オークションが終ってすぐ畑に戻って来た俺を、皆が可愛らしく出迎えてくれる。
「ムムー!」
「ただいまみんな」
畑に異常はないな。早速、手に入れたばかりの苗木を渡しちゃおうか? 俺はインベントリから、オークションで購入した神聖樹の苗木を取り出してみた。
名称:神聖樹の苗木(衰弱)
レア度:4 品質:★1
効果:神聖樹の苗木。悪魔の影響で衰弱している。
あれ? 衰弱? そんなことオークションで言ってなかったと思うけど。悪魔の影響って・・・・・。そう言えば他のサーバーだと、神聖樹が邪悪樹っていうボスに変異して大変だったって聞いたな。この神聖樹、邪悪樹っていうのに変わったりしないよな?
「オルト、サクラ、オレア、この苗木は育てられるか?」
「ムム!」
「――♪」
「トリ!」
苗木を囲んだ3人が、コクコクと頷いている。問題ないらしい。
「悪魔のせいで衰弱してるらしいんだ。変な育て方をすると邪悪樹っていうモンスターに変身しちゃうらしいんだけど、大丈夫か?」
「ム?」
「――?」
「トリリ?」
どうやらオルト達にも悪魔に関することはわかっていないようだった。これ、育てて平気か? でも、買ってしまったものは仕方がないし・・・・・なったらなったらで対応するか。
「精霊使いのピアスはあとでルヘパーイストスのところに持って行こう。装備には空きスロットが1つあるって言う話だし」
ただ、行く前にオルトの心で、宝珠を作っておかないとな。まあ、材料は揃ってるし、そっちは問題ないだろう。残りは茶釜と塗料か。先に茶釜から確認しちゃうか。俺は納屋のテーブルの上に、購入して来た茶釜を取り出してみる。
「うんうん、なかなかに趣のある姿だな」
「ヤー?」
「キュー?」
「お前達にはこれの良さが分からないのか」
「ヤヤー?」
「キキュー?」
小首を傾げていたファウとリックが、さらに首をひねってしまう。年少組には侘び寂びなど分からないらしい。
テーブルの上の茶釜を手に取ってみる。サイズも小さめで納屋にも置きやすい。色は元々黒かったんだろう。だが、今は剥げと錆びで、見る影もない。まあ、そこがいいんだけどね。
サイズは一般的な土鍋より少し小さいくらいかな。物語でタヌキが化けていたりするような、いわゆる茶釜と言われて想像する物より大分小さいだろう。
「うん? タヌキ?」
そうかタヌキか。全然気付かなかったけど、茶釜と言えばタヌキだよな。分福茶釜とかあるし。妖怪と言えばポピュラーな種類だろう。この茶釜、もしかして――。
「・・・・・ま、そう都合よくはないか」
妖怪察知、妖怪探索、どちらにも反応はなかった。当たり前だけどな。
まあいい。目的はインテリアな訳だし、テーブルの上に置いておこう。これで囲炉裏でもあったら完璧なのにね。
「最後はこいつだ」
ちょっと奮発し過ぎた気もする最高落札額アイテム、ペイントツールである。インテリアやホームオブジェクトなどを塗装できるらしいが、どうやって使えばいいんだろう。とりあえずテーブルの上に広げてみる。
大刷毛、小刷毛、サイズが違う筆が4本。さらに塗料「汚し・木材」「汚し・金属」「時間経過」の3種類だ。とりあえず1番大きな刷毛を手に取ってみる。
するとアナウンスが聞こえた。どうやら現状でも利用できるが、スキルがないので効果、成功度が半減してしまうらしい。塗料を無駄にしそうだし、それは嫌だな。お高かったのだから、完璧な状態で使用せねば。
「スキルか・・・・・。どのスキルがいいんだろう」
