てけてけかなたさん   作:南澤まひろ

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その3「ぴこぴこ」&その4「おはなしと、そのりゆう」

 結局、パソコンの中のエロゲは全部処分されちゃったよ……うう、全年齢版のゲームもどさくさ紛れにアンインストールされちゃってるし。

まあ、それはそれとして……

『じーっ……』

 どうやって、お母さんとコミュニケーションすればいいんだろう。

 

 お母さんはゲームを捨て終わると、タスクバーの上にちょこんと座って私のことをじーっと見ていた。

「うーん」

 なんとか会話したいと思ってメッセージが出てくるメモ帳をいじってみたけど、私が何か打ち込んでも、すぐにお母さんの言葉に上書きされて消えていく。

 言葉っていうのは確かにそういうものだけど、こうやってパソコンの中にいるんだし……お母さんと会話してることを、ちゃんと残しておきたいのにな。

『ちょっと待ってね。会話できそうなソフトを探すから』

『ごめんなさい、こんな形でおじゃましちゃったから……』

『いいのいいの、気にしない気にしない』

 こうやって会話できるだけでも貴重なんだもん。とにかく、いろんなアプリを立ち上げてみよう。

 私は、パソコンにインストールしてあるチャットソフトを片っ端から起動してみた。

「ICQ」はずっと立ち上げてなかったせいかアカウントが消されてて「MSN」「ヤフメ」はチャットできるのが登録したメンバーだけ。「AirCraft」はもうニフティーサーブが終了しちゃったから使いモノにならないし……うーん、HDDにあるのは全部ダメか。

 何かないかと思いながら、ブラウザを起動して「お気に入り」をクリックする。確か、このあたりにチャット用ソフトのまとめを入れてたよーな気がするんだけどな。

「あれっ?」

おっと、間違えて一つ下のを……って、このフォルダはエロゲ関係の!

『《H○○k》《b○nbee》《Circ○s》《きみ○る》《ぶ○ばん》……このあたりにあるのね?』

 あ、おかーさん! ダメ! それダメ! 読み進めちゃだめ! ……あ、開けちゃった。

『はうっ?!』

 エロゲで使われてるそーゆーシーンのサンプルCGが目の前でデカデカと映っちゃったら、そりゃ倒れそうにもなるよね……

「あ、あのっ、え、えーっと……」

『こ、これは……おしおきしないといけないわねー』

「お、おかーさん?」

 お母さんはにっこり笑うと、ポンッという効果音と一緒に自分の背よりも高いピコピコハンマーを出して、両手でそれを握りしめた。

 すっごいヤな予感がしてきたなーと思っていたら、お母さんはひょこひょこと開いたままのお気に入りを昇っていって……って、ナニ振りかぶってるんですか、その巨大ピコハン。つーか一体どこから出したの!

『せーのっ』

「ちょ、ちょっと待って! それはっ! 新作のチェックがー!!」

私の言葉も虚しく『お気に入り』のリストにあるメーカーアイコンがピコハンで引っぱたかれると『ぴこんっ』っていう音と一緒に、その部分がダルマ落としみたいにすっ飛んでいった。

「あーーーーーーーーーっ!!」

 しかも、ごみ箱にホールインワンって……うぉっ、ご丁寧に完全削除までしちゃうの?!

『こうなったら、徹底的にお掃除するからね』

「私の自業自得だってわかってるけど、それだけは、それだけはご勘弁をー!」

 そう叫んで画面をぱしぱし叩いても無駄みたいで、まるで拷問みたいなダルマ落としは、そのフォルダの中が全部綺麗さっぱり消えるまで続けられた。

 うー、そこまで徹底しなくたっていーじゃんかー!!

