ヘパーイストスに納品する素材集めをして数日が経過した。徹夜でしてもVIT以外のステータス数値は0故に採取や採掘は困難を極める。モンスターのドロップアイテムを売って換金して得た資金=Gを貯めつつ、効率よく集めるために掲示板に素材を買い求める依頼を登録しているので、入手の手段を幅広くしてからだった。頼まれたクエストも―――。
「どうも」
「あの時の兄ちゃんじゃないか!」
「これ、頼まれてたワイルドストロベリーです」
「おお! 作ってくれたんだな! ありがとうよ! ほら、これは報酬だ」
納品クエスト
内容:ワイルドストロベリーを栽培し、その実を10個納品する
報酬:200G、ミントの種
期限:なし
200Gとミントの種だ。ミントっていう種がある訳じゃなく、ブルーミント、レッドミントの2種を5つずつもらえた。雑草も充実してきたよな。
「改めて礼を言うぜ。おれはスコップっていうんだ。よろしくな」
「あ、死神ハーデスと言います」
「なあ、ハーデスを見込んで頼みがあるんだが、話だけでも聞いちゃくれないか?」
「頼み?」
「おう。実は俺の弟が露店をやってるんだが、ちょっと仕入れの事で困っててな。助けてやってほしいんだ」
「縁は縁を結ぶ・・・・・チェーンクエストか。わかった、どこにいるんだ?」
「おう!ありがとうな!弟は北区で露店を開いてるからよ」
おじさんの言葉と同時に、マップに赤い点が表示される。俺はそのままの足で弟さんの露店に向かった。
「お、あれかな」
言われた通りの場所には、確かに露店があった。ここもマッピング中に通ったはずなんだが、露店は無かったように思う。クエストが切っ掛けになって見えるようになったってことか?
「あのー」
「おう、らっしゃい。何をお探しで?」
出迎えてくれたのは、花屋のおじさんそっくりの厳ついおっさんだった。ただ、こっちの人の方がやや背が低いかな?
「花屋のスコップさんの紹介で来たんですが。何やらお困りという事で」
「おお。お前さん異界の冒険者か?」
「はい。死神ハーデスと言います」
「俺はライバっていうんだ。よろしくたのむ」
「よろしくおねがいします」
「見ての通り、俺の露店はハーブやスパイスを取り扱っているんだが・・・・・」
ライバさんの言葉通り、露店では色とりどりのハーブやスパイスを売っていた。塩や胡椒、レッドミントやバジルル等々。しかもハーブティーなどもあるな。これは俺でも作れるのか?
名称:ハーブティーの茶葉・カモミーレ
レア度:1 品質:★8
効果:なし。食用可能。
名称:ハーブティーの茶葉・ラーベンダ
レア度:1 品質:★8
効果:なし。食用可能。
「実はよ。ハーブの仕入れ先が休業しちまって、幾つかのハーブの入荷が滞ってるんだ。で、幾つかのハーブを栽培して納品してほしいんだよ」
「種は貰えるんですか?」
「勿論だ」
それなら栽培自体は可能だろう。だが、大量のハーブを恒久的にというのは中々厳しい。畑を圧迫するし。そう伝えたら、一回だけで良いそうだ。
「新しい仕入れ先は見つけてあるんだが、収穫と運搬を合わせたら10日かかるらしいんだよ。だから、今週分の仕入れさえできたらいいんだ」
納品クエスト
内容:ブルーセージ、レッドセージを栽培し8個ずつ納品する
報酬:300G、ラーベンダの種
期限:4日
うーむ。相変わらず安い報酬だな。だが、チェーンクエストであるなら、最終的に良い報酬が貰える可能性がある。NPCからの頼みだしな・・・・・。それに、俺はあることを考えていた。
このゲームのNPCは高度なAIで動いているらしい。それに、自由度もそれなりに高い。だったら、NPCと交渉が出来るのではないか? そう思ったのだ。
「あの、ハーブの種って売ってもらえないですか? ハーブじゃなくても、花の種でも良いんですけど」
「種が欲しいのか?」
「ハーブ類に興味があるんで」
「異界の冒険者にしては珍しいな。依頼をこなしてくれたら考えてやらんでもないぞ?」
「本当?」
「おう。別に貴重な物でもないしな」
