廃砦に辿り着いた俺達は、簡易的な作戦本部として決めた他のプレイヤーの邪魔にならない砦の隅っこに向かい、そこに集まる前回の悪魔討伐時の作戦会議に集まった顔触れとほとんど同じプレイヤー達。何故か俺の顔を一目見るなりざわめついた。
「なんだ」
「白銀さん、仮面を取ってください」
「・・・・・仮面付けただけで相手が判らなくなるとは不便じゃんか運営ェ・・・・・」
コクテンに言われてフードと仮面を取り外せば「白銀さんだったのか」とどこから聞こえて来た。
「では役者が揃ったので、第二回レイドボス攻略作戦の話し合いを始めたいと思います。時間もないと思いますのでこのまま進行させていただきます。よろしいですか」
誰もがリーダーを決め合いたいのではなく、レイドボスの攻略を達成を目指す同志たちの集まり。異論はないと無言で頷いたり、沈黙を保って成り行きを見守るプレイヤーからの雰囲気を感じ取ったコクテンは口を開く。
「今回の勝敗はアナウンスの放送を聞いた通り、この砦に設定されたラインをボスモンスターによって超えさせない防衛戦でもあり、ボスモンスターを討伐するこそが勝利条件だと皆さんも察しているでしょう」
「ああ、ボスモンスターは恐らく鳥型のモンスターだろう。俺達は砦に辿り着く前、白銀さんと少しばかり採取とモンスターの討伐をして、鳥型のモンスターに対する効果がある素材アイテムを手にしてきた」
「そうですか。貴重な情報をありがとうございますメタルスライム。では次に推測として白銀さんの意見を聞かせてもらえますか?」
「俺かよ? んまぁ・・・・・廃砦の大きさと大人数による防衛戦のこのイベントを考慮すれば、最初の村のイベントと二回目のエルフの里の防衛戦の内容を合わせた感じだろう。ボスモンスターは恐らく大型の鳥型のモンスターだ。それと可能性として小型の鳥モンスター多数も襲撃してくると思う」
どうしてそこまでわかる? と質問された。推測つったろうが。
「見たことあって被害に遭ったプレイヤーがここにいるか分からないけど、三大天災の鳥型のモンスターのジズだったらイベント用の鳥に関する素材に効果あると思うか? 逆に効果が通じるモンスターと言えば大体小型が定番だ。リアルでも害鳥対策が施されてるぐらいなんだからよ」
「なるほど! では、小型の鳥モンスターはこうしている間にも襲ってくると?」
「運営は襲ってこないとも言ってないぞ。HPが低かろうと軍隊蟻のように数の暴力で襲ってくると思って、一点に集めて大規模な魔法攻撃で大量に倒す方法を考えた方がよさそうじゃないか?」
おおー、と感嘆の息を吐かれても・・・・・誰でも思いつくことだろうこれ。
「イベント用の素材もそのためにあると。ならば生産職の皆さんにはその製作をしてもらう必要がありますね」
話し合いの要点が大体浮かんできたところで、焦燥の色を浮かべてこの場にやってきたプレイヤーが報せに来てくれた。
「しゅ、襲撃だ!! 小型の大量の鳥モンスターがプレイヤー達を襲っている!!」
「コクテン!」
名も知らぬプレイヤーが叫ぶ。
「皆さん応援に行きます!」
応っ! と気合の入った声を上げて砦の隅っこから城壁へと駆けこんでいくコクテン達。俺は―――。
