「王様、問題は解決したんですよね?」
「だったらどうした?」
「何か坂本君から協力してほしいことがあるって言われたんですけど。何かしようとしているんですか?」
「俺ではなく生徒同士が、だろうな」
「学園長として止めなくていいんですか?」
「それこそ解決策の一つだから止めないさ。寧ろ無意識だろうが強化合宿の本当の意味をあいつらは実行しようとしている。それをこの俺が止める筈がないだろう?」
「うーん・・・・・何となく考えていることはわかるんですが、もしもの場合は?」
「俺が見逃すと思っているか? なんなら燕も交ざってもいいぞ俺が許す」
「そうですか。じゃあ、協力するってことで坂本君に言ってきますね」
確認を取り、誘われた方へ協力する旨を報せに向かう燕の後。英雄達が料理を持って同席しながら燕との話を耳にしたようで聞いてきた。
「学園長、何かするんですか?」
「お前達を除く試召戦争だと言えばわかるだろ」
「ほう、そのようなことをするための強化合宿とは。これは我等Sクラスは惜しい事を逃したやもしれぬ」
「そうですね英雄。私達の操作技術を気軽に向上できる機会を自ら手放したみたいですからね」
「私的には学園長と過ごせる時間を手放したくない方で」
「僕もー!」
「こらこら、学生の本分は学業でしょうが」
両手に花の状態の学園長は隣からしがみ付かれたり、しな垂れかかったりする二人の少女に好きにさせながらたくあんとご飯を一緒に頬張る。
「お前等も参加したければしていいぞ」
「いいのですか?」
「ただし、一人は女風呂の前にいろ。女子が入浴する所を男子が間違って入らないよう監視だ」
「義経がその監視を任せてほしい」
いの一番に買って出た義経に任せる学園長。任せたと言葉を発した時に携帯が鳴り響いた。
「俺だ。うん、どうした? ・・・・・わかった。すぐ戻る」
通話に出た学園長は立ち上がるのを見て英雄たちは聞かずにはいられなかったが、それより前に英雄たちに告げられた。
「急用の仕事が出来た。強化合宿が終わるまでは戻れない」
「それは残念です。あなたと過ごせるかと思ったのですが」
「これでも俺は蒼天の王様だからな。だから義経。買って出た以上は頼んだぞ。頑張ったら俺の手作り料理を振る舞ってやる」
「!」
義経の艶がある黒髪を撫でた後に去り、燕の方へ向かう学園長の背中を見つめる義経が静かに燃えだす。
「いいなー! いいなー! 僕もお兄ちゃんの手作り料理食べたーい!!」
「確かに。英雄、悪巧みに便乗する気は?」
「義兄上に無理を言って下々の者達の家庭教師をしている身だ。我は一子殿に教えを授けねばならない」
「それあんた個人がしたいことでしょーが」
「なら、私も義経の手伝いをするよ。相手がAクラスだろうと一人じゃあ大変でしょう。政宗と信長は?」
「「私も一緒に」」
決まりだね、と今後自分達が取る行動を確認終えたことで英雄たちも分かれることになった。
―――蒼天
「集まってるな? 報告を聞かせてくれ」
四人の美女と美少女達が蒼天の中央区が戻ってくるのを待っていた場は円卓会議の場。各区の王しか座ることを許されないアンティークの椅子に最後の一人が座ると華琳が告げる。
「今準備を急がせてるけど、日本の某県某所で津波発生の可能性が発令されたそうよ。ここからじゃあ間に合わないからあなたの力が必要で呼び寄せたの」
「今のどのぐらい終わっている」
「まだ三割程度です」
「整い次第すぐに発しろ。俺は先に向かって被害を食い止めに行く」
「お願いね」
「よろしくお願いします!」
各自やることは既に定めており、それぞれ椅子から立ち上がってこの円卓会議の場に繋がる通路へと足を運ぶ。
「燕、お前もISの準備をしろ。これから忙しくなる」
「はっ、わかりました」
王としての発言に真剣な面持ちで返事する少女も自分が何をするべき行動をとった。
某県某所―――。
遥か海の彼方から津波で被害に遭っている現地に辿り着いた中央区の王は、数百以上も分裂して呑み込まれようとしている者、孤立している者を優先的に救助して津波の勢いを殺す岩の壁を水中から作り上げ続けながら濁流と化している海水を氷結、空中に吸い寄せて一点に集めるなどをしていって被害の最小限を全力で抑えていく。
