西暦1924年 大翔13年 7月。
帝都の千夜田区に位置する近衛師団司令部。それは、帝都の中枢にして最重要施設たる宮城を守るために編成された、神皇国陸軍における最精鋭部隊を統括し、指揮する重要拠点であり、平時、有事に関わらず、帝都防衛の要となる組織だった。
夜も更けて来て、司令部に勤務する将校の多くがその日の仕事を終えて帰宅し、司令部の各部屋に灯る明かりが疎らになってきた頃、未だに自身の執務室で書類の山に忙殺される将校がいた。彼の名は木野大尉。叩き上げの陸軍士官で、その日は丁度、彼が指揮する中隊が帝都で行われた大規模集会の摘発に当たっており、その事後処理に忙殺されていたのである。部下に任せて自分は帰ることも出来たが、彼の生来の気質もあって、それもせず、あくまで自分で処理しようとしたのだが、生憎その量が多く参っていたところだった。急ぎの書類というわけでもないが、中途半端で終わらせては虫が好かない。だが、もう時間も遅い。そろそろ帰らなければ……と、丁度思い始めた頃に扉がノックされた。
「入りたまえ」
疲れを悟らせまいとなるべく力強く答えたつもりだったが、むしろ取り繕っているようになってしまった。ここまでなら素直に休んだ方が良さそうだ。そんなことを考えていると、見知った若い部下の代茂木准尉が入室してきた。代茂木は行儀よく扉を閉めると、直立不動の体勢で敬礼した。木野が敬礼を返すと、彼は報告を始めた。
「夜分遅くに大変申し訳ございません。先ほど、巡回中の中隊員から不審な"モノ"を発見したとの報告が入りましたので、ご報告をと」
そう言うと代茂木は1枚の写真を取り出した。
「これは?」
机の上に置かれた写真には暗闇の中に浮かぶ、黒い靄のような"モノ"とそこに見える2つの赤い光がある不気味な"モノ"が映っていた。
「先日の幹部会議で提出された写真です。今回の"モノ"ではありませんが、参考にと資料室から借りてきました」
「ふむ、なるほど」
ふむ、なるほど。これは、木野の口癖で、部下からの報告を受けると彼は決まってこの言葉を発し、自慢のカイゼル髭を弄りながら考え事をするのがクセだった。
「と、言うことはまた"コレ"が?」
「はい。先週とはまた別の場所で目撃されています」
「具体的には?」
「奈月伍長が森宿で"コレ"を発見しました。"コレ"は直ぐに何処かへ行ってしまったそうですが」
木野はまた髭を弄り始めた。と、言うのも"コレ"が発見されたのは今回が初めてでは無いからだ。先週も、先々週も、一月前も、もっと遡れば1年前も同じ"モノ"が現れている。軍民問わずの目撃情報は全てが夜に集中し、さらに特異な例としては夜が"現れた"というものもあり、帝都中を恐怖のドン底へ落としていたのだ。
……が、正直言うと、木野はその報告を聞きながらも聞いていなかった。既に集中力は限界に達し、代茂木の報告を聞きながらもうつらうつらとなっていた。
「……大尉?」
代茂木の訊ねる声に反応し、ようやく意識を覚醒させるも自身が限界に近いことを悟った木野は今日は帰って大人しく寝た方が良いと結論付けた。
「すまん、書類仕事で疲れたようだ。もう夜も遅いし、この続きは明日にしてもらえんか?」
寝惚け眼をこすりながらそう言うと、代茂木はしまったという顔をした。一人残業している上司のことを労れなかったことを申し訳なく思っているのだろう。生真面目な奴だ。と思いながらも、良い部下に巡り会えたことを木野は喜んだ。
「これは、大変失礼致しました。では、今日のところはこれで」
敬礼してそそくさと退室しようとする代茂木に、木野は声をかけた。
「代茂木くん」
「はい?」
「最近の夜は寒い。風邪を引かぬようにな」
代茂木はもう一度木野に敬礼をしてから失礼しますと言って退室した。
帰り支度をしようと席を立つと、机上に先程の写真が置きっぱなしになっているのに気付いた。改めて見てもやはり不気味だ。まるで、写真の中から覗き込まれているような……
「……まさかな」
