リヴェリアと別れて翌日。今日は精霊の捜索をしてくれと、学校へ行くオリジナルのハーデスの代わりに分身体である俺は、四方にそれぞれの精霊が隠れ住んでいる情報を頼りに活動しようとログインした・・・・・のだが。
「え、何でここに?」
昨日、自分の里に帰って行った筈のリヴェリア・アールヴがオルトとミーニィと畑にいた。
「里に帰ったはずじゃ?」
「昨日の件を長老にお伝えしたところ。里の危機を重んじてこの町の冒険者達の協力を求めることが決定しました。私はその件を冒険者ギルドへ報告しに使いとして舞い戻ってきたのです。無事に依頼は発注されました」
次の瞬間だった。
《運営からの報告でございます。ただいまから一ヵ月後にワールドクエストを開催いたします。また明日の一週間後には武術大会、武術大会に参加しないプレイヤーの皆様に別のイベント『村々の手助け』を開催いたします。参加報酬は火結晶、土結晶、水結晶、風結晶です。全プレイヤーが参加するか否か、それまでにお決めになってください》
勿論、ワールドクエストの方はYESにした。武術大会は興味あるが属性結晶を参加報酬にするイベントの方が気になるのでそっちに参加することにした。するとすぐに参加報酬として四つの属性結晶がもらえた。
「救ってみせるよ」
「ありがとうございます。あ、鷹の羽衣をお返ししますね」
渡した物を受け取った。が・・・・・。
「里には戻らなくていいのか?」
「黄金林檎の件を忘れてませんか?」
あーそれか。
「それなら、実ったら持って行くつもりだったんだが。リヴェリアはあの林檎が好きなのか?」
「いえ、神聖樹の栄養剤の素材として必要なのです。その為数多の黄金林檎の苗木を育てていて、里にとっても貴重な食材でもあり特別な日にしか食しません」
「そっちにもあるんだ?でも何で求めてくるんだ?里にもあるのに」
「悪しきもの達に全て奪われしまい、樹も一本も残らず折られてしまいました。ですから遠いこの地にも黄金林檎が実っている樹があると知った時は求めずにはいられなかったのです」
そんな事情があって欲しがるのか。
「だったらここで植えず苗木にした状態で渡した方が良かったか?」
「構いません。私達エルフが育てるよりもノームに育ててもらった方が黄金林檎の品質はより高いと思いますから」
最初に実ってくれるかどうか賭けに等しいがな。昨日苗木にして植えたばかりだから2週間後までに黄金林檎が実るか時間との勝負だ。その間まではやりたいことを全てやり込めなきゃな。なのでこれから精霊を会いに行かないかと誘いに乗ってくれたリヴェリアと西の第2エリアに行く前にとライバの露店に寄って、ブルーセージ、レッドセージを納品する。オルトのおかげで1日で納品できたな。雑草は放っておいても2日で収穫できるけどな。
「助かった! これでしばらくもつよ! これが報酬だ」
報酬は貰えたが・・・・・。チェーンクエストは発生しなかった。残念だ。植物知識を手に入れたプレイヤーへのチュートリアル的なクエストだったのかもね。オレガーノ、ヨモギン、コスモス、アジサイの種は買えたから、とりあえず満足しておくか。ついでに報告しにでも行くかな。
「ライバの依頼を達成してくれたんだってな? 感謝するぜ」
「いや、大したことじゃありませんから」
スコップさんと話していると、店の奥から誰かがやってくるのが見えた。
「君が甥たちの困りごとを解決してくれたという、異界の冒険者さんかい?」
見た目はスコップたちと似てかなり厳ついんだが、話し方はかなり穏やかな感じだな。
「私はスコップの叔父で、ピスコという。よろしく」
「死神ハーデスです、よろしくおねがいします」
「初対面の君にこんなことを頼むのは礼に欠けるとは分かっているんだが、私の依頼を受けてはもらえないだろうか?」
お、新たな依頼の発生だ。でも急に何でだ。今朝挨拶しに来たときは何も起こらなかったのに。
「実は私は材木店を営んでいてね。いつもは自分で材木を切り出してくるんだが・・・・・」
そこで言葉を切ったピスコは、右腕を持ち上げて俺に見せた。よく見ると包帯がまかれているな。
「この通り怪我をしてしまってね。仕入れに行けなくて困っているんだよ」
「つまり、木を切って持ってくればいいんですか?」
「そうなんだよ」
どうやら伐採スキルがキーになってたみたいだ。クエストの内容も、伐採スキルがないと達成できないものだし。
納品クエスト
内容:木材・雑木・クヌギを10個納入する
報酬:400G、雑木・木の食器セット
期限:4日間
へえ、食器ね。持ってなかったから丁度いいか。
西の森か。そっちの方の第2エリア行く予定だったし途中採取できるだろうし、依頼は受けちゃおう。
「受けます」
「お、受けてくれるか! ありがとう!」
クエストを受けて改めてフィールドボスを倒しに向かった。
「ここがそうか」
「ええ、そのようですね」
リヴェリアと共にここまで来ては見たものの、気になるオブジェクトだけがあって他は何もない。何にも手掛かりを掴めないのも頷けるが、さて俺も他のプレイヤーと分からずじまいになる前提で謎を解かそうと風穴に近づいた次の瞬間。いきなり目の前が光り出したかと思えば。
『風霊の祭壇に風結晶を捧げますか?』
アナウンスが流れた。その後Yes/Noの選択肢が浮かび上がって、迷わず岩の風穴に俺が風結晶を捧げると、さらに強い光が泉から天へと向かって凄まじい勢いで立ち上った。またアナウンスが聞こえてきた。
《精霊門の1つが解放されました》
『風霊門を開放した死神ハーデスさんにはボーナスとして、スキルスクロールをランダムで贈呈いたします』
「なるほど、やっぱり属性結晶が必要か」
「おめでとうございます。これでシルフと会えますね」
「ありがとう。それじゃあ行ってみるとしようか。しかし、これが門なのか」
それは、まるで竜巻だった。風が渦巻く度にゴウゴウという音が聞こえる。
「いくぞ」
俺はゆっくりと竜巻に手を入れる。激しい見た目と違って、そよ風が体を撫でるような感覚が一瞬あり、すぐに風の壁を抜けることができた。
すでに見慣れた感のある小部屋。そして、他の精霊門と同じように1体の精霊が俺たちを迎えてくれる。
「よくぞ参られた解放者たちよ。わらわがシルフの長である」
・・・・・幼女?
