バカとMMORPGと召喚獣!   作:ダーク・シリウス

72 / 326
闇霊の里 解放

「おはよー」

 

「おはよーう」

 

学生が登校する穏やかな朝の日。学園長の椅子に腰を落とし、右足を左足に乗せながらタブレットでNWOの情報をチェックする日課から朝が始まる。

 

(昨日の今日でもう光霊の里の攻略情報が増えて来たな)

 

どうやらあのあみだくじのダンジョンには隠された秘密があり、モンスターの最後の名前に繋がる名前のモンスターを倒せばエーテルの宝が連続で手に入れるらしい。

 

(・・・・・だから半日かけても集まらなかったのかぁ)

 

なお、途中から名前が続くモンスターを倒せば手に入るらしいとかいう情報に肩を落とす王だった。そして、ダンジョンのしりとりアスレチックの最後、つまりゴールには5つあるそうだ。ダンジョンのボス、ランダムでアイテムが手に入るボックス、スカ、双子のエーテル(ユニーク)、転移魔法(試練の扉前)。

 

(双子のエーテル。ペガサスに案内されたあれはなんだったんだ?)

 

なお、白銀さんが連れていた赤いペガサスの存在は確認できず、何かしらのギミックの可能性がある模様。

 

(んー・・・・・? 宝を30集めた状態だったから、何てことはないだろう。幻獣を連れてたから? しりとりのモンスターを倒してなくペガサスに繋がったから? ・・・・・しりとり?)

 

もしやリポップするモンスターもランダムで現れるのかも? 王も倒したモンスターがいた場所は違うモンスターになっていたし、ペガサスを始める幻獣が・・・・・。

 

『待たんか貴様らァ~~~っ!!!』

 

『追いつかれるよ雄二!?』

 

『あそこだ明久っ!』

 

授業中のはずが聞こえてくる騒音に王は顔を上げた瞬間に勢いづけて開きだした扉が、許可を得ず入ってきた二人の生徒の手で閉ざされた。

 

「ここは鬼ごっこの避難所ではないんだが?」

 

「すみませんね学園長。この馬鹿が鉄人に追い掛けられる馬鹿なことをして馬鹿に巻き込まれたんで」

 

「馬鹿に馬鹿って言われたくないよっ!」

 

「良い成績とは言えないクラスの代表とそのクラスの生徒が何を言ったところで、俺からすればどっちもどっちだぞ」

 

呆れる王に生徒達は気にもしないで王と対面する。

 

「まぁ、うちの蒼天学園の生徒でも教師に追い掛けられて、学園長室に逃げ込む生徒は一人もいないから新鮮だがな」

 

「そいつは誉め言葉として受け止めさせてもらうぜ」

 

「おう、純粋に誉め言葉だ。馬鹿やって学校生活を楽しめ少年達」

 

「僕たちが知ってるババア長と違いますね」

 

「あいつはあれでも蒼天の開発技術のトップのひとりだったんだがな。やはり年波には逆らえないようだな」

 

一枚の写真を机の収納箱から取り出し、それを見せつける。

 

「因みにこいつがお前らと同じ頃のカヲルだ」

 

「これがあのババアだと・・・・・?」

 

「若い頃の学園長って、以外と美女の子だったなんて・・・・・。というか、王様も今と変わらない若さですよね」

 

「俺は人間じゃないからな。歴史の教科書に載ってるだろ」

 

今さらな、と言いたげな王は二人の反応を気にしないで自ら茶菓子を用意しだした。

 

「ここに来たなら丁度良い。生徒とコミュニケーションをしようか。蒼天が開発したゲームの感想を聞かせろ」

 

「学園長がそんなことしていいんですか? 普通追い出すんじゃ」

 

「お言葉に甘えてそうさせてもらおうぜ明久」

 

ソファーに座り出す生徒達と王は飲食しながらゲームの話をし、和気藹々と後に二人から聞かされる大和達は、それに対して心底羨ましがったのは別の話。

 

「そうそう、近いうちにアメリカに向けてNWOに次ぐゲームの体験版が日本にもできるぞ。予約しとけよ」

 

「違うゲームだと? 今度はどんなゲームで?」

 

「広大な宇宙を開拓しつつ、宇宙船やロボットを駆使して遊ぶのと、アメリカの漫画をベースにしたヒーローとヴィランが戦う格闘ゲームだ」

 