どうしようもなく不気味な写真を裏返すと、木野はそそくさと荷物を纏め、帰宅した。
残された写真を、2つの赤い光が照らしていた。
帝都の朝は早い。日が昇る前から、郵便のトラックが走り始めて、東の空が明るみ始めた頃に路面電車も動き出す。ちりんちりんと、ベルを鳴らしながらゆったりとした速度で大道路の真ん中を走り抜けていく。
昨年の大震災の傷痕が未だに残る帝都だが、人々はそれに負けまいと力強く生きていた。
荷車を引く運送屋や、通勤するサラリーマンなどが大通りを引っ切り無しに行き来し始める朝の7時頃、そんな帝都の一角にある忘れ去られたかのようにも見える古臭い商店は、騒がしい帝都の朝に似つかわしくないほどに静まり返っていた。つい昨日、田舎から半日も汽車に揺られて初めて帝都へ来た疲れで、5人の子供たちとその母親は泥のように眠っていたのだ。
「………朝……」
障子の隙間から差し込む日の光は一瞬、そこが故郷と相異なる場所であることを忘れさせた。心地の良い朝のはずなのに、気分は全く乗らない。むしろ、深い谷底に突き落とされたかのように、暗く、沈んだままだった。
ふと、手元に視線を落とすと、古びたけん玉が握られていた。それを見て、少女、神楽雪子はここが帝都にある父の店だということを察した。途端に、昨日の出来事がまるで活動写真の一幕のようにありありと脳裏に浮かんだ。
父の死。まだ12歳の少女には到底受け入れられない事実は、眼前の遺品をもってして、圧倒的な現実感をもたらした。少女は、人一倍泣き虫な性格だった。虫が飛び出してきて泣き、嚇かされて泣き、遊びで負けて泣き……と、とにかく泣いていた。
これから一生泣き続ける人生なのかと不安になることもあったが、その心配は無用となることを少し後に知ることになる。
まだ知る由もなかったが。
「さぁさぁ、皆起きな、朝だよ。今日はしっかり働いてもらうよ!」
伯母の元気な声で一同は飛び起きる。伯母は、親戚の中でも人一倍大声なことで有名だった。どんないたずら小僧でも、彼女が一喝すれば大人しくなるほどだった。
「なんですかもう……もっと穏便に起こす気は無いんですか?」
朝には強い母も、流石に昨日のが堪えたのか寝坊していた。寝惚け眼を擦りながら、伯母にぼやいていた。
「仕方ないことだと割り切りな。それよりもさっさと朝メシ食いな!」
そう言う伯母の後ろのちゃぶ台にはしっかり人数分の朝食が用意されていた。食い意地を張る紀之は眠気も忘れて食卓までかっ飛んでいく。そうして、意地汚さを伯母に叱られるまでが定番の流れだった。
最先端を行く帝都らしい、珍しい品が出ていたこともあって朝食はいつも以上に盛り上がった。
食事が終わると直ぐに片付けに取りかかった。
大通りから少し離れた小道にあるとはいえ、相変わらずの人、人、人の波で、住み慣れた田舎の風景とは全く異なるものだった。店の入り口の硝子窓から見える人波に、あやゆく酔いそうになるところだった。
肝心の片付けはといえば、兄の和男と紀之が古びて音も録に鳴らないピアノや、スピーカーに何か詰まっているのか、音が聞こえずらいレコードプレーヤーや、日光で塗料が剥げて何が描いてあるのかわからなくなっている絵画など、到底売り物とは思えないような大きな品を。
私や母、伯母が猫の置物やブリキの玩具、クルミ割り人形やらの小物類を、それぞれ裏口に持っていって木箱に積める。売れそうなものはそのまま質屋に持っていき、どうしても売れなさそうなガラクタや、価値の無さそうなものはそのまま処分するという。
もし、この量を伯母一人で片付けようとしたら、恐らく数週間はかかるだろうと思えるほどの量だった。
小さな商店にこれほどの商品があるとは。と、幼心に父の努力というか、執念のようなものを感じた。
「まったく、あの人ったら……あっちよりもヒドイや」
と、ボヤくのは母だ。父は昔から物をあまり捨てない性分で、他人から見れば明らかな不良品やガラクタでも、頑なに捨てようとはしなかった。母もそれで、かなり苦労していたようだ。