ライバさんに今ある種を見せてもらうと、ハーブはオレガーノ、ヨモギン。花はアジサイ、コスモスの種があった。言ってみるもんだな。それとも、好感度的な物が高いおかげか? 一応、ライバのお兄さんの依頼をこなしてるわけだしな。
「じゃあ、依頼受けます」
「そうか! ぜひ頼むぜ」
という事で俺は、ブルーセージ、レッドセージの種を10個ずつ受け取ったのだった。ついでにハーブティーも買ってみた。味を試してみたいのだ。
俺は頭の中で畑の空きを考える。依頼の種を植えるスペースが無いな。ハーブ用の畑が手狭になってきた。
「新しく買っちゃうか」
ハーブ用の畑は品質を気にしなくても済むから、最も安い2000Gの畑でいい。どうせだから買っちゃうか。ハーブティーやポプリ、押し花を作る実験をするにしても、今のままじゃ素材が足りないし。
ということで、俺は新たに2面、畑を購入するのだった。とりあえず手に入れたばかりのハーブの種を植えておく。明日には納品できるだろう。
お次は楽しい実験タイムだ。いや、オルトがハーブへの水まきを終えるまで暇なので、時間つぶしがてらね。ついさっき存在を知ったばかりだが、ハーブティーはぜひ作ってみたいし。
「さて、今ある雑草は――」
バジルル、カモミーレ、ワイルドストロベリー、チューリップだ。
半分は実験に使っても良いな。言っておくが、単なる好奇心だけじゃないぞ。雑草やその加工物は特殊な効果こそ無いものの、味や香りは凄く良いからな。俺の美味しいゲームライフの為に、ぜひ必要なのだ。
本当はコーヒーが飲みたいけど、発見したという報告は聞かない。いや、いつか自分で作った豆でコーヒーを淹れるなんて、夢があるんじゃないか? まあ、いつになるかは分からんが。
「普通にハーブティーを作るんなら、乾燥させればいいんだよな?」
いや、待てよ。前にカフェで飲んだフレッシュハーブティーは、普通に摘んだばかりのハーブにお湯を注いでたな? 想像以上においしくて驚いたんだよ。そっちを試してみるか。俺は鍋でお湯を沸かして、そこにカモミーレを投入してみた。火を止めて少し待って見ると、段々と色が緑に変わってきたぞ。
名称:雑草水
レア度:1 品質:★2
効果:なし。食用可能。
ハーブティーにはならなかった。味はどうだ?
「ぶふっ!」
俺は口に含んだ直後に緑の水を噴き出していた。やばいね。雑草のエグ味だけを抽出したような味だった。ただただ不味い。ホレン草携帯食に匹敵するぞ。
バジルルでも試してみたが、結果は同じただの色付き水だ。どうやらフレッシュハーブティーは作れないか、俺のスキルが足りないようだ。
「仕方ない。ドライハーブティーを試すか」
こっちも簡単だ。錬金のアーツ、乾燥をかけるだけだからな。
名称:ハーブティーの茶葉・カモミーレ
レア度:1 品質:★4
効果:なし。食用可能。
よし成功だ。これでハーブティーは基本乾燥させればいいということが分かった。
ただ、品質は低いな。俺は店で買って来た★8の物と飲み比べてみる事にした。作り方は全く同じ。使う水も井戸水だ。
名称:ハーブティー・カモミーレ
レア度:1 品質:★3
効果:なし。食用可能
名称:ハーブティー・カモミーレ
レア度:1 品質:★7
効果:なし。食用可能
さて、何か差があるか。
「ずず・・・・・。ずず・・・・・んー?」
違うな・・・・・。★7の方が香りが強い気がする。本当にごく僅かだが。★3が不味いわけではないし、しばらくは品質を気にしなくていいか。
お次はポプリかね。そう思ったが、ポプリってどう作るんだ? 単に乾燥させたハーブを袋に詰めればいいのだろうか? うーん。
「まあ、一度やってみよう」
チューリップをアーツで乾燥させてみる。
名称:ドライフラワー・チューリップ
レア度:1 品質:★4
効果:なし。観賞用。
だよね。乾燥させただけなら、単なるドライフラワーだ。とりあえずこれを細かく砕いてみるが……。出来たのはゴミだった。やっぱり乾燥させるだけじゃダメか。
「仕方ない。ポプリの作り方はログアウトした時に調べてみよう」