身長はオルトよりもちょい低く見た目は中性的だが、ノームが少年寄りなのに比べて、こちらは少女寄りだ。
残りのサラマンダーとウンディーネもまさかそうなのか?改めて観察してみると、床に付くほどの長い白髪が美しい。着ている服は、白地に緑の刺繍の入ったダボッとしたブラウスに、緑のかぼちゃパンツだった。普通に可愛い。しかし手には金属製のゴツイ長杖を持っており、威厳があるのかないのか、分からない姿である。
「質問していいか。ここはどういった場所なんだ?」
「この場所はわらわ達シルフの隠れ里。選ばれし者だけが訪れることが出来る、聖なる地じゃ」
「なるほど、だから風霊門なのか」
「案内しよう。ついてまいれ」
おお、さすがシルフ。飛べるのか。白い髪を引きずることなく、俺たちの頭と同じくらいの高度でフヨフヨと通路を進んでいく。
「はい」
シルフの長の後について、リヴェリア。偉そうな幼女様を先頭に、俺たちは通路を進んだ。
「ほれ、見えてきたぞ」
その先にあったのは、初めてお目にかかる精霊の街、それでいて同じくらい幻想的な街並みであった。
「おー、綺麗だ」
「うつくしいです」
「だな、幻想的だがあれはなんだ?」
「あれは繭ですかね? 興味深い」
その街を形容するならば、糸と布と繭、だろうか?街全体が緑を基調とした、鮮やかでありながら落ち着きも感じさせる色合いで統一されている。その中でまず目に入るのが、繭のような形をしたテントたちであろう。何枚もの布をパッチワークのようにつなげ合わせたテントだ。そのテントから四方八方に糸が伸び、周囲に立っている材質が不明な柱と繋がっている。この糸と柱がテントを支えているようだった。
天井はかなり高いうえに、緑色に輝く水晶のような物で空が覆われているので、閉塞感のような物は一切感じられない。そしてそこには、シルフの長に似た精霊たちが大勢いた。
「どうじゃ? 美しいであろう。好きに見て回るがよい」
「ああ、そうさせてもらう。その前にここって街だよな?」
「さようじゃ。わらわ風精霊の街。門を潜りし人間であれば、自由に行動することを許可しておる」
これは面白そうな場所だ。早速いろいろ調べたい。
「他にも幾つか質問があるがいい?」
「何じゃ? 答えられる範囲でならよいぞ」
「またここに来ようと思ったら、金の日に風結晶を捧げなくてはいけないのか?」
「いや、日と結晶を一致させなくてはいけないのは最初だけじゃ。一度入った者であれば、いつでも門をくぐることができる」
今のは重要な情報だ。やはり金の日に風結晶が必要だったらしい。
「俺と一緒であれば、誰でもここに来れますか?」
「駄目じゃ、資格者のみしか入れぬ。自力で門をくぐらなくては、資格者以外は弾かれるのじゃ」
他人を連れてくることはできないと。
「あと、あの扉は? すごく大きいけど」
「あの先は、風霊の試練となっておる。わらわ達とは違い、狂ってしまった哀れな同胞たちが封じられておる」
「それって、シルフが敵として出現するってわけか?」
「そうじゃ。お主等に分かりやすく言えば、ダンジョンじゃろう」
「狂った精霊を倒したら、怒るか?」
「そんなことはない。寧ろ狂った精霊は、消滅させてやるのが慈悲である。元に戻せれば良いのじゃが・・・」
敵として現れたウンディを倒しても、文句は言われないらしい。
ということで、俺たちは風霊の街を探索することにした。地面は草原になっており、非常に歩きやすい。
「この柱・・・・・糸でできてるのか」
「近くで見ると綺麗ですね。風の精霊の技術はとても興味あります」
俺とリヴェリアが興味を持ったのは、テントを吊るすための糸を支えている謎の柱だ。高さも太さも電信柱と同じくらいだろう。近くで観察すると分かったが、どうやら糸を円状に巻いて、固めた物であるらしい。もしかしたら、テントと繋がっている糸をそのまま柱にしているのかもしれない。
どう考えても耐久度を得られそうには見えないが、まあファンタジーな上にゲームだしな。何かの不思議パワーが働いているんだろう。
「この辺の糸や布で製作して出来上がった服はかなりよさそうじゃないか?」
「エルフの技術を加えると素晴らしい装飾品が出来ます。持って帰りたいなぁ・・・・・」
最後辺りの感想は彼女の素だったかもしれない。裁縫のスキルを取得してみようかな。その後、色々と店を回ったのだが、俺的にはそこまで欲しい物がなかった。実際、食材はだいたい他で手に入るアイテムばかりだった。
素材は被服や皮革に使えそうな素材が多いんだが、それも俺には不要なものばかりである。何せ破壊成長だから。
ただ、ホームオブジェクトショップでは一応面白い物を発見できた。
「風車塔と、風耕柵?」
風車塔は、作物や鉱物を粉末に変えてくれる施設だそうだ。時間がかかる代わりに、品質の低下が一切ないという。
風耕柵は一見すると藤棚っぽいが、棒と棒の間が狭いか。さらに、目の小さい網っぽいモノがたくさんついている。これはエアプランツを育てるための施設であるらしい。まあ、まだエアプランツなんか見つけたことがないから意味ないけど。
「風車塔、粉末・・・・・小麦粉が出来るな」
「パンですか?美味しそうです」
しかしここにエアプランツがある可能性はあるだろうか?それからも風霊の街を見回った後、いよいよダンジョンに向かった。ダンジョンへと続いているという扉の前に、1人のシルフが立っている。
「こんにちは。試練へ挑戦成されますか?」
「そのつもりなんだが、1つ質問いいか?」
「なんでしょう?」
「入ったら、攻略するまで出られないとかないよな?」
「それは大丈夫ですよ。好きな時に戻ってこれます」
だったらとりあえず入ってみればいいか。戦闘は無理でも何か有用な物が採取できるかもしれない。
「じゃあ、入ろう」
「分かりました。ご武運を」
開かれる扉にリヴェリアと肩を並んで潜った先には―――。
「なんだこれ。凄いな。それにこりゃあ、厄介そうだ」
「浮いてるんですかね?」
まず目に入るのは、派手な色合いの床だろう。緑と白のマーブル模様の、岩石質の地面だ。エメラルドグリーンやビリジアン、ライトグリーンなど何種類もの緑が折り重なり、これがまた非常に美しい。ちょっと踏むのをためらうレベルだった。そして、四方には壁がない。壁どころか天井もない。床の縁に立ってその下を覗いてみると、深い谷が口を広げていた。途中からは霧が立ち込めており、谷底を見ることはできない。
「落ちたら即死っぽいな」
「確かに、底が深いですね」
リヴェリアが四つん這い状態で身を乗り出して下を見ている。なんか、彼女は初めて見るものに対して好奇心に擽られる性質っぽいな。そんなこの場所は、今いる場所が宙に浮いているという訳ではないようだった。部屋の左右には、細い柱が立っているのだ。谷底から天まで伸びる、細く高い2本の柱がこの岩塊を支えているようだった。
