てけてけかなたさん   作:南澤まひろ

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おかわり・その5「ふぉとぐらふ」 【最終話】

その1・こなたの場合

 

「むー……」

 なんでもないのかもしれませんけど、このフォルダ名ってもしかしたら……?

 そう思ってしまうほど怪しい「宝物」という名前のフォルダ。いつの間にか出来ていたこのフォルダは、開けてしまえばそーゆー空間に引きずり込まれそうな感じがします。

 でも、今はお掃除中。怪しかろうがどうだろうが、ちょっとは見ておかないといけないわけで。いえ、別に興味があるとか、そういうわけじゃないんですよ? ただの親心です。えっと、本当ですからね?

 ベッドに寝転んでマンガを読んでいるこなたを横目に、まずはフォルダを開いてみて……って、や、やっぱり画像ファイルが一杯ありますよ?! これは、やはり……えっと、そ、そーゆー画像なのでしょうか。か、確認のために、一枚は見ておかないといけませんよね。いきなり消したりしたら、こなたにまたマウスカーソルでつつかれちゃいますし。

 とりあえず、適当に一枚……っ? なっ、なっ、なっ……

「なんですかこれはーっ?!」

「ど、どうしたの!?」

 思わず叫び声を上げると、こなたがすぐにぱたぱたとPCへ駆け寄ってきました。

「ちょっ、ど、どうしてこの画像が?!」

「えっ?」

 私が指さしたウインドウには、昨日メイドさんとかの格好をしたときの私の姿。でも、なんでこんな恥ずかしいのが写真みたいに残ってるんですか?!

「あー、ちゃんとスクリーンショットが機能してたみたいやね」

「す、スクリーンショット?」

「そう、ここに『PrintScreen』ってキーがあるでしょ? それを押すと、画面の状態を画像に残せるようなソフトを常駐させてみたんだよ。いやー、ちゃんと機能してたんだ」

 嬉しそうに言うこなたですが、私は恥ずかしさでいっぱいで……あっ、このファイルも、あのファイルもいろんな格好をした写真です! まさか、このフォルダ全部が私の写真だらけなんですか?!

「だっ、ダメっ! 全部消しますからねっ! 全部っ!」

「えー」

 って、どうしてこなたってばそこで不満そうな顔をするんでしょう。

「せっかく、お母さんのいい画像がとれたと思ったのに」

「い、いい画像って! そもそも、不意打ちなんてずるいじゃない!」

「だってさ、せっかくお母さんがいてくれてるってのに、何も残らないのはさみしいでしょ?」

「えっ……?」

 少しむくれた、こなたの顔。

 でも、それ以上にさみしそうな表情が見て取れて……

「私だって、お母さんとの想い出が欲しいよ」

「こなた……」

 確かに、私とこなたの間の想い出はほとんど存在しない。そう言われたら……ダメなんて、言えなくなるじゃないですか。

「もうっ、しょうがない子ね」

「いいの?」

「その代わり、不意打ちはダメよ? ちゃんと撮るときは撮るって言うこと」

「うんっ、それは全然おっけー!」

 さっきまでむくれてたのが嘘みたいに、こなたがこくこくと嬉しそうにうなずきます。『泣いたカラスがもう笑った』というのはこういうことを言うんでしょうか。

「それじゃあ、今日もまた撮影会といきましょーか!」

「ちょっ、こ、こなたっ、いきなりそれはどうかと思うんだけど」

「なーに言ってるの、いっぱい想い出を作らないと」

 くっくっくっと笑って、どんどんブラウザを開いていくこなた。ああっ、もしかしたら触れてはいけない扉に触れてしまったのでしょうか?

 でも……こうやって、娘の初めてのわがままに付き合うのもいいかもしれません。

「お手柔らかにね、こなた」

「はーいっ」

 少し苦笑いしながら、私はこなたといっしょに服選びをすることにしました。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

その2・ゆたかの場合

 