「ホントだよ。仕入れに行ってきたと思ったらこんなガラクタばっかり買い入れてくるから、参ってたよ」
伯母はレコード盤の埃を落としながら愚痴っていた。曰く、父は商人としての見る目がなかったと断言するほどで、実際問題、店内の商品はほとんどが意味不明な物だったり、ガラクタだったり、はたまた最初っから壊れていたりと、惨憺たる状況だった。そのおかげで、ブリキの軍艦の玩具は紀之の手に渡ったわけだが。
ともかくして、とても1日、ましてや2日や3日で終わる量ではなかった。
「やっと1段目の半分ってとこかね。全くいつの間にこんなに集めたんだか」
天井まで届く大きな6つの棚の内、ようやく一つ目の半分が終わった。先は長い、と思いつつ、故郷の親友たちとまだまだ会えそうに無いことを察した私はやはり、ひどく落ち込んだ。
「そろそろお昼時かね。おにぎりでも作ろうか」
「じゃあ私も手伝いますね」
伯母と母は切りのいいところで仕事を片付けると裏の台所へ行った。食いしん坊な紀之は相変わらずはしゃいでいたが、やはり私はどうも浮かれなかった。
「うめぇ、帝都の米は違うなぁ!」
「オメェに米の違いがわかるかっての」
通ぶる紀之に和男がデコピンを喰らわした。
「イテェ、またやりやがったなこのクソ兄貴!」
また喧嘩を始める。生まれてこのかた、男がなぜこんなつまらない理由で喧嘩をするのか、理解できない性分で、姉とよく愚痴を溢していた。
「またかい、全くアンタらは。その体力を片付けに生かして欲しいね」
伯母が口酸っぱく言うと、今度は責任の擦り付け合いだ。全く、醜い。その度に私は母や姉にどうしてああやって争うのか聞いてみたりするのだが、生憎その時はそんな気分ではなかった。
「まだ、食欲無いのかい?上で寝ててもいいんだよ?」
気づくと、母が心配そうな顔で私のことを見ていた。夕飯の時と同じく、母に心配させたことを恥ずかしく思った私はその場しのぎで取り繕うことにした。
「ううん、大丈夫。何でもないよ」
ちゃんと笑顔で言えただろうか。
「そう?」
「うん!」
母の心配そうな顔はやはり晴れない。いたたまれなくなった私は、まだ半分以上残っているおにぎりにかぶりついた。正直言うと、食欲はほとんどなかったが、なんとか食べようとした。
そうしていると、今日初めての来客があった。
「あ!アンタは……!」
途端に伯母の顔が強張った。母もなにかを敵視するかのような顔つきになり、伯母と同じ方を見ていた。その目線を追ってみると、そこにはかなり上物の背広を着た恰幅のいい中年ぐらいの男が立っていた。男は中折れ帽子をとると、それを胸の前に当ててねちっこい嫌みのある声で話し始めた。
「神楽さん、店仕舞いは進んでいますかな?それなら大いに結構なんですが、こちらの方も忘れてはいませんよね?」
男の声はその容姿も相まって、まるでドブネズミのような重っ苦しい圧をかけてくるようだった。
「何度も言ってますでしょう、我妻さん。わざわざウチに来るまでのことじゃないです」
伯母は今まで見たことないほど、鬼気迫る表情をしていた。まだ幼い私には、2人が何の事を話しているのか皆目検討がつかなかった。
「えぇ、もちろん。貴女の兄上がこの店を建てる時に私が援助した金額……そうですね、ざっと300円。利子もつけるとまた金額は高くなりますが」
300円というと、かなりの大金だ。エリート街道まっしぐらの上級国家公務員の初任給とか、帝都都知事の月給くらいの。それこそ、こんな帝都の端っこで細々とやってる売れない商店がポンと払える金額ではないことぐらいは、私にも理解できた。
「くどいですわね。しっかりお払いすると何度も言ってるじゃないですか。あんまりしつこいと警察に相談しますわよ」
「おやおや、警察に駆け込んだ所で、逮捕されるのはどっちだか。借金を返さないのはそちらの責任じゃないですか」
ぐうの音も出ない正論に伯母は悔しそうに口を噤んだ。