白い霧は谷底だけではなく、今俺たちが立っている岩塊の周辺や空も覆っている。どうやら霧が壁や天井の代わりをしているようだ。部屋からは先に向かう通路が伸びているが、霧のせいで先を見通すことはできない。
「あの、折角ですから色々と調べてみませんか?」
「何かあるのかもしれないからか?」
「はい、ですので探しましょう!」
やる気に満ち溢れている。というか、この部屋で何か隠してあるとしたら一ヶ所しかないと思うんだよな。だが、俺の予測した岩塊の真下には何もないようだった。
リヴェリアが樹木魔法でロープを結んで、俺が決死の覚悟で確認してくれたので間違いない。
その後、探した結果、宝箱があったのは右の柱の上であった。左の柱は霧の中まで伸びており先を確認することはできないようだが、右の柱は霧の真下で途切れているらしい。
樹木魔法で石の柱を螺旋状に縛ってもらって登って見つけた。また、霧に触れると押し戻され、それ以上先には進めず壁扱いようであるみたいだ。
「えっと、防風のネックレスか」
名称:防風のネックレス
レア度:3 品質:★9
効果:【VIT+4】、【風耐性小】
毒と麻痺、水無効以外の耐性はまだ取得してないからいいな。ここで耐性を上げていくのもいいかもしれない。フィールドなどの風の影響が弱くなるアクセサリーだった。しかも隠し宝箱の開放ボーナスで宝石までゲットした。確認してみると、黒翡翠という宝石が中に入っていた。
「リヴェリア、さっきの風車塔と風耕柵を買うけどどう?」
「畑がより充実になります。購入をしても貴方の損にはならないかと思いますよ」
賛成の意見を貰い、最初の部屋を抜けて次の部屋へと向かおうとしていた。ただ、最初の一歩を踏み出すのは人によってはちょっと勇気がいる。
「細い道だな」
通路の幅は2メートルないだろう。しかも両サイドには手すりもなく、足を踏み外せば谷底に真っ逆さまである。横に並ぶのはちょっと危ない幅だった。慎重に歩を進め、ゆっくりめの速度で通路を抜けた先は、最初の部屋とほぼ同じ造りをしていた。モンスターがいるかどうかだけが違っている。
「ブリーズ・キティ?・・・・・可愛い」
「ウニャー!」
部屋で待ち構えていたモンスターは、どこからどう見ても子猫だった。白地に緑の虎柄の、美し可愛い子猫だ。
モンスターというより、もんすた~って感じだな。
「欲しいかも」
あの子猫をぜひテイムしたい!あの子猫を腕に抱いて、喉を撫でてゴロゴロさせたい!
だが、すぐに俺は絶望に叩き落とされることになる。
「テイムの対象に指定できない、だと?」
つまりあの子猫はテイマー専用ではなく、サモナー専用モンスということなのだろう。
「まじか・・・・・しょうがない倒すか」
「ニャー!」
ほほう、猫なだけあって結構素早いようだ。だが、【パラライズシャウト】で攻撃範囲内に入ったブリーズ・キティは麻痺状態となって機動力が失った。その隙に大盾でアタック攻撃で倒す。
ただ、このダンジョンで真に危険なのはモンスターではなかった。恐ろしいのはやはりダンジョンギミックだったのである。
最初の部屋を抜け、次の部屋に向かうための細長い通路を恐る恐る進んでいる最中に、横から風が吹きつけた。
風自体はそこまで強くはなかったし、俺は防風のネックレスを装備しているので大した影響はない。ただ、不意打ちで風がビュオォと吹きつけてきたので、リヴェリアが短い悲鳴を上げる。
「大丈夫か?」
「ええ、なんとか」
「俺にしっかり捕まっていろよ」
風に飛ばされないよう彼女の腰に腕を回してそばに引き寄せる。どうやらこの通路、時間経過で風が吹くらしい。すると・・・・・。
「あ、あの・・・・・」
「うん?」
「い、いえ、何でもないですっ」
淡く顔を朱色に染めて戸惑いと照れが混濁したひょうじょうをうかべ、リヴェリアに振り向いた俺から顔を逸らした。彼女が痛がらない程度に抱えながら次の風が吹く前に部屋に突入すると、そこはなかなか厄介な作りをしていた。中央に大きな穴が開いた、ドーナツ型をしていたのだ。そこにはモンスターが3体待ち構えている。
2体はさっきもいたブリーズ・キティだ。そしてもう1体。まるで空飛ぶ殺人人形?ホラーフェイスの幼児が空を飛んでいた。
「狂った風霊?」
「きっと人間達から受けた怒りと憎しみが、千年経った今でも消えず精霊としての本質が
歪んでしまったのかもしれません」
敵として襲ってくるなら倒すしかないよな。
「リヴェリア、ここの地形は厄介だから俺の後ろから離れないでくれ」
「相手は空を飛びますがどう倒すのですか?」
「素早そうだからな。まずは動きを封じる。あ、自分の耳を強く抑えてくれるか?俺が肩を叩くまで」
首を傾げ俺が何をするのか不思議そうな目をしたリヴェリアは、言う通りに長い耳に手で押さえてくれた。
「ウニャー!」
猫達が宙を蹴って飛ぶ光景に癒されてしまう。しかし、いつまでも見ていることはできない。
「【咆哮】!」
この空間の空気を震え轟かせる声量の轟音を発声。狂った精霊と2体の猫達は宙から落ちてHPが減っていないものの硬直状態になった。
「【毒竜】」
どんな行動も不能になった相手に毒魔法をお見舞いして倒したその後、終わったと肩を叩いて教える。
「あっという間に、今のは毒魔法?」
「あまり使えないけどな。仲間にも毒状態にしてしまうから基本的は一人の時しか使わない。ついでにあんな感じになるからさ」
毒魔法の二次災害とも称する毒液に塗れた足場。俺だけならともかくリヴェリアは絶対に避けて通れないようになってしまってるのだ。
「では、どうして使ったのですか?」
「倒さないと前に進めないからだ。てなわけでごめんな?」
「え?」
毒液の向こうに続く部屋へ行くためにリヴェリアを横抱きに持ち上げる。いわゆるお姫様抱っこだ。こんな説明をしなくても不要だとは思うが一応な?毒液の海の上を歩きだす。
「ちょっ・・・!」
「悪いけど毒の領域から抜けるまでこのままな?落ちたら即死だから」
「―――――っ」
恥ずかしくて顔を赤らめる彼女の言葉を遮り、そのまま歩き続ける。
それから1時間後。
「素材は幾つか取れたな」
「その度に何度もこっちはハラハラしましたけど?」
「悪かったな。場所が場所なだけに仕方がなかったんだ」
探索して採取アイテムを手に入れた中で特にこのダンジョンでゲットしたエアプランツは、足場の裏側など、少々採取するのが難しい場所に生えている。それを安全にゲットできるのは、現状の俺には難しく鷹に変身して飛びながら採取する方法ことにした。まぁ、それでもかなり難しかった。わざわざ足場の裏側に向かって突っ込み、体勢を逆様に変えて着壁し、足で壁を掴んだままの状態で口で採取したんだ。有翼の生物の大変さを思い知ったよ。