 さくさくという歯触りと、しっとりとした歯ごたえが口に広がる。

 生地のふんわりとした香りとメープルシロップの匂いが優しくて、ほっと安らぐ味です。

「かなたさん、どうですか?」

「ええ、とてもおいしいわよ。さくさくしてて、ちょうどいい焼き具合」

「よかったぁ」

 画面の向こう側でドキドキとのぞき込んでるゆーちゃんの顔が、ぱっとほころびます。確かに、ホットケーキって簡単そうで難しいんですよね。しっかり焼こうとすると焦げて

しまいますし、だからといって慎重にやりすぎると生焼けになってしまいますから。

 それでは、もう一口……うんっ、とっても甘くておいしいです。

「この間、生地に少しマヨネーズを入れたらさくさくになるって、ネットで見かけたんです」

「最近はそういう小技もあるのね。でも、マヨネーズっぽい味はしないわよ?」

「ほんのちょこっとですから、全然気にならないんですよ」

 そう言いながら、食べ途中のホットケーキを一口ほおばるゆーちゃん。彼女自身にも納得の味だったみたいで、あふれるような笑顔で食べています。

「あっ、そうだ。お姉ちゃんとおじさんにも差し入れしてきますね」

「ええ、いってらっしゃい」

 ゆーちゃんは私にぺこりとお辞儀してから、ぱたぱたと部屋を出て行きました。本当、気遣いも出来て思いやりもあっていい子です。ゆきちゃんもゆいちゃんも、いい娘さん・妹さんをもったものですね。

 それでは、もう一枚……あっちでは食べることのできない懐かしい味ですし、今のうちにたくさん食べておきましょう。写真のファイルがあればいくらでも取り出せますから。

 ファイルから取り出したばっかりのホットケーキは、相変わらずの焼きたて。ゆーちゃんは料理の腕だけじゃなく、写真の腕もなかなかのものみたいです。

 ホイップクリームを少し乗せて、小倉あんもちょこっと……本当ならバニラアイスも欲しいところですけど、そこまで贅沢は言えません。

 一口食べてみれば、さっきとはちょっと違った味わい。和風っぽいホットケーキというのも、また格別なんです。ふふっ、次は何をかけて食べようかなぁ。

 

 かしゃっ

 

「……えっ?」

 小さな物音に顔を見上げると、ゆーちゃんがデジタルカメラをこっちに向けていました。

「ゆ、ゆーちゃん?」

「すっ、すいません。かなたさんが楽しそうに食べてる姿がかわいくて、つい」

 えっと、もしかして今のわくわくしながら食べていた姿が撮られていた……ということなんでしょうか? そ、それってすっごく恥ずかしいんですけど……

「もうっ、ゆーちゃんまでこなたみたいなことしちゃだめじゃない」

「あははっ、実はお姉ちゃんに『シャッターチャンスがあったらお願い』って言われてたんです」

「まったく、二人していたずらっ子なんだから」

 でも、ここはゆーちゃんのホットケーキの味に免じて許してあげちゃいましょう。

「こうやって、画面の中のかなたさんを写真に収めておくのもいいかなって……はいっ、いい感じに撮れました」

「はうっ」

 そう言ってゆーちゃんが液晶画面をこっちに向けましたけど、私ってばすっかり頬がゆるんじゃって……こ、これはさすがに恥ずかしいです。

「今のかなたさん、チョココロネを食べてるときのお姉ちゃんにそっくりでしたよ」

「そ、そうなの?」

「はいっ、とってもそっくりです」

 自信たっぷりにそう言われると、なんだかちょっと嬉しいというか……こなたとの絆が感じられて、悪くないですね。

「それじゃあ、私もいただきますね」

「ええ、いっしょに食べましょ」

 娘のようにかわいい子と、いっしょの昼下がり。こういう時間も、今の私には大切な時間です。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 その3・ゆいの場合

 

「むー……帰りたくないよー」

 スニーカーをつっかけながら、ゆいちゃんが名残惜しそうに呟きます。

「だめでしょ。これからお仕事なんだし、しっかりしないと」

「わかってるけど、お姉ちゃんが……お姉ちゃんがー」

 あらあら、ぐずりやすいのは小さいときのゆいちゃんのままね。

「まだもう少しいられるから、いつでもいらっしゃい」

「そうそう、私たちもいつでも待ってるし」

「電話をくれたら、かなたさんから習ったお料理をまた作ってあげるよ」

「ううっ、かわいい妹たちよー!」

「わわっ?!」

 感極まりそうになりながら、こなたとゆーちゃんをいっぺんに抱きしめるゆいちゃん。でも、私がいるノートPCはこなたが持ってるのを忘れてほしくないんだけど……

「でもいいなー、二人はいつでもかなたお姉ちゃんといっしょにいられて」

「ほらほら、人差し指をほっぺたに当てて物欲しそうな顔しない」

 この歳になっても子供らしさがあるのはいいことかもしれないけど、ちょっと考え物なのかもしれません……

「だったら、私たちが撮った秘蔵画像をあげよっか」

「秘蔵画像?」

 ひ、秘蔵画像ってもしかして……

「ほらっ、こういう画像をね」

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 こ、こなたってば、その画像はダメですっ! ダメだってばぁ!