 

――――――――――――――――――――――――――

 

17:36 *** Konata has joined channel #izumi-ke

17:36 *** #izumi-ke = @Konata

 

 ふう、これで大丈夫かな。

 色々なホームページを回って探した末に、ようやくいいチャットツールが見つかった。「CHOCOA」っていう文字だけに特化したソフトで、HDDを換える前は使ってたんだけど……うーん、盲点。

 あとは、これでお母さんが接続できれば……

 お母さんは首をかしげると、しばらくウインドウを見上げたあと、ひらめいたようにぽんと手を打った。

 そして、ウインドウの中に新しい行が加わる。

 

17:36 *** Kanata has joined channel #izumi-ke

 

 よし、来れた。

 まず最初に……一番、言いたかったことを打ち込んでみる。

『おかえり、お母さん』

 私のその書き込みを見ると、、ウインドウの中のお母さんは嬉しそうに笑って、

『ただいま、こなた』

 聞きたかった言葉で、返事してくれた。

『赤ちゃんだったこなたが、私そっくりになっちゃって』

『お母さんゆずりの体つきだよー』

 その言葉に、お母さんは苦笑いする。

『お母さんは、もっとちっちゃくなっちゃって』

『うう、ちっちゃいっていうのは禁句ですよー……』

『大丈夫、私もちっちゃいんだから』

 どうしよう……

『追い打ちはやめてー』

 このやりとりだけでも、楽しくてたまらないや。

『お母さんってば、かわいい』

 文字だけなのに、ちっちゃいお母さんの姿があって、

『よく、そう君にもそう言って抱きしめられたわね』

『……犯罪者と被害者に間違われなかった?』

『ひ、否定できないのよね……』

 知らないはずのお母さんの声が、聞こえてくる気がする。

 今ここにいるのは、プログラムじゃない。正真正銘、私のお母さんなんだ。

『《神様からのごほうび》って言ったら……信じる?』

 ちょっと照れたようなの、お母さんの言葉。

 普通に言ったら、誰も信じないはず。だけど、

『だって、お母さんがここにいるんだもん。絶対信じるよ』

 お母さんが目の前にいる今なら、何を言われても信じられる。

『ずっとそう君とかなたを見守ってきて……そのごほうびにってね』

 そう言うと、画面の中のお母さんの背中にぽんっと小さな翼が現れた。ごていねいに、頭には輪っかまである。

『本当ならただそばにいるだけでもよかったんだけど、それだとすぐに力が無くなってしまうの。それで、他の人から『無機物に依れば、力の消費が抑えられるから』って聞いて』

『それで、私のパソコンに?』

『ええ。ケーブルで繋ってるから、そうくんのPCにも』

 ああ、だからさっきお父さんも叫んでたんだ。

『それは嬉しいけど……エロゲを捨てたりしなくても』

『親としての監督責任です』

 うわ、一秒で返事が来たよ!

『まったく、こなたったらネットゲーム以外はほとんど美少女ゲームなんか入れて。そう君もそう君です。私みたいな体つきの女の子キャラだけじゃなくて、胸の大きいキャラの美少女ゲームも大好きだなんて……ぶつぶつ』

 あ、あの、おかあさーん。翼でウインドウをぺちぺちしながらいじけないでー。

『というわけで、連帯責任で二人の美少女ゲームは全部捨てさせてもらいました』

『うー、まだクリアしてないゲームもあるのにー……』

『プレイしたいなら、十八歳になってからです』

『あの、ついこないだ十八歳になったんだけど?』

『えっ……』

 ……お、お母さん?

『……ま、まあ、それはそれとして』

 ちょ、おまっ! えっ、勘違いっ?!

 そうツッコミを入れようとしたけど、次の言葉でキーを打つ手が止まった。

『そういうわけで、しばらくこなたのパソコンのお世話になりたいんだけど……いい?』

 ……まったく、ダメなんて言うわけないじゃん。

 私の、たった一人のお母さんなんだから。

『エロゲーをインストールしてもいいなら』

『ハードディスクをフォーマットしてもいいなら』

『うー、厳しいんだからー』

 そう打ち込んで、私と画面の中のお母さんは思わず笑い合っていた。

 

 ――よろしくね、お母さん。




【ひとこと解説】
ICQ…今で言うチャットアプリの走り。「アッオー♪」のアラート音が特徴。
MSN…今で言うチャットアプリの走り。Skypeに後を託した。
ヤフメ…Yahoo!メッセンジャー。今で言うチャットアプリの走り。
Aircraft…昔あったテキストベースのパソコン通信「Nifty-Serve」の内容を保存出来たアプリ。

CHOCOA…テキストメッセージツール「IRC」を使うためのアプリのひとつ。
    「チャンネル」を建てることで特有の話題専門のメンバーが集うことができた。
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