「へぇ、何だか凄そうだね雄二」

 

「俺は格闘ゲームが興味あるな。明久をゲームの中で殴り放題なんてよ」

 

「言ったなぁっ!! 僕が雄二を殴り倒す!!」

 

「おー上等だ。何度でもそのバカ面に拳を叩き込んでやるぜ」

 

青春だなぁー。と茶柱立つすぐ飲める温度の茶を口に付けて、せんべいを食べる王の耳に授業が終わるチャイムの音が聞こえた。

 

「終わったようだな。ほれ、教室に戻れ」

 

「そうだね。もう鉄人はいないだろうし」

 

「そんじゃ、お暇するか」

 

一緒に立ち上がって生徒を送る王の目の前に開かれた扉の先に、腕組む鉄人がそこに立っていた。

 

「やっと出てきたな貴様ら~~~」

 

「「・・・・・」」

 

「それじゃ、残りの授業はしっかり受けるんだぞ。補習も兼ねてな」

 

閉じられた扉と一緒に、二人は大きな手に顔面を鷲掴みされて捕獲された。

 

「今から地獄の補習タイムだ。覚悟しろ!!」

 

「「ぎゃああああっ!!?」」

 

 

 

その日の夜―――。

 

ゲームにログインした俺は布団から起きて、すぐにネコバスで常闇の神殿に向かった。

 

『闇霊の祭壇に闇結晶を捧げますか?』

 

「捧げる」

 

神殿の中に入り、聞こえるアナウンスに応えて最後の結晶を捧げれば目の前の床が音を立てて地下階段の入り口を開く。そこに入り降り続けると。

 

「こんばんわ。初めまして解放者さん」

 

濡れ羽色の右目が隠れるほど長い髪を流す精霊が小さく笑って出迎えてくれた。スタイル抜群の身体の輪郭が浮き出る黒と金を基調にした深いスリットを入れたナイトドレスで身に包み、金色の眼を俺に向けてくる女性の精霊がいた。

 

「初めまして、俺は死神ハーデスだがそっちの名前は?」

 

「闇の精霊、名前はないわ」

 

「そうか。じゃあここは闇霊の里で合ってる?」

 

「そう、私達の隠れ里でもあるし世界の一部でもあるわ。世界が闇に閉ざされた時、私達は闇の神の祝福を受けて閉ざされた里を解放できる」

 

「じゃあ、日の出の時にここに訪れても門は開かないのか?」

 

「ええそうよ。他の精霊達と違って、私達は影と闇の中にしか動けない。光の中で生きようとすれば力の殆どが発揮できなくなるから」

 

くるりと踵を返して闇の精霊の長は歩きだした。

 

「いらっしゃい。案内するわ」

 

《プレイヤーによって、最後の精霊門が攻略されました。最後の精霊門の解放を祝い、ゲーム内で48時間後にイベントが発生します。開催場所は、始まりの町となります》

 

『光霊の門と闇霊の門を含め、全ての精霊門を開放したプレイヤーには称号「神話に触れし者」が与えられます』

 

そんなワールドアナウンスが流れても気にせず先に歩く長の背中についていくだけだった。闇霊の里、紫色の世界に松明の炎で間隔等に灯りをともしている。建物は西洋の造りで精霊達は皆、目がぎょろっとしてる骸骨の仮面をかぶって全身は黒いマントで包み隠す、まるで死神の出で立ちをしていた。そんな仮面に・・・・・。

 

「仮面か? だったらほしいなぁ・・・・・」

 

「売ってるわよ?」

 

「是非とも買わせてくれ!」

 

道具屋で本当に売っていたので購入した。闇精霊の仮面・・・・・ほう、暗視のスキルが付いているのか。それに360度の視覚が見れるとは普通に便利では? 黒いマントも買って装着する。

 

「似合っているわ」

 

「ふはははっ!! 体で名を表す物が手に入って嬉しいからありがとう!」

 

里にいる間はこれを付けていよう。お? なんか闇の精霊達が集まって来たぞ。

 

「あなたのことが気になったようだわ」

 

「おおー、そうかそうか。おいでー」

 

性別は分からないけど頭を撫でたらぴょんぴょんと跳ねた。他の精霊も、次もそのまた次も撫でると嬉しいのか兎のように飛んで跳ねる・・・・・なにこれ面白い。

 

