたみたいだな。お次はオバケだ」

 

「バケケ!」

 

「もうセバスチャンしか出ないんだけど・・・・・」

 

しかし、それはまずかろう。あとは、なんだろう。Qちゃん、ホーリー・・・・・。いやいや、既存キャラの名前から離れよう。

 

見た目は、フワフワ浮く白い布に、目と口を書いた感じだ。

 

「布・・・・・シーツ・・・・・リネン・・・・・リンネル・・・・・よし、お前の名前はリンネだ!」

 

輪廻であの世っぽい雰囲気もあるし、素晴らしい名前だと思いたい。そう決めたんだ俺が

 

「バッケー!」

 

リンネもマモリと一緒に小躍りしている。文句はないってことだろう。

 

あと姿が見えないのは鳳凰とハナミアラシだが、ハナミアラシは社に憑いているようだし、こっちには来られないのかもしれないな。もしくは全く興味がないか、飲んだくれて寝ているのだろう。鳳凰も桜と社が気に入っているからか?

 

「しかし、随分と大家族になっちまったな」

 

従魔であるオルト、ミーニィ、サクラ、リック、クママ、オレア、ファウ、ルフレ、ドリモ、ヒムカ、アイネ、メリープ、フェル、フレイヤ。

 

フリーの神獣の鳳凰

 

妖怪はハナミアラシ。

 

そして今日仲間に加わった、ダンゴ、マモリ、リンネ。

 

ここにいるだけで総計17人だ。俺が縁側に出ると、皆が集まってきた。

俺の隣にはオルトやマモリたちが腰かけ、リックやスフレイヤはその肩や頭の上で寛いでいる。庭ではアイネやリンネたち飛行可能組が空中追いかけっこをしていた。

いい光景である。所持金を使い切ったが、ホームを購入して本当に良かったな。いや、まだだ。これで終わりではなかった。

 

「課金してマスコットを増やさないとな」

 

そして、残りの妖怪マスコットたちもこのホームに呼ぶんだ。可愛いマスコットは増えるし、オバケのおかげで手に入ったと思われる柳の古木も素晴らしい。一気に庭に風情が出た。

 

「行くとするか」

 

布団もあるし、あれを使えばすぐにログアウトできる。和室に向かうと、布団を敷いていく。すると、マモリが手伝ってくれるではないか。布団を軽く伸ばしたり、枕を設置したりしてくれる。これが『お手伝い』の効果なのか?マモリのおかげですぐに布団が敷けたな。さっそく中に潜り込む。

 

「じゃあ、またあとでな」

 

「あい!」

 

枕もとで正座しているマモリに一声かけ、俺は目を閉じる。同時に、ログアウトするかのアナウンスが聞こえたので、それにイエスと答えると、俺の意識はゲームの中から現実へと浮かび上がっていくのであった。

 

「ふぅ。さっそく課金しちまうか」

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