「こっちが防風草。こっちが暴風草。見た目は似ているが、名前が違うな」
採取した草の内、防風草が7つ、暴風草が1つという割合だ。レア度に関しては同じ3なのだが、このダンジョンでは暴風草の方が珍しいらしい。
「お、採掘ポイントがあるぞリヴェリア」
「この裏にですか?」
「樹木魔法で根を張るようにしてくれないか?それと俺達の身体に命綱のように
オルトがいないので、畑から召喚。ふふ、初めてしちゃったな。納得したリヴェリアは願い通りにしてくれて、オルトと四苦八苦しながら足場の裏側に採掘ポイントで採掘をする。ロープを柱に結んでトライしたのだが、命からがらだった。時間もかかるし、ゲットしたアイテムは低品質の鉄鉱石である。風鉱石っていう鉱石は取れたが。
「このままいてもらうけどオルトは戦闘に参加せず後ろで待機な?」
「ム」
「土属性のノームに風属性のシルフ相手ではかなり厳しいですしね」
そのままさらに4部屋先に進んだ場所で、俺達は他の狂った風霊と異なる狂った風霊の個体に遭遇していた。
普通の狂った風霊は緑の髪の毛なのだが、目の前の狂った風霊は白い髪の毛だ。これはシルフの長と同じ特徴である。
「リヴェリア、あのシルフって他の狂った風霊と違うよな?」
「きっと特別な個体だと思いますよ。戦闘能力も他の狂ってしまった風霊より強いかと」
間違いなくユニーク個体だろう。
「んー・・・・一先ず倒してみるか。属性結晶を手に入れなきゃならないし」
こうして戦闘を始めた。あっけなく飛んでいるところを麻痺させたため、狂った風霊は1メートル程の高さから地面に落下していた。オルトと一緒に攻撃して攻撃力が低い同士のダメージは時間はかかったものの、何とか倒せたうえに風結晶をGETした。だがしかし、足りなすぎる・・・・・。
「オルト、こうなったら採掘ポイントを見つけてドンドン掘るぞ!」
「ム!」
そう決意した俺とオルトはさらに先へと進むのだった。
それからさらに2時間後。
「召喚!」
「フマー!」
俺はようやくテイムしたシルフを、畑から召喚していた。入れ替えたのはオルトである。
名前:アイネ 種族:シルフ 基礎レベル15
契約者:死神ハーデス
LV1
HP 38/38
MP 26/26
【STR 8】
【VIT 7】
【AGI 15】
【DEX 13】
【INT 12】
スキル:【糸紡ぎ】【風魔法】【採集】【栽培】【機織り】【浮遊】【養蚕】
装備:【風霊の針】【風霊の狩衣】【風霊の鞄】
「フマ?」
「よしよし、可愛いな~」
ユニークシルフのアイネは、シルフの長にソックリだった。違うのはさらに幼く見えると言うことと、杖を装備していないところだろう。あと、服もアイネの方がやや地味だ。
だが、白い髪の毛や、白ブラウスに緑カボチャパンツという基本的な部分は一緒である。
それにスキルもなかなか面白い。被服皮革を持っていると予測していたんだが、その前段階のスキルだった。糸や布を作ることができるらしい。
『おめでとうございます』
お、祝福のアナウンス。これはもしや、例のあれか?
『テイムモンスターが、初回から3匹目まで、全てがユニークモンスターでした。称号『ユニークモンスターマニア』が授与されます』
やっぱり、また称号だよ。珍しいって嘘なんじゃないか?
称号:ユニークモンスターマニア
効果:賞金10000G獲得。ボーナスポイント4点獲得。ユニークモンスターとの遭遇率上昇、テイム率上昇
その報告を見流してアイネの頭を撫でる。
「養蚕・・・・・か。また必要な物を揃えないとな。これからよろしく頼むぞ、アイネ」
「フマ!」
「可愛いですね。これからどうしますハーデスさん?」
「俺は時間いっぱいになるまでここに留まるつもりだ。風結晶を集めなきゃいけないから」
「では、私はノームと畑の仕事をしに戻りますね」
「すまない。送っていくよ」
その際、風車等と風耕柵を買うために『タラリア』のヘルメスに買い取ってもらう。
「やー、ハーデスくん。いい情報あるよね?勿論あるよねー?」
「・・・・・何の事かな?ミスリルを買い取って欲しいだけなんだが」
「売ったお金で何か買うんだね?具体的に精霊門の奥で」
「お楽しみは最後までってことで情報は何も売らないぞ?」
「焦らすねー?でもま、その通りだね。楽しみにしてるよ。はい、色を付けて1つ10000G。10個売るつもりなら合わせて100000Gね」
「ん?色をつけるにも異様に高くないか?」
ヘルメスは大した理由じゃないと教えてくれる。
「最近掲示板でミスリルが報酬として納品クエスト以外にもマーケットにも出品されていたのよ。同時にミスリルを扱える鍛冶師のNPCも発見されたし、ようやくレア鉱石の使い道も出来たのだから、それを欲しがったプレイヤー達がたくさんのミスリルを数10万G以上も競り上げちゃってさ。もう凄かったらしいわよ?」
イズかヘパーイストスだな。
よし、これで例の2つを買える。去り際にアイネを召喚して風結晶を見せつけると、ヘルメスは凄く顔を輝かせた。
始まりの町を後に風霊の街に戻った俺は、早速風車塔と風耕柵を購入して風の属性結晶を搔き集める時間を召喚したミーニィと費やした。
「風車塔は出来れば納屋の近くがいいな」
「ムー、ムム!」
「そうだな、ここがいいか」
学校から戻り分身体と入れ替わった俺はオルトと相談しながら、設置場所を決めていく。それにしても、畑の真ん中に出現した風車塔は中々壮観だった。見た目はレンガと木でできた、少し細めの小型風車って感じだ。背の高さは10メートルくらいか。大して強い風も吹いてないのに一定の速度で回っているのは、ゲームならではなんだろう。風車塔の中に入ってみると、そこには大きな石臼が置いてあった。
1メートルくらいはありそうだ。その石臼が風車の車軸と連動して自動で回転している。近寄ってみると、ウィンドウが立ちあがった。石臼に何を投入するか聞いて来る。しかしこの施設、意外と使いづらいかもしれない。手持ちのアイテムがほとんど選べるのだ。多分、粉にできないアイテムを石臼に投入した場合、時間をかけてゴミが出来上がるだけなのだろう。
「で、こっちの風耕柵なんだが・・・・・。どうだオルト?」
「ムー・・・・・」
やはりこの風耕柵で作る事の出来る作物は今は存在していないらしい。風霊のダンジョンで手に入れたエアプランツはできるみたいだが用途が不明すぎる。風耐性を一時的に得るバフの薬になるのか?判るまでは放置だな。
「皆、少し鍛冶師の人に会いに行ってくる」
「フマー」
「キュイ」
「ムー」
「行ってらっしゃいませ」
畑を後にしてヘパーイストスのところに向かう。昨日の戦果を報告しよう。喜んでくれるかな?