「助けてくれー!」
「助けてぇーっ!」
「助けに来たぞ、もう大丈夫だ俺にしがみ付け」
「え、天使!?」
「あ、ありがとう!」
「走れっ!走れーっ!」
「ダメだ、津波の方が速すぎる!」
「ヤバい、もうっ、う、うわぁああああああっ!?」
「ギリギリセーフ!」
「「「えええっ!?」」」
「入院していた患者を安全な場所へ運ぶ。お前達も身の安全は守ってやる」
「ありがとうございます!」
「市長、あんなところにしがみ付いていたとは」
「すまない、感謝するっ。家内が避難しているといいんだが・・・・・」
「天使だ、格好いい!」
「天使、天使!」
「こんな普通は怖い状況の筈なのに、意外と肝が据わってる子供達だな」
「す、すみません! すみません! こら、あなたたち!」
たった一人で救えた人数は多いが、それでも救えなかった人数が圧倒的に多かったのは仕方がないと言える。守れた町も4割だが救えなかった6割は甚大な被害と言えよう。海からくる津波を巨大な氷壁で塞ごうと町を襲う津波と化した海水の勢いはまだ止められていないからだ。それでも王は救いの手を伸ばす。津波に流されている家の中に人の気配があれば、津波が迫ってくる直前にまだ家の中に人の気配があれば助け出す。その中に―――津波の勢いに呑み込まれ沈みかけている二階建ての家の屋根を剥がし、逃げ遅れた人を助けようとしたら。
「イ、イズ!?」
「え、その声・・・・・ハーデスなの!?」
ゲーム内で見知った人物とリアルで助け出される一人になろうとは当人達は思いもしなかっただろう。
「―――掴まれ!」
「う、うんっ!」
数秒後、沈みかけていた家が完全に沈没。助け出された女性は王の腕の中で安堵感に襲われ、大切に抱えていた鞄の口から世界唯一のハードギアが覗き光沢を放っていた。
―――数時間後。
「「「「「蒼天の自衛隊総勢500万人、ただいま到着いたしました!」」」」」
「敢えて詳細の指示は言わない。目に見えるもの全て対処しろ」
「「「「「はっ! 了解でございます!」」」」」
各区がの蒼天の自衛隊の総隊長に命令を出す王のもとに、金髪碧眼で頭の上に人形を乗せた少女がやってくる。
「ではではー、その後の相談を風と一緒にしましょうねー」
「来ていたのか。学校はどうした・・・いや、野暮だな」
「賢明な判断かとー。風達は安定するまでの作業を続けるだけですので~」
「ここの仮拠点は任せるぞ風」
「お任せあれー。後でご褒美くださいねー?」
大和side。
学園長がいなくなった原因がわかってしまった。津波が発生するほどの大地震があった場所に無理言って、英雄に頼み被災地に連れて行ってくれた。旅人さんがいなくなって数時間が経過してあれから某所はどうなったのか、テレビや携帯で知っている。蒼天の自衛隊らしき大勢の人間が瓦礫の撤去を始め、命からがら避難できた人達と話をしている様子が見て取れる。
「悪いな英雄」
「気にするな。我等九鬼家も救助するつもりであった。義兄上に先を越されたがな」
遅れながらも到着した九鬼家専用のヘリが津波で沼地のようになってしまった地面に着陸して、扉を開けて出てみれば無事な建造物は殆ど皆無で、他は全て津波によって押し崩され壊れ尽くした建物の集められた残骸の山しか見渡す限り残っていた。
「朝まであった町が何もないなんて・・・・・」
「これが自然の力ってやつかよ・・・・・」
「おい、唖然としている場合ではないぞ。我等も撤去作業をするのだ。それが条件で連れてきたのだぞ」
「ああ、わかってる。旅人さんはどこにいるんだろうな」
ここにはいなさそうだ、と俺の呟きに気にせず英雄が続々と他のヘリから降りてくる執事服の九鬼家従者達に命を下し始めたところで誰かが話しかけてきた。
「何や自分等? 一般人は立ち入り禁止やで」
関西弁を操る女の声。振り返れば、紫の髪をツインテールのように結い上げ、姉さんよりも豊か過ぎる胸を水着で身に包み、短パンを穿いた少女がいた。年齢は俺より上か?それに背中に巨大なドリルも背負ってるけど、作業員の人なのか?