「ぴょんぴょん!」

 

「ヤミー!」

 

あ、声が高いから女の方か。身長はゆぐゆぐと同じぐらいだけど顔と身体が隠されてて判別できないからな。それからしばらくぴょんぴょんしてた精霊達は解散、俺はもう一度道具屋のアイテムを見た。仮面とマント以外にもなかなか興味深いものが売られていたからだ。

 

ゴーグル型の暗視カメラ、ガンナー用の暗視スコープ、赤外線カメラ、赤外線暗視カメラ、世界の裏側を見るゴーグル。

 

主に暗闇の中でもはっきりとみられる道具が他にも幾つもあるのだが、世界の裏側を見るゴーグルってなんだ。昼夜問わず幽霊を見ることが出来るのか? 気になってしまったから思わず買ってしまったよ赤外線暗視カメラと一緒に。

 

次は待望のホームオブジェクトを販売している店だ。ここは昆虫を誘き出す餌の罠やマスコットではない純粋な動物扱いのフクロウと鈴虫やコオロギ、カエルが買える。これをホームに使うとランダムで夜に鳴くらしいようだ。いいね。日本家屋の夜にピッタリじゃんか。お、レンタルフクロウなんてものもあるのか。試しにレンタル購入(10000G)するとフクロウが俺の肩に止まって「ホー」と鳴く。

 

「この里にも試練はある?」

 

「あるわ。挑戦をする?」

 

「ああ。でも、狂った精霊はいるのか?」

 

「いないわ。でも、試練をするならヒントだけ教えるわね。何があっても絶対に後ろを振り向いちゃダメ。これがヒント」

 

後ろを振り向くな? 何だか怪談話に出て来そうな気になるヒントだな。

 

「あと試練をする時はこれを身に着けててね」

 

長がマントにある物を付けた。中身がない透明なフラスコのようなガラスだ。

 

「これは?」

 

「試練の扉の先は闇。闇は静寂を好むの。だから静かに移動してね。じゃないと闇そのものがあなたを襲うわ」

 

襲われたらフラスコに変化が起きるのか? 襲われたら闇耐性が手に入れられるのかな? なんて思う反面、闇の精霊を仲間にしたいと口にしたら長は蠱惑的な笑みを浮かべた。

 

「闇に気に入られたら、仲間になってくれると思うわ。頑張って?」

 

「いいね。闇に気に入られるって単語は嫌いじゃない。ああ、そう言えば名前がないんだよな他の精霊と一緒で」

 

「精霊に名前は必要ないの」

 

「じゃあ、勝手にこう呼ばせてもらうよ。闇の精霊の長に対して―――その満月のように綺麗な金の瞳から決めた『ユエ』とな」

 

「・・・・・ユエ」

 

手を触れて自動的に開く黒い大きな扉の中へ潜る。一寸先は闇とはよく言ったもので、仮面を外すと闇霊の里のダンジョンは本当に真っ暗だ自分の身体も足元も全然見えない。だから道具屋で売られていたのか暗視と赤外線のカメラとスコープ。

 

「どれを付けるか」

 

静かにと言われたから意識して声を殺し、購入した赤外線暗視カメラと世界の裏側を見るゴーグルを決めかねる。・・・・・まぁ、名前で気になってたこっちにするか。

 

「・・・・・おおう」

 

世界の裏側を見るゴーグルを装着したら、ゴーグル越しで見る闇の世界に煌びやかな商店街が目に飛び込んできた。そしてその商店街を闊歩する闇の住人達というべき存在。全員実体を持っていそうな異形のお化けだらけだ。完全にここはお化け屋敷、ホラーが苦手な人間じゃなくても怖がるだろこれ。

 

「・・・・・とにかく行くか。どこに目指せばいいのか分からないけど」

 

「ホー」

 

出来る限り闇の住人達とぶつからずに歩き始める。攻撃したら一斉に襲い掛かってきそうだなぁ・・・・・と後ろに振り返ないよう周囲を見回す。飲食店に道具店、得体の知れない何かの店から出入りする異形達。不気味な声を上げてざわざわと賑やかな商店街はまるで歌舞伎町にいるかのような錯覚を思わせる。

 

ぐいぐいっ。

 

観光気分でそれなりに歩いていると、後ろから誰かに引っ張られる。振り向―――は出来ないから俺が後ろに下がって、後ろにいた誰かを視界に収めた。目玉がなく眼窩の奥が真っ暗で腕が異様に長い不気味な子供だけど、服装はズタボロでとてもじゃないが裕福な暮らしをしているような感じだ。何か用なのかな? と小首をかしげると物乞いをする風に両手を突き出した。え、何が欲しいの? 金か?