「あ、そうだ。スキルスクロールを開いておこう」
風霊門の1番乗り特典でスクロールをもらったのを忘れていた。あの場で開けば、皆のスキルの情報も手に入ったのだろうが、後回しにしちゃったな。
「じゃあ、早速。オープンっと」
そう言いながら巻物を開く、それと共に描かれていた文字が光り輝き、その光が消えていくのに合わせて巻物も消失して俺の体が光に包まれる。そして、ステータスを確認すれば問題なくスキルを取得できていた。
「刻印・風? なんだこれ?」
戦闘スキルなのか生産スキルなのかも分からない。頭を悩ませても結局分からず、
もう見慣れた看板がある西と北西の区画の大通り、冒険者通りに進み迷わず店内に入ると何人かのプレイヤーがヴェルフの前に並んで売買のやり取りをしていた。
「・・・・・」
「・・・・・」
背後に並んでいると、ヴェルフが親指で奥に入れと示唆した。静かに出て裏口から入り、燃え盛る炉の前で武器の出来栄えを確認しているヘパーイストスの傍に寄った。
「ヘパーイストス」
「おう、ここに来たってことは手に入ったのか?」
「一応は。どうしても手に入りづらいから数は少ないよ」
風結晶と風鉱石を見せると瞳を不敵に光らせた鍛冶師。
「こっちの鉱石は見たことが無いな。風鉱石?ふむ、風属性の装備が作れそうじゃないか」
「そうなのか?じゃあ結晶よりいいと?」
「結晶の方がいいに決まってるだろ。とにかく結晶を1つと鉱石を全部くれ。あとは自分で集めに行く」
「場所が分かるのか?」
「先祖代々鍛冶師に関する言い伝えや財産は多すぎるんだよ。属性結晶だって精霊と繋がりがあるとは思いもしなかったが、『異なる日にて四方の地に向かい、不思議な結晶を用いて神聖なる門を開かんとする』って爺の変な口癖、まさか属性結晶が関係あったとはな・・・・・」
それ、教えてほしかったんだけど!
「属性結晶を見せた時に教えてほしかったなぁ・・・・・」
「あー、すまん・・・・・弟子でもない身内以外教えちゃならねぇんだわ」
「・・・・・・」
「悪かったって!そんなふてくされた目で睨んでくれるな!」
ヘルメスやリヴェリアよりもよっぽど分かりやすいヒントがここにあったなんて深く過ぎるだろ。とにかく一つ目の採取クエストは終わり、残りは3つ。
「明日は土の日だから、ノームがいると思う北の獣牙の森にあるストーンサークルに行ってくる」
「お、おう・・・・・頼んだぜ」
裏口から出ると、イズからメッセージが届いた。俺と会いたい?集合場所はヘパーイストスの店の裏にっと。
―――数分後。
「ハーデス、久しぶりー」
「おー、久しぶり」
「私もイベントを参加するために属性結晶の報酬を貰ったわ」
「だったら精霊の隠れ里に行くか?今なら風霊の門を開けに行けれるぞ。風鉱石ってのも採掘できる」
途端に目を輝かせるイズの答えを待つまでもなく。
「それと明日はノームの隠れ里に行ける日だが。イズさん、どうしますかね?」
土結晶を見せつけてにやりと笑いながら尋ねてみた矢先に深々とお辞儀し出した。
「私も連れてってくださいハーデス様」
「うむ、では行こうか」
「おー!」
西の第2エリアへ向かいイズと風霊の街の奥にあるダンジョンへ挑戦する。そこで満足するまで鉱石を掘り続けたのだった。
満足したイズと始まりの町で別れ花屋に顔を出す。納品クエストの受理をしに行かないと。
「ありがとう! それで、早速納品するかい?」
「じゃあ、これを」
「ありがたい。確かにクヌギ10個、受け取ったよ!」
よし、食器が手に入ったぞ。パーティ用なんだろう。1人分の皿、コップ、ナイフ、フォークがセットになった、温か味のある木製の食器たちだ。だが、これはチェーンクエストだ。まだ終わらんよな。
「それで、実は君に折り入って頼みがあるんだが、だめだろうか?」
再びピスコからの依頼だった。どうやら次の依頼の発生条件を満たしているらしい。
「君のおかげで仕入れは何とかなったんだけど、依頼が1つ残ってしまっていてね。木工の小物を作る依頼なんだけど、この手だと作れそうもないんだ」
なるほど次は木工スキルがキーか。
作成納品クエスト
内容:雑木で作った★8以上の食器を2つ納品
報酬:500G、桜の苗木
期限:10日間
報酬は苗木か。しかも桜! 雑木でも構わん。この世界でモンス達とお花見とか、夢があるじゃないか!
だが、この内容は達成可能かどうかわからないんだよな。期限は少し長いけどそれでも★8を達成するのに足りているかどうか・・・・・。今から木工職業にクラスチェンジして貯まりに貯まったポイントを全部生産スキルとDEXに振らないとダメか。あ、掲示板にでも以来出して見るか。一先ずこのクエストは受けよう。
「受けます」
「ありがとう!助かったよ!」
受けた後、掲示板に『10日以内に雑木で作った★8以上の食器を2つと養蚕箱を求む』と報酬は各種50本と提示した。まぁ、生産系に特化したプレイヤーが掲示板を見ているとは限らないから期待はせずに自力で作成するか―――。
「―――メール?」
誰だ?名前も知らないプレイヤーなのは当然だとして何の用だろうかね。えーと、マーオウ?今すぐ広場に会えませんか?・・・・・このパターン、前回もあったような。
ということで広場にやって来てみたら・・・・・見たことのある女性プレイヤーだった。主にリアルでだ。
「自分が死神ハーデス?お初―、うちはマーオウや」
「・・・・・」
別人だと思いたいが、少し確かめようか。
「マーオウか。よろしくな。メールを読んだけど用件は?」
「そりゃ、見たことのない木材を大量に揃えてるもんを見たら是非とも欲しいやん。うち、これでも木工プレイヤーのトップとしてアタマ張ってんで?是非ともそれらの木材の集め方の秘訣も教えて欲しいんもんや」
「それとこれは別だけど、依頼を引き受けてくれるのか?」
「勿論や!てなわけで早速食器だけやけど前金として報酬の半分をくれへん?この場で作ってやるさかい」
一応信用してみるつもりで報酬とする木々の数の半分をマーオウに譲渡すると、クヌギをアイテム欄から取り出して本当にその場で加工を始めた。周囲のプレイヤーが作業する彼女に視線を送っても意を介さず、全神経を作業に注ぎ集中するその様は職人そのものだ。
しばらくして、皿とコップを俺の要望通りの仕上げに、★8の食器を作ってくれた。残りの報酬を譲渡してホクホクとした顔でアイテム欄を見つめる彼女に一言。
「フレンドコードはしてもらってもいいか」
「モチのロンやで養蚕箱の方は時間が掛かるんで出来上がったら連絡するで」
「材料込みで値段はどのぐらいだ?」
「うーん、品質の数によって値段は上がるんけど、50000G以上だと思ってぇな」
「分かった。連絡待ってるよ」
俺の中では確定したが、これでコイツとの繋がりを得たわけだ。
「がははは! 凄いなお前さんは!」
「いやー気に入ったよ。今度、ぜひ僕の店にも遊びに来てくれ。歓迎するよ」
「そうだ、もし桜の花でも咲いたら、その下で宴でも開こうじゃないか!」
花屋に戻り★8の食器2つを納品する。ゲームの中で育てた桜の木の下で、NPCやモンス達と宴会ね。うーん、想像するだけでなんとも楽しそうだ。育て甲斐があるというものだ。
「そうしましょう。楽しい宴会は俺も好きだから」
俺がそう答えた直後だった。
特殊クエスト
内容:自ら育てた桜の木の下で、スコップ、ライバ、ピスコを招いて花見をする
報酬:ステータスポイント3点
期限:なし
ん? なんかクエストが発生したぞ。今のもチェーンクエストの1つだったのか。しかも受けたことになっている。頷いたからかね? まあ、それ自体は構わないんだが、さすがにこれは今すぐに達成は出来ないな。オルトに頑張ってもらおう。そして、花見なのだ!