「ハーデス、行かなくていいの?」
ペイン達と動かず一緒にいた。
「いや行くぞ。ただ、従魔の編成を考えてた」
どんな組み合わせをしようか、とな。
「誰かボス戦時にミーニィかセキトの背中に乗るか?」
「ペインがいいだろ」
「強力なスキルを空中で与えられるならペインだな」
「以下同文だよー」
「だ、そうだがどうする」
「乗らせてもらうよ。その時はハーデス、一緒に翼を奪おう」
ジズの時にはできなかったことをしようとするんだな。いいだろうその誘い、乗ってやる。
「んじゃあ、メリープ。【発毛】と【羊雲】」
「メェー!」
膨張する羊毛のままメリープがぷかぷかと天に浮かびながら空一面に金色の羊雲を形成していく。
「オルト、ゆぐゆぐ、リック、ファウ、ルフレ、クリス、ウッド、フェンリル、サイナは広間にいる皆の応援と鳥モンスターの警戒と襲撃から守ってくれるか? 必要だった時は必ず呼ぶ。それまではサイナの指示に従ってくれ」
「ムムー!」
「かしこまりました」
「残りの皆は俺と一緒に来てくれ」
「モグモ!」
やる気を漲らせるドリモはツルハシを肩に担ぎ、先頭をきって駆け出した。配置場所が違うペイン達と別れ階段を登って、城壁に上がってみる。すると、金色の空を覆い尽くす、黒い無数の点が目に入ってきた。城壁の上には、ダメージを受けた多くのプレイヤーたちがいる。ただ、襲ってきたという鳥たちは、すでに城壁付近にはいない。
「状況は?」
「おお! 白銀さん!」
俺はすぐ近くにいたコクテンに声をかける。簡単に説明してもらったところ、鳥たちはヒットアンドアウェイを繰り返してくるらしい。群れで一気に襲いかかってきて、しばらくすると上空に退避し、再び降下してくる。
「1羽1羽は弱いんだ。それこそ、こっちにぶつかって、その衝撃で死ぬくらいに」
コクテンのパーティーのプレイヤー曰く。ただ、数が多すぎるのが問題だった。1羽から1点のダメージしか食わらないとしても、何十羽もの鳥が一斉に襲いかかってくれば大ダメージである。しかも、全方位から攻撃が来るため、防ぎきることも難しかった。
「軽装の奴は、かなり厳しい」
「鳥どもが来るぞ!」
空を覆い尽くしていた数万羽の鳥の群れが、まるで一個の巨大な生き物のようにうねりながら、こちらに向かってくるのが見えた。以前、空を飛ぶムクドリの大群を見たことがあるが、あれに似ている。こっちの方が、規模が数倍大きいけどな。
「メリープ、【雷雲】!」
上空に向かって叫ぶと、金色の雲が黒く染まりゴロゴロと雷鳴を轟かせた直後。無数の雷が地上に降り注ぎ、数多くの鳥モンスターに直撃する。だが相手は万の個体。数割の数を減らしたところで微々たる結果で終わるだろう。
「ふっふっふっ、だがな。俺にはとっておきのスキルがあるんだ。【身捧ぐ慈愛】!」
スキルを発動する。銀髪が金髪に目の色が青―――これは変わらないな。背中から純白の翼が生え、頭上には輝く輪が出現する。
「―――白銀さんが、天使になった?」
「すげー! なんだそのスキル、初めてみたぞ!?」
他のプレイヤーが俺の姿を見て色めき立つよそに、ドリモとベンニーアを背中に背負いエンゼとルーデルを抱えて【飛翔】で空を飛び―――。
