てけてけかなたさん   作:南澤まひろ

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その9「おーるいんわんだー」

『うんしょ、うんしょ』

 モニターをスリープモードから戻してみれば、今日も相変わらずお母さんがPCのディスクをお掃除中。とはいってもエロゲの削除をしてるわけじゃなく、デフラグを立ち上げてまとまったクラスタを空いたところに持ち運んでくれていた。

『お母さん、それって結構大変じゃない?』

『そうでもないわよ。私、お掃除は大好きだもの』

 まあ、普段からHDDの中身をよく掃除してくれるからね。遊んでる途中のソフトでも、そりゃもう容赦なく。

でも、この中にいるとあんま娯楽とかないだろーし、それくらいしかやることって無いのかもしれない。うーん、ここはお父さんが使わなくなったパーツを再利用してみますかね。

倉庫の片隅に眠っていたあるパーツが思い浮かんで、私はそれを取りにちょっと席を外すことにした。

 

「ネジを締めて、ソケットをつけて……っと」

 倉庫から引っ張り出したUSBハードを接続して、自動認識させてっと……よし、ダイアログが出てきた。

『?』

 お母さんはというと、画面の隅っこでそのダイアログを不思議そうに眺めている。

『何かゲームでもインストールするの?』

『あー、そうじゃなくて、新しいハードを入れてみたんだよ』

 そう言って、DVDドライブにドライバの入ったCDを入れてトレイを閉じる。

『びでおきゃぷちゃ……?』

 インストール画面に出てきたロゴを見て、お母さんが首を傾げた。

『テレビが見られるようになるハードとソフトだよ。お母さん、その中だとあんま楽しみないだろうし、お掃除ばっかりってのもなんだからって思ってね』

『最近はそういうのもあるのね……なんだか、気を遣わせちゃって悪いわね』

『いいのいいの。お母さんのためならえんやこらデスヨ』

 せっかくこっちに来てるんだからこういう楽しみも無くっちゃ。

『よし、インストール完了で、起動っと……うん、映ったよ』

『ほんと、ちゃんと映ってるわね』

 ちゃかちゃかクリックしていくと、テレ玉の「関口さんI」が映った。うんうん、ゴーストも無くちゃんとキレイに映ってる。

『私が学校に行ってるときとかは、自由に使っていいよ。録画も出来るから、じゃんじゃん漬かっちゃってね』

『うんっ』

 お母さんは目をきらきらさせると、隅っこに座って楽しそうに画面を見始めた……って、なんでわざわざ草加煎餅と狭山茶のHPを開いて煎餅とお茶を取り出してくるかね。

でもまあ、お母さんが楽しいからそれでいっか。

 

 *   *   *

 

 それから二日後、新しく出たネトゲをダウンロードした私はわくわくしながらPCに向かっていた。

『お母さん、ちょっといいかな? 新しいゲームを入れたいんだけど』『えーっと……もしかして、そーゆーゲーム?』

『違うってば。新しいネトゲが出たから、やってみようかなって』

『うーん、それならいいわよ。ちょっと待っててね、今終わらせるから』

 そう言って、お母さんはビデオキャプチャのソフトを終了させた。なんだかんだ言っても、お母さんもこういうゲームには興味があるみたいやね。

「それじゃあインストール……って、あ、あれ?」

 Cドライブにダウンロードしておいたインストーラーを立ち上げて、こないだお母さんにフォーマットされたドライブに入れようとしたんだけど……

「どうして空き容量が足らないんだろ」

突然のメッセージに、思わず首を傾げる。おかしいなー、さっき見たら八十ギガもあったはずなのに。

 インストール画面を終わらせて、エクスプローラーを立ち上げて……うん、八十あるよ……ね……って、えぇっ?!

『ちょ、ちょっとお母さん! なんで八十『キロ』バイトしかないの!』

 メガ飛び越してキロですヨ?! そんなんありえないって!

『ご、ごめんなさい。一昨日からついつい録りすぎちゃって……てへっ』

 て、てへっじゃないってば……まったくもー、お母さんったら。

 でも、しばらくはそのままでいいやってことで、ゲームはCドライブにインストールすることにした。

 お母さんといつサヨナラしちゃうかわからないし……いっぱい、楽しい思い出を持ち帰ってもらいたいからね。

 

『それにしても、なんでキテレツとかうる星とかベルばらとかラスカルとかキャッツアイとかシティーハンターとか……』

『だって懐かしかったんだもの』

 いや、それでも最高解像度で録画ってのはどうかと思うんだ、私は。




【ひとこと解説】
おーるいんわんだー…
今は無きATI社製のビデオキャプチャーボード「All in wonder」のこと。
かつて主流だった赤・白・黄色の端子で映像・音声が取り込めたすぐれもの。
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