最後は例のごとく駆け足になり、眠気と戦って仕上げましたw
そろそろ二次創作の方もボチボチやりたいので少し投稿頻度下がるかもです。
標準歴1924年 大翔13年 7月。
帝都から100kmほど離れた、燦々と輝く太陽に照らされた長閑な街、
しかし、この日に限っては普段よりも多くの人々がこの街に集まり、街や旅館は人の波でごった返していた。ただし、それらは観光客ではなく、避難民であったが。
それら避難民は、突如として、神皇国帝都を襲った大災厄を命からがら逃げ延び、船や陸路を伝ってやって来た者たちだった。
着の身着のまま、訳もわからず必死に逃げて来たのは誰も彼も同じで、一体何が起こったかすら分からなかった。特に状況は混迷を極め、人々は不安に駆られていた。
果たして、自分達の身に何が起こったのか。帝都はどうなったのか。そして何より、自分達はどうなるのか。
不安と焦りと、どうしようもない感情が人々の心に重くのし掛かっていた。
そんな中、臨時病院として怪我人を受け入れていたある旅館に、3人の陸軍軍人がいた。彼らは、ある少女に面会するべく、怪我人で溢れ返る廊下を歩いていた。
「本当なんですか、少女が奴らを倒したって?」
カイゼル髭の士官に質問するのは、包帯で巻かれた右手を首から吊っている若き准士官、代茂木だった。彼は顔面さえも半分以上が包帯で隠れ、その下にあるであろう傷から滲み出た血は乾いて黒く染まっており、よほどの激戦を戦い抜いたであろうことは想像に難くなかった。
「あぁ、間違いないよ。私がこの目で見たんだから。と言うか、私自身信じられない気持ちだよ」
そう言いながら、気難しそうに自慢のカイゼル髭を弄りながら答えるのは、木野大尉だった。彼は、代茂木の直属の上官で、先の戦いでは殿を務め、部下を逃がすべく奮戦していた。その戦いの証に、彼の軍服は塵や煤やらで汚れており、疲労困憊とも見える顔からもそれは窺えた。
「真実かどうかはすぐに分かりますよ。その為に私がいるんですから」
そう言いながら2人の少し後ろを歩くのは奈月伍長だった。頭の後ろで括られた、伸ばせば背中ぐらいまでありそうな長髪がトレードマークの女性兵士だった。
本来、男子禁制の軍隊に彼女のような女性がいるのはあり得ないことだったが、彼女はある能力が理由で入隊していた。
「奈月か。確かお前は魔導士だったな。というかいつの間に俺の後ろにいたんだ」
代茂木は大分面倒臭そうに彼女の方を見た。彼とは同期で、昔からの腐れ縁だという彼らの会話は、階級の差を感じさせないほど自然な者だった。
「大分前から居たのに、酷いなぁ、傷付いちゃうよ」
奈月は大袈裟に体をくねらせながら浮わついたような笑みを浮かべた。彼女は、こうして代茂木をからかうのが楽しみで、いつも反応見たさにこうして大袈裟に振る舞っていた。
「そんなの知るかっての。こちとら右目がイカれちまって視界が半分しかねぇってのに」
「そうは言っても君自体は元気じゃないか。後はそのナニするしか能が無い右手が治れば完全復帰だね」
「こんの……テメェ!」
こういう調子で毎度の如く、奈月の挑発に代茂木が乗せられて彼が怒るという、もはや定番と化したやり取りを横目に見ながら、木野は大事な部下たちが無事なことと、何より自分が生きていることにしみじみと感じ入った。とは、言ってもここは怪我人も多くいる臨時病院。あまり騒がれると角が立つ。
2人をまぁまぁと鎮めて、改めて、少女の部屋へ行く。
4階建ての旅館の3階部分に、少女の部屋があった。部屋の戸を開けると心地のよい海風が吹き込んで来た。仄かな汐の香りが、鼻腔を刺激する。
部屋は、畳が敷いてあり、小さな床の間と、押し入れがある普通にある旅館の部屋という感じだった。
その中央辺りに布団が敷いてあり、その上に、件の少女が横たわっていた。もう回復したのか、上半身を起こし、窓の外に見える海を眺めていが、欠けた痛々しい右耳は相も変わらずだった。傍らで看病していた看護婦は、3人が来たのを見ると、器具やカルテを纏めて立ち上がった。
「容態は安定しています。右耳の出血も止まりましたし、熱もありません」
「わかりました。ご苦労様です」