「ベンニーア、目を瞑れ! エンゼ、ルーデル! 【閃光】!」
「ピカ!」
「ピィッ!」
数万の鳥モンスターに向かって両手を突き出す二人から大光量の閃光が放たれた。至近距離で真っ白な光を見てしまった以上、視界を数秒も奪われてしまう鳥モンスターの群れは面白いほどに地面に落ちて行き―――。
「ベンニーア! 目を開けて地面に落ちる鳥モンスターに【重力】!」
「ヤミヤミー!」
両手に黒い靄を発生させると、落ちていった鳥モンスター達が更に勢いよく地面に叩きつけられてポリゴンと化して消え去っていく。さらに上空から稲光と共に雷を降り注ぐメリープ。
「ドリモ、群れに突っ込むぞ! そのツルハシで叩き落せ!」
「モグモ!」
まだ残っている群れの中に突っ込み、すれ違いざまに一心不乱とツルハシを振り続けるドリモ。反撃されないかって? 【身捧ぐ慈愛】は周囲のパーティの味方に俺の防御力分のカバーが働くから、俺を倒さない限りはへっちゃらなのさ! ・・・・・貫通攻撃を除いて。おっと、そろそろ戻らないとMPが無くなる。
「ミーニィ【巨大化】! セキト、鳥の群れに【浮遊】【高速移動】【赤き閃光】【超突進】!」
「キュイ!」
「ヒヒーン!」
巨大化したミーニィが迎えに来てくれて俺達を背中に乗せる間に。全身を赤いエフェクト出纏い、高速移動しながら空を駆け鳥モンスターの群れに突進する。その威力は空中に赤い軌跡を残すほど速く、瞬く間に数を減らし駆逐していった。
「ミーニィ、【ホーリブレス】!」
「グオオオオオオッ!!」
口から極光の帯状の光線を放ち、更に数を減らすと城壁に戻る。
「後はよろしく」
「あ、はい・・・・・もう一人で倒しちゃう勢いで出番がないかと思いました」
「はっはっはっ、数が多くてもHPが低いんじゃあっという間に倒してしまう事実は認めるがな」
【羊雲】を解除して落ちてくるメリープをミーニィに回収してもらった。すると城壁にいるプレイヤー達の人垣を掻き分けながら離れていた者と再会した。
「ヒムヒムー!」
「おお、ヒムカ。お前無事だったのか」
「そりゃあ、白銀さんから借りてた従魔なもんで。鳥の襲撃の時スケガワから絶対に守れと他のプレイヤーに言い触らしてました」
「そうなのか。でも、それぐらいはしてくれないと怒ったな。サラマンダーファンのプレイヤーを焚きつけてスケガワを追い詰めさせていたところだ」
ふふふ、と朗らかに笑ってるだけなのに話しかけて来たプレイヤーが俺の言葉にゾッと戦慄した表情を浮かべていた。別にお前が恐れる理由はないのにおかしいな。HPとMPポーションで両方を回復するとヒムカを見る。
「この際だ。お前を進化させるか」
「ヒムム!」
一応、進化情報は見る。
「正当進化のサラマンダー・クラフトマン、特殊進化のヒトカゲ、ユニーク進化のサラマンダー・チーフか」
サラマンダー・クラフトマンは、槌術、火魔術が特化に変わり、ガラス細工が上級に変化するようだ。さらにスキルを2つ選べる。鍛冶や錬金、精製など、火に関する生産特化であった。
ヒトカゲは槌術、火魔術、製錬が上級になり、鍛冶・刀剣特化、研ぎ師というスキルを得ることができるらしい。もしかして、刀鍛冶的なことか?
