シャニマス幼馴染概念   作:おこめ大統領

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今回から樋口円香編開始です。
浅倉編とは違った世界で、幼馴染も別人です。


樋口円香
「ねぇ、ゴミ」 「え……?」 幼馴染視点


「ねぇ、ゴミ」

「え……?」

 

 樋口が唐突に罵倒してきたんだけど!

 

「ついにそんな直接的な暴言を吐くなんて! 今の僕は珍しくほんとに何もしてないよ!」

 

 そう言いながら僕はさながら走馬灯のように、ここ数分の出来事を振り返る。

 

 授業が終わって校舎を出たらたまたま樋口がいたので『一緒に帰ろう!』と大声で誘ったのが悪かったのかな。確かに『なんで? 一人で帰れば?』と言われたけど当たり前のように一緒に帰ってくれてるし問題ないと思ってたな。

 

 じゃあ、車道側を歩いてることかな。そういえば前に一緒に帰ったときも『そんなことで優しくしたつもり?』と言われた気がする。もしかしたら樋口は車がすごい好きだから車道側を歩きたいのかもしれない。

 

 う~ん、思い当たることはあるけど、やっぱりゴミと言われるようなことは特にしてない気がするな~。けど何もしてない人にそういうことを言う人じゃないし、きっと何か理由があるんだろう。

 

 僕が一人で納得して樋口のほうに顔を向けると、珍しいことにほんの少し素っ頓狂な表情を浮かべていた。

 

「え?」

 

 え?

 

 なんで樋口が驚いてるの? もしや無意識レベルで暴言を吐いた?

 

 いやいや、さすがにそんなことはないでしょ。樋口は根が優しいことは知ってるし、口が悪いのも愛情の裏返しみたいなものだしね。ん? つまりこれは無意識で僕に愛情を向けてると言い換えることもできなくはない! ……できないか、さすがに。

 

「違くて。ゴミ、ついてる」

 

 樋口の反応を勝手に好意的に解釈してみたものの、結果は違ったみたいだ。

 

「あ、ゴミって本当のゴミのことね。なんだ、びっくりさせないでよー」

 

 よかった。樋口に嫌われたらどうしようかと思ったよ。

 家が隣同士なこともあり、物心ついたころには既に付き合いがあった樋口とは、もはや家族のようなものだ。なので、出来ることならこのまま仲良く老後を迎えたい。

 

 あ、いいな、そのライフプラン。樋口も、もう一人の幼馴染である透も縁側とか似合いそうだし、3人でまったりお茶でも飲みながらしりとりでもしたい。おや、今と変わらないぞ

 

「……ていうか、私がそんなこと言うように思う?」

 

 何気なく樋口が聞いてくる。少し不安気にも見えるが、樋口は自身の情動を限りなく隠そうとするので確信はない。

 

 樋口は自分が何を考え、どう思っているかを悟られるのが嫌いなんだと思う。そのためナチュラルに考えが読めない透よりも、何を考えているかが分からない。

 

 まぁだからこそ、本心を素直にぶつけるに限る!

 

「本気では言わないと思うなー。樋口、意外と優しいし」

「ふっ、何それ」

 

 あ、笑った。

 笑った顔、ほんとにかわいいなー。

 

 樋口の笑顔を何回も見たことあるというのは、僕の小さな自慢の一つだ。樋口に憧れているクラスメイトは男女問わず何人もいるが、彼らではこうもいかないだろう。

 

 あれ、何の話をしてたんだっけ? 樋口がとってもかわいい話?