最後はワイルドストロベリーだ。普通のイチゴだったらジャムにでもするが、砂糖もないし。そもそも小さくて、ジャムにするには量も少ない。これも乾燥させてみるかな。
名称:ドライハーブ・ワイルドストロベリー
レア度:1 品質:★3
効果:なし。食用可能。
ハーブティーではなく、ドライハーブか。食用可能となっているし、俺は一粒口に含んでみた。うーん、微糖? 甘さ控えめにも程があるな。ただ、香りは悪くない。イチゴと柑橘系を混ぜたような、甘味と酸味の混ざった良い香りがする。花屋のスコップが言っていたように、ハーブティーやクッキーなんかに混ぜたら美味しそうだ。
使い道は色々あるだろうと試行錯誤が楽しくなってきたところにメッセージが届いたのだ。送り主は『イズ』。始まりの町で話がしたいとのことで待ち合わせの場所として広場に赴く。特徴は水色の髪だと教えてもらったので直ぐに見つけれた。
「こんにちは。メッセージをくれたイズか」
「ええ、私がイズよ。貴方がハーデスね?」
駆け出し中のプレイヤーらしい装備をしている美女。髪と瞳は同じ水色で大人の女性のプレイヤーと話をしたのはゲームをして以来初めてだ。
「掲示板を見てメッセージを送ってくれたのは、素材をくれるということか?」
「うんと、その事なんだけどね?私、戦闘が苦手で鍛冶師の生産職プレイヤーとしてゲームを始めたの。だから鍛冶師として装備を作るのに必要なアイテムの採取は私ひとりじゃ今厳しくて」
「アイテムの収集の手伝いをしてほしいってことか?」
「うん、手伝ってくれたらあなたが欲しがっている鉱石を報酬として渡すわ」
悪くないと提案に頷き、彼女との取引を成功させるためにヘパーイストスの元へ向かう。
「おう、いらっしゃい―――ってなんだお前さんか。しかも可愛い彼女を連れて来やがって、自慢か!素材の方はどうした!」
「ヘパーイストスもまだまだイケイケなワイルドの鍛冶師だと思うのは俺だけか?燃え盛っている炎のような赤髪が格好いいし、キリッとした瞳に女性が好みそうな筋骨隆々の逞しい身体、それに―――」
「だぁーッ!もういい、それ以上褒めちぎるな!背筋が痒くなってきやがったから!?」
ガリガリと後ろに手を回して背中を掻くヘパーイストスを弟子が唖然として見ていた。どうやら褒められることに慣れていない様子だ。まあ、それはそうと本題に入るか。
「鉱石が掘れる場所を教えて欲しい。俺の報酬の装備品の素材にも幾つか鉱石があるけど場所が分からないんだよ」
「ああ、そんなことか。そうだな。毒竜を単独で倒す実力があるなら・・・・・提示した鉱石より上質の鉱石が掘れるかもしれない場所を教えておくか。お前だけだったら駄目だったがな。そこの嬢ちゃんは鍛冶師の端くれだろ?同じ鍛冶師のよしみでとっておきの場所を教えてやる」
おお、何だか派生クエストが発生したっぽい。
「どこなんだ?」
「おう、そこはな?昔この町で鍛冶師として生活していた俺のじいさんの話なんだがよ。町の外で地下坑道があって爺さんしか手に入れない宝の山のような鉱石や金属を掘れたそうなんだ。だけどその中にモンスター共が棲み付いちまって以来入れなくなってしまったらしい。で、鋼鉄の扉でその地下坑道を閉ざしたようだ。今もそうらしいぞ」
イズと顔を見合わせてその場所を教えてもらう懇願をすると、店の奥に引っ込んで行って直ぐに黒い鍵と何故か白銀色のピッケルを複数持ってきた。
「本来ならお前達に頼まず一人で行くつもりだったんだが仕事が立て続けに増えてそれどころじゃねぇ。 代わりに行ってモンスターを退治して掘りやすくしてくれないか。ついでに俺の分の鉱石も持ってきてくれ」
『クエストが発生しました。受理しますか』
と青いパネルと共に音声が流れた。受託のボタンを押すとヘパーイストスから鍵を受け取れるようになった。
「場所を教える。場所は―――」
「ここなわけか。悪かったなイズ、歩くの遅くて」
