てけてけかなたさん   作:南澤まひろ

11 / 21
その14「こえをきかせて」

『ええ、こなたの可愛らしい声、ちゃんと聞こえるわよ』

 そのメッセージを見た瞬間、私はあわててヘッドセットをつけた。

「そんな、ホントに……あははっ、ホントに聞こえるんだっ!」

『まさか、こなたの声を聴くことができるなんて……夢みたい』

 画面の中のお母さんも、嬉しそうに笑ってくれている。

 だけど……それは声じゃなくて、文字だけのメッセージ。

「ねえ、お母さん」

『なあに?』

 もしかしたら困らせちゃうことかもしれないけど、

「一緒に、おしゃべりしてみようよ」

 そう言わずにはいられなかった私だけど、お母さんは苦笑いを返す。

『私は、喋るっていうことを忘れてしまったから……多分、無理ね』

 そう言って、悲しそうに目を伏せた。

「むー、そんなこと無いと思うんだけどなー」

『最後にちゃんと喋ったのは、もう十八年前だもの』

 うーん、唄を忘れたカナリアみたいな感じかー……確かにブランクはあるかもしれないけど、せっかくお母さんと話せたんだから、お母さんの声を聴いて、ちゃんとお母さんとおしゃべりしたい。

「こうなったら、予告ナシでお父さんを呼んでびっくりさせてみるとか――」

「そっ、それだけはダメーっ!」

 ……ん?

「あ」

「……あの、おかーさん?」

「あ、あはははははは。なんか、喋れちゃったみたい……ね」

 私がジト目で見つめると、お母さんは頬に手を当てながらそっぽを向いて笑っていた。

 そして、ヘッドホンからは鈴が鳴るような心地いい声。

「もー、ちゃんと喋れるんじゃん。ホント、お父さんの名は偉大やね」

「その事はなかったことにして……というか、そう君にはヒミツにしてね、絶対に」

「ふっふっふっ、どうしよっかなー」

「はぅ……」

 おろおろして、懇願するように見上げるお母さん。ううっ、そのちんまりとした姿で見られてると罪悪感が……

「わ、わかったってば。お母さんにもちゃんと考えがあるんだろうし、呼ばないよ」

「本当、約束ですよ?」

 お父さんの名前を出すことを、どうしてここまで拒否するのかはよくわからない。

「でも、さ、私にだけ会って、お父さんにだけ会わないっていうのは……あんま、嬉しくないよ?」

「わかってるから……今は、まだそっとしておいて」

 儚げに笑って、小さく鈴が鳴るような声でお母さんがつぶやく。

「うん」

 私は苦笑いしながら頷いたけど、ココロの中はまだモヤモヤしたまま。

 まだとは言うけれど、お母さんが来てからもう一週間以上経っているから、そんなに、時間は無いはず。タイムリミットまでには、お父さんにちゃんと会わせてあげたいんだけど……

「よーしっ! それじゃーそのかわり、今夜はとことんおしゃべりするからね!」

「えっ? お、おしゃべり?」

「お父さんのこととか、いっぱい聞かせてもらうんだもん」

 その前に、今できるだけのことはしておこう。

「もうっ、こなたったら……わかったわ、初めてのおしゃべりだものね」

 しょうがないわねとばかりに、笑いながら言うお母さん。

 ――絶対、この声と笑顔をお父さんにも届けてあげるんだから。覚悟してよねっ、お母さん。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。