 

 違うか、いや、違わないけど。あ、ゴミがついてるとかなんとか、そんな話だったな。

 

「どのへん?」

「何が?」

「だから、ゴミ。どの辺についてる?」

 

 今日はやたらと横顔を見られていた気もするので、髪の毛についてるのかなーと何となく当たりはつけていた。肩とか腕には見当たらないしね。

 

「耳の上の……、一帯」

 

 適当過ぎない⁈

 

「いや、絶対伝えるの諦めたでしょ! 耳の上全域についてたらさすがにほかの人も教えてくれるって!」

 

 樋口の気だるげな指摘を受け、髪を数回乱暴にかき上げてみる。やってから気が付いたけど、この方法だと取れたかどうかがわかりにくいね。

 

「違う。もっと後ろのほう」

「この辺?」

 

 僕は髪の毛を摘まんでは確認し摘まんでは確認しを繰り返す。

 しかし、成果はなし。

 

「行き過ぎ。あともう少し上」

「えー、難しい。どうせなら卵くらいのデカいゴミなら取りやすかったのに」

「つくわけないでしょ、そんな大きなの」

 

 せっかくゴミがついてることを教えてもらったのでこの場で取りたかったが、鏡なしなのは正直かなり難しい。家に帰って洗面所で確認しようかな。

 

 僕が半ば諦めモードに入ったところで樋口がため息を吐いた。

 

「貸して」

 

 そう言って彼女は僕の頭の横で彷徨っていた左手を優しく包むように掴んだ。

 

「え、ちょ」

 

 樋口の急な行動に僕は慌てた声を出すも樋口には届いてないようだ。

 

 そのまま僕の手を操作し、僕の人差し指と親指に樋口の優しくて細い指が覆いかぶさり、そのまま摘まむようにほこりを取ってくれた。ほこりを取ったのは正確には僕の指なので、ほこりを取らせてくれたという表現が正しいのかな。いや、そんなことはどうでもよくて!

 

 そういえば昔は手を繋いで走り回ったりしてたなぁなんて、懐かしいことを思い出してしまった。

 

 その頃に比べたら樋口の手も大きくなっていて、でも僕の手より小さくて柔らかくて、そして、変わらず温かかった。

 

 樋口が僕の手を取ってくれてから、僕の中の時計が急速に回転しているのが分かる。でないと、この数瞬でこんなに物事を考えられない。柄にもなく動揺しているのかもしれない。

 

 いけないいけない、樋口は家族みたいなものなのに。

 

「はい。これで終わり」

 

 樋口のその言葉で、僕はハッと正気を取り戻す。いつもより早い鼓動から意識を背けるように樋口のほうに目を向ける。

 

 彼女はいつもと同じく若干不機嫌そうな表情をしている。そう、いつも通り。僕だけが意識してるみたいで少し恥ずかしかった。

 

 ……それにしてもいつまで手を握っているんだろう。

 

「感謝の一つくらい言ったら?」

「え、あ、そうだね。ありがとう!」

 

 いつもの調子すぎる樋口の声を聴いて僕もようやく落ち着くことが出来た。僕のへんてこな返事に疑問を抱いたのか、樋口が少し怪訝な顔をしている。無論、僕の手は握ったままだ。

 

 もしかして、握ってることを忘れてる? いや、まさかね。

 

「いや、樋口の手、温かいなと思ってさ」

 

 僕はそう言いながら樋口に一方的に握られている手を開閉してみる。握るというより包んでいるくらいの力加減なので、それくらいは問題なくできた。

 

 僕の言葉を聞いて、樋口はフリーズした。

 

「あぎゃっ‼」

 

 しかし次の瞬間、自分の顔に何かが飛来してきた。自分の手だ。いや、千切られたとかではなく、握られていた手を投げつけられたのだ。さすがにそんなリアクションを取るとは思っていなかったので、腕にはそこまで力が入っていなかった。なので、回避も静止もできずに顔に直撃してしまったのだ。

 

 いきなりの暴挙にさすがに今度こそ抗議をしようと樋口のほうを見ると、件の樋口は顔を背け、手の仕舞われた袖を口に当てていた。耳も真っ赤だし、ちょっと寒いのかもしれない。

 

 何事もなかったかのようにふるまいすぎじゃない? 結構な物理的ダメージを与えられたんだけど?!