「VIT極振りのプレイヤーだとは思ってなかったわ。β版をしていたプレイヤー達の間では極振りプレイは、特に盾使いの職業は攻撃力が低すぎて中々モンスターを倒せないで死ぬ、足が遅すぎて移動と回避が困難で死ぬ、防御力以上の攻撃を受けると低いHPで直ぐに死ぬ不名誉な三拍子が揃って、βテストの最終日には誰も極振りはしなくなるほど不人気だったわよ?」
鍵を掛けられた鎖で硬く閉ざされている扉の前でイズから極振りの苦労を語られた。
「じゃあ、俺はその唯一成功した極振りプレイヤーってわけだな」
「その装備を見る限りはそうね。毒竜の迷宮を攻略して手に入れたんでしょ?」
「そうだ。数時間かけてな」
解錠して鎖を解き放ち扉を開け放つ坑道の中は人工で発掘された洞穴が二人を迎えた。中はやはり暗く、松明やランタンといった照明道具が無いと足元が見えない。
「さて、鉱石だから壁を掘るのか?」
「違うわよ?宝石の結晶みたいな塊が採掘ポイントにあるの。そのポイントのところにまで行かないと」
「道中モンスターも出くわすと。じゃ、イズを守りながら進まなきゃならないな。重戦士のタンク役冥利尽きる」
「よろしくね。念のためにやられそうになったらポーション使うわ」
必要あるのかな?と思いながら坑道の洞窟の中へと足を踏み入れた。手慣れたようにランタンを出して光源を確保するイズの前、大盾を構えながら前進する。ダンジョンのように幾つも道が枝分かれしていて、初見できた洞窟内のマッピングをしつつ、遭遇するだろうモンスターへ警戒していると。ゴンッと頭に何かが当たった。
「え?」
「えっと、下」
イズが俺の足元に向かて差す指で原因を教えてくれる。足元に目をやると尻尾の先に尖った石を纏ったトカゲが瀕死状態で倒れていた。尻尾の岩は殆ど砕けていてその残骸も転がっている。
「天井に張り付いていたのか。気配察知的なスキルが無いからわからなかった」
足で踏みつけてトドメを差す―――不意に天啓を得たように思いついた。実行するのは目的の鉱物を手に入れるまでと戒めて盾を構え直すと天井や足元、壁にも注意を払いつつ採掘ポイントへ赴く。
イズside
掲示板を見て生産職のプレイヤーの私にとって好都合な募集があって、直ぐにでも募集したプレイヤーに連絡を取ったのが幸先が良かった。β版では知り得なかった鉱山の場所をNPCの鍛冶師が親し気に彼に教えてくれたのだ。どうやらNPCの鍛冶師に関するクエストをこなしたからだと思うけれど、私が一緒じゃなきゃ教えてもらえなかったその場所にいるモンスターと戦う彼は、圧倒される。
「【パラライズシャウト】」
麻痺攻撃でモンスターを麻痺させてからゴブリンを倒したり、岩石の人型モンスターのゴーレムを手で触れただけで倒したり、とにかく私に攻撃されないよう注意を引くスキルを使って大盾と体術でどんどん倒していく。
「あ、スキル取得できた」
ポツリと零された言葉に軽く驚嘆した。β版で防御特化に極振りしたプレイヤーは検証として暫くプレイした結果、極振りプレイは極端に難しくて自他共に認める何もできないことが再確認されて、パーティも入りづらく入れようとする気もないから成功例はなく不人気なのにスキルを取得しちゃうなんて。
「ハーデス、スキルは何?」
「【体術】。武器を使わずモンスターを倒すと取得できるみたいだ。これならウサギ相手にも取得できるな。ん、【衝撃拳】!」
片手で彼の拳から空気の弾が打ち出されてモンスターをHPバーを減らしながら吹っ飛ばした。
「ははは!楽しいな、スキル取得は!」
レベル上げて強くなるよりスキルを取得する方が楽しそうな彼が今後、人外的な成長を遂げることをこの時の私はまだ知らなかった。
圧倒的な防御力の前ではモンスター達は倒せず倒されて彼が通った道に何も残らない状況が深奥に進むまで続いた。初見の鉱山でしばらく時間が掛かってあちこち進んでは行き止まりに足を停められてしまうこと何度も経て、やっと目的の採掘ができるポイントに辿り着いた。目の前がいっぱい白銀色の光を輝かせる鉱石の塊がある場所に。
「ここがそうか?やっと着いたぁ・・・・・うん?」
「鉱石も初めて見る・・・・・えっ?」
彼と私もその鉱石を見て信じられないと目を丸くした。だってこれ・・・・・!!