「おおっ! これはかわいいメイドさん!」

 ううっ、聞こえません。何を言ってるかなんて聞こえませんし、どんな顔をしてるかも見えません! というか見たくありません!

「ほら、他にもセーラー服とかブレザーとか、巫女さんとか」

「いいなーいいなー、これ全部ケータイの壁紙にしてもいいねー!」

「こ、こなたお姉ちゃん、かなたさん逃げちゃったよ?」

「おやおやゆーちゃん。ゆーちゃんだってお母さんのことを激撮したじゃありませんかー」

「うおっ、お食事中の写真まで!」

 あう……あれだけ気軽に人に見せちゃダメって言ったのにー……

「あれっ? でも、お姉ちゃんだけの写真ばっかりなんだね」

「えっ?」

 そのゆいちゃんの言葉に、私もこなたも、ゆーちゃんも顔を見上げます。

「確かに、言われてみればそうかも」

 二人が撮っていたのは、私だけの画像や写真ばかりでしたからね。

「せっかくだからさ、家族みんなの写真を撮ってもいいんじゃない?」

「そういえば、まだ撮ってなかったわね」

「おおっ、それは気付かなかった!」

「かなたさんのことばっかり気が向いてたから……うんっ、それもいいかも」

 ゆいちゃんに言われて気付きましたけど、確かに家族みんなの写真があってもいいかもしれません。

「それじゃゆーちゃん、お父さんから三脚とかいいデジカメとか借りてこよう」

「その前に、おじさんもちゃんと呼んであげないと」

「おー、そーだそーだ。んじゃゆい姉さん、ちょっとお母さんをお願いね」

「あいあいさー」

 そう言うと、こなたは私がいるノートPCをゆいちゃんに渡して、ゆーちゃんといっしょにそう君の部屋へと走っていっちゃいました。二人とも、何かあるとなったら行動が早いんだから。

「ゆいちゃん、ありがとう」

「えっ? 何が?」

 私が見上げると、何もわかってないように首をかしげるゆいちゃん。

「家族写真を撮ろうって言ってくれて……私、すっかり忘れてた」

「いやー、だって、ないよりあったほうが楽しいでしょ? お姉ちゃんがみんなといるっていう証にもなるし」

「私がいる証……いいわね、それも」

「でしょ?」

 笑いながら言うゆいちゃんの無垢な笑顔に、私も思わず笑ってしまいます。

 そう、ゆいちゃんは昔からこういう子だったのよね……いつも何気なくみんなを笑顔にさせてくれる、とっても優しい子。

 その小さい頃と変わらない笑顔は、私にとってゆいちゃんからのとても嬉しい贈り物でした。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 その4・そうじろうの場合

 