 

「・・・・・これでいい?」

 

100000Gのお小遣いを渡すと異形は口の端を大きく吊り上げて笑みを浮かべると、俺の腕を掴んでどこかへと連れて行こうとする。一緒について行くと商店街の路地裏へ入り込み、狭い通路に潜っていくと円状の袋小路に段ボールやシートで作った簡易の家があった。ここ、ホームレスのたまり場? 異形がホームレス? 俺をここまで連れて来た異形はその内の小さな家の壁を叩くと、家主がぬぅっと現れる。いやいや、待て待て。物理的法則を無視しちゃダメだろ。タコならまだましも3メートル超えの異形が出てくんなよ! 家の方は1メートルもない小さい段ボールの家なのに!

 

「’&%”=”+*‘{}?<>=)(」

 

「=&(%#)=(=?><}‘*=~|」

 

異形の言葉で話し合い始め、俺が上げた金の事を教えているのか? 黙って見ていると巨大な手が物乞いする風に伸ばして来た。えー・・・・・金を払わないといけないのか。

 

「・・・・・これで」

 

1000000Gを渡すと大切そうに持ち、感謝してるのか頭を一度垂らした。異形も金に困っているってどうなってんのこの世界、と思っていたら・・・・・。

 

「<L*‘(%”&(=(」

 

「?<++‘|=)’%%(」

 

「><L‘~)(’&%$」

 

「>?L*{P‘~(’%$#+>*」

 

「><*L‘~(&%(‘+」

 

ホームレス異形達が続々と現れ四方八方から物乞いする両手を伸ばしてきた!! いや、これは俺でもちょっと怖いよ!?

 

「・・・・・列、真っ直ぐ」

 

並んで欲しいと全身で必死に伝える。俺のその行動が3メートル超えの異形が他の異形達に何かを話しかけると、俺の前に長蛇の列が出来上がっていた。しかも数が多っ!?

 

「・・・・・これで」

 

100000Gを渡し続けた。貰えて感謝か、異形達は貰うたびに頭を下げて自分のホームに戻らず商店街へと向かって行く。1日で使い切らないよな? 一抹の不安を覚えながら結局1千万以上消費したところで長蛇の列が無くなり懐がちょっぴり寒くなった。

 

「)(&$&(’%$~」

 

デカい異形が手を伸ばしてきた。また欲しいのかと思ったら、何か持っていた。木札のようなもので壱と書いてある。それを受け取ると異形は袋小路の中心に指を差す。中心に何が? と思いながら近づいてしゃがんでみると何かの差込口があった。この木札を? 差し込んでみると俺を中心に足場が落ちていく・・・いやこれ、沈んでいる? あ、木札が消失した。

 

「)&’%#=~(!!!」

 

「(~)&%(・・・・・」

 

上にいる異形達が手を振っている。ここで別れなら手を振って返す。フクロウも翼で振る。そして降下し続ける足場は・・・・・熱狂が沸く地下闘技場への入り口のようで凄く盛り上がっている。おい、闇は静寂を好むんじゃなかったっけ? しかも俺が降りたところはよりによってステージだし、既に俺の相手が目の前にいて戦う気満々でいる。6本の腕の持ち主で筋骨隆々の顏なしの異形だ。周辺には先頭の痕跡・・・・・異形の死骸が所狭しと散らばって赤やら青やら緑の液体が床を汚していて清潔感が全然ない。

 

「)&’%#”’~!?=+<>*」

 

「・・・・・?」

 

「‘+L<>*+~=(%)&$#」

 

何言っているのか分からないから反応に困る。でも、戦いのコングが鳴り出したら異形が手を伸ばして飛び掛かって来た。身体を限界まで前に倒して地面すれすれに移動し、異形の足を両手で掴み、足腰に力を入れながら勢いよく異形を振り回し、振り回し、振り回し、振り回し続けること3分間。

 

「<+P‘=)(%&$//・・・・・・」

 

