『ええ、こなたの可愛らしい声、ちゃんと聞こえるわよ』
そのメッセージを見た瞬間、私はあわててヘッドセットをつけた。
「そんな、ホントに……あははっ、ホントに聞こえるんだっ!」
『まさか、こなたの声を聴くことができるなんて……夢みたい』
画面の中のお母さんも、嬉しそうに笑ってくれている。
だけど……それは声じゃなくて、文字だけのメッセージ。
「ねえ、お母さん」
『なあに?』
もしかしたら困らせちゃうことかもしれないけど、
「一緒に、おしゃべりしてみようよ」
そう言わずにはいられなかった私だけど、お母さんは苦笑いを返す。
『私は、喋るっていうことを忘れてしまったから……多分、無理ね』
そう言って、悲しそうに目を伏せた。
「むー、そんなこと無いと思うんだけどなー」
『最後にちゃんと喋ったのは、もう十八年前だもの』
うーん、唄を忘れたカナリアみたいな感じかー……確かにブランクはあるかもしれないけど、せっかくお母さんと話せたんだから、お母さんの声を聴いて、ちゃんとお母さんとおしゃべりしたい。
「こうなったら、予告ナシでお父さんを呼んでびっくりさせてみるとか――」
「そっ、それだけはダメーっ!」
……ん?
「あ」
「……あの、おかーさん?」
「あ、あはははははは。なんか、喋れちゃったみたい……ね」
私がジト目で見つめると、お母さんは頬に手を当てながらそっぽを向いて笑っていた。
そして、ヘッドホンからは鈴が鳴るような心地いい声。
「もー、ちゃんと喋れるんじゃん。ホント、お父さんの名は偉大やね」
「その事はなかったことにして……というか、そう君にはヒミツにしてね、絶対に」
「ふっふっふっ、どうしよっかなー」
「はぅ……」
おろおろして、懇願するように見上げるお母さん。ううっ、そのちんまりとした姿で見られてると罪悪感が……
「わ、わかったってば。お母さんにもちゃんと考えがあるんだろうし、呼ばないよ」
「本当、約束ですよ?」
お父さんの名前を出すことを、どうしてここまで拒否するのかはよくわからない。
「でも、さ、私にだけ会って、お父さんにだけ会わないっていうのは……あんま、嬉しくないよ?」
「わかってるから……今は、まだそっとしておいて」
儚げに笑って、小さく鈴が鳴るような声でお母さんがつぶやく。
「うん」
私は苦笑いしながら頷いたけど、ココロの中はまだモヤモヤしたまま。
まだとは言うけれど、お母さんが来てからもう一週間以上経っているから、そんなに、時間は無いはず。タイムリミットまでには、お父さんにちゃんと会わせてあげたいんだけど……
「よーしっ! それじゃーそのかわり、今夜はとことんおしゃべりするからね!」
「えっ? お、おしゃべり?」
「お父さんのこととか、いっぱい聞かせてもらうんだもん」
その前に、今できるだけのことはしておこう。
「もうっ、こなたったら……わかったわ、初めてのおしゃべりだものね」
しょうがないわねとばかりに、笑いながら言うお母さん。
――絶対、この声と笑顔をお父さんにも届けてあげるんだから。覚悟してよねっ、お母さん。