「おや?よくよく見れば、今日はかなりの大所帯ですな?さしずめ親戚に店の片付けを頼み込んだといったところでしょうか?」
我妻が、私たちの顔をまじまじと見ていった。母や伯母は思わず身構えて私たちの盾になろうとした。
「いやいや、決して色目を使ってたわけじゃありませんからご心配なく。ところで、そちらのご婦人は?」
確信犯だろう。私でさえそう確信できるほどの、気持ち悪い目線だった。
「このコは私の義理の妹さ」
我妻の視線がなるべく母に向かないように伯母が母の盾になって我妻に言う。我妻はまたしても気色の悪い笑顔を浮かべると、より一層粘度の高い声で喋りだした。
「ほほぉぅ……と、いうことはあの旦那様の……そりゃ、とんだ失敬を……」
仰々しくお辞儀をした後、帽子を被り直し、改めてこちらを見やった。
「今回は随分、お邪魔しましたね。では、ごきげんよう」
「本当にお邪魔だったよ」
踵を返し、のそりのそりと歩き始めた我妻に伯母は精一杯の皮肉をぶつけた。なんとも言えぬ不快感が一同の脳裏にこびりついた。
「アンタ、大丈夫かい?」
我妻の姿が見えなくなると、母は気が緩み、伯母に倒れかかった。それもそうだろう。母は昔から気が小さく、押しにも弱かった。ああいったタイプの人間は母が最も嫌悪する人種でもあった。
「大丈夫です……義姉さん……もう落ち着きました」
そうは言うものの、母の顔は真っ青だった。
「伯母さん、さっきの人って…」
長女の滝子が問うと、伯母は顔をしかめながら教えてくれた。
「この辺りに住む金持ちさ。不動産をやってて、店や家を建てる人に法外な利子を付けて土地を売る、ようは成金さ。政府や警察とも繋がってて迂闊に逆らえないのさ」
よくあることだ。四民平等を謳う神皇国も、一部の金持ちが下の階級の人々を虐げる階級社会だった。事実、労働階級の人々の不安は爆発寸前で、各地で労働者の蜂起が頻発するほどだったのだ。
思い空気が漂う軒先がどうしてもいたたまれず、私は一刻も早く、この場から遠ざかりたい一心に駆られた。
「ねぇ、お母さん、伯母さん、向こうの川を見てきてもいい?」
実は、ここに来る途中に何度か橋を渡ったのだ。兄の和男曰く、帝都には縦横無尽にたくさんの川があるらしく、その内の一つが、父の商店からすぐの所にあるのを覚えていた。
「う~ん、いいかいと言われても……」
そう言うと伯母はちらりと母の方を見た。母はまださっきのショックから立ち直れないのか、青い顔のままだった。また、母だけでなく、他の兄弟たちも疲れが溜まっているように見えていた。
「まぁ、いいだろう。気分転換してくるといいさ」
伯母はまた笑顔で了承してくれた。やはり伯母は笑顔が素敵だ。
「お母さんは?」
店の奥に寝転がっている母にも一応聞くことにした。母もまた、笑顔で了承してくれた。
「私たちも後で行くから、先に行って遊んでなさい」
「はーい!」
紀之は珍しくついて来なかった。どうやら、店の商品を物色している方が気に入ったらしい。
かくして、私一人で川に行くことにした。
川は、歩いてほんの5分程度の所にあった。しかし、田舎の川のように両側が草だらけで何処からでも川に入れるような感じではなく、両側が大きな石で組まれた人工の川といった感じだった。と、言っても、幕府の時代から変わらない伝統的な川で、昔から交通や、交易の重要な航路の1つだった。と、汽車の中で和男が言っていたのを思い出した。
「ようは大事なものってことじゃん。何でそう言わないんだろ」
私は小さい頃から、1人になると、独り言で疑問を呟く癖があった。櫻子や太助からはあまり良くない癖だと思われていたらしいが。
「はぁ……どうして私こんなところにいるんだろ……」
自分が何をしているのか、わからなくなることは良くある。特に今がそうだ。大変な思いをして遥々帝都までやって来て、死んだ父の店の片付けを手伝って、父の死を自覚して哀しんで、泣いて、泣いて……
「何も違わない……」
基本いつも通りのはずなのに、何処か違う。場所が違うからか?