「あなたは?」
「ウチは真桜っちゅうんや。蒼天の北区の王の工作兼建設工業の総責任者やで。自分等が来ることを聞いておらんねんけど何しに来たんや?」
「決まっている。我等九鬼家もお前達蒼天の者と共に撤去作業をしに来たのだ」
九鬼家?訝しいと目を細め俺達を見まわす。
「後から来られても困るんやけどなぁ。もう六割以上撤去終えとるところなんよ」
「まだ残っているならば我等も同じことをしても構わんだろう」
「うーん、大将に訊いてみるさかい。ちょい待って」
話が平行線になりかねないと判断したのか、真桜は携帯を取り出して誰かに通信を繋げた。
「もしもし大将? 何か、こっちに九鬼家の連中が後から来て手伝いに来たと言い張るんですけどどうします? ・・・え、ほんまに? ・・・・・ほいほいわかったで」
彼女はこっちに顔を向けてくる。
「大将が了承したで行ってきぃや」
「大将って、えっと中央区の王様?」
「そうそう、何や大将の知り合いなん? まぁ、どっちでもええけどこの辺りはウチら北区の王の管轄になっとるから大将がいるところに行ってくれん? 大将曰く、ヒュームって金髪の不良執事がいるなら素直に従わず喧嘩を吹っ掛ける言動をしそうだから俺のいる場所を教えておけ、やて言うし」
不穏な気配を纏うヒュームさん。あながち間違ってないかもしれないです旅人さん。
「大将はこの先のずっと向こうにおる。ヘリで来たんならヘリで行った方が速いで」
「感謝するぞ。では皆、場所を変える!」
再びヘリに搭乗して旅人さんがいる場所へと移動開始する。時間にしてそこまで掛からなかったけど、眼下の景色は見るも無残な瓦礫や廃墟と化した町並みしか見えなかった。そして俺達が目的とする場所は大火の炎がキャンプファイヤーをしているかのように空高く煙も一緒に昇っている。使えなくなった木材を燃やしているのだと理解したところでヘリは着陸態勢に入った。
「ここは、凄いな」
「さっきの場所もそうだったけどここも粗方撤去作業が進んでいるみたいだね」
「それもそうだが、見ろあれを。あれがお父様が言っていた蒼天の軍事兵器だ」
「何だあれ、鳥のように飛んでるぜ!?」
「九鬼家にはない飛行パワード・スーツのようであるな。むぅ、蒼天はあのような兵器開発の技術を持ち合わせているのか」
「なんか、翼が生えてる救急車っぽいのもあるんだけどね。まさか空を飛ぶわけないよね」
普通の作業員じゃない者も交じって活動している蒼天の自衛隊を何時までも眺めていられなかった。
「協力要請した覚えはないんだがな。ま、そっちがそれ相応のことをしてくれるならこっちは色々と助かるな」
「旅人さん!」
「合宿所から抜け出した件はきっちり説教するからなお前等」
蛇を睨む蛙のように俺達を睥睨する。怒られる承知の上で来たんだが、やはりこの人を怒らせるのは非常に不味いようだ。冷や汗が止まらなかったのは多分俺だけだと思いたい。
何かを巻いてる物を持ってきた中央区の王が現れ、傍らにはまだ小学生ほどの小さな少女が二人いた。先が曲がったとんがり帽子やベレー帽のような帽子を被っていて、初めてみる大和達に対して緊張の色が顔に出て王の足に寄り添うようにくっついていた。
「子供? 何でここに?」
「はわわっ。こ、子供ではありません。西区の王と一緒に蒼天を支え政治を務めている朱里です。こっちは雛里ちゃんです」
「あわわ・・・・・」
反論する少女の言い分に「見た目はまんま子供じゃんか」と心中揃ってツッコミを入れた一同だが。
「・・・・・可憐だ」
「トーマ、準が壊れたー」
「ユキ、学園長に迷惑が掛からない程度、準をサポートしましょう」
慈愛で満ちた瞳で二人を見つめる準。
「てか、こんなちっこいのが大人の仕事をさせてるのか?」
「見た目よりも中身が凄いぞ。この歳でSクラス以上の点数を叩き出す秀才だ。名門の大学も飛び級で卒業もしてる」
「ほう、それほどまでの者とは感服したぞ。蒼天はやはり常識を逸脱した国なのかもしれんな」
「俺が作った国だぞ? この程度で驚かれちゃ困る。蒼天は夢の国、ファンタジーに作ったんだからな」
ファンタジー? 誰もが首をかしげるも手に持っていた巻物、東日本の各地図を宙に広げながら浮かせた。朱里と雛里が用意された踏み台に乗ってから現状の報告を告げる。
「蒼天の自衛隊500万人の活動もあって―――」
『500万!?』
「五月蠅い、口を閉じてろ」
睨まれて押し黙る大和達。