「これ・・・・・鑑定するとミスリル鉱石って表示するぞ」
β版では流通していなくて鍛冶師や武器店のNPCでも取り扱ってなかった、レアなミスリルがまさかこんな形で採掘できるなんて・・・・・!
「俺、β版はやったことないけど割とマイナーだったりする?」
「いいえ。β版の時はど見つけた話は聞いたことが無いわ。多分誰一人手に入れたことが無い希少の鉱石よ。・・・・・手持ちのピッケルで掘れるかしら」
「試してみたらどうだ?貰ったピッケルの耐久は何故か異様に高いのかわかるし」
うん、そうしよう。まずは自前のピッケルをインベントリから取り出して勢いよく振り上げてミスリル鉱石の塊に振り下ろすと―――白銀色の鉱石はアイテムとして私の足元に零れ落ちた。その代わりピッケルの耐久が半分以上に減った。
「普通のピッケルの耐久値が一気に半分以下になったわ」
「決まりだな。専用のピッケルじゃないと簡単に採掘できないか。貰ったピッケルのここの部分はミスリルで加工されてるから、もっと掘れ易く集めれるだろうな」
「骨折り損にならなくてよかった。早速掘るわ」
「任せた」
彼は(卵みたいなものを抱え出して)護衛に徹し、私は初めて手に入れる鉱石を専用のピッケルで掘り続ける。
あ、採掘スキルレベルが上がる上がる!ふふ、どんどん掘るわよ~!それそれー!
―――小一時間経過。掘り尽くしたミスリルは私のインベントリの一部の枠は白銀の鉱石で一杯になった。一部はNPCに譲渡することになって、他は彼の分。そして残った分は私の分と彼と相談して決まった。来た道に戻る道中は彼を止めるモンスターはいなく、ダメージを受けずに鉱山を後にして始まりの町に帰り鍛冶師が待っている店へと直行する。
「ヘパーイストス、戻ってきたぞ」
「戻ってきたな。爺さんの鉱石はどんなんだった?」
「ああ、リズ」
「はーい、これです」
NPCが指定した数の分のミスリルを取り出すと、彼の眼が極限まで見開き震える手でつかみ上げた。
「こいつはまさかミ、ミスリル!?この世界で数ある王国でも三つしかない希少が高すぎる鉱石じゃねぇか!?」
「王国?」
あ、β版をしていない彼は知らないのね。あとで教えてあげましょ。若い青年のNPCが口を開いた。
「師匠。師匠の爺さん、こんな凄い鉱石を独占していたのか・・・・・?」
「そうらしい。俺もこんな色の武器や防具を作る爺さんを見たことがあったんだが・・・・・」
まさかミスリルだとは思いもしなかったぜ・・・・・。と深いため息を吐きながら脱力感を窺わせる。
「知らなかったのか?上質の鉱石が掘れるって言ってたのに」
「俺もミスリルが採れる鉱山なんて思ってもみなかったんだよ。爺さんの死の間際に珍しい鉱石がある場所を教えてもらったが、当時の俺は鍛冶師になる気はなかったから遺言として覚えていた程度だったからよ」
鍛冶だって無理やり覚えさせられたから鍛冶スキルを得てしまったんだ、と語る鍛冶師のNPCの話は続く。
「こいつはまた手に入れなきゃ在庫が尽きるな。新しい武具の制作前にミスリルのピッケルを作らなきゃならねぇ」
「鉱山の中のモンスターは粗方倒しといたけど大丈夫か?また出てきそうだぞ」
「数を減らしてくれたんなら問題ねぇ。弟子と一緒に行くからな。こいつも一人で素材を集めるよう鍛えなきゃならんしよ」
それは私達鍛冶師のプレイヤーにも言われた気がしてならないわね。戦う鍛冶師なんて逆に珍しいから。
「今回の爺さんの坑道内のモンスターの掃討の報酬は手に入れたミスリルでいいな?お前の要望の装備もミスリルで代用するから本来必要だった他の鉱石や金属を集めなくていいぜ」
「え?じゃあ」
「後はモンスターから手に入れれるドロップアイテムだけだろ?数は多いが、採掘するよりは簡単なはずだ」
