音楽系のスキルの熟練度が高まるまで待つ他ない俺は久しぶりに、常闇の町に訪れた。ちらほらとプレイヤーは見掛けるが、最初に解放された時よりおらず閑古鳥が鳴いていた。第二陣のプレイヤーの姿はまだないようだ。
「ヤミー!」
それでも星の煌めく夜空に赤と青の二つの満月の下ではしゃぐベンニーアにとって、妖怪と闇の世界は過ごしやすい環境なのかもしれない。
「久々の探検だ。どこに行こうかベンニーア」
「ヤミ!」
どこにあるのか分からないのに行ってみたい場所へ指差すベンニーア。小さな手を繋いで散策する。動画配信した状態で多くの視聴者に見守られながら。
『ベンニーアちゃんの顔、初めてみた。凄く可愛いんだな』
『俺、闇霊の試練に挑戦したけどマジで怖かった。闇の中をただただ突き進むだけなのに、時間が過ぎていくと不安になるんだよな』
『わかる。好奇心で振り向いたらいきなりドアップでホラーゲームに出て来そうなモンスターに襲われて、凄い勢いで引きずられたあの時の恐怖が・・・・・ウッ!』
『判定機もシビアだよ。心拍音ってどうやって測ってんの思うぐらい増えて失格になっちゃうんだもん』
『単にお前がビビりなだけだろ』
『ア? じゃあテメェはクリアできたのかよ』
『・・・・・仲間が絶叫してくれたから失格扱いされたんだよ。目を瞑ってもらってもそいつの判定機が失格レベルまでメモリが溜まるから諦めた。それ以来、仲間の間で闇霊の試練は禁句状態になった上に気まずくてギスギスしてる』
『・・・・・なんかスマン』
『俺は死神さんみたく一気にハードな方を挑戦したけど、ほんとムッズ! 死神さんみたく乞食じゃなくて別の方法で異形と関わったんだけど、グロテスクな料理の大食い競争をやらされてクソ不味くて食べきれず札を貰えなかった』
『お前はそうだったのか。俺はパチンコで景品にされてる札を狙ったんだけど、全然玉が貯まらずリアルでパチンコしている気分だけで手に入らなかったよw』
『パチンコがあるのかよ! 俺なんて綺麗なおねーちゃんが働いてるキャバ嬢のお店っぽい所に入ったら、金をぼったくられた上に支払いが足りないからと強制労働させられたわ! ―――悔しいぐらい楽しかったけどさ!』
『ありがちな罠に引っ掛かったか。俺は客引きのバイトをして異形達を集めまくったら札を貰えたよ。でも、次のステージで詰んだ。バッティングセンター、ホームランを百回なんて俺には無理!!』
『成功率3%の試練はもしかして楽しい? 俺も次はそっちやってみよ』
賑やかな視聴者の話声を聞きながら手短な所にある店の中に入ると市販の装備を見て回る。
見た目が綺麗な防具や奇抜な形の武器など目を惹かれる物はあったが、俺の装備を上回るような物は当然なかった。
「金に余裕は・・・・・あるし何か買おうかな」
「ヤミー」
結局何かを買おうとすることなく広めの店内をぐるっと回って店員のいるカウンターの前に来た時、店員の後ろの壁に貼り付けられたポスターに装備を五点以上ご購入の方に特典と大きな文字で書かれていることに気づいた。
「なら買ってみようかな」
適当に安い装備品を五点購入すると店員から一つの巻物を受け取った。
「【クイックチェンジ】?」
誰でも使えて、既に情報も広まりつつあるスキルである。
【クイックチェンジ】
セットしておいた装備に装備を変更する。もう一度使うことで元の装備に戻る。
『お、白銀さんも見つけちゃった? それガンマーの間では重宝されてるスキルだぜ』
『別の銃に直ぐ切り替えて射撃する、という事が出来るのは本当に楽しいんだよな。そういうゲームをしてきたゲーマーにとって自分でやれるのがどれだけ待ち望んでいたことやら』
『二丁で撃った後で瞬時に別の二丁の銃で撃つ銃撃戦はたまりませんわー!』
『わかるー! だからガンマーの間でPK行為をしてでも遊んでいるんだよねー!』
「なるほど、なるほど。じゃあ俺も何時かガンマーで遊んでみようかな。聞いてて楽しそうだわ」
『いらっしゃい! 楽しく撃ち合いしようぜ!』
『できれば機械の町で撃ち合いができたらいいのになぁー。雰囲気的にもピッタリだしさ』
『本当にな』
サイナにそんなことできるのか念のために聞いてみるかな。店を出てすぐに訊ねた。
「他に何があるか知ってる視聴者さんはいるか? クエストしてみたいな」