リストを確認してみる。関係ありそうなのは、描画かな? ペインターの初期スキルだ。他に目ぼしいスキルもないし、4ポイント消費して描画を取得してみるのはちょっとな。ということでペインターの職業になってから挑戦してみた。初期この頃に時間を書けてでも解放した甲斐があったぜぇ・・・・・へへへ。
「正解だったみたいだな」
きっちりとペイントツールが使用できた。マニュアルとオートがあるみたいだ。マニュアルは全て自力。つまりリアルのお絵描きとなんら変わらない。最初はこれはないだろう。絵が壊滅的に下手な訳じゃないけど、超上手いわけじゃない。マニュアルで遊ぶのは慣れてきてからにしよう。
オートはかなり良心的だ。PCのペイントツールのような物が立ち上がり、何度も試し書きができる。しかも、実際に目の前の風景をツールに撮り込んでそこに色を付けられるのだ。
テクスチャなども様々な種類が選べるので、かなり思い通りに塗ることができそうだった。オートだと効果低下、塗料消費上昇などの色々なデメリットもあるらしいが、俺はオート一択だな。
「さっそく茶釜を塗ってみるか」
買ったばかりの茶釜を手に取り「何が起きるかなーっと」俺が茶釜に対してオートペイントを選択したその直後だった。茶釜のボロさがさらに増す。僅かに残っていた黒い部分が完全に剥げ、錆が全体に回る。だが、それがまたいい味を出しているのだ。ボロいが、悪いボロさじゃない。ぜひ古い古民家などに置きたい。そう思わせる外見であった。だが、変化はそれだけではない。
「ヘンカというか、ヘンゲ?」
そう変ゲしたのだ。何がって、茶釜がだ。時間経過塗料を塗り終わった茶釜から、フサフサの尻尾が生えている。少し丸みを帯びた、モフモフの尻尾だ。
「・・・・・これは――」
「ポコ?」
茶釜+尻尾=タヌキ! きました! すると、茶釜からは手足に、タヌキの顔がポンポンと音を立てて生える。完全に茶釜のタヌキだ。
「お、お前は妖怪なのか?」
「ポコ!」
まじで妖怪になったらしい。俺の言葉にコクコクと頷いている。
『妖怪、ブンブクチャガマと友誼を結びました。一部のスキルが解放されました』
「おおー、戦闘しなくても、仲良くなれるタイプの妖怪だったか」
どうやら妖怪化した茶釜を入手すれば、それで友誼を結んだことになるらしい。妖怪察知に反応しなかったのは、あの時はまだ妖怪じゃなかったってことなんだろう。
「でも、俺は陰陽師じゃないんだが」
職業が陰陽師だと、このブンブクチャガマを使役できるはずなんだが。俺の場合は、単に図鑑が埋まり、スキルが解放されただけだ。あとは、ハナミアラシみたいにお供え物が出来たりするのか?
「なあ、何か食事かお供え物が必要か?」
「ポコ」
「食事?」
「ポン」
「お供え物?」
「ポコ!」
お供え物が欲しいらしい。チャガマのタヌキに対するお供え物と言うと・・・・・。
「これとかどうだ?」
「ポコポン!」
ハーブティーをあげてみたんだが、明らかに喜んでいる。だって、どこからか取り出した和傘の上で鞠を回しながら、小躍りしているのだ。メッチャ可愛いなこいつ。
ただ、ハナミアラシのように、何かアイテムをくれたりすることはなかった。まあ、今の曲芸が見れただけでも十分かね? それに、可愛い同居人が増えたわけだしね。
「そう言えば、解放されたスキルって何だ?」
スキルを確認してみると、曲芸、茶術、招福の3つが解放されていた。どれも知らないな。まあ、曲芸と茶術は名前からして今すぐ必要なスキルじゃないことは確かだろう。
ただ招福はどうだ? 多分、運が良くなるスキルだと思うんだが・・・・・。オルトが所持している幸運とは何が違うんだ?