 見渡す限りの、緑色のトンネル。

 もう桜は無くなってしまっているけど、鮮やかな緑に彩られた木々が陽の光で淡く輝いています。

「今頃、こなたとゆーちゃんは読んでくれてるかな」

 そう君が、風に揺れる木々を見上げながらぽつりと言いました。

「ええ、きっと読んでくれてるはずよ」

「こなたはあんまり活字が好きじゃないみたいだからさー。ちょっと、心配でな」

「大丈夫よ。今までも、こなたはそう君の物語を読んでくれていたんでしょう?」

「嫌々だろ、たぶん」

 苦笑いして、手をぱたぱたと振るそう君。

「まあ、あんまり感想は期待しないでおくよ」

「はいはい」

 でも、私は知ってますよ。こなたが読むことをそう君が楽しみにしてることも、こなたもそう君の物語が好きだっていうことも、ずっと見てきましたから。

「しかし、この堤は毎年変わらんなー」

「お花見をする人がたくさん来るようになったみたいだけど、ほとんど変わらないのね」

 私がまだ元気だった頃に歩いた、長い長い権現堤。初めて来たときに見たここの桜並木は、とても圧巻だったのを今でもよく覚えています。

「ちょっと先に行けば橋とかが出来たりしてるけど、そんなに気にはならないな。あと、紫陽花がたくさん植えられていたり、湖も出来たり」

「景観を壊す開発じゃないなら、いいことね」

「おかげで、散歩するときの楽しみが年々増えていって……でも、まさかこんな楽しみが待ってるって思わなかった」

 そう言って、ふとそう君が携帯電話の中にいる私をのぞき込んできます。

「かなた、この数日間どうだった?」

「そうね……うんっ、とっても楽しかった。

 こなたと初めて話せて、ゆーちゃんと出会えて、ゆいちゃんと再会できて……そう君と、こうしてまたいっしょに過ごせて」

 この時間はきっと、そう君ががんばってこなたを育ててくれたことへのご褒美。

「楽しくて、とっても幸せだったわ」

 私にだけじゃなくて、神様はそう君にも贈り物をしてくれたのでしょう。

「そうか」

「ええ」

 私がうなずくと、そう君も嬉しそうにこくりとうなずいてくれた。

「俺も、かなたといっしょにいられて幸せだったよ」

 それは、私の想い出と全然変わらない、そう君の優しい笑顔。私が大好きで、大切なそう君の笑顔です。

「ありがとう、そう君」

 だから、ずっとその笑顔でいてくださいね。

「こっちこそありがとう、かなた」

 贅沢な願いかもしれないけど……私がもうすぐ帰ってしまっても、こなたやゆーちゃん、ゆいちゃんと、笑顔でいっしょに過ごしていてください。

 そうすれば、私もずっと笑顔でいられますから。

「ねえ、そう君。いっしょに写真撮ろう?」

「おっ、写真か」

 その笑顔をいっしょに残したくて、私はこなたたちがしたようにねだってみました。

「って、今デジカメは持ってないんだけどなぁ」

「ケータイのほうがいいかも。いっしょに顔を寄せ合って撮りたいから」

「そっか。んじゃ、どうやって撮るかな。この間のアキバのときみたいに、また調整するか?」

「ううん、そんなことしなくても大丈夫」

 かぶりを振りながら、そっと力を解放していきます。

「か、かなたっ?!」

 ふわりと、携帯電話から私の意識が離れていくのがわかる。

 そして……目を開ければ、目の前には愛しいそう君の姿。

「ほらっ、これならいっしょに撮れるでしょ?」

 いたずらに成功した子供みたいに、翼を羽ばたかせながらそう君に笑いかけてみる。

「まったく……去年のお盆みたいにびっくりさせやがって」

「私からの、そう君へのご褒美ですよー」

 しょうがないなと笑うそう君に久しぶりに甘えたくなって……私は、そう君が広げてくれた腕の中へと飛び込んでいきました。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 エビローグ・そして、それから

 

「――って、お父さんってばずるいー! お母さんといっしょに撮るなんて!」

「スマンッ! かなたが一度っきりの荒技って言ってたもんで……」

 お父さんは拝み倒しながら謝ってきたけど、そんなズルいことしてたんだもん。

「バツとして、今日のカレーはお父さんだけルー抜き」

「だあっ! しっ、白飯オンリーだなんてそんな殺生な!」

 このくらいのバツ、あげても当然だよね。

「……でもさ、こなただってかなたが来てからいっぱいスクリーンショットを撮ってたんだろ?」

「そ、そりゃそうだけど」

「いいよなー、かなたといっぱいスクリーンショットが撮れて。そこでどうだ? お父さんとかなたの写真をあげるから、カレーの件はチャラにするってのは」

 うおっ、それはそれで私の痛いところをついてくる……

「わかったよ。その代わり、お父さんの部分はあとで塗りつぶすから」

「うわー、こなたってばストレートすぎ」

 貰ったからって、全部許すほど私は甘くないんですよーだ。

「もう、こなたもおじさんも子供みたいじゃない」

「でもすごいねー、こんなにいっぱい撮ったんだ」

 かがみとつかさが、写真用紙にプリントアウトしたスクリーンショットやデジカメの写真をいじりながら話しかけてくる。

「本当、泉さんにそっくりの方だったんですね」

「……仲間」

 買ったばかりのアルバムに写真を貼り付けるみゆきさんに、写真の大きさを揃えているみなみちゃん。って、なんでみなみちゃんはお母さんの胸元あたりばっかり見てるかなー。

「不思議なこともあるんスねー」

「去年もこういうことがあったんだって。ね、お姉ちゃん」

 一枚一枚、目を輝かせながら写真を見るひよりんに、今もがしょんがしょんと印刷中のプリンターに向かっているゆーちゃん。

 