最後はユニークであるサラマンダー・チーフだ。やはり凄い。ステータス上昇率が最も高いだけではなく、スキルもバランスがいい。ガラス細工、製錬が上級になり、火魔術は特化。追加スキルには逆襲者となっている。もう1つはこちらで選択可能だな。
「やっぱユニークのチーフだろう」
「ヒム!」
名前:ヒムカ 種族:サラマンダー・チーフ レベル25
契約者:死神ハーデス
HP:73/73
MP:69/69
【STR 23】
【VIT 19】
【AGI 11】
【DEX 20】
【INT 14】
スキル:【ガラス細工・上級】【金属細工】【製錬・上級】【槌術】【陶磁器作製】【火魔術】【炎熱耐性】【食器作成】【火精陣ⅩⅩ】【逆襲者】【鍛冶】
装備:【火精霊の槌】【火精霊の服】【火精霊の大仕事袋】
スキルには鍛冶を追加しておいた。イズのカルラにあって、うちのヒムカにないなんてそんなの何時までも甘んじるわけにはいかないのだ。逆襲者のスキルは、思ったよりも攻撃的だった。
発動中は挑発効果があり、相手のヘイトを集めやすい。そして、攻撃してきた相手に対して、拳や魔力の衣でカウンターを行うという能力であった。
生産特化の精霊たちには珍しく、ダメージを与えることが可能な能力だった。
「まあ、それよりも何よりも、外見の変わりようが凄いんだが」
「ヒム!」
「デカくなったな」
まず重要なことは、身長が伸びて150センチ近くになったことだろう。次の進化で完全に抜かれるかもしれん。赤い髪の毛のツンツン度合いがさらにアップだ。黒いバンダナのような物を額に巻き、可愛い少年から、ちょっとヤンチャな少年にチェンジしたらしい。
衣服の形もちょっと変わった。体にぴったりフィットした黒いインナーの上に、丈の短い小さめの赤いジャケット。下もカーゴパンツのようなダボッとしたズボンに変わっている。ズボンは基本が黒地なのだが、赤で炎のトライバル模様がデザインされていた。
仕事袋のサイズは見た目は変わっていないが、名前が大仕事袋となっているからには、内容量が増えたのだろう。
「ヒムカ。進化していきなりボス戦だけど、大丈夫か?」
「ヒム!」
進化して見た目はヤンチャになっても、性格は変わっていないな。二カッと笑い、両腕をブンブン振り回してやる気をアピールしてくる。
「おお、ユニークのサラマンダーの生進化を見られるなんてラッキーですね」
コクテンがいつの間にかいて進化したてのヒムカを見て言った。
「スキルも面白いぞ。【逆襲者】ってのがある」
「【逆襲者】? シビア過ぎて大盾使いのプレイヤーを挫折させてきたあのスキルが?」
・・・・・ちょっと、その話を詳しく教えてくれませんかね。俺も大盾使いなんだけどそんなスキル、プレイヤーも習得できちゃうの? ねぇ?
「俺、まだ初期職のままだけど、どの大盾使いの二次職ルートにすれば手に入る?」
「え、冗談でしょ? 白銀さんがそんなプレイしている筈が・・・・・」
「・・・・・」
とあるプレイヤーはドン引きした。あんなに強いのにまだ初期職でプレイをしているプレイヤーがいるなんて信じられないと。
《時間となりました。ボスが出現します》
あれから大量虐殺劇をしたその後、俺を抜きでまだ残っていた鳥モンスター達を連携して倒していたころにアナウンスが聞こえた。
「ボスが出ましたか・・・・・」
コクテンが渋い顔で呟く、本来ならもう少し早めに出撃して、ボスを出現地点である岩山の手前で迎え撃つつもりだったのだろう。しかし、鳥たちの襲撃によって廃砦に釘付けにされ、ボスに対する防衛線を敷く前に出現時間となってしまったのだ。
「コクテン、どうする」
「戦闘班が向かうしかないでしょう」
「俺も賛成だ」
「ペイン」
ペインとは配置場所が離れていたため、戦闘する姿は見れなかったが、結構活躍したらしい。
「生産班とか、補修班から人を回してもらわなくていいのか?」
「私もその方がいいとは思うんですが、補修班は人手が足りていません」
廃砦の補修班も、鳥に襲われたせいで作業が遅れている。生産班の作るアイテムは今後も絶対に必要な以上、そちらから人手を割いてもらうのも気が引けるらしい。
コクテンやペインたちが話し合っていると、砦の中から生産班の面々が姿を現した。
「コクテンさん、俺たちも参戦するぞ!」
「それはありがたいですが、大丈夫なのですか?」
「もう、アイテム作りは8割方終わっていますので」
「残ったやつらで問題ない」
最悪、ボスが廃砦に到着するまでに加工が終わっていればいいという考えなのだろう。
彼らも交えて、コクテンたちが今後の動きを相談している。
「鳥が消えましたし、砦の守りは減らして、打って出たいと思いますが・・・・・。どう思いますか?」
「え? 俺か?」
「はい」
何でそこで俺に聞く。
「それでいいと思うぞ。遅かれ早かれ戦うんだし、好きにすれば? どうせ相手は空の上にいるから倒せ切れなく最終的にこの砦で待ち構えて倒すことになるだろうし」
俺の話を聞いたコクテンたちが、何やら真剣な顔で協議をし始める。いやいや、あくまでも俺の妄想だから。そんな真面目に協議しなくても。え? 俺の予想も一理ある? 防衛戦力はしっかり残す? まじで?