息はしてるが振り回されてグロッキーな異形は白旗を手に持って振った。降参の合図として受け取った運営側はゴングを何度も鳴らし試合終了。これで終わりかと思いきや、上から巨大な影が落ちてきて降参した異形を踏み潰さんとするので手を掴んで後ろの方へ放り投げた。次の相手と思しき異形は・・・・・肉塊の一言で尽きる。肥え太り過ぎて身体の大半が脂肪たっぷりな腹部で、頭は申し訳程度についているだけだ。

 

「<*‘? *‘)%’$!!’(」

 

「・・・・・?」

 

異形の言葉は分からないってば。また試合開始のゴングが鳴ると、肉塊が身体を前に倒してくる。フクロウを上に避難させてから敢えて潰されてやることにした。そして―――。

 

「【悪食】」

 

潰されながら肉塊を一撃でポリゴンと化して見せた。会場にいる異形達は息を呑んだような雰囲気を作り静まり返った。そんな連中に挑発するように手を動かした。

 

「・・・・・次だ。こい」

 

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

 

50から数えるのを止めた。なんだかんだで挑戦者が増え続けるもんだから全員を相手に倒したからな。

うん、フラスコも異変がない。俺が騒がない限りは変化しない仕組みかもしれないな。

 

「(’&$~=>?*+}{‘|・・・・・」

 

「ん?」

 

執事服を身に包んだ異形が脂汗みたいなのを肌に浮かべて腰を折って深々とお辞儀をしながら両手に持ってる木札を差し出して来た。それには弐と書かれていた。壱ど同様にどこかへ差し込めばいいのか、でもどこに? を悩んでいると最初に相手をして助けた異形が俺の前に来てこっちに来いと手を招いた。フクロウが肩に戻り、闘技場の出入り口に続く通路を歩かされその先に鎮座している鎖で縛られた扉があった。その鎖の鍵穴が木札の形と同じだったので嵌めたら、錠が開いて鎖を解くと扉が開きだした。木札も消失する。

 

「=&’%$”%)!!」

 

手を振る異形に手を振って返して先へ進む―――。扉から出た先は商店街だった。今度はどこに行けばいいんだかな。後ろを振り返らずまっすぐ歩きふらふらと彷徨ってるとバットと野球ボールの看板を見つけたので遊んでみることにした。中は・・・・・バッティングセンターのまんまだった。お、景品があるし最高得点の景品は木札の参だ。やらないとなこれは!

 

「最高得点は100点。打ちまくるぞー」

 

でも俺は気付きもしなかった。このバッティングセンターは悪意があることに。機械で自動的に投げられてくるボールそのものが異形で、飛ばそうと振り抜くバットの直前に剥き出しにする凶悪な牙で噛み砕かれるまでは。

 

「なっ・・・・・」

 

砕かれたバットに目を見開いてみたら、笑い声のような声が聞こえてくる。右を見れば隣でバッティングしているこっちを見てばかにして笑ってる異形の手の中にはバットではない棘付きの金棒、左を見れば隣でバッティングしている同じく笑ってる異形の手の中にはフライパン、フライパンンンンンッ!? あれで打てるのか! あ、金属音を鳴らしてホームランかよ! え、バット以外なら何でもいいのかここ! だったら―――アルゴ・ウェスタさんの出番!

 

―――一時間後。

 

破壊不可の物を噛み砕くことが出来ないままボールは100回目のホームランの成績を残して飛んで行った。一時間をかけてようやく最高得点を叩き出して木札の参を獲得した俺は、バッティングセンターを後に木札をどこかに開けることもなく雷門のような大きい門に近づき、閉ざされてる門の番人と目が合い手を伸ばしてきた。ここで使うのかな? 木札参を提示すると番人が小さい方の扉を開けてくれて顎で中に入れと催促した。小さい扉を潜ったら閉められて後戻りが出来なくなったところで前方の光景を視界に入れた。

 

 

あっは~ん♡

 

 

遊郭、風俗、ラブラブなホテルが軒並みに建ってる場所には美幼女、美少女、美女、美熟女の人間NPCが水着やドレス、メイド服、チャイナドレス、ナース、スケスケ服、下着、中には全裸も当然な布一枚で局部を隠してるだけの姿で闊歩して異形じゃない人間相手に商売している光景を目にした。頭に二本の角を生やし腰辺りにコウモリの羽と尻尾がある。サキュバスかな?