「撤去作業は避難者も協力させたから八割強進んで、見ての通りこの辺りは更地だらけの土地になっている。現在は救助・避難している人達の為に炊き出しをしているところだ」
「その他、行方不明者の捜索と亡くなった人達の遺体の回収が同時並行でしています」
「蒼天から送られてくる物資の輸送船の手筈も整っています。というより蒼天は大災害にあった国の支援や援助をするためだけに、昔から物資をいついかなる時の為に貯蓄していたので50万人の避難者が出たとしても10年までは問題なく生きることができます。ただ、問題なのが住む場所で今のところ解決の目途が立っていません」
説明は終わりだと一区切りをつけて口を閉ざす雛里。
「現状は以上だ。質問はあるか」
「我らが手伝えることはあるか」
「ぶっちゃけ、救出して助かった人数分の食糧が今だけ足りていない。家の崩壊が免れた一家から食料を持ってこさせてもだ」
「よかろう。我が九鬼財閥から民草の為に食料を集めて来よう!」
「だからって買い占めてくれるなよ?他の人に迷惑が掛かるからな。できる限り日持ちするものを―――」
こういう時の協力は物凄く助かると王の心中で英雄の存在に感謝していると。
「王様ー!」
「物資を届けに来たよー!」
不意にどこからともなく幼い子供の声が聞こえてきた。朱里と雛里ではない、この場に近づいてくる者はいない。ならどこだ?と思っていると太陽の光に影が出来上がって、自然と視線を真上に向けた時であった。
「え、えええええええええええっ!?な、なにあれぇっ!」
一子の素っ頓狂な驚きの叫びは皆の心中を代表にする言葉だっただろう。何せ―――数多の巨大な船が空に浮いているのだから。
「あ、後続の輸送船が到着しましたね」
「輸送船!?海を航海する船のことじゃないのか!?」
「蒼天の輸送船は飛行が可能とする輸送船です。数十年前から世界各地で起きた大災害時にはあの飛行する輸送船で物資を運んでいるそうですよ」
「蒼天の名物としても数えられているぞ。何時か空の旅ができる豪華客船も建造する視野も入れているんだ」
全体が青く、全長は100m以上はあるだろう。後尾に巨大なプロペラがつけられ船体の中心から伸びるように生えている翼、エンジン。輸送船と輸送機を融合させたような巨大な物が上空を飛んできている光景に初めて見る大和達は心底から度肝を抜かされたのだった。
「あれ、どうやって飛んでいるんですか?」
「秘密に決まっているだろう。因みにあの船を設計したのは俺で完成させたのが俺と真桜達技術班だ」
「真桜、え、彼女もですかっ!?」
ただの巨乳の娘じゃなかったのか!?と 愕然とする驚きの事実だった。
「義兄上、蒼天は人材の宝庫なのですか」
「誰が義兄上だ。それと人材の宝庫なのかって? 別にそうでもないぞ。ただ、強いて言えば普通の人間より優秀な家族が国一つ分の人口の分程度はいる。強さは九鬼家従者に劣るけどな」
「先程、500万の自衛隊が活動している話だったが、蒼天の人口はどのぐらいなのだ?」
「2000万以上。日本より少ないだろ」
少ないが、人口の一部の自衛隊をポンと駆りだすことができる理由としては不十分。毎日訓練でもさせているのかと気持ちになるが離れたところで地上に着陸した船が搬入口を開いて物資を出し始めた。
「王様ー!」
「ただいま到着しました!」
「やっほー、シャオも来たよー!」
「・・・・・また、可憐な幼女が・・・・・」
「冬馬、準の様子がさっきから変だぞ。何なんだ」
「学園長は知らなかったですね。準はロリコンなんですよ」
「来るなお前達! ロリコンの毒牙にかかるぞ!朱里と雛里も今すぐ避難だ!」
割と本気で言う王に幼い少女達は軽く驚いた表情で目を丸くした。
「失敬な旅人さん! 俺は小さい花を見守ることが好きなだけなんだ! 襲うなんて以ての外だ!」
「本音は?」
「おにいちゃん、一緒に遊ぼーとか、おにいちゃん、はいあーんとか、おにいちゃん、一緒におねんねしよーとか、そういうことされたいだけなんだ!」
「・・・・・悲しすぎる」
orzとガチで準のロリコン度に落ち込みだす王を心外だと準は冬馬に親指で突き差した。
「オイオイ、若なんて女だけじゃなくて男もイケるバイセクシュアルだぜ」
「・・・はっ?」
「止してください準。いくら本当でも公にするものではないですよ」
「我が友冬馬よ。義兄上が無言で距離を取り始めたぞ」
「ある意味、それが正常な反応だよね」
朱里と雛里を抱えて名も知らない三人の少女達のところへ避難する王に誰もツッコミはしなかった。