なんか、ボスに向かうのは半数ほどということになってしまった。
「いいのか? みんなで向かった方がよくない?」
思わずそう言ったんだが、コクテンたちの決意は覆せなかった。
「ボスの能力を偵察もせずに、戦力を差し向けるのは確かにリスクがありますから」
「ならいいけどさ」
結局、鳥が出現した時のために備えて、最初のイベントの時と同様、半数を残すことになったのだった。
あとは、鳥の群れが苦手というプレイヤーたちだな。中には生理的に無理という人や、恐ろしくて仕方がないという人もいるらしい。
「がんばれよー」
「廃砦のことはお願いしますね!」
「来たらソッコーで倒してやる」
だがコクテンさんよ。まるで俺が残留組のリーダーみたいに言わないでくれるか。
まあいい。どうせやることは決まってる。
砦の補修を皆で手伝って、コクテンたちから要請があれば出撃する。ただそれだけだ。
「じゃあ、ボスが来るまでの間、俺たちは砦の修理だな。ヒムカ、ここでも頼むぞ?」
「ヒム!」
今回はヒムカ大活躍になりそうだな。
「じゃあ、ヒムカはこっちで鍛冶を手伝ってもらうか」
「ヒムム」
ヒムカにはイズとセレーネが仕事を与えてくれるだろう。俺たちは建材の運搬作業だ。大工系技能を持つ人は少ないらしいから、雑用はできるだけ引き受けないと。
「よーし、そっち持ってくれ」
「フムム!」
広場にいてもらったオルト達を総動員させる。俺はルフレとともに、一抱えもある石のブロックを運ぶ。これは石工たちが加工した、鳥除け効果のあるイベント用ブロックだそうだ。女型の樹精には結構重い。ただ、オルトやドリモは1人でも運べているな。
「ム!」
「モグ!」
「キキュー」
リックは――邪魔かな? そんな一仕事した的な顔されても。お前はぶら下がってただけだからな?
俺はリックをつまみあげて、自分の頭に乗せた。
「お前はここだ」
「キュ?」
そうやって運搬業務に精を出していると、生産班のプレイヤーが城壁に駆け上がってくる。その顔には焦りの色があるように思えるが、気のせいであってほしい。
「白銀さん!」
「どうした?」
「それが、クリスタルに異変が! 急に光り出して!」
俺は他のプレイヤーに断り、大広間に向かう。すると、生産班からの報告通り、クリスタルが青白く輝いていた。
「最初はもっと光が弱くてさ、気のせいだと思ってたんだ。だけど、段々光が強くなってきて」
初めてみるがやはり単なるオブジェクトではなかったらしい。しかし、何の意味があるのか、誰にもわからない。
「オルトたちは分かるか?」
「ムー?」
「――?」
「まあ、わからんよな」
「とりあえず、もう少し観察して――」
「白銀さん! 大変だっ!」
「今度はなんだ?」
大広間に飛び込んで来たのは、運搬作業を担当していたプレイヤーである。
「また鳥が出た!」
「デカい?」
「いや、小さい!」
じゃあ群れの方か再び鳥が出現したと聞き、俺は大慌てのプレイヤーの後に続いて城壁の上に戻った。目に飛び込んできたのは、廃砦の周囲を飛び回る鳥の群れだ。
さっきと同じように、鳥が砦を襲撃している。ただ、先ほどと違う点がいくつかあった。
1つが鳥の色だ。先程は黒一色であったのに対して、今回は赤い鳥が混じっているのである。その数は全体の2割ほどであろうか?