 

「・・・・・ええ」

 

NPCのサキュバスの腰に紐で括った肆の木札がある。それも目の前にいるサキュバス全員の腰に。どれが本物? 全部本物ではあるまい。

 

「フフッ♪」

 

眼前の光景に悩んでいた俺の横から、桃色の長髪のサキュバスが妖艶な笑みと豊かな胸を揺らしながら抱き付いてきた。このサキュバスも木札肆を持っており、本物か偽物か疑心暗鬼してたら路地裏に連れ込まれ、逆壁ドンされた。もう逃がさないと獲物を狙う捕食者の顔つきになってるサキュバスが、俺の首筋に顔を埋めてかぷっと牙を立てた。

 

「エナジードレイン?」

 

HPが減っている。精気を吸ってるつもりなのか? ・・・・・待てよ? モンスター相手に食べる行為をしてきたが、吸う行為はしてなかったな? 俺もそう試そうと考えに至った矢先。フクロウがサキュバスの頭に嘴で突っつき始めた。食事の邪魔をされてご立腹なサキュバスは怒り心頭でフクロウに手を伸ばすが、そうはさせない。その手を掴む俺に驚いてる彼女の身体を押し退け、今度は俺が壁ドンをする。

 

「お前で検証させてもらうぜ?」

 

「―――!?」

 

彼女の首筋に歯を立てて、ダメージ判定が出てるポリゴンを確認するとチューと吸い立てる。俺の想像は現実となりサキュバスのHPがゆっくりと減っていった時、声にならない声を上げて身体を打ち震わすサキュバスは気付かない。熱で浮かれて恍惚な表情を浮かべ、目の奥にハートマークを浮かべてることに。

 

『スキル【精気搾取】が取得しました』

 

おっ、スキルキター!

 

吸血行為をやめて確認した。

 

 

【精気搾取】

 

触れる対象のHPをドレインする。

 

 

取得条件:HPドレインする対象にHPドレインすること

 

触れるって手で? これは使い勝手が悪そうだな。

 

「あっ、ありがとうなお前」

 

腰が抜けて立てないのか、座り込んで呆けた顔で目を向けてくるサキュバスの額に唇を落として路地裏を後にした。

 

「・・・・・なんでこうなった?」

 

「フフッ!」

 

本来の目的を達成しようとあちこちに歩き札を見ていたら、身体に軽い衝撃が襲って頬に顔を摺り寄せてから背中に張り付いて離れようとしないさっきのサキュバス。木札肆を見付けたいのに邪魔なんだが。

 

「・・・・・次の場所に行くための木札肆が欲しい」

 

「アハッ♪」

 

こいつからもらえないかと訊ねた。笑う彼女が背中から離れては、俺の手を引っ張ってどこかへ連れていこうとする。そこは、利用するだけでも高い料金を払わないといけなさそうなホテルだった。サキュバスはその中に入り、どんどん中を移動するととある一室の扉を開けて中に招かれた。

 

「・・・・・おおう」

 

赤い敷物、赤いソファー、アンティークな家具などあって圧倒されはしないが、一部・・・・・全裸なNPCの男性の背中に腰掛けてる蠱惑的でボス的なサキュバスがいた。

 

人を色気で惑わすタイプのサキュバスと正反対な獰猛な獅子を思わせるサキュバスだった。その美貌は凄みを感じさせ、マフィアの女ボスを彷彿とさせる。右手の人差指には、黄金製の指輪をはめている。いわゆる印台リングだ。印台の部分には家系の象徴なのか、その紋章が刻まれている。ゆるかなウェーブを描く髪は、淡い金色。別命輝白金、オーロ=ビアンコ。左右の耳たぶには、ハートを象った装飾品ピアスを吊り下げている。グレーのスーツを端正に着こなしているが、その肉体の曲線美は隠しようがなく、モデルも顔負けのプロモーションである。見るからに悩ましいが、その眼光が鋭過ぎるため、あまり色香は感じられない。一睨みされただけで、人は全身が縮み上がってしまうかもしれない。他のサキュバスと違うのはこのホテルのオーナーのNPCだからだろうか。しかし彼女の腰にも木札肆が括りつけられていた。

 

「ウフフ♪」

 

「フゥン?」

 