「あの、旅人さん。その子達もどこの区かの王の下で働いている子供ですか?」
「そうだよー。シャオは南区の王、雪蓮(シェレン)姉さまの三女の妹のシャオレンだよ」
桃色の長いツインテールを輪っかに白いリボンで結い、青い瞳は純粋無垢な光を宿し臍を出している腹部から窺える瑞々しい身体は褐色に染まっている。
「シャオ、お前抜け出してきたな? おてんば娘め。国にいろって雪蓮に言われなかったのか」
「言われたけどさー、シャオもちょっとでもいいから外国に行ってみたかったもん! 勿論二人の手伝いもするよ?ねー、いいでしょー?」
王の身体に未成熟な体を擦り付け甘える仕草をしておねだりする。その姿に何かクるのか何人かの少年は顔を赤らめたり、若干前かがみの姿勢になった。だが、王は無造作に小蓮の頭を鷲のように掴み上げて持ち上げた。
「・・・・・帰ったら蓮華(レンファ)と一緒に説教だからな? 逃げたら尻叩きだかんな?」
「ひぅッ!?」
浮かべる笑みの裏で隠れた恐怖を感じ、怯えて涙目になる小蓮。地面に下ろして促す。
「電々、雷々、まだ手が欲しいならこいつらもコキ使え。手伝いに来たらしいがやらせることが無くて悩んでいた」
「はーい、わかりました」
「じゃあ、早速物資の運搬をしてもらうねー」
「しゃ、シャオも手伝うわよ!」
橙色の髪の双子の少女、姉が電々、妹が雷々と小蓮についていく大和達を見送ると三人は来た道に戻り始める。
「王様、良かったのですか?」
「どうすることもままならん。好きにさせておけ。それよりももう少しで日が暮れる」
空を見上げながら夜になった時の避難民の今後を見据える。
「はい、皆さんの寝泊まりする場所は客船を兼ねている輸送船になっております。しかし、それでも一隻につき千人程度しか利用できません」
「幸い、王様が津波による災害を防ぎ、多くの建物の崩壊を守れたおかげで壊れていない家の人達はそこで住んでもらうことができます。ですが・・・ライフラインが全て寸断していて不便な思いをさせてしまいます」
「ああ、今は仕方がないとして割り切るしかない。だから朱里、雛里。避難者の数を今日中に的確に打ち出せ。人数によっちゃあ蒼天で避難生活をさせるぞ」
当初の予定とは異なることを王が言い出して面を食らう二人であったが、直ぐに朱里が何か思い出した風に口から言葉を零す。
「あ・・・・・もしかしてあの異常な増築はこのために・・・・・?」
「前話し合った件があるだろ。あっちが本命。だが、状況が状況だ。復興が完成するまで蒼天に避難させれば政府も肩の荷が軽くなるだろう。当然だがタダでするわけないがな」
「物資の要求をするのですね。人数によっては数倍以上求めることになりますが」
朱里の言葉に人差し指を立ててもう一つあると伝える。
「それもあるが、避難者にも仕事をさせる。復興するまで多く抱え込むことになるだろうがその分、国の発展にも繋がるはずだ。今の蒼天の生産力も増すだろう。主に漁業と農業な」
「雪蓮さんと桃香さんの区に避難させるんですか?」
「余裕だったらな。全ての区に避難させるつもりだけどできるだけ同じ県、同じ地域の住民を同じ区に避難させたい。顔見知りがいたらそれだけで安心するのが人だからな。初めて出会った時のお前ら二人の時なんて―――」
「はわわっ!?い、今はもう違いますよぉっ~!」
「あわわっ・・・・・!」
「はーい、皆さーん。一列に並んでくださーい!まだまだご飯のおかわりがありますからねー!」
「たくさん食べてくださいね」
「着替えが欲しい人はこっちに並んでください!」
西区を統治する王達が炊き出しに精を出している真っ最中のところに大和達が合流した。そこには数えきれない数の人の長蛇の列ができていて、終わりがないように見える。それでも生き残った人達の為に全力で支援をする姿勢の王の顏は輝いていた。
「旅人さんが彼女を王にした理由が何となくわかった気がする」
「可愛いもんな」
「容姿は確かに可愛いけど違う!ガクト、お前旅人さんに叱られるぞ」
「おーい、喋ってないで手伝ってー。たくさんあるから早く追加の食材を出さないといけないんだからー」
「この井上準にお任せあれ!」
「おおっ!一気に五個も持つなんてすごーい!」
心から驚嘆する電々の称賛にテンションが高くなった準が終始笑みを浮かべる。愛しい小さな少女から褒められることは神からの祝福のごとくであるので、人の二倍以上の働きをする準は電々に印象を与えた。
「にゃー、お兄ちゃんやるのだ。鈴々も負けないのだ!」