『クエスト的な物は見つかってないよー。骨董品とかアイテムとかそういうのなら売ってるけど』
「骨董品か。日本家屋に置くのにピッタリだな。買いに行こう」
道を教えてもらい、次に向かったのは家具アイテムが並ぶ店だった。
奥に店主のNPCが一人座っている。古めかしい壺や掛け軸などから机などまで幅広く置いてある。ギルドホームの部屋の見た目を変えることが出来るアイテムである。
「おお、まさに和風の家具だ。買おう」
品定めしつつ幾つか購入していく。すると、奥で座っていた老人の店主が俺に声をかけてきた。
「お兄さん・・・・・もう一つ壺を見ていかないかね」
「壺? 見ようかな」
店主からの直々の誘いが気になったので見てみることに決めた。
「こっちに来なさい・・・・・」
店主は扉を開けて商品が展示されていないスペースへと俺を招く。俺がそれについていくとそこで手のひらに乗るほどの大きさの小さな蓋つきの壺を見せられた。
「これ? 何の変哲もない壺だな」
そう言った矢先に俺の前に青いパネルが出現する。
「ん? クエスト?」
『え? マジで? おい誰だ。クエストがないって言った奴。しっかりあるじゃないか』
『新発見じゃん! 試しに受けてみてよ!』
視聴者の要望に応えて【壺中の王】というクエストを受けた。
「それでは・・・・・最後の一匹になってもらおうかね」
店主が壺の蓋を取ると俺の体は壺の中に吸い込まれていった。
「えっ! わっ!? あっ! そういうクエストかぁー!」
一瞬の浮遊感の後・・・俺は足から地面に落ちた。
「っと、ここは?」
辺りを見渡す。そこは真っ平らなフィールドで遠くに高い壁が見えた。歩いて端から端まで歩こうとは思えないような広いフィールドである。ベンニーアがいない。ここはソロ限定か?
「・・・・・ん?何か来てる?」
聞えて来る何かに目を細めて遠くを見ると硬そうな紫色の甲殻を持った蠍や百足、さらには蜘蛛などまで本来持っていない甲殻を持ってして俺の方へと走ってきていた。なかなかの速度で走ってきており見る見る内に姿は大きくなってくる。
『いぎゃあああ! デカすぎるだろぉー!?』
『ゆ、夢に出て来そう・・・・・!』
『言うなよ! 眠れなくなるだろう!?』
阿鼻叫喚の視聴者たち。俺はそうでもないのでのんびりとした口調で【
「飛んで火にいる夏の虫、まさしくこのことだなー」
自らマグマの塊に飛び込んではHPを自分で減らして自滅していく蟲毒の虫達。【金炎の衣】と【大嵐】で火砕旋風を巻き起こして虫達を滅却。火に包まれる虫達はそのまま焼失していく様は何とも言えない。
『・・・・・やっぱ、強過ぎだろ白銀さん』
『ほんと、耐性をつけないと勝てないわ』
『耐性つけても勝てるビジョンが浮かばないんだがな』
『まだ何かスキルを隠し持っていそうだもんなぁ・・・・・』
その予想は正しいと言っておこう。
「最後の一匹!」
溶岩パンチで最後のモンスターを仕留めた所で俺の視界は暗転し、気付けば元いた店の中へと戻っていた。
「店の人・・・・・いない? おっと!」
「ヤミー」
突然消えてしまった俺を心配していたかベンニーアが抱き着いてきた。同時に目の前にクエスト達成のパネルが現れる。
俺が得たものは一つのスキル。
「【蠱毒の呪法】? 何だろう?」
【蠱毒の呪法】
毒系統スキルに20%の即死効果を付与する。
「おー・・・・・おー? なるほど・・・・・一応【毒無効】も乗り越えられるんだ」
『え、今なんて?』
『信じられない言葉を聞いてしまったような』
【毒無効】や【毒耐性】を備えたプレイヤーやモンスターが今後増えて使い辛くなるだろう【毒竜】は、その範囲の広さで多人数の【毒無効】を持つプレイヤーを巻き込みその内何人かを倒し、対俺の情報を歪める力を手に入れた事実にほくそ笑む。
「そのうち試してみようかな・・・・・今はとりあえず・・・・・」
店主がいなくなった店を出ると次の店へ向かう。次は和服が売られてる店だった。その中に入りベンニーアが似合いそうな紫色の和服を購入して着飾らせた。
『おおっ! 可愛いベンニーアちゃん!!』
『こんな可愛い姿を見れるとわかってしまったら、闇の精霊を手に入れたくなるじゃないか!!』
『アップした髪型と髪に挿した簪で印象が変わるなー』
『骸骨の仮面は・・・・・夏祭りので店で売られてた物だと思えば可愛い? と思う』