看護婦は木野に手短に報告すると、そそくさと部屋を出て行った。彼女が退室し、完全に扉が閉められたのを見て、木野は改めて、少女に目をやった。
布団に横たわる少女は、全く普通に見えた。街中で見かけても、特に何とも思わないごく普通の少女。
しかし、間違いなく、この少女だったのだ。数十体の奴らに囲まれ、絶対絶命の窮地に立たされた自分を救い、剰え、軍隊に入れろと啖呵を切ったのは。
彼自身が一番信じられなかった。
「……やぁ、調子はどうかね?」
静かに海を眺めていた少女はゆっくりと振り向いた。やはり普通だ。と木野は改めて思う。何処にでもいる何の変哲もない少女。それが何故あんな事を言ったのか、彼の個人的な興味もあっての面会だった。
「全然大丈夫ですよ、おじさま」
おじさま。というのに奈月と代茂木は少し、フッと吹き出した。木野も何だか恥ずかしくなったが、取り敢えずは無視することにした
「そうか、なら良かった。……ところで、幾つか質問がしたいのだが、いいかね?」
「何でも良いですよ」
少女は笑顔で答えた。まるで、久しぶりに会う親戚との再会を喜ぶような、自然な笑顔だった。
「ありがとう。では、始めに確認だが……君の名前は?」
その質問に、少女は笑みを浮かべた。
「この前教えたじゃないですか」
同じ質問をされたような、素っ気ない返事だったが、会話を楽しんでいるかのような雰囲気だった。
「そうだけど……あくまで確認だよ……」
少し悄気たような表情をする木野に、少女はまてしても笑みをこぼした。
「分かってますって。わざとですよ」
少女の笑顔は本物だった。その笑顔だけ見れば、何も変わらない普通の少女だった。
「……神楽……神楽雪子です」
哀しそうで、嬉しそうな、不思議な表情で神楽は答えた。
「次の質問だけど、君は今まで自分の力に気付いたことはあったかい?」
「自覚するようなことは何も。でも、不思議な感覚がすることはたまにありました」
「ふむ……具体的には?」
こんな具合に、質問は続いていた。生まれた場所や住んでいた所、家族の事や、自分の事、さらには力についてまで、質問は多数あった。
神楽は静かに、淡々と質問に答えていたが、その顔は切なく、何かをずっと思案しているようにも見えた。気になるのか、時折右耳に巻かれた包帯を弄りながら、彼女は静かに話を聞いていた。本来なら、家族を喪い天涯孤独となった少女を労り、そっとしておくものなのだろうが、彼ら軍にも、政府にも、それらを考慮して先延ばししようなどという余裕は、残念ながら持ち合わせていなかった。
それだけ、状況は逼迫し、神楽の力が必要とされていたのだ。
「……さて、これで質問は一通り終わったよ。だけど、最後に一つだけ、いいかな?」
木野は、メモを取る手を止め、神楽に向き合って訊ねた。神楽は、木野の方をゆっくりと見ると、手に持っていたけん玉を弄くる手を止めた。
「……なんですか?」
当然の如く、質問が気に触ったのか、少々不機嫌なようにも見えた。デリカシーが無いのは一方的に此方側なので全く仕方ないが。
「ここからは個人的な質問をしたい。さっきまでの質問とは、別のモノをね」
木野はなるべく努めて、優しく訪ねた。
「どんなことですか?」
苛立って来たのか、右耳を弄くる手が一層忙しなく動く。何かを感じた代茂木と奈月が身構えるのがわかる。
しかし、気にせず、木野は思ったままのことを訊ねた。
「君は、どうして軍に入りたいと思ったのかい?」
冷や汗が頬を伝っていく感覚がした。全身に鳥肌が立ち、今目の前にいる少女の気配が、明らかに変わったのがわかった。否、少女では無かったかも知れない。
「そんなの、決まってるじゃないですか」
窓から吹き付ける風が一層強くなり、硝子窓を激しく叩く。
「家族を殺されたんですよ」
風は変わらず吹き続ける。しかし、不思議と彼女の声を遮ることは無かった。むしろより、鮮明に聞こえてくるような気さえした。
「それに、街の人も、見たんです。呆気なく、容赦なく、慈悲もなく」
吹き続ける風は不意に止んだ。静寂が訪れる。
「殺されたんです」
彼女の目には、哀しみとも、怒りとも、はたまた狂気とさえも捉えられる感情が渦巻いていた。