チェーンクエストを一段落させた俺は、夕餉の時間に迫ったため一旦ログアウトした後、再ログインして畑で農作業をしていた。月明りがあれば真っ暗にはならないし、夜の農作業も乙なものだ。
水まきや草むしりだが、それでも農業の熟練度は上がる。あと数レベルを上げれば品種改良を覚えるはずだからな。空いた時間で少しでも熟練度を稼がないとね。そうやって農作業をしていると、何やら淡い光が目に入ってきた。
「なんだ?」
緑桃などの木を中心に植えている畑の方角だ。俺は近寄ってみた。
「この木は、胡桃の木か」
この間に植えた胡桃が、既に1メートル程に成長していた。その枝に、青白い光を放つ実が生っている。
一見、蛍のようにも思えた光の正体は、光る胡桃の実であった。無数の皺の入った実が、淡く青白い光を放っている。しかし、花なんか咲いてたか? いや、こんな短期間で採取できるとは思ってなかったから、全然気にしてなかった。普通のプレイヤーだと初収穫まで1週間は掛かるらしい。ただ、オルトは栽培促成を持ってるし、それと関係しているのかな?
「これって、もしかして光胡桃か?」
以前、ファーマースレの掲示板を開いて確かめる。ふんふん、胡桃の木に低確率で生る。ただ、夜の森はかなり危険で、入手難易度は中々高いらしい。
それが畑で入手できちゃうとはな。大分珍しいはずなんだが・・・・・。調べてみたら、胡桃は低木の内から収穫が可能だが、最初の内は1つしか実が生らないらしい。育ってくると収穫量が増えるらしいけどな。
その1つがいきなり光胡桃だったとか、オルトの幸運のおかげだろうか?
「何に使うんだろうな。食用か? それとも調合に使えるのかね?」
名称:光胡桃
レア度:3 品質:★5
効果:素材。使用者の空腹を5%回復させる。
緑桃よりもレア度が高い。これは後でちゃんと掲示板をチェックしよう。収穫を終えたらじっくりと掲示板を見たい。
「さっさと収穫を終えちゃおう」
そう思ってたんだが、そうも言ってられない事情が出来てしまった。
「こんな作物植えたっけ?」
光胡桃に続いて、またまた謎の収穫物である。今夜はどうした? 本来であれば薬草が植わっているはずの場所に、見たことのない赤い草が一本生えている。しかも、全部の薬草がそうなっているのではなく、1つだけが赤い草に変わっていた。大きさは同じくらいだが、葉の形などは全然違う。単に色が変わっただけじゃなさそうだな。
名称:微炎草
レア度:2 品質:★1
効果:素材
初めて見る植物だ。一体どこから来た?
「オルトが植えたのか?」
「ムム」
首を横に振るオルト。違うらしい。じゃあ、どうやってここに生えてきた?
とりあえずゲーム内掲示板を漁ってみると、微炎草は第3エリアならどこにでも生えている草らしい。数が多いせいで、外れ扱いなんだとか。用途としては、松明や固形燃料などを作る材料になるらしい。武器などに混ぜて火属性を狙おうとしている鍛冶師は多いらしいが、成功例はないとか。ただ、使い方は分かっても、なんで俺の畑に生えていたのかは分からなかった。仕方ない、こっちもあとで詳しく調べよう。
「まあ、とりあえずは増やしてみるか」
先に行けば珍しくないとしても、俺にとっては貴重な素材である。
「オルト、増やせるか?」
「ム!」
問題ないらしい。微炎草はオルトに任せておけばいいや。次は光胡桃をどうするかだな。と言う事で色々調べたが、用途がありすぎて逆に困ってしまった。食用は勿論、蛍光塗料や灯り用の道具などにもつかえるらしい。さらに、盗賊ギルドなどでランクアップクエストで必要になってくるんだとか。ランクアップクエストと言うのは、ギルドランクを5に上げる際に発生するイベントで、ギルドによって内容が違う。盗賊ギルドの場合は、一晩の内に光胡桃をソロで3つ入手が達成条件らしい。因みにこのゲームの盗賊ギルドは犯罪組織ではなく、シーフなどのゲーム的な盗賊職のことである。ソロって言うのが中々難しいよな。夜の森は難易度が跳ね上がるからね。因みに獣魔ギルドの場合は、Lv10以上のモンスターを3匹引き連れていくという題らしい。・・・・・俺、そっちの方も全然してねぇや。
翌朝。鷹の羽衣を纏い鷹に変身する。初めて見るイズは驚き聞きたがってたが、催促して背中にしがみ付いてもらい空へと飛んだ。今日はノームの里に行く日なのだ。
「凄い!飛んでる、飛んでるわ!歩くよりも速い!」
「まずは北の平原のフィールドボスを倒していくからな」
「わかったわ」
戦闘はもちろん俺だ。北の平原にいる犬型のボスモンスターの目の前に降り立ち、麻痺攻撃で動きを封じ、触れて【悪食】で倒して第2エリアへ突入を果たす。
目指すストーンサークルまでは、1時間もかからずたどり着いた。その名前の通り、小高い丘の上に、高さ2メートル、幅1メートル、厚さ30センチほどの板状の石が4枚。円を描くように配置されていた。ここから動画モードにしてからそこに近づくと。
『土霊の祭壇に土結晶を捧げますか?』
「よし捧げるぞ」
「お願いね」
やはりここが土霊の祭壇で間違いなかった。Yesを決定すると、土結晶を祭壇に安置しろと言われた。祭壇って、このストーンサークルの事か?とりあえずストーンサークルの中央に土結晶を置いてみた。すると、風霊門が解放された時と同じ様に、黄色い光が天に立ち昇る演出が発生する。
そして光が収まった後、やはり水霊門にそっくりな石の門がストーンサークルの中央に出現していた。そのまま待っていると、ゴゴゴと重低音を上げながら門が内側へと開いていく。その直後のワールドアナウンスまで、全く同じであった。
《精霊門の1つが解放されました》