そこへ対抗意識を燃やす赤髪のくりくりとした大きな眼の子供が積み重なった荷物を持ちにやってきた。微笑ましい言動をするが危ないとやんわり静止の言葉を送る。
「お嬢ちゃん。まだ小さいから持っちゃダメだよ」
「鈴々ちゃん、お願いね」
「わかったのだ!よいっしょっと」
準の制止を軽く流された。電々のお願いに鈴々と呼ばれた少女は―――まだ低学年の小学生並みの身長の少女の身体とは思えない、小さな両腕で十個も積み重なった状態の箱を軽々と持ち上げて持っていくあり得ない光景に準だけじゃなく、大和達も開いた口が塞がらなかった。
・・・・・。・・・・・。・・・・・。
・・・・・。・・・・・。
・・・・・。
「王様、後に増えるかもしれませんが概ね各県の死傷者と行方不明者、生存者の算出ができあがりました」
夕日が沈み、電力の送電ができず一つも灯りがない元町を覆う暗闇の中。蒼天が製作した数多くの照明塔で照らされる更地を一望できるように設置された展望台にいた時、朱里から報告書を受け取り内容を確認する王の眉根が皺を寄せた。
「まだこんなに助けられなかったか・・・・・自分に嘆かわしいな」
「・・・・・心中察します。ですが、その結果の逆を思えば王様に助けられた人が多くいるのです」
「分かっている。行方不明者の捜索は全力で地面を掘り起こしてでもやってくれ。
念のために山の中や海底もだ」
「はい、そのように」
「もう一つご報告が。日本政府の者が面会を求めています」
今頃か、と嘆息の王は展望台を後にして面会を求めている政府の役人のところへ向かう。直立姿勢の黒い服装を着込んだ中年の男性が深々と王の姿を肉眼で捉えると上半身を折って一礼した。
「お初にお目にかかります蒼天の王。私は―――」
「ほのぼのと挨拶をしている状況があるなら日本政府の対応を俺の目の前でしてほしいんだが? 何時になったら日本の王は動き出す」
役人の頭を鷲掴み至近距離で睨みつける。
「どうしてこの国の頭じゃなくてお前? お前に何の権限を渡されてここにいる?」
「わ、私は総理の代理として貴方様に感謝の言葉と現状の報告を―――」
「感謝の言葉はいらないから。現状のことを知りたいなら自分で確かめに来いと伝えてこい」
追い返す仕草をする王に慌てる役人は必死に取り繕うとするが、取り付く島もなく言い返される。
「死者と行方不明の数は追々提供する。それと津波で家屋を失った住民だけはしばらくの間は蒼天に避難させる。お前らはさっさと二回目の大震災が遭っても問題がないような町を創り直すことに全力でやれ、そう総理に伝えておけ。いいな」
「そ、そんな勝手なことを・・・! 我が国民を他国に避難させるならば手続きをしてもらいたい! 独断で連れて行く行為は蒼天が拉致したと疑いを向けられますぞ!」
「勝手? これは蒼天と日本が同盟を結んだ際に取り決めたことだ。お前、政府の人間なのにそんなこと知らないのか? 蒼天と日本、どちらかが大規模な災害に遭った時は迅速的な救助活動と援助をする盟約をよ。これも立派な救助活動に過ぎないぞ」
それともなにか、と王は役人に顔を詰め寄せる。
「お前等だけで俺一人分の働きが出来るというのか?」
「ひ、一人分ですと・・・・・?」
訳の分からないと言いたげな役人の首を掴んだまま空へ飛び、巨大な氷壁がある湾内へ連れ去った。
「あそこを凍らせなかったらもっと津波が押し寄せて住宅街や商店街の建物が今よりも倒壊して流されていただろう。中には身体が不自由だったり自宅で寝転んで生活する人間もいて、避難する暇もなく津波に巻き込まれてただろう」
「・・・・・」
「俺も全ての人間を救う事はできない。津波発生した直後に蒼天から報せがあって、俺一人でここまでの事態に収束させても死者を出してしまった。それでもそれ以上の人の命を救った」
役人に顔を向ける。
「でさ、お前たち人間は津波の警報を知ってから俺のような働きが出来るのか?」
「・・・・・っ」
「後は自分達でやるって言うなら蒼天の自衛隊を退却させる。もちろんお前の判断で決めろよ?」
それから役人を追い返すように総理大臣の下へ送り返した王は雛里に訊ねた。
「住処を失った避難者の収容は進んでるか?」
「北区と南区の方はもう間もなく完了します。ここの県の人達も桃香さんの説得の甲斐があって皆さん納得して就寝の準備をしてくださってます」
「蒼天に待機している東区の王達の懸命の働きもあって受け入れは70%です。明日になれば万全を期して皆さんを限定的な移住をさせることができます」