「うーん」
「ポコ?」
「おっと、今はお前のことが先だな。名前とか付ける必要はないのか?」
色々と調べてみたが、どうも名前は必要ないらしい。テイムしたわけじゃないしな。
「なあ、お前はどれくらい動けるんだ?」
「ポコ?」
俺がそう問いかけると、ブンブクチャガマが納屋のテーブルから飛び降りて、そのまま外に出て行ってしまった。
「あ、おい!」
慌てて追いかけると、ブンブクチャガマは畑の際で立ち止まっていた。まるで見えない壁があるかのように、道と畑の間で足を止めている。なるほど、インテリアとして納屋に置いてあったわけだし、俺のホーム内しか動き回れないってことか。
「まあ、畑は自由に動けるみたいだし、その中は好きに動いていいからな」
「ポコ!」
「ただ、悪戯はするんじゃないぞ?」
「ポコ!」
オレアもいるし、寂しくはないだろ。
「これからよろしくな」
「ポコポン!」
問題は、折角手に入れたインテリアが、動き回るようになってしまったことか。他に納屋に似合いそうなインテリアとか、売ってないかな?
「いや、まだ塗料はあるんだし、何かそれ用に作ってみてもいいかね?」
チラリ、とアイテム欄にある提灯と和傘を見た。いやいや、そんなことはないだろ?
・・・・・と思っていた俺が数分前にいた。
「チョンチョン!チョウチーン!」
「ケケケ!」
「ポコポン!」
好奇心に逆らえず、和傘と提灯にオートペインしたら二つとも妖怪化してしまったよこんちくしょう!! 傘の妖怪は大きな1つ目足がなくても浮遊しながら移動できて、提灯の妖怪も大きな1つ目で紙が破れた感じに裂けたところが口のようで、身体が灯ってるから明るい。しかも普通の提灯や和傘に化けれるのが憎いくらいに面白い。
スキルを確認すると、和傘の方は変化、曲芸、相合い傘の3つが解放されてる。いや、相合い傘ってなんだよ意味がわからねぇよ。提灯の方は、変化、照明、火の玉の3つが解放されてる。火の玉って夜に浮かぶお化けや妖怪の定番の?
「人のホームをお化け屋敷にさせようって魂胆か運営めッ。やってみたくなるじゃないかよっ!」
となると、他のインテリアもか? そうなのか?
「止めよう。本当にお化け屋敷になりかねん」
「ポコ?」
「チョウ?」
「ケケ?」
首をかしげるな、お前らが原因だお前らが。提灯と和傘に至っては首がないから身体を斜めに傾ける体勢で傾げた。
「さて、ラヴァ・ゴーレムのところに行ってくる。畑とホームを頼んだ」
「行ってらっしゃいあなた」
「かしこまりました」
よーし、マグマの中の採掘もしよう! ついでに鳳凰がいた隠しエリアも見に行くか。と意気込む俺は、その通りに実行して千年鉱石を採掘してから辿り着いた。何も変わってないだろうなぁ~と周囲を見回すと、最初に見た時からあったマグマの滝が、マグマ溜まりに向かって流れ落ちていく光景に目が留まる。滝の向こうに何かありそうだとマグマに濡れながら突っ込んでみたら、隠された下へ繋がる空洞を発見した。滝も含めて前はなかったのにな、と空洞の中へ潜りある程度歩いたら・・・・・太陽がないのに明るい水晶と宝石だらけの洞窟を発見したのだった。
運営side
「死神ハーデスが隠しエリアに突入しました!」
「予想していたが、思っていたより遅く見つけたな」
「マグマの中を潜水できるようになったから結果的には当然と予想の範囲内ですよ。これからどうなるのか予想できませんが」
「あの隠しエリアにはユニークNPCを配置してるな」
「はい勿論。あのプレイヤー次第で言動が変わりますよね」
「唯一のユニークNPCだ。彼もその凄さを知り、どんな会話をしてくれるのか楽しみだ」