 

 いや、もしかしたら樋口も恥ずかしかったのかもしれない。こういうときは下手に刺激しないように、手を握ってたことには触れないようにしたほうがいいかな。

 

「樋口はぶーぶー言いながら結局助けてくれるよね」

 

 うん。さりげなく違う話題に切り替えられた。

 

「別に助けてない」

 

 樋口は不機嫌そうにそう呟く。心なしか、言葉に覇気がない。

 

 助けてない、か。

 

 そんなことは無いよ。

 

 僕はいつも樋口に助けられている。

 

 僕は昔から人に頼るのが苦手だった。迷惑になるんじゃないかとか、断られたらどうしようとか考えてしまうのだ。

 

 でも、樋口はそんな僕を無理やり助けてくれる。やれやれとため息を吐きながら、僕のことを気にかけてくれる。そのことが、僕にとっては何よりありがたかった。

 

「樋口のそういうとこ、ほんと好きだな」

 

 だからこそ、僕も樋口に困ったことがあれば力になりたい。友人として、家族のような存在として。

 

 

 

 ……あれ、もしかして今会話の流れで恥ずかしいことを言っちゃった? もとから思っていたことではあるけど、口に出すとこうも恥ずかしいんだね。

 

 というよりは、なんか、こう「好き」って言葉にむずがゆさを覚えてしまう。好きって言葉はとても広義だからその違和感のせいかもしれない。

 

 そのむずがゆさ故か、樋口を直視することが出来なかった。

 

「なんというか、お母さんみたいでさ」

 

 自分の中の違和感を解消するために、自分でそう付け加えた。

 

 付け加えたものの、どこかしこりは残る。以前までしっくりきていた樋口に対するそのイメージが、今はどこか噛み合わないと感じてしまった。

 

 胸につっかえる何か、もやもやしているようで、でも不快じゃない何か、それを探ろうとするとどうも息苦しくて、居心地が悪くなる。

 

 上気しているような感覚に陥ったので顔を触ってみると、かなり火照っていた。樋口はあんなに寒がっていたのに、なんでだろう。

 

 まだ寒がっているようなら自販機でも寄ろうかな、とか呑気に考えていると、隣から異様なプレッシャーを感じた。そのプレッシャーに一瞬空腹の獅子が見えるほどだった。

 

「え、どうした樋口。ついに目力で人を殺す術を習得したの?」

 

 プレッシャーの正体はもちろん樋口だ。先ほどまでの紅潮は嘘のように引いており、代わりに怒りの炎が引き攣ったその目に宿っていた。

 

「……ゴミ」

「えぇ⁈ 本気のトーンじゃん⁈ 待って、殺さないで!」

 

 あまりの怒気に思わず後退りをすると同時に、数m先に見知った顔の女子生徒が現れた。対樋口決戦兵器こと小糸ちゃんだ。小糸ちゃんの可愛さを前にしたら、樋口は怒ることができないはず。

 

「あ、小糸ちゃん! 助けて、樋口に殺される!」

「ぴぇ⁉」

 

 僕は小糸ちゃんに助けを求めるため、なぜか怒ってる樋口から逃げるため、一目散に駆け出した。

 

 いや、怒ってる樋口から逃げたかったんじゃない。

 

 僕は、自分から逃げただけだ。自分の発言に自分で居心地が悪くなって、でもその理由が分からない自分から、逃げた。

 

「……期待した私、ほんとゴミ」

 

 後ろから聞こえた樋口の弱弱しい言葉、先ほどまでの力強い瞳からは想像できないくらいか細い声を無視した僕を、どうか許してほしい。

 

 ただの空耳だったかもしれない。風が切る音を聞き間違えただけかもしれない。むしろ一瞬、そう願ってしまった。そして、願ってすぐに後悔した。

 

 そんな弱い僕を、どうか許してほしい。

 

 今日がこんなに風の強い日だとは、()()といるときは気が付かなかっただけなんだ。

 

 

 

 




次回は今話の樋口円香視点です。樋口の心情等を見たくない方は飛ばしていただければと思います。


樋口円香さん、お誕生日おめでとうございます。
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