 かがみたちに全てを話した、次の日の朝。

 お盆休みに入ったっていうこともあって、みんなは私の家に集まって、いっしょにお母さんとの想い出のアルバム作りを手伝ってくれていた。

「そうそう、去年のお盆にお父さんといっしょに写真を撮ってたらさー」

 そう言いながら、私は引き出しに大事に仕舞ってあった写真をひよりんたちに見せてみた。

「うぉう……こ、こういうことがあるんですねー」

「こ、これって心霊写真っていうのかな?」

「凄い……」

 あー、やっぱりびっくりするよね。後ろから私に抱きついているお父さんの背後で、うっすらと手を振ってるお母さんらしい影が写っているんだから。

「へえ、本当にこなたと背格好もそっくりじゃない」

 その中で一人、かがみはびっくりしないでその写真を見ていた。

「きっと、かなたさんはこなたとおじさんを強く想っていたのね。だから、かなたさんの姿がくっきりと写って……こうやって、この家に帰ってきたのよ」

「泉さんやおじさまの想いが、かなたおばさまに届いたのかもしれませんね」

「かなたさんが写ってる写真、みんな楽しそうだもんねー」

「だよねっ、そうだよねっ!」

 みんなの言葉に、私の心があたたかくなっていく。

 突拍子もない「お母さんが還ってきた」って言葉を、優しく受け止めてくれたかがみ。

 最初は戸惑っていた二人も、この数日の出来事を話すうちに信じてくれて……今、こうやってわいわい言いながら写真を見てくれている。

「泉先輩のご家族って、とっても強い絆ですよねー」

「……それは、とてもいいこと」

 ひよりんの言葉に、みなみちゃんもこくりとうなずく。

 二人とも巻き込んじゃった形だけど、写真の山を見てゆーちゃんの思い出話を聞いた今、こうしていっしょにいてくれる。みなみちゃんに関しては、ほんのちょこっとだけお母さんと面識もあったらしい。

「でも、これってアルバム一冊で足りるの? まだまだ印刷するのがあるんでしょ?」

「あー、確か一ギガ近くあったはずだから足らないかも」

「い、一ギガって、そりゃまたたくさん撮ったのね……」

 って、容量でドン引きすることないじゃんかー。

「だって、お母さんとの想い出だもん。いっぱい撮っておかないと」

「私も、いっぱい撮ったんですよ」

「俺もいろいろ撮ったなぁ」

 私たちが本気を出せば、そりゃもう数百メガなんて軽く越えちゃうわけですヨ。私なんて全部高解像度のビットマップファイルで保存してあるし。

「それだけ、たくさんのことがあったってわけか」

「そゆことそゆこと」

 かがみの言葉に、私ははっきりとうなずいた。

 日数にすればたったの数日間だけど、それ以上にたくさんの出来事があって、たくさんの想い出を作ることができたから。

「では、たくさんアルバムを買わないといけませんね」

「私も、写真貼ったりするお手伝いするよー」

「私も手伝いますよー」

「……一緒に、やらせてください」

「みなさん、ありがとうございますっ」

「ホント、ありがとねっ!」

 ゆーちゃんといっしょに、私も笑顔でお辞儀する。

「よかったな、こなた。いい仲間がいて」

「うんっ」

 ホント……私ってば、幸せ者だよね。

 こうやって、いろんなことを話せたり、いっしょに過ごせる仲間がいるんだから――

「あー、その中に男が一人でもいればホントに『それなんてエロゲ?』な世界なんだろうなー」

「あ、あははははは……」

 だからこそ、こういうときにアナタの余計な一言はやめてほしかった!