安堵でため息を吐くハーデスはVITの極振りしてるから採掘は極めて困難を強いられちゃうから、ラッキーな話よね。私もミスリル手に入れられてラッキー♪
「ああ、それとミスリルの場所は誰にも言わないでくれよ。他の鍛冶師や冒険者達に知られたら根こそぎ掘り尽くされて鉱脈が枯渇するからな。お前達だけは特別として今後も採掘してくれて構わないぞ」
「ありがとうございます!」
私達だけの特権を得た証として鍵をくれた。嬉しい私とは対照的にハーデスはちょっと微妙な反応だった。鍛冶師じゃないとミスリルの使い道がないからかもしれないわね。
「ハーデス、また一緒に行ってくれる?」
「構わないよ。イズ、フレンド登録OK?」
「勿論、これからもよろしくね」
長い付き合いになりそうだし、登録してもいいと私自身も考えてたところ。彼との出会いで思わぬ物が手に入り、他のプレイヤーよりスタートダッシュができた気分でフレンド登録した後でも、私は彼の素材集めに付き合ってレベリングもしてもらっちゃった。
「ああ、そうだ。ヘパーイストスなら知ってるか?」
「話の内容によるが一先ずさっきから抱えてるその卵は何だ」
「精霊様からもらったんだ。これもそうだけど分かる?」
インベントリから火結晶、水結晶、土結晶、風結晶を出して確認してもらおうとしたが、ヘパーイストスはこれらを一目見て目を大きく見開いた。
「属性結晶じゃないか!」
「属性結晶?」と鸚鵡返しをする俺に若干興奮気味で語ってくれた。
「その名の通り属性が宿っている結晶だ。武器に火結晶を加えると物理攻撃と火属性のダメージが付加され、防具に使うと火の耐性が付加するんだ。属性魔法の威力だって上昇するんだぞ。ミスリルとだって相性がいい」
「かなり珍しい?」
「俺も王立図書館で見聞で知った程度で実際に手にしたことが無いし打ったことが無い。しかも入手方法はどこかにいる精霊のモンスターからだと昔ちらっと聞いたぐらいだ。それが本当なのかどうかも俺すら分からない」
精霊のモンスター。大樹の精霊から貰ったアイテムだから、精霊に関するモンスターから手に入れるだろうなんて安直すぎるか?
「もしお前が良ければ、この結晶を売って・・・・・いや、これだけじゃ足りねぇな。色々とこの手で試してぇことたくさんある」
欲しいけれど数が足りない。野太い両腕を組んで考え込み苦悩するヘパーイストスからまたクエストのパネルが浮かび上がった。ミスリルと同様の採取クエストだ。了承了承っと
「すまねぇ、今回ばかりは力にならない。首を長くして待ってるから手に入ることがあったら大量に確保しといてくれ」
「わかった。あー、俺の報酬が遠のくなー」
「それはお前のオーダーメイドだ。仕方がないだろう。だが、今度は俺も手伝ってやらぁ。ミスリルを報酬にお前が収集する筈の素材をギルドに依頼してくる」
ギルド?ああ、そういえばあったんだよな。まだ一度も行ったことが無かったから忘れてた存在だ。
「いいのか?まぁ、また集めてくればいいだけか」
「おう!そん時は遠慮なく言うから頼んだぜ。だが、くれぐれもあの嬢ちゃん以外の他の人間には連れていくことも教えることもしないでくれよ。爺さんの遺産だからな」
釘も差される。ヘパーイストスの忠告を無視したら好感度が下がりそうだ。これからも頼るだろうし気を付けよう。ていうか、ミスリルを報酬にって・・・・・。
「因みに聞くけどさ、俺もミスリルを報酬にして誰かに依頼しても?」
「爺さんの鉱山の場所を秘密にしてくれりゃいい」
―――何で気付かなかった、俺のバカ!
店を後に外へ出てどうやって精霊のモンスターを探そうかと考えた時、横から両手を伸ばして懇願してくるイズさん。心なしか目が輝いてはいないか?