俺に笑顔で指差すサキュバスがこの男、超イイ! と言って相槌を打つボスサキュバスのふぅん、本当? と言うやり取りしているのが何となくわかる。椅子代わりにしていたNPCの男から立ち上がり近づいてくるボスサキュバスは、品定めする目つきで視線を下から上に動かした後に首筋に噛みついてきた。回復したHPが減る。視界に移るサキュバスがサムズアップする。思いっきりやっちゃえ! って言ってる気がして―――【精気搾取】。

 

かぷり。

 

ボスサキュバスの首筋に噛みついて得たばかりのスキルを使うと、彼女は一際に全身を震わした。俺の首から顔を上げて抵抗しようとするが、サキュバスが後ろから抱き着いて阻止する配下のまさかの反抗に目を剝くボスサキュバス。そんな彼女の顔を覗き込みこう言った。

 

「配下のサキュバスとお前を攻めてやろう。覚悟しとけ」

 

「―――っ!?」

 

「アハッ!」

 

そしてお前の木札肆をもらい受ける。これはそういう戦いなのだ!! ・・・・・多分。

 

 

・・・・・・三時間後。

 

 

「・・・・・♡ ・・・・・♡ ・・・・・♡」

 

広い高級ベッドの上で全身を痙攣しながら荒い息を断続的に吐いているボスサキュバスがいた。【精気搾取】とHP回復を繰り返しながらサキュバスと一緒に快楽の饗宴を堪能した結果、息絶え絶えで瞳にハートマークを浮かべ、熱で浮かれた顔が赤いボスサキュバスが出来上がった。

 

「ウフフ!」

 

サキュバスの彼女も俺に【精気搾取】されたけど、肌が艶々になってる。そんな彼女がボスサキュバスの上着を剥ぎ始め、腹部を見せつけて来る。臍下辺りに伍の文字が掛かれた悪魔的なハートマークのタトゥー、紋様が浮かぶように刻まれていた。

 

「アハッ」

 

これを見て何をしろと? サキュバスはボスサキュバスの木札肆をいつの間にか手に取ってタトゥーにくっつけたら、ピンクの輝きを放ち肆から伍の文字に変わったのだった。こんな仕様・・・・・誰も気づかないんじゃないのか? ともあれこれで先に進める。

 

「ありがとう」

 

「ウフフ!」

 

どういたしまして、と笑って手を振るサキュバスから受け取った木札伍を手に入れた瞬間。木札が光り輝きだして俺は向かうべき場所へと転送されたのだった。

 

気付けば俺は闇霊の里の試練の扉の前に立っていて、長が目の前に佇んでいた。

 

「お帰りなさい。楽しめたかしら?」

 

「色々と凄かったのは確かだった。あ、フラスコの方は変化ないままだけど」

 

「そのようね。持ち主の心拍音や声の声量でフラスコが記録するのだけれど、一ミリも変化していないのは凄いことだわ。因みに、解放者が買った道具にはグレードがあるの」

 

グレード?

 

「ゴーグル型の暗視カメラ、ガンナー用の暗視スコープ、赤外線カメラ、赤外線暗視カメラ、世界の裏側を見るゴーグルの順に難しさが変わるの。特に世界の裏側を見るゴーグルの難易度は5。試練をクリアできる確率は3%未満」

 

「低ッ!? え、普通にクリアできてしまったぞ?」

 

「・・・・・世界の裏側の住民達を視て驚かなかった? 無茶振りに自棄にならなかった? 必要以上に倒さなかった? 闇の住民に気に入られた?」

 

ん・・・・・? ん・・・・・?

 

「驚きはしたが声は出してない、無茶振りって何のことだかわからないし、必要以上に殆んど倒してしまったけど、異形を殺していない意味でだ。あと気に入られたからここに戻ってこられたと思う」

 

「・・・・・なるほど、だから闇の住人に気に入られているのね」

 

俺じゃない何かを視ている目な闇霊の長ユエ。ここなら振り返ってもいいだろうと後ろを向いても何も見えず、ゴーグルを付けたら・・・・・うわっ、半分開いている試練の扉から今まで関わってきた異形達が顔を出して手を振ってるし!