『土霊門を開放した死神ハーデスさんにはボーナスとして、スキルスクロールをランダムで贈呈いたします』
やった。ただ、今は取りあえず中に入っちゃおう。風霊門は竜巻の中に入る様なエフェクトだったが、こちらは真っ暗闇である。初めてがここだったらもっと躊躇していただろうが、すでに精霊門を通るのには慣れている。
俺達はあっさりと土霊門に足を踏み入れた。体に闇が纏わりつく様な感覚が一瞬あるが、すぐに門の向こう側に出る。そんな俺達を出迎えてくれた者の姿くらいか。
「いらっしゃい解放者さん!」
出迎えてくれたのは、オルトにそっくりな少年だった。
「僕はノームの長。君たちを歓迎するよ」
ノームなんだが、ちょっとだけ大人っぽい? オルトよりも10センチくらい背が高いだろう。あとは服が豪華か。それ以外はほぼ一緒だな。髪の色も緑だし。少年ぽい笑みはそっくりだ。
「ありがとうございます。あ、そうだ。オルト召喚」
「ム?ム~!ムムッ!ムム~!」
召喚され一瞬不思議そうにノームの長を見たオルトが、興奮した様子で騒ぎ出した。そして、長の前に行くと、ピョンピョンと飛び跳ねて何やらアピールしている。
「おや。僕の仲間を従えているんだね。うんうん、この子も幸せそうだ」
「ム~」
ノームの長に頭を撫でられたオルトが嬉しそうに頷く。
「じゃあ、こっちきて」
「ムッムー!」
長が俺たちを先導して歩き出す。オルトはまるで電車ごっこのように、その後ろにピッタリと付いて行く。
長に案内されて街に行くのも風霊門と同じだった。ただ目に飛び込んで来た土霊の街の姿は、風霊の街とは大分様相が違っている。あっちは幻想的なイメージだったが、こちらはもっと荒々しい。そもそも、基本が洞窟だった。
高い天井からは巨大な鍾乳石が無数に垂れ下がり、凄い迫力がある。地面からは色とりどりの水晶みたいな結晶が乱雑に生え、まるで水晶の森のようだった。階段や通路は水晶の森を縫うように作られ、水晶の隙間に石の建物が作られている。光源も淡く光る水晶たちだ。
風霊の街と共通するのは、一目見ただけで心を奪われてしまう美しさだろう。風霊の街は幻想的、こちらは自然の美しさの違いはあるけどな。
「わぁ、凄いわ」
「本当にな。これは凄い。スクショ撮ろっと」
「ムッムー!」
「なんでお前が胸を張る」
オルトが俺の呟きを聞いて、何故かドヤ顔だ。いや、仲間が作ったんだろうが、お前が作ったわけじゃないだろうに。
「ようこそ土霊の街へ。楽しんで行ってね」
ノームの長と別れた俺達は、そのまま町を見学していった。オルトにそっくりなノームたちが至る所にいて、ムームーと談笑? したり、作業をしたりしている。これは天国じゃね? 慣れてる俺でさえこうなんだから、ショタコンがここを見たら鼻血を噴いて倒れちゃうかもな。
ワクワクしながら街を回ってみると、店の種類はほぼ一緒だ。不思議なことに鉱石屋があった。なんと、鉄鉱石が売ってる。確かレアな素材だったはずだ。いや、あれから時間が経過してるし、もう違うのか? でも、見向きもされなくなっているわけではないだろう。これは良い情報だ。
あと、販売しているホームオブジェクトもかなり違っている。風霊の街では風車塔、風耕柵が売っていたが、この店の商品で畑に設置できるのは4種類だった。
腐葉土を生み出す腐葉土箱。畑の品質上限を上昇させるミミズが入っているというワームボックス。地下に設置する遮光畑。下級の鉱石が自動生成されるホームマイン。
どれも非常に面白いんだが、俺の手持ちでは買えない物ばかりだった。前2つが3万G。畑が4万、ホームマインは6万Gもするのだ。本当に残念である。まあ、精霊門の情報をヘルメスに売ればそれなりの値段で買い取ってくれるだろうし、1つくらいは買えるだろう。もしかしたら2つ買えちゃうかもしれない。
「・・・・・欲しいな」
「え、これファーム専用じゃなくても畑を持たないと意味がないわよ?」
「ノームは生産職系の精霊ですが何か?」
「・・・・・防御特化の極振りプレイが遠ざかっちゃってるのね」
察してくれてありがとうよ。
「じゃあ、軽くダンジョンを確認しに行くか」
「絶対に土結晶や採掘できるもの手に入れてみせるわ」
イズは生産職だけど、どうにかなるだろう。あ、ダンジョン突入の前にスキルスクロールを使っておこう。
「どんなスキルがもらえるか――。ふむ、宝石発見? 聞いたことないスキルだな」
スキル【宝石発見】
採掘中に低確率で宝石系アイテムが入手できる。
ただ風霊門で刻印・風、土霊門では宝石発見と、それぞれの属性に関係ありそうなスキルがもらえたな。火霊門なら火に、水霊門なら水に関係あるスキルか? ちょっと興味がある。
それよりも今はダンジョン探索だ。俺たちは慎重に土霊の試練へと突入した。ダンジョンは壁に水晶が大量に埋め込まれた洞窟だ。何とか水晶が手に入らないかと頑張ってみたんだが、やはり無理だった。壁は破壊不可能らしい。
「最初の敵はさっそく狂った土霊か」
「ム」
「アレを倒せば手に入るわね」
オルトのような子供なのに、顔がグレムリンみたいなホラーフェイスである。狂った風霊と同じだな。向こうは空飛ぶ殺人人形。こちらは洋画に登場する人に襲い掛かる幼児人形っぽい。
「【エクスプロージョン】」
先手必勝とばかり、爆発魔法で狂った土霊を倒したらポリゴンと化して消失した狂った土霊のいた場所に土結晶が転がっていた。
「お、ラッキー」
「本当ね。取りに行っても?」
欲しくてしょうがないと雰囲気を漂わせるイズを止めもせずにあげることにした。歩き出す彼女の背中を見送ったら、いきなり目の前で消失した。え・・・・・?