「ちょうだい!」
「駄目だ」
「えー!?」
「精霊に関するかもしれないからしばらくとっておくんだよ。精霊のモンスターから手に入るって話だけど、実際はどうなんだ?」
物凄い物欲の眼差しを向けられても無視しながら真意を確かめる。
「βテスターの時は話だけ聞いた程度に第3エリアでも激レア。βでもほとんど産出しなかったし。土結晶はノームのレアドロップだけど、他の存在は初めて見たわ」
「第3エリア・・・・・ノーム?土の精霊か?」
「ええ、そうらしいわ。βテスターで情報屋から聞いた限りノームがいるらしいの」
精霊、ノーム・・・・・だとすると。
「属性結晶と精霊に関して考えると火精霊はサラマンダー、風精霊はシルフ、水精霊はウンディーネ、土精霊はノームってことになるな」
「どうしてそう思えるの?」
「このゲームはファンタジーだからだが?」
何を当たり前なことを聞くんだ?と不思議そうにイズを見つめた。
「だとすれば、各精霊の住処がフィールド上のどこかにある筈なんだよなぁ。多分、特殊な方法で出入りが可能にするギミック付きで」
「それって不思議な場所がどこかにある前提で?」
「うん、だと思う。ところで情報屋って?」
βテスターじゃない俺が無知でも仕方がない。イズは情報屋の事を提示してくれた。
「名前の通りゲーム内のすべてを検証、情報を集めたり売買するプレイをしているプレイヤーの呼称よ。
知らない情報を求めて情報屋から勝手、自分しか知らない情報を売ることもできるから
プレイヤーの間じゃあ重宝されてるの」
「そういうプレイヤーは今でもいるものか?」
「いるわよ?『タラリア』ってギルドの名前でね。西の露店に行けば直ぐに見つかると思うわ」
西の露店か。あとで行ってみよう。
「で、今度はこっちが聞きたいんだけれど、その卵は何?精霊様から貰ったって?」
イズの視線の先は両腕で抱えている卵。
「ああ、精霊降臨時で町に貢献したプレイヤーとして精霊から貰った」
「へぇ、先日の不思議な精霊の降臨はそんなイベントだったんだ。ハーデスは何してたの?」
「ゴミ拾いのクエストをしていた。1週間ゴミ拾いで報酬は何もない」
「それが終わって精霊が現れたってことは、そのクエストが発動するキークエストじゃないかな?」
そんなクエストがあるのか?うーん、いまいちクエストの繋がりが読めないな。
「何が産まれるのかしらね」
「精霊だったら大歓迎だ」
「精霊だと生産系のモンスターよ?戦闘能力はないけれど生産能力は中堅ほどの力があるから」
おお、生産か。農業地区で一緒に畑を耕したり任したりして生産しつつ楽しむプレイもいい。
・・・・・防御特化のプレイが薄れていく気がするが、この際楽しんだもの勝ちだとして色んなことをしていこう。
「イズ。またミスリルを掘るだろうけど、専用のピッケルって製作できるのか?」
「何とかね。でも、私のステータス数値がまだ高くないから性能は低いでしょうね」
「生産職ゆえの難しいところだよな」
「そうね。ステータスポイントを増やせるものがあればいいのだけれど」
うん?イズは知らないのか?
「イズ、イズ。称号を獲得すると貰えるぞ。ステータスポイントの巻物」
「・・・え?」
そう言った次の瞬間。卵にピシッと音が鳴って罅が入ったのだ。
「あ、卵が孵化する!?」
「どうすれば?」
「意外と普通に冷静ね! 一先ず地面に置いたら?」
その通りにしてイズとヘパーイストスと頭を突き合わせて見守る。そしてついに卵が割れて。中からモンスターが現れた。
「キュイ?」
パッと見・・・・・フワフワな羽毛で覆われたトカゲだと認知するけれど、パタパタと羽音を鳴らして翼を動かし宙に浮かんでいるのはただのトカゲではなく
「これって・・・・・」
「ド、ドラゴン!ハーデス、この子はドラゴンだよ!」
「しかもこのサイズ・・・・・こいつぁピクシードラゴンか。生まれて初めて見たな」
イズが色めき立ち、興味津々に視線を注ぐヘパーイストスと一緒にピクシードラゴンを見つめる。この小さいのがか?テイムしてるから情報を確認・・・できるな。
ミーニィ
LV1 種族ピクシードラゴン
HP 55/55
MP 70/70
【STR 10】
【VIT 15】
【AGI 25】
【DEX 15】
【INT 25】
スキル:【火魔法】【風魔法】【水魔法】【土魔法】【雷魔法】【光魔法】【闇魔法】【氷魔法】【回復魔法】【砲撃】【危機感知】【巨大化】【索敵】
ちょっ・・・・・なにこのオールラウンダーの攻撃重視の魔法は!?