そこは。植物が水晶のような煌きらめきを放つ森だった。木々は茶色く透き通っており、また茂しげらす葉も緑色だが透明だった。地面だけがただの土であり、それ以外の植物は全て結晶でできているかのように美しかった。咲き誇る花々も、様々な色彩の結晶から成っており、赤、黄、青、紫、ピンクと輝かしい。
宝石を実る透き通った水晶の樹木なのも大変珍しいが、静寂で包まれてるこのエリアの空気を感じた時、直感的に隠密で行った方がよさそうな気がした。こうして歩いたり触れたりしても問題ないなら、水晶に衝撃を与えないよう行動するのが正解だろう。
こういう時、忍者の職業のプレイヤーの出番なのにな。
「モンスターの気配はないな。水晶系、鉱物系のモンスターがいそうな感じなのに」
偵察を兼ねて歩き続けて10分ほど経過した。歩いてばかりでは見つからない、と空から見つけることにして【飛翔】で移動した空から見下ろした先に見つけた。薔薇のように生えてる水晶群の中心に水晶でできた巨大な樹木があった。世界樹並みに大きい樹木を。
「ん? あれは・・・・・」
近づいてみたら見つけてしまった水晶の家屋。明らかに人の手で造られた建造物が。誰かいるのかと気になった俺はその家に飛んでいった。
「・・・・・火山の下に水晶があるのは百歩譲るけど、どうやって人がここまで辿り着いた?」
静かに降り、疑問点を挙げながら扉を叩く伸ばしたその手を停めた。中を覗けるガラスの窓の向こうに白骨化した人骨があったからだ。そしてそのすぐ傍らにサイナの同機種のドールが目を瞑っている。
「サイナを連れてくるべきだったか」
こんにちわと言いながら扉を叩く代わりに見つけた水晶のベルに繋がってる紐を優しく引っ張って鳴らした。チリン、と一回音がなると目を瞑っているドールが覚醒したように目蓋を開き、動き出した。
「いらっしゃいませ」
扉を開けてくれたドールは、俺が言う前に中へ通してくれて人骨の前に座らされた。
「えっと・・・?」
「問いにお答えください。ここまで来る時、モンスターと遭遇しましたか?」
「えっ? 静かに来たから戦いもしなかった」
「ここはどこだかお分かりで?」
「神秘的な水晶だらけの場所としか」
「何か懐に入れましたか?」
「何も見つけれなかったから取ってない」
それからも質問を繰り返すドールに正直に答えていく。
「錬金術には興味がおありですか?」
「ある方だけど、ここ最近ファーマーをしたり神獣相手に戦っていたからしてないなぁ~」
「なに、神獣と戦っただと!?」
突然骨が喋りだした。え、生きてたの? こっちはびっくりしたけど、ドールは凄く呆れた表情で息を吐いた。
「マスター、客人を驚かす側が驚かされてどうするのですか」
「あっ」
しかも、声からして女のようだ。
「で、本題に戻らしていいか。どちら様だ」
・・・・・。・・・・・。・・・・・。
・・・・・。・・・・・。
・・・・・。
「私は錬金術のラプラス。こちらのドールはゼロだ」
「死神ハーデスだ」
「うむ、よろしくだ。さて、ここはどこだというと『宝饗水晶巣』というところだ。主に水晶のモンスターが棲息している。そこらへんの水晶に振動を与えると数の暴力で襲いかかってくるから気を付けたまえ」
自分の判断と直感に信じてよかったと思った日は今日までなかった。
「ここはラプラスが作ったわけではないんだな?」
「元々だよ。私達が来た数百年前からずっとこの状態が築き上がっていたようだ」
「どうして骨になっても長生きしていられる?」
「私は錬金術師の前に魔法を極めた魔神だった。しかし、永遠の命を得たあまりに呪いとして肉体が腐り墜ちてしまった愚者であるがね」
―――――っ。生きた神の領域に至った魔法使いのNPCだと? そんな凄い人物がどうしてこんな場所に?