「違う」
履き物が違うからか?
「違う」
見慣れない道だからか?
「違う!」
それとも、父がいないからなのか?
「違う!!」
思わず大声を出してしまった。ハッとして周りを見ると、突然叫び出した少女を心配、というより気味悪がってか、はわからないが、ともかく通行人たちの注目を集めてしまった。どうしようもない感情を抱いた私は、その場から走り出した。
誰も追い付けなければいい。
誰も追いかけなければいい。
誰も探さなければいい。
誰も私を慰めようとしなくていい。
無我夢中で走ったせいか、下駄の鼻緒が切れた。
盛大に転んだ私はめそめそと泣き出した。もういっそのこと、このまま地面と同化して、消えてしまいたいと思うほどに。
しかし、その時、ピチョンという水滴の音が聞こえた。音のする方をゆっくりの見ると、そこには川に降りる石の階段があった。音はその向こうから聞こえてくる。服の汚れを払いながら立ち上がり、音のする方へ行く。そこには、石の階段の下に小さな桟橋があった。舟が一艘泊められる程度の本当に小さなもので、ともすれば見落とし、気にも止めないようなものだった。ゆっくりと階段を降りる。さっき脱げてしまった下駄のせいで左右の高さが合わないのが気になって、結局無事な方も脱いでしまった。裸足で石階段を降りるのはなんとなく新鮮な気がした。桟橋の端までゆっくりと歩いていく。
私が歩く度に、水面に波面が広がる。まだお昼時なのに、人だかりはなく、川面を忙しなく動き回る舟も見当たらなかった。しかし、私はそんなこと気にも止めず、ただ、川面を眺めていた。しゃがみ込んで川面にそっと手を入れてみる。
「冷た……」
あまりの冷たさに思わず手を引っ込める。田舎の川でもこれほどの冷たさは無かったと思う。
そうして、何をするでもなく、ただ川面を撫でていた。
時間が止まったかのように思えるほど、長い時間を過ごしたように思えた。
「もしもし かめよ かめさんよ せかいのうちにおまえほど」
いつの間にか歌い出していた。父との想ひ出を。
「あゆみの のろい ものはない」
こうしていると気分が安らぐ。何故だろう。
「ドウシテ ソンナニ ノロイノカ」
背筋が凍り付く。誰だ。私じゃない。誰でもないし、誰かでもない。
「え?」
目の前に黒い靄が浮かんでいる。それはカタチを変えて人のようなカタチになった。ソレは私に手を伸ばす。
「モウスグダヨ モウスグデ ヨルガ クル」
どういうことだろう。何を言っているのだろう。怖い。全身から脂汗がドッと吹き出る。
「ヒマワリハ タイヨウノヒカリ ノシタデシカ イキられない」
怖い。どうしようもなく怖い。逃げなければ。でも体が動かない。
だが、次の瞬間、全身の汗と生気が抜ける感覚を味わった。
「ほぉら 夜が来る♪」
目の前で宙吊りの女が笑っていた。否、もしくは私が逆さまになっていたのかもしれない。わからない。
次の瞬間、視界が……否、帝都が夜に染まった。
ということで2話でした。
後半はかなり勢い任せで書きました。
結構伏線はりつつ、ピッタリと書けたので満足です。
キャラが勝手に動き出すって本当なんですね。