「オルトと同じ名前が最初から付けられてるな」
「それはきっとユニークモンスターだからよ」
「ユニークモンスター?」
「そ、テイムしたモンスターの名前が最初から付けられていたらそれはユニークモンスターで、他の同じモンスターの能力より少し高く、珍しいレアスキルも覚えているのが特徴なの。テイムしたいなら見分け方は大雑把で言えば色違いなモンスターを探す必要があるわ。見つけるのは難しいけれど」
なるほど、理解したが・・・・・。
「さっきピクシードラゴンって言ったな?」
ヘパーイストスは頷いた。
「発見数も片手で数えるぐらいな小さいドラゴンだからピクシードラゴンと名付けられたそうだ。生態は不明で、確かすばしっこくて豊富な魔法で攻撃するらしいが」
「ああ、魔力と敏捷が高いと鑑定でわかる。ヘパーイストスの言う通りだ」
肩に降りて俺に身体を摺り寄せてくる。甘えてるのかな?ミーニィを撫で羽毛の感触を堪能する。
「イズ、イズはまだ始まりの町で構えているつもりか?」
「うん、まだレベルが低いしミスリルも欲しいからね。ハーデスは?」
「VIT極振りの俺は報酬の装備が整い次第、他のダンジョンを攻略しつつ属性結晶の出所を探す」
「見つけたらいい値段で買い取るから頂戴ね」
「先約いるから二番目な」
一番はそこにいる鍛冶師のおっちゃんだ。イズと別れ、彼女の情報源を頼りに西の露店へ向かう。ミーニィは俺の頭の上に乗っかり毛玉みたいになった。ここの大通りは俺達プレイヤー向けの武器屋や道具店、魔法専用の店など構えるNPC達にまじってプレイヤーも店を借りて売買をしているらしく、いわゆる冒険者通りと名称がある。ここで情報を売買しているギルドのプレイヤーがいるらしいけど・・・。
「おーい、そこの頭に毛玉を乗せたお兄さん」
不意に声を掛けられた。毛玉を載せてるのはこの場に俺だけ、特徴的な姿を指摘され呼んだ者を探してると手招きする橙黄色の髪と瞳の少女がいた。服装の出で立ちは、獣耳を生やしたつば広帽子を頭にかぶり旅人服を着ていた。近づいてみれば緩慢的に尻尾を揺らし好奇心の光を宿した瞳で俺を注視する。
「何だ?この店は雑貨店か?」
「俺以外にもこれを持っているプレイヤーいるのか?」
「違うわ。まぁ、それっぽいこともしてるけれどここは情報屋をしてるの。私の名前はヘルメスだよ。よろしくね」
「ヘルメス?ってことはオリュンポス十二神ヘルメス繋がりで『タラリア』っていう情報屋か?あ、俺は死神ハーデスだ」
ヘルメスが感嘆の息をもらす。
「へぇ、ギルドの名前の由来を的確に当てちゃうなんてね。誰も口にはしなかったけれど言い当てたのは貴方が初めてよ」
「それはどうも。それに丁度良かった。買いたい情報があったから」
「何かな?今は東西南北の4つの第2エリアの
最前線の攻略組はそこまで進んでいるのかと感嘆の念を抱きつつ、精霊に関する情報を欲した。
「精霊、ノームとサラマンダー、シルフにウンディーネの情報はある?」
「へ?ノーム、サラマンダー、シルフとウンディーネ?ちょっと待って。発見したの?」
ヘルメスが軽く目を丸くし訊き返してきた。この反応からして情報は持っていないか。
「いや、βの時にノームが発見されたらしいじゃん?じゃあ精霊なら今言った三種の精霊も居てもおかしくないだろうって独自の考えで訊いてみた」
「中々の推察力を持ってるのね。でも残念、今内には精霊の情報は一つも仕入れてないわ」
「そうか。じゃあ、変わった物とかは?」
まだ第2エリアは行く予定はないが、事前に情報を集めておくべきだ。