漆黒の嵐の中に、赤い線が混じって見えた。新種だが、何が違うのかは分からない。もう1つ違うのが、鳥の密度だ。
「あっちとこっちじゃ、鳥の数が違うな」
廃砦の補修がかなり進んだからであろう。鳥避け効果のある建材により、鳥たちはその動きをかなり制限されていた。これは、赤でも黒でも、同じであるらしい。その分、鳥が何ヶ所かに集中してしまっているのだ。
「あれって、チャンスなんじゃないか?」
範囲攻撃を密度の高い場所に叩き込めば、相当鳥の数を減らせそうだった。しかし、襲われたプレイヤーたちは鳥に囲まれて視界がクリアではないため、密度の違いに気づいていないらしい。もしくは、気づいていても反撃する余裕がないのだろう。特に密集地帯のプレイヤーたちだ。
大盾使いのガードスキルがあっても、ガリガリとHPを削られてしまっているのが群がる鳥の隙間からも見えた。
「し、白銀さん、どうしよう」
「うーん」
やることはだいたい決まってるんだがな。
「俺がまた空飛んで今度はヘイトでたくさん集めるからさ、俺に群がるモンスターに集中攻撃してくれるか?」
「そんなことしたら白銀さんがダメージを食らうんじゃあ・・・・・」
「問題ない。遠慮なくやれ。それとそのことを他のプレイヤーにも伝えてくれ。アイテムも使ってできるだけ鳥を減らせると思う」
「わ、わかりました」
他のプレイヤーに声をかけて、皆でアイテムを使用して被害を抑えれば、なんとか持ち堪えることができるだろう。【身捧ぐ慈愛】のスキルの効果を発動し、そのままミーニィの背中にヒムカと連れて来たクママ、フレイヤと一緒に乗りながら―――。
「【挑発】! クママ、【芳香】。ヒムカ【逆襲者】。フレイヤ【魅了】と【恐怖】【霊魂搾取】」
「クマー!」
「ヒムム!」
『おいらに畏怖するんだにゃー!』
俺は現在鳥が最も集中している、城壁の西側に向かって駆けた。スキルを使用し近づくごとヘイトに反応する鳥の数が増え、視界が悪くなっていく。そして、ありったけヘイトで集めたら周囲が完全に鳥に覆われた。
「チチヂチチヂヂチチチチチヂ――」
「うるさいなー!」
鳥たちの発する大音量の鳴き声のせいで、自分の声しか聞こえなくなった。
「ヒムヒム!」
微かに聞こえるヒムカが意気揚々と逆襲者を発動させている。鳥たちはヘイトの増減に対して異常に敏感であるらしく、俺達の作戦に見事に引っかかる。そしてそれは―――外からの攻撃もしやすくなっている意味合いでもある。集まった鳥たちに攻撃が当たる魔法は、一瞬だけ穴が開き城壁にいる魔法使いや遠距離攻撃持ちのプレイヤーが鳥の塊に攻撃を繰り返す。攻撃を受けたらヘイトは移り変わるのは当然だが。
「俺達は引き寄せ役だ。鳴き声は五月蠅い承知で頑張れお前等!」
「クマー!」
『後でご褒美を要求するにゃー!!』
「ヒムー!」
イズside
「白銀さんがヘイトで引き寄せている間に攻撃しろー!」
「クママちゃん、今助けるわ!」
「ヒムカちゃんを助けてみせる!」
「フレイヤちゃん、待ってて!」
「ミーニィちゃんを守る!」
赤と黒が入り乱れて球状を形成してる光景を見てしばらく呆けて見てしまった。聞こえてくる声はハーデスがヘイトで集めまくったから鳥モンスター達に閉じ込められているらしい。でも、作戦的にはあんな風にしている間に城壁にいる私達が攻撃して数を減らすのが彼の目的みたい。
