「そう君、起きて」
PCに突っ伏しているそう君に、少し大きい声で呼びかけてみる。
「んー……」
「そのままじゃ、首をおかしくしちゃうわよ?」
顔だけ真横に向けたままじゃ、寝違えて大変なことになる。
本当なら揺り起こしてあげたいところだけど、それが出来ないことが今はもどかしい。
「そう君、そう君ってば」
「んあ……? ふぁ~……」
ぱちくりと目をしばたたかせて、顔を真横に向けたままあくびするそう君。
「くすっ……もう、そう君ったら」
その姿がちょっとおかしくて、私は思わず笑ってしまいました。
「んー……っ?! い、今何時だ?!」
「まだ三時半。ごめんね、寝違えるといけないと思ったから」
「ああ、そういうことか……うおっ、確かにきっつい」
左右に首をひねりながら、そう君が顔をゆがめる。た、確かにごきゅ、ごきゅってとんでもない音が……
「ふう……危ない危ない。かなた、ありがとう」
「ううん、寝ているところに起こしちゃ悪いかなって思ったんだけど」
「いやいや、別にかまわないって」
そう言うと、そう君は人差し指を画面にこつんと当てて、私の頭あたりをこすってくれました。まるで撫でてくれているような、そんな感触が伝わってくるような気がします。
「しかし、眠気もすっかり吹っ飛んじゃったな」
「え、えっと、本当に大丈夫?」
「ああ、そういうのじゃないんだ。かなたが名前を呼んでくれたら、なんかぱっと目が覚めたんだよ」
私が心配そうに言うと、逆にそう君からは嬉しそうな言葉が返ってきました。
「やっぱり、呼ばれ慣れてた名前ってのはいいもんだ」
「名前が?」
「ああ。『そう君』なんて呼んでくれるの、かなたしかいないだろ」
確かに……言われてみれば、そうかもしれません。小さい頃に出会ってからずっと
『そう君』って呼んでいたのは、私ぐらいしかいませんでした。
「そう君は、そう呼ばれるのって大好き?」
「大好きだとも。かなたは、俺をそう呼ぶのは好きか?」
「うんっ」
自信満々にうなずくそう君に、私も満面の笑顔で応えます。だって、大好きな人の名前ですし……
「私も、そう君が『かなた』って呼んでくれるのが大好き」
「そっか。俺も『かなた』って呼ぶのが大好きだぞ」
こうやって、いつも私たちは呼び合っていましたから。
「呼んでもらえるのは十八年ぶりだけど、体はちゃんとかなたの声を覚えてるんだな」
「昔は、よく居眠りしてたそう君を起こしていたものね」
二人で暮らし始めてすぐの頃、原稿用紙に突っ伏していたのを今でもよく覚えています。そっか……あれから、もう十八年も経つんですね。
「こうやってまた呼べるなんて、夢みたいだな」
「私も、夢みたい」
ほんの少しだけ、神様が私にくれた時間。それは、もしかしたら現実になった夢なのかもしれません。
「よしっ! こうなったら、かなたの名前を心に刻むぐらい呼んでやらんとな」
「私も、いっぱいそう君って呼んじゃいますからね」
そう呼び合うだけで、心の中がぽっかぽかになっていきます。
こうやって昔のように呼び合えるなんて……本当、こなたとゆーちゃんのおかげですね。
「でも、小説のヒロインの名前を私の名前とよく間違えて書くのはやめたほうがいいわよ?」
私がそう言った瞬間、そう君の顔がピキッと固まりました。
「……か、かなた、なんで知ってるんだ?」
「だって、エディターの隙間からこっそり見てたから」
「ちょっ、たっ、タンマ! あれは勢いってヤツでな?! その、えっと……ううっ、まさか書いているのを見られたなんて、ハズいっ! 恥ずかしいっ!」
そう君は頭を抱えると、床に倒れ込んでゴロゴロと転がり始めてしまいました。
「あらあら、そう君ったら」
でも……それだけ、そう君は私のことを想ってくれていたってことなんですよね。
ちょっぴり恥ずかしいけど、それ以上にとっても嬉しい再会初日の夜でした。