一つ頷く王はとある方へ視線を注ぐ。
「明日、死者の弔いをする。華琳と雪蓮にもそう伝えてくれ。それから蒼天に行くぞ」
「「はい」」
そして日本の大震災から一日経った翌朝。王達がいる某県で津波によって亡くなった人達の遺体がドーナツ状で間隔等に並べられてぽっかりと開いた中心に王が立っていた。死体の傍には遺族が寄り添い意識を王に向けている。
「まずは、日本政府と俺の不甲斐なさでお前達の友人や家族、愛する者を救えなかったことに謝罪を。―――申し訳なかった」
深々と謝罪の念を込めた土下座をその場で示した。遺族達と避難者は酷く驚き、息を呑んだ。一国の王が自ら非を認め汚れを惜しまない土下座をしたことに言葉も失った。
「大震災の時、俺はこの国にいた。そして地震が発生すると悟り一目散に駆け付けた時は、既にこの県を含め三つの県が津波に襲われていた。全力で助けを求める人々を救ってきたが、それでもまだこんなに助けることが出来ず死なせてしまった多くの人達がいる。深く申し訳ない・・・っ!」
「皆さん、ごめんなさい!」
『申し訳ございません!』
世界の王として他国の国民に謝罪する姿を蒼天の自衛隊や王達は静かに見守っていた。否、西区の王達は自分達も王と同じ気持ちだと一人残らず全員が土下座をしたのだ。
「謝罪をされようが死んだ者は生き返らない、と思っている者は必ずいるだろう。そして避難者と遺族のお前達の中に助けられなかった己を悔やみ怒りを抱いている者もいるだろう。だが、俺達は何時までも悔やんではいられない。前に進まなければいけない。それが人だからだ」
王達が立ち上がり、王が片腕を天に衝くと眩く発する光から金色の錫杖を掴み取り、全身を金色の光を迸ると六対十二枚の天使の姿になった。
「これから葬儀を始める。遺族の者は亡き者に冥福を捧げてくれ」
その通りにする遺族達を見守りながら錫杖を揺らす。シャランと綺麗な音を鳴らすと王達の背後に幾何学的な円陣が浮かび上がって巨大な黄金の大鐘楼が出てきた。
「自衛隊、鎮魂歌の鐘の音を鳴らせ!」
『はっ!』
パワード・スーツを装着している自衛隊達が一斉に動き出し、鐘の音を鳴らすための黄金の鎖を掴んで桃香の合図と共に鎖を引っ張り鳴らした。とてもとても美しい鈍重でありながら極東中を鳴り響く鐘の音。
カラァー・・ン! カラァー・・・・・ン! カラァー・・・・・ン!
その鐘の音は歌声にも聞こえ、この地で亡くなった死者たちに対する
「死者達よ安らかな眠りに至れ」
遺体に向かって翼から放たれる神々しい光。その光を浴びた遺体から身体が透き通った亡くなった人の魂が出てきた。最後の別れだと魂の状態の者達は、遺族達に声を発せなくても口を動かして伝える。遺族達は涙を流して天に昇る魂を見送る。空にいる王にも感謝の言葉と安らかな笑みを浮かべ空の彼方へと消え去って、残された遺体の中心に様々な野花が咲き乱れ、遺体から植物が生えたと思えばどんどん成長して樹木と化し―――最後は桃色の花弁を咲かせた。
「桜・・・・・」
「奇麗・・・・・」
祝福された葬儀として遺族達の涙が止まらない。咲き誇る桜が遺族達を包み込むように花弁を落とす。しばらくして金色の空は元の青い空に戻り、王が舞い降りた。
「死者の魂は天に昇った。冷たい遺体は綺麗な花を咲かせこれからも春の季節になれば何度でも咲くだろう。そしてその瞬間を見守るお前達はこれからも生き続けなければならない。それが大震災の中で生き残ったお前達の義務だ」
遺族達と避難者達は王の言葉を深く受け止める。
「俺は蒼天の王、お前達が自然災害に遭った時は必ず助けに行く。約束する絶対にだ」
金色の錫杖を消失した後、王が手を叩くと桃香達が動き出す。
「さあ、まだ食事をしていないから腹が減っているだろう。この墓標代わりの桜の木の傍で死者を弔う意味を兼ねて花見をしようじゃないか!」
不謹慎な、とは誰も口にせず用意される料理の数々に人々は口にして桜の木に囲まれながら食べるのだった。それは華林と雪蓮がいる県でも同じで数時間後、蒼天に向けて避難者を乗せた輸送船が飛び立つまで続いたのであった。
「王様、凄かったです。あんなことができるなんて・・・・・私、感動しました」
「感動してくれるのはいいけど、これから大変だぞ。桃香の区に大勢の避難者が住むんだ。その対応に追われる仕事をするんだからな」
「はい、一生懸命頑張ります!」
「愛紗、桃香が逃げ出さないように見張ってな」
「はい、勿論です」