「な、なにこれ落とし穴!?」
どうやら落とし穴に落ちたらしい。地面にぽっかりと開いた穴から彼女の声が聞こえる。察知できなかったぞ?恐らくイズもそうだ。罠探知のスキルを取得するしかないようだ。
「ありがとう・・・・・」
「見事な落ちっぷりだったな」
「誰でも気づかないわあんなの」
落とし穴から助け出してそう言いながら、部屋を探索してみる。風霊の試練では最初の部屋に隠し宝箱があるし、ここにもないかなーと思ったのだ。
ただ、どれだけ探しても見つからない。諦めて先に進もうかと悩み始めた時だった。
「ムム!」
壁に耳を当てていたオルトが、突如壁を掘り始める。どうやら隠し部屋を探し当てたらしい。さすがノーム。土のエキスパートなだけある。
「ムッムームッムー!」
破壊不能なはずのダンジョンの壁が、その部分だけバリバリと削れていく。3分後。壁の向こうには4畳ほどの部屋が出現していた。その中には宝箱が置いてある。罠はないようなので開けてみると、中には暗視のネックレスというアクセサリが入っていた。
名称:暗視のネックレス
レア度:3 品質:9 耐久:200
効果:【VIT+4】、
スキル【暗視】
やはり最初の部屋の隠し宝箱は、ダンジョンの攻略にお役立ちのアイテムが入ってるみたいだな。
さっそくネックレスを装備してみると、まるで昼間のように洞窟の中を見通すことができた。ヒカリゴケや光る水晶のおかげで明るいと思っていたが、やはり外に比べたら大分暗いんだな。比べてみると分かる。
「あ、私も取れた。へぇ、これは使えるわね。ランタンなくても活動できるわ」
イズにとっては嬉しい装備品らしい。そうやって部屋を見回していたら、隅に生えていたクルス茸を発見した。暗視が無い状態だと、相当近寄らないとアイテムや採掘ポイントを発見できないらしい。暗闇は思っていた以上に厄介かもな。
土霊の試練に突入した俺たちは、最初の部屋を抜け次の部屋へと向かっていた。道中もかなり暗い。足元に気を付けないと結構危険そうだった。実際、段差に足を取られて1度転びそうになったし。オルトが支えてくれなかったらコケてただろう。
「次の部屋だ。皆気を付けよう」
「ム!」
「ええ」
俺とオルトを先頭に部屋に突入すると、そこには全長4メートルほどの蛇がいた。現在確認されている最も大きな蛇は、全長10メートルほどのフィールドボスらしい。
「ストーン・スネークか」
「シャー!」
「蛇タイプだからな。毒があるかもしれんから俺がやる。【挑発】!」
「任せるわ」
モンスターの意識をこっちに集中させ、戦いを開始した。ま、戦闘は意外と早く決着がついてしまった。非常に素早く、攻撃力も高かそうだったが、HPと防御力が低かったのだ。
「お疲れ様」
「ム!」
「ああ、大したことが無い相手だったよ、さて、この部屋は――おっ、採掘ポイントがあるな」
「ム~!」
「よーし、私の出番ね。掘るわよー」
分かりやすい壁の裂け目があり、そこが採掘ポイントになっていた。三人で一緒に壁を掘る。
「やっぱり鉄鉱石が採れるか。あとは土鉱石」
「これも初めて見る鉱石だわ」
さすがに土属性のダンジョンなだけあって、採掘が優遇されているのかもしれない。
「一応、この部屋も探してみよう。オルト、お前が頼りだ」
「ム!」
皆と一緒に部屋を隈なく探索する。そして、遂に求める物を発見した。オルトが。
「ムッムーッムッムー」
「やっぱり隠し通路か部屋があったか。オルト、頑張れ」
「ムッムムー!」
隠し宝箱を発見した時と同じ様に、オルトが壁を掘り始ている。1分程掘り続けると、穴の先に細い通路が現れていた。隠し部屋ではなく、隠し通路だった様だ。それにしても狭い。そして天井が低い。どれくらいかと言うと、オルトがギリギリ歩けるくらいだ。俺がこの通路を通ろうと思ったら、腰をかなり屈めるか、四つん這いにならなきゃ無理だろうな。
「オルトなら通れるだろうけど・・・・・」
俺がここをずっと進むのはきつい。もし戦闘になったら俺以外何もできずに死に戻るだろうし。
「仕方ない。今日のところは諦めよう」
「そうね。また後でくればいいしね」
俺達は隠し通路を諦めて、次の部屋に向かう事にした。3つ目の部屋は光源の数が少なく、かなり薄暗い。暗視のネックレスが無かったら、全部は見通せなかっただろう。
警戒しながら部屋を見回している。だが、俺は疾呼して二人を止めた。気配探知が反応したからだ。
「待て! 敵がいる!」
部屋の隅に、狂った土霊がいたのだ。しかも、逆側の天井に初見のモンスターがぶら下がっている。どうやら蝙蝠みたいだな。名前はダーク・バットとなっていた。
「キキーッ!」
「【挑発】!【咆哮】!」
蝙蝠はメチャクチャ戦いづらそうだったが。毎度おなじみ挑発してこっちに一点に意識を集中させる。そしてイズ達に耳を塞いでもらい咆哮で動きを封じる。その後は簡単に【エクスプロージョン】で倒した。
敵を倒して余裕ができ、この部屋にも採掘ポイントがあると分かれば採掘する。やはり土鉱石、鉄鉱石が採れるな。しかも俺のスキルレベルでもこの数が採れるんだから、もっとレベルが高い人間だったらさらに大量に、高品質で採掘できるんじゃないか? 主に隣にいる鍛冶師にとっては夢の様なダンジョンかもしれない。
そのまま意気揚々と4つ目の部屋に突入したが――。
「お、色違い・・・ユニークモンスターか」
いやー、危ね。死にかけた。特に二人が。俺はともかく二人は石を飛ばす術で散々削られた。狂った精霊のユニーク個体は全体攻撃を放ってくる。うん、覚えた。
2体目のノーム、居てくれても構わないが、土結晶を手に入れないと駄目だ。それが目的だからしょうがない。
ノームは本当に残念だけど、ユニーク個体は絶対にレアドロップを落とす。ノームなら土結晶だ。これは嬉しかった。
「イズ、時間はあるか?今日一日ここで過ごすつもりだけど」
「付き合うわ。でも、足手纏いになるでしょ?だからお礼と言っちゃあなんだけど。あのショップに売っていたホームオブジェクト、一つだけ買ってあげるわ。土結晶だってまだ誰も手に入れてないから凄く価値があるしね」
「―――やる気が出てきたぁー!」
「ムー!」
おお、オルトもやる気の炎を燃え上がらせた。ならば目標は10個以上!土結晶ゲットツアーを始めますかね!
「因みにこれは予想だけど。火精霊が鍛冶か加工のスキルがあったとしたらイズはテイムしたい?」
「できればしたいわね。テイムのスキルはショップでも買えるから誰でも気軽に取得できるのよ」
それは知らなかった。というかスキルショップ、俺、行ってなくね?
「ところでハーデス。お願いがあるけれど・・・・・」
「他の火精霊と水精霊の街に連れて行って欲しい?そして出来れば風精霊の街にも」
「あはは、わかちゃった?」
「分かり易い。だがいいぞ」
「ありがとうね。ふふ、ハーデスと一緒にいると驚くことばかりが起きて退屈しないわ」
綺麗に微笑む彼女は本当に綺麗と可愛さが混濁していたので一言。
「うん、笑うイズは可愛いな」