 

「なぁ、もしも異形が住む場所に後ろを振り返ったら俺はどうなっていたと思う?」

 

「それはグレードが低い道具を使って試練に挑んだ時だけ解放者を襲っていたわ。難易度5だけは後ろ向いても大丈夫だったの。その分、ここに戻ってくるのが難しいのだけれどね」

 

・・・・・マジかぁ・・・・・。間抜けじゃん俺ェ・・・・・。

 

「また試練を挑戦する時は最初からやり直すのかな」

 

「やり直す必要はないわ。闇の住人と触れ合うことが出来るもう一つの世界なのだから。最高難易度をクリアできたあなたは闇の住人達に認められた。だから試練をするまでもなく交流目的で入るなら歓迎されると思うわ」

 

お? じゃあ俺的には新しいエリアに入れるようになったってことなのなら嬉しいな。

 

「仮に俺以外の解放者と一緒に入ったら?」

 

「試練をクリアした特別な者以外は同じ世界に入る事はできないわ」

 

・・・・・頑張れ他のみんな。お前達ならできるぞ。

 

「じゃあ、フラスコの記録の結果と難易度が高い試練を乗り越えた解放者には闇の精霊を仲間にすることを許すわ。どの子がいいか選んでいいわよ」

 

「うわ、それは本当難易度が高すぎるな。フラスコのどの辺りまでなら溜まっていい許容範囲?」

 

訊くとフラスコの底から1の目盛までだと言われた。

 

「フラスコの目盛が超えたら試練が失格となってここに戻る仕組みになってるわ」

 

「わかった。後、精霊を複数以上仲間にしたい時は?」

 

「他の難易度の試練をクリア出来たら増やすことできるわ」

 

五体までか。それ以上は出来ないのかな、と思いつつユエを問うた。

 

「精霊を仲間にしていいなら、ユエに任せていいか?」

 

「構わないわ。あなたに相応しい特別な娘を選んであげる」

 

歩き出すユエを追いかけ、街中を歩く闇の精霊の一人を捕まえて引き合わせてくれた。骸骨の仮面は他の闇の精霊が付けている仮面と同じだしローブも同じだ。見た目が同じだから特別な闇の精霊と区別がつかない。

 

「この娘を仲間にしてあげて」

 

「どの辺りが特別? 骸骨の仮面?」

 

「それは女の子の秘密よ?」

 

そう返されると聞けなくなるなぁ・・・・・。ユエを信じるしかないじゃないか。闇の精霊と視線を合わせる為に跪く。

 

「俺の仲間になってくれるか?」

 

「ヤミー!!」

 

テイムは問題なく成功した。

 

 

 

名前:ベンニーア 種族:アストラル

 

 

契約者:死神ハーデス

 

 

LV1

 

 

HP:35/35

 

MP:25/25

 

 

【STR 15】

 

【VIT 9】

 

【AGI 10】

 

【DEX 11】

 

【INT 25】

 

 

スキル:【熟成】【夜襲】【光耐性】【引力】【状態異常付与】【闇魔術】

    【闇の福音】【重力】【影移動】【異形召喚】

 

装備:【闇霊の髑髏仮面】【闇霊のローブ】【闇霊の首飾り】

 

 

 

【熟成】夜間のみ使用可能。植物の栽培速度を大幅に上昇させる。

    栽培した植物の品質を僅かに上昇させる。

 

【夜襲】夜間のみ必ず奇襲を成功する。

 

【引力】対象を引き寄せる力。

 

【状態異常付与】対象に様々なデバフを一定時間付与する。

 

【闇の福音】夜間のみ使用可能。契約者にランダムで一つ付与する。

 

【重力】対象の動きを一定時間停止させる。

 

【影移動】影から影へ移動することが出来る。

 

【異形召喚】夜間のみ使用可能。10分間召喚された異形を操作することが可能になる。

 

 

・・・・・ほほう、ほほう・・・・・? これはこれは・・・・・お化け屋敷に向いてるスキルばかりではありませんかねぇ・・・・・?

 

「ベンニーア、仮面を外して顔を見せてくれる?」

 

「ヤミ!」

 

頼んでみると、髑髏仮面に隠されたベンニーアの顏は金の瞳では肌は少し青白い。それでも美少女なのは変わりなく、あらやだ可愛いと思うぐらいギャップがあるのでこの手の愛好家プレイヤーは欲しがるんじゃないだろうか?

 

「さて、闇結晶を買ってまたタラリアに情報も提供しに行くか」

 

「ヤミー!」

 

あ、映像の確認もしなくちゃ・・・・・あれ、真っ暗だ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。