木野はそういう眼を、それまでの人生で数え切れない程見てきた。
「……君は危険だ……」
木野は独り言のように呟いた。その言葉の持つ意味と、重さを、彼女はまだ知らなかった。
「どうしてですか、おじさま?私は復讐しようと言ってるのではありません。ただ、思い知らせてやりたいだけです」
彼女の眼に、理性は無かった。ただ、深海のような暗黒があるだけだった。
彼は、この眼を持つ人間がどういう最期を遂げてきたのか、知っていた。
「私たちを、人間を、此処まで虚仮にしたのですよ?人間が、果たしてやられたままで良いのでしょうか?あんな奴らに……」
握られた彼女の拳が震える。よほどの力で握っているのだろう、布団に血が滲み出していた。
構わず、彼女は続ける。
「ただそこにあるだけの、実体の無い奴ら……"存在"に!」
時が止まるような感覚がした。一瞬だけ、この部屋の時計は止まり、全く無音の状態になったように思えた。
彼女の宣言は、それだけに留まらなかった。
「"存在"なんぞに我々が脅かされて良いはずがありません。私はやり返したいのです。家族を殺した奴らに……人間を虫ケラのように殺した"存在"に」
興奮のあまり、傷口は開き、右耳や、掌から血が零れるが、しかし彼女は止まらない。
「復讐云々なんかじゃなく、私は"存在"を殺したい。これは年頃の子どもが皆持つ純粋な想いなのではありませんか。私は倍返ししてやりたいのです。殺戮の限りを尽くした"存在"に。私は"存在"を殺せる。なら、その特技、否、才能を持て余すまいとするのは当然の権利なのではないでしょうか!?」
とうとう、建物中に聞こえんばかりの大声で叫ぶと、今度は、琴の弦が切れたように、唐突に倒れ込んだ。奈月が駆け寄るが、彼女は急に力が抜けたのか、立ち上がれず、肩で息をしながら喘ぐばかりであった。
「代茂木くん」
「あ……はい、大尉」
思わず呆気に取られていた代茂木を呼ぶと、彼に本部への報告と箝口令を敷くことを指示した。
代茂木は、敬礼し、指示通り本部への報告へ向かうため、退室していった。
「どうかね、奈月くん」
神楽の手当てをする奈月だが、その手つきは手慣れている。それもそのはずで、彼女は元々、衛生兵だったのだ。むしろ、これは本職とも言える。
「少し、カッとなりすぎたようです。血圧が上がっていますが、暫くすれば治まるかと」
「わかった」
ちょうどその時、神楽の眼が覚めた。まだ意識が朦朧とするのか、眼は虚だが。
「起きたか。どうかね、具合は?」
神楽を心配する木野だが、その手は震えていた。震えているのを見せまいと、必死に気丈に振る舞おうとしたのだ。それもその筈、今目の前の少女が見せたそれは、到底年齢相応のものではない。大人びているとか、そういう類いの話でもなく、まるで何かが憑いていたようにさえ見えた。その不気味さをしみじみ感じたからこそだった。得体の知れないバケモノとして扱ってしまえば、そうなってしまうからだ。彼女のことも勿論だが、何よりそれは、自分を護るための行動だった。
「お……おじさま……大丈夫……です」
途切れ途切れではあるが、言葉はしっかりしている。少し頭に血が登りすぎただけだろうと、一先ずは安心した。奈月と共に額の汗をぬぐう。
改めて、神楽を見ても、やはり普通の少女だ。さっきまでの鬼気迫る表情とは打って変わり、全く普通だ。
彼にとって、それは大きな違和感で、同時に不安だった。
「あ、あぁ、そうだ、おじさま……」
汗でバケツの水でも被ったかと思うほどに、濡れている彼女の顔は、弱々しく、庇護欲を駆り立てる顔付きだった。
「けん玉……あとで教えて下さりませんか……?」
布団の横に置いてあった古びたけん玉を掲げて、彼女は笑顔で訊ねた。
諄いようだが、木野は改めて思った。
「……もちろんだとも。元気になったらたくさん教えてやろう」
精一杯の笑顔で、木野は答えた。この時は、本心から笑顔になれた。
「えへへ……ありがとう、おじさま」
彼女は、普通の少女だ。
それが何故、こうなったのか。彼にはわからなかった。
こんな感じでした。
誤字とか合ったら報告お願いします。
次回はイメージCV大塚芳忠なキャラが登場します。暫くはカッコいいおっさんがたくさん出てきます()