「イズ、ハーデス以外の大盾使いの人だったら・・・・・」
「即死ね。彼だからできる作戦だから行動をとったのよ。はい」
「・・・・・爆弾、投げても平気だよね?」
「鳥モンスター達に囲まれているから直撃することはないと思うわ。ぶ厚い層になっていればの話だけど」
結構デカい球状の的だからどこに投げても当たる私特製の爆弾は一羽でも当たれば数十羽も巻き込むことが出来る。セレーネも投げてそうする。こうやって倒せばいいのよねハーデス。
「なかなかの威力の爆発じゃないか。だが、私の方がさらにそれを凌駕する!」
「え?」
カラフルなアフロに鉢巻を額に巻いて祭り衣装の法被を着た女性生産職の子が、大筒を脇に抱えて鳥モンスター達に照準を定めた。
「―――爆発は芸術だぁっ!」
ドンッ!! ヒュ~~~・・・・・・ドッカァァァァァァァァンッッッ!!!
「「ちょっ!?」」
私が製作した爆弾より確かに数倍の威力があった。だから、巨大な赤黒の球状の半分以上も巻き込む爆発力があるアイテムを生み出すこの子に二重の意味で驚かされた。
「待って待って!? 白銀さんも従魔ちゃん達も巻き込んじゃってない!?」
「絶対に怒られるよ~!!」
彼女のフレンドらしき女の子たちが慌てて制止するも、スイッチが入ってしまったように高笑いしながら何発も砲弾を撃って鳥モンスター達を木っ端微塵にしていく。
「ハーデス、怒らないかな・・・・・」
「きっと予想外な展開だと思うわ」
爆炎と黒煙で鳥モンスター達の残存が確認できなくなってしまっている。だから手出しできなくなった私達は、ただ唖然と見ているしかできなくて・・・・・。
「―――いい加減に攻撃やめろ馬鹿野郎ぉおおおおおおおおおおおっ!!!!!」
彼がいた中心に大竜巻が発生して、砲弾は爆発するも暴風の壁で防がれた。そして聞こえてしまった彼の怒号。大竜巻が消失した頃には黒煙も晴れていて・・・・・天使の姿の彼の顔が凄く怒っていた。
「攻撃しろと言ったのは俺だ。俺の従魔達へのダメージも甘んじて寛容して受け入れた。でも、状況を把握しないまま攻撃するな! 何度も当たったぞこっちは!! ―――ちょっと怖かったぞマジで!!」
「「ご、ごめんなさーい!!」」
「・・・・・ごめんなさい」
「狙うならこれから来る大型のモンスターにしろ、いいなっ!!」
怒るのも短くて厳重注意するだけで城壁に戻るハーデス。とにかく、長く怒鳴り散らすようなことをしなかったのは安心した。
「作業に戻りましょうか」
「そ、そうだね・・・・・」
怒られてしょんぼりしちゃっている彼女達をフォローしつつ、ボスモンスターに備えて修復作業に取り掛かる。鳥達もさっきので殆んど倒せたから安堵し、皆が喜んでいるのも束の間、鳥たちに再び異変が訪れていた。再び襲いかかってきたわけではない。
むしろ、北に向かって飛び去って行く。その方角を見る私達の目に、あるものが飛び込んできていた。
巨大な赤黒い何か。それが空に浮かんでいる。
「あれは・・・・・鳥?」
「大きな鳥ね」
それは、赤と黒の二色の羽根を備えた、巨大な鳥であった。多分、その翼長は25メートル以上はあるだろう。
どう考えても、アレがボスであった。
確実にこちらに近づいてきている。
「ついに来たかー」