和服姿のベンニーアのまま町中を歩くことにして、他にクエストがないか探し始める。
「他に何か珍しくもなくてもいいから見つけたものは無いか?」
『あー・・・じゃあ、鬼と戦うイベントならあるぞ』
『鬼・・・・・俺達を何度もコテンパンにして誰一人も倒せない最強のあの鬼のことか?』
『ソロ限定でKTKとペインすら倒せなかったあの白鬼さんを戦わせようって?』
え、ペインでも? KTKって誰のことかわからないが。
「どうして倒せない?」
『職業ごとに戦うスタイルが変わるんだよ白鬼。しかも一対一で戦わないといけないし』
『大体共通しているのは武器が薙刀で炎で攻撃してくることなんだよな』
『貫通攻撃もして来るから大盾使いのプレイヤーは大体それで即死する』
薙刀による貫通攻撃・・・・・短刀じゃリーチが違い過ぎるな。
「遠距離からは?」
『魔法すら弾かれて一刀両断で終わりですが何か』
「あ、そうなんだ」
「ヤミ!」
ベンニーアが何か見つけたようだ。屋台の方へ走って行き、炭火焼で食べ物を売ってるNPCのところへと待った。
「ヤミー」
「食べたいのか?」
「ヤミ!」
「あー・・・いらっしゃい。だけどすんません、売ることが出来ないんでさ」
ん? どういうことだ? 申し訳なさそうにばつの悪い顔をするスキンヘッドのNPC。
「何故だ? 目の前に美味しそうなものがあるのに」
「すんません。これは予約していただいたお客さんの物でして、材料はあるんですが肝心の炭が切らしてしまいましてこれ以上焼けないんでさ。炭を取りに行くにしても店を空けたままにするのもいかんので」
「そういうことか。じゃあ、代わりに炭を貰いに行こうか?」
「そいつは本当ですか? ありがてぇ。じゃあ地図と手紙を渡すんで炭焼き家に訪ねてくだせぇ」
御使いのようなクエストを受けた俺達は、炭焼き家がいる山の方へ向かった。途中漆色の鳥居を潜って、千段以上はある階段を上った先に家屋があった。
「すみませーん!」
大声で訪問者として呼ぶ。しかし、誰もいないのか返事もない。留守なのか扉の前に書置きがあった。
『今宵は火の神を祭るための神楽の舞いを行う故、用がある者はここから更に東に来たれし』
神楽の舞い・・・・・夜って今だよな?
「ベンニーア、掴まれ」
「ヤミ!」
舞の邪魔するわけじゃないが終わってから声を掛ければ大丈夫だろう。【飛翔】で夜の森の上を飛ぶと火による灯りを見つけたのでそこへ直行する。少し手前に降り立って近づいてみると和服の羽織を着て祭具を持ち、燃える火の中で舞い続けるやせ細った中年男性がいた。洗礼された舞い、無駄な動きが一切なく神に感謝を込めて捧げる舞いとして見る人を惹かせる何かを感じさせる。終わるまで待っているつもりだったが、男性が体勢を崩して倒れ込んだので、木の陰から出てきて介護した。
「大丈夫か」
「き、きみは・・・・・」
「屋台のおやっさんから炭焼き家から炭を貰って欲しいと頼まれた者だ」
「そうか、しかし・・・今は舞わねばならない大切な日だ。日が昇るまで舞わねば・・・・・」
青いパネルが浮かび上がった。EXクエスト『火之神楽』というクエストだ。受けると男性が懐から巻物と耳から外した飾り、手に持っていた祭具を渡してきた。
「これに、舞の全てが記されてる。朝日まで舞えるこの耳飾りで・・・・・」
そう言った男性はこと切れたように全身から力が抜けて・・・・・。
「死んだ?」
『殺しちゃダメでしょっ!』
『縁起でもないことを・・・・・』
『でも、忘れてないか? 白銀さんの名前は死神ハーデスであることを』
『あっ』
『ひ、人殺しぃ! 人殺しよぉっ!!』
『よくも殺したな!』
『瀕死のNPCの魂を奪おうとするな!』
お前らが縁起でもないことを言うんじゃないよ! あっ、時間が表示された。急いで耳飾りを装備して・・・・・嘘。
「満腹度が100%減少しないって」
『地味』
『いや、満腹度を管理しないとステータスが半減するんだぞ? 地味なのは否定しないが』
『お前も思ってるじゃないかよ。俺も思ったけど』
全員が思ってることだろそれ。とにかく舞を習得・・・・・。
祭具(七支刀に近い形状)を両手で握り、円を描くように振るう舞い。
祭具を円舞に高速の突進から斬撃の如く繰り出す。
祭具を両腕で握り、腰を回す要領で空に円を描く舞い。
祭具を両腕で握り振り下ろした後、素早く振り上げる舞い。