「あー! それ酷いよ王様、愛紗ちゃんも!」
「にゃはは、おねーちゃんはたまーに息抜きと言って遊んで帰ってくることが多いからなのだ」
「鈴々ちゃんまで!?」
王達の会話中に自衛隊の一人が報告をしに現れた。
「報告です。南区と北区の輸送船に密航者を発見しました」
「は? 何だそれそんなことする奴なんて・・・・・いや、心当たりがあるな。九鬼家の奴か」
「はっ、その通りでございます。未だ捕らえ切れず逃げ回られているようです」
「・・・・・はー、どうしてくれようか。大方あの老害共の仕業だろうな」
「このまま連れて行くのはどうかと思うのだおにーちゃん」
「分かってる。俺が直々に捕まえて海に落とす」
「そ、それもあんまりだと思いますが」
「俺が知っている九鬼家従者は海に落とされても日本に戻れる超人の集まりだぞ。IS部隊を軽くあしらっている時点で従者の位は二桁の奴だ。しかもそれぞれ一人か二人乗っている輸送船じゃない船に乗っているか乗っているだろう。全部の船から探し出すとするか」
最後の仕事ばかりと報告をしに来た自衛隊の首に腕を回しながら引きずる王。
「俺の前でもバレないとでも思ったか九鬼家従者」
「「「えっ?」」」
「な、待ってください!私はあなたに仕える蒼天の人間ですよ!?」
「言ったな? じゃあ、蒼天の人間、西区の人間しか分からない質問をさせてもらおうか。西区を統治している王の名前は?」
「桃香様です」
「うん、じゃあ桃香のフルネームは?」
「は?」
思わず零してしまった呟きに愛紗の目が据わった。
「貴様、本当に西区の人間ならば貴様のことを教えてもらおうか。この船に乗っている大半の者は自衛隊。貴様の所属と階級、隊長の名前を言え」
その自衛隊は口を閉ざすばかりで返事をしなかった。答えることが出来ないのだということを沈黙で返しているのが明らかだ。王はにこやかに、でも威圧的に話しかける。
「言っておくがお前等のスパイ行為は許されないことだから覚悟しろよ。他の区の王はともかく、俺の国に不正して入国しようとする輩は容赦しないんで」
無造作に自衛隊の服を掴み破り捨てると九鬼家従者専用の執事服が曝け出された。
桃香が目の前の変装した侵入者に驚くよそに、王が瞳を怪しく輝かせると変装していた者の瞳から生気の光が失った。
「さて、俺達の船に何人お前と同じネズミが潜んでいるか教えてもらおうか」
「ヒューム、やはりバレてしまったようです。一人残らず、報告がございません」
「簡単に蒼天の情報は集められないか。侮れない奴だ蒼天の王」
「十中八九、私達の仕業であることも把握したでしょうね。さて、この後私達はどんな目に遭うでしょうか」
「知るか」
後日―――九鬼家財閥に金髪と銀髪の某人物のBL漫画が数百冊も送られてきて、数多くの従者達の間で二人の関係性を疑われる羽目になった。しかも九鬼家と連携している全世界の小中大の企業や会社員に一人一人配られていた事実が発覚した。その本は英雄と紋白、遠い地にいる揚羽、川神市と神月学園にまで送られていた。
「のぅ、ヒュームとクラウディオ。お主等は付き合っておるのかの? 裸で抱き合って仲睦まじい姿の本があったぞ」
「紋様、それは蒼天の王の悪戯で・・・・・」
「何故そのような悪戯をするのだ? そんなことする理由がないと思うぞ」
「うむ、我もそう思うぞヒュームよ。義兄上に怒りを買うようなことなければしないであろう」
「であるな兄上よ」
言えない。蒼天を調べようと少なくない数のスパイを送ったことで、このような事態になっていることを二人はとても言えない。身内だけは何とか疑いを晴らせ黙らせることが出来ようとしばらくの間、ヒュームとクラウディオが外に歩けば二人を見て関係性を疑い、顔を赤らめて黄色い声を上げる者が多数いたとかいなかったとか。
「王様・・・・・流石にやり過ぎでは?」
「ナメられちゃいかんのだよ燕君。またスパイを送られるのは困るからなー。あくまでこれはただの牽制だ。次もしたらこれ以上のことをするぞ、とな」
「蒼天にまでこんな本を販売されていることを知ったら被害者の方は堪ったもんじゃありませんよ」
「自業自得だ。こっちは命の救助活動をしているってのに、向こうは道徳に反することをして来たんだ。これぐらいの仕返しは受け入れるべきだ。その上、スパイ相手の対策を考えなくちゃいけなくなったからな。さて、どうしてくれよう」
「未遂でも蒼天に手を出しちゃいけない理由は絶対この人だろうねぇ・・・・・私も気を付けよ」