「どうして私がここにいるのか不思議に思っているのかい」
「うん」
「素直でいい。理由は二つ。一つは外界との関りに嫌気がさしたのさ。厳密に言うと魔神の力を恐れ、魔神の力を強欲のまま手中に収めんとする人類にね」
「・・・・・」
「私がこのような姿になったのも仕えていた国の王が永遠の命を得られるという、賢者の石を欲したからだ」
「手に入るものなのか?」
「素材がなければ不可能に近い。賢者の石には様々な特殊素材が必要なのだ。その中で困難な素材はオリハルコンだ。これはエルフの王族しか所有しておらず、手に入れることは不可能に近い。それでも強欲な王は―――エルフの里に襲撃を繰り返しオリハルコンを手に入れてみせた」
そして目の前の魔神は今までの錬金術の技術を駆使し、見事に賢者の石の製作に成功した同時に自身も伝説の錬金術師として名を馳せたのだと語ってくれた。
「だがね。賢者の石を碌に扱ったことが無い者が使えばどうなるか、当時の私達はまだ気づかなかった」
「どうなった?」
「私の技術に誤りがあったのか、それとも私達が思っていたのより賢者の石の効力が凄まじいのか定かではないが賢者の石に宿っていた力が暴走を起こし、一国を巻き込む大爆発により私を除いて全てが吹っ飛んだ」
賢者の石って溶かした水で飲むもんじゃなかったっけ? どうやって溶かすのかわからないけど。
「とっさに防壁を張って命からがら生き残った私にも影響が及んだ。一人だけ生き残った私は老化しない肉体を何十年も得たかと思えば、最後は肉体が腐り骨と未だ尽きない命だけしか残らなくなった。その理由もようやくわかった頃には自分に失笑したよ」
ローブの前を捲るラプラス。血肉が腐り無くなった肉体がない今、剥き出しな肋骨に守られてるようにある石の欠片が光り輝いていた。
「賢者の石に宿る力は半分になっても凄まじいようだ。一国を巻き込む大爆発の際、半分に割れた賢者の石が私の胸の中に貫いていたとは気付かなかったよ」
「取れたりしないのか?」
「恐らくできるだろう。しかし私は敢えてしなかった。いや、出来なかったというべきかな。今更死ぬのが恐ろしくなってしまったんだ。せっかく骨になっても生き長らえるなら、ずっと生き続けてみたいという人間の性に逆らえなかった」
誰もが思いそうな考えだな。目の前の魔神もその一人に過ぎなかっただけだ。
「それ以降は睡眠も食欲も不要になったこの身体で、出来なかったことをし、試してみたかった、体験してみたい、経験してみたいことを散々やってきたよ。この場所を見つけたのも本当に偶然だ。この場所に通ずる洞窟は塞がってしまったが、静かに暮らすところとしては申し分ないからいっそのことここで永住することにして以来、今に至る」
「俺はマグマを潜ってここまで来たんだがな」
「マグマを!? あれからどれぐらい時が経っているのか分からないが、今時の人間はそんなことも出来るようになっているのか」
「やろうと思えば案外やれるのが人間じゃないのか?」
「・・・・・ああ、すっかり忘れていた。その通りだ、確かにその通りだったよ」
顔に肉があったら苦笑していたのかもしれないな。頭に手をやって乾いた笑い声を零しているから。
「ゼロとは何時の時に?」
「機械溢れる町に行ったことはあるかい? そこで人間を模して量産しようとしていた機械神と交流した経緯で最初に作られた彼女と契約させてもらったんだ」
「ゼロってそういう名前の意味か。俺もドールと契約している、サイナって家族をな」