祭具を両腕で握り、肩の左右で素早く振るう舞い。
祭具を両手で握り、跳び上がって身体ごと垂直方向に回転して捧げる舞い。
高速の捻り祭具と回転による舞い。
祭具を両腕で握り、太陽を描くようにぐるりと祭具と振るう舞い。
祭具を右手で握り、その柄尻を左の掌(たなごころ)で押し上げるようにして、天に捧げる舞い。
暈(かさ、薄雲に映る光輪)の名の通り幾つもの円を繋いで、龍を象るように舞台を駆け巡りながら祭具を振るう舞い。
祭具を両腕で振りかぶり、揺らぎを加えた独特な振り方で降ろす舞い。
我が身を天に捧げるかの如く跳び、宙で身体の天地を入れ替えながら祭具を振るう舞い。
這う低さから伸びあがりながら、祭具で宙に螺旋を描く舞い。
「あー・・・・・これ、人間離れした動きをしなくちゃならない神楽舞いだわ」
『無理ゲーでは?』
『運営の悪意がここにもあったとは』
『白銀さんはできる?』
「取り敢えずやってみる」
でも、職業的には何がいいんだ? 神主とか巫女とかの職業は未発見なんだが・・・・・。重戦士のままでいいのか? この神楽・・・・・双剣か刀、格闘士と身軽な職業でやらないといけなそうな気がする。・・・・・ええい、ままよっ! メイン職業を刀使いに変更した状態で祭具を持ってるから神楽舞いを始める。13もある舞のパターンはスキルとして使えて、頭で覚えずに済むが同じ繰り返しを延々と繰り返さなければならない。その苦労は舞っている本人にしかわからない。
『頑張れー! あとどれぐらい踊るのか解らないけど!』
『応援しに行くぜ!』
『ベンニーアちゃんのことは俺に任せろ!』
『何を言う、俺に任せろ!』
『常闇の町に到着した! あれ、この辺りにあるはずだよな漆色の鳥居。見つからないぞ』
野次馬が来られない設定をしてるんだろうな。ありがたいことだよ。来られたら集中力が途切れそうだ。今は・・・舞い続けることに集中する!
・・・・・。・・・・・。・・・・・。
・・・・・。・・・・・。
・・・・・。
永遠に終わらないと思わせる神楽舞いをしてから・・・・・表示されている時間は残り1分を切り、常闇の町に朝陽が昇ってきた。長々と待たせてしまったベンニーアはずっと見守ってくれて・・・・・。
『10!』
『9!』
『8!』
『7!』
そして一緒に見守ってくれていた視聴者達がカウントを始める。一緒に神楽舞いの終わりを向かえようとしてくれて・・・・・。
『4!』
『3!』
『2!』
『1!』
―――0ォッ!
カウント0と同時に、最後に舞った円舞で身体の動きを時が止まったかのように停止させた。全身で息をしながら次の状況を待つ。お、踊りきったぞ・・・・・っ?
「・・・・・見事だ」
死んでたかに思えた男性が、ゆっくりと起き上がって。黒い目の眼差しを向けてくる。それは敬意が籠っているように思えた。
「火神の祝福を受けし者ならば、きっと私の継承者になってくれると信じていた」
「っ・・・どうして、そのことを」
「判るとも。私も火神の祝福の恩恵を与えられた者だ。これは偶然ではない。必然の出会いだ」
スキル【日刀】を取得しました。
「そして、最期にキミのような若者に出会えてよかった」
男性の身体が陽炎のようになって消えようとして行くので、耳飾りを返そうとしたが突きだされた手で制された。
「それは、火之神の神楽舞いを継承した者に受け継がれる証。キミが次の後継者を見つけるまで身に付けなさい」
「・・・・・名前は」
「―――」
最期に己の名を静かに言い遺し、俺の目の前から消え去ったNPC。炭を貰いに来ただけなのに大変なクエストをする羽目になったな全く・・・・・。
「ヤミー!」
「おー待たせて悪かったな。炭、どうしようか」
『お疲れ様ー!』
『数時間も踊り続けるなんてサスシロ!』
『何が得たのか教えて貰ってもいいですかー?』
「秘密で。精神的に疲れたからこのあと休むわ。配信もこれでおしまいってことで」
『ちょっ! 鬼退治の配信はお願いします!』
「えー・・・・・いいよ」
『断るかと思いきや、了承したし! ありがとうございます!』
『楽しみにしてまーす!』
『次回、白い死神VS白い鬼の激闘! 応援するぜ!』
勝手にネーミングを決められたし。もうどうでもいいや・・・・・。炭を探してクエストを終わらせないとな・・・・・そしたら寝よ。