こそこそと、画面の影から外をのぞいてみる。
「くか~……ぐお~……」
ふふっ、すっかり眠っちゃって。昨日は徹夜でしたから、よっぽど疲れたんですね。
「それじゃあ、ちょっと失礼しまーす」
私はひとりごとを言って、そう君のデスクトップに降り立った。
えっと、メモ帳は……立ち上がってませんね? はい、大丈夫ですね。
そう君のパソコンがついていて居眠りしてるとき。それが私のお掃除の時間です。
いつもはこなたのPCにいるかルーターの中にいるかの私ですけど、やっぱり愛する人のPCの中も気になってしまうわけで。
……えっ、嫉妬ですか? 違いますよ。多分。きっと。おそらく。
「それじゃあ、今日もがんばってお掃除しますよー」
エクスプローラーを立ち上げると、一昨日より二ギガ弱も増えています。これはきっと、二、三本は入ってるってことですね。それでは「プログラムの追加と削除」を起動して、と。
両手でスクロールバーを引っ張ると、どうもそれらしいタイトルがありました。「悶絶ダイナミックおやじ」に「ぷる萌えーる☆アクトレスめいこ」……さ、最初のはちょっと怖いのでそのままアンインストールして、次のはどういうソフトなのか確認してみましょう。
……いえ、決してこなたに毒されたわけじゃないですよ? ほんのちょっと、ちょこっとだけ興味があるだけですから。
スピーカーのボリュームを消して、モニタを省電力モードでこの中だけ見られるようにして、起動っと。
スタートボタンからプログラムを立ち上げると、出てきたのはいつもこなたがプレイしているような画面。次に現れたのは……むむっ? 小さい女の子が三人ですか?
いくらそう君が「ロリコンでもある」と言ってても、これはさすがに由々しき問題です。そう思ってしまうほど、この子たちはあまりにも幼すぎます。
場合によっては、すぐにアンインストールしましょう。絶対やりましましょう。
そう思いながらゲームを進めていくと……
「きゃあっ?!』
こ、この子たち、つ、ついて……あ、あれが……モザイクがかかってるとはいえ、こ、コレはダメですっ!
「ぽ、ポイですっ! コレはポイポイですっ!」
とにかく、見なかったことにしましょう! セーブデータとかも無いですし、きっとまだプレイしてないんですよね! 内容も知らないんですよね! だから今のうちにアンインストールしちゃったほうがいいですっ!
私はあわててプログラムを閉じると、プログラムのフォルダを開いてからその二つのゲームが入ったフォルダを抱えて、ごみ箱へえいっと放り投げました。
えっと、もうこれで大丈夫ですよね……ふー、恐ろしいものを見てしまいました。
とりあえずお掃除はここまでにして……休憩ついでに、もう一つのお楽しみタイムに行きましょうか。
「新しい作品、どこまで進んだのかしら」
一息ついて、こっそりとドキュメントフォルダの中身を見回すと、真新しいテキストファイルがちょこんと置いてありました。
そう、これが私の本当の目的なんです。
ファイルを開くと、そこにあったのは普通のテキストファイル。でも……私とそう君にとって、大切な物語。
「この間は、女の子との出会いまでだったんですよね」
そこには、いつもシリアスなお話を書くそう君には珍しく、コミカルな表現で物語がつづられていました。
「私は、どう書かれるのかな」
それは、北国で一緒に過ごしてきた女の子との物語。生まれたときからずっと寄り添い、一緒に育っていく――というのが、今のところのお話なのですが、
「十八年経って、しっかりと向き合ってくれたんですね」
この物語は、私とそう君が一緒に歩んできた想い出そのもの。
小学校でガキ大将みたいな感じのそう君にからかわれて、いろいろつきまとわれて……でも、いつでも元気なそう君にあこがれていた頃のお話でした。
「……もうっ、好きな子ほどからかいたくなるだなんて」
一人称でそう書かれてしまうと、物語でも恥ずかしくなってきちゃうじゃないですか。
男の子の語り口は、そう君の想いがいっぱいあふれていて、そんな風にくすぐったくなっちゃうほど。だけど、とっても力強くてあったかい、まっすぐな言葉。
「ありがとう、そう君」
私の大切な、そう君との想い出。それをそう君も大事にしてくれて、形にして残してくれて。
「もう、きっと大丈夫ですよね」
いつも元気でいようとしても、時々切なそうに仏壇を見るそう君。私がこの世界に降りるたびに見るその表情が辛かったですけど……もう、きっと大丈夫。
「あと何度、この続きを見られるかわからないですけど……楽しみにしていますからね」
私はそっとテキストファイルを閉じると、モニタをそのままにしてPCを後にしました。