 ううっ、せっかくいい空気だったのにぶち壊しにしてくれちゃってー……

「はろー。お集まりですかな? 若人たちよー」

「あれっ、ゆい姉さん?」

「お姉ちゃん、いらっしゃい」

 突然ドアが開くと、その隙間からひょっこりとゆい姉さんが顔を出してきた。

「ゆたかからメールをもらってさ、私もアルバム作りに参加しようって思って。ほらっ、差し入れのアイスだよー」

 そう言うと、ゆい姉さんはぎっしりアイスが詰まったコンビニ袋を掲げてみせた。

「おーっ、ゆい姉さんナイスっ!」

「すいません、成実さん。なんかお気を遣わせてしまったみたいで……」

「いーのいーの、こういうのはみんなで楽しくやらないとねっ」

 みんなで、楽しく……か。

 それじゃあ、みんなが揃った今がちょうどいいかもしれない。

「だったら、さ」

「うん?」

 私はテーブルの上に置いてあったお父さんのデジカメを手にすると、

「アルバムに入れる写真の中に、みんなの写真も入れちゃおうよ」

 ここにいるみんなのことをぐるっと見回しながら、そう誘ってみた。

「おっ! いいな、それ」

「それいいねっ、お姉ちゃん!」

「いいねいいね、じゃんじゃん撮っちゃおう!」

 二つ返事で答える、我が家の面々。

「ホントにいいの? 私たちが入っても」

「いいのいいの、お母さんはにぎやかなのが大好きだから」

「じゃあ、私もいっしょに入ろっと」

「私も入るねー」

「では、僭越ながら私も」

「私も、よろしくお願いします」

「……私も」

 来てくれたみんなも、楽しそうに答えてくれる。

「もちろんっ、どんどん入ってくれたまへー」

 やっぱり、こうでなくっちゃね。

 

 *   *   *

 

 玄関の前に出た私たちを、ぴーかんの陽気が迎えてくれる。

 ちょっと暑いけど、これくらい気にすることはない。

 

「じゃあ、前後に二列に分かれる?」

「うーん……九人だけなんだし、横に並ぶだけでもいいんじゃないか?」

「そっか、それもそうだね」

 

 わいわいやりながら、あーでもないこーでもないと考えあう。

 これも、みんなでいろんなことをするときの醍醐味。

 

「それでは、おじさまと成実さんを中心にして、その横に泉さんと小早川さんが並ぶ。その両横に、私たちが並ぶという形ではどうでしょう」

「おおっ、みゆきさんってばナイスアイディア! それじゃ、それで行ってみよっか」

 

 この数日間、お母さんともそうすることが出来た。

 それは、私たちにとってかけがえのない想い出と経験。

 

「ゆい姉さん、ちゃんとみんな入ってる?」

「ばっちりばっちり。このままタイマーかけてもいいぐらい」

「かけたままそこにいて、入り忘れるなんてオチはないよーに」

 

 今はもう、お母さんの姿を見ることはできない。

 けれど、こうやって想い出はずっと残せるから。

 

「かがみもつかさも、みゆきさんもこれで大丈夫?」

「うん、大丈夫よ。ねっ、つかさ」

「私も大丈夫です」

 

 いつまでも、心の中に。

 お母さんだけじゃなく、みんなとの想い出も心にたくさん詰まってる。

 

「それじゃ、そろそろいくよーっ!」

「はーいっ!」

「えっと、タイマーは十五秒にして……それっ!」

 

 でも、時には形にしておきたいこともあって……

 それはきっと、私だけじゃないはず。

 

「みんな、笑ってー!」

 

 かしゃっ!

 

「ほらっ、やっぱりいたっ!」

 

 

 そうだよね、お母さん。

 

 

 てけてけかなたさん おしまい




2007年の夏、コンプ●ィーク誌(もしかしたらコンプ●ース?)についていた「らき☆すた」の付録で、泉家の境遇のことを知って「かなたさんが今の泉家にひょっこり現れたら、どういう反応をするんだろう」「もしこなたがそれを見つけたら、どういう反応をするんだろう」というふとした妄想から始まったのが、この作品でした。

始めた当時は、掲示板に投稿した1レス1話ののネタ作品ということでお気楽に考えていたのが、書いていくうちに「こなたとかなたさんだけで話でいいのかな」「やっぱりそうじろうと会わせるべきなんじゃないかな」と悩んで、それにつれて文字数が多くなっていって、最終的にはホームドラマになっていったのには、自分でも驚いてしまいました。

書いてからもう10年以上経っても、時々この作品のことを思い出します。今回、ハーメルン様にも掲載させていただいたのは、少しでもいいので他の方にも泉家の物語を読んで頂けたらいいなという思いから。そして、少しでもいいので原作の泉家のことにも触れていただけたらな、と思います。

掲載当時と大幅に変えたところはほぼないのですが、子守唄などで引用していた歌詞は一部カットしたり、JASRACに登録されている別曲に差し替えていたりしているので、かつて読んで頂いた方は「あれっ?」と思われるかもしれません。ハーメルン様の規約に沿うためなので、あらかじめご了承いただけますと幸いです。

最後に。
かなたさんはそうじろうの嫁。
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