「ほうほう、それは興味深い。では、機械神と会ったんだね? 彼は今も?」
興味津々に訊いてくるラプラスに機械神は二代目に乗っ取られ滅んだと伝える。
「今の俺は初代を受け継いで三代目機械神に、サイナが四代目機械神になっている」
「そうか・・・・・彼の力をキミ達に託して安らかな眠りへ・・・・・」
窓の外へ見つめるラプラス。逝った機械神に冥福を祈ってるのだろうか。静かに見守っているとラプラスが立ち上がり出した。
「ハーデスよ。案内したいところがある。ついて来てほしい」
そう言われアルプスについて行く形で外に出て、ゼロを家に留守番させて移動する。
案内された場所は水晶の巨大樹だった。
「宝饗水晶巣の全ての水晶は特殊でね。魔法の抵抗力が高いんだ」
「魔法の抵抗力?」
「勿論壊れるが力の基準が不明なんだ。魔神の私だから壊れるが、魔神の私でもとにかく壊れない水晶が『クリスタリーウッド』と私が勝手に呼称してるこの水晶樹だ」
骨の手で水晶樹に触れるラプラス。
「この場所に繋がっていた通路も水晶樹と同じぐらいの大きい水晶で塞がっているから、出られなくなった話でもあったわけだけど、クリスタリーウッドは中々興味深いことが判明したんだ。―――これ、魔力を蓄えているんだ」
蓄えている・・・・・?
「どうやってだ?」
「世界樹のことは知っているかい」
「全ての植物の根と繋がっていることか?」
「そこまで知ってるなら話が早い。その根にクリスタリーウッドの根も一緒に繋がっているんだ。繋がっている植物から空気中にある魔力の元、魔素を酸素のように吸収して長い年月を懸けて蓄えている。その魔力がこの場所を作り、棲息しているモンスターはクリスタリーウッドから育つ水晶を主食にしている。壊れた水晶は数日後には完ぺきに戻るほどこの場所は魔力が充実しているんだ」
感嘆の息を吐きクリスタリーウッドを見上げる。それは凄いとしか言えないほどここは特殊な場所なんだな。
「会ったばかりの君だが、話をして優しい心を持っていると思う。そこで頼みたいことがある。どうかこの場所のことを他の人間達には教えないでほしい。その代わりに君だけなら何をしても構わない」
「あー・・・・・荒らし回りそうだからか。クリスタリーウッドを始め、この辺りの水晶とかモンスターとか狙って」
「そうだ。この美しい場所をこれからもずっとこのままにしたい私個人の我儘だ」
「外に出ようとは?」
「思わなくはないが、私のような存在を人間が受け入れられると思うか?」
見た目は骸骨。でも中身は魔神と賢者。うーん・・・・・。
「多分、普通に受け入れられるぞ。俺等割と変なところで変人だし」
「そ、そうなのか・・・・・?」
全員ではないし、それは心外だと異を唱える奴もいるだろうが、この骨が女だと判れば接し方も・・・・・わからないな。骨だし。
「にしても、よくここは無事だな」
「というと?」
「鉱石を食べる二種類のモンスターが最近地上で現れてさ」
水晶は鉱石だから、ここに来ても不思議ではないんだがな。食べる鉱石に好みとかあるのかな? ラプラスにそのモンスターのことを教えようとした時、地面から振動を感じた。
しかもごく最近体感した振動ですねー。ほら、ドンドン大きくなってきてさ? いまここに行くぞー! と揺れも激しくなってさ。
「不味いな。モンスター達が警戒心を剥き出しになる」
「どんなモンスターがいる?」
「ゴーレムと蠍に蛇が三つ巴の戦いを繰り広げてる。これだけ振動が大きいとクリスタリーウッドを中心に戦い始めるぞ」
見てみるか? とラプラスの誘いに従いクリスタリーウッドの上へ向かった直後にそれは現れた。地龍と鉱石喰らいが咆哮を上げ、お互い周囲の宝石や水晶を喰らいながら戦い始めた。
「あれのことかい」
「そう、あれのこと」
「あれらのことなら数十年に一度は来るよ。そして古代から住んでるモンスター達にやられる」
やられる? 信じられない言葉を耳にしたとき、さらに水饗宝樹巣全体を震わす大地震が生じた。クリスタリーウッドの枝に立つ俺ですら立っていられないほどに。何が来る、と待ち構えていたら鉱石喰らい並みの黒いゴーレムと黄金の蠍と緋色の蛇がこのエリアの端っこから現れてきて、地龍と鉱石喰らいへ向かってかけて行く。そして、2と3が加わり、地上では同じ3種の小型のモンスターの群れがあっという間に、クリスタリーウッドを囲んで争い始めた。地龍と鉱石喰らい? 殴り倒されたところを伸縮自在な蠍の尻尾(でも剣みたいなトライデント)で一刀両断の後はどっちも蛇に一瞬で丸呑みされたよ。
「えええ・・・・・ベヒモスより強いんじゃ」
「あの天災とどっこいどっこいだ。部外者が現れた瞬間にあの三つ巴の死闘が始まる。どちらか一種になるまでは闘いは終わらない」
「最後に勝ったのは?」
「ゴーレムの方だ。見ての通り、あの力と防御力が厄介な武器だが、蠍も蛇もそれに負けない特徴がある」
蠍は剣だとしてゴーレムは盾、蛇は速度と即死の丸呑みってか? 勝てるか微妙だぞおい。
「縄張り争いを延々と繰り返しているのか」
「似たようなものだね。それなりにこの場所を長年住んでいる私からすれば、騒音の元凶に癇癪起こしてブチ切れている感じだ」
「本当に静寂を好んでいるモンスターだな。ラプラスの言う通り、他の人間達を呼ばないのが賢明か。この光景を見たら流石にそう思わずにはいられない」
「理解してくれて何よりだ」
しない方がおかしいだろう。だけど、それは不特定多数のプレイヤーをここに招く場合だ。ここは正真正銘、俺しか来られない絶対領域、真の意味で独占できる狩り場に成り得るエリアだ。
「もう覚えていないだろうけど、二人が来た道って地上に出たらどの辺りなんだ?」
「お前が言っていた地龍か鉱石喰らい、また地中に穴を掘るモンスターが移動の際にできた長い空洞を見つけたのは覚えている。見つけた場所は・・・・・ゼロが覚えているかもしれない」
「そうか。じゃあ、それは後で聞くとして・・・・・俺は行ってみるよ」
どこに、と訊くラプラスに三つ巴の方へ指す。
「正気の沙汰とは思えないな。自殺願望者だったのか?」
「本当にそうなのか、またここに戻って来た時にもう一度聞いてやるよ」
【飛翔】で自ら死闘の戦場へ飛び込み、軽くプレイヤーを百人は呑み込める大きな口を開く蛇へと直行。
はい、その腹の中に用があるので失礼しますよー。
運営side
「・・・・・『
「だぁーくそっ!! まぁーた腹ン中で攻撃するつもりだぞあのプレイヤーめ!!」
「実際あの三種は打撃系のスキルを除き、物理と魔法無効化の水晶系のモンスターなので外より中の方が安全ですがね。ただし、彼ほどの【VIT】と【毒無効化】がないプレイヤーは別です」
「いっそのこと、持続ダメージの類として居続ければダメージを食らう設定でもするべきか」
「その間に倒されては意味ないのでは」
「・・・・・そうだよなー」
緋色の結晶の洞窟の中にいるかのような蛇の腹の中には、生きたまま呑み込んだ地龍と鉱石喰いの死骸が残っていた。激しく身体を動かす蛇のおかげでこっちもシェイクされる気分を味わされる。硬い鉱石にあちこちとぶつかりながらも不壊のツルハシを浮かんでいる採取ポイントに振るい続ける。
「少しだけ動かないでくれるかなー【咆哮】! うん、ダメか」
丸呑みされた場所が狭すぎるあまりに身動きが出来ない地龍は、散々俺に体の中から掘られてHPバーが全損、ドロップアイテムを手にしたことで地龍の存在の消失の代わりに大きな道が拓かれた。あちこちに揺さぶられぶつかりながらも奥へ進むと鉱石喰いの死骸を発見。採取ポイントもまだあったからそこを掘る。
「んん? おおっ、こいつらオリハルコンとヒヒイロカネを喰ってたのかラッキー!」
やっぱり鉱石喰いは鉱石の宝庫だわこれ。ヘパーイストス達にプレゼントしよっと。
さて、死骸もポリゴンと化しちゃったから残るは―――この蛇だけだ。不壊のツルハシの他、ラヴァピッケルを装備して・・・・・ふと思った。
「そういやぁ、溶結ってモンスターにも効果あるんだっけ?」
一度しか使ったことが無いから駄目してみるか。いい機会だやってみよう。
「【溶結】」
アルゴ・ウェスタとアグニ=ラーヴァテインを装備。大剣と連結した刃が付いた大盾が莫大なマグマの熱を帯びながら回転する斧の状態で蛇の体内の壁に叩き込んだ同時にスキルを発動した。
「あれ、できない?」
激しく暴れ回る蛇に揺さぶられる以外何の変化もないので首を傾げた。容量の問題か? んー・・・・・じゃあこいつなら?
「【マグマオーシャン】」
武器から溢れ出るマグマの海が蛇の体内を赫赫と照らしながら広がって満たされていく。
ラプラスside
「マスター、あの蛇が熱が帯びたように更に赤くなりましたが」
「ふむ、今まで見たことが無い現象だ。それに何だか苦しんでいるのも不思議だ」
クリスタリーウッドの上から見飽きたモンスター同士の戦いに異変が生じた違和感を抱く。緋色の蛇の身体が炎で熱した鉄の如く真っ赤な光沢を輝かしだしたのだ。その原因を判明しようと注意深く見つめていた二人の視界に、水晶が熱でドロリと溶解し蛇の身体が原形を崩す代わりにマグマの山が出来上がった。
「あれは【
一角が消滅、代わりに現れた敵にゴーレムと蠍が拳と尾で溶岩の塊に突き刺した。その一撃は今度は溶岩の塊を崩した―――かのように見えたが、今度は巨大な獣が出現して蠍の尾をその大きな牙で噛みつき、地面にいる水晶系のモンスターや巨大なゴーレムに向かって八つ当たりするが如く振り回して当て始めた。
「今度はベヒモスだと!?」
信じられない物を見たラプラスから絶叫があがる。一度だけ見たことがある絶望と恐怖の象徴たる巨獣。数多の冒険者や騎士と戦士達でも全く歯が立たなかった大陸の覇獣が現れたのだ、驚くなド無理がある。眼窩に目玉があったら、驚きのあまりに目玉が飛び出していただろう。
そんなラプラスに驚かせるベヒモスは蠍の尾を食いちぎり、硬い水晶などまるでせんべいの如くボリボリと咀嚼してゴーレムだけを残した。それから姿を消すベヒモスから黒い影が飛び出し地上にいる無数のモンスター達に向かって光の帯が降り注ぎ、連発する大爆発が起こる。
駆け走るゴーレム。地面を踏みつけて地鳴りを鳴らすのゴーレムに、黒い影が軌道を変えて胸部に吸い込まれていくように吶喊して行った。コバエを叩き落さんと極太な巨腕が飛来する隕石を彷彿させる圧倒的迫力を前に、小さな影は縦横無尽に掛けながらゴーレムの足を集中的に抉り続け、ついに片足の関節が破壊されてクリスタリーウッドを震わす地鳴りと揺れが、地面に倒れ込むゴーレムによって生じた後。たった一人を